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2026.4.17
森英恵 日本ファッションを耕し世界に広めた道のり「生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ」展
国立新美術館で開催中の「生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ」展は、約400点という物量に圧倒されると同時に、その視点の新しさに驚かされる。
森英恵といえば、日本を代表するファッションデザイナーにして、アジア人初のパリ・オートクチュール正会員。その評価は揺るがないが、本展はそこに留まらない。デザイナーとしての仕事を縦軸に、「日本のファッション文化をどう育てるか」を考え奮闘する森を横軸に据えた構成になっている。服を眺める展覧会でもあるが、一人の人間の家族まで巻き込んだライフワークの全貌を検証する展覧会に近い。
展覧会タイトルとなっている「ヴァイタル・タイプ」とは、1961年1月号の雑誌『装苑』に書いた人物像を指している。
映画の衣装、挫折、そしてニューヨークへ
結婚後にドレスメーカー学院で服飾を学び、子育てと並行しながらデザイナーとして立ち上がっていく。新宿という土地が映画館の街だったことが転機となり、1954年頃から日活映画の衣装を次々と手がけるようになった。映画『狂った果実』の赤い花柄のアロハシャツは、スクリーンという巨大なメディアを通じて「美しい服」のイメージを日本中に届けていったその時代の証拠品
森は新宿で服飾店を始めるや映画業界の仕事を手がけるようになった。『狂った果実』、『夜霧よ今夜も有難う』など数々の名作の衣装を手がけた。右のポンチョはTBSドラマ『挽歌』(1966年)で使われたもの。
米国百貨店の販促道具や資生堂の米国の広告、中央は1967〜69年頃のドレス。
1961年、仕事と子育ての両立に限界を感じた森は、デザイナーを辞めることを本気で考えた。背中を押したのは『装苑』の編集長の「辞める前に一度パリを見てきなさい」の一言が彼女は世界へ目を向けるきっかけとなる。その後、ニューヨークで目の当たりにした日本への無理解、日本のものづくりへの低評価。その悔しさが、森が世界で活躍する原動力になった。
まさにその年、森は『装苑』1月号に「ヴァイタル・タイプ」という言葉を書き記している。快活で努力を惜しまず、自分の仕事を持つ女性像。他者への呼びかけでもあり、自身への誓いでもあっただろうその言葉が、本展のタイトルに選ばれた理由は、展示を見ればおのずとわかる。
アメリカで花開いた世界のHANAE MORI
1965年のニューヨークコレクションでデビューした森が持ち込んだのは、着物の帯地、日本の絹、深みある藍の色彩だった。日本のものづくりを、西洋の舞台で正面から勝負させた。単なるエキゾティシズムの輸出ではなく、日本の美意識の輸出だ。
森英恵を特徴づける花柄、蝶、ピンクと紫の鮮烈な配色を語る上で外せないのが、この時代のフローラルのプリントを多く手がけた布づくりのデザイナー、松井忠郎の存在。展覧会でもそのテキスタイルと共に1つのコーナーを構成している
今回、メトロポリタン美術館から特別に貸し出されたのが右の1974年の「イヴニングアンサンブル」。日本美術の大コレクターであるメアリー・グリッグス・バークが、自身の所蔵品である伊藤若冲《月下白梅図》をモチーフに特注した一枚で、1975年のメトロポリタン美術館で着用されたものだ。
ニューヨークでの活躍の後、森英恵はそれまでのイメージの殻を破るべく、パリのオートクチュールに挑戦。厳しい組合の条件を満たしながら、ここでも日本の美と技を発信することになる。
森英恵の仕事として有名なのが日本航空のキャビンアテンダントのユニフォームだろう。1967年の4代目ユニフォームから2000年頃までデザインを手掛けた。
ファッション文化発信の功績をたどる第3章
「ハナヱ・モリグループ全体の活動」という視点から、メディアと場の構築に焦点を当てた第3章は、過去の森英恵展ではほとんど取り上げられてこなかった側面を正面から扱っている。1966年に店舗の情報誌として創刊した『森英恵流行通信』がやがて独立した『流行通信』となり、日本を代表するファッション誌に育っていく系譜。長男・森 顕が創刊に関わった『STUDIO VOICE(スタジオ・ボイス)』が、友人だったアンディ・ウォーホルの『Interview(インタビュー)』誌の日本版を掲載するほどの文化的磁場を持つに至る経緯。さらに『WWDJAPAN』誌の創刊にも関わっていく。そして1978年、丹下健三設計による表参道の「ハナヱ・モリビル」。その上階に設けられた「The Space」は、自社ショーだけでなく他ブランドの発表や展覧会にも開放された場として、東京のカルチャーを底から支えた。
服を作るだけでなく、ファッションが語られるメディアを育て、クリエイターが集まる空間を自ら用意した。森英恵は優れたデザイナーであると同時に、日本のファッション文化の「開拓者」でもあった。この視点は、本展が初めて本格的に提示するものだ。
表参道にあったハナヱ・モリビルは自社ショーだけでなく他ブランドの発表や展覧会にも開放された場として、東京のファッションカルチャーを支えた。
『森英恵流行通信』に端を発する雑誌『流行通信』。『STUDIO VOICE』、『WWDJAPAN』。日本のファッション文化で大きな影響力を持ってきたこれらの媒体も森英恵やそのファミリー/グループ会社が手掛けてきた。まさに日本のファッション文化を耕してきたデザイナーといっても良いだろう。
そしてオートクチュールの世界へ
1977年にアジア人初でオートクチュール組合に加盟した森は、以来2004年まで27年間、年2回のコレクション発表を続けた。75ルック以上の制作、現地スタッフの雇用義務など厳しい条件をクリアし続けたその事実は、数字にすると途方もない。モノトーンの静謐なドレス、精緻なビーズ刺繍の仕事。2章の鮮やかさとは異なる成熟した美意識がここには宿っており、日本の職人技をパリの最高峰の場に持ち込み続けた27年間の重みが、作品の随所から滲み出している。
エピローグには、映像作家・志村信裕による約50分のインタビュー映像が流れる。孫の森泉、森星、息子、そして仕事を共にした小池和子ら関係者の証言が積み重なり、森英恵という人物の輪郭を浮かび上がらせる。第5章で紹介される交友関係——黒柳徹子、横尾忠則、浅利慶太、奈良原一高、田中一光、佐藤しのぶ——を見渡せば、森英恵の周囲が単なるファッション界の人脈ではなく、時代の文化そのものを構成していたことがわかる。
展示全体を通じて伝わるのは、森英恵が「どう生きるか」を服でなく行動で示し続けた人だったということだ。ヴァイタル・タイプ——1961年に彼女が残した言葉は、65年後のいまも色褪せることはない。
この時代の森英恵を特徴づける花柄、蝶、ピンクと紫の鮮烈な配色のファッション。しかし、この頃、森英恵はこのイメージから脱却して新しいチャレンジをしたいと思うようになっていた。
森英恵は横尾忠則、田中一光、奈良原一高など多彩なクリエイターとのコラボを行い、映画俳優や黒柳徹子を含む多彩なタレントたちとも交流があった。
画像は「生誕100年 森英恵ヴァイタル・タイプ」国立新美術館 2026年 展示風景
Photos &Text by Nobuyuki Hayashi
◆生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ
会期:2026年4月15日(水) ~ 2026年7月 6日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E
東京都港区六本木7-22-2
開館時間:10:00~18:00
毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜日
*ただし5月5日(火・祝)は開館
主催:国立新美術館、テレビ朝日、東京新聞
Profile
林信行 Nobuyuki Hayashi
1990年にITのジャーナリストとして国内外の媒体で記事の執筆を始める。最新トレンドの発信やIT業界を築いてきたレジェンドたちのインタビューを手掛けた。2000年代からはテクノロジーだけでは人々は豊かにならないと考えを改め、良いデザインを啓蒙すべくデザイン関連の取材、審査員などの活動を開始。2005年頃からはAIが世界にもたらす地殻変動を予見し、人の在り方を問うコンテンポラリーアートや教育の取材に加え、日本の地域や伝統文化にも関心を広げる。現在では、日本の伝統的な思想には未来の社会に向けた貴重なインスピレーションが詰まっているという信念のもと、これを世界に発信することに力を注いでいる。いくつかの企業の顧問や社外取締役に加え、金沢美術工芸大学で客員名誉教授に就いている。Nobi(ノビ)の愛称で親しまれている。
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【管理栄養士が回答】ダイエット中に焼肉に行くのは、太りそうで心配……。大切なのは焼肉の部位選びや食べる順番です。太りにくくする具体的なポイントをご紹介します。(※画像:Shutterstock.com)
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栗下直也の東京酔歩 偉人と歴史の裏路地
2026.4.16
第1回 浅草「神谷バー」と琥珀色の魔酒
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20年前の甘ったるい記憶とともに浅草「神谷バー」へ
神谷バーを初めて訪れたのは、20代前半のことだ。記憶はおぼろげで、名物と言われた酒がやたらと甘ったるいくらいの印象しか残っていない。それから20年。年を重ねれば酒の味も変わる。文士たちが愛した酒場の情景を追体験すべく、浅草に久しぶりに向かった。
「新宿のバーに厭気がさし、銀座のバーが余りにパリー的になり過ぎ、そこに来る人々のベレー帽や片仮名まじりの言葉が気障でたまらなくなった時に行く所」—米国の日本学者サイデンステッカーは、浅草へ向かう人々の心理をそう言い表している。
永井荷風にはじまり、高見順、色川武大と名だたる作家たちにとって浅草は山の手の重圧から逃れるための避難場所であった。その玄関口に明治13年(1880年)から鎮座しているのが日本初のバー「神谷バー」である。
神谷バーの歴史と切り離せないのが、明治15年(1882年)に誕生した「電気ブラン(現品名・デンキブラン)」だ。洋酒がまだ高価だった時代に大衆へ安く提供しようと作られた琥珀色の液体は、ブランデーをベースにジン、ワイン、キュラソー、薬草などをブレンドしている。電気がまだ珍しかった文明開化の時代は最先端のものに「電気○○」と名付ける風潮があったのだが、そこからもいかにこの酒が驚きをもって迎えられたかがわかる。
大正浪漫の面影を遺す、「神谷バー」奇跡の近代建築
東京メトロ銀座線の駅を出て徒歩わずか1分——とネット情報にはあるのだが、そんな近かったっけと半信半疑で地上に出る。10メートルほど歩いて駅前の交差点に立つと、「神谷バー」の看板が目に飛び込んできた。
大正10年(1921年)に改築された鉄筋コンクリート造の近代商業建築は、大正12年(1923年)の関東大震災、昭和20年(1945年)の東京大空襲という二度の災禍をくぐり抜け、奇跡的に現存している。平成23年(2011年)には国の登録有形文化財にも指定された。外観は大正期らしい明るいタイル張りで、2階には3連アーチ窓が美しく並ぶ。
正漢字を用いたレトロな看板をくぐり抜け、店内へ踏み込む。私が小学生の頃の百貨店のレストランのような懐かしさ——考えてみれば、それよりずっと以前から存在しているのだから当たり前なのだが——そのレトロな雰囲気を保ちつつ、決して古めかしくない。
平日の午後6時で客の入りは8〜9割。デンキブランとビールを並べて盛り上がる外国人客もいれば、手酌で瓶ビールを楽しむ初老の男性や、一人静かにグラスを傾ける年配男性の姿がある。隅のテーブルでは、雰囲気のある酒の写真を発信しようと訪れたであろう若い世代が笑い合っている。昭和の残香を求める常連客と、レトロな空気に新鮮さを感じる観光客や若者たち—時代を超えてあらゆる人々を包み込む浅草ならではの空気が、この店にはある。
デンキブランのビリリと痺れる刺激と、浅草の流儀とは
店内を見渡した後、入り口のレジで食券を対面で購入する。食券制と聞くと面倒くさい気もしなくもないが、意外にもレジの前に並ぶと一周回って新鮮さもある。何を飲むかは迷う余地などない。注文するのはもちろん「デンキブラン」だ。
現在は2種類あり、30度が400円、40度の「電氣ブラン〈オールド〉」が500円。発売当初の度数は45度とさらに強烈だったというから、その名残を味わうべく強い方を頼む。つまみは定番の「煮込み」(650円)と「かにコロッケ」(1000円)にした。
席に着くと運ばれてきたグラスに、なみなみと注がれた琥珀色の液体。そっと口に含む。ほんのりとした甘みが舌の上に広がったかと思うと、すぐさまジンや薬草由来のビリリとした苦みと、強いアルコールの刺激が喉を焼く。まさに「電氣」の名にふさわしい。
……と書いたものの、これはあくまで食レポ用の表現であり、そんな冷静に味わってはいられない。口に入れるやいなや「アルコール強!!!」と思う人が大半のはずだ。口に含むや否や、鼻からデンキブランが飛び出そうなくらいにツンとくるのが現実だ。ただ、甘みがあるので次第に慣れるのが、この酒が度数のわりに飲みやすい理由でもあり、危ない理由でもある。
神谷バーにおける「通」の作法がある。酒なんてものは好きなように飲めばいいと思うのだが、これまた食レポにはつきものなので紹介しておこう。デンキブランをストレートであおり、冷たい生ビールをチェイサーとして飲む——「この無限ループこそが神谷バーの流儀であり、浅草の夜を加速させる」と書くとなんだか格好良いがアルコールをただただ摂取し続けているだけである。
つまみの「煮込み」と「かにコロッケ」は、変なアレンジもくせもない、文字通りの昔ながらの「煮込み」と「かにコロッケ」だ。こんなにイメージを裏切らないつまみも今は少ない。気取らない庶民の味がデンキブランの複雑な風味を優しく包み込む。
文士たちが愛した、電気ブラン「本物の大衆性」
なぜ、数多の文豪たちはこれほどまでに電気ブランを愛したのだろうか。
太宰治は「人間失格」の中で、「酔いの早く発するのは、電気ブランの右に出るものはないと保証し……」と記している。若き日の鬱屈と焦燥を抱えた彼にとって、手っ取り早く強烈に酔いが回り、現実から意識を強制的に切り離してくれるこの酒は、何よりの救済だったのだろう。批評家の小林秀雄も昭和26年(1951年)に雑誌の対談で、「あの『電気ブラン』というやつを私は愛好していたね。あれは安くて、なかなかうまい酒でしたよ」と述懐している。
詩人の萩原朔太郎は浅草で「一人にて酒をのみ居れる憐れなる となりの男なにを思ふらん」と詠んだ。喧騒の中で、見知らぬ他者の孤独に静かに思いを馳せる—その視線が浅草という場所にはよく似合う。
浅草には金持ちも貧乏人も同じように酔わせてくれる包容力があり、安価な酒を大衆に紛れて気取らずに飲める。だからこそ、文学者たちが人間を観察し、自身の内面と向き合うための格好の場所だったのである。神谷バーと電気ブランは「ハイカラな西洋文化」を「下町の大衆」へと翻訳し提供する装置でもあったのだろう。
物資が乏しく何もかもが不足した戦後にあっても、神谷バーは安易な妥協を選ばなかった。グラスに注がれる酒の質を落とすことなく守り続けた。その真摯な姿勢があったからこそ、100年以上経った今でもデンキブランは「何か言い難い懐かしさ」とともに私たちの心と体を温め続けている。文士たちが愛した理由は、単に酔えるからというだけでなく、この酒と空間に流れる「誤魔化しのない本物の大衆性」にあったのかもしれない。
閉店は午後8時。「神谷バー」の夜は早い
デンキブランの魔力か、杯を重ねていると、気がつけば頭がぐるぐる回り、足がふらついてくる。琥珀色のグラスの底に、かつてこの席で杯をあおった文士たちの影が揺らぐのを感じる——とちょっと格好いいことをいいたくなるのも酔っている証だろう。そもそも、こういう表現はだいたい書くことがないときに無理やり書く常とう句である。それは書く方も百も承知なわけだから、そんなことを書く時は酔っているのである。酒か自分に。
閉店時間は午後8時(ラストオーダー午後7時半)と早い。ほろ酔い加減で二件目に向かってもまだ夜は長い。浅草は、いつでもそういう街だ。
本日のおすすめ
電氣ブラン〈オールド〉(500円)
生ビール小〈435ml〉(750円)
煮込み(650円)
かにコロッケ(1000円)
店舗情報
神谷バー
住所:台東区浅草1丁目1番1号
営業時間:11:00~20:00
定休日:火曜日、毎月2回月曜日
アクセス:東京メトロ銀座線 浅草駅下車 3番出口 徒歩1~2分
都営地下鉄浅草線 浅草駅下車 A5番出口徒歩1~2分
東武スカイツリーライン 浅草駅下車 正面出口 徒歩1~2分
栗下直也 Naoya Kurishita
1980年生まれ、東京都出身。著述業、書評家。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科経営学専攻修了後、専門誌をへて独立。経済記者出身でありながら、なぜか酒がらみの文章が多い。著書に『人生で大切なことは泥酔に学んだ』(左右社)『偉人の生き延び方 副業、転職、財テク、おねだり』(同)、『政治家の酒癖 世界を動かしてきた酒飲みたち』(平凡社新書)、『得する、徳。』( CEメディアハウス)がある。
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これを食べなきゃ人生ソンだよ
2026.4.11
ビーフシチューでドゥミグラスソースの魔力に溺れてみる。東京のベスト3軒はここだ!
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ビーフシチューでドゥミグラスソースの魔力に溺れてみる
ビーフシチューはフランス料理の牛肉の赤ワイン煮みたいなもんだ。がっつり肉を食う感じ。今回も東京を代表する名店を訪ねた。「ぽん多 本家」、「レストラン香味屋」、「たいめいけん」の3軒である。
人はホロリと崩れる牛肉と、甘く濃厚で褐色のドゥミグラスソースが時に恋しくなるものだ。表記は英語のデミグラスよりもフランス語のドゥミグラス(demi-glace)が気分だね。「半分まで煮詰めた」という意味だ。
今回の3軒は、いずれもすでに別のメニューでこの連載に登場していて、つまりは洋食の名店ってことになる。
都下でNo. 1は「ぽん多 本店」で決まりですな
東京随一のフライの店だ。カツレツは都下でナンバーワンだろう。キスもイカもホタテもカキも格別に素晴らしいが、裏メニューとして知られるのが、「タンシチュー」と「ビーフシチュー」だ。
タンシチューは出来上がるまでに3週間を要する唯一無二の代物で、いつもあるとは限らない。ビーフシチューもそれに準ずる丁寧さで作られている。上質な黒毛和牛を使っているそうだ。
牛肉が柔らかい!なんていうのは当たり前のことで、なにしろ素晴らしいのはドゥミグラスソースだ。思わず、「こりゃあ、東京一旨えぞ!」と叫びたくなるような味だ(値段も飛び切りだから、そこは気をつけてね)。
「ぽん多」のビーフシチュー
とても濃厚なソースなんだが、3軒中もっとも濃密だ。味の濃さと密度が違うのである。舌上でなめらかに溶けてゆき、深さの深淵に連れていかれるような体験だ。添えてあるのはジャガイモと厚手のシイタケで、これまた良い塩梅である。
理想的なオーダーの仕方は、4人ぐらいで来店して、揚げ物を4種類ぐらい食べた後で、ビーフシチューにとりかかる流れだ。
揚げ物の幸せにすっかり浸ったあとで、濃厚なドゥミグラスソースで大団円を迎える。ソースは残さず白米の上に垂らして、ハヤシライスのようにして食べるのが正解だ。
果たして、これ以上の幸福感をもたらしてくれる晩ご飯があるのだろうか。
「ぽん多」の重厚な入口
ぽん多 本店
東京都台東区上野3-23-3
℡050-5492-8353
火~土:11:00~14:00、16:30~20:20
日・祝日:11:00~14:00、16:00~20:20
定休日:月曜
ビーフシチュー 7150円
何もかもが素晴らしい店
「レストラン香味屋」で食べるシアワセ
いつ来ても清々しい気持ちになれる、総合的に見て、東京で最高の洋食店である。
黒服に蝶ネクタイの給仕さんの出迎えと、白い壁面上に映えるベルナール・ビュフェのリトグラフを見ただけで、「おおー、またしても香味屋に来ちゃったもんね」の気分になる。
この店の素晴らしさは、何と言っても通し営業で昼休みがないことだ。予約で混みあう昼時とディナータイムを避ければ、いつでも最高の皿にありつけるのである。
オムライス、メンチカツ、ポークソテー、ポークカツ、グラタン、ナポリタン……すべてのメニューがトップクラスで旨い。おまけに、黒服のサービスマン(レディ)の接客が実に甲斐甲斐しい。
筆者が最初に訪れたのは40年以上も前で、まだ学生をしておった。唖然とするほどの味に魅了され、それ以来のファンである。
ビーフシチューももちろん素晴らしい。半日煮込んだビーフは、繊維がほろほろと崩れ、当然のごとくドゥミグラスソースをたっぷりと吸い込んでいる。このソースがいい。味は深いが、どちらかと言うとあっさり系に寄っているかもしれない。
「香味屋」のビーフシチュー
添えられたニンジンのグラッセはニンジンの甘味がするだけではなく味が濃い。ブロッコリーは固ゆで、ジャガイモのグラタンもいい脇役だ。艶光りする銀シャリが見事だ。その旨味はビーフシチューの旨さを倍加させるのだった。
今回は頼んじゃいないが、メンチカツとビーフシチュー盛合せとか、メンチカツとタンシチュー盛合せとかもある。きわめてソソられるメニューではないか。
レストラン「香味屋」の入口
レストラン香味屋
東京都台東区根岸3-18-18
℡03-3873-2116
月・火・金・土・日・祝・祝前日・祝後日:11:30~21:00
定休日:水・木
ビーフシチュー 4200円
メンチカツとビーフシチュー盛合せ
4000円
メンチカツとタンシチュー盛合せ
4600円
洋食って楽しいよな、を実感できるのが
「たいめいけん」である
この店のビーフシチューも有名だ。日サロで黒々と焼けたあの茂出木シェフの店だ。一見、チャラい店かと思う向きもあるかもしれないが、料理に真剣に向き合った店である。
店は1Fと2Fに分かれている。1 Fは庶民的に賑わう雰囲気。2Fは茂出木シェフが腕を奮うが、ちょいと値段も上がり高級になる。今回は1Fにしてみた。
オムライス、ナポリタン、カレーライスからラーメンまで何でもあるし、何でもイケてる。チキンライスの上に載ったオムレツをパカッと開くタンポポオムライス(伊丹十三風)なんかも有名だよね。
ランチに訪ねると、開店の30分後にはもう満席だ。銘々が実に楽しそうだ。みんな、「コールスロー(天下一品)」を頼むのを忘れない。長い間50円だったが、値段を上げてからもずっと100円を変えないのだから。
さて、ビーフシチューであるが、正統的な佇まいで、構成は香味屋のものとまったく同じである。ポテトがこちらはフライであるところが違うだけだ。
ドゥミグラスソースは、この3軒の中ではいちばん酸味が強い。とは言え、甘味も苦味も相応にあり、深い味わいに引き込まれる。肉はもちろんホロホロである。
「たいめいけん」のビーフシチュー
あくまでも比較の問題だが、ニンジンのグラッセは芯がやや硬く甘みも弱い。フライドポテトも、ちと揚げすぎかねえ。この辺が、完全無欠の香味屋に較べると一歩だけ及ばない部分かもしれないね(エラそうで、すんません)。
ワシはアホなので、通常はライスが付いてくるのだが、代わりにケチャップのかかったオムライスにした。すると、オムライスをケチャップをつけて食べたり、ドゥミグラスソースで食べたり出来るから、二倍楽しめるのだ。お勧めする。
「たいめいけん」の入口
たいめいけん
東京都中央区日本橋室町1-8-6
℡03-3271-2463
(1F)
火~土:11:00~21:00、日・祝:11:00~20:00
(2F)
11:30~15:00、17:00~21:00
定休日:(1F)月曜、(2F)日・月
ビーフシチュー(ライス付き) 3500円
オムライス 2100円
今回紹介したのは3軒だけだが、「煉瓦亭」(銀座)と「旬香亭」(目白)も、「たいめいけん」と同等の店としてお勧めしておきたい。
「これを食べなきゃ人生ソンだよ」とは
うまいものがあると聞けば西へ東へ駆けつけ食べまくる、令和のブリア・サバランか、はたまた古川ロッパの再来かと一部で噂される食べ歩き歴40年超の食い道楽な編集者・バッシーの抱腹絶倒のグルメエッセイ。
筆者プロフィール
食べ歩き歴40年超の食い道楽者・バッシー。日本国内はもちろんのこと、香港には自腹で定期的に中華を食べに行き、旨いもんのために、台湾、シンガポール、バンコク、ソウルにも出かける。某旅行誌編集長時代には、世界中、特にヨーロッパのミシュラン★付き店や、後のWorld Best50店を数多く訪ねる。「天香楼」(香港)の「蟹みそ餡かけ麺」を、食を愛するあらゆる人に食べさせたい。というか、この店の中華料理が世界一好き。別の洋物ベスト1を挙げれば、World Best50で1位になったことがあるスペイン・ジローナの「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」。あ~、もう一度行ってみたいモンじゃのお。
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これを食べなきゃ人生ソンだよ
Features
「フェアモント東京」最上階で楽しむサンデーブランチ
2026.4.15
湾岸の風を感じるビアテラスプランも登場
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西には東京タワー、東には東京湾を望む、東京・芝浦のラグジュアリーホテル「フェアモント東京」では、地上43階からの眺望とともに、週末を彩る新たなダイニング体験「フェアモント サンデーブランチ」を開始した。あわせて、屋外テラスで楽しむビアテラスプランも登場した。
「DRIFTWOOD BAR & GRILL」
サンデーブランチの会場は、東京のスカイラインを一望する43階の「DRIFTWOOD BAR & GRILL」。料理は、海と大地の恵みを一皿に表現するアメリカ発祥のスタイル「SURF&TURF」にインスパイアされた構成だ。
トロリーサービス
ポーチシュリンプや蛤のスチーム、旬の魚介を盛り込んだシーフードプラッターから始まり、炭火で焼き上げる肉料理まで、多彩なメニューを展開。さらにシーフードは、追加のトロリーサービスで好きなだけオーダーできるのも魅力だ。
「SURF&TURF エッグベネディクト」
このほかにも、イギリスの朝⾷で親しまれるもちもちのパンケーキ「クランペット」に雲丹をあわせた一皿や、アメリカのクラブケーキと⽇本のコロッケの要素を組み合わせた「ずわい蟹ケーキ」など、和と洋を織り交ぜた一品も登場。
スイーツビュッフェ
デザートは、自家製いちご桜ショートケーキや、コニャック香る桃パンナコッタ、自家製ベリーのタルトなど、季節感あふれるスイーツをビュッフェ形式で提供。
「DIYジンラボ」
さらに、バーテンダーが厳選した国内外のジンに、フレッシュハーブやフルーツを組み合わせ、自分好みの一杯に仕上げる「DIYジンラボ」も登場。味わいだけでなく、体験として楽しめる点も魅力となっている。
ビアテラスプラン
一方、35階の東西両サイドに広がるオールデイダイニングとロビーラウンジでは、壮麗な夜景と心地よい風に包まれるビアテラスプランを提供。東京湾を望むベイビュー、あるいは東京タワーを間近に望む席から選び、夜景とともに食事とドリンクを楽しめる。
メニューは、地中海の海岸で楽しむBBQを思わせるシェアスタイルのコース。フリーフローで楽しむドリンクも、フードとの調和を追求したラインナップとなっており、夜のひとときを豊かに彩る。
都市の躍動と水辺の静けさが響き合う「フェアモント東京」が提案する、新たな社交場。芝浦の天空で、心ほどける週末を過ごしてみてはいかがだろうか。
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2026.4.3
ジャヌ東京、春限定「ピクニック at テラス」
投稿 湾岸の風を感じるビアテラスプランも登場 は Premium Japan に最初に表示されました。
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ラグジュアリーホテルブランド「カペラホテルズ&リゾーツ」が⽇本初上陸
2026.4.14
「カペラ京都」京都・宮川町にオープン
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ラグジュアリーホテルブランド「カペラホテルズ&リゾーツ」が、⽇本初上陸となる「カペラ京都」を開業した。京都・祇園にほど近い花街・宮川町に位置し、鴨川まで徒歩圏内、周囲には京都最古の禅寺・建仁寺や昨年新築された歌舞練場など、京都の歴史と文化を象徴する建造物が佇む。
建築は隈研吾建築都市設計事務所、インテリアデザインはシンガポールを拠点とするブリューイン デザイン オフィスが⼿がけ、京都の伝統的な町家を現代的に再解釈し、町家特有の奥⾏きのある構造や「坪庭」の精神性を取り込んで、京都の暮らしが育んだ空間⽂化を現代的に表現している。
館内のインテリアには檜、杉、竹、和紙、陶器など、京都にゆかりのある素材を採用し、素材の質感や光の移ろいを重視しつつ、華美な装飾に頼らない空間づくりがされている。
デラックス シティ キングルーム
温泉スイート
全89 室の客室は、いずれも50㎡以上のゆとりある広さ。デラックス シティルームから、206㎡を誇る最上階のカペラスイート、建仁寺を正⾯に望む2室の祇園スイート、坪庭を望む専⽤の温泉⾵呂で、毎⽇源泉から運ばれてくる温泉が楽しめる6室の温泉スイートなど多彩なタイプが用意されている。
SoNoMa by SingleThread(想乃間 by SingleThread)
ナイトダイニング「宵」
館内は、カリフォルニア州ソノマを拠点とするミシュラン三つ星レストラン「シングルスレッド」初の海外プロジェクトとなるシグネチャーレストラン「SoNoMa by SingleThread(想乃間 by SingleThread)」、季節ごとの旬の素材を活かした繊細なフレンチが楽しめるオールデイダイニング「Lanterne(ランテーヌ)」、バーを主軸とした和食レストラン「宵」と3つのレストランがあり、個性の違う美食体験が楽しめる。
このほか、天然温泉をプライベートに愉しめる個室も備えたスパ「Auriga Spa(アウリガスパ)」、宴会場や会議室、1日一組限定のウェディングにも最適なグランドボールルームなど、様々なシーンで利用できる施設で構成されている。
あなたも京都の新たな文化拠点で静謐で上質な時間を過ごしてみてはいかが。
◆カペラ京都
【所在地】京都府京都市東⼭区⼤和⼤路通四条下る四丁⽬⼩松町130
【客室数】89室(内29室スイート)
【アクセス】京阪本線「祇園四条駅」徒歩約4分
阪急京都線「京都河原町駅」徒歩約8分
※詳細は公式サイトを要確認
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2026.4.3
ジャヌ東京、春限定「ピクニック at テラス」
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投稿 「カペラ京都」京都・宮川町にオープン は Premium Japan に最初に表示されました。
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京町家の客室で味わう、いちごのアフタヌーンティー
2026.4.14
「THE HIRAMATSU 京都」春限定ステイプラン
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京都・室町通に佇む、築120年の京町家を再構築したホテル「THE HIRAMATSU 京都」では、4月30日までの期間、京都産いちごを中心としたプチアフタヌーンティーを客室で楽しむ、春限定の宿泊プランを展開している。
※写真はイメージです。内容は仕入れ状況により変更となる場合があります。
並ぶのは、フレッシュないちごをはじめ、マカロンやタルト、プチケーキなど、パティシエ特製のスイーツ。夕食前でも軽やかに味わえる一口サイズで、上品なボリューム感も魅力だ。
さらに、1室につき1本、スパークリングワインのフルボトルを用意。いちごの甘酸っぱさと泡の爽やかさが重なり合う春らしいマリアージュを、客室でゆったりと楽しめる。
全29室の客室は、54㎡から104㎡までのゆとりある設え。障子越しにやわらかな光が差し込み、京都の中心にありながら喧騒を忘れさせる、上質な“おこもり”の時間を演出する。
「リストランテ ラ・ルーチェ」(イタリア料理)
「割烹 いずみ」(日本料理)
館内には、イタリア料理と日本料理のレストランを併設。夕食は、京都の伝統食材や出汁を取り入れた「リストランテ ラ・ルーチェ」のフルコース、または欅の一枚板のカウンターで味わう日本料理「割烹 いずみ」から選択可能だ。
120年の時を重ねた京町家の趣が息づく空間で、ゆったりと春を味わう。季節を映す、華やかな滞在を楽しんでみてはいかがだろうか。
◆THE HIRAMATSU 京都
【期間限定/イタリア料理or日本料理】お部屋で楽しむいちごのプチアフタヌーンティープラン/夕・朝食付
【宿泊期間】開催中~~ 2026年4月30日(木)
【料金】1名 ¥80,400~ (2名1室/消費税込み)
※料金は、客室タイプによって異なります。
※現地にて京都市宿泊税(1名1泊¥400~10,000)が必要となります。
【内容】
・春限定 プチアフタヌーンティー
・スパークリングワイン(1室につき、フルボトル1本)
・夕食 イタリア料理または日本料理のフルコース
・朝食 和食または洋食
※チェックイン(15:00)前の到着時には、館内「くら」にてスイーツを提供。
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2026.4.3
ジャヌ東京、春限定「ピクニック at テラス」
投稿 「THE HIRAMATSU 京都」春限定ステイプラン は Premium Japan に最初に表示されました。
清潔感のある口元は、新生活シーズンの第一印象を大きく左右します。歯面・歯間・口内環境を整えて、感じのよい爽やかな清潔感をまといましょう。忙しい日も無理なく続けられる、おすすめの高機能オーラルケアアイテムをご紹介します。
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ワインジャーナリスト柳忠之が体験した贅沢な夜
2026.4.10
“手に入りにくい”からこそ価値がある——Kisvinと過ごすリゾナーレ八ヶ岳旅
アペリティフタイムのスパークリングから食後のグラッパまで、さまざまなワインを味わった。
ようやく春めいてきた3月初旬、山梨県北杜市の「リゾナーレ八ヶ岳」が県内の「Kisvin Winery(キスヴィン・ワイナリー)」とコラボレーション。ホテル内のメインダイニング「OTTO SETTE(オット・セッテ)」でワインメーカーズディナーを開催しました。
Kisvinワイナリーを訪ねたところはじまり、リゾナーレ八ヶ岳で体験したKisvinのワインから構築した数々の素晴らしい料理、さらにはリゾナーレ八ヶ岳での滞在をワインジャーナリストの柳 忠之(やなぎただゆき)が紹介します。
Kisvinの魅力を紐解く Kisvinワイン畑とワイナリーを訪れる
八ヶ岳の南麓、山梨と長野の県境に佇むリゾナーレ八ヶ岳。山梨・長野といえば、どちらもワインの銘醸地です。ここリゾナーレ八ヶ岳は、星野リゾートの中でもとくにワインにスポットを当て、その魅力を満喫できる“ワインリゾート”を標榜しています。
その詳細は現地についてから語ることにして、一行を乗せたバスは正午前に東京・丸の内を出発。まずはワイナリーのある山梨県甲州市の塩山地区を目指します。
中央高速を勝沼インターチェンジで下り、山坂道をしばらく走って到着したのはブドウ畑の前。そこにKisvinのふたりのワインメーカー、斎藤まゆさんと川上黎さんが待っていました。
山梨県甲州市の塩山地区。市の南西部に佇む小高い丘「塩の山」が名前の由来とされ、2005年に旧勝沼町や大和村と合併して甲州市となった。しかしこの地で塩が取れるわけではなく、「四方の山」が転じて「塩の山」になったという。
Photo by tadayuki yanagi
3月になって眠りから覚めたブドウの樹が土中の水を吸い上げる。剪定を終えた枝の先から“ブドウの涙”がこぼれ落ちる。
目の前のブドウは山梨で1000年以上の歴史を誇る甲州種。剪定を終えた枝の先から樹液がポタポタと垂れ始めています。「これはブドウが休眠から目覚め、今年の活動を開始した知らせです」と斎藤さん。仕立て方も甲州では一般的な棚仕立てですが、生食用のブドウとも醸造用のブドウとも少し異なるKisvin独特の剪定法がとられています。
「通常の剪定法では、枝の元の方と先の方でブドウの出来に差が生じることがありました。そこで試しに枝の長さを長短互い違いにしてみたら、全体に均一なブドウが収穫できたんです」と川上さん。斎藤さんは「結果がはっきりわからずとも、まずはトライしてみるのがKisvin精神」と語ります。
Kisvinのワインメーカー、斎藤まゆさん(左)と川上黎さん(右)。
そこからまたバスに乗り込み、同じく塩山地区のワイナリーへ。といっても、海外のワイナリーとは比較にならないほどの小さな規模。まさに“ガレージワイン”という表現がぴったりです。樽熟成庫ではシャルドネのバトナージュを川上さんが披露。これは樽の底に溜まった澱を専用の棒でかき回し、ワインに厚みと滑らかさを与える作業です。
「子供の頃、母がお味噌汁を作ると私を呼んで味見させるんです。バトナージュはだし汁にお味噌を溶くのに似ていて、作業のたびに子供の頃の記憶がよみがえります」と斎藤さん。
続いてステンレス製の発酵タンクが並ぶ施設に移動し、ラベル貼りのデモンストレーション。驚いたことに一本一本、手貼りです。Kisvinはこのラベル貼りひとつにもこだわりがあり、ボトルの縫合線にラベルを被せない、ラベルはボトルの底から20ミリの位置に貼るなどのルールを設けているとか。
「ラベル貼りまで自動でできる瓶詰め器があればどれだけ楽なことか。きらびやかなワイナリーがうらやましいと思うこともあります」と本音をもらす斎藤さん。「でも私たちは本物のワインを造ることに専念してきました。本物のワインは質の高いブドウがあってこそ。ですから私たちは、ワインの売り上げをまずブドウ畑に還元してきました。そのおかげで今日までワインを造り続けて来られたのだと思います」。
バトナージュ前と後のワインが注がれたグラスをもつ斎藤さん。濁り具合がこんなにも違う。「母が作るお味噌汁を思い出す」と斎藤さん。
Photo by tadayuki yanagi
小型の発酵タンクが並ぶ醸造施設はまさにガレージワインの趣き。ここから世界が認めるプレミアムなワインが生まれ出る。
Photo by tadayuki yanagi
レストランバスで堪能する Kisvinワインの芳醇な味わい
ワイナリー見学のあとはまたバスに乗車し、一路、リゾナーレを目指すのかと思えば、高速道路に入る前にバスを乗り換え。屋根がぽっかり開いた二階建てのバスは、その名もレストランバス。二階のキャビンで食事ができるようになっています。
車内でリゾナーレが用意したアペタイザーが配られ、ここでようやくKisvinのワインが登場。
サプライズのレストランバスに乗り換え、八ヶ岳を目指す。バスは1階が配膳のためのキッチン、2階がオープントップのキャビンになっている。
リゾナーレ八ヶ岳が特別に用意したアペタイザー。
Photo by tadayuki yanagi
21種類ものブドウ品種が混醸された「Kisvin Blanc 2024」をゲストに注ぐのは、リゾナーレ八ヶ岳の加茂文彦ソムリエ。フランスから農事功労章を贈られた、日本が誇る名ソムリエのひとり。
Photo by tadayuki yanagi
ワインのサービスはリゾナーレ八ヶ岳の加茂文彦ソムリエです。パリの名店「リュカ・カルトン」で研鑽を積み、帰国後は日本国内のラグジュアリーホテルでシェフソムリエを歴任した日本が誇る名ソムリエのひとり。奥様の夢であった八ヶ岳移住を実現させ、昨年からリゾナーレ八ヶ岳でワインのサービスにあたられています。
グラスに注がれたのは「Kisvin Blanc 2024」。とても香り高い白ワインで、なんと、21種類ものブドウ品種を一緒に搾って造ったとのこと。品種の中にはシャインマスカットやマスカット・オブ・アレキサンドリアも含まれ、それがこの華やかな香りを醸し出しているようです。
Kisvinが世界的に注目されたきっかけは、ワイン界巨匠のSNS
バスの中で、斎藤さんがKisvinの歴史について語ってくれました。
Kisvinは2013年創業のまだ歴史の浅いワイナリーです。そのルーツは山梨県で3代続く荻原ブドウ園。3代目の荻原康弘さんは日本ワインの時代が来ることを予見し、2005年からワイン醸造用ブドウの栽培に取り掛かります。当初は収穫したブドウを近隣のワイナリーに販売していましたが、そのワイナリーから「お宅のブドウは格段に違う」と言われ、荻原さんは自社でのワイン醸造を決意。カリフォルニアで醸造学を勉強していた斎藤さんをヘッドハンティングしました。「造ったのはいいけれど、最初は在庫の山。親戚のおばさんを拝み倒して買ってもらっていました」と斎藤さん。
ところがある日、斎藤さんの、いや、Kisvinの運命を変える人物が現れます。それは2010年度の世界最優秀ソムリエで、ワイン界の最高権威マスター・オブ・ワインの称号をもつジェラール・バッセさん(2019年に他界)。斎藤さんは来日したバッセさんとディナーを共にするチャンスに恵まれ、そこでKisvinのワインをテイスティングしてもらいました。するとピノ・ノワールを大絶賛。バッセさんがそのワインの画像に「才能ある醸造家、斎藤まゆ」と添えてソーシャルメディアにアップしたことをきっかけに、日本のマスコミも騒ぎ出し、在庫一掃。一夜にしてワイン愛好家が血眼になって買い求める、日本ワインのプレミアムブランドとなりました。まさにシンデレラストーリーです。
ディナーでは川上さんが初めて手がけたKisvin Zinfandel Roséや、世界最優秀ソムリエのジェラール・バッセさんが絶賛したKisvin Pinot Noirも供された。
リゾナーレ八ヶ岳のもう一つの愉しみ ワインを極める贅沢時間
そのようなお話を伺っているうちに、バスはリゾナーレ八ヶ岳に到着。ワインリゾートへと誘われます。
まずはワインショップの「八ヶ岳ワインハウス」。ここでは山梨・長野の希少なワインが買えるだけでなく、プリペイド式のワインサーバーで常時24種類のワインが試飲可能。興味がそそられるワインを、25mlのひと口サイズから試せるのはうれしいかぎりです。また「BYO (BringYour Own) 」といって、ここで購入したボトルをリゾート内のレストランやカフェに無料で持ち込んで楽しむことも可能です。
世界的建築家のマリオ・ベリーニが設計したリゾナーレ八ヶ岳。イタリアの山岳都市をイメージしたとされる。これは象徴的なピーマン通り。
入手困難なアイテムも並ぶワインショップの「八ヶ岳ワインハウス」。プリペイド式のワインサーバーから試飲もできる。
そして、ワインリゾートを象徴する客室が「ワインスイートメゾネット」。その名のとおり、
ワインの余韻に浸るために設られたメゾネットタイプのスイートルームで、ボルドーカラーを基調としたインテリアがワイン好きの心を鷲掴み。小型のセラーには有料ながら各種ワインが用意され、気が向いた時に楽しむことができます。
最後に、ワインとのペアリングを堪能するメインダイニングの「OTTO SETTE」です。2年前にリニューアルし、天井がアーチを描いたワインカーヴのイメージに進化しました。今回のワインメーカーズディナーはリニューアル後初となるイベントとのことで、期待が大きく膨らみます。
ワインをこよなく愛するゲストのために設られた「ワインスイートメゾネット」。ボルドーカラーを基調としたインテリアが気分を盛り上げる。
ワインカーヴをイメージする「OTTO SETTE」で目眩く幸せ時間
料理は2021年からOTTO SETTEの料理長を務める鎌田匡人シェフ。自然に恵まれたこの地ならではの食材を用い、イタリアンの技法で調理。加茂ソムリエとのコンビネーションで、ワインとのマッチングを最大限に引き出した料理が提供されました。
例えば最初のひと皿は、ピノ・ノワールとシラーをブレンドした「Kisvin Rubis 2021(キスヴィン・ルビー2021)」に合わせて「甲斐あかね鱒と鹿肉のタルターラ」。
「軽めの赤ワインなので、赤身の肉を冷製のアンティパスト(前菜)にしてほしいとシェフにリクエストしました」と加茂ソムリエ。山梨では近年ジビエ(狩猟肉)が名物で、今回は鹿肉をビーツと一緒にゆっくり火入れ。エスプーマにした鱒と合わせて、ピエモンテ地方のビッテロ・トンナートのようなイメージに仕上げたそうです。
ディナーが始まって5本目のワイン「Pinot Noir Rosé(ピノ・ノワール・ロゼ2024)」が登場した後にまたサプライズが。ロゼがもう一種サーブされました。「Zinfandel Rosé 2020(ジンファンデル・ロゼ2020)」です。
このロゼは2つの意味で特別なワインです。ひとつはこの年を最後にジンファンデルの栽培を断念し、他の品種に転換してしまったため、これが最後のジンファンデルであること。
メインダイニングの「OTTO SETTE」は2年前にリニューアル。ワインカーブをイメージしたアーチ型の天井となった。
ゲストにワインの解説をする斎藤さん。自身が手がけたワインへの熱い想いが伝わる。
NHKの番組「仕事の流儀」に、斎藤まゆさんが出演したのはまさにこの年。2020年は雨が多く、ただでさえも雨を嫌うジンファンデルにとって過酷な年でした。ジンファンデルを引き抜くエピソードは番組でも取り上げられていました。
もうひとつは後輩ワインメーカーの川上さんが初めて単独で醸造を任されたのが、この2020年のジンファンデル・ロゼということ。色付きの悪いジンファンデルをロゼに仕上げたところ、これが功を奏し、果実味豊かで飲みごたえのあるロゼワインに仕上がりました。しかし、ワインが出来上がった頃にはすでにジンファンデルの樹はなく、このワインが幻の一本となってしまいました。
ディナーのメニュー。
山菜のトルタにKisvin Koshu Réserve 2022。
虹鱒のロースト、苺のケッカソースにKisvin Pinot Noir Rosé 2024。
牛フィレ肉のじゃがいも包み焼きにKisvin Pinot Noir 2019。
肉料理を自ら切り分ける鎌田匡人シェフ。
そしてこのディナーの席で斎藤さんは、川上さんの醸造責任者昇格を発表。自身は醸造総指揮の立場で、今後もKisvinのワイン造りを支えていくと語られました。
ディナーでサーブされたワインは、サプライズのジンファンデル・ロゼも含めて9種類。一方の料理はアンティパストからドルチェ(デザート)まで全7品。ピノ・ノワール・ロゼがもつイチゴのアロマに合わせ、ふだんはソースにトマトを使うところをイチゴに変更したりと、細かな微調整を加茂ソムリエと鎌田シェフが取り組んだ結果、完璧なマリアージュのワインメーカーズディナーとなりました。
銘酒あるところに美食あり。逆もまたしかり。リゾナーレ八ヶ岳では、今後も山梨・長野両県のワイナリーとコラボレーションし、さまざまなイベントを開催していくそうです。日本ワインの発展にワイン・リゾートが果たす役割は計り知れず、これからも目が離せません。
雨降りの2020年に初めて手がけたKisvin Zinfandel Roséを解説する川上さんと、その姿を袖から見守る斎藤さん。この日、川上さんの醸造責任者昇格が発表された。
Photo by tadayuki yanagi
柳 忠之 Tadayuki Yanagi
ワインジャーナリスト 196年横浜生まれ。ワイン専門誌の記者を経て、1997年からフリーのワインジャーナリスト。世界各地を取材した情報を発信。専門誌のほか、ライフスタイル誌にもワイン関連の記事を寄稿。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ、ボルドー・ボンタン騎士団名誉コマンドゥール。
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