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2025.6.30
「軽井沢・森四季」VILLA森の静寂に佇む、一棟貸しの別荘ホテルで豊穣な時間を
「緑~MIDORI」広い庭から建物を見る。
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四季が美しく移ろう軽井沢の地に「軽井沢・森四季」VILLAはある。星野温泉まで1㎞の徒歩圏内という利便性が高い環境ながら、喧騒から遠く離れた自然に囲まれた森の私邸とも呼べる空間である。敷地内には四棟のヴィラがあり、すべてが一棟貸しとなっている。ここは旅館でもホテルでもない、滞在者のためだけの特別な空間なのだ。
自然に囲まれた環境の中で、周囲を気にすることなくゆっくりと自分たちの時間を過ごしたい人には最高の環境である。
広い庭やデッキのある四棟のヴィラでは、周囲を気にせずくつろげる
「軽井沢・森四季」VILLAが何よりも大切にしているのは、「四季とともに生きる」という思想。宿泊棟は4棟あり、それぞれの棟には「緑~MIDORI~」「光~HIKARI~」「風~KAZE~」「時~TOKI~」という名前がつけられ、春の息吹、夏の風、秋の実り、冬の静謐を体現している。
「風~KAZE」木々に囲まれた静かな空間。
広い庭には露天風呂がある。
「緑~MIDORI~」は、家族や友人との滞在に理想的な3ベッドルームある空間。50坪を超える庭と24坪のウッドデッキがあり、室内にはデンマーク製薪ストーブがあるなど、まさに軽井沢の緑や風を心行くまで体感できる。
「光~HIKARI~」は三角屋根が特徴的で、プライベートな苔庭でBBQやたき火、北欧露天薪風呂、ハンモックなどがある。宿泊者だけのプライベートな時間を過ごすことができる。
「風」は、高級北欧ヴィンテージの家具、北欧露天風呂を備えた2名向けの静謐な棟。苔庭に面したバスタブに身を沈めるひとときは贅沢な時間が過ごせるはずだ。
2024年8月オープンした「時~TOKI~」は、3ベッドルームあり、さらにウッドデッキには足湯が備えられており、心の緊張をゆっくりと解いていく空間になっている。
冬は暖炉で火の揺らめきを楽しむことができる。
各棟には広いデッキがあり、食事をしたり、読書をしたり、それぞれの楽しみ方で。
「時~TOKI~」のテラスには足湯がある。
全棟にはBang & Olufsenのオーディオ、LE LABOのアメニティなど、上質な調度品や環境が揃っているので、自然の中でも、自宅にいるような快適さが整っている。もちろんペットの滞在もOKなのが嬉しい。
さらに24時間バトラーサービスがあるので、守られた環境での滞在が約束されている。
地元の旬の食材を自然の中で味わう贅沢、レストラン&バー「HONO」
滞在中は、各棟でBBQを楽しむこともできるが、敷地内にはレストラン棟「HONO」もある。まるで森の中に浮かぶような設計になっているダイニングは、信州の豊かな旬の恵みを活かした炭火グリル料理が堪能できる。
希少な赤身肉や和牛、豚リブを、キロ単位で豪快にワイルドな炭火<wbr />焼きするスタイルは、日本のレストランではなかなか味わえない迫力とジューシーさを、大自然の中で体験できる。
「HONO」からはVILLAを見る。
炭火で焼くことで、肉の旨味が存分に楽しめる。
またワインも充実しており、ナチュールからグランヴァンまで幅広く揃えるほか、地元のクラフトジンや日本酒とのペアリングも楽しめる。バータイムには、焚き火の炎を眺めながらグラスを傾けるゲストも多く、静けさの中で記憶に残る一夜が過ごせることだろう。
森を楽しむ滞在が豊かさの本質を教えてくれる
このヴィラでは“ただ泊まる”のではなく、“森に滞在する”ことができるのが大きな魅力である。朝は小鳥のさえずりで目覚め、昼は木漏れ日の下でゆるりとした時間を過ごし、夜は星を眺めながら焚き火を囲む。都会では味わえない時間や空気感に包まれ、自分自身や大切な人としっかり向き合うこともできるだろう。何もしない時間、心から安らぐ空間は、別荘ではなく、ホテルでもない場所だからこそ実現する贅沢。季節の移ろいを五感で楽しみながら、自然の恵みに抱かれる滞在はまさに非日常。
美しい軽井沢の四季に寄り添いながら、自分自身に戻る旅に相応しい宿が「軽井沢・森四季」VILLAである。本物の豊かさを知る大人たちにこそ、おすすめしたい私だけの“森の私邸”と呼べる空間だ。
Text by Yuko Taniguchi
長野県北佐久郡軽井沢町長倉2147-118
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星のやに泊まる、星のやを知る
2025.7.1
「星のや富士」宿泊記 その3 雨を五感で楽しむ非日常体験「梅雨グランピング」
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「非日常」をテーマに、各施設それぞれが独自のホスピタリティでゲストを迎える「星のや」。そのホスピタリティのひとつが、ゲストが参加する多彩なプログラムです。土地の文化や伝統をベースにして作り込まれた各プログラムは、「星のや」の新たな魅力となっています。
「星のや富士」宿泊記の第3回では、季節の恵みや魅力を楽しむグランピング企画「梅雨グランピング」をご紹介します。雨の森だからこそ感じる音や色、香りなど、雨が作り出す自然の美しさを五感を通じて体験できるプログラムです。この企画開発に携わった「星のや富士」のスタッフによる開発秘話をご紹介します。
日本初のグランピングリゾート「星のや富士」で非日常体験
昨今すっかり定着した感の「グランピング」。日本に広まったきっかけとなったと言われるのが、「星のや」の4施設目「星のや富士」の誕生でした。河口湖を見下ろす広大な敷地には、アカマツをはじめとする針葉樹を中心とした木々で構成した森が広がり、その中にキャビンと呼ばれる客室やダイニング、クラウドテラスがあり、まさに自然を体感できる空間とともに遊び心と発見の多いアクティビティが人気の施設であり、目前には富士山という好立地を求めて、世界中から多くの観光客が訪れています。
レセプションで受付を済ませたら、車を乗り換えて、ホテルへ。
6月10日から7月20日までの期間、雨の森を楽しむ、新しい発想のグランピング「梅雨グランピング」がスタートしました。
雨の中でグランピング? どんな楽しい提案があるのか、その企画をご紹介していきます。
雨の中で体験する、香り、音、雨音のリズムで心が解き放たれていく
新緑が芽生える梅雨の時季には、雨が葉に当たる音や湿った土の匂い、霧に包まれた森や山の景色などの非日常を五感で楽しむのが「梅雨グランピング」です。梅雨限定のスイーツやカクテルのほか、五感で楽しむ「雨の森のディスカバーウォーク」や、梅雨の期間のみ登場する「雨音カウンターテーブル」、さらに「絵はがきづくり」など、雨を存分に楽しむ仕掛けについて、この企画の担当をした「星のや富士」の広報であり、グランピングマスターの北垣沙野さんにお話を伺いました。
自然の中で育ったと語る北垣さんですが、ここの自然は別格だと語ります。
「『星のや富士』は森の中の施設ですので、季節の移ろいを五感で楽しんでいただくことができるのが自慢のホテルです。グランピングというと、晴れの日の楽しみと思っていらっしゃる方も少なくないと思いますが、ここでは雨の日には雨がつくり出す美しさを体験いただきたいと思っております。お部屋にポンチョと長靴を用意していますので、ぜひ外に出かけていただき、雨の森を体感いただきたいと思います」。
敷地最上位にあるクラウドテラス。焚き火やライブラリーカフェがあります。
階段状のクラウドテラスでは、お気に入りの場所を見つけてゆっくりくつろぐことができます。
特に梅雨の頃の森は、芽吹いて間もない葉が優しく輝き、そこに降る雨の粒はより緑を引き立て、また土の香りや雨音が私たちの心をゆっくりと解きほぐしていくと言います。
「『星のや富士』に配属になって6年経ちます。ここに来る前は、雨だとちょっとイヤだな~と思うこともありましたが、雨の美しさ、雨の日にだけ見える神秘があることを知って、この五感を満たす自然の神秘を皆さまにも体験いただきたいと強く思うようになりました。この体験が今回の企画を考えるきっかけです」。
梅雨限定の特別シート「雨音カウンターテーブル」で絶景を楽しむ
まずご紹介するのが、「梅雨グランピング」の期間だけクラウドテラスに登場する「雨音カウンターテーブル」です。一見、テラスに無作為に置かれているように見えるカウンターテーブルは、北垣さんが選んだ絶景ポイントなのだとか。さらにカウンターテーブルの屋根には美しい布が張られており、その雨音が自然に織りなうリズム「1/fのゆらぎ」を感じることができると教えてくれました。
。
「カウンターテーブルは、椅子に座った時に景色がどう見えるのかを考えて、設置場所を微調整しながら決めました。そしてカウンターテーブルのルーフに張られた青色の織物は、隣接する富士吉田市の名産地である富士山麓の織物を使用しています」。
古くから機織りの名産地であった富士吉田市は、発色のよさや高密度の技法などが特長の富士山麓の織物をセレクト。かつては着物の裏地に使われていたが、現在はネクタイや洋服の裏地、傘などに使われています。今回は傘に使用される織物を使用していることから、雨に強く、さらに雨音が心地よく響くと言います。さらに青色は、梅雨の頃の緑との相性を考えてセレクトしたと語ってくれました。
こだわり抜いた「雨音カウンターテーブル」について語ってくれる北垣さん。
緑に馴染んだ青のルーフ。
雨雲やバブルの先にある幻想的な世界観のスイーツとカクテル
また、梅雨限定のスイーツやカクテルが登場します。
「季節によってテーマが変わる『森のひととき』と名付けられたスイーツ。梅雨限定の『雨の森のひととき』は、より雨を楽しんでいただけるサプライズを仕込みました。チーズケーキの上に乗った綿あめを雨雲に見立て、ご自身で雨が降るようにブルーキュラソーをかけていただきます。すると綿あめが解けて、中から色鮮やかなフルーツとチーズケーキが現れるスイーツです。甘さと酸味が調和する優しい味わいに仕上げています」。
「雨の森のひととき」は14時30分~17時30分、無料でいただくことができます。
さらに梅雨限定のカクテルにもちょっとした驚きの仕掛けがあります。
「この時期に楽しめるアジサイをテーマに、梅のシロップやベリーの香りを閉じ込めたオリジナルカクテルです。カクテルの上には霧をイメージしたバブルを乗せ、そのバブルがはじけると、霧が晴れるようにベリーの華やかな香りに包まれます」。
雨の日には思いがけない発見がある、そんなメッセージが込められているスイーツとカクテルは思わず笑みがこぼれることでしょう。
球体のバブルが風に揺れ、いつはじけるかドキドキしてきます。
低アルコールの軽い飲み口のカクテル。19時~22時(21時30分ラストオーダー)2,180円(税・サービス込)
グランピングマスターから学ぶ、森の楽しみ方の見つけ方
今回ぜひ体験いただきたいのが、『雨の森ディスカバーウォーク』です。雨降る中、ポンチョと長靴を身に着けて、グランピングマスターと共に森の散策に出かけます。枝や葉が自然に落ちた地面は、まるでふわふわの絨毯の様で、空を見上げれば高く伸びた木々の中から雨粒がゆっくりと落ち、雨に濡れた木々はより深い色となり、どこからか香ばしいような香りが立ち込めます。グランピングマスターによる木々の種類のお話や、季節による森の移り変わり、足元に落ちている松ぼっくりが雨に濡れるとしぼみ、乾くと開く、そんな話を聞きながら、自然の不思議と共に、私たちはこの自然に生かされているのだという敬意の感情も芽生えていきます。
「都会では感じることがない体験が森には多くあります。お子さんだけではなく、大人の方にもぜひ体験いただきたいと思います。お客さまの中には木々に詳しい方もいて、私たちが教えていただくこともたくさんあります」と北垣さん。
雨に濡れるのが不思議と心地よくなってきます。
また、「梅雨グランピング」の時季にはクラウドテラスや散策路に、雨粒が当たると音を奏でる「レインドラム(タングドラム)を設置します。
「個人的には水琴窟をやりたいと思っていたのですが、大きな岩をクラウドテラスに設置するのは難しいので、気軽に楽しめる手のひらサイズのレインドラムを用意して雨音の演奏を楽しんでいただきたいと思っています」。
雨粒が当たることで音が鳴る「レインドラム(タングドラム)。
他にも毎朝体験できる「薫る森の蒸留」体験では、旬の果実である梅を地元の桃農園さんにご協力いただき、梅を蒸留した香りを楽しめたり、雨でにじむ水彩色鉛筆を使った自分だけ「絵はがきづくり」体験も楽しだり、雨の日だからといって部屋に閉じこもることなく楽しめる企画がたくさん用意されています。
「『絵はがきづくり』はここの風景を描いたスケッチに色鉛筆で色を塗っていただき、その後、雨に濡らしていただくと水彩画のような仕上がりが楽しめるものです。スケッチからご自身で描きたい方には真っ白な紙をお渡ししています。雨の日はいつも以上に五感が冴えてくるものです。ご自身の感性でアートに取り組む時間を楽しんでいただくご提案もしています」。
「絵はがきづくり」7時半~19時 無料。
忙しい日々の中では、雨を鬱陶しいと感じることは多くありますが、「星のや富士」に滞在していると、静寂の中に響く雨音や雨でより強くなる木々や土の香り、そのすべてが心地よく、そして心の疲れを洗い流し、パワーチャージがされていくような感覚に包まれます。雨もいいものだな、そんな感情に包まれた滞在でした。
◆星のや富士「梅雨グランピング」
・開催日:2025年6月10日~7月20日
・対象 :宿泊者(雨音BARのアルコールカクテルの提供は、20歳以上の宿泊者限定)
・予約 :不要
◆丘陵のグランピング「星のや富士」とは
河口湖を望む丘陵に建つ、日本初のグランピングリゾートと呼ばれる「星のや富士」。広大なアカマツの森の中で愉しめる体験型の食事や、焚き火を眺めながら過ごすひと時が過ごせます。全40室のキャビン(客室)はテラスにソファや焚き火台があり、室内でもアウトドア気分が味わえます。また全室にグランピングマスターがつき、滞在をサポートしてくれますので、最高の時間と体験が約束されています。
Text by Yuko Taniguchi
Photography by Natsuko Okada(Studio Mug )
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
2025.6.28
伊勢神宮 式年遷宮に向けて 御神木は木曽から伊勢へ
外宮の陸曳の様子。
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令和15年(2033)に第63回式年遷宮が行われる伊勢の神宮。その壮大な準備が、令和7年(2025)5月2日の山口祭から始まったのは、この連載の第4回でご紹介したとおり。その山口祭から約1ヶ月、今度は新たな御正殿、つまり新宮を造営するための御用材を伐り出す「御杣始祭(みそまはじめさい)」が、長野県木曽郡上松(あげまつ)町の木曽谷国有林内で6月3日に執り行われた 。
祭場に立つ2本の大木は、樹齢およそ300年。これらは式年遷宮で用いられる特別な御用木(ごりょうぼく)の中でも、御神体を納める「御器(みうつわ)」となる最も重要な「御樋代木(みひしろぎ)」として選ばれた 。今回は、木曽の山中で育まれた大木が「御樋代木」として神宮へ迎えられる過程を通し、日本人が木という生命といかに向き合ってきたか、その精神と祈りを紐解く。
御用材を木曽で伐り始めるおまつり「御杣始祭」
「御杣始祭」は、御杣山(みそまやま)に坐す大神などに、これから御料木を伐り出すことを告げまつり、お供え物を捧げて新宮造営の安全を祈る祭儀。古くは、御料木を実際に伐り出す杣夫(そまふ)と呼ばれる人々が、御料木の根元に榊と御幣を立ててしめ縄を張り、御神酒を捧げて執り行っていたという。
内宮の「御樋代木」となる御料木。樹齢約300年で、直径は64㎝、樹高26mの大木。「太一(たいいつ)」は、天照大御神の御料であることを示している。
御杣始祭には、神宮祭主の黒田清子さんをはじめ、神宮大宮司、少宮司も参列。祭中、大宮司が御料木の前に進み出て、2礼2拍手1礼の参拝を行った。
祭儀は、内宮、外宮それぞれの御料木に対して行われ、常の通り、粛々と厳かに進められる。祭中には、神宮祭主の黒田清子さんが、御料木に向かって拝礼。祭儀の後は、「三ッ緒伐り(「三ッ紐伐り」とも言う)」と呼ばれる伝統技法によって、2本の御料木がともに伐り出された。
ちなみに「御杣山(みそまやま)」とは、式年遷宮のための御用材を伐り出す山を指し、遷宮が始まった持統天皇の時代から、神宮の背後にそびえる神路山(かみじやま)と高倉山が御杣山とされてきた。現在も式年遷宮の最初のおまつりで、山の口に坐す大神に対して行われる山口祭が、内宮は神路山のふもと、外宮は高倉山のふもとで行われるのは、その伝統を受け継いでいるからだ。
しかし、時代とともに良材を伐り出すことが困難になり、他の地にも御杣山が求められるようになった。ちなみに、他の地の御杣山の選定は、「御治定(ごじじょう)」、つまり、天皇陛下のお定めによって行われる。平安時代の中期以降さまざまな変遷を辿った御杣山が、現在の長野県、岐阜県の両県にまたがる木曽山に定められたのは、江戸時代からのこと。以後300年ほどは、木曽山中から御用材が伐り出され、今回の遷宮でも、「御治定」により、長野県の木曽谷国有林と岐阜県の裏木曽国有林から伐り出されることになったのだ。
樹齢約300年、高さ約26mの2本のヒノキを伐り出す
「三ッ緒(紐)伐り」を行うのは、内宮の御料木は「三ッ紐伐り保存会」のメンバー、外宮は神宮式年遷宮造営庁の職員の、それぞれ7人。作業を始めるにあたっては、まず内宮の御料木の総指揮を執る杣頭(そまがしら)が、斧(よき)の背の部分で、軽く3回ほど、御料木を叩くならわしになっている。
御杣始祭は、内宮、外宮それぞれの御料木の前で行われる。時折、お供えされた白い鶏(「生調(いきみつぎ)」と呼ばれ、祭儀がお供えされた後で生かされる)の鳴く声が、山に響き渡った。
「これは木にいる鳥などの生き物に対し、『申し訳ないけど、これからうるさくするよ』という心遣いです。もし何か生き物がいたら、どこかへ行ってくれますから」
そう話すのは、杣夫の1人で、前回の式年遷宮でも「三ッ緒(紐)伐り」を行った倉本豊さん。現在70歳の倉本さんは、木曽の御嶽山(おんたけさん)の強力(ごうりき=登拝者の荷物を持ち、地形や天気などを考慮した道案内や、御嶽山内の全山小屋と関わりを持つ総合職)を50年近く務める、まさにお山とともに生きてきた人だ。「三ッ緒(紐)伐り」を行うにあたっては、道具となる斧の手入れや、食事の節制など体調管理に心を配り、当日は身を清めて臨むという。なにせ斧を振り回す作業である。「怪我なく無事に」が、何より求められるのだ。
「三ッ緒(紐)伐り」は、木曽地方で古くから用いられてきた、斧のみで木を伐採する方法。並び立つ2本の御料木は、最終的に、それぞれがたすきがけのように交差して寝かさなければならない(杣夫は御料木を「倒す」と言わず、「寝かす」と表現する)ため、まず寝かせる方向を杣頭が確認。その後3点の「弦(つる)」、つまり、伐り残す部分を決めて、その弦だけを残すように、木の外側の3方向から中心に向かって斧を入れ、幹に空洞を作っていく。
貴重な御神木の伐り出しに立ち会う場に響く声
ちなみに、「御杣始祭」の当日は雨。降りしきる雨音に混じって、斧が木に当たる重く湿った音が聞こえてくる。何より鮮烈だったのは、ふとした瞬間に立ち上ってくる、清涼感あふれる檜の香り。
7人の杣夫が交代で、3人がかりで3方向から斧を入れ、幹に空洞を作っていく。
御料木が倒れる瞬間に出す音を、杣夫たちは「木がなく」と表現する。「鳴く」、「啼く」など、人によってさまざま解釈が違うようだ。こちらは6月5日に裏木曽国有林で行われた「裏木曽御用材伐採式」の様子。
やがて、1時間ほど経ったろうか。杣夫たちが作業を止めて傍に控え、入れ替わるように杣頭が1人御料木の前に進み出て、山に語りかけるように声を上げた。
「大山の神〜、左斧(ひだりよき) 横山(よこやま)1本 寝〜るぞ〜」
続いて、杣頭が3本の弦のうち、御料木を寝かす方向とは反対側にある弦を、力強く斧で叩いた。さらに、その動作を何度か続けた後、今度は木を見上げながら再び声を上げる。
「いよいよ寝〜るぞ〜」
なおも杣頭が斧を入れ、御料木がぐらっと動いたその瞬間、2人の杣夫が、見計らっていたように残りの弦を手早く斧で叩き始めた。すると……。
ギィーッ
鈍い音を立てて御料木がゆっくりと傾いていき、大きな振動とともに大地に横たわった。
続けて外宮の御料木である。
やがて、すべての作業を終えた杣夫たちは、先端が重なるように横たわった2本の御料木の前で1列に並び、深々と一礼。
御料木を無事寝かせた後、杣夫全員が1列に並び、御料木に向かって深々と1礼。
杣夫の経験を通し、「数百年も生きてきた木の生命をいただく、そのありがたみを強く感じるようになった」という倉本さんの言葉は、杣夫全員の想いでもあるのだろう。
美しい木曽ヒノキの再生と成長を祈る「鳥総立(とぶさたて)」
「三ッ緒(紐)伐り」はこれで終わりではない。最後に「鳥総立(とぶさたて)」が行われる。
『万葉集』にもみられるこの「鳥総立(とぶさたて)」は、伐り倒された木の先端の梢を根株に刺し、山の神から樹木の幹をいただくことに感謝を捧げる儀式。古来、木曽や飛騨地方だけでなく、東北などの各地で行われていたという。加えて、この儀式には、梢と根株を山の神にお返しし、樹木の再生を願う祈りも込められている。
樹木への感謝と再生を願う「鳥総立」。杣夫の間では「株祭(かぶまつり)」と呼んでいるという。裏木曽御用材伐採式で。
内宮、外宮の2本の御料木は、たすぎがけのように交差するよう寝かされる。こちらも「裏木曽御用材伐採式」の様子。
「またここに生命が宿って、立派な木になりますようにという願いです」と倉本さん。その言葉に続けた「鳥総立」についての説明は、この儀式が決して形だけではないことを実感させてくれるものだった。
根株に刺した梢は、正確に言えば、そのまま成長するわけではない。だが、御料木に斧を入れる際は、根株の中心に「酒1枡分」ほどが入る窪みができるよう意識しているという。もともと斧は平行に振れず、根株の窪みも自ずとできる。だが、「酒1枡分」を意識して作ることで、その窪みに雨水が溜まり、やがて苔むして、周囲の木から落ちた種を育てる、育苗の場所になるという。その種子は、根株の養分を吸収して徐々に根を伸ばし、その根がしっかり張ったところで、根株は土に還る。そんなふうに、木の生命は繋がっているのだ。
「木は伐って終わりではなく、ちゃんと管理して誘導していけば、また育ちます。そういうサイクルの中で、木も人間も生きているのだと思います」
木曽の街中での御木曳き行事の後、木曽川から伊勢へ奉搬
こうして伐り出された御料木は、その日のうちに、両先端を16面の「菊の御紋」の形に削る「化粧がけ」が施され、「御祝木(おいわいぎ)」、「御神木」として、沿道各地で丁重におまつりされながら、数日かけて伊勢へと奉搬される。
伐採された御料木に「化粧がけ」を施す杣夫。
御杣始祭の翌日に、長野県上松町で行われた御神木祭の様子。
岐阜県中津川市にある護山(もりやま)神社での御神木祭を終え、奉搬される御神木。荷台には榊8本を立て、紅白の幕としめ縄を四方に張り巡らせる。木曽谷からは長野県、岐阜県、愛知県を経て、裏木曽は岐阜県内を巡って三重県へ。
地域によっては、地元の人々が「御神木」を奉曳。なかでも長野県上松町では、御木曳車(おきひきぐるま)に「御神木」を載せ、多くの人々が木曽の木遣唄(きやりうた)とともに町中を練り歩いた。
「木曽の深山で育てたる 日の本一のこの檜、伊勢の社に納めます」。
誇らしくも一抹の寂しさを感じさせる木遣唄の歌詞や曲調は、まるで大事な娘を名家に嫁がせる親心を表現したよう。
伊勢へと向かう道中は、木曽の山中で育った大木が、「御神木」となって沿道各地の人々に奉迎、またおまつりされ、それによって神聖さを増していく時間のようにも思われた。
長い旅の最終地、内宮、外宮の両宮域にお運びする際は、内宮は御木曳橇(おきひきぞり)に載せて五十鈴川を「川曳(かわびき)」で、外宮は御木曳車に載せて「陸曳(おかびき)」で曳き入れられる。神職など多くの奉仕員が出迎えるなか、御榊(みさかき)と御塩(みしお)でお祓いを受け、清浄さが保たれるよう細やかな心配りがなされた御料木は、「御樋代木」という新たな役目を得て、その生命を繋いでいくのだ。
内宮で御樋代木を出迎える神職など奉仕員。数の多さからも、御樋代木の重要性がうかがえる。
五十鈴川での川曳を終え、内宮の五丈殿前に曳き入れられた御樋代木。御榊(みさかき)と御塩(みしお)でお祓いを受け、その後、清筵(きよむしろ)、清薦(きよこも)で丁重に包まれ、数日間五丈殿内に安置される。
1本の御料木が、多くの人々の手を経て、御神体をお納めする「御樋代」となる。その過程には、数百年を生きた生命に対する、人々の礼を尽くす姿があった。
Text by Misa Horiuchi
伊勢神宮
皇大神宮(内宮)
三重県伊勢市宇治館町1
豊受大神宮(外宮)
三重県伊勢市豊川町279
文・堀内みさ
文筆家
クラシック音楽の取材でヨーロッパに行った際、日本についていろいろ質問され、<wbr />ほとんど答えられなかった体験が発端となり、日本の音楽、文化、祈りの姿などの取材を開始。<wbr />今年で16年目に突入。著書に『おとなの奈良 心を澄ます旅』『おとなの奈良 絶景を旅する』(ともに淡交社)『カムイの世界』(新潮社)など。
写真・堀内昭彦
写真家
現在、神宮を中心に日本の祈りをテーマに撮影。写真集「アイヌの祈り」(求龍堂)「ブラームス音楽の森へ」(世界文化社)等がある。バッハとエバンス、そして聖なる山をこよなく愛する写真家でもある。
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旅館の矜持 THE RYOKAN COLLECTIONの世界
2025.6.30
心躍る和モダン空間に満ちる、アートと極上のホスピタリティ。地域文化の魅力認知に本気で取り組む「花紫」山田耕平社長
新緑が映える1階の「モダンスイート」は川の水面にいちばん近い。
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「ザ・リョカンコレクション」に加盟する旅館の女将や支配人を紹介する連載「旅館の矜持」。今回は石川県加賀市・山中温泉の「花紫」の社長・山田耕平氏を紹介する。
山中温泉は石川県で有数の温泉郷である。今から1300年前に、大僧正の行基が山中温泉の源泉を発見したと伝えられている。老舗の旅館だった「花紫」が「凄いことになっているゾ」と言われはじめたのは、2024年頃のこと。若き当主の山田耕平社長による大胆な改修が話題に上るようになり、そのウワサは東京まで届いていた。
旅館「花紫」の屋号は、地域の美しさを讃える言葉「山紫水明」に由来している。白地に二重の円のシンボルが描かれた大きな暖簾をくぐり、館内に入る。まず印象的だったのは、若いスタッフたちの笑顔と爽やかな挨拶だった。
さて、こんなに気持ち良くさせてくれる笑顔を振りまくホテル・旅館は、日本ではめったにお目にかかれない。一瞬、バリ島やプーケットにある上質なリゾートホテルにでも来たかのような錯覚にとらわれた。人が旅館に対して抱く一般的なイメージは一新されるだろう。ここは、社長ご夫妻をはじめ、若い人たちが中心となって動かしている旅館なのだ。出迎えてくれた山田社長に改修・改革の核心について話を聞いた。
旅館業を通してお客様に伝えたいこと
「きっかけになったのはコロナ禍のときの休業です。それまでは日々の仕事に忙殺されてじっくりと考えるのがちょっと難しかった。休業したことによって、宿泊業のあり方とか、旅行ってなんだろうとか、日ごろからモヤモヤと胸に滞留していた疑問について、立ち止まって考えられたことが大きいです。その意味では、休業はコロナ禍がもたらした僥倖だったのかもしれません。
コロナ禍が明けてもこの先そのまま同じように営業を続けるのかと自問したときに、自分には旅館業を通して伝えたいことがあるはずだと思ったのです。自分が思い描く旅館のイメージもありました。それで、改修に着手してみようと決意しました。」
大きな窓から陽が射し込んで、開放感が抜群のロビー。<wbr />宿泊客でなくとも喫茶の利用ができる。
「自分が思い描く旅館の新しいビジョンと切り離すことはできないのですが、何よりも先に前提にしたいことがありました。それは、どのようにしたら、お客様がより満足していただけるような旅館に変えていけるかです。言い換えれば、お客様が当館に来てくださって、温泉に浸かって食べてお休みになられる、それ以外のことで何かできないか。滞在される間に感じることができる『価値』みたいなものを創造できたらいいなと思ったのです。いや、是が非でも、新しい価値を創出したかったのです。
それ以前はサービス業として、お客様に尽くして尽くしまくって、疲弊してしまうような感じでした。もちろん、そうしたエネルギーの使い方もあるのですが、目指すところはそうではないのではないか。よその旅館にはない『価値』を味わい楽しんでいただく。お客様に対してその提案ができるようになれば、自ずと旅館自体の存在価値も上がっていくはずだというふうに考え至ったのです」
日本文化の地域の拠点の一つになる
「その価値のポイントとなるのは、日本の文化を古いままではなくて、現代の形に変えて伝えていくことです。宿泊体験を通して、日本やこの土地の良いものや文化を感じていただける、そういう場所を目指していきたいと考えていました。具体的に言えば、古くからある部分では、新しい食事の提案であったり、新しいお風呂の楽しみ方ですね。新たに生み出す部分では、当館が北陸の工芸やアート、そしてお茶を含めた食文化の一つの拠点となることです。
言い換えますと、食や飲み物にテロワール(その土地ならではの風土や個性)を感じることはよくあります。『花紫』ではそれだけにとどまりません。器や空間、温泉、そしてアートにいたるまで、すべてがこの土地の魅力を伝えるための『テロワール』となっているのです。
工芸やアートに関して言えば、館内で展示することはもちろん、石川県内、北陸の作家さんを中心にして、土地の作家さんと触れ合えるところまで体験できる旅館を目指そうと考えました。その土地の風土で生まれた作品に囲まれて過ごしたり、さらには、希望があれば、作家さんの工房までお連れしてしまうという構想です。地域全体の魅力を感じていただくのが旅館の役目だと私は思っています。また、都会にはない、それだけの魅力がこの土地にはあるのです。」
暖簾は「山紫水明」を象徴的に表したエンブレムを中央に描いた。
「石川・北陸には様々な分野で作家さんがたくさんいるのですが、それは加賀の前田家から連なる文化的な継承であることを実感しますね。前田さんは本当にエラい人でした(笑)。工芸やアート以外の分野では、例えば、野菜の生産者さんであったり、見事なブリを用意してくれる神経締めの達人の漁師さんであったり、美味しいお米やお茶を作っている農家の方だったりです。そうした土地の魅力を総体として、五感全体で感じていただくための装置、それが旅館だと思っています。実際に、そうした土地の魅力のすべてを集めてきて活用できるのが旅館という存在なのではないでしょうか」
突撃スタイル(⁉)が信条
作家とのネットワークはどのように作るのか?
「基本的には突撃スタイルですね(笑)。展示会を見に行ったり、インターネットやSNSを駆使して、この人に会ってみたいという作家さんを発掘します。あとのコンタクトは主として突撃です。どうやっても辿り着けない場合には、紹介してもらうこともあります。
作家さんは人によっては人前に出ることを好まない方もいらっしゃ<wbr />るので、私どもが、<wbr />そういう作家さんとお客様の間で翻訳者的な立ち位置になれればい<wbr />いと考えています。価値を伝えるのが苦手な方ならば、私どもが媒介者になって価値を伝えられたらいいですね。それで例えば、漆芸の作家さんにアートパネルなどを作ってもらって、展示販売したりしています。生活に近い工芸的な作品から現代アートまで、実験的なことも含めて、幅広く魅力を伝えていければと思っています。
ちなみに現在、館内で見られる作品の作家さんは、写真家の河野幸人さん、仏師の長谷川琢士さん、現代アートのLAKAさん、ガラス工芸の佐々木類さん、漆芸の村田佳彦さん、陶芸の中嶋寿子さん、漆芸の鵜飼康平さんなど北陸を拠点とするアーティストの作品です。昨年はロビーフロア全体を使って作家さんと学芸員の方に対談してもらって、作品発表の場を設けたりしました。この空間をもっと使って欲しいのです。これに関してはどんどん発展しているかもしれません。どこまで行くのか、自分でも興味深く見つめています(笑)」
渋いオーラを放つ茶房。ここで専門的な訓練を受けたスタッフが、<wbr />本格的にお茶を淹れてくれる。ここかしこに作家の作品が置いてある。
ロビーの売りは、渋いオーラを放つ「茶房」
すべてのゲストは4階に当たるロビー階に到着する。すぐに気づくのは、随所に様々な作家のアートや工芸が設置してあることだ。フロントを通り過ぎた先が素晴らしい。ゆったりしたラウンジには大きな窓が一面に並び、渓谷に沿って、対岸でまばゆいほどに緑を放つ新緑が目に飛び込んでくる。このラウンジに隣接するのが「茶房」で、ちょっとした陰翳の中にあって、加賀杉のカウンターが伸びている。全体が落ち着いていて渋いオーラを放っている。
アフタヌーンティーは予約制で(6000円)、<wbr />宿泊客でなくても味わえる。お茶はもちろん茶房で淹れたものだ。
「実は、コロナ前の改装する際のぼんやりとしたイメージでは、ゲストが自由に紅茶やコーヒーを楽しめるセルフサービスのラウンジを想定していました。人を減らして生産性を上げていこうみたいな流れですね。しかし、考えているうちから、これは違うんじゃないかと思っていました。人の手をかけずにオートマティックな流れなわけですが、これを旅館でやる意味はどこにあるんだという疑問を抱くようになりました。
効率化した先には何もないなとも思いました。切り詰めて行って利益を出す、そういう考え方もあるのですが、利益が出たところで、自分たちもお客様も満たされないのならば、やるだけ無意味です。とすると、日本の文化を伝えていくとなれば、やっぱり日本の美意識すべてが詰まっているお茶だよねということになったのです。
それでロビー階の改修に際して造ったのが茶房でした。厳選されたお茶を人の手で丁寧に淹れることによって、お客様も集まってきて、その価値を感じてくれる。差別化できるポイントとはそういうことかなと思って、そちらに振り切ってみました。ですから、きっぱりとコーヒーを出すのはやめました(笑)。特に海外のゲストの方はコーヒーを好まれますが、お部屋で淹れてもらっています」
茶房のお茶は、このように10数種類あって、プレゼンを受けた後にゲストがチョイスする。目の前で繊細に淹れてくれる。
茶房チームは東京で研修
とは言え、それで出来上がった茶房なるものは、洗練の度合いが桁違いだ。
「修練を受けた専門のスタッフが、煎茶、加賀棒茶、抹茶、和紅茶などの10数種類のお茶、お茶のカクテルである茶酒などを、作家さんと私で共作しました特別な茶器、例えば九谷焼や珠洲焼、漆器、ガラスなどお茶に合わせた茶器でお出しします」
筆者は煎茶好きなのだが、三煎味わったお茶の味わいにはまさに格別なものがあった。
先代が20年前に作った見事なダイニング。今や世界的な和紙作家である堀木エリ子氏の作品を大胆に配した。先代のアートを見る目も確かなものだったことがわかる。右は奥様の山田真名美さん。
当館の企画・広報を担当する奥様の山田真名美さんが付け加える。
「新しく茶房チームに入ると、東京での研修がありますので、実際にお茶を習って帰ってきます。そのあとは季節ごとに東京から来てもらっています。そのたびにテストがあって、改善点を直していきます。ただお茶を淹れるだけでは意味がありません。そのお茶に価値があるぐらいのレベルにしなければと考えています。
インスタグラムなどでこの茶房があることを知って、今では茶房に入りたくて入社する社員もいるほどです。大体は県内ですが、県外からも応募があります。旅館で働きたいけれども、同時にスキルを身につけたい若い人には、一石二鳥なのでしょうね」
ご主人が続ける。
「年に何回かお茶会を開催しておりまして、展示している作家さんの器を使ってお茶を体験していただくこともやっています。今、茶房チームのトップは、茶房ができる前の時代からいる社員です。以前は私と一緒にコーヒーをポッターに入れて注ぎまくっていました。それが今やいちばん上に立ってお茶の指導をしています。彼女にとってもスキルアップできているので、仕事の付加価値を感じてくれているのではないかと思います。サービス業でもそういうことがないと今の若い社員たちは続きません」
1階の「モダンスイート」にて。渓谷沿いの新緑がダイレクトにまぶしい。部屋のミニマルなデザインが心地よい。
新しいコンセプトを詰める
先代が造り上げた「花紫」は、見事な数寄屋造りの旅館ではあったが……。
「小さい頃から数寄屋造りを見すぎてしまったせいか、何も感じなくなっていまして、むしろ根本的に変えたいとずっと以前から考えていました。しかし、大学生の時にサンフランシスコに2年ほど留学しまして、日本を外側から見たら、すごく美しいものがたくさんあることに気づいたのです。と同時に、それはそのままでは現代の人には伝わらないなとも思いました。
それからですね、どうすれば伝わるのかの模索を始めたのは。様々な宿に出かけたり、また日本のデザインをいろいろと調べるうちに、SIMPLICITYの緒方慎一郎さんに行きついたのです」
デザイナーの緒方慎一郎氏は、建築、インテリア、プロダクト、グラフィック等のデザインやディレクションで知られる。自身のお店である「Ogata Paris」、「Aesop」の店舗や5スターホテルの空間デザインなどを手掛けた。
「緒方さんは技法的には伝統的なものを使われるのですが、アウトプットされたデザインはとても現代的です。そこがすごくシックリきました。今回、当館のリニューアルを進めるに当たっては、普通はいきなりデザインから入る事務所が多いと思うのですが、緒方さんはコンセプトデザインから一緒に考えてくださったので、本当に良かったです。私のイメージを緒方さんにお伝えし、緒方さんからも沢山の提案を頂戴しました。本当に、詰めに詰めた結果がいまある姿になったのです」
以前の数寄屋造りからすると、完全な変貌を遂げた。4階のロビー階で、山田氏が考えた画期的なことがほかにもある。
「一般に旅館というのは、宿泊者しか施設には入って来ないのが当り前です。とても閉鎖的なのです。それを宿泊者じゃない方たちにも開放できないものかというのが、私の長年の課題でした。そこで、ロビー階にラウンジを作って、朝の9時から夕方の5時半まで、茶房を使った喫茶ができるようにしました。予約制でアフタヌーンティーもありますし、夏に向かってはカキ氷などのご用意もあります。地元の方たちにも気軽に使ってもらいたいのです」
ホテルのロビーじゃないのに、従来の旅館にしてみれば、まさに驚くべき発想だ。これも彼の思考が〝お客様ファースト〟に向かっているからこそ生まれてくるアイデアなのだろう。
ゲストルームの秀逸な和モダン
双子のお風呂には衝撃を受けた。ガラス窓の手前は内風呂、向こうがは外風呂で半露天になっている。その発想が凄い。
実は、4階のロビー階から順次下って3階から1階の客室も見事な和モダンに生まれ変わった。例えば1階のモダンスイートのお風呂のデザイン性には目を瞠(みは)った。ガラスの窓を境にして内風呂と外風呂の湯舟が双子のように、内と外に配置されている。もちろん、外風呂は半露天なのだ。しかも、サウナルームに水風呂まで完備しているというオマケ付きである。寝具にも自信があるという。
「金沢の布団屋さんでISHITAYAのものです。特に羽毛が相当な品質で、極薄なのにとても暖かいです」
確かに掛けていることを忘れるぐらいに軽く、存分な保温性がある。マットレスが硬いのも好みで、きわめて快適な寝心地だった。
懐石料理である夕食はそれぞれが素晴らしい。そのうちの一品「とらふぐの白子蒸し」は、白子の濃厚さが背徳的なほどに味蕾をかき乱し、長く記憶に残った。器は同年代の作家、吉田太郎氏との共作で花紫オリジナルのもの。
もちろん、食は夜も朝も素晴らしい。
夜は料理長の中村雅和氏の手による本格的な懐石である。地野菜、地元のお造り、蛤、海苔、能登牛に特別栽培のこしひかり……。石川県の海と山の恵みをふんだんに使った、どれもが味わい深い品々に感嘆の声をあげたくなる。能登鮪のお造りだって、醤油で食すのではない。上に載せられたのは海苔の佃煮だ。新しい食べ方である。ほかにも、とらふぐの白子蒸し、地蛤の飯蒸し、能登牛のローストが印象深かった。日本酒好きにとっては、あの中田英寿氏も一推しの地元・松浦酒造「獅子の里」や、白山の吉田酒造店「手取川」などの銘酒もズラリ。ついつい飲み過ぎてしまう。
「にほんの朝ごはん」は、一品一品に魂が宿る。七輪で焼くノドグロや蛍烏賊は干物だけに旨味が深く、出汁巻きたまごのジューシーな味の濃さに目が覚める。特筆すべきは地元のこしひかりの美味しさだ。4種の漬物や海苔の佃煮に至るまで吟味されているからたまらない。ご飯のお代わりは必至である。
朝食はおかずの一つ一つに心がこもっている。蛍烏賊やノドグロの干物を目の前の七輪で燻すのも格別で、漬物や海苔の佃煮に至るまで美味しい。特別栽培の白米と浅利椀が秀逸だった。
冒頭の若いスタッフたちの話に戻す。
「いまスタッフは半分以上が20代で、平均年齢は32歳です。最近は新卒採用にすごく力を入れてやっていますので、全国から入社志望者がやってきます。サービス業は大変で、特に旅館はそうしたイメージがあると思いますが、水曜と木曜を休館にして、働きやすい環境作りにも取り組んでいます。英語研修や茶道、華道、ソムリエによるドリンクの研修など、専門知識が養えますから、スキルアップも望めます。こういうところなら働いてみたいなと思ってもらえたら嬉しいですね」
実は、山田社長の〝野望〟は留まることを知らない。
「具体的にはまだ言えないのですが、昔からやりたかった新たなプロジェクトを考えています。発表までもう少々お待ちください」
山田 耕平 KOHEI YAMADA
石川県加賀市山中温泉にある老舗旅館「花紫」六代目当主。<wbr />2021年に創業120年を超える花紫を継承した。<wbr />10代の頃からストリートアートに傾倒し、Academy of Art University(サンフランシスコ)に進学、<wbr />アートとフォトグラフィーを学ぶ。帰国後はその感性を活かし、<wbr />2022年より花紫のリニューアルプロジェクトを始動。<wbr />館内には現代アートや工藝を展示し、<wbr />地元の若手作家を支援するギャラリーや、<wbr />日本文化に触れられる茶房を設けるなど、「<wbr />現代における日本の文化サロン」<wbr />をコンセプトとした空間やコミュニティを創出している。<wbr />豊かな自然と暮らしとものづくりが交差する山中温泉に可能性を見<wbr />出し、唯一無二の滞在体験を目指し、<wbr />新たな魅力を発信し続けている。
構成/執筆:石橋俊澄 Toshizumi Ishibashi
「クレア・トラベラー」「クレア」の元編集長。現在、フリーのエディター兼ライターであり、Premium Japan編集部コントリビューティングエディターとして活動している。
photo by Toshiyuki Furuya
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旅館の矜持 THE RYOKAN COLLECTION…
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Features
平安の避暑地・嵐山で出逢う、五感で愉しむ京の夏
2025.6.10
「星のや京都」夏の催しを開催。お囃子舟や納涼床、移ろう季節を楽しむ
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平安貴族の避暑地・嵐山に佇む、全室リバービューの旅館「星のや京都」では、8月31日(日)まで、夏の風物詩や古き良き京文化を味わうさまざまな催しを開催している。
書と雨音に浸る「雨づつみのすすめ」
窓を額縁にした絵画のような風景が広がるライブラリーラウンジでは、雨天時にのみ、振る舞いや書籍を提供。京都の書店「恵文社一乗寺店」がセレクトした“雨”にまつわる書籍が並ぶ空間で、雨音を聞きながら静謐な読書時間を楽しむことができる。
開催日 :2025年6月30日(月)まで
開催時間:15:00~18:00
料金 :無料
予約 :不要
※雨天時のみの開催
渓谷に響く音律「京のお囃子舟」
6月21日(土)、22日(日)、28日(土)、29日(日)の4日間限定で開かれるのが、京都の夏の風物詩である祇園囃子を優雅に楽しめる「京のお囃子舟」。祇園祭の鷹山が、山鉾から大堰川に浮かぶ屋形舟に舞台を移し、囃子を演奏。渓谷に響く音色を鑑賞した後は、囃子方とともに合奏に興じる貴重な体験も楽しめる。
開催日 :2025年6月21日(土)、22日(日)、28日(土)、29日(日)
開催時間:17:30~18:30
料金 :無料
予約 :公式サイトにて3日前までに要予約
※天候や川の状況により当日でも舟の運航中止、開催場所・時間変更の可能性があります。
文字に託す願い「奥嵐山の七夕体験」
7月1日(火)~10日(木)、8月21日(木)~31日(日)に開催されるのが「奥嵐山の七夕体験」。朝の静けさのなかで行われるこちらは、梶の葉に想いをしたため、七夕行事の供え物から発展したとされる素麺を旬の鮎のから揚げと共に楽しむ催し。自然の涼を感じながら七夕の風情を味わい、風流な時間を過ごすことができる。
開催日 :2025年7月1日(火)~10日(木)、8月21日(木)~31日(日)
開催時間:6:30~7:15
料金 :1名 6,050円(税・サービス料込、宿泊料別)
予約 :公式サイトにて7日前までに要予約
「水の庭」にしつらえる、夏季限定の納涼床
7月1日(火)から8月30日(土)まで、夏の星のや京都を象徴する納涼床が登場。光がやわらかく差し込み、青もみじが揺れる納涼床は、京都の夏の風物詩である川床を彷彿とさせる特等席。三浦照明による行灯や、京焼や京仏具職人による風鈴の音色も華を添え、目や耳から夏の涼やかさを感じることができる。
開催日 :2025年7月1日(火)~8月31日(日)※雨天中止
料金 :無料
予約 :不要
平安貴族の別荘地であった嵐山。雅な情景が息づくこの地で、風雅な滞在を楽しんでみてはいかが。
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京都通信
2025.6.6
【京料理講演会レポート第1回】伝統を守り、未来へつなぐ──たん熊北店三代目主人・栗栖正博氏が語る“和食”の真髄
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2025年5月14日(水)〜19日(月)の6日間、京都髙島屋S.C.にて「京都 食の博覧会」が開催されました。京のグルメを集めたこのイベントでは、京都府内各地の料理店・和洋菓子店のグルメやスイーツ、人気ベーカリーのパンなどが集結。特設スペースでは、日替わりで京都を代表する料亭3店による出汁の飲み比べ体験も行われるなど、伝統を受け継ぐ料理人たちの技と豊かな食文化を堪能できる絶好の機会となりました。
そして14日(水)〜16日(金)には、京の料理人による講演会も実施。伝承の技や和食の未来について、貴重なお話が繰り広げられました。京都通信では、その模様を3回にわたってお届けします。
たん熊北店 三代目主人の栗栖正博氏
栗栖正博氏[たん熊北店 三代目主人]──京料理の未来を見据えて
初日の講演を務めたのは、1928年創業の京料理店「たん熊北店」の三代目主人 栗栖正博氏。お話は、和食がユネスコ無形文化遺産に登録された経緯から始まり、日本における食と文化のつながりや、世界に広がる和食の可能性にまで及びました。
ユネスコ無形文化遺産登録と、その背景
講演の冒頭で語られたのは、2013年12月に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録された背景。実は当時、国内では、和食は保護・継承すべき日本の文化として位置づけられていなかったのだとか。和食の歴史や伝統を国内外に発信し続け、ユネスコ無形文化遺産にまで押し上げたことで、改めて評価されるようになったと言います。
印象的だったのは、フランス・リヨンで料理人たちと交流を持つなかで和食の魅力が評価され、それが文化遺産登録への後押しとなったというお話。
「日本の調理師専門学校のリヨン校で、和食の合宿のようなイベントを行いました。それをきっかけに現地の料理人たちが、和食の技術やうま味、道具、食材などに興味を持ってくれるようになったんです。翌年には関西で勉強会を開き、堺の包丁工房を訪ねたり、酒蔵や味噌蔵の見学をしたり。和食の基礎を徹底的に学んでもらいました。
そうして交流していくなかで、ヨーロッパのトップシェフたちの間で和食ブームが起こりました。なかには“別の惑星の料理のようだ”と言う人もいて。日本の食文化は、アジアのなかでも、ほかの国とまったく違った進化の仕方をしているので、そこに大きな関心が寄せられたんです。彼らが推薦してくれたおかげで、ユネスコ無形文化遺産の登録に向けて発信をすることができました」
和食文化の発展を目指し、世界のシェフとの交流や国内での食育などの取り組みを行うNPO法人日本料理アカデミーの理事長も務める栗栖氏。
京料理を形づくる「おもてなし」の心
海外のシェフたちにも評価された、日本の食文化の素晴らしさ。その神髄は、どこにあるのでしょうか。一体どのようなところにあるのでしょう。それは、おもてなしの文化。そして年中行事との結びつきだと栗栖氏は言います。
お正月のおせち料理やお雑煮、五節句にまつわる料理など、古くからの行事に根ざした食の形を通して、「おもてなし」の心や四季の美しさを表現する京料理の奥深さを教えてくださいました。
「節句というのは、季節の節目でもあるわけです。そういう時期は体調を崩しやすいですよね。昔の人は、病気の原因を邪悪なものが体に入ってくるせいだと考えていましたので、節句には邪気払いのためのもの——人日の節句(1月7日)の七草粥や上巳の節句(3月3日)の草餅、端午の節句(5月5日)の粽(ちまき)などを食べていたんです」
7月の八寸の一例。八寸とは酒肴のことで、茶懐石に端を発し、その名は8寸(約24cm)角の器に盛りつけられたことに由来する。
「私たちが店でお出しする料理やあしらいも季節ごとに変わってきます。たとえば7月には祇園祭の宵山の日に授与される厄除け粽を模して、笹の葉で包んだ寿司を用意。9月は菊を用いた厄払いが行われる重陽の節句(9月9日)にちなみ、菊をモチーフにした料理を仕立てます。
そして、お客様をお迎えする部屋の床の間には、季節の掛け軸をかけ、季節の花を生ける。部屋から見える庭の角度も考えて配置する。目で見て美しく、食べて美味しい。そしてお酒を飲んで楽しい。そんな“非日常”を作ることが、料亭のおもてなしなんです」
9月の八寸の一例。重陽の節句は宮中行事であることから、器には蒔絵が施された華やかなものが用いられている。
世界へ広がる和食の知と技──次代に向かって
栗栖氏が理事長を務めるNPO法人「日本料理アカデミー」では、これまで8年にわたって『日本料理大全』の編纂を進めてきました。和食の発展と和食文化を担う人材の育成を目指し、日本料理の成り立ちや精神、技術を日本屈指の料理人や学者が解説したもので、これまでに5巻を刊行。さらなる周知のため、京都府立大学と共同でインターネット上に「日本料理大全 デジタルブック(日本語版/英語版)」を公開しています。
「長年積み上げてきた日本料理の知識と技術を記録に残し、誰もが学べるようにしたい。ゆくゆくは“人間国宝”と呼ばれるような料理人が生まれるよう、土壌を整えていきたいですね」
たん熊北店では、料理人との会話を通して日本料理を深く知ってほしいという思いから、カウンター席を大切にしている。
栗栖氏による講演は、改めて和食の奥深さに驚嘆するとともに、この素晴らしい文化を未来に継承していくためには、一人ひとりがその歴史や伝統を理解し、魅力を共有することが大切だと認識し直す機会となりました。
次回は、7月上旬〜中旬に公開予定。5月15日(木)に登壇した「山ばな 平八茶屋」主人・園部晋吾氏の講演内容をお届けします。
京都の食文化を深く知る旅は、まだまだ続きます。
Text by Erina Nomura
野村枝里奈
1986年大阪生まれ、京都在住のライター。大学卒業後、出版・広告・WEBなど多彩な媒体に携わる制作会社に勤務。2020年に独立し、現在はフリーランスとして活動している。とくに興味のある分野は、ものづくり、伝統文化、暮らし、旅など。Premium Japan 京都特派員ライターとして、編集部ブログ内「京都通信」で、京都の“今”を発信する。
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投稿 【京料理講演会レポート第1回】伝統を守り、未来へつなぐ──たん熊北店三代目主人・栗栖正博氏が語る“和食”の真髄 は Premium Japan に最初に表示されました。
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京都通信
2025.6.27
京都で味わう夏の彩り──新緑や季節の花が美しい寺社5選
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初夏から夏にかけて、青々とした緑と季節の草花に彩られる京都のまち。木々の間から苔むす庭に差し込むやわらかな光、梅雨に濡れた紫陽花、水辺を涼しげに彩る蓮や睡蓮など、趣のある表情が訪れる人の心を癒してくれます。
◆青もみじが彩る静寂の庭園「圓光寺」
市内中心部から少し離れた洛北エリア・一乗寺にある圓光寺は、徳川家康が学問所として開いた歴史を持つ寺院。
紅葉シーズンは混雑必至のスポットですが、今の時季は観光客も少なめ。
色鮮やかな青もみじを眺めながら、静かで心安らぐ時間が過ごせます。
とくに美しいのは、青もみじと苔が緑のグラデーションを描く「十牛之庭」。
柱や鴨居を額縁に見立てて眺める“額縁庭園”としても知られています。
本堂から眺める「十牛之庭」。一枚の風景画のような美しさに、思わず息を呑む。
この十牛之庭は池泉回遊式の庭園で、庭に出て散策することもできます。
静かな境内にかすかに響く水琴窟の澄んだ音色や、苔の絨毯の上にちょこんと佇むお地蔵さまが心を和ませてくれます。
にっこり微笑む愛らしい姿に、思わずこちらも笑顔になってしまう。
庭園の奥に広がるのは、江戸時代の絵師・円山応挙が作品のモチーフにした竹林。
爽やかな風が吹き抜け、さわさわと葉を揺らす竹林の風情に癒やされます。
圓光寺(えんこうじ)
住所:京都市左京区一乗寺小谷町13
TEL:075-781-8025
拝観時間:9:00〜17:00
拝観料金:大人800円、小中高生500円
HP:https://www.enkouji.jp/
Instagram:@enkouji
◆涼やかな竹の緑が心を鎮める「地蔵院」
「竹寺」の名で親しまれる「地蔵院」は、洛西エリアの住宅街にひっそり佇む臨済宗の古刹です。
1367年に作庭家であり禅僧の夢窓国師が開山。一休禅師が幼少時を過ごしたことでも知られています。
新緑の木々に囲まれた山門。その奥に、見事な竹林が続いている。
山門をくぐった先に広がるのは、竹林と苔に包まれた静寂の世界。
参道沿いには、空に向かってまっすぐ伸びる青竹が連なり、風にそよぐ葉擦れの音や新緑の香りが心を満たしてくれます。
竹林に覆われた涼やかな境内。街から離れた立地ゆえに混雑も少なく、静かなひとときが堪能できる。
方丈前庭には、十六の自然石を羅漢(仏教において最高の悟りを得た聖者のこと)に見立てた枯山水庭園「十六羅漢の庭」が。
苔と石が織りなす静かな庭園を眺めながら、穏やかなときを過ごすことができます。
地蔵院(じぞういん)
住所:京都市西京区山田北ノ町23
電話番号:075-381-3417
拝観時間:9:00~16:30
拝観料:500円
HP:https://www.takenotera-jizoin.jp/
◆梅雨に映える紫陽花の名所「岩船寺」
梅雨の京都で、静かに心を潤してくれる場所──それが木津川市・当尾地域に佇む岩船寺です。
「紫陽花寺」として知られるこの寺を彩るのは、およそ5000株もの紫陽花。
原種の山アジサイや西洋アジサイをはじめとする約35品種が、境内を赤や青、紫色に染め上げます。
京都市街地から離れた場所ながら一度は訪れたい紫陽花の名所。例年6月下旬には紫陽花と睡蓮が同時に楽しめるのも魅力。
岩船寺の紫陽花は、昭和初期、荒廃した境内に美しさを取り戻そうと先代住職の手によって植えられたのが始まりだそう。
重要文化財に指定されている三重塔を囲むように咲く風景は、まるで絵画のよう。
しとしとと降る雨に濡れ、一層鮮やかな色を放つ紫陽花の美しさは格別です。
本堂前に置かれた睡蓮鉢の花手水。
また、紫陽花の花が浮かべられた花手水も見どころのひとつ。
毎日少しずつ入れ替わるので、その日によって異なる色合いが楽しめます。
〈紫陽花の見頃〉
6月上旬〜7月上旬
岩船寺(がんせんじ)
住所:木津川市加茂町岩船上ノ門43
電話:0774-76-3390
拝観時間:8:30~17:00(12月~2月は9:00~16:00)
入山拝観志納料:大人500円・中高生400円・小学生200円
HP:https://gansenji.or.jp/
Instagram:@gansenji_temple
◆“モネの睡蓮の池”を思わせる「大原野神社」
自然豊かな洛西エリアに位置する大原野神社は、印象派の画家クロード・モネの作品を連想させる風景が見られることで知られるスポット。
神社としての歴史も古く、遡ること1200年以上。桓武天皇による長岡京遷都の際、藤原氏の氏神である奈良春日大社の神々を分霊して創建され、別名「京春日」とも呼ばれています。
源氏物語にも登場する大原野神社。紫式部が氏神として崇敬していたことでも知られている。
“モネの睡蓮の池”が見られるのは、参道の途中にある鯉沢池。
5月中旬から8月下旬にかけて池一面に咲く白い睡蓮の花と、池に架かる太鼓橋が織りなす風景は、モネの名画「睡蓮の池と日本の橋」さながら。
午後には花が閉じてしまうので、午前中に訪れるのがおすすめ。
池のまわりはグルッと一周できるので、ゆっくり歩きながら涼しげな水辺の風景を堪能してくださいね。
〈睡蓮の見頃〉
5月中旬〜8月下旬
大原野神社(おおはらのじんじゃ)
住所:京都市西京区大原野南春日町1152
TEL:075-331-0014
拝観時間:拝観自由
拝観料金:無料
HP:https://oharano-jinja.jp/
Instagram:@oharanojinja.official
◆池に咲く蓮が見事な「法金剛院」
「関西花の寺二十五ヵ所」の第13番札所として知られる法金剛院は、通称「蓮の寺」とも呼ばれる蓮の名所。
境内には極楽浄土を表現した池泉回遊式庭園が広がり、大賀蓮や不忍斑蓮、漢蓮など約90種類にもおよぶ蓮の花が初夏から盛夏にかけて次々と咲き誇ります。
極楽浄土には青・黄・赤・白色の大きな蓮が咲くと言われている。それに因んで、境内には4色の蓮が集められている。
通常拝観は毎月15日のみですが、蓮が見頃を迎える7月には「観蓮会」が開かれ、朝7:30から開門。
静寂に包まれた庭園で、蓮の花がゆっくりと開いていく様子を間近で感じることができます。
苑池を埋め尽くすように咲く蓮のほか、礼堂前にズラリと並ぶ鉢植えも美しい。その数なんと120にも及ぶとか。
泥の中からまっすぐに茎を伸ばし、凛と美しく咲く蓮の花。
朝の澄んだ空気のなか、やさしい香りを漂わせながら開花するその姿を眺めていると、心が浄化されていくよう。ぜひ早起きして、朝一番に訪れてくださいね。
法金剛院(ほうこんごういん)
住所:京都市右京区花園扇野町49
TEL:075-461-9428
受付時間:通常は毎月15日の9:30~16:00のみ
観蓮会期間中は7:30〜12:00
拝観料:大人500円、小人300円
HP:http://houkongouin.com/
【睡蓮と蓮の違いとは?】
睡蓮と蓮は、どちらも水辺に咲く水生植物。姿形もよく似ていますが、葉の形や花の咲く位置に違いがあります。睡蓮はスイレン科で、水面に浮かぶように花を咲かせ、葉に光沢と切れ込みがあるのが特徴。日中に開花して、夕方になると眠るように閉じてしまうことから「睡蓮」と名づけられたそうです。一方、蓮はハス科で、水面より高い位置に花を咲かせ、葉には光沢や切れ込みがありません。早朝から咲き始め、昼頃には閉じてしまうので、早起きして観賞するのがおすすめです。
Text by Erina Nomura
野村枝里奈
1986年大阪生まれ、京都在住のライター。大学卒業後、出版・広告・WEBなど多彩な媒体に携わる制作会社に勤務。2020年に独立し、現在はフリーランスとして活動している。とくに興味のある分野は、ものづくり、伝統文化、暮らし、旅など。Premium Japan 京都特派員ライターとして、編集部ブログ内「京都通信」で、京都の“今”を発信する。
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
2025.5.29
伊勢神宮最大のおまつり 繰り返される祈り「式年遷宮」
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ドンッ、ドンッ、ドンッ。
時を知らせる太鼓の音が鳴り響いた瞬間、宮域内の空気がピンと張り詰めた。
令和7年5月2日。今回で第63回を数える伊勢の神宮の式年遷宮、その最初のおまつりとなる「山口祭」の開始を告げる太鼓の音が高らかに鳴らされ、続いて、神職をはじめとする奉仕員一同が、足並みを揃えて玉砂利を踏み締め歩く落ち着いた音とともに、粛々と参道を進んでいく。
20年に一度、すべてを新しくして大御神にお遷りいただくおまつり
式年とは、定められた一定の年限のこと、遷宮は、文字通りお宮を遷すという意味がある。神宮には、内宮、外宮ともに、東西に同じ広さの敷地があり、20年に1度、御正宮のある場所を改めて、古例のままに一から社殿を造営し、神様の衣服や調度品なども一新して、天照大御神をはじめとする神々にお遷りいただく神事が、古来脈々と続けられている。次に新しい社殿に神々がお遷りになるのは、令和15(2033)年。そのために、これから8年の歳月をかけて、さまざまな準備がされるという。
神宮の式年遷宮では、「物忌(ものいみ)」と呼ばれる童男、童女も奉仕員に加わる。
今回は、そんなわが国最大のおまつりである式年遷宮についてご紹介しよう。
神宮の式年遷宮は、第40代天武天皇のご宿願によって発案され、その遺志を引き継ぐ形で、持統天皇4年(690)に行われたことがはじまりとされている。以来、実に1300年以上にもわたり、遷宮が繰り返されてきた。
約1300年前からはじまり、2033年は63回目となる「式年遷宮」
なぜ20年なのか。これについては諸説あり、定説はないとされている。広く言われているのは、社殿が素木(しらき)造りで屋根も萱葺のため、耐久的な面からという説や、宮大工などの伝統技術を継承するために最適な年数とする説、他にも、穀物の貯蔵年限を定めた倉庫令の中で、米の備蓄年限––––ただし、米を蒸して乾燥させた糒(ほしいい=乾飯)の状態での保存––––を20年としているから、という説などがある。
興味深いのは、式年遷宮が定められた当時、すでに日本には、現存する世界最古の木造建築、奈良の法隆寺が建立されていたように、耐久性のある建造物を造る技術が伝わっていたということだ。それでもあえて、神宮では、弥生時代の穀倉に起源を持つ「神明造(しんめいづくり)」という建築様式を用い、20年に1度社殿を造り替え、そっくり同じ姿で新しくするという、世界に類を見ない継承のスタイルを生み出した。
その根底には、米を主食として命を繋いできた日本の風土や文化を守り伝え、神道の理想である「常若(とこわか)」、つまり、常に若々しく瑞々しい状態で神々をお祀りしたいという、古代の人々の強い願いが存在するのだろう。遷宮が繰り返されるたび、この国の人々は、日本の文化や祈りの原点に立ち戻り、古からの技術とともに、その精神も受け継いできたのである。
現在の御正宮に隣接する御敷地(みしきち)に立つ桜の古木。新たな御正宮は、この地に造営される。
天武天皇が何を願って式年遷宮を発案されたか、今となってはわからない。だが、未来は今の連続の上に成り立つもので、繰り返すという行為、営みこそ、実は1番に意味があり、永遠をも可能にするということを、神宮の式年遷宮は実証しているように思える。
最初の祭典「山口祭」では、遷宮で使う御用材の伐採と造営の安全を祈る
では、その式年遷宮は、具体的にどのように進められるのだろう。
神宮の式年遷宮に関する諸祭や行事は、全部で33。大きく3種類に分けられる。1つは、社殿造営の材料となる御用材に関するもの、次に社殿の造営に関するもの、最後に遷御(せんぎょ)、つまり、新しい社殿に御神体をお遷しするためのもので、冒頭で紹介した「山口祭」は、そのすべての最初のおまつりにあたる。
令和7年5月2日の午前8時に始まった内宮の「山口祭」では、途中で「饗膳(きょうぜん)の儀」が行われた。「饗膳」とは、振る舞いの膳に供えたごちそうの意味で、重大な祭典奉仕の祝い膳という。もとは京都の朝廷から派遣された造官使という使者を、神宮側がもてなしたのがはじまりだと考えられている。古式料理13品が用意される。
「山口祭」では、竹の丸い籠に入った白い鶏がお供えされる。これは「生調(いきみつぎ)」と呼ばれ、お供えした後は生かされるという。古代の中国で、土地の神を祀るのに白い鶏を供えた風習が伝わったと考えられている。
ちなみに「おまつり」とは、本来「祀る」の名詞形で、神様に告げまつり、たてまつる儀式のこと。「祭祀」「祭儀」「祭典」とも言い換えられ、神様にお食事などをお供えし、感謝や祈りを捧げる厳かな神事を指す。一般に「祭り」という言葉からイメージされる、神輿(みこし)を担ぐなどのにぎわいは、あくまでおまつりに付随する行事。神宮の式年遷宮に関する諸祭も、常の祭祀と同じように、静寂のなか、厳かに粛々と行われる。
式年遷宮で最初に行われる「山口祭」は、御用材を伐採するにあたり、まず「山口に坐(ま)す神」、つまり、山の入り口にいらっしゃる神様に、木の幹を使わせていただくことを申し上げ、作業の安全を祈念するおまつり。
外宮の「山口祭」での一場面。祭場は、外宮の背後に聳える高倉山の山口にあたる別宮、土宮(つちのみや)の東に設けられた。
新しい「御正殿」の御床下(みゆかした)に建てられる御用材を伐採する儀式「木本祭(このもとさい)」
さらに、「山口祭」と同じ日の深夜には、「心御柱(しんのみはしら)」となる御用材が、神域内の山中で伐り出される。この柱については、連載の第2回の冒頭で触れているので、詳しくはそちらをご覧いただきたいが、古来神聖視されている、この特別な御柱の御用材を伐る際は、秘儀である「木本祭(このもとさい)」が行われ、「木本(このもと)に坐(ま)す大神」にお供え物を捧げ、これから伐り奉(まつ)ることを申し上げるという。
「木本祭」の灯りとなる松明。開始を告げる太鼓の音もなくおまつりが始まり、浄闇のなかわずかな奉仕員が参進する様子から、このおまつりが、いかに厳粛に執り行われるかがうかがえる。
ちなみに、この御用材は、御正殿の御床(みゆか)下の中央に奉建されるまで、白布(はくふ)、清筵(きよむしろ=植物を編んでつくった敷物)、清薦(きよこも)で丁寧に包まれて、内宮、外宮、それぞれの域内に安置されることになる。
御用材の調達は、約2年がかりで行われる。その間、内宮、外宮の御神体を納める「御樋代(みひしろ)」と呼ばれる御器(みうつわ)や、その「御樋代」を納める船形の「御船代(みふねしろ)」など、まず御神体に関する御用材の伐採と、それに伴うおまつりや行事が行われ、その後、社殿の造営に関する御用材が伐り出されるという。
伐採された御用材は、水中乾燥を経て、風通しの良い乾燥小屋で、3年から7年の間自然乾燥させて加工。神宮では、御用材の加工を「木造(こづく)り」と呼び、造営開始の際は「木造始祭(こづくりはじめさい)」が行われ、造営作業の安全が祈念される。
内宮の別宮、瀧原宮(たきはらのみや)。奥にある瀧原並宮(たきはらのならびのみや)とともに、隣接して同じ広さの敷地があり、新たな社殿が造営される。
御用材のおまつりの後、社殿建築のおまつり、神遷しのおまつりへと続く
その後、遷御の5年前、今回で言えば令和10年に、新しい御正宮、つまり新宮(にいみや)が建てられる新御敷地(しんみしきち)で、一般に言う地鎮祭にあたる「鎮地祭(ちんちさい)」が行われる。以後、御正殿の御柱を立てる立柱祭(りっちゅうさい)や、御正殿の棟木(むなぎ)を上げる上棟祭(じょうとうさい)など、造営作業の進行状況に従って、造営に関する諸祭が、主に遷御の1年前から行われる。さらに、新宮が竣工すると、御正殿の御床下に「心御柱」を建てる秘儀、「心御柱奉建」や、新たな宮処となる大宮処に坐す神に、竣工の感謝を捧げる「後鎮祭(ごちんさい)」などが行われ、いよいよ遷御のときを迎えることになる。
式年遷宮の中核をなす「遷御の儀」は、天皇陛下がお定めになった日時に、浄闇(じょうあん=清らかな夜)のなか行われる。神宮では、式年遷宮に関する諸祭の、特に重要なおまつりに関しては、古来「御治定(ごじじょう)」、つまり、天皇陛下が日時をお定めになるという。続いて翌日、新宮にお遷りになった天照大御神に、はじめてお食事をお供えする大御饌(おおみけ)、さらに、天皇陛下より奉られる幣帛を奉納し、最後に、宮内庁の楽師たちによる御神楽(みかぐら)の奉納が行われ、8年にわたる遷宮諸祭は締め括られるのだ。
令和7年5月2日の午後8時から行われた、内宮の「木本祭(このもとさい)」の一場面。わずかな灯りと限られた奉仕員のみで厳粛に行われる秘儀に先立ち、神職をはじめとする奉仕員と神饌を祓う「修祓(しゅばつ)」が行われた。
変わることで継続できる、式年遷宮の意義
もっとも、正確には、神宮の式年遷宮はこれで終わりではない。内宮、外宮、両正宮の遷御に続いて、14の別宮(べつぐう)でも社殿が新たに造営され、1年あまりの月日をかけて、順次「遷御の儀」が行われるのだ。
加えて、式年遷宮にあたっては、社殿だけでなく、神様の衣服や服飾品、また社殿の設(しつら)えに用いる装飾品や、太刀や馬具、文具などの調度品も一新されるという。その数、714種1576点。この「御装束神宝(おんしょうぞくしんぽう)」と呼ばれる品々も、内宮、外宮の両正宮だけでなく、14の別宮すべてに奉献され、「遷御の儀」の前日に、檜の香が漂う新しい社殿を装飾するという。
注目すべきは、この「御装束神宝」のいずれの品々も、社殿同様、古来受け継いだ仕様を変えることなく、1300年もの長きにわたり踏襲され続けているということだ。神々に奉るにふさわしい意匠や最高の技術、材料を追求して作り上げられる品々は、「神宝調製者」と呼ばれる、当代最高の技術を持つ匠たちの手によるもの。それぞれが自分の持てる技を尽くし、至上の工芸品を作り上げながらも、神々の御料であることから、その作品に匠や作者の銘が刻まれることはない。「調製」とは、規格通りに作り上げること。神々に奉る品々は、真心をもって奉製にあたることが求められるのだ。
日々の祈り。稲作の暦に沿って、毎年繰り返される恒例のおまつり。そして、20年に一度の式年遷宮。
過去から今へ、そして未来へ。長い年月にわたるその継続が、「常若」の聖地を作っている。
Text by Misa Horiuchi
伊勢神宮
皇大神宮(内宮)
三重県伊勢市宇治館町1
豊受大神宮(外宮)
三重県伊勢市豊川町279
文・堀内みさ
文筆家
クラシック音楽の取材でヨーロッパに行った際、日本についていろいろ質問され、<wbr />ほとんど答えられなかった体験が発端となり、日本の音楽、文化、祈りの姿などの取材を開始。<wbr />今年で16年目に突入。著書に『おとなの奈良 心を澄ます旅』『おとなの奈良 絶景を旅する』(ともに淡交社)『カムイの世界』(新潮社)など。
写真・堀内昭彦
写真家
現在、神宮を中心に日本の祈りをテーマに撮影。写真集「アイヌの祈り」(求龍堂)「ブラームス音楽の森へ」(世界文化社)等がある。バッハとエバンス、そして聖なる山をこよなく愛する写真家でもある。
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北の大地で、学びと感動のリゾートステイを
2025.5.16
リゾナーレトマム、2泊3日で循環型農業を学ぶ夏限定プログラムを開催
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リゾナーレトマムでは、7月20日(日)~8月31日(日)の期間、夏休みの自由研究にもぴったりな、2泊3日の体験型宿泊プログラム「酪農Academy ~夏休みの自由研究~」を開催。約100ヘクタールの広大なファームエリアで放牧牛と触れ合いながら、酪農や循環型農業の仕組みを楽しく学べるほか、搾乳やアイス作りも体験できる。
酪農体験を提供する「ファーム星野」は、かつて700頭の牛が飼育されていた場所。その原風景を生かした「旅×農業」の循環型プロジェクトに取り組んでおり、北海道らしい美しい風景の中で多彩なアクティビティを提供している。
本プログラムの特色は、牛の生態を知る「事前レクチャー」に始まり、実際に牛を牛舎に移動させる「牛追い」や搾乳、餌やりなどの野外学習、さらに搾りたてのトマム牛乳を使ったアイス作り体験まで、生産から消費という酪農の一連の流れを理解できる点だ。
また、学びを通して気付いたことは「モーモーワークシート」に書き留め、項目に沿って書き記すことで、自分だけの酪農の自由研究が完成する仕組みだ。
参加対象は小学生とその家族。料金にはリゾナーレトマム2泊3日の宿泊に加え、朝食、体験一式、オリジナルエプロン貸出も含まれる。自由研究を“思い出”としても“学び”としても残せるプログラムは、家族の絆も深めるとっておきの時間になるはずだ。
◆リゾナーレトマム「酪農Academy ~夏休みの自由研究~」
【期間】2025年7月20日(日)~8月31日(日)チェックインまで
【料金】2泊3日小学生64,760円~、大人82,800円~(4名1室利用時1名あたり、税・サ込)
【含まれるもの】リゾナーレトマム宿泊2泊3日、朝食、モーモーワークシート、野外学習(事前レクチャー、牛追い、搾乳、餌やり)、アイス作りセット、オリジナルエプロン貸出
【定員】2家族まで(1家族当たり小学生は2名まで・最少催行人数 小学生1名より)
【予約】公式サイトにて10日前まで受付
【対象年齢】小学1年生~小学6年生
※動物防疫上の理由により、日本国内在住者でチェックイン当日から7日以内に海外渡航歴がある方、外国在住者でチェックイン当日まで日本での滞在日数が7日に満たない方は参加不可
※動物の体調により、実施できない場合があります 。
※牛追い体験・搾乳体験は対象年齢者のみ参加可能です。(大人1名同伴必須)
※当プログラムで提供するものはすべて日本語での対応のみとなります。
※天候によって内容が変更、または一部中止になる可能性があります。
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ポケモンたちと夢のビーチバカンスを
2025.5.15
グランド ハイアット 東京「ポケモン コラボレーション サマー 2025」
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グランド ハイアット 東京では、6月20日(金)~8月31日(日)までの期間限定で、「ポケモン コラボレーション サマー 2025」を開催。ピカチュウやラプラス、カビゴンたちと夏のバカンスを楽しめる特別宿泊プランが登場する。
巨大なラプラスやカビゴンのぬいぐるみがリゾート感を演出する1日1室限定の「ポケモン ビーチリゾート スイートステイ」は、広さ120㎡を誇る「チェアマン スイート」が舞台。
ディナーは、フシギダネをイメージしたバーガーや、ゼニガメのタルトなど、遊び心と美味しさを両立したルームサービスメニューを、朝食には、ピカチュウの焼き印が入ったフルーツパンケーキ付きのアメリカンブレックファストを用意。
宿泊者には、ビーチバッグやキャップなど夏のレジャーに最適な限定アメニティグッズが贈られるほか、ピカチュウやポッチャマのぬいぐるみを持ち帰ることができる。
よりカジュアルに楽しめるのが、1日5室限定の「ポケモン ビーチリゾート ステイ」。スタンダードタイプの客室のベッド周りには夏らしいポケモンのイラストが配され、ラプラスのぬいぐるみも持ち帰りOK。朝食はホテル1階の人気レストラン「フレンチ キッチン」のブッフェに、ピカチュウのパンケーキを特別にプラス。さらに、ビーチバッグ、キャップ、ビッグTシャツの3点も用意。
どちらのプランも、客室内のさまざまな場所に夏をテーマにしたポケモンたちのイラストがあしらわれ、ポケモンたちとリゾートステイを楽しんでいるような気分に。夏の思い出作りはもちろん、家族や大切な人の記念日にもおすすめだ。
©Pokémon. ©Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。
◆1日1室限定・ポケモン ビーチリゾート スイートステイ
【宿泊期間】2025年6月20日(金)チェックイン~9月1日(月)チェックアウト
【料金】1室2名利用時 550,000円~ ※価格は予約状況などにより変動
※1日1室限定。限定室数に達し次第終了。
◆1日5室限定・ポケモン ビーチリゾート ステイ
【宿泊期間】2025年6月20日(金)チェックイン~9月1日(月)チェックアウト
【料金】1室2名利用時 104,500円~ ※価格は予約状況などにより変動
※1日5室限定。限定室数に達し次第終了。
*宿泊希望日の3日前までに要予約
*キャンセルポリシーは予約時に公式WEBサイトにてご確認ください
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Features
ミシュランガイド選出のホテルにレジデンス型客室が誕生
2025.5.13
アートデスティネーション「⽩井屋ホテル」が⻑期滞在も可能な3 部屋のレジデンス型客室をグランドオープン
©Shinya Kigure
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今年、創業5周年を迎える群⾺県・前橋市のアートデスティネーション「⽩井屋ホテル」が、⻑期滞在も可能な3 部屋のレジデンス型客室を隣接建物内に増設し、2025年4⽉15 ⽇(⽕)にグランドオープンした。
301号室「valo」は、フィンランド語で「光」を表す明るい⾊調の部屋 ©Shinya Kigure
302号室「metsä」は、フィンランド語で「森」を表す落ち着いた配⾊の部屋 ©Shinya Kigure
⽇本を代表するファッション・テキスタイルブランド「minä perhonen(ミナ ペルホネン)」が監修した2 つの客室は、ブランドのオリジナルファブリックを張ったビンテージチェア、ベッドスローやカーテン、ミナ ペルホネン デザイナーの皆川 明⽒によるアートワークに⾄るまで、こだわりのインテリアの中で快適なひと時を過ごすことができる。
401号室「プレミアムレジデンス」は黒を基調とした部屋 ©Shinya Kigure
そしてもう一部屋、プレミアムレジデンスは、カッシーナをはじめ、ピエール・ジャンヌレ、ル・コルビュジェ、シャルロット・ペリアン、フィリップ・スタルク、イサム・ノグチ、ミゲル・ミラなど名だたるデザイナーによる数々の名作インテリアでコーディネーションされた客室。
3部屋とも光が注ぎ込むオープンスペースにベッドルーム、リビング、ダイニングキッチンの機能を取り⼊れ、バスルームにはドラム式洗濯乾燥機を常設。ベランダからは、群馬の名峰、赤城山を臨むことができる。
あなたもミシュランガイドに選出されたホテルで、優雅なホテルライフを満喫してみてはいかが。
◆⽩井屋ホテル
【所在地】群⾺県前橋市本町2-2-15
【電話番号】027-231-4618
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Stories
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日本のプレミアムなホテル
2025.4.28
パレスホテルが展開する「Zentis Osaka」は、まるで邸宅のような心満たされる空間
Photo by Stirling Elmendorf
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大阪・堂島浜にある「Zentis Osaka(ゼンティス大阪)」は、日本を代表する「パレスホテル東京」を運営する「株式会社パレスホテル」が展開する、地上13階、総客室数は212室(内スイートルームは2室)の宿泊主体型ホテルだ。宿泊主体型ホテルとは、大型バンケットホールや多数のレストランを持たない、最高の滞在のために工夫とサービスを追求するホテルを指す。ここではまるで邸宅で過ごすような滞在を体験でき、日頃の緊張を解放するような心地よさに包まれる。快適な滞在を追求した空間とおもてなしを紹介する。
デザイン性の高い空間と自然の融合。光と緑を感じる心地よさ
新大阪駅からタクシーで約15分の堂島浜にある当ホテルは、ビジネスでも観光でも利便性の高い好立地にある。
緑あふれたホテルの入り口からフロントへ進むと、2階のレストラン&バーラウンジへと続く大きな階段がある。
階段の奥には大きな窓に囲まれた、明るく緑を感じる宿泊者専用のゲストラウンジがあり、中央にはゆったりとしたソファ、さらに壁際には、PCを開いて仕事に集中できるようなボックス席もある。この心地よい空間は、まさに「邸宅のリビング」である。
ここは24時間使用できるうえ、無料のコーヒーや紅茶もあるので、客室とは気分を変えたいときなどにもぜひ活用したい空間だ。
またラウンジからガーデンへ出ることもできるので、テラス席で風を感じることもできる。
都会の喧騒を忘れさせてくれる、緑豊かなエントランス。
左手は1階エレベーターホール。ディスプレイでエレベーターがカモフラージュされているようだ。Photo by Stirling Elmendorf
宿泊者専用のゲストラウンジ。Photo by Stirling Elmendorf
Zentis Osakaの魅力の一つが、デザイン性の高い空間にある。「SIXTY SoHo New York」や「The Hari London」など、世界のラグジュアリーホテルのデザインを数多く手掛けてきたインテリアデザイナー、タラ・バーナード氏によって手掛けられた。共用スペースや客室、レストラン、ガーデンなどは、ブリティッシュテイストで統一感のある印象に仕上げられている。
スタイリッシュでありながらも決して奇抜ではなく、デザイン性が高いのにどこか温もりを感じられる、そんなデザインは多くの人の滞在を豊かにしているはずだ。
空間はコンパクトながら、計算され尽くされたインテリアの心地よさ
全212の客室は、コンパクトな「Studio」、広い窓辺の「Corner Studio」、ゆったりとした「Suite」の3タイプがあり、どの客室も温かみのある⾃然な素材や色を取り入れており、日本人アーティスト江原正美氏の作品がアクセントとなっているのが印象的である。
各部屋にはデスクワークがしやすいようにテーブルとチェアが置かれており、コンパクトながらも機能的な空間になっている。
また全室Apple TVが完備されており、Netflix やAmazon Primeなどのアプリにも接続できるので、⾃宅の延長線上の時間も約束されている。
さらにバスアメニティはオーストラリアの⾃然派スキンケアブランド「Hunter Lab」が並んでいるのもお伝えしておきたい。
「Studio」25㎡とコンパクトながら、機能的なインテリアは落ち着く空間だ。 Photo by Stirling Elmendorf
またホテル内には、「最高の身支度を整える場所」をコンセプトにした、宿泊者専用の24時間利用可能な多目的ルーム「Room 001」がある。ランドリーやアイロン、アイロン台、ネスプレッソのコーヒーメーカーのほか、デザインや大阪に関する書籍に加え、靴磨き師によるシューシャインサービス(有料)や、フレグランスアドバイザーが選んだその時の気分や季節にふさわしい香水が試せるフレグランスバーが設置されている。まさにここは美を得る空間だ。
宿泊者が24時間使用できる多目的ルーム「Room 001」。
「Room 001」はフィットネスルームと隣接している。
2階には、広々とした空間のバー&レストラン「UPSTAIRZ Lounge, Bar, Restaurant (アップステアーズ ラウンジ、バー、レストラン)」があり、朝食からランチ、アフタヌーンティ、ディナー、バーを楽しむことができる。
メニューの監修をする大土橋信也氏は、国内外の名店で修業を重ねて、2015年9月に「CRAFTALE(クラフタル)」のシェフに就任し、『ミシュランガイド東京2017』から『ミシュランガイド東京2024』まで8年連続で1つ星に輝いた実績を持つ。
フランス料理をベースにしているが、大阪の食文化を昇華させた遊び心を加えた、まさにここでしか味わえない料理である。
開放的なオールデイダイニング「UPSTAIRZ Lounge, Bar, Restaurant」。ここは一般客も利用できる。
朝食の小鉢セット。洋食を積極的に取り込んだ和食というだけあって、朝から栄養バランスが考えられた、体に優しい朝食。
2025年7月に、5周年を迎えることを記念し、2026年3月31日までアニバーサリープランを発表している。レストランでは5周年記念コースが楽しめる。
上質で快適なホテルステイを目指している「Zentis Osaka」での滞在は、心地よく快適なだけではなく、自宅にいるようなホッとできる空間でもある。きっとホテルスタッフのさりげない気遣いや、基本的には宿泊者しかいない安心感があるのかもしれない。
ぜひ大阪の定宿にしたい、そんなホテルである。
Text by Yuko Taniguchi
大阪府大阪市北区堂島浜1-4-26
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日本のプレミアムなホテル
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
2025.4.29
伊勢神宮を参拝するなら知っておきたい礼儀や知識あれこれ
桜の季節を迎えた内宮の宇治橋。
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先日行われた祭祀でのことだ。祝詞の奏上が始まってまもなく、ふいに風が起こった。サーッと音を立てて祭場を吹き抜けたその風は、しばらくするとぴたりと止み、今度は鳥の鳴く声が聞こえてきた。
神宮ではさまざまな音が聞こえてくる。川のせせらぎ、鳥のさえずり、そして、玉砂利を踏み締める音。参道を歩くたび、不思議と心が安らぐのは、人工的な音が耳に入ってこないこともあるのだろう。特に木々を揺らす風の音は、心身に溜まった塵芥(ちりあくた)を一掃し、清浄にしてくれるよう。「伊勢」の枕詞は、「神風や」。たとえば祭祀の最中に、ふいに一陣の風が吹き抜けたとき、そして、御正宮での参拝中に、風もないのに御幌(みとばり)が静かに上がったとき、ふと、「神風」という言葉が浮かんでくる。
今回は、そんなご神気あふれる神宮の参拝に関するあれこれを紹介しよう。
天皇陛下や皇族も、伊勢神宮では外宮から内宮へと参拝するのがならわしである
まず、神宮参拝にあたっては、外宮が先というならわしがあるのをご存知だろうか。
天皇陛下や皇族の方々も、内宮より先に外宮をお参りされるという。理由としては、主に2つの説が考えられている。1つは地理的な条件。現在のように、内宮と外宮の間に高速道路が通り、先に内宮からお参りできるようになったのは、実はごく近年のこと。
それ以前の、特に徒歩で参詣していた時代は、宮川を船で渡って伊勢に入るしか方法がなく、最初に到着するのが外宮だった。2つ目は「外宮先祭(げくうせんさい)」、つまり、神宮の祭祀がすべて外宮で先に行われることから、参拝の順序もそれに倣っているとする説だ。
ちなみに、この「外宮先祭」は、天照大御神が、自らの祭りの前に、まず外宮の祭りを行うように託宣されたと、『太神宮諸雑事記(だいじんぐうしょぞうじき=神宮の創建から平安末期までの主要事項が記された書)』に記されているという。
外宮の御祭神、豊受大御神(とようけのおおみかみ)は、天照大御神のお食事を司る神。
天照大御神が伊勢の地に鎮座されて500年ほど経った雄略天皇の御代に、天照大御神が天皇の夢に現れ、「丹波国、比治(ひじ)の真名井(まない)にいます御饌都神(みけつかみ=神饌の神)である等由気大神(とゆけのおおかみ)を、私の近くに迎えてほしい」と告げられたことから、現在の伊勢市山田地区にお宮を建て、等由気大神(豊受大御神)を迎えられたことがはじまりとされている。
ちなみに豊受大御神は、お米をはじめ、衣食住や産業の守護神ともされており、いわば、私たちの日々の営みを支えてくださる神様。やはり、両宮ともにお参りしたいところだ。
毎月1日、11日、21日の朝に行われる神馬牽参(しんめけんざん)では、神馬が菊の御紋の馬衣をつけ、両正宮にお参りをする。馬引(うまひき)に促され、ただ無心に神馬が頭を下げる姿は、本来の参拝のあり方を示しているよう。
神宮で個人的なお祈りはダメと聞くが、本当なのか?
もっとも、ここで気になるのが、神宮で個人的な願いごとをして良いか?という点である。
筆者自身、長年モヤモヤと抱えてきたこの問いを、今回、さまざまな文献を紐解きながら、改めて調べてみた。結果、やはりしない方が良いという結論に至った。その理由は、神宮は古来「私幣禁断(しへいきんだん)」、つまり、御正殿への幣帛(へいはく=神様へのお供え物)を奉るのは天皇だけという長い歴史があり、日々の祈りの内容も、皇室の繁栄と五穀豊穣、国の安泰と国民の幸せという、公の願いごとばかりだからだ。
つまり、私たちが日々平穏無事に暮らせるよう、知らないところで祈り続けてくれている、まずはそのことに感謝すべきだろう、と思うのだ。
なぜ神宮にはおみくじがないのか?
「一生に一度はお伊勢参り」と言われるほど、参拝できることが大吉
何より、先人たちも感謝の祈りを捧げてきた。そもそも、江戸時代に大ブームとなった「御蔭(おかげ)参り」も、人は日頃から、神仏や先祖、自然など、見えない何かの力添えや恵み、つまり「御蔭」を受けて生きており、それに対する感謝を表す気持ちから始まったという。
古来神宮におみくじが存在しないのも、お参りできること自体が、「御蔭」による幸せなこと、つまり大吉に相当するという信仰があり、おみくじを引く必要性がなかったからと聞く。それほど神宮参拝は、自ずと感謝の気持ちが湧き起こる、有り難い体験だったのだろう。
外宮の御正宮前で。御幌が静かに開くだけで、なぜかありがたい気持ちになる。
神宮を参拝することは、身も心も清め、清々しい気持ちであることが大切
一方、先人たちの言葉も参考になる。たとえば、鎌倉時代末期から室町時代初期にかけて生きた臨済宗の僧、夢窓疎石(むそうそせき)は、52歳のときに外宮を参拝。その際、当時の神職に私幣禁断の理由を尋ね、その答えを、自身の法話集『夢中問答集(上)』に記している。
それによれば、伊勢の神宮を参拝するときに大切なのは、精進潔斎をして身体を清め、神道で言う罪穢れに触れない「外清浄」と、胸中に名誉や利益の望みを持たない「内清浄」で、私幣、つまり個人的にお供え物を捧げることは、胸中にある望みを神様に祈っていることであり、「内清浄」とは言えないという。
つまり、真実の神宮参拝とは、肉体的な清浄である「外清浄」と、精神的な清浄の「内清浄」が1つになったときに実現する、というのである。
参拝は、手水で手を洗い、口をすすぎ、洗い清めるところからはじまる
さらに、南北朝時代の医師であり、連歌師でもあった坂十仏(さかじゅうぶつ)は、『太神宮参詣記』の中で、この「内清浄」と「外清浄」の考えをより深め、両者が1つになる境地に達すれば、神の心と自分の心の隔てがなくなり、神に祈ることはなくなる。これが真実の参拝だと記している。
なんとも難しく、また耳の痛い話で、自分がその境地に達するのは到底無理だと思わざるを得ないが、せめて参拝に臨むときは、まず手水舎で手と口を清め、長い参道を、心を清浄にする気持ちで静かに歩き、自分なりに御神前に向かう準備を整えるよう努めたいとは思っている。加えて、以前話をうかがった、とある水神を祀る古社の宮司の言葉も、肝に銘じていることの1つ。
外宮の宮域内の風景。北御門(きたみかど)口参道から、少し脇に逸れた小道を進んだ末社、大津神社の近辺は、深山に入ったような趣がある。
内宮の宇治橋を渡って、右手に見える神路山(かみじやま)は、季節ごとに色を変える。心静かに参拝する導入となる風景。
神宮はパワースポットなのか?
本来の自分の姿が最大のパワー。それを取り戻す場所が神宮なのだろう
「一般に、パワースポットという言葉がよく使われますが、パワーはいただくものではなく、本来はみんなが常に持っているもので、気がつかないだけです。しかも、日頃いろいろなものを見たり聞いたり触れたりすることで、その人本来の姿が隠れ、気が枯れてしまうんです。それを取り去って、本来の自分の姿に戻す。それが「身」を「削(そ)ぐ」、つまり禊(みそぎ)です。
人間は、自分本来の姿でいることが、生きる上で1番パワーがあるんです」–––。身も心も清浄にし、素の自分で御祭神と向き合う。参拝とは、すべてお見通しの神様の前で、素の自分をお見せする行為なのかもしれない。
もっとも、そんな小難しい理屈は抜きにして、ただ作法通りに、心を込めて2拝2拍手1拝をし、ありがとうございますと感謝の言葉を捧げるだけで、なぜか清々しく、さっぱりした心地になれるのも、お伊勢参りの不思議。試す価値はあると思う。
だが、それでも個人的な願いごとがしたい、そういう人は、神楽殿で御饌(みけ)や御神楽(おかぐら)を上げてはどうだろう。御饌は、神饌をお供えし、奏上される祝詞を通して私たちの願いごとを天照大御神に取り次いでいただくこと。一方御神楽は、御饌とともに雅楽を奏し、舞楽を加えて御神慮をお慰めするという、丁寧にご祈祷を行うことを指すという。実は筆者も、先日御神楽を上げさせていただいたばかり。
その際、神事の後で、神様にお供えされた神饌の御神酒や御米、御塩などを分けていただくとともに、––––これを食することで、神様の御蔭をいただく「直会(なおらい)」となる––––授与されたのが、お神札(ふだ)だった。
時折、風が木々を揺らす音に包まれる。内宮で。
内宮の宮域内にも、小さな自然が息づいている。さまざまな自然に触れ、神域の空気と少しずつ同化して、御正宮へと向かう。
お神札(ふだ)やお守りは神宮と私たちを繋ぐ絆である
神宮のお神札は、「神宮大麻(たいま)」と呼ばれている。「大麻」は、祓いの道具を意味する「おおぬさ」とも読み、古くは伊勢の御師(おんし)、つまり、「御祈り師」と呼ばれる神職が、ご祈祷を行ったしるしとして、大麻を和紙に包んだり、箱に納めたりして渡したのがはじまりとされている。
もっとも、この時代に御師たちが行っていたご祈祷は、神道で言う罪や穢れを祓うための祝詞『中臣祓(なかとみのはらい)』を唱えることによってなされていたと考えられ、その証として、ご祈祷に用いた祓いの道具、つまり大麻を象った祓串(はらいぐし)を、回数に応じて願主に渡していたという。
神宮のお神札が、江戸時代まで「御祓大麻」、「お祓いさん」などと呼ばれていたのは、多いときで千度、万度と、お祓いの詞を唱えてご祈祷されたからだったのだ。だが、明治4年(1871)に御師の制度は廃止。その後、大麻の奉製は、すべて神宮によって行われるようになり、名称も「御祓大麻」から「神宮大麻」に変更されたという。
ちなみに、筆者が御神楽を上げた際に授与されたのは、長方形の木箱に納められたお神札。これは、「箱大麻」「神楽大麻」「お万度さん」とも呼ばれ、昔からの御祓大麻の伝統の姿をとどめているという。
かつて御師たちは、箱の中にお神札や神宮暦などを入れて諸国の神宮崇敬者たちに配り歩き、授与された人々は、その箱を畏れ多いと、高いところに棚を作り安置した。これが、現在の神棚のはじまりと考えられ、箱は「御祓箱」と呼ばれていたという。
現在不要になったものを廃棄する意味として、御祓箱という言葉が使われるのは、本来はお神札が入った御祓箱を、毎年暮れに新調する際、古い箱が不要になることから使われるようになったと言われている。
お神札のご用材を切り始めるにあたって行われる「大麻用材伐始祭(たいまようざいきりはじめさい)」が行われる祭場。
「大麻用材伐始祭」の最後では、素襖烏帽子姿の工匠3名が、神路山の方角に向かって、手斧を左・右・左と3回振り下ろす所作を行う。
4月には一年の神宮大麻の木を伐り始める儀式
「大麻用材伐始祭(たいまようざいきりはじめさい)」が執り行われる
神宮では、そんな神宮大麻のご用材を伐り始めるにあたって、毎年4月中旬に「大麻用材伐始祭(たいまようざいきりはじめさい)」が行われている。
もっとも、祭場は、かつて御料地からご用材を求めていた伝統に従って、内宮に近い山々に囲まれた場所に設けられ、神宮大宮司をはじめ、職員や関係者が参列するなか、御山から木をいただくことを山の神にご奉告し、作業の安全を祈願する神事が執り行われる。
冒頭の風は、この祭祀の最中に起こった。御祭神であっても、山の神であっても、神職が奉仕する姿は、常と変わらず丁寧に、だが、すみやかに、粛々と。祀られる山の神も、さぞお喜びになっていることだろう。
お神札は、家庭や会社を神々に守っていただく御守りのような存在という。たとえお参りに行けなくても、神宮とのご縁がつながっているようで、我が家の心強い存在となっている。
1月上旬に行われる大麻暦奉製始祭(たいまれきほうせいはじめさい)では、その年最初の神宮大麻に、神宮の印章である御璽(ぎょじ)を捺され、お札の奉製が始められる。
Text by Misa Horiuchi
伊勢神宮
皇大神宮(内宮)
三重県伊勢市宇治館町1
豊受大神宮(外宮)
三重県伊勢市豊川町279
文・堀内みさ
文筆家
クラシック音楽の取材でヨーロッパに行った際、日本についていろいろ質問され、<wbr />ほとんど答えられなかった体験が発端となり、日本の音楽、文化、祈りの姿などの取材を開始。<wbr />今年で16年目に突入。著書に『おとなの奈良 心を澄ます旅』『おとなの奈良 絶景を旅する』(ともに淡交社)『カムイの世界』(新潮社)など。
写真・堀内昭彦
写真家
現在、神宮を中心に日本の祈りをテーマに撮影。写真集「アイヌの祈り」(求龍堂)「ブラームス音楽の森へ」(世界文化社)等がある。バッハとエバンス、そして聖なる山をこよなく愛する写真家でもある。
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星のやに泊まる、星のやを知る
2025.4.11
「星のや沖縄」宿泊記 その3 沖縄の伝統工芸、芭蕉布の魅力に触れる特別プログラムを体験
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「非日常」をテーマに、各施設それぞれが独自のホスピタリティでゲストを迎える「星のや」。そのホスピタリティのひとつが、ゲストが参加する多彩なプログラムです。土地の文化や伝統をベースにして作り込まれた各プログラムは、「星のや」の新たな魅力となっています。
「星のや沖縄」宿泊記の第3回では、国の重要無形文化財・喜如嘉(きじょか)の芭蕉布の美しさと品格に触れる特別プログラム「涼風を装う芭蕉布サロン」と、その開発に携わった「星のや沖縄」のスタッフにフォーカスしていきます。
「星のや沖縄」で体験する、芭蕉布の魅力に触れる特別プログラム
沖縄の風土と歴史が育んだ、いわば沖縄の伝統工芸の象徴ともいえる芭蕉布。沖縄本島北部の大宜味村(おおぎみそん) 喜如嘉(きじょか)へ足を運び、こうした芭蕉布の工房を訪れ、すべて手作りで行われる製作の現場を見学し、作り手から直接話を聞くことができる特別プログラムが、「星のや沖縄」に誕生しました。
「涼風を装う芭蕉布サロン」とネーミングされたこのプログラムでは、工房見学だけでなく、芭蕉布を仕立てた羽織を実際にまとう涼やかな着心地体験や、芭蕉布の衣裳を身に着けた踊り手による、琉球古典舞踊を鑑賞するなど、充実の内容で構成されています。
糸芭蕉が生い茂る、大宜味村喜如嘉の畑
2メートルから大きいものは3メートルを超えるくらいでしょうか。糸芭蕉が幅1メートルほどの小径の左右に連なって茂り、それが奥の方まで続いています。風に揺れる葉の先端は白く枯れ、幹の表面の一部は剥がれ落ちようとしています。初夏を思わせる光が振り注ぐ2月下旬、沖縄本島北部の大宜味村(おおぎみそん)喜如嘉(きじょか)では、糸芭蕉の収穫が最後の時期を迎えようとしていました。
芭蕉には、実芭蕉、花芭蕉、糸芭蕉の3種類があり、芭蕉布の素材となるのが糸芭蕉。ちなみに、実芭蕉に実るのがバナナ。また、芭蕉は木ではなく多年草に属し、幹のように見えるのは、実は一枚一枚の葉の根元が重なってできた茎で、植物学的には「偽茎」と呼ばれる。
糸芭蕉の収穫、それは文字通り「糸」にする繊維の収穫で、その繊維を繋いだ糸を織ってできあがるのが芭蕉布です。薄く張りがあり、さらりとりした肌触りで、高温多湿の南国にはなくてはならない風通しのよい生地は、琉球王朝時代には王族が身に着けるだけでなく、中国や日本への最上の貢ぎ物として重宝されてきました。
古くから喜如嘉の女性たちが担ってきた芭蕉布は、第二次世界大戦前後の混乱期に一時期衰退したものの見事に復興を遂げ、「喜如嘉の芭蕉布」として1974(昭和49)年に国の重要無形文化財に指定されました。また復興に向けて中心となって尽力した平良敏子さんも、2000(平成12)年に人間国宝に認定されました。
風通しがよく、薄く張りがある芭蕉布は「トンボの羽」とも称され、琉球王朝時代は王族の夏の装いにも用いられていた。現在では夏のお洒落着として、着物愛好家にとっての垂涎の一着となっている。
4年の歳月をかけて、芭蕉布プログラムを構築
喜如嘉に同行してくださったのは、このプログラム開発の中心となった「星のや沖縄」の松原未來さんです。
「沖縄を代表する工芸のひとつである芭蕉布を、なんとか『星のや沖縄』のプログラムに取り入れたい。そう思って、喜如嘉を訪れたのが4年前のことです。その頃は、人間国宝の平良敏子さんもご存命でしたが、プログラムの内容に関しては主に、義娘の美恵子さんとご相談させていただきました」
「人々の生活から生まれた、沖縄の暮らしに根付いた布であること。すべての工程が手作りであり、糸芭蕉を栽培することから作業が始まること。芭蕉布がそうした布であることをゲストの方々が実感し、しかも博物館に展示されている美術品としてではなく、実際にまとい、その素晴らしさを体感していただく。そのためにはどうすればよいかをいろいろ考えました」
「涼風を装う芭蕉布サロン」をはじめ、さまざまなプログラムを開発してきた松原未來さん。「星のや沖縄」の庭園には、糸芭蕉や実芭蕉をはじめとする亜熱帯の植物が生い茂る。プログラム参加者は、まずは「芭蕉布インビテーション」として、施設到着後にこの庭をスタッフの案内のもとで巡り、植物としての芭蕉の特性などの基礎知識を得る。(写真は「星のや沖縄」の庭園にて)
松原さん自身も芭蕉布の歴史や作業手順を勉強するために、「星のや沖縄」から車で2時間弱かかる喜如嘉まで何度も足を運びました。松原さんの熱意に打たれ、平良美恵子さんも次第にいろいろなアドバイスを授けてくれるようになったそうです。
「繊維と繊維を繋いで糸にする『苧績み(うーうみ)』と呼ばれる作業や、その糸を用いて織る作業に適した時期は、湿度の高い5月から6月です。作業に携わる方々にとって一番適した時期に、ゲストにその作業を見ていただきたい、という事からプログラムの期間を3月から6月までとしました」
「見学できる工程は、その日の作業内容によって異なってきます。工房見学というと普通は『織り』の部分を注目しがちですが、芭蕉布の場合はその前の段階で幾つもの手作業があり、それがとても大切であることをわかっていただけたら、と思います」
松原未來さんは2020年の開業時から、スタッフとして「星のや沖縄」のさまざまな業務に携わってきた。現在ではプログラム開発を主に行う一方で、支配人として施設全体を統括する役割も担う。
「星のや沖縄」から車で2時間弱。喜如嘉は海沿いの静かな村
「芭蕉布会館」には、芭蕉布を織るのに用いる道具や、財布やバッグなど芭蕉布を素材とする小物も展示販売されている。
このプログラムでは、まず喜如嘉に設けられた「芭蕉布会館」へ向かいます。館内に展示されている芭蕉布制作に用いる道具や、作業現場を記録した映像などを観て、芭蕉布の概要を把握した後は、平良敏子さんが設立した「芭蕉布織物工房」を特別に見学。
工房には数台の高機(たかはた)が並び、そのうちの幾つかでは織り手が作業を行っていました。筬(おさ)を打ち込む手織り機独特の音が、リズミカルに響いてきます。少しづつ出来上がってくる芭蕉布の美しさに見とれていると、「芭蕉織物工房」の平良美恵子さんから声がかかりました。
「畑へ行きましょう。芭蕉布を知るには、まず畑を見ることから始まります」
芭蕉布作りは畑仕事から。「織り」はすべての作業の1割にも満たない
平良さんの案内で、糸芭蕉の畑に分け入ります。平良さん自ら行う「苧倒し(うーとーし)」と「苧剥ぎ(うーはぎ)」の作業を、近くから拝見します。糸芭蕉を切り倒し、根元から皮を剥いでいきます。皮は一番外側から芯の部分まで4つに分けられ、着物の生地になるのは3番目の一番上質な部分だそうです。切り倒した糸芭蕉から滲み出た樹液で平良さんの指先が赤く染まっています。作業の合間に平良さんが語ってくれました。
切り倒した糸芭蕉の皮を剥ぐ「苧剥ぎ(うーはぎ)」を行う平良さん。一番外側の皮は、座布団やテーブルクロスなどに使われる。(見学できる内容は、プログラムの実施時期や工房で行われている作業によって、その都度異なります)
「布を織るのは当り前の作業です。それよりも、原材料をすべてこの喜如嘉周辺でまかなっている、ということが大切なのです。糸芭蕉を3年かけて育て、そこから繊維を採り、『績む(うむ)』と呼ばれる作業で糸にして、縒りを掛けて丈夫にした糸を染め、その前後にも数多くの作業を経て、ようやく『織り』に到達します。『芭蕉布作りは畑仕事から』と言われていますが、まさにその通りで、『織り』は全体の1割にも満たないパートです」
糸をねじり合わせて強くする「撚り掛け(よりかけ)」に使う糸車の横に座る平良さん。手にしているのは、菅串に手作業で繭状に巻かれた、緯糸(よこいと)用の地糸。
糸芭蕉の畑に油かすや牛糞などの堆肥を撒いたり、「葉落とし」と呼ばれる剪定のような作業を行ったりと、良質な繊維を採るためには、日ごろの手入れがとても重要。その一方で、1本の糸芭蕉から採れる上質な繊維は約5グラム、1反の布を織るにはおよそ1キログラム、つまり200本の糸芭蕉が必要となるそうです。こうした気が遠くなるような作業を、喜如嘉の女性たちは連綿と続けてきました。
「工房では、糸芭蕉の繊維が糸となり、その糸が芭蕉布になっていくすべての行程を見ることができます。現在、綿糸や絹糸などの、大半の糸の原材料は海外産で、それを輸入して糸に加工し、織元はその糸を仕入れて工場で織っています。それとは正反対の、しかもモーターを一切使わない織物の原点の姿が工房には残っています」
高機が並ぶ工房内。畑仕事から織りまで、すべての作業にスタッフ全員が関わり、力を合わせて芭蕉布を作りあげていく。
「星のや沖縄」に戻り、羽織に仕立てた芭蕉布をまとう
工房で黙々と作業を進める女性たちの姿を目の当たりにし、頭が下がる思いを抱き『星のや沖縄』に戻ります。板張りの道場に、芭蕉布を仕立てた羽織が運ばれてきました。驚くほど薄いのに張りがあり、「トンボの羽」と称されてきたことに納得。福木染ならではの品格を感じさせる黄色は、陽の光を受けて黄金色にも見えます。
「御田無(ウンチャナシ)」と呼ばれる羽織の一種をまとう。先ほど目の当たりにした地道な作業が、こんな軽い布になったかと思うと、感動もひとしお。(©Hoshino Resort)
「喜如嘉の工房での地道な作業の積み重ねが、こうした素晴しい布を生み出します。およそ2時間の短い時間での体験ですが、地道な作業を目の当たりにしたことで、その素晴らしさをより実感していただけるのではないでしょうか」
プログラムの開発にあたった松原さんはそう語ります。
展覧会で展示されるほと貴重な芭蕉布の衣裳をまとった踊り手による、琉球古典舞踊を見学。美しい舞と三線の音色に酔いしれる。(©Hoshino Resort)
琉球文化にリスペクトを払い、それを現代に昇華して新たなプログラムを考案
「芭蕉布だけでなく、染織でいえば紅型や、読谷村(よみやんそん)のやきものなど、沖縄にはさまざまな伝統工芸が脈々と続いています。紅型ややきものを題材としたプログラムは、すでにいくつか実施してきましたが、これからも新たなプログラムを創り続けようと考えています。たとえば、沖縄には琉球王朝時代から続く重陽の節句の行事があります。家族の健康と長寿を願うその行事をベースにして、新たなプログラムを組み立てることができれば、と考えています」
幸いにも、沖縄には伝統工芸以外に、数多くの文化や風習が根付いています。そうした文化や風習にリスペクトを払いつつ、そのエッセンスを現代に昇華していくことができれば、と思います」
沖縄には石塁や土塁で囲まれた「グスク」と呼ばれる史跡が点在しています。「グスク」の石塁を模した「グスクウォール」に囲まれた「星のや沖縄」のテーマは「グスクの居舘」。かつて「グスク」内で、さまざまな琉球文化が花開いたように、「グスクの居館」では、琉球文化を現代に昇華させた多彩なプログラムが生まれ、それが新たな非日常をもたらしています。
西の空を茜色に染めながら太陽が沈んでいく。一年中24時間利用可能なインフィニティプールで遊ぶゲストも、しばし時を忘れて、美しい夕陽を見つめている。
◆星のや沖縄「涼風を装う芭蕉布サロン」
・開催日 2025年3月1日~6月30日
・料金 1名 265,000円(税・サービス料込)*宿泊料別
・含まれるもの 芭蕉布インビテーション、芭蕉布会館や工房の見学、琉球古典舞踊の鑑賞、ンチャナシ試着体験
・予約方法 公式サイトにて2週間前まで受付
・定員 6名(2名から実施)
・対象 星のや沖縄宿泊者
・備考 見学できる作業内容は、実施日によって異なります。
◆沖縄ラグジュアリーの最高峰 「星のや沖縄」とは
沖縄に残る数少ない自然海岸沿い約1㎞にわたって、低層階の客室棟で構成される「星のや沖縄」。全4タイプ全100室の部屋のうち、最上級スイートは4室、ドッグ対応可能の部屋も1室用意。
広大な敷地内には、フロント機能のほかにショップやライブラリー、ラウンジを備えた「集いの舘」、スパ施設、琉球空手を習う道場など、さまざまな施設が機能的にレイアウトされています。
最大級の海辺カフェとして、宿泊客以外も利用できる「バンタカフェ by 星野リゾート」や、ステーキやシーフード、ハンバーガーなどのメニューが豊富な「オールグリル」も、人気を博しています。
徒歩10分のところには、村営の「ニライビーチ」があります。自然の海で泳ぐのも、プールとは異なる楽しさです。。
text by Sakurako Miyao
photography by Azusa Todoroki
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鹿児島の「宝」を巡る旅
2025.4.4
日本一の荒茶生産地鹿児島で、海外を見据えた挑戦を続ける「池田製茶」と「鹿児島堀口製茶」
美しい緑が続く、南薩地方の茶畑。背後に聳える美しい稜線の山は、薩摩富士とも呼ばれる開聞岳。
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豊かな自然と、そこで暮らす人々の知恵が結びついたとき、その土地にはさまざまな「宝」が生まれる。鹿児島県の各地で生まれ、光り輝く数々の「宝」。それらは今や、世界が注目する存在になりつつある。
「南の宝箱 鹿児島」を巡る旅。今回は荒茶生産量で2024年度に日本一となった鹿児島県で、とりわけ注目を集める2つの製茶舗、「池田製茶」と「鹿児島堀口製茶」を訪ねた。また、クラフトビールのひとつとして試みた「抹茶ビール」が好評な、鹿児島市内のバーを紹介する。
2024年度、鹿児島県が荒茶生産量でついに日本一を達成
2025年2月、嬉しいニュースが鹿児島県に飛び込んできた。2024年度の荒茶の生産量で、ついに鹿児島県が静岡県を抜いて全国一位になったと、農林水産省が発表したのだ。荒茶とは、茶畑で摘んだ茶葉を加工したもので、いわばお茶の一次加工品。
荒茶の生産量が日本一となったことは、鹿児島県が日本一の茶処となったことを物語っている、と言っても過言ではない。また、世界的な抹茶ブームが示すように、日本産の、とりわけ鹿児島産のお茶が世界で広まりつつある。今回訪ねた「池田製茶」と「鹿児島堀口製茶」は、荒茶生産量日本一と鹿児島産のお茶の世界進出の両方に、大きな枠割を果たしている製茶舗といえるだろう。
池田製茶
「茶師十段」の称号を持つ、茶葉の目利きが仕上げる極上の茶
「池田製茶」の池田研太さんが茶葉のテイスティングを行っている。テーブルは、煎茶や碾茶(てんちゃ)など、さまざまな種類の茶葉が用意されている。慣れた手つきでテイスティングを進めながら、池田さんは語る。
「茶葉の優劣を決めるポイントは形状、色沢、香気、水色、滋味の5つです。同じ煎茶でも、浅蒸しか深蒸しかでまったく味わいは違います。また、茶葉そのものも、同じ種類であっても県内の生産地によって味は変わってきます。それを見極めてこそ、品質の高いお茶が出来上がります」
テイスティングを行う池田さん。JR九州が運行するクルーズトレイン「ななつ星」車内でも茶室を担当。スイートのゲストは池田さんが淹れる、極上の茶を味わうことができる。
池田さんが丁寧に淹れた3種類の茶は、確かに香り、色、味すべてが違い、それぞれが特徴を持っていた。日本茶の世界の奥深さが垣間見えた瞬間だった。
池田さんは、「池田製茶」の社長のほか、茶師十段の肩書を持つ。茶師十段とは、「全国茶審査技術競技大会」の結果をもとに授与される、茶審査鑑定技術における最高位の称号で、この制度が開始されてからのおよそ70年の歴史のなかで、若干名しか取得者が出現していない、極めて取得が難易な称号である。
中央の皿に入っているのが、高級抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)。しっとりとした柔らかな茶葉は、一番茶ならではの風合い。
テイスティングの際には、100度近い湯を注ぐことが基本とのこと。茶葉の違いで、水色も大きく異なるのが、一目瞭然。
目利き、ブレンド、焙煎。おいしさを決める3つプロセスに関わるのが「茶師」
「池田製茶」は自前の茶畑を持たず、鹿児島県各地の生産者から茶葉を目利きして仕入れ、ブレンド、焙煎まで手掛ける製茶舗だ。「目利き」に始まり、茶師十段の池田さんの卓抜の技による「ブレンド」と、旨みを最大限に引き出す「焙煎」を自社工場で行うことによって、さまざまな味わいの茶を生み出している。
「どの産地でどのように栽培されたかを確かめながら品質を見分け、それぞれを絶妙の配分でブレンドしていくことも大切ですが、焙煎もとても重要な工程です。焙煎の程度の差で、アミノ酸、カテキン、カフェインそれぞれの引き立ち方がまったく変わってきます。それが、味や香り、水色などに大きく関わってきます」
「このように、仕入れ、ブレンド、焙煎の3つのプロセスで、それぞれ細心の注意を払わないと、よいお茶はできません。『茶師』として茶葉に磨きをかけ、おいしいお茶に仕上げる。それが私たちの仕事です」
「池田製茶」は、海外における抹茶のニーズの高まりに対応すべく、抹茶専用工場も建設。現在では、煎茶工場と抹茶工場のふたつを持つ、鹿児島では唯一の製茶舗となった。抹茶工場では、一般向けの抹茶は巨大な粉砕機が用いられるが、茶道で使われる最高級の抹茶は、石臼を用いて丁寧に挽かれる。
1台の石臼が挽くことができる高級抹茶は、1時間でわずか40グラム。この数字が、抹茶がいかに貴重なものかを物語る。
茶葉を焙煎する香りに包まれて育った幼少時代
「池田製茶」は、鹿児島市の中心地である天文館で1948年から製茶舗を営んでいた。池田さんで三代目にあたる。
「天文館で祖父が開いた製茶舗は、自宅も兼ねていましたから、幼いころから茶葉を焙煎する香りに包まれていました。茶に誇りを持って日々働いている祖父の姿を見て育ち、自分も迷うことなく茶師の道に進みました」
天文館の店舗を大幅リニューアルすると同時に、新ブランド立上げ
2021年、池田さんは「池田製茶」の天文館店舗を大幅リニューアルし、同時に「池田選茶堂」という新たなブランドを立ち上げた。モダンな趣の店内には、池田さんが丹精込めて作り上げた数々のお茶が、洗練されたパッケージとともに、美しくディスプレイされている。
暖簾に描かれたシンボルマークは、その昔、鹿児島の地でオリジナルブレンドティを楽しんでいたであろう異人の姿を空想してイラスト化。
池田さんのスぺシャリテともいえる「知覧 華」はじめ、「玉露」「浅蒸」「深蒸」などから「玄米茶」まで、多種多彩な茶が並ぶ。また、店舗の奥には瀟洒なカウンターが設けられ、そこでは、月毎に茶葉を変えた水出し茶の試飲をすることもできる。
初代から引き継いだ香りをベースに、配合比や火入れ加減など試行錯誤し辿り着いた「知覧 華」は、「池田選茶堂」のフラッグシップ的存在。
店舗奥のカウンターでは、月替わりに茶葉を変えた水出し茶を試飲することができる。一枚板のカウンターはバーのような趣。
「IKEDA」ブランドを広めるために、イタリアにも会社を設立
「茶舗というと、大きな茶箱がずらりと並んだ昔ながらの店構えが普通ですが、新ブランドを立ち上げた際には、ロゴマークなども一新し、店舗もセレクトショツプとカフェが合体したような雰囲気にしました。また、世界的な抹茶需要の増大に対応するために、県内初の抹茶専用工場を建て、2024年にはイタリアに会社を設立しました。今後はヨーロッパで『IKEDA』ブランドを広めていきたいと考えています」
プライベートではトライアスロンにも出場する池田さん。前を向き、泳ぎ、走り続けるトライアスロンレースと同様、池田さんは絶えず前だけを向いている。
池田選茶堂
鹿児島県鹿児島市千日町3-11
Tel:099-226-3381
営業時間:10時~18時
定休日:日曜・祝日
鹿児島堀口製茶
約300ヘクタール。国内では最大規模の茶畑を運営
鹿児島湾の東側に位置し、南北に細長く伸びる大隅半島。豊かな自然に恵まれ、本土最南端にあたる佐多岬で知られるこの半島には、起伏が無く広大な、農業に格好の土地が広がる。「鹿児島堀口製茶」は、この大隅半島を中心に自社と契約農家を含めると約300ヘクタール、東京ドーム64個分に相当する、国内では最大級の規模の茶畑を運営している。
広大な茶畑で効率的な農業を進めるため、「鹿児島堀口製茶」では機械化、省力化が進んでいる。(©鹿児島堀口製茶)
3代目社長が推進する、流通やマーケティングまで視野に入れた「スマート農業」
大規模な茶畑での効率的な農業を行うために、「鹿児島堀口製茶」では茶摘み機や除草機械などの自動化を進める一方で、先端技術を取り入れて生産のみならず流通や販売、マーケティングなども視野に入れた、次世代型農業「スマートIPM農法」を推進している。その先頭となっているのが、3代目社長の堀口大輔さんだ。
「『伊藤園』での経験が、大きな糧になっています」と堀口さん。工場の目に前には、広大な茶畑が広がる。堀口さんは、「鹿児島堀口製茶」が生産した製品の販売を担う「和香園」の社長という肩書も併せ持つ。
堀口さんは、東京の大学を卒業後、大手茶製品メーカーの「伊藤園」に勤めた後、2010年に鹿児島へ戻り、家業の「鹿児島堀口製茶」の業務に加わった。「鹿児島堀口製茶」では化学農薬だけにたよらない茶生産を確立し、機械<wbr />化による省力化を推進していたが、堀口さんが着手したのは、<wbr />更なる品質の向上と新たなブランド開発だった。
海外マーケットを見据え、新商品を開発
「1948年に創業した『鹿児島堀口製茶』が手掛けてきた商品は、それまでも一定の評価をいただいていました。しかし海外マーケットを見据えたとき、このままではいけないと思い、『健康・簡便性・寛ぎ』という新たな価値を付加した新ブランド、『TEAET(ティーエット)』を誕生させました。『TEA』と『DIET』を組み合わせた造語です。パッケージデザインもお洒落にしたところ、アンテナショップなどで好評をいただき、新たな需要の掘り起こしとなりました」
「TEAET」のラインナップには、手軽にお茶を楽しむことができるようにと、パウダーやティーバッグも加わった。パッケージも、従来のお茶の概念を超えた斬新さ。(©鹿児島堀口製茶)
新ブランド「カクホリ」で、30年前に祖父と父が挑戦していた「和紅茶」に再び挑む
「TEAET」に続いて発表したのが「カクホリ」ブランドだった。ロゴマークは、「堀口」の漢字をデザイン化して新たに前面に押し出し、海外マ―ケットも意識した訴求力のあるパッケージデザインとなった。品質にもこだわり、深蒸し煎茶を基軸として、ほうじ茶や烏龍茶、紅茶まで8種類のラインアップが整えられた。
とりわけ注目を集めたのが、和紅茶と称される「カクホリ紅茶べにふうき」だった。
「じつは、30年ほど前に、祖父と父が『ウーロン紅茶』を手掛けていました。とても美味しいお茶でしたが、時代が早すぎたのでしょうか、いつの間にか商品のラインナップから無くなっていました。紅茶に関しても、昔から紅茶を製造する技術は会社として持っていましたが、世界を見据え、日本で製造している紅茶の味とは一線を画す特徴ある商品を目指し、製造技術をさらに進化させて作ったのが『カクホリ紅茶べにふうき』です」
用いられている「べにふうき」は、紅茶や烏龍茶専用の茶葉として品種改良されたもので、国内ではおもに鹿児島が生産の中心となっている。
イギリスの老舗百貨店「フォートナム&メイソン」で販売開始
満を持して発売した「カクホリ紅茶べにふうき」はヨーロッパ、とくに紅茶の本場であるイギリスで高い評価を受け、「ティ―アカデミー」が主催し、「世界最高峰のお茶コンクール」ともいわれる 「THE LEAFIES」で金賞を受賞した。
日本国内でも「日本茶アワード」で2022年から3年連続でプラチナ賞を獲得するなど、高い評価を得た。
とりわけ、「THE LEAFIES」での3年連続受賞を機に、2025年1月からロンドンの英国王室御用達百貨店「フォートナム&メイソン」での取り扱いが始まるという、快挙を成し遂げた。
和紅茶はインドやスリランカ産の紅茶と比べると渋みや苦みがそれほどなく、まろやかとされているが、「カクホリ紅茶べにふうき」は適度な重みや渋みが、紅茶ファンから高い評価を得ている。ティーカップから甘やかな花の香りが微かに立ち上り、口に含むとほのかにマスカットの風味が広がる。
海外で高い評価を得たのは「カクホリ紅茶べにふうき」だけではない。2025年3月には、米国 「Global Tea Championship 2025」にて、「カクホリ深蒸し煎茶 おくみどり」が1カテゴリー、「緑茶伝説 極」が2カテゴリーと、計3カテゴリーで最優秀賞を受賞した。
標高の高い高原地帯の環境を人工的に作り出し、茶葉を広げて萎れさせる独自の製法で、ダージリンのような色味や香りを出すことに成功。そこに「べにふうき」の独特の風味が加わり、まろやかなフレーバーが生みだされた。
和紅茶に注力する一方で、緑茶の新たな楽しみ方も広める
「国産の紅茶は今後大きな可能性を秘め、海外からも注目を集めています。その一方で、昔ながらの急須で入れた緑茶の消費量は残念ながら年々減っています。それを食い止めるためにも、製茶会社として単に茶を造るだけでなく、お茶のおいしさや楽しみ方を提案する場をもっと多くの方に提供していかなければならないと思います」
堀口さんは熱く語る。
工場に併設されたレストラン「茶音の蔵」で、お茶の新たな楽しみを体験する
お茶のおいしさを楽しむ場のひとつが、「茶音の蔵」だ。「鹿児島堀口製茶」の茶工場に隣接したレストランでは、お茶と和の融合をコンセプトに、茶園のお茶と旬の食材を用いたランチコースを味わうことができる。ジャズが流れる空間で、コースの最後を締める薫り高い抹茶をいただいた時、日本の食文化における「お茶」の大切さを改めて感じた。
「茶音の蔵」の食事は、「至れりコース」(税別2,600円)と「尽くせりコース」(税別3,600円)の2つのコース。
食事の締めくくりは、デザートの抹茶ムースと、一服のお薄。抹茶をふんだんに用いたムースは、製茶工場直営のレストランならではの香りと味わい。
©鹿児島堀口製茶
茶音の蔵
鹿児島県志布志市有明町原田1203-7
Tel:0120ー464-300
営業時間:11時30分~15時
定休日:月曜日・第1,第3火曜日(月曜祝祭日の場合は翌日休み)
和香園(原田本店)
鹿児島県志布志市有明町原田1203-7
Tel:0120ー050-424
営業時間:8時~17時
定休日:年中無休(元日のみ休み)
鹿児島市内のバーで、抹茶を用いた新たなテイストのビールを味わう
茶の湯だけでなく、今やさまざまな食の分野で使われているのが抹茶。鹿児島市内には、「池田選茶堂」の抹茶を用いたクラフトビールを手掛けているバーがある。その名も「抹茶ビール」。ビールの泡とともに立ち上がる抹茶の香りを、ぜひ味わいたい。
Photography by Azusa Todoroki(Bowpluskyoto)
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