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日本文化発信機構 JCCOが目指すもの
2026.7.7
ひらまつの次なる成長戦略 人財育成とブランド戦略で描く未来 株式会社ひらまつ代表取締役社長CEOの三須和泰が語る
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日本文化発信機構(Japan Culture Creation Organization/JCCO)が主催する「PREMIUM JAPAN AWARD 2026(プレミアムジャパン・アワード2026)」に、株式会社ひらまつがスポンサーとして参加することになった。代表取締役社長CEOの三須和泰氏に話を聞いた。
新たなパーパス「美しい味を、未来へ。」
Q 初めに、スポンサー参加を決められた理由を伺えますか。
A 昨年、中期経営計画2030を策定いたしましたが、その計画を立てるに当たって、まずは企業のパーパスを定めることにしました。
今までひらまつには企業のフィロソフィーはあったのですが、企業パーパスは策定されていませんでした。議論を重ね最終的にできあがったアウトプットが、「美しい味を、未来へ。」というものです。
「美しい味を、未来へ。」とは単に美味しい料理を作っていくことだけではありません。日本の食文化そのものを繋いでいくことです。その一端を担うのが料理人やサービス人であり、ひらまつの場合、そのどちらも約400人ずつおります。その料理人とサービス人が紡ぎ出す日本の食文化を将来に繋げていくことを、企業としてのパーパスとしました。
日本の人口が減っていく中で、必然的に飲食業に携わる人口も減っていきます。それに加えて飲食業には、労働時間や報酬など、解決するべき課題があります。それに対して、企業として人財育成や人事評価の基盤を整え、飲食業界へ携わる人財を増やしていくことが、ひらまつの役割であると考えています。
日本の食文化は日本の文化の中でも、非常に重要な位置づけにあります。プレミアムジャパンは日本文化を発信していくメディアです。世界へ積極的に発信しており、その影響は還流されてまた日本に戻って来ます。日本の美意識や技術、文化的価値を次世代や世界へつなぎ、日本文化の更なる発展に貢献するという本アワードの理念が、ひらまつの目指す方向性にも通じることが、協賛を決めた理由です。
食を通じて日本の文化や美意識を未来に
Q では、御社について伺います。ひらまつはレストランから始めて、ウエディングそしてホテルへと事業を拡大してきました。ひらまつをどのような会社だと認識されていますか。
A 当社は高級レストランや高級ホテルを運営している会社として知られていますが、私どもとしましては、文化や美しさや体験価値を提供していく会社だと思っています。
「美しい味を、未来へ。」というパーパスに込めた想いは、単に飲食業という枠に収まるのではなくて、食を通じて日本の文化や美意識を未来につなげていく会社であるということです。
ひらまつのホテルはオーベルジュスタイルで、レストランの延長線上にあるものと考えています。全国各地に素晴らしい食材があり、素晴らしい生産者がいるとしたら、その魅力や想いを反映させた料理を提供したいと思うのは自然なことです。
しかし、そうした生産地に近い場所でレストランを開こうとすると、滞在できる施設がなければなりません。そこで、「泊まって食事もできるオーベルジュ」という発想になるわけです。これまでもひらまつは地域との共生や生産者との連携を大切にしてきましたので 、チャンスがあればそういう場所にホテルを作るのは必然的な流れでもありました。
18年ぶりに出店した「HRMT STAGE」
Q 富裕層の消費行動に関して、この10年ぐらいで変わってきたなと感じる部分はありますか。
A 富裕層そのものの変化というよりは、富裕層の中の世代交代は感じています。かつて50代であった方は、60代になっているわけですから。そして同じ富裕層でも、年代によって違いが出てきています。
年配の富裕層はフランス料理ならばオーセンティックなものを好まれる傾向にありますし、若い富裕層はもっとライトでモダンなフランス料理を好まれる。それは本国のフランスですらそういう傾向にあります。日本料理やアジアンなテイストを取り入れたようなフランス料理に国際的な注目と評価が寄せられています。日本の若い富裕層も、そうした世界の料理の潮流に関心が高いのではないでしょうか。
もちろん、年配の方で新しい料理に興味のある方もいらっしゃるし、若い方でたまにはオーセンティックな料理を食べたい方もいらっしゃるので、完全に二分化しているわけではありません。
2026年2月に恵比寿にオープンした「HRMT STAGE」。
Q この度、恵比寿に出店された「HRMT STAGE」はどのようなレストランですか。
A 2026年2月に恵比寿に新しく開業した「HRMT STAGE」は、新しいひらまつの料理はどうあるべきか、新しいひらまつのレストランはどうあるべきか、それを考え作り上げた、一つの挑戦でした。
実は2028年に青山に新店舗を出店予定です。「HRMT STAGE」はその前哨戦。ひらまつの新しい料理とサービスを作り出していくための場として「HRMT STAGE」 を位置付けています。
Q 新店舗の特徴を教えてください。
A 新しい料理とサービスの在り方を考えていくことを狙い、まず価格を抑えました。
内装は上質で洗練されたつくりですが、料金的にはあくまでもカジュアルラインのお店です。世の中のレストランはコース料理が主流ですが、もう少し自由に「あれも食べたい、これも食べたい」というお客様も多いと思うのです。よって、当店ではコース料理に加えアラカルトを用意しました。これは、当店舗の大きな特徴です。
加えて、提供スタイルも、店内奥のメインキッチンで料理を始めて、そこからつながるカウンターに料理人が出てきてお客様の目の前で最終仕上げをする。あるいは、お客様と会話をしながらサーブするようなスタイルにしました。これはひらまつとしては新しい試みとなります。
HRMTに込めた4つの意味
Q HRMTはブランド展開の一つですか。
A HRMTの文字は「ひらまつ」と結びつくと思いますが、そこにはこのお店ならではのコンセプトも込めています。
「HRMT STAGE」のメニューは、全国のひらまつのレストランやホテルで活躍する、フランス料理、イタリア料理、日本料理、イノベーティブの各ジャンルを代表する4名のシェフによる料理監修のもと創り上げられています。
HRMTのHは料理やスタッフを調和させるハーモニー。Rは今までのひらまつを脱皮して再構築していくリストラクチャー。Mはひらまつの元々のフィロソフィーでもある最高の時間をお客様に提供するという意味でのモーメント。最後のTはひらまつが築いてきた伝統も大切にしていくという意味でのトラディション。そういうHRMTでもあるのです。
HRMT にSTAGEを付けたのは、HRMTの今後の展開を考えた時に、この店舗を若い料理人やサービス人の登竜門的なステージにしたかったからです。3年ぐらいを目処にここで働いて羽ばたいていくわけです。
ひらまつとしては初のカウンター席中心のレストラン「HRMT STAGE」。
レストラン業界でひらまつにしかない価値
Q ひらまつにしかない価値があるとしたら何でしょうか。
A 現在のひらまつの中で高い価値のひとつであると思うのは、4名のフランス人シェフとの繋がりです。
「レストラン ポール・ボキューズ」のジル・レナルト氏、「オーベルジュ・ド・リル」のマルク・エーベルラン氏、「ジャルダン・デ・サンス」のジャック&ローラン・プルセル兄弟、「アルバンヌ」のフィリップ・ミル氏。いずれもフランスのレジェンドシェフたちです。
例えば日本で活躍している日本人シェフの多くが、渡仏して苦労して門戸をたたきフランスの有名レストランに飛び込んで修業してきた歴史があります。皿洗いから始めて苦労の末に名を上げた方もいる陰で、日の目を見なかった人たちもたくさんいるはずです。
左上から時計回り「レストラン ポール・ボキューズ」のジル・レナルト氏、「オーベルジュ・ド・リル」のマルク・エーベルラン氏、「アルバンヌ」のフィリップ・ミル氏、「ジャルダン・デ・サンス」のジャック&ローラン・プルセル兄弟。
ひらまつの料理人あるいはサービス人がフランスに修業に行きたい場合には、彼らのレストランへ研修という形で学びに行くことが出来る環境が整っているわけです。ひらまつにいながら、フランス本店の料理哲学や技術を、現地で直接学ぶことが出来る。それは大変なアドバンテージではないでしょうか。
もちろんこれらフランスにあるレストランだけではなくて、日本国内でも、ひらまつのフランス料理のシェフ、イタリア料理のシェフとの交流も可能です。
このように多岐にわたり学び、経験できる環境だと思います。また、「料理人を目指したんだけど、やっぱり僕はサービス人をやりたい」といった転向も認められているため、 幅の広いキャリア形成が可能です
また、レストランの料理人はホテルのレストランと相互に行き来ができますし、サービス人もレストランからホテルの相互の行き来があります。従って、人事・組織に関しては、レストランとホテルを一気通貫で見ています。
「HRMT STAGE」の料理長、志水厚太氏(右から2番目)とスタッフたち。
扉を開けると目の前に現れるウォータードリッパー。ここでは、はじまりの一品として提供される、鮪節やハーブなどを昆布出汁に通して抽出する「オリエンタル出汁」が作られている。
人事の柔軟性を追い求めて
Q 御社の人財育成に関しても教えてください。
A 人財育成は、中期経営計画2030の中でも柱の一つです。
一般的な人事制度は、係長、課長、部長、そして役員、そして最終的には社長へと昇進していくことを前提に設計されていることが多いと思います。ところが我が社の場合、まったく異なる人事制度を取り入れています。
例えば、料理人が役員を目指すかと言えばそうではない。ホテルの総料理長みたいになりたいかと言えば必ずしもそうでもない。ずっと料理をしていたいという人が多くを占めると思います。その中で、人に教えるのが好きだったり、新しい創造やメニューの開発が好きだったり、伝統的な料理や優れたレシピを継承していくことが好きだったりと、人それぞれです。何が好きで何をやりたいのかは、人事が細かく見ています。
サービス人に関しても、サービスそのものが好きだとか、ソムリエになりたいとか、店のマネジメントや経営を担いたいとか、色々な人がいます。あるいは先ほど触れたように、料理人からサービス人とかソムリエに転向したいとか、言わば人の志向は千差万別です。
ひらまつでは、そこに人事の柔軟性を持たせようと考えています。それを、自らキャリアを選択できる「複線化されたキャリアパス」と呼んでいます。キャリアを単線ではなく複線化させた上で、評価基準もきちんと設定して個人の報酬を高めていくわけです。
すると、社内外の研修自体も変わって来ます。それぞれのキャリアを目指すためにどのような教育制度が必要か、研修制度を見直している最中です。
いま活発に議論が行われているところでして、現場のスタッフからも意見を出してもらっています。それによってモチベーションも高まります。
私はレストランもホテルも従業員のモチベーションがとても大切だと考えています。平たく言えば、いつも笑顔で前向きであるということ。従業員のモチベーションの高さが、レストランやホテルの評価の高さに直結しているのですね。だから、人財育成戦略は、ひらまつとしては極めて重要なのです。
ひらまつにとって、コロナ禍によるパンデミックの影響は甚大でした。それが過ぎ去って、2025年ぐらいからようやく新しい事業や人財に投資できるようになりました。
会社としては今がいちばん新しい方向に向かっていく時期で、議論のエネルギーも集中していて、やり甲斐がありますね。
M&Aの第1弾は渋谷の「タロス」
Q 今現在、会社としての課題は何ですか。
A ブランディングです。さきほどお話ししたHRMT、既存の国内オリジナルブランド、そして4人のフランス人シェフによる海外ブランド、それぞれの役割や価値を明確化し、ブランド全体としてこの先どう展開していくのかが重要であり、当社の課題だと考えています。
そんな中、東京で18年ぶりの新店舗、その店舗を新たなるブランド「HRMT」としたことは一つの大きな決断でした。それによって当社独自のブランドの在り方を明確に示すことができ、ブランド戦略が大きく前進したように思います。
それとは別に、HRMIという子会社を設立しました。それは「ホテル・レストラン・マネジメント・インベストメント」という意味ですが、M&Aを展開していく上で受け皿となる会社です。
HRMI は2026年3月に設立した会社ですが、その第1号案件となるM&Aが渋谷にある「タロス」というサルデーニャ料理の店です。渋谷駅にも近くて、日常使いのカジュアルな店なので、従来のひらまつのレストランやホテルとはまったく別のものです。
これは何を意図して傘下に収めたかと言いますと、ひらまつの事業を拡大していく上では、高価格帯の展開だけではなくて、カジュアルな業態を通じて、若い世代を顧客に迎えていく必要性を感じていたからです。
シチリア料理の店は東京にいくつかあるけれども、サルデーニャ料理の店はあまり聞きません。イタリアが統一される前、サルデーニャ島はとても力のある王国で、独自の文化を形成した地域です。そして何よりも料理もワインも美味しい島です。
「タロス」の日本人オーナーはサルデーニャ料理をもっと広めていきたいという思いで、18年にわたり店舗経営を行ってきました。その想いの達成に、ひらまつがお役に立てればという合併なんですね。とは言え、「タロス」はすでに素晴らしい料理を提供しておりますので、ひらまつが料理に関して意見を出すということはしておりません。
この新設したHRMIによって、事業領域をどんどん広げて行こうと考えています。
10年後の未来予想図
Q では最後に、10年後にひらまつはどういう会社になっていたいですか。
A ひらまつはあくまでも、レストランを主軸に据えた会社でいたい、そこは不変です。冒頭でサラッと「日本の食文化」と言いましたが、和食だけがそれに該当するとは思っていません。むしろ今の日本の食文化には、和食だけにとどまらず、フランス料理もイタリア料理をも内包されているのですね。ひらまつのフランス料理もイタリア料理も、和の要素を取り入れることもあります。
食文化を継承するのは料理人だけではなくサービス人も含まれます。そうした食文化の担い手として、優秀な人財をより多く育成する基盤を整えていきたいと思っています。
さらに未来予想図としては、ファームや研修施設の設立も思い描いています。新しい料理を開発するラボがそこにあってもいい。
もちろん、研修施設もラボもそれだけでは利益を生みませんから、優先順位としては真っ先にくるものではありませんが、いつかは実現させていきたいことですね。
三須和泰 Kazuyasu Misu
1957年生まれ。静岡県伊豆市出身。一橋大学では体育会ホッケー部主将を務めた。三菱商事(株)に入社後、生活産業・食品分野で要職を歴任。日本ハム(株)、コカ・コーラセントラルジャパン(株)、三菱食品(株)等の社外取締役などを経て、2016年にカンロ(株) 代表取締役社長に就任。 2023年6月から、ひらまつ取締役、2024年6月には代表取締役社長CEOに就任。また公益社団法人 日本ホッケー協会の代表理事でもある。
Photos by Natsuko Okada
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2026.7.3
地域価値の時代へ これからの日本に必要なのは何か 元内閣府地方創生推進事務局長 市川篤志氏
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35年以上にわたり政府で住宅政策、まちづくり、土地政策、防災、地方創生などに携わり、現在は日本文化発信機構(JCCO)の理事の活動をはじめ、地域価値の創造に取り組む市川篤志氏は、「これからは地方創生ではなく、地域価値の時代だ」と語る。そこでPremium Japan編集長、JCCO専務理事の島村美緒が、地域の価値こそが日本のチカラになるという視点から、日本の未来について語り合った。
人口減少は問題ではない。問われているのは価値を生み続ける力
市川氏が地域について考える原点には、幼少期の風景がある。
長野県北部の中野市の果樹農家、ブドウ農家の長男として育った市川氏は、大学進学を機に東京へ出て、その後、国土交通省に入省した。30代前半にはパリの国際機関OECDに赴任し、家族でフランスに暮らした。
ある週末、フランス人の友人家族に招かれてノルマンディー地方を訪れた。リンゴ畑が広がる田園地帯。そこで人々はリンゴを育て、シードルを造り、それを蒸留してカルヴァドスにする。そうした営みが何世代にもわたって続き、暮らしの中に自然に溶け込んでいた。
市川氏はその風景に、不思議な懐かしさを覚えたという。中野市のブドウ畑や果樹園の風景と重なったからだ。
市川:あの時、私は「地域の価値とは何か」を考え始めていたのだと思います。
ノルマンディーでは、リンゴを育てる営みが人々の暮らしの風景と重なっていました。文化とは、そういうものだと思うのです。特別に飾られたものではなく、続いてきた営みが暮らしに溶け込んでいるもの。そこに地域の価値があるのだと感じました。
島村:昨今は日本の国力低下が叫ばれています。日本国家としての取り組みも重要ですが、各地域の価値の向上は不可欠ですね。
市川:おっしゃる通りです。私は農村で育ち、霞が関で政策を担い、地方行政を経験し、海外から日本を見て、今また地域の現場に立っています。それぞれの立場から、ずっと同じ問いを追いかけてきました。
地域とは何か。地域の価値とは何か。そして人口減少の時代に、地域はどう価値を生み続けていけるのか、日本にとって重要な課題ですね。
島村:日本の人口減少が招く課題にはどんなことが考えられるのでしょうか。
市川:日本は今、これまで経験したことのない時代に入っています。今後100年ほどで人口は明治から大正期の水準まで減少し、高齢化率は4割を超えるとも言われています。社会の担い手は確実に減っています。
島村:しかし市川さんは、人口が減ること自体を最大の問題とは捉えていないんですよね。
市川:はい。人口減少そのものが問題なのではありません。
本当に問われているのは、担い手が減っていく中で、地域がどう価値を生み続けられるかです。そして、その営みを守り、未来へつないでいけるかどうかです。
私は35年以上、地域政策に携わってきた中で、ひとつ確信していることがあります。結果は現場に現れる、ということです。
制度をつくったから成功ではありません。予算をつけたから成功でもありません。地域で実際に変化が起きたかどうか。そこに暮らす人たちの意識や行動が変わったかどうか。それがすべてです。
島村:それは地方の課題ということで、東京は違うんですか。
市川:地方では人口減少の現実が先行していますが、これは地方だけの話ではありません。東京も同じ船に乗っています。だからこそ、東京対地方という構図で考えても意味がないのです。
島村:地方創生という言葉が広まった頃、「東京から地方へ人を移せばいい」という議論が多かったように思います。
市川:日本全体の人口が減っていく中では、どこかが増えればどこかが減る。それだけではゼロサムゲームです。
必要なのは、人口を奪い合うことではなく、その地域ならではの価値をどう育てるか。そして、それをどう伝えるかだと思います。
私も最近は、「地方創生」という言葉をあまり使わなくなりました。地方を創生する、という言葉には、どこか外から何かを与えるような響きがあります。
けれど本来、地方でも東京でも、地域にはすでに価値があります。自然かもしれない。食かもしれない。文化かもしれない。人と人とのつながりかもしれない。
それを見つけ、磨き、未来へつないでいく。私は「地域価値」という言葉の方が、今の時代にはしっくりくるのです。
観光は目的ではない。地域価値を磨いた結果であるべきだ
市川:観光客を呼ぶために何かをつくるのではなく、地域が本来持っている価値を磨いた結果として、人が訪れる。それが理想だと思っています。
人は観光施設だけを見に来るわけではありません。その土地の空気、風景、食、人々の表情、暮らしぶりにも惹かれているのだと思います。
私が魅力を感じる地域には共通点があります。そこに暮らす人たちが、その土地での暮らしを楽しんでいることです。もちろん、その背景には産業や自然、食や文化、伝統があります。そして人と人とのつながりがあります。
島村:確かに、旅行者の関心は大きく変わり始めていることを実感しています。浅草のような有名観光地には、もちろん世界中から人が集まります。一方で、根津や谷中のような場所に惹かれる外国人も増えています。
彼らが求めているのは、ガイドブックに載っている名所だけではなく、普通の商店街や住宅街、暮らしの気配。自分だけの切り取りを見つけたいという感覚があるのだと思います。
市川:そうですね、AIの時代だからこそ、私は地域の価値がますます重要になると考えています。
AIは知識や情報を広く共有してくれます。けれど、その土地の自然、その土地の食、その土地に暮らす人々との出会いは、そこでしか得ることができません。その場にいなければわからない空気感があります。
AIは多くのことを代替するかもしれませんが、地域の風景や文化、人々の営みそのものを代替することはできません。
AIが発達するほど、逆に地域固有の価値は際立ってくる。私は、AI時代はデジタルの時代であると同時に、リアルの価値の時代でもあると思っています。
日本は宝の山。足りないのは「編集力」と「翻訳力」
市川:日本には素晴らしいものがたくさんあります。まさに「宝の山」です。
自然もあります。食もあります。工芸もあります。祭りもあります。ものづくりもあります。人々の暮らしもあります。
ただ、その価値を世界に伝える力が足りない。私はそれを「編集力」と「翻訳力」だと思っています。
島村:日本の発信力の低さに関しては、常に私も考えていたことです。地域に密着した芸能や文化も、どんな地域でどんな暮らしの中から生まれてきたのか。なぜその土地で続いてきたのか。その物語ごと伝えていくことが必要だと思います。
市川:地域の人にとっては当たり前のことでも、外から見れば大きな魅力であることが少なくありません。けれど、当たり前すぎるからこそ、自分たちでは価値として意識しにくい。
だからこそ、外の視点も必要です。ただし、外の人が勝手に価値を作るのではありません。地域の中にあるものを見つけ、光を当て、現代の言葉に翻訳していく。そこに編集の役割があるのだと思います。
島村:海外ブランドはストーリーテリングが非常に上手ですよね。例えば、オリーブオイルひとつでも「樹齢100年の木から採れた実で作っています」と語る。それだけで、その背景にある風景や時間の積み重ねを想像できます。
日本人は真面目で謙虚なので、自分たちの価値を語ることにためらいがあります。でも、価値を伝えることは誇張ではない。伝えなければ、存在しないのと同じになってしまう。
伝統工芸やファッションも同じです。品質は高い。技術もある。でも、ブランドとしての見せ方、伝え方が弱い。その結果、本来もっと高く評価されるべきものが、安く見られてしまうことがあります。
市川:価値は、存在しているだけでは伝わりませんね。
地域にあるモノやコトは、それ単体で価値を持っているように見えますが、本当はその背景にある暮らしや歴史、人の営みと一体になって初めて価値になります。
ノルマンディーのシードルやカルヴァドスも、単にお酒として存在しているのではなく、リンゴ畑の風景や人々の暮らしと結びついているからこそ魅力がある。
日本の地域にも、同じような価値がたくさんあります。ただ、それを語る言葉がまだ足りていないのです。
文化は「守る」だけでは続かない。必要なのは価値の循環である
市川:私は文化を特別なものだとは思っていません。文化とは、続いてきた営みが暮らしに溶け込んだものです。食も、祭りも、工芸も、伝統芸能も、農業も、ものづくりも、暮らしも文化です。
地域を産業、自然、文化、暮らしと分けて考えるのではなく、一つの全体として見ることが大切だと思っています。
暮らしと寄り添ってきた様々な事、それこそに価値がある。そこに地域らしさがあり、地域の魅力があるのです。
島村:同時に、多くの地域では祭りや伝統工芸、伝統芸能の担い手が減り、継承が危機に瀕しているという課題もありますね。
市川:「守る」という発想だけでは難しいと思っています。
守ろうとするだけでは、作り手の暮らしが立ちゆかなくなる。価値が認められ、選ばれ、適正な対価が支払われる。その循環があってこそ、文化は続いていきます。
文化や伝統を残すということは、過去を保存することではありません。今を生きる人たちの暮らしの中で価値を持ち続けることです。
島村:日本にはその循環を生み出すプロデューサーが不足しているように思います。伝統工芸でも伝統芸能でも、担い手が生活できなければ続きません。職人やアーティスト本人に、制作も発信も営業も全部背負わせてしまっている。
本来は、価値を見つけ、伝え、人をつなぎ、ビジネスとして成立させるプロデューサーが必要です。
市川:作り手や担い手を、ある意味でほったらかしにしてしまっているのかもしれません。
けれど、文化は担い手の生活が成り立ってこそ続いていくものです。文化を未来へつなぐには、価値を見つける人、伝える人、支える人を増やしていく必要があります。
地域を変えるのは「指導者」ではなく「始動者」である
市川:地域には、指示を出す「指導者」よりも、最初に動く「始動者」が必要だと思います。市長や町長でなくてもいい。役場の若い職員でもいいし、地域の住民でもいい。とにかく何かを始める人がいるかどうか。そこが大きいように思います。
地域を変えるのは制度だけではありません。人です。
島村:一つの例として茨城県境町のようなケースもありますね。大胆な教育施策や移住政策、自動運転バスの導入などで、町のイメージを大きく変えました。境町は、特段有名な観光資源があったわけではありませんが、新しい価値をつくり出し、地域のブランドを変えました。
市川:地元の人が参加していないプロジェクトは続きません。
補助金があるから何かをやるのではなく、「自分たちの地域を続けたい」「何とかしたい」という思いが先にあるべきです。
行政が全部やる必要はまったくありません。
むしろ行政は、人と人をつなぐコーディネーターになるべきです。この人とこの人を組ませたら何かが生まれるかもしれない。そういう媒介役こそ、本来の行政の価値だと思います。
市役所や町役場と付き合っていると、「自分たちは行政だから何かをやらなければ」と力が入りすぎて、逆効果になるケースもあります。
行政はプレイヤーである前に、場を整え、人をつなぎ、挑戦を支える存在であっていいのです。
光を当てることで、価値は動き出す
島村:今回、市川さんが日本文化発信機構やプレミアムジャパンアワードの活動に参加いただけたのはどのような理由からですか。
市川:私が関心を持っているのは、文化振興そのものというより、地域価値をどう見つけ、どう伝えていくかということです。価値は、存在しているだけでは伝わりません。光を当てる人が必要です。
プレミアムジャパンアワードも、表彰すること自体が目的ではありません。光を当てることで、その価値を見つける人が増える。応援する人が増える。担い手が増える。
個別のモノやコトだけではなく、それを育んできた地域の営みや文脈も含めて世界に伝えていく。そこに大きな意義があると思っています。
表彰はゴールではなく、始まりだと思っています。
ある価値に光が当たることで、人が集まり、資金が集まり、次の挑戦が生まれる。地域価値とは、固定されたものではなく、見つけられ、磨かれ、伝えられることで動き出すものなのです。
島村:おっしゃる通り、プレミアムジャパンアワードは“きっかけ“です。国内外問わず、日本の美意識が宿る優れたモノ・コト・ヒトと出合うための道標になることを目指しています。
市川:地域それぞれの固有の価値を見つけ、磨き、世界につないでいくことが、これからの日本にとって重要になると思います。
島村:今日はありがとうございました。
市川篤志 Atsushi Ichikawa
1964 年 7月、長野県に生まれ育つ。東京大学法学部を卒業し、1989 年に建設省(現・国土交通省)に入省。その後、大蔵省、OECD(在パリ)、福島県、内閣官房内閣参事官などを経て、国土交通省では政策課長、会計課長、大臣官房審議官(総合政策、土地・建設産業担当)、土地政策審議官などを歴任。さらに、2022 年に内閣官房内閣審議官(デジタル田園都市国家構想実現会議事務局次長)、2023 年からは内閣府地方創生推進事務局長に就任し、政府の地方創生推進の司令塔機能を担う。2024 年 退官。三井住友信託銀行株式会社の顧問に就任。日本文化発信機構(JCCO)理事。
Photos by Toshiyuki Furuya
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国の重要文化財に泊まる。「星のや奈良監獄」開業
2026.7.3
「旧奈良監獄」を再生。日本初のヘリテージホテルが誕生
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星のやが、国の重要文化財「旧奈良監獄」を再生したラグジュアリーホテル「星のや奈良監獄」を、2026年6月25日に開業した。約100年の歴史を刻む荘厳な建築美はそのままに、現代のラグジュアリーが融合した、圧倒的スケールのヘリテージホテルだ。
表門
「旧奈良監獄」は、明治時代に竣工した「明治五大監獄」のなかで唯一、当時の全貌をほぼ完璧に残す貴重な建築。今回の再生プロジェクトにあたっては、赤レンガ造りの外壁や舎房が放射状に伸びる特徴的な構造などの歴史的価値を受け継ぎながら、重要文化財に「宿泊する」という稀有な体験が叶う滞在空間へと生まれ変わった。
客室|リビング
メインラウンジ
中庭
全室がスイートルームとなる客室は、かつての舎房を連結。レンガ壁やアーチ状のヴォールト天井といった歴史的意匠を残しながら、現代的なデザインを融合させ、ここでしか味わえない静謐な空間を創り出している。館内には、開放的なメインラウンジや中庭、ダイニングラウンジも備え、ゆったりとした時間を満喫できる。
ディナーコース「ガストロノミー・クロニクル(要予約・宿泊者限定)
時間 17:15~、19:30~ 料金 22,000円
文明開化の朝食 6,380円(要予約・宿泊者限定)
食体験も、日本の歩みと文明開化の華やぎを感じさせる内容に。夕食では、日本におけるフランス料理の歩みをテーマにしたコース「ガストロノミー・クロニクル」を提供。明治の洋食文化から現代、未来へと続く食文化を一皿ごとに表現する。また朝食には、スコッチエッグやカニクリームコロッケなどを取り入れた「文明開化の朝食」のほか、和朝食や洋朝食も用意される。
蓄音機のノスタルジックな音色を愉しむ「響きのソワレ」
時間 21:00~22:30 料金 無料(一部メニューは有料)
奈良監獄ミュージアム A棟・歴史と建築
このほか、和紅茶でもてなすティータイムや蓄音機の音色を楽しむ夜のダイニングラウンジ、調香体験、明治期の健康文化に着想を得た朝の体操など、多彩なアクティビティも充実。さらに宿泊者は、敷地内にある「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」に何度でも入館でき、歴史や建築への理解をより深めることができる。
メインラウンジ
中央看守所
歴史的建築物の魅力と現代のもてなしが共存する「星のや奈良監獄」。歴史の深みと圧倒的な非日常に浸る新たな旅のスタイルが、ここ奈良で幕を開ける。
◆星のや奈良監獄
【住所】奈良県奈良市般若寺町18
【電話】050-3134-8091(星のや総合予約)
【客室数】48室 チェックイン 15:00/チェックアウト 12:00
【施設】客室、レセプション、メインラウンジ、ダイニング、ダイニングラウンジほか
【併設】奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート(日帰り利用可能)
【アクセス】JR奈良駅より車で10分、近鉄奈良駅より車で6分
【価格】https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyanarakangoku/147,000円~(1室あたり、税・サービス料込、食事別)
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投稿 「旧奈良監獄」を再生。日本初のヘリテージホテルが誕生 は Premium Japan に最初に表示されました。
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2026.6.26
セント レジス ホテル 大阪 伝統と究極のラグジュアリーに出会える、忘れがたき滞在
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世界のラグジュアリーホテルには、それぞれ物語がある。
なかでもセントレジスほど、その歴史と哲学が今日まで色褪せることなく受け継がれているブランドは多くないだろう。1904年、ニューヨーク五番街。アメリカ屈指の名門アスター家の当主、ジョン・ジェイコブ・アスター4世が創設したセントレジスは、「最高峰の邸宅に招かれたかのような体験」をコンセプトに誕生した。
以来120年以上にわたり、世界の王侯貴族や文化人、実業家たちを迎え続けてきたセントレジス。マリオット・インターナショナルの最高級ブランドとして世界各地に展開するなか、日本で唯一その名を冠するのが、大阪・御堂筋に佇む「セント レジス ホテル 大阪」である。
そして2025年には開業15周年という節目を迎えた当ホテルは、さらなる進化を遂げた。レセプションフロアやレストランを刷新し、伝統を受け継ぎながらも、より洗練されたラグジュアリー体験へと歩みを進めている。
大阪随一のメインストリートとして知られる御堂筋。その並木道に面したエントランスをくぐると、都市の喧騒は静かに遠ざかり、空気の質さえ変わったように感じられる。
ここには、単なる高級ホテルではなく、時間そのものを豊かにデザインするための美学が息づいている。
レセプションフロアのラウンジ
「大坂文化」を映し出す、静けさと華やぎの空間
セント レジス ホテル 大阪の魅力は、まず建築とインテリアにある。
館内デザインの着想源となったのは、豊臣秀吉の時代に花開いた「大坂文化」だ。商都としての繁栄がもたらした華やかさと、日本独自の侘び寂び。その二つの価値観が交差する美意識を、ホテル全体で表現している。
1階のエントランスホールでは、石材による西洋建築の重厚感と、日本建築を思わせる格子意匠が静かに共鳴する。月明かりを思わせる落ち着いた空間を抜け、12階のロビーへ上がると、そこには一転して陽光に満ちた開放的な世界が広がる。
2025年の開業15周年に合わせて改装されたレセプションフロアは、格間天井を彩るシャンデリアや新たな家具によって、より洗練された空間へと生まれ変わった。従来の「豪奢さと侘び寂びの共存」というコンセプトを継承しながら、モダンエレガンスを加えたデザインが印象的だ。
大きな窓の向こうには、地上約50メートルに位置するスカイガーデン。風が通り抜ける庭園を眺めていると、ここが大阪の中心地であることを忘れてしまいそうになる。美しい空間に在る、「静」と「動」、「和」と「洋」、「伝統」と「革新」といった対比が、独自の特別感を作り出していように感じた。
スカイガーデン
レセプション
レジデンスのように寛ぐ、160室の客室とスイート
セント レジス ホテル 大阪の客室は全160室。
大阪市内のラグジュアリーホテルのなかでも屈指の広さを誇り、どの客室にも邸宅のような落ち着きが漂う。
杉材の温もりを感じる壁面、京都産シルクを用いた意匠、そして水墨画を思わせるアートワーク。和の要素を随所に取り入れながらも、空間全体はあくまでモダンで洗練されている。
ベッドヘッドには桜や銀杏をモチーフとした川島織物のシルクが用いられ、日本ならではの繊細な美意識を感じさせる。
窓の向こうに広がる御堂筋の景観もまた、このホテルならではの魅力だ。季節ごとに表情を変える並木道と都市のスカイラインが、滞在に豊かな余韻を添えてくれる。
エグゼクティブスイート
デラックスツインルーム
究極のホスピタリティを象徴するバトラーサービス
セントレジスを語るうえで欠かせない存在が、ブランドの代名詞ともいえるバトラーサービスである。
20世紀初頭、セントレジスが世界で初めて導入したパーソナルサービスは、現在もすべての客室で提供されている。部屋の電話にあるバトラーボタンを押すだけで、さまざまなニーズに寄り添ってくれる。
荷解きや荷造り、衣類のプレス、レストラン予約、観光手配まで、そのサービスは多岐にわたる。もちろん到着前のリクエストにも対応してくれる。
ゲスト一人ひとりの好みや行動を理解し、言葉になる前のニーズを察すること。必要なときに自然に寄り添う絶妙な距離感にこそ、セントレジスが120年以上守り続けてきたホスピタリティの真価がある。
大阪で出会う、美食のデスティネーション
セント レジス ホテル 大阪は、美食を目的に訪れる価値のあるホテルでもある。
15周年を機に、館内のレストランも順次リニューアルを実施。食の体験価値をさらに高める新たなステージへと進化している。
2025年には、1階のフレンチレストランは全面改装によって、新たにブラッスリー「RÉGINE(レジーヌ)」が誕生した。監修を務めるのは、東京・六本木のミシュラン二つ星レストラン「Ryuzu」のオーナーシェフ、飯塚隆太氏。関西の旬食材を活かし、素材本来の魅力を引き出したシンプルかつ洗練されたフランス料理を提供している。
ブラッスリー「RÉGINE(レジーヌ)」
12階のイタリアンレストラン「ラ ベデュータ」も新たな魅力をまとい、シェフ・吉田道昭氏による季節感あふれる料理でゲストを迎える。
イタリアンレストラン「ラ ベデュータ」
さらに鉄板焼「和城」、セントレジスバー、ザ・セントレジス アフタヌーンティーなど、それぞれが個性を磨き上げながら、ホテル全体で美食のデスティネーションとしての価値を高めている。
鉄板焼「和城」
セントレジスバー
セントレジスだけの“リチュアル(儀式)”
ラグジュアリーとは、単なる豪華さではない。
そこにしかない体験や物語が、人の記憶に残る価値を生み出す。
セント レジス ホテル 大阪には、ブランドを象徴する数々のリチュアルが存在する。その一つが、毎夕行われるシャンパン・サーベラージュ。
刀を用いてシャンパンボトルを開栓する優雅な儀式は、夜の始まりを祝うセレモニーとして多くのゲストを魅了している。
また、セントレジスバーで味わえるシグネチャーカクテル「ショーグンマリー」や、創業者アスター家の社交文化を受け継ぐアフタヌーンティーも、このホテルならではの体験である。
さらに滞在を豊かにしてくれるのは、14階に位置する「イリディウム フィーチャリング ソティス」。フランスの名門スキンケアブランドソティスによるトリートメントを受けられるラグジュアリースパである。
自然光に満たされた静かな空間、水のせせらぎ、心地よいアロマ。都市の中心にありながら、まるでリゾートにいるかのような安らぎをもたらしてくれる。
世界には数多くのラグジュアリーホテルが存在する。しかし、本物のラグジュアリーとは豪華な設備や華やかな演出だけでは語れない。
受け継がれてきた歴史と哲学、人の手による温かなもてなし、そしてその土地の文化との融合。
セント レジス ホテル 大阪は、伝統を守りながら進化を続けることで、より豊かな滞在価値を創造している。セントレジスが120年以上にわたり磨き続けてきたラグジュアリーの本質は特別感ばかりではなく、本当の安らぎに触れる時間となるはずだ。
Text by Yuko Taniguchi
大阪府大阪市中央区本町3丁目6番12号
Text by Yuko Taniguchi
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日本のプレミアムなホテル
Features
避暑地・軽井沢で、眠りを整える3日間
2026.6.30
星のや軽井沢のスリープツーリズム「軽井沢 眠りの逗留 -夏-」
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星のや軽井沢では、2026年7月1日から8月31日まで、良質な眠りに着目した滞在プログラム「軽井沢 眠りの逗留 -夏-」を提供。避暑地ならではの冷涼な気候を活かし、心身を整えながら安眠へと導く3日間のプログラムだ。
世界保健機関(WHO)の調査によると、日本人の平均睡眠時間は先進国の中でも短く、特に夏の睡眠時間は年間でもっとも短くなる傾向があるという。そこで本プログラムでは、睡眠や覚醒のリズムを司る体内時計に着目。森林浴や温泉、専門スタッフによる枕の調整などを通じて、良質な眠りへと導く。
めざめの朝餉
涼風の夕餉
滞在中は、眠りのホルモンと呼ばれる「メラトニン」の材料となる「トリプトファン」が豊富な大豆製品を取り入れた朝食「めざめの朝餉」と、体内の熱を覚まし、心地よい眠りをサポートする夕食「涼風の夕餉」を用意。信州の恵みを味わいながら、体の内側から睡眠環境を整えていく。
日中は、体内時計を穏やかに整え、安眠へと繋げる「緑陰巡り」も実施。爽やかな風が吹き抜ける木陰で読書をしたり、清流沿いを散策したりと、思い思いに森林浴を楽しみながらくつろげる。また、爽やかな梅蜜を使った「梅あんみつ」も提供され、涼やかな午後のひとときを演出する。
宿泊者専用の温泉「メディテイションバス」
就寝前には、宿泊者専用の温泉「メディテイションバス」で浮力を利用した「深呼吸入浴法」を実践。さらに、専門スタッフが羊毛100%の「エルゴ枕」を一人一人の寝姿勢に合わせて調整。就寝着として用意されるセルフメディケーションウェア®「Resona Bio®」は持ち帰り可能で、自宅でも快適な眠りの環境を整えられるのがうれしい。
軽井沢の緑陰と涼風に包まれながら、心と体をゆっくりと休める3日間。暑さや忙しさで乱れがちな睡眠を見つめ直し、心身を整える、大人のためのウェルネスステイだ。
◆星のや軽井沢「軽井沢 眠りの逗留 -夏-」
【期間】2026年7月1日~8月31日(除外日あり)
【料金】1名 56,900円(税・サービス料込、宿泊料別)
【含まれるもの】枕の貸し出し・セルフメディケーションウェア®「Resona Bio®」持ち帰り可能・深呼吸入浴法レクチャー・めざめの朝餉・涼風の夕餉·緑陰巡り(冷茶・涼菓つき)
【定員】1日1組(2名まで)
【対象】星のや軽井沢宿泊者
【予約】公式サイトにて7日前まで受付
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旅館の矜持 THE RYOKAN COLLECTIONの世界
2026.6.19
歴史的文化建築と現代の快適さを追い求める「琴平花壇」の三好りつ子女将
敷地内で最も格式の高い離れ「長生殿」の縁側に座る三好りつ子女将。
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「ザ・リョカンコレクション」に加盟する旅館の女将や支配人を紹介する連載「旅館の矜持」。今回は香川県琴平町にある「琴平花壇」の三好りつ子女将を紹介する。
400年の歴史を有する旅館
香川県琴平町といえば、「こんぴらさん」の愛称で知られる神社・金刀比羅宮を擁する土地である。主祭神として祀られているのは、大物主神(おおものぬしのかみ)と崇徳天皇。琴平町は、江戸時代から連綿と続く‶こんぴら参り″とともにある町だ。
金刀比羅宮がある象頭山の麓に位置するのが「琴平花壇」である。
宿の3階のガーデンラウンジでは、眼下に琴平の街が広がり、遠方に雄大な讃岐富士(飯野山)を臨むことができる。
ガーデンラウンジから琴平の街並みを一望
三好女将に話を聞いた。
「旅館業の始まりは1627(寛永4)年と古いんです。金刀比羅宮の表参道沿いに旅籠屋の『備前屋』として創業しました。来年で400周年となります。創業から約280年後の1905年、16代目の三好源次郎が、日露戦争の戦勝記念として、『備前屋』の別邸の料理旅館として高台に建てたのが『琴平花壇』となります」
現在、敷地内には3つの客室棟と、当旅館の象徴とも呼ぶべき3つの離れである長生殿、泉亭、延寿閣の計6棟が立っている。とりわけこれらの離れは、多くの文人墨客が投宿したことで知られている。
中庭の全景。真ん中左が泉亭、右が延寿閣、<wbr />その奥に長生殿がある。
「延寿閣には文豪の森鴎外、泉亭には北原白秋、長生殿には高松宮殿下が宿泊されました。ほかにも、与謝野晶子・鉄幹夫妻、吉井勇、井伏鱒二らが宿泊なさっています。鴎外は陸軍の軍医総監をしていた時代のことですが、当館に三日間逗留されています。その時に詠んだ一首が、『松あおく もみじは赤に 琴平の 花壇に逢いし 人は忘れじ』です」
鴎外の小説『金毘羅』には、
<文学博士の小野翼君は、高松市で講演を済まして、一月十日に琴平まで来て、象頭山の入口にある琴平花壇に這入つた。>
と、冒頭で宿の描写が出てくる。
文化財的な価値のある3つの離れ
100年以上も前に建てられたこれらの離れの建築があまりにも素晴らしい。そして、三好源次郎が蒐集した美術品の数々がさらなる風格を添えている。
例えば長生殿の美術品だが……。
「三つの離れのうちでいちばん大きな長生殿は、茶室建築を取り入れた数寄屋造です。この離れだけは、源次郎が自身の出身地である多度津から移築したものなんです。入母屋造りの玄関を入ると、正面には琴塚英一のお軸、書院造りの客間の床の間には堀江頼直による『寒山拾得』の三副対、ほかにも多数の作品が飾られています」
「長生殿」の傘張り天井が残る浴室。
建築の細部も見事だ。
「浴室の天井は傘張り天井の様式ですが、空調の役割を果たす放射状になっています。漆塗りの床、お手洗いの天井は折り上げ格天井(ごうてんじょう)で、古い和式のトイレをあえてそのまま残しています。実際に使うシャワートイレは別室にあります。波打つガラス窓や照明も明治から大正にかけてのもので、いずれも今となっては稀少な設えです。こうした設えはとても風情があるのですが、壊れても直せないので、そこが悩ましいところでもあります」
こうした建築にはなかなかお目にかかれない。古材や旧設備に関しては、「残すもの」と「機能更新するもの」を選別していることがわかる。
「家屋の全体が歪んできて、ジャッキアップで歪みを補正したこともあるんですよ。言うならば、保存と改修のせめぎ合いです(苦笑)。とは言え、こうした建築は歴史的な文化財ですから、その価値はやはりこの宿の中核にあるものです。維持していくことの使命を感じています」
こうした古い日本建築を好むのは日本人ばかりかと思いきやさにあらず。
「欧米はもちろんですが、特にアジア圏の、台湾、香港、韓国の方々にも人気がございます。やはりインバウンド需要の増加は最も大きな変化です。従来は閑散期であった2月などでも、春節の時期を中心に高い稼働を維持できるようになってきています。また桜の時期である4月には海外顧客比率が4割に達しまして、年間を通じた稼働率の安定にとってインバウンドの影響を感じています。皆さん、インスタグラムなどをご覧になって、インターネットで直接にご予約いただくことが多いですね」
最も格式の高い離れ「長生殿」。数々の美術品が数寄屋造りの客室に風格を添える。
インターネット予約の普及は、新たなおもてなしの形をもたらしている。自室の露天風呂で温泉に浸かり、歴史ある庭園や琴平の町並みを眺めるひとときは、旅の大きな醍醐味だ。
「私どもの露天風呂付き客室13室は、一室一室が異なる個性を持っています。 最近は海外、特にアジア圏のお客様は非常に旅慣れていらっしゃって、事前にウェブサイトの写真を細部までチェックし、お好みの間取りを明確にイメージしてご予約くださいます。
だからこそ私どもも、ご期待を超える感動をお届けできるよう、事前のご要望を丁寧に汲み取り、最適なお部屋をご案内できるよう細心の配慮を重ねています」
臨床検査技師から旅館のお嫁に
琴平花壇は、1627年に表参道で創業した「備前屋」に端を発し、来年は400周年を迎える。女将がこの宿に来たのは結婚によってだった。
「私は生まれが北海道の帯広でして、地元の高校を卒業してから東京の医療系の専門学校で3年間学びました。卒業後はお茶の水の順天堂大学付属病院で臨床検査技師として、また、病理細胞検査士として勤務していました。細胞検査士とは、人体の細胞を顕微鏡で観察して悪性腫瘍かどうか確認していく仕事でした。
主人とは学生時代に知り合いまして、彼は旅館の長男でしたから、29歳で結婚してこちらに参りました。それから丸42年が経ちます。来た当初は学会に参加したり、また、県内の病院、検査センターからお誘いをいただいたりしましたが旅館との両立は難しく、旅館の仕事に専念することにしました」
旅館の仕事にはすんなり入り込めたのだろうか。
「旅館の仕事はやるつもりでお嫁に来ましたね。若かったし、真っ新(さら)でしたから、特に難しいとも思わずに飛び込んだ感じです。主人の両親は『備前屋』にいて、『琴平花壇』には主人の祖母がおりました。なので、女将の修行をやるというよりは裏方の事務の仕事をしていました。
旅館業のことが何も分からずにいましたので、お客様目線で旅館業を捉えられたのは良かったかもしれません。周囲をよく観察しながら、その都度、何が正解なのかを考えていきましたね。主人の祖母はもう高齢でしたし、私が裏方のせいもあって、あまり指導されるようなことはありませんでした。教えられたのは、『障子のサンを指で撫でて、ホコリのチェックをしなさい』と言われたことぐらいでしょうか(笑)」
「泉亭」の天蓋付きベッドの向こうで。窓外では庭の緑が映え、紅葉の季節は格段に美しいという。
歴史ある宿に訪れた、新たな転機
創業から長い歳月が流れる中、時代の変化に伴い難局に直面する時期もあった。
「地域に深く根ざしてきた琴平花壇だからこそ、伝統ある歴史をこれからも守り、未来へ繋いでいかなければならないという強い想いがございました。そうした中、ご縁に恵まれ、2007年にはホテルニューアワジグループの一員として、新たな歩みを始めることになりました。グループの木下社長は当時から本当に温かく伴走して支えてくださいました。何よりも『琴平花壇』という屋号をそのまま残してくださったことには感謝の念に堪えません。
これを契機に、それまでの歴史と伝統を何よりも大切に守りながら改装を行い、時代に求められる宿へと生まれ変わることとなりました。この新しい出発とあわせて、私は女将として本格的に旅館運営の表舞台に立つこととなりました」
2008年のグランドリニューアルでは何が変わったのか。
「私たちが大切にしてきた琴平花壇ならではの良さは残しながら、お客様が快適に過ごせるように新しく改装をいたしました。まず、宿の象徴でもある3棟の離れですが、その歴史ある建築と趣きはそのままに、今の時代に合う心地いいお部屋に生まれ変わっています。また、自慢の回遊式庭園を活かして客室を全面改装したほか、一部を日本庭園や琴平の町並み、そして遠くの阿讃山脈まで見渡せるゲストラウンジにいたしました。
温泉についても、琴平山の麓という立地を活かして、山の緑をすぐ近くに感じられる露天風呂を新しく作っています。ここから讃岐富士まで見渡せる素晴らしい景色を楽しんでいただいた後は、庭園にあるスパ棟で本格的なタイ古式マッサージやトリートメントをお受けいただけます。湯上がりの心地よさと極上のマッサージで心身共にリフレッシュし、旅の夜をゆっくり贅沢に楽しんでいただけたら嬉しいですね」
讃岐の旬が彩る前菜の一皿。これからはじまる美食への期待感が高まる。
食体験のアップデート
「ソフト面では、リニューアルを機にお料理が変わりました。それまでは宴席のように食べきれないほどの品数を最初にすべて並べるスタイルだったのですが、一番美味しい瞬間に召し上がっていただけるよう、温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たい状態で、厳選した品を一品ずつお出しする形に変えたのです。
主役となったのは、当時から『讃岐三畜』と呼ばれていた、讃岐平野で丹精に育てられる讃岐牛やコーチン、夢豚などですね。これらを軸に、自然豊かな瀬戸内海の新鮮な魚介や、地元の瑞々しいお野菜やお米など、地産の食材をふんだんに取り入れたコースをご用意しました。
それに伴ってお料理を丁寧にお客様へ説明するようになり、スタッフもおのずとサービスに熱心に取り組むようになりました。皆の意識が変わっていったことが何よりも大きな変化ですね」
その結果、顧客満足度も向上し、当然、インターネットでの口コミ評価も右肩上がりで、以前では難しかった若く意欲のある人材も集まるようになり、サービスの質は飛躍的に向上した。メインダイニング「けやき」での晩ご飯では、オリーブ牛を使った山菜鍋がとりわけ印象に残った。オリーブ牛はサシが少ないのに柔らかくてスッキリした味わいだ。肉がとても甘い。地元の讃岐米も甘味があって非常に美味しい。
「讃岐米というのはコシヒカリです。さらに山奥に入りますと、同じ讃岐米でももっと甘くなります。私どもは、山奥の米と平地の米をブレンドしてもらっています」
また関東の人間にとっては、いりこ出汁を使った赤出汁もじんわりと染みた。
格式高き「長生殿」の長い縁側にて。照明の一つ一つが古式ゆかしい。
地域連携で試みていることは……。
「当館の立地は、金刀比羅宮があってこそのものです。まさにそのお膝元です。
金刀比羅宮の大物主神は『海の守り神』として船会社関係者が毎年参拝に訪れますし、商売繁盛や万能の神として広く信仰を集めています。パワースポットとしても一般観光客にも人気が高いですね。やはり、785段の階段を登って御本宮まで行くのがいいです。上は空気が違いますね。
当館の裏道から山道を抜けますと、『四国こんぴら歌舞伎大芝居』が開催される旧金比羅大芝居金丸座まではダイレクトに行けます。この期間中は特に忙しくなります。ほかに当館の位置づけとしましては、ここを拠点にして、徳島県の祖谷(いや)渓谷や、瀬戸内国際芸術祭で賑わう直島や小豆島に向かうハブ地点としての役割も果たしています」
地域文化との連携はどうか。
「こんぴら観光まちづくり協会の一員として活動しています。
琴平町は江戸時代から盛んになったこんぴら参りと共に、地域の文化、商業、情報の中心として発展し、名所や旧跡、伝統芸能の歌舞伎、工芸、美術館、博物館などさまざまな文化、水辺などの自然環境にも恵まれています。このようなまち全体をミュージアムのように、文化、自然、食、歴史などの魅力を知り、楽しみ、親しんでいただくことを目的に活動しています。
旅館というものが『地域の文化の牽引役』を果たすという意味合いにおいては、当館と地域との連携はまだまだ不十分だと感じています。ちなみに、館内においては表参道にある伝統工芸の『一刀彫』の店が制作するオリジナルの達磨を館内に飾っておりますが。
今後はこんぴら観光まちづくり協会で発案している体験プログラムを実現させるように、会員として努力しながら、さらなる連携強化をしていければいいですね。旅館として地域に深く根差して、その土地の文化や魅力を発信する拠点としての役割をもっと果たしていければと考えております」
3階のガーデンラウンジにて。地元の一刀彫やガラス器も並ぶ。
三好りつ子(みよしりつこ)
北海道の帯広生まれ。地元の高校卒業後、東京の医療系専門学校で3年間学ぶ。順天堂大学付属病院で細胞診スクリーナーの臨床検査技師。「琴平花壇」の後継者と知り合い、29歳で結婚。以来、42年が経つ。本格的な女将業は2008年から。
構成/執筆:石橋俊澄
Toshizumi Ishibashi
「クレア・トラベラー」「クレア」の元編集長。現在、フリーのエディター兼ライターであり、Premium Japan編集部コントリビューティングエディターとして活動している。
photo by Toshiyuki Furuya
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世界が注目する日本の宿
2026.6.16
「ルレ・エ・シャトー」に加わった3つのデスティネーション
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世界65カ国以上に広がるホテル&レストラン協会「ルレ・エ・シャトー」。その厳しい審査基準をクリアし、新たに日本から3つの施設が名を連ねた。それぞれの個性を大切にしつつも、ルレ・エ・シャトーが誇るホスピタリティにおける価値観とビジョンを体現する3施設を紹介する。
北海道・函館「HOTEL 白林 HAKODATE」
「HOTEL 白林 HAKODATE」
「HOTEL 白林 HAKODATE」ウェルネススイートB
北海道の宿泊施設で初加盟したのが、函館港を見渡す幸坂に、100年以上も前に建てられた旧ロシア領事館を再生したスモール・ラグジュアリーホテル「HOTEL 白林 HAKODATE」。全6室オールスイートの館内には、北海道の山海の幸を味わえるダイニングやウェルネススペースも備えられ、函館港を望む景観とともに、静かなリトリートの時間を楽しめる。
静岡県・須走「強羅花壇 富士」
「強羅花壇 富士」
静岡県の富士山麓に位置し、39室のスイートと3棟の離れを備えるラグジュアリーリトリート「強羅花壇 富士」。こちらは、1948年創業の老舗高級旅館「強羅花壇」が培ってきたおもてなしの精神を継承しながら、富士山を正面に望むロケーションを最大限に生かした設計が特徴。懐石、割烹、鉄板焼き、鮨といった日本料理の魅力を堪能できるほか、富士山源泉の温泉も楽しめる。
大分県・由布院「ENOWA YUFUIN」
「ENOWA YUFUIN」ヒル・トップ・スカイ・パビリオン Room No.02
「ENOWA YUFUIN」インドアガーデン
由布岳を望む高台に佇む「ENOWA YUFUIN」は、自然・食・ウェルビーイングを軸にした滞在体験を提供するオーベルジュ。施設の中心となるレストラン「Jimgu」では、畑の土づくりや食材を育てることから始める“ファーム・ドリブン”をコンセプトに、野菜を主役とした料理を展開している。全室にプライベート温泉を備え、 由布院の自然と静寂に包まれながら心身を整える滞在が叶う。
函館、富士山、由布院──。それぞれの土地に根ざした自然や文化、食の魅力を大切にしながら、唯一無二の滞在体験を提供する3施設。世界が認めた日本のデスティネーションとして、今あらためて注目したい。
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Features
「星野リゾート トマム」雲海シーズン到来
2026.6.15
北海道の絶景を望む「雲海テラス」がオープン
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北海道の大自然が織りなす幻想的な雲海を望む「星野リゾート トマム」の展望施設「雲海テラス」が、今シーズンの営業を開始。新たに来場者参加型イベント「Cloud Wish」が始動するほか、オリジナル商品や朝ヨガ体験など、ますます充実したコンテンツを展開している。
クラウドプール
クラウドバー
「雲海テラス」は、片道約13分のゴンドラでアクセスできる展望施設。2021年にリニューアルしたメインデッキに加え、雲の上にいるような浮遊感を味わえる「クラウドプール」や、空中散歩気分を楽しめる「クラウドウォーク」、バーカウンターをイメージした「クラウドバー」など、個性豊かな9つの展望スポットを巡りながら、雲海や雄大な自然を堪能できる。
クラウドウィッシュ
2005年の開業以来、多くの人々を魅了してきた雲海テラスは、2026年夏に累計来場者数200万人を突破する見込み。これを記念して、来場者参加型イベント「Cloud Wish」がスタートした。願いを書いたカプセルを雲型のオブジェに加えていくことで、ひとつの“雲”を完成させる企画だ。
さらに今シーズンから、雲をモチーフにしたオリジナル商品「雲キャンディ」が新登場。「雲海テラス」では、絶景を眺めながら参加できる無料のヨガプログラムも実施されている。
クラウドラウンド
今季より混雑緩和を目的とした事前予約制も導入され、北海道の雄大な自然が織りなす絶景を、これまで以上にゆったりと満喫できそうだ。
◆「雲海テラス」
【期間】営業中~2026年10月13日(火)
【料金 】大人2,500円、7~11歳1,600円、愛犬500円(いずれも税込)
*リゾナーレトマム、トマム ザ・タワー宿泊客は無料
【時間】5:00~8:00(上りゴンドラ最終乗車)、9:00(下りゴンドラ最終乗車)
【対象】宿泊、日帰り客
*営業時間は時期により異なります。
*天候や気象条件により、ゴンドラが運休となることがあります。
*融雪の状況により、一部の展望スポットを利用できない場合があります。
*愛犬との乗車の際はバギーまたはクレートの利用をお願いしています。
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Features
京都「季の美ハウス」のポップアップバーが東京に初登場
2026.6.13
JWマリオット・ホテル東京にて10月下旬まで期間限定オープン
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京都産のジャパニーズクラフトジン「季の美」を味わいながら、ブランドホーム「季の美ハウス」の世界感を体験できるポップアップバー「季の美ルーム」が、高輪「JWマリオット・ホテル東京」の隠れ家的バー「4-0-3(フォー・オー・スリー)」にオープン。2026年10月下旬まで期間限定で展開中だ。
季の美は、京都産の柚子や玉露、山椒をはじめとする11種類のボタニカルを、それぞれの特性に応じて6つのエレメントに分類し、個別に蒸溜した後にブレンドして造られる、京都発のジャパニーズクラフトジン。
季のTEA マティーニ
期間中は、季の美の世界観が溢れる空間で、京都らしいボタニカルの味わいや季節感を活かした「季の美 京都ドライジン」「季のTEA 京都ドライジン」「季の美 勢 京都ドライジン」などを使った特別なカクテル数種類を、2ヶ月ごとにメニューを変えてラインナップする。
季の美 抹茶トニック
6月中は新茶の季節に合わせて、「季の美」のボタニカルの1つである”茶”をテーマにした3種のカクテルが登場。「季のTEA 京都ドライジン」と冷たい緑茶の香り溢れる「季のTEA マティーニ」、「季の美 京都ドライジン」に抹茶を合わせた香り高い「季の美 抹茶トニック」、「季の美 勢 京都ドライジン」に柚子の酸味とミルクのコクが調和した「季の美 勢 セイグローニ」 が楽しめる。
季の美 勢 セイグローニ
また、6月26日(金)には、季の美グローバルアンバサダーの佐久間“マーシー”雅志氏の限定セミナー&カクテルイベントも開催する。(セミナーは完全予約制)
あなたも大人の隠れ家で特別な一杯を楽しんでみてはいかが。
◆ポップアップバー「季の美ルーム」
【期間】2026年10月下旬まで
【場所】ポップアップバー「4-0-3」
東京都港区高輪2-21-2 JWマリオット・ホテル東京30階
【時間】17:00~23:00(L.O. 22:30)
※予約は下記、予約サイトを要確認
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JCCO
PREMIUM JAPAN AWARD
PREMIUM JAPAN AWARD 2026
2026.6.9
世界が注目する銘石「伊達冠石」を用いた「大蔵山スタジオ」の挑戦
「大蔵山スタジオ」を率いる山田能資(たかすけ)さんがデザインを手がけた、ローテーブル「KON PAC」。天板に用いられているのが「伊達冠石(だてかんむりいし)」。「大蔵山スタジオ」の活動を象徴するプロダクトのひとつである。
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「伊達冠石(だてかんむりいし)」。今、とある石が日本のみならず、欧米のアーティストやクリエーターの注目を集めている。この「伊達冠石」を100年以上前から、宮城県の最南端に位置する大蔵山を本拠地として採石してきた会社がある。現在の社名は「大蔵山スタジオ」。日本の風土が育んだ石の価値を世界へ発信する取り組みが高く評価され、「PREMIUM JAPAN AWARD 2026」を受賞した。柔らかな雨が新緑を優しく濡らす5月、単なる採石会社の域を超えた先鋭的な活動を親子2代にわたって続けている「大蔵山スタジオ」を訪れた。
目の前に広がる、不思議な景色。押し寄せるエネルギー
不思議な景色が目の前に広がっている。雨に濡れた緑の草原に、黒褐色の塊が無数に転がっている。鋭利な刃物で削いだかのような断面が、やはり雨に濡れ鈍く光っている。静かだ。しかし、個々の塊が発する圧倒的なまでの存在感と、ひとつとして同じ形のない造形美が、強大なエネルギーとなって押し寄せてくる。気圧(けお)され、言葉を失う。この塊は岩と言えばよいのだろうか、それとも石と呼ぶべきか。ただ立ちすくみ、そんな埒(らち)もないことを考えていた。
大蔵山の山腹に出現する、不思議な光景。黒褐色の塊はどれも「伊達冠石」。その数は無数だ。
ひとつとして同じ形のない「伊達冠石」。2000万年という途方もない時間をかけて地球がもたらした、唯一無二の造形美を宿す。
2000万年以上前の火山活動による地殻変動で形成
東北新幹線白石蔵王駅から車でおよそ20分。人家も疎らになった細い山道を上がると、この光景が出現する。地名は宮城県伊具郡丸森町、標高300mほどの山の名は大蔵山。山腹に転がる無数の石塊は、地質学的な分類では「安山岩」に属するが、ここ大蔵山で産出されるものに限り、「伊達冠石(だてかんむりいし)」と命名されている。名前には理由がある。世界でも唯一という、特異な性質を持っているからだ。「大蔵山スタジオ」を率いる山田能資(たかすけ)さんは、その特異さを次のように語る。
「2000万年以上前の火山活動による地殻変動で『伊達冠石』は形成されました。形成以来、鉄分を多く含んだ泥土に何百万年もの間埋まっていたため、土っぽく丸みを帯びた石や、焼物のような石など、多様な表情を持っています。ところが切削して磨き上げると、黒檀のような深い黒褐色の極めて滑らかな断面となります。また、鉄分を多く含んでいるので、年月を経るに従い、やがて味わい深い鉄錆色へと変化していきます。安山岩は地球上で最も多い岩石ですが、こうした特質をもっているのは、世界中でも大蔵山で採れる『伊達冠石』だけです」
「大蔵山を訪れたアーティストや音楽家の姿を幼いころから見てきました。それが大きな刺激を与えてくれたのだと思います」と、「大蔵山スタジオ」代表取締役の山田能資さん。
「山田採石計画株式会社」から「大蔵山スタジオ」へ
地表から10メートルほど掘り下げると姿を見せる石は、表面が黄色い泥のような土に覆われていたことから、地元では「泥かぶり」と呼ばれていた。その石を「伊達冠石」と命名したのは山田さんの父、山田政博さんだ。また、4代目として政博さんが営んでいた「山田採石計画株式会社」を「大蔵山スタジオ」へと名称変更したのが、5代目の能資さんである。能資さんによると、初代は明治期に兵庫から移り住み、仙台でのいくつかの橋脚工事に関わり、大蔵山で採掘を始めたのは晩年だったそうだ。当時、「伊達冠石」はその特質を見出されることもなく、土石の崩壊を防ぐ「土留め(どどめ)」用の建材等に用いられることが専らだった。
「祖父の代には、太平洋戦争で多くの方が亡くなったこともあり、墓石の需要が国中に広まりました。祖父は全国に何か所も採石場を抱えるだけでなく、海外からも積極的に石材を輸入し、原石販売のほか、自社加工した墓石を製造、販売していました。父が事業を引き継いだ1980年代になると、バブル景気も後押しし、彫刻や公共工事の依頼も増えたため、一時期はモニュメントだけを制作する会社として運営。しかし、景気の落ち込みと共に、モニュメントの制作依頼も減少したため、父は改めて墓石中心の業態に戻していました」
「山に命を還す」。4代目が抱いた信念。
1970年代になると、長年の採掘が続いた大蔵山の採石現場は、他の大半の採石場がそうであるように、山肌が削られ荒涼とした姿を曝け出していた。特異な性質を持つ石が採れるということを除けば、大蔵山は日本各地に点在する採石現場と変わりのない、殺伐とした様相を呈していたかもしれない。しかし、政博さんが抱いた信念がそれを変えた。
その信念とは「山に命を還す」。この信念に基づき、採掘が終わった場所に土を戻し植樹をすることで、大蔵山は豊かな緑に覆われた里山へと姿を変えていく。政博さんの信念を支えたのは、政博さん自身の気質に加え、1970年代初頭から「伊達冠石」の魅力に魅せられて大蔵山に足を運び、作品を制作したイサム・ノグチをはじめとする数多くのアーティストと山田家との交流によるところも大きかった。80年代、政博さんは大蔵山の文化的再生に多くの時間を費やした。「持続可能」「サステナブル」という言葉など、まだ誰も口にしていなかった頃のことだった。
1980年代後半、様々な作家が大蔵山に集い、「大蔵山ランドスケープキャンプ」が発足。旧採石場の再生と活用について連日議論が交わされた。こうした情熱的な活動の結果は現在、「石舞台」や「山堂サロン」として大蔵山の敷地に佇んでいる。
「およそ50ヘクタールくらい。東京ディズニーランドがすっぽり入るくらいの広さです」
車のハンドルを握り、大蔵山に設けられた山道を走らせながら、能資さんはこともなげに言う。しかも「父までの代で十分に掘り出しましたから、私はこれ以上採石するつもりはありません」とも。冒頭で紹介した景色は、先代までが掘り出した「伊達冠石」のストック兼ディスプレイの場だった。「転がっている」のではなく「転がしてある」といった方が正しいのかもしれない。
掘り出された「伊達冠石」が置かれている場所の近くに、「伊達冠石」がむき出しとなっている崖がある。幾筋にも入った亀裂。自然崩壊したのか、崖下に積み重なる大小さまざまな形状の瓦礫。黄土色から茶褐色へのグラデーション。「伊達冠石」が、何万年にもわたり地中でどのように眠っていたかがよくわかる。そしてこの崖も、圧倒的な存在感で迫ってくる。
冷却が進み、そのまま柱状となった岩盤。多種多様な形状に加え、海水が染み込み酸化。まるで焼物のような表情を持った石が多く産出する。
「伊達冠石」を媒介とした、広大な屋外ミュージアム
前述したように、「大蔵山スタジオ」と名称を変えたのは能資さんだ。今から7年前のことである。このネーミングは能資さんの現在の活動を端的に表している。なぜならば、緑に覆われた広大な大蔵山は、「伊達冠石」を媒介とした屋外ミュージアムでもあり、実験ラボのようでもあるからだ。そこには、ユニークな構造の本社社屋をはじめ、英国のストーンヘンジを思わせる、「石舞台」と名付けられた屋外ステージ、ラトビア共和国の自然思想と日本の五輪思想を合体させたモニュメントなど、「伊達冠石テーマパーク」と言っても過言でないほどの“施設”が点在する。その大半は、父である政博さんが作り上げたものだが、それらを拠点として、能資さんはさまざまな活動を試みている。
ドアハンドルや洗面台など「大蔵山スタジオ」のプロダクトのディスプレイも兼ねた本社社屋。柱のない斬新な構造の建物を手掛けたのは、宮城県在住の建築家、小田島正仁氏。
日本の石彫家3名に加え、ラトビア共和国やオーストリアの作家が共同で作り上げたモニュメント。ラトビアの自然崇拝と、「地・水・火・風・空」から万物が生じるという「五輪思想」を合体させた、「大蔵山スタジオ」のシンボル的な存在。
「石舞台」と名付けられた、英国のストーン・ヘンジを思わせるステージ。この場で、アーティストによるパフォーマンスが開催されたことも。
屹立する巨大な石柱。かつて人類が抱いていた原始の感情が蘇る
そのひとつが「山堂サロン」と称される建物だ。厚い土壁が囲う三角屋根の木造建築に一歩足を踏み入れる。目に飛び込んでくるのは、そそり立つ石の柱。これも「伊達冠石」であり、「柱状節理」と呼ばれる状態で掘り出された、極めて珍しい形状だそうだ。高さは4メートル以上。「屹立」という言葉がふさわしいこの「伊達冠石」を前に、誰もがひれ伏し、頭を垂れる。
「宗教というものが発生するそれ以前のはるか昔に、人類が抱いていたであろう、自然に対する崇拝と畏怖にも似た感覚。現在の人々が忘れてしまったこの感覚を呼び戻すことができる場所、『大蔵山スタジオ』をそんな場所にできたら」と思います。そう語る能資さんは、「山堂サロン」や「石舞台」などをアーティストに提供し、「GALLERY LOCI」としてライブパフォーマンスを実施してきた。また、「山堂サロン」や隣接して建つ「ゲストハウス」などを利用し、地元のシェフによる食イベントなどの構想もある。「伊達冠石」を随所に配した茶庭を持つ茶室も建設途中だ。
「自然に対する崇拝と畏怖を感じる場所であると同時に、この大蔵山からアートをキーワードにした文化を世界に発信していきたいと思います」
「山堂サロン」に足を踏み入れる。この巨大な石柱を目にした途端、畏怖感に貫かれ、思わず頭を垂れる。この「山堂サロン」の設計も、小田島正仁氏。
建設途中の茶庭。禅寺の枯山水の石庭にも似た趣。何年か後には、この庭の一画に茶室が誕生する。
大蔵山の一画には、工房も設けられている。人工ダイヤモンドを先端に付けたブレードが高速で回転し、「伊達冠石」を切断していく。工房で働くスタッフは7名。石を知り尽くした職人ばかりだ。
ロンドンの美術大学で学んだグラフィック
能資さん自身、アートの道を歩んできた。
「もともと絵画が好きで、大学時代は美術部に属していました。幸運にも個展まで開催する機会があり、その個展で私の作品を観た方が、イギリスかアメリカへ行った方がよい、とアドバイスしてくださったのです。それに勇気づけられ、卒業後はイギリスへ渡り、ロンドンの美術大学でグラフィックを学びました」
2008年に帰国後、5代目として家業を継いだ能資さんは社名を変えるとともに、大きな方向転換を試みた。「伊達冠石」の特質を設計事務所やプロダクトデザイナーに提案し、建材や作品素材として使用することを積極的に働きかかけたのである。
「父は大蔵山の再生に熱心でしたが、事業の中心はあくまでも墓石。それを方向転換したのですから、当初は売り上げも下がり苦労しました」
しかし、熱心な働きかけが功を奏し、次第に設計事務所からのオーダーが増えてきた。「伊達冠石」の複雑な表情が、ホテルやレストランなどの商業建築に際立った個性を発揮することに建築家たちが気が付きはじめたのだ。
また、信用を積み重ねたアーティストとの協業も増えていった。アーティストと関わる場合、能資さんが心がけていることがある。それは、単に素材として「伊達冠石」を提供するのではなく、作品がどのようなコンセプトを持ち、どのように扱われるかを、あらかじめ把握しておくということだ。そのため、協業する前段階で、表現の支柱となるコンセプトをしっかりと読み解き、「大蔵山スタジオ」が大切にしている物語と、作品のコンセプトが合致しているのかを注視する。
設計事務所の依頼のなかには、コンセプトから表現まで「大蔵山スタジオ」に一任するケースも多い。その場合はプランの早い段階からきちんと関わっていく。そのときは、プロジェクトの基本的な概念と方向性のみならず、周囲の環境、文化などもリサーチし、まずはコンセプトを立てる。そしてコンセプトから浮かびあがる造形を能資さんがスケッチし、自社工房にて「伊達冠石」を用いて造形を施す、というプロセスを辿る。また、現場での施工までをも一括で請け負う。
海外からモニュメントのオーダーを受け、能資さんが描いたデザインスケッチ。施主の大まかな意向だけをヒアリングし、実際の形状は山田さんが考案することも多い。英国で学んだ、コンセプトから造形を見出す思考が活かされている。
2023年、パリ16区に開業した「BLANC」。ミシュラン2つ星を有する佐藤伸一氏が率いるレストランの入り口に、井戸茶碗のような表情と、手磨きによる艶やかな表情が融合した「伊達冠石」のオブジェが設置された。
本社に展示された洗面台。ひとつひとつの石に潜む異なる表情の妙。ラグジュアリーホテルからのオーダーが多い。洗面台の上に掛かるのは、「伊達冠石」の表情を味わうウォールアート。
中央部分は栗材などを使い、上下に「伊達冠石」を用いたドアハンドルの数々。その重厚感が、エントランスを引き立てる。
香立てのほか、ランプシェード、小皿などの生活周りの小物も制作。また、原点ともいえる石塔事業も継続し、モダンなデザインの墓石なども手掛けている。
「伊達冠石」が内包する、「移ろいゆく美」
「大蔵山スタジオ」は、ドアハンドルや洗面台、バスタブ、テーブルなど、多様なプロダクトも手がけている。能資さんの美意識が息づくこれらの製品は、いまや世界的に注目を集め、海外での施工例も増えている。黒く艶を放つ鋭い断面と、黄土色から茶褐色へと移ろう複雑な色合いをたたえた表面。その取り合わせは、「伊達冠石」独特の造形美と相まって、きわめてモダンな印象を生む。
と同時に、茶の湯の「侘び寂び」にも通じる、日本ならではの美意識も確実に感じさせる。おそらくそれは、途方もない時間の流れの中で育まれた「伊達冠石」が、移ろいゆくものの美しさを宿しているからなのだろう。「伊達冠石」の経年変化を実感するのは、難しいかもしれない。しかし、石は悠久の時間のなかで確実に変化を遂げ、新たな美しさを浮かび上がらせてくる。それは、紛れもなく「移ろいゆく美」であり、日本人が大切にしてきた美意識そのものである。海外のアーティストが「伊達冠石」に関心を寄せるのも、この日本ならではの美を敏感に感じ取っているからに違いない。
柔らかな緑に包まれた大蔵山は、傾斜も比較的ゆるやかで、小学生の遠足にぴったりの丘陵公園のような趣がある。その地下10メートルに、世界に知られる銘石が眠っているとは、とても想像できない。親子2代が石に誠実に向き合い、時に対峙したことで、大きく発展し、今なお進化を続ける「大蔵山スタジオ」。東北の里山に、世界が熱い視線を注いでいる。
*「大蔵山スタジオ」の入場は、業務上の関係者のみ、予約の上での来山可となっている。
Photos by Kayo Takashima
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2026.6.2
伊豆・赤沢温泉「赤沢迎賓館」で味わう、静寂のウェルネス滞在
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伊豆高原の海沿い、約25万平米もの広大な敷地に広がる「プレジャーリゾート 伊豆赤沢温泉」。温泉、スパ、グランピング、アクティビティ施設など、多彩な滞在体験が揃うこのリゾートは、近年大規模なリニューアルを実施し、新たな“滞在型リゾート”として進化を遂げている。
2026年4月には、関東最大級となるグランピング施設「GRAX EARTH FIELD(グラックス アースフィールド)」と、全天候型アミューズメント施設「PLEASURE ARENA(プレジャーアリーナ)」が新たに開業。大人が静かに過ごすウェルネス滞在から、家族で楽しむアクティビティ滞在まで、多様な過ごし方ができる大型複合リゾートとして注目を集めている。
運営するのは、料亭や「つるとんたん」などでも知られるカトープレジャーグループ。京都・るり渓温泉や長崎「i+Land nagasaki」など、全国でレジャー&リゾート事業を展開する同グループならではの、“遊び”と“癒し”を融合した世界観がここにも息づいている。
全天候型アミューズメント施設「PLEASURE ARENA(プレジャーアリーナ)」のネット遊具。
最も静かで上質な時間が流れている滞在施設が「赤沢迎賓館」
2009年に開業した赤沢迎賓館は、2025年にリニューアルを実施。美しい数寄屋づくりの建築はそのままに、より快適な滞在へと誘う宿へとアップグレードした
赤沢迎賓館の最大の特徴は、約3,500坪の敷地に対して、客室数を15室に限定していることだ。
近年のラグジュアリーホテルが大型化へ向かう中で、迎賓館はむしろ逆方向へ振り切っている。稼働率を最大化するのではなく、“静けさ”そのものを価値化しているのである。
美しい日本の数寄屋造りの建物に広大な日本庭園にはまず圧倒され、ロビーに入れば、漆や西陣織を用いた意匠が配された其処ここに配され、日本の伝統文化を感じられる心地よさに包まれる。建物の中心には中庭があり、それを囲むようにある廊下を進むことで、自然と季節の移ろいを感じることができるのだ。そして館内では、人と人が過剰に交差しないように緩やかに施設が分散されており、滞在中に他の宿泊客と顔を合わせる機会は極端に少ないのだ。
客室はスタンダードタイプでも約70㎡。全室に海洋深層水を使った露天風呂が備わり、「離れ 特別室」にはサウナも設置されている。
赤沢プレジャーエリアの中でも、迎賓館は特に“和の静けさ”が際立つ場所だ。館内には余白が多く、時間がゆっくり流れている。読書をしたり、庭を眺めたり、湯に浸かったり——何かを“する”というより、“整う”ための場所として存在している。
室内から美しい庭園へと広がっていく、「露天風呂付き 和室」。
「赤沢迎賓館」の大浴場。
海洋深層水が導く、心と身体のウェルネス
プレジャーリゾート伊豆赤沢温泉の魅力を語る上で欠かせないのが、“海洋深層水”を活かしたウェルネス体験だ。
敷地内には海洋深層水の専用工場があり、水深約800メートルの深海から汲み上げた海洋深層水を、館内のさまざまなシーンで使用している。
太陽光の届かない深海で長い年月をかけて育まれた海洋深層水は、ミネラルバランスに優れ、肌あたりがやわらかいのが特徴。身体を芯から温め、保湿効果やリラックス効果も期待されている。
客室露天風呂や大浴場、料理、飲料水など、あらゆるシーンで海洋深層水の恵みを体験できるのは赤沢迎賓館のみだ。
客室風呂には5%、大浴場には3%という異なる濃度で海洋深層水を使用しており、それぞれ異なる入浴感を楽しめるのも特徴だ。
施設内には海洋深層水のミネラルウォーターが用意されている。
飲む、食べる、浸かるというすべての体験を海洋深層水でつなぐことで、滞在そのものをウェルネスとして設計している。
より開放感のある「離れ 特別室」。
地元食材を活かした、身体に寄り添う料理
食事もまた、この宿の大きな魅力のひとつだ。
ダイニングは基本的に全室個室仕様。周囲を気にせず、静かな時間の中で中庭を眺めながら料理を味わうことができる。
こちらの料理は伊豆近海の魚介や地元野菜などを中心として、派手さよりも素材本来の味わいを大切にした、大変優しい味わいである。日本料理では、料理人の方々の手仕事の丁寧さが味を作り上げていくものだが、こちらの料理はまさにその極みと言える。夕食はもちろん、朝食にもその心配りが感じることができる。まさに大満足な料理と言える。
中庭に面したレストランは、全て個室になっている。
旬の味わいが美しく盛り詰められた、先付。
ゆっくりと身体を目覚めさせてくれるような、朝食。
滞在を豊かにする「赤沢スパ」と「DEEP SEA LOUNGE(ディープシーラウンジ)」
迎賓館での滞在をさらに豊かにしてくれるのが、隣接する「海洋深層水 赤沢スパ」だ。海のミネラルが豊富な海洋深層水を使った露天風呂、内湯、寝湯、ジャグジー、ミストサウナ、ドライサウナ、水風呂,プライベートサウナなど、多彩な温浴施設が揃っている。
太古の水である海洋深層水は細胞に働きかけ、美肌とむくみ改善へと導いてくれる。海洋療法で心と身体を整えることに特化した施設になっている。さらにトリートメントやリラクゼーションメニューも充実しており、迎賓館の“静の滞在”を、より深く身体で感じるためのウェルネス空間として機能している。
全て水着を着用する必要があるが、施設でレンタルすることができるので安心。
赤沢スパの外観。
海洋深層水のスチームを浴びることができる「タラソハマム」。
タラソプールではゆっくりと歩いている運動をしている姿も多く見られる。
また、その奥にある施設「DEEP SEA LOUNGE(ディープシーラウンジ)」は、大人のための遊び場のような存在だ。
館内にはビリヤードなどが用意され、フリードリンクやアルコールも楽しめる。温浴後にゆっくりお酒を飲みながら過ごしたり、仲間同士で語り合ったりと、時間を忘れてくつろげる空間となっている。
さらに、地元の人々にも親しまれているのは「赤沢ボウル」。地域の日常と観光が自然に混ざり合っているのも、このリゾートならではの魅力だ。
「DEEP SEA LOUNGE」はチェックイン前後も利用可能。
三世代で楽しめる、広大なプレジャーリゾート
広大なプレジャーリゾート伊豆赤沢温泉についても紹介しておこう。ここは大きく4つのエリアに分けて構成されている。
「赤沢迎賓館」、「海洋深層水 赤沢スパ」、大人向けラウンジ「DEEP SEA LOUNGE」、そして地元の人々でも賑わう「赤沢ボウル」などが集まっている「DEEP C AREA(ディープシーエリア)」。
二つ目は、2026年に開業した全天候型アミューズメント施設「プレジャーアリーナ」を中心としたエリアで、巨大ボールプールやエアアスレチックなどを備え、子どもから大人まで身体を動かして楽しめる「LEISURE AREA(レジャー エリア)」。
子供たちが夢中になって遊ぶ、「エアアスレチック」。全長約50mの周遊アスレチックには約8種類の仕掛けがある。
三つ目は、グランピング施設「GRAX EARTH FIELD(グラックス アースフィールド)」の他、GRAX宿泊施設者限定で利用ができる「GRAX LOUNGE(グラックス ラウンジ)」「GRAX CENTER(グラックス センター)、さらにはリーズナブルな宿泊施設「RED28 HOTEL(レッド28 ホテル)」のある「GRAX AREA(グラックスエリア)」。
各棟にはシャワーブースやダイニングスペースがあり、1棟につき1台のカートも設置されている。
そして四つ目が、「赤沢温泉ホテル」や「日帰り温泉館」がある「ONSEN AREA(温泉エリア)」。日帰り温泉は絶景温泉として高い評価を得ていると聞くが、施設内の広い休憩エリアもまた魅力的である。たくさんある個室ブースは、一日のんびり過ごしたくなる空間である。
海を見渡す「赤沢温泉ホテル」。
日帰り温泉の露天風呂。
日帰り温泉の「海のねころびラウンジ」。
広大な敷地内はカートや巡回バスで移動できるため、各エリアを散策感覚で回遊できるのも魅力。それぞれが自分に合った過ごし方を選びながら、一つのリゾート全体を自由に楽しめる構成になっている。
たとえば、祖父母は迎賓館で静かに過ごし、子ども世帯はグランピングに宿泊。日中はラウンジやプレジャーアリーナで合流するといった、三世代での滞在も自然に成立する。
宿泊スタイルが異なっていても、一つのリゾートの中でそれぞれが心地よく過ごせる。その自由度の高さも、この場所の大きな魅力となっている。
“楽しむ”“安らぐ”そんな一見相反する滞在がひと所で体験できるのが「プレジャーリゾート 伊豆赤沢温泉」の魅力である。
中でも、赤沢迎賓館は、“大人のための静かな贅沢”を体感できる特別な空間。
伊豆という地に誕生した新しいリゾートは、一度は訪れる価値がある。
静岡県伊東市赤沢字浮山163-1
Text by Yuko Taniguchi
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日本のプレミアムなホテル
Features
「星のや富士」初夏の森を満喫する、特別なグランピング体験
2026.6.5
緑輝く森で、木漏れ日や涼風を感じる滞在を
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河口湖を望むグランピングリゾート「星のや富士」が、2026年7月31日(金)までの期間限定プラン「初夏の森グランピング滞在」を提供。生命力あふれる森を舞台に、スイーツやビアタイム、散策など、自然の心地よさを味わうプログラムが用意される。
標高840~940mの丘陵地に位置する「星のや富士」では、初夏になると針葉樹の深い緑と広葉樹の若葉や新芽が入り混じり、美しい緑のグラデーションが広がる。標高の高さゆえ朝晩には爽やかな風が吹き抜け、ゆったりとした時間を過ごすのに最適な季節を迎える。
多種多様なフルーツスイーツを味わえる「森のスイーツフェスタ」
「初夏の森グランピング滞在」で楽しめるのが、木漏れ日が揺れるクラウドテラスでスイーツとドリンクを味わう「森のスイーツフェスタ」。江戸時代から伝わる山梨の果物「甲州八珍果」を用いた8種の小菓子を、すっきりとした水出しアイスティーとともに堪能できる。
「初夏の森 ディスカバーウォーク」は9:30集合、9:50分集合の2回開催
朝には、グランピングマスターとともに散策路を歩く「初夏の森 ディスカバーウォーク」を実施。朝露をたたえた若葉やリスの痕跡、ハルゼミの鳴き声など、初夏の森で小さな発見を楽しみながら、心地よく体を動かせる。
17:30〜19:00に開催される「夕涼みビアデッキ」
夕暮れ時には、クラウドテラスに「夕涼みビアデッキ」が登場。完熟桃に辛口生姜を合わせたビアカクテル「桃ジンジャーシロップ」を片手に、リラックスチェアに身を委ねる時間は格別だ。ノンアルコールカクテルも用意されているので、誰でも気軽に楽しめる。
「森の珈琲店」では、期間限定でピザトーストやカカオボウル(各1,452円 税・サービス料込)も楽しめる
※「森の絵葉書づくり」イメージ
さらに、焚き火で淹れた深煎り珈琲とともに朝食を楽しむ「森の珈琲店」や、自然の移ろいを絵や言葉で表現する「森の絵葉書づくり」など、自然と向き合う体験も充実。
木漏れ日、涼風、果実の恵み、そして森の静けさ。初夏だけの豊かな自然に包まれながら、日常を離れるひとときを過ごしてみてはいかがだろうか。
◆星のや富士「初夏の森グランピング滞在」
【期間】開催中〜2026年7月31日(金)
【対象】宿泊者
※天候や仕入れ状況により、提供内容や食材が一部変更になる場合があります 。
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「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」クラブフロア特典を拡充
2026.6.2
“日本を旅する”朝食で、より豊かな滞在を
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東京・紀尾井町のラグジュアリーホテル「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」が、スイート、グランドデラックス、クラブフロア宿泊者向けの特典をアップグレード。より上質で心満たされる滞在体験を提案する。
新たに加わるのは、“日本を旅する”をテーマにした特別な朝食と、専用ウェルカムアメニティ。
朝食の会場は、窓一面に東京の街並みが広がる35階の「WASHOKU 蒼天 SOUTEN」。
※写真はイメージです。
※写真はイメージです。
日本列島10エリアから選りすぐった郷土料理に加え、手巻き寿司を楽しめる和朝食、さらに日本各地の厳選素材を取り入れた洋朝食が並び、絶景を眺めながら好きなものを堪能できる。
ウェルカムアメニティ イメージ
また、新たに用意されるウェルカムアメニティに加え、SPA & FITNESS KIOIのプール・フィットネスジムのほか、温浴施設も無料で利用可能。シューシャインサービスや専用ミーティングルーム利用などのサービスも引き続き提供される。
クラブラウンジ イメージ
近年、ホテルを旅の目的地として楽しむ滞在スタイルが広がるなか、日本各地を巡るような食体験や、絶景に身を委ねながら疲れを癒せるSPA体験など、滞在を豊かに彩るプログラムを用意。東京の空を望む特別な空間で、より優雅な時間を過ごしてみてはいかがだろうか。
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旅館の矜持 THE RYOKAN COLLECTIONの世界
2026.5.27
ホテルの稼働によって里海と里山の再生させる 「COVA KAKUDA」覚田譲治社長が描く壮大な未来図
入り江のロケーションは唯一無二。レストラン棟にかかる桟橋に立つ覚田譲治社長。
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「ザ・リョカンコレクション」に加盟する旅館の女将や支配人を紹介する連載「旅館の矜持」。今回は三重県の伊勢志摩に位置する「COVA KAKUDA(コーバ カクダ)」の覚田譲治社長を紹介する。
自然と一体化できる唯一無二のホテル
三重県・伊勢志摩国立公園、英虞湾の静かな静かな一つの入り江の畔(ほとり)に、そのホテル「COVA KAKUDA」はある。近鉄賢島駅からは車で30分ほどの距離である。開業して今年の6月で3周年を迎える。4万平米という広大な敷地の中に、10棟を超えない建物が佇んでいる。
レセプション棟、レストラン棟、サウナ棟、そしてゲストルームであるヴィラが4棟。北西風が強くなる冬季には、波のしぶきがレストラン棟の大きな窓を叩く。いちばん低位置にあるヴィラは、デッキテラスに出れば水面に手が届きそうなほど海に近い。 海は平水面なので、じつに穏やかだ。
レストラン棟を中心にして、目の前は静寂な入り江で、その両側には樹木が生い茂る小山が迫っている。ソファに腰かけて入り江を眺めていると、時折、小船が遠くを通り過ぎていく。時が経つのを忘れる。
これほど自然と一体化できて、心が和むロケーションがあるだろうか。至高の贅沢――これこそが真の意味でのラグジュアリーというものなのだろう。里海と里山を眼前と両脇に抱えたホテルは、まさに唯一無二と言える。
「COVA KAKUDA」オーナーの覚田譲治・代表取締役社長に話を聞いた。
海に最も近いヴィラのデッキテラス。海面には手が届きそうだ。
里海と里山がクロスする絶好のロケーション
ホテル名「COVA KAKUDA(コーバ カクダ)」は、何語なのか? その由来は?
「もともとの家業は真珠養殖と真珠の加工でして、私はその三代目となります。英虞湾は真珠養殖の発祥の地で、その全盛期は1950~60年代でした。現在のホテルが立つ場所に、真珠養殖場の陸上施設が点在していました。工場のことを昔は『コーバ』と呼んでいましたよね。ホテル名の『COVA』とはそのコーバのことです。『KAKUDA』はこの宿を経営する覚田真珠株式会社の覚田です」
覚田真珠は真珠業界では老舗企業の一つとして知られる。
「最盛期には120名ほどの従業員がこの工場で働いていました。1970年までは工場として稼働していたのですが、養殖業者が真珠をたくさん作りすぎたために価値が暴落することなどがあって、三重県内での養殖業者の減少とともに、その後はまったく使われなくなったのです。そんな中で、親たちと週末にそこに泊まったり、私の学生時代には部活の夏のトレーニングの場所としてそこを使ったりしていました。
それに、私の祖母は海女だったんです。子どもの頃は、サザエやアワビを一緒に獲ったりしましたし、5月から夏の季節にはキスがよく釣れるんです。それを母親が天ぷらにしてくれたりしまして、この界隈の海の面白さはよく理解していたんですね。
ですから、お客さんが来た時には、こういう遊びをすると楽しいし、こんな風にもてなしたら面白いだろうなということはアイデアとして沢山蓄積されていました。そんな妄想をたくましくしていたのが、ちょうど今から10年前の頃です。そしてコロナの頃には国から事業再構築補助金が出ることになって、それを一部に使って自分の資金も出しながら、妄想が実際の形になっていきました」
自然と一体化するような感覚
10年前とは2016年にG7サミットが伊勢志摩で開催された年だ。
「あの時、首脳のみなさんのスーツに着けていただく真珠の『ラペルピン』を我々で作りました。使用する真珠は、美しいものを集めてコンペをして選びました。その時よくよく考えたのは、このラペルピンを通じて私たちは何を伝えたいのだろうということです。真珠が美しいという要素だけではなくて、その真珠が生み出される背後にある‶里海の営み″を伝えることこそが大事なのではないかと思い至ったのです。
つまり、人が自然に働きかけるからこそ、自然が豊かになっていく営みがあるということです。それをお伝えするには、都会からこの土地に来てもらったとしても、日帰りではとても伝え切れません。やはり宿泊機能がないとダメだと痛感しました。そこで、有休不動産があり、使っていない建物がたくさんあるのなら、それをリノベーションして宿泊施設にすればいいという結論に至りました」
工場をリノベーションした室内、基調となるアースカラーが目に優しい。
元は工場だった建物は、骨組みや梁はそのままだ。
「自然にできる限り負荷をかけないようにして、リノベーションを施しました」
改装された室内は、尾鷲ヒノキや白壁といった自然な色合いを持ち、実にコージーだ。しかも、家具や一つ一つの小物にいたるまで実に趣味が良い。ゆえに、ゲストルームやダイニングにいても、この土地の空気に体がなじんでいく。周囲の自然と一体化するような感覚におちいるのである。
ヒノキや白壁を基調にしたゲストルームの居心地の良さは抜群だ。
ホテルとして地域にどんな貢献ができるか
覚田氏が考えるのは、自社の経済活動だけではない。
「私は車で50分ほど離れた伊勢市内に住んでいるのですが、半島の先である奥志摩に来るたびに、この土地がどんどん寂れていく現実を目にするわけです。都会の人がここに来て働きたいと思うような仕事があれば、限界集落化を遅らせることもできるのではないか、そう考えました。
さらに真珠の養殖業もそうですが、海苔や魚をなりわいにしている漁業従事者に、ここで観光業を営むことによって少しでも貢献できるのではないかとも考えました。この場所でホテルをやることに、二重にも三重にも意味を見出したことが、ちょっと難しそうだけれども、COVA KAKUDAをやってみようと思った理由ですね」
意味はそれだけではない。
「里山」はよく耳にする言葉だが、ここには「里海」もある。真珠をはじめ、豊かな恵みをもたらすのは確かに里海だ。問題はこの里海が危機に瀕していることにある。
「リアス式海岸は海底から隆起して出来上がった台地ですから、山の尾根がぜんぶ平べったい畑です。昔はそこで農業を営んでいたのです。肥溜めを作って農業をしていた。雨が降れば、その栄養素は海に流れ込む。すると、豊かな海が出来て、海藻が育ち、魚は群れ、緋扇貝(ひおうぎがい)や牡蠣も育ち、真珠のアコヤ貝も育ちました。
海苔や真珠養殖や食用の貝類養殖に携わる漁民が、貝や用具に付着する汚れを掃除して出たカス、それと収穫したもののうちで食べられない部分を、落ち葉に混ぜて土に返す――。そうした大きな循環が伊勢志摩にはもともとありました。 ところが、過疎化が進み、農業従事者がいなくなると、海は一気に豐じゃなくなり、海藻は減っていき、魚は減り、貝も以前のようには育たない海になってしまったのです」
では、どうすればいいのか。
「豊かな海を取り戻すしかない。いわば海の再生です。例えば、COVA KAKUDAのある場所は、入り江なので陸の影響を非常に受けやすい。ならば、陸側に手を加えればいい。 森に手を入れて、木漏れ日が出来て風通しを良くしてやると腐葉土が育つ。漁業で出たものをコンポストにして土に返す。
さらには農業をやっていけば栄養素が海に流れ込む。海水温度の上昇問題を別にすれば、1950年頃の海を再生させることもそう難しくないのではないか。 里海と里山がちょうどクロスする場所がCOVA KAKUDAなのです。つまり、そこで人間の営みをすることで、それを自然に返すことが出来る。それがCOVA KAKUDAの底に流れる基本的な考えです」
覚田氏が考えたのは、ホテルを作ることによって、里海と里山を回復させるという、この日本ではほぼ類例がなく、途轍もなく壮大な試みなのである。
農園では、野菜、オリーブ、ハーブ等を栽培している。放し飼いの烏骨鶏や養蜂所まである。
多彩なアクティビティ
まず、里山での営み。
山側では農園を作り、野菜畑、オリーブ園、ハーブ園、椎茸園があり、烏骨鶏と青い卵を産むアロウカナの2種を飼っている。おまけに養蜂まで始めた。
「海沿いには、ウバメガシという備長炭の原料になる樹木が群生します。備長炭は紀州が本場なのでしょうが、伊勢志摩にも多いのです。炭の職人さんに山に入ってもらって伐採してもらう。炭には使わない太い幹は、2年間天日で干すと非常にいい状態の薪になります。この薪は暖炉やサウナに使うのですが、とてもいい香りがします。
飛び込み専用の桟橋も作っていますので、この桟橋でゆったりと整いを楽しむ方も多いです。日本のゲストもよく入水されています。料理には伊勢志摩備長炭を使いますから、ローカルウッドでローカルフードを焼いています」
山の恵みと海の恵みを存分に活用できる理想郷と言える。では、里海の営みではどんなことが可能なのか。
「ひと言で言うならば、人とともにある海を体感してもらうことです。そこで働く人々のなりわいに触れてもらいたいのです。 例えば冬ですと、『緋扇貝(ひおうぎがい)』を養殖しているところに七輪持参で出かけて行って、ちょっと焼いて食べてみるとか、イセエビ漁の刺し網にかかった伊勢海老を網から外す体験をしてもらったりします。
トヨタで車を作っていたのにこの海に惹かれて、真珠の養殖を修業してくれている若者がいます。5月ぐらいからはアコヤ貝に真珠の元となる核を挿れる挿核作業が始まるので、それも一緒に体験してもらうとかですね。
一番人気は近くの漁港にある魚市場の見学です。だいたい朝の7時過ぎに漁船が戻ってきますから、魚を陸揚げしてセリにかけるところを見物します。一日の制限は300キロまでですが、マグロもよく揚がります。そこでピックアップした魚や貝や伊勢海老を夜のディナーに出したりしています。
海で生きる人たちがどういう風に海に向き合っているのかを体感していただく。そこがすごく楽しい、話している方言は通じないかもしれませんけどね。自分の旅行体験もそうですが、何かそこにしかないものに触れることに一番意味があると思うのです」
里山の中腹にある東屋で中国茶を嗜む覚田社長。眼下に入り江を望む。
他にも余りにも多彩なアクティビティがある。
里山の植生探索と薪割り&火起こし、草木染・アロマ抽出、東屋で楽しむ抹茶、リアスカヤック&カヤックフィッシング、アイランドシュノーケリング、サーフィン、フィッシング(外洋チャーターもあり)、サンセットクルーズ、夜のクルーズ、焚火と星空観察、養蜂体験……。
なぜに、それほど多岐にわたるのか?
「宿に着いて何もせずに完全に脱力して帰途につくーーそうして活力をもらうリバイタライズ(revitalize)のやり方もあるでしょう。旅行はこうありたいと私が考えるところなのですが、人間は振り子のようなものじゃないかと思うのです。ある程度、体に負荷をかけて、そこから解放されるときに究極のリラックスがある、そんな気がするのです。
アクティビティをある程度楽しんで、ある程度の刺激を受けることによって、むしろ深いリラックスにつながっていくんじゃないか。 ですから、私もスタッフも銘々が色んなメニューを発案します。私もお茶を点てますし、スタッフもそれぞれが得意分野を担当しています」
サスティナビリティの先のリジェネレイティブ
覚田氏が思い描くのは壮大な未来図だ。
「さらに言えば、自然の中に人がいてもいいし、むしろ、人がいることで自然がより豊かになるわけです。そうした大きなサイクル、サーキュラエコノミーと言い換えても良いのですが、それを感じてもらえたらゲストも少しホッとすることが出来るのではないでしょうか。たくさん感じるものがあったら、その後、精神的にフワッとできる時間がすごく充実すると思うのです」
要は、ここで実践されているのは、サスティナビリティ(持続可能性)の次の段階の話だ。サスティナブルだけでは、海や山にとっては全く足りないのである。
「サスティナブルって、その循環の機能が一つでも抜けちゃうと、もう回らなくなってしまいます。そうではなくて、ずっと回り続けて、さらにそれが増幅して良くなっていくイメージです。つまり、継続させてさらに良くして行くリジェネレイティブ(regenerative)を実践していくのが私どもの施設なんですね」
だからこの施設に華美なものはどこにもない。その代わりに、肌で自然を感じる本物のラグジュアリーなリトリートがある。感度の高い国内外のリピーターが増え続けているのも、そのためだろう。
海に面した部屋では、海に網を仕掛けて魚を獲る。すぐに食べたり、2時間ほど干してお土産にも。
別の観点からも自然に対する取り組みをしている。
「真珠養殖の過程で出る廃棄物があるのです。例えば、発砲スチロールやロープです。それらが廃業してしまった人で片付けられないようなケースで大量に出てきます。産業として出してしまったゴミならば、自分たちの業界の責任として片付けることをやっています。
日本真珠輸出組合という全国組織がありまして、私はそこの理事長なのですが、日本の真珠をどうプロモートするかを常に考えています。その観点からしてみても、そうした清掃活動は、真珠の美しさを世界中にアピールするのと同じくらい大事なことだと思っているのです」
最終的な目標はエリア全体の浮上
ダイニングにも触れておきたい。
「シェフの松本は旅館の副料理長をしていました。いちばん最初は彼の会席料理をあまりエキサイティングとは思わなかったので、私の好きなレストランにいろいろ連れていきました。その上で言ったのは、『国境を越えてください』『日本の心を持って国境を越えましょう。
いろんな料理方法、食材を自由自在に使っていきましょう』ということでした。 松本シェフが凄いと思う点は、自分の考えを持ちながら、人の話が聞けるところです。今では私が口を差し挟めないぐらいの料理になっています」
言葉にすれば和食がベースの「イノベーティブ・フュージョン」となる。季節で内容は変わるが、地元の名産である、伊勢海老、アコヤ貝、あおさのり、ワタリガニ、シマアジ、松阪牛などが供される。 ディナーのコースは約11品。伊勢志摩の食材を中心にして、和洋中の技術を駆使しながらも、食材の良さを引き出す料理はどれもこれも素晴らしいものだった。
バタークレープ生地でできた巾着袋の中には、スモークしたアコヤ貝の貝柱、クリームとキャビア、自家製の柚子麹。一品目から胃袋を掴まれる。
さて、最後になるが、覚田氏の視線の先にあるのは、COVA KAKUDAの成功が土地に呼び込むものだ。
「COVAでやっていることで、里海と里山が豊かになり、どうもあそこでやっていることがいい状態を生むらしいという風になれば、伊勢志摩の他の地域にも広がっていく可能性が大いにあると思います。 湾内をクルーズするとよくわかりますが、使っていない養殖小屋がたくさんあるのです。
COVAがうまく行ったら、そういう小屋をリノベーションしてくれる人も増えてくれるんじゃないか。それこそ船でしかアクセスできないような宿泊施設が、あちこちにあるといった具合に有機的に広がっていったら、『このエリア、面白いよな』と思われるようになりますよね。そうなることを期待しているのです」
賢島駅裏の港からホテルへ25分、手前に見えるクルーズ船を使ってアクセスしたら最高に気分はアガる(有料)。湾内へと向かうゲストが操るカヤックが見える。
覚田譲治 1995年、国際基督教大学教養学部社会科学科卒。同年、株式会社ミキモト入社。97年、覚田真珠株式会社に入社し、2014年、社長就任。その他、日本真珠振興会・真珠検定委員会委員長となり真珠検定を軌道に乗せる。日本真珠振興会・研究委員会委員となりPearl Standard策定に携わる。日本真珠輸出組合・副理事長としてJapan Pearl Pavilion Rule策定に携わる。三重県真珠振興協議会・会長として2016年伊勢志摩G7サミットでのラペルピンプロジェクトを主導する。
COVA KAKUDA(コーバ カクダ)
517-0701 三重県志摩市志摩町片田1397-14 ℡0599-52-0231 URL : https://cova-iseshima.jp
構成/執筆:石橋俊澄 Toshizumi Ishibashi 「クレア・トラベラー」「クレア」の元編集長。現在、フリーのエディター兼ライターであり、Premium Japan編集部コントリビューティングエディターとして活動している。
photo by Toshiyuki Furuya
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日本文化発信機構 JCCOが目指すもの
2026.5.19
世界と戦う日本の美意識をどう築き上げるか マツダで長年デザインを牽引する前田育男
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「性能や品質だけでは、もはや選ばれない」――。マツダ シニア フェローデザイン・ブランドスタイル監修の前田育男氏は、この現状に強い危機感を抱いている。その根底にあるのは「日本そのもののデザイン力」、すなわち「日本の美意識」が国際社会で十分にリスペクトされていないという問題意識だ。Premium Japan編集長で日本文化発信機構(JCCO)専務理事の島村美緒が、日本のデザインの未来について話を聞いた。
なぜ、マツダのデザイナーが「日本文化の発信」を担うのか
島村:日本文化発信機構(以下、JCCO)の活動への参画理由について伺います。前田さんは、マツダでのデザインという本業がありながら、なぜこの活動に理事として加わってくださったのでしょうか。
前田:根底には強い共感がありました。JCCOが掲げる「日本の文化を世界に発信する」というテーマは、私たちが目指す「日本の美意識を世界に発信していく」という目標と、ほぼ同義だと感じたのです。「文化」と「美意識」、表現は違えど、その根っこは同じ。やりたいことがシンクロしたのが一番の理由です。
島村:それは、マツダという企業全体としての取り組みですか。それとも、前田さんご自身のデザイナーとしての哲学に近いのでしょうか。
前田:これは、私がマツダのブランド様式作りを16年ほど手掛ける中で、個人的に強く抱いてきた問題意識です。今、自動車業界は世界中のブランドが乱立し、特に新興国のメーカーも台頭してきています。正直なところ、性能や機能だけではほとんど差がつかない時代になりました。では、お客様は何を基準に選ぶのか。それは「どの国が作っているか」、そして「どれだけ美しいか」という点にあると考えます。
だからこそ、私たちは日本の美意識を体現したものづくりを目指しているのですが、ここで大きな壁にぶつかります。それは、日本という国自体が「美意識を持った国」として今世界からリスペクトされていないという現状です。これは一企業の力だけではなく、土壌となる日本全体のブランド価値を高めなければ、私たちのクルマに込めた想いも正しく伝わらない。この根源的な課題意識が、私の活動の原点になっています。
日本の美の原点である伝統工芸から新たな発想を得る
島村:そのような課題に立ち向かう中で、前田さんは日本の伝統工芸の作家さんと交流を深めて、度々工房にも訪れていると聞いています。
前田:以前より、日本の伝統工芸の作家さんたちとは長くお付き合いをさせていただいて、工房にも定期的に伺っています。世界にたった1つの作品をつくるために、多くの時間を掛け、長年築き上げた手技と感性、経験から生み出す作品が素晴らしいことは言うまでもありません。完成するモノは違っても、彼らのモノづくりから学ぶことを非常に多くあると思っています。
しかし残念なことに、人間国宝レベルの方々の貴重な作品であっても、その素晴らしい作品を然るべき形で見せる場所、そのための資金も十分にないのが現実です。国からの支援も十分とはいえません。さらに、伝統工芸展が開催されたとしても、催事場のような場所で雑然と並べられている。この現実と、作品が本来持つべき崇高な価値との間にある巨大なギャップこそが、日本の文化に対する向き合い方なのではないかと呆然とすることがあります。
トレンドは追わない。AI時代に「オンリーワン」であるための逆張り戦略
島村:日本の伝統文化のあり方への問題意識を持ちながら、前田さんは「日本の美意識」をデザインに昇華させる独自の方法論を模索しているのですね。
前田:通常の自動車デザインは、企画から絵を描き、形にする、というプロセスを辿ります。しかし、そのやり方だけではもう限界が見えています。だからこそ、私は全く違うアプローチ、つまり「クルマから入らない」デザインを模索しています。
その一つが、日本の伝統工芸が持つ「匠の技」との共創です。実際に匠の工房を訪ね、私自身の「思い」を伝えて作品を制作してもらったことがあります。「こういう感情や世界観を表現したい」という抽象的な思いだけを伝え、対話を重ねて一つの作品を完成させていただく。このプロセスからお互いに影響を受け、私たちのデザインの作風にも変化が生まれるのです。
島村:自動車のデザインと伝統工芸。全く接点がないように感じますが、両者が影響を与え合うことで、新たな発想が生まれるのですね。
前田:実は今、マツダのデザインチームには、金工(金属工芸)のトップレベルの技術を持つ者が在籍しています。彼は今、自動車のデザインではなく、自身の作品として伝統工芸展への出品を目指しています。一見、クルマとは全く関係ない活動に見えるかもしれませんが、それでいいのです。そうした異分野の活動から我々が影響を受け、新たな知見を蓄積し、それを最終的にクルマのデザインに置き換えていけばいい。このスタートポイントの転換こそが重要だと考えています。
車のデザインの世界でも、A Iを活用すれば、それなりのデザインを描ける時代です。しかしそこには独自性や新たな発想、ましてや日本の文化や美意識を感じさせるモノを生み出すことは難しい。私たちが目指すのは時代を牽引し、人々の心に刻まれるデザインです。自分がトレンドを作るくらいの気概で臨まなければ、この世界では生き残れません。従来の手法では今を超えることはできない。新たな発想を生み出すためには、時には奇想天外なことも必要だと考えています。
「暴走するリーダー」はなぜ必要か?組織の創造性を解き放つ“妄想力”
島村:前田さんのおっしゃることはよく理解できます。その土台や風潮を築くためにはどんなリーダーであるべきでしょうか。そして、予定調和に陥りがちな組織の中で、いかにしてチームの発想力を引き出していくのですか。
前田:トレンドを無視し、全く新しいものを生み出すには、「リーダーの暴走」が必要だと思っています。私がよく言う「妄想」や「暴走」ですね。「君たちで自由に考えてみて」とだけ言っても、最近の若い人たちは真面目でこぢんまりとまとまりがちです。だからこそリーダーが、「これくらいかけ離れた目標を目指すんだ」という、壮大な青写真や戦略を示す必要がある。
島村:テスラのイーロン・マスク氏や、かつてのアップルのスティーブ・ジョブズ氏も、まさに「暴走するリーダー」の典型ですね。
前田:その通りです。彼らはまさに妄想家であり、暴走野郎とも表現できると思います。だからこそ、多くの人が魅了される。ただし、暴走にも質があります。大切なのは、その暴走が世界からリスペクトされる「美意識」に裏打ちされているかどうか。今、マツダが目指しているのも、まさにその美意識を体現した世界です。
「守る」だけでは守れない。文化継承に必要な「刷新」という視点
島村:美意識の探求には、異文化や異業種との交流は大変有意義ということですね。JCCOでは定期的な会議を行なっていますが、異業種のプロフェッショナルたちである他の理事たちとの交流からも新たな視点を得ている部分はありますか。
前田:JCCOの理事の方々とディスカッションしていると、「そういうモノの見方をするのか」という発見は多くあって、とても面白いですね。さまざまな分野で頂点を極めている方々ですから、その経験や挑戦から生まれる言葉の数々は、時には心を奮い立たせられ、時には新しい視点に気づかされます。
島村:2026年9月に開催予定のPremium Japan Awardは、伝統工芸や文化を次世代につないでいくことを目指すアワードですが、日本の美意識や文化を継承し、守るためにはどのようなことが必要だと考えますか。
前田:非常に難しい問いですが、私は「守る」という言葉はあまり好きではありません。守るだけでは、何も守れないからです。伝統を守り抜くためには、時に刷新し、時に破壊することも含めた、あらゆるチャレンジが必要です。新しい挑戦なくして、現状を「維持」することすら、おそらく不可能でしょう。
島村:その通りですね。アワードも、常に挑戦だと考えています。初年度から文化庁や観光庁の後援を受けて、異分野の才能が出会うコミュニティを形成しようとしていきたいと思っています。
前田:アワードなどの取り組みは、単に文化を紹介するだけでなく、この失われかけた「日本の美意識の幹」を再発見し、磨き上げ、世界にその価値を問い直すことにあるのだと思います。それは、一企業であるマツダのブランド価値を高めることにも繋がり、ひいては日本の国際競争力を取り戻すための、大きな一歩になると信じています。
島村:日本のビジネス界全体が、自らの足元にある美の価値を再発見し、それを未来への競争力へと転換していく。その大きな挑戦こそが、未来ある日本のためには必要ですね。今日はありがとうございました。
今回のインタビューを行ったのは、「MAZDA TRANS AOYAMA」。マツダのデザイン体感施設である本施設は、落ち着いた時間を過ごせる空間。1階には広島の宮島で創業した伊都岐珈琲(いつきコーヒー)監修のカフェのほか、クルマに限らない幅広いテーマによる期間限定展示や体験イベント・ワークショップの開催などが行われている。さらに、市販車、コンセプトカー、歴代のマツダ車といった実車の常設展示や、マツダ車の歴史を振り返るミニカー展示など、マツダのある生活が想像できる。
MAZDA TRANS AOYAMA
住所:東京都港区南青山5丁目6-19
営業時間:8時30分~18時30分 (8時30分~10時00分 1Fカフェのみ営業)
定休日: 月曜日
前田育男 Ikuo Maeda
マツダ エグゼクティブフェロー デザイン・ブランドスタイル監修
1959年、広島県生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、1982年にマツダ株式会社に入社。マツダ北米スタジオ、FORDデトロイトスタジオ駐在を経て、本社デザインスタジオで量産デザイン開発に従事。チーフデザイナーとして複数車種を担当した後、2009年デザイン本部長に就任し、マツダブランドの全体を貫くデザインコンセプト「魂動」を立ち上げる。その後現在まで多くの自動車デザイン、CI/店舗などのブランドスタイルを手掛け、マツダブランドの確立に取り組んでいる。2013年執行役員、2016年常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当。2022年より現職。現在は新たなMSブランドであるMAZDA SPIRIT RACINGの代表兼レーシングドライバーも務める。 日本文化発信機構(JCCO)理事。
Photos by Toshiyuki Furuya
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