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京都通信
2025.7.12
【京料理講演会レポート第2回】和食の根幹をなすものとは──山ばな平八茶屋二十一代目主人・園部晋吾氏に学ぶ京料理とだし文化
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2025年5月14日(水)〜19日(月)の6日間、京都髙島屋S.C.にて「京都 食の博覧会」が開催されました。京のグルメを集めたこのイベントでは、京都府内各地の料理店・和洋菓子店のグルメやスイーツ、人気ベーカリーのパンなどが集結。特設スペースでは、日替わりで京都を代表する料亭3店による出汁の飲み比べ体験も行われるなど、伝統を受け継ぐ料理人たちの技と豊かな食文化を堪能できる絶好の機会となりました。
そして14日(水)〜16日(金)には、京の料理人による講演会も実施。伝承の技や和食の未来について、貴重なお話が繰り広げられました。京都通信では、その模様を3回にわたってお届けします。
山ばな平八茶屋 二十一代目主人の園部晋吾氏
園部晋吾氏[山ばな平八茶屋 二十一代目主人]──京料理と「だし」文化
第2回となる5月15日(木)は、山ばな平八茶屋 二十一代目主人の園部晋吾氏が登壇。縄文時代から現代へとつながる京料理とだしの歴史、そして「和食とは何か?」という本質的な問いに迫りました。
縄文時代に遡る、だしの原点
最初の話題は、歴史的な視点から見た「だし」について。その歴史は意外なほど古く、縄文時代まで遡ります。
日本料理アカデミーの副理事長でもある園部氏。子どもたちへの食育活動にも尽力している。
縄文時代といえば、土器の普及によって煮炊きが可能になった時代です。人々は調理技術を獲得していくなかで、煮汁に食材のうま味が溶け出すことを発見。それが「だし文化」の始まりにつながったと考えられています。
奈良時代の文献には「煮堅魚(にがつお)」や「堅魚煎汁(かつおいろり)」という言葉が登場します。「だし」という言葉はまだ生まれていないものの、それらのうま味をいかした料理が作られていました。
奈良時代には、日本最古の料理形式「神饌料理」が成立した。
そして、この時代に生まれたのが、和食の原型のひとつとされる「神饌(しんせん)料理」。神饌とは、神前に供える食事のことで、祭儀を終えたあと神様のお下がりをいただく直会(なおらい)「神人共食」が行われます。
「お祝いの席で使う柳箸も、神人共食の考え方に基づいて作られています。片方は人が使うため、もう片方は神様が使うために両端が細く作られています」と園部氏。
「だし」という言葉の登場
平安時代には公家を中心に「大饗(だいきょう)料理」と「有職(ゆうそく)料理」が発展。大饗料理では山高に盛ったご飯のまわりにおかずが並び、醤(ひしお)や塩、酢で各自が味付けをして食べていました。
「お刺身に醤油をつけて食べるのは、その名残です。また「おかず」という言葉も、大饗料理に由来します。ご飯のまわりにたくさんの数の料理が並べられたことから、おかず(お数)と呼ばれていたんです」
有職料理は宮中の神事や儀式の際に食された、雅やかな料理。なかでも有名なのが「式庖丁」です。これは食べるためのものではなく、包丁と俎箸(まなばし)を使って魚を捌き、おめでたい形を表す儀式。老舗料亭「萬亀楼」さんでは、その流派のひとつ生間流式包丁と有職料理が継承されています。
鎌倉時代には「精進料理」において、昆布や干し椎茸、かんぴょう、大豆といった食材がだしとして使われるように。
そして「本膳料理」が成立した室町時代の後半には、いよいよ文献に「だし」という言葉が登場するようになります。
料理を乗せた銘々膳をいくつも並べて客をもてなした「本膳料理」。
茶懐石が変えた「温かいものを温かいうちに」
安土桃山時代の「茶懐石」は日本料理の歴史において、画期的な転換点となりました。
「というのも、実はそれまで “温かいものを温かいうちに”という考え方はありませんでした。将軍様が召し上がる料理は、必ずすべて毒味をしていましたから、運ばれてくるころには冷めてしまっていたんです」と園部氏。
茶懐石は、お茶を楽しむための「茶事」の一環で、料理を食べることが主な目的ではありません。メインはあくまで「濃茶」を飲むこと。しかし、濃茶は濃度が高く刺激が強いため、空腹状態で飲むと胃が荒れてしまいます。そのため、事前に軽い食事で小腹を満たしましょうということで出されたのが茶懐石でした。
「“温かいものを温かいうちに”という考え方から、主菜は煮物椀。つまり、だしが料理の要となっていたわけです」
江戸時代に入ると、ついに昆布とかつお節の合わせだしが登場。うま味とうま味をぶつけて、よりおいしくするという相乗効果をいかした調理法が、この頃から始まりました。
「京料理の世界では相性のよい食材を組み合わせ、双方のもち味を引き立たせあう料理のことを“であいもん”と呼びます。たとえば「にしん茄子」や「鯛かぶら」、海老芋と棒鱈を使った「いもぼう」など。これらは全部煮物ですから、やはりだしが活躍するんです」
今日の京料理は、このような時代の流れのなかでさまざまな要素が混ざり合い、発展することで形づくられきたのです。
昆布とかつお節
続いて、京料理で使用するだしの主役、昆布とかつお節について詳しく解説されました。
ひと口に昆布といっても、「真昆布」「日高昆布」「長昆布」「羅臼昆布」「利尻昆布」とその種類はさまざま。北海道と北東北の一部に分布する産地によって、味も形状も随分と異なります。なかでも京都では利尻昆布が使われることが多く、山ばな平八茶屋でも北海道・礼文島の香深浜産の利尻昆布を使用しているそうです。
興味深かったのは、私たちが普段食べたり、だしをとったりしている昆布は“2年目の昆布”だということ。昆布漁では、1年目の昆布が枯れて抜け落ちたあと、残った根元から再び生えて成長した昆布が採取されるのだとか。
利尻昆布の産地・礼文島での漁の風景。漁期は7月中旬から9月上旬。
「かつお節は、京都ではカビつけする前の「荒節」を使うことが多いです。本枯れ節は香りや味わいが強いので、昆布だしがしっかりと出る京都では荒節の方が合うんです。でも、お店によって素材選びも、だしのとり方も本当にさまざまです。同じ素材を使っていても、まったく同じ味にはならない。だしの風味こそが、お店の味のベースになっているわけです」
燻して乾燥させる「焙乾」と、外に出して寝かせる「あん蒸」を繰り返したかつお節を「荒節」と呼ぶ。そこからさらに「カビつけ」と「日乾」を繰り返すことで「本枯れ節」が出来上がる。
なぜ関西では昆布だしがベースになっているのか。その理由は2つあります。1つは北前船が日本海を通って運んできたという歴史的背景。敦賀に到着した昆布が琵琶湖を通って運ばれ、京都や大阪に持ち込まれたのです。太平洋は荒波で昔の船では往来が困難だったため、北回りの日本海航路が主流だったといいます。
もう1つは水質の違いです。京都は軟水ですが、東京は関東ローム層の影響でカルシウムやマグネシウムが多く、若干硬水に傾いています。「硬水だと、昆布だしが出にくいため、関東ではかつお節をたくさん入れてだしをとります。そうすると魚臭さが出るため、濃口醤油を使うことが多いんです。一方、京都は昆布だしがしっかり出るため、かつお節は香りづけ程度。塩や薄口醤油で味つけした澄んだだしが好まれるようになりました」
和食とは何か?
講演の最後で園部氏が投げかけたのは「和食とは何か?」という問い。五つの視点から和食の本質を解説してくださいました。
1. だし(うま味)を利用した料理であること
2. 日本独自の発酵調味料で味付けをしたもの
3. 季節感があること
4. 日本文化や伝統工芸と深く結びついていること
5. ご飯を中心とした食事形式であること
「西洋料理や中華料理などは風味やコクを出すために油脂を使いますが、和食はだしのうま味が料理のおいしさを支えています。そして、酢や醤油、味噌、酒、みりんなど、麹菌で発酵させた日本独自の発酵調味料。私はこれが一番の要だと思っています」
長い歴史のなかで日本の風土や文化とともに発展してきた和食。だしのうま味や発酵調味料が、和食ならではの味わいや香りを生み出している。
タケノコが出てくると春を感じ、松茸や栗が出てくると秋を感じるといったように、食材で季節を味わえるのも和食の魅力のひとつ。お正月のおせち料理やお雑煮、ひな祭りのちらし寿司やはまぐりのお吸い物といった、年中行事とも密接に関わっています。
「料理を食べるためのお箸やお椀、空間を構成する畳や座布団、襖、障子などといった日本の伝統工芸品と結びついているのが和食です。味噌汁をコーヒーカップに入れて飲んでも、味が変わることはありません。でも“味噌汁らしさ”は失われてしまいますよね。お椀に入っていて、お箸で食べるからこそ、味噌汁らしいという感じがします」と、料理の味わいを引き立て、食体験を豊かにする伝統工芸品との関係にも言及されました。
安土桃山時代に創業した、老舗料亭「山ばな平八茶屋」。正面玄関に建つ風格漂う「騎牛門」をくぐると、約600坪の日本庭園が広がっている。
料理そのものだけでなく、器や盛り付け、食べる空間、季節の移ろいといったすべてが一体となって成り立つ和食。その長い歴史の中でさまざまな時代の料理の要素が合わさって、今日の京料理が形成された──そんな園部氏のお話は、改めて日本の食文化の奥深さを感じさせるものでした。
次回は、8月上旬〜中旬に公開予定。5月16日(金)に登壇した「木乃婦」三代目主人・髙橋拓児氏による講演のレポートです。
最終回として、さらなる京料理の神髄に迫ります。
Text by Erina Nomura
野村枝里奈
京都在住のライター。大学卒業後、出版・広告・WEBなど多彩な媒体に携わる制作会社に勤務。2020年に独立し、現在はフリーランスとして活動している。とくに興味のある分野は、ものづくり、伝統文化、暮らし、旅など。Premium Japan 京都特派員ライターとして、編集部ブログ内「京都通信」で、京都の“今”を発信する。
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Features
唯一無二の天空体験が、さらに進化
2025.7.16
「星野リゾート トマム」雲海テラスが20周年。新展望スポット「Cloud Round」が誕生
新展望スポット「Cloud Round(クラウドラウンド)」
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北海道の雄大な自然を舞台に、幻想的な雲海を楽しめる「星野リゾート トマム」の「雲海テラス」。開業20周年という節目を迎え、新たな展望スポット「Cloud Round(クラウドラウンド)」がオープンした。
「雲海テラス」は、気象条件が揃ったときにだけ現れる神秘的な雲海を、標高1,088メートルから楽しめる展望施設。2005年の開業以来、趣向を凝らしたビュースポットやカフェを設けながら進化を続け、今や日本を代表する天空の絶景スポットとして、海外にも知られる存在だ。
新たに誕生した「Cloud Round」は、雲海テラスが提案する9つの過ごし方「Cloud9計画」の第7弾。これまでで最も標高の高い場所に位置する展望スポットで、湾曲したミラーフレームから色とりどりのロープが吊り下げられ、そのロープに支えられるように12席の半透明のベンチを設置。座るとまるで空中に浮かんでいるような感覚になり、没入感に満ちた空間となっている。
雲海なないろソーダ 700円(2025年10月14日までの限定販売)
新スポットのオープンを記念して、屋内カフェ「雲Cafe」では、10月14日までの期間限定で、カラフルなタピオカ入りの炭酸ドリンク「雲海なないろソーダ」が登場。
雲みくじ 300円
また、運勢を雲海の種類で占う「雲みくじ」には、20周年限定チャームや新スポット「Cloud Round」にちなんだ新おみくじも。何が出るかは、引いてみてからのお楽しみ。
20周年を迎え、ますます充実する「雲海テラス」。この夏、雲の上ならではの非日常な体験を楽しんではいかが。
◆「雲海テラス」
【期間】開催中~2025年10月14日(火)
【料金】大人 1,900円、小学生 1,200円、愛犬 500円
トマム ザ・タワー、リゾナーレトマム宿泊の方は無料
【時間】5:00~8:00(上りゴンドラ最終乗車)、9:00(下りゴンドラ最終乗車)
【対象】宿泊者、日帰り共に利用可
※天候や気象条件によりゴンドラが運休する場合があります。時期により営業時間が異なります。
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星のやに泊まる、星のやを知る
2025.7.15
「星のや京都」宿泊記 その3 「奥嵐山の納涼滞在 」鵜飼舟と美食で涼やかな夏を味わう旅
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京都は、どの季節に訪れても、その時々でまったく異なる表情を見せてくれる奥深い街です。夏の京都といえば、祇園祭のにぎわいに象徴されるように、華やかな催しが街を彩りますが、「星のや京都」には、静かで、涼やかな風が吹いています。今回、ひと足早く「星のや京都」がこの夏に提案する「奥嵐山の納涼滞在」と、会席料理「真味自在・夏」を体験してきました。酷暑を忘れさせてくれる、川のせせらぎと山の緑に抱かれ、心身共に爽快感を味わう旅。「星のや京都」宿泊記の第3回をお届けします。
「星のや京都」宿泊記 その1 「1000年前と変わらぬ嵐山の自然に溶け込む、水辺の別邸」の詳細はこちらをクリック
「星のや京都」宿泊記 その2 冷泉家当代夫妻の講話と手ほどきを受けて和歌を詠む貴重な体験、「奥嵐山の歌詠み」の詳細はこちらをクリック
奥嵐山という語感そのままに、ここだけの涼風が吹く「星のや京都」の夏
奥嵐山という語感に相応しい場所。それが「星のや京都」です。渡月橋から舟に乗り大堰川を遡ると、濃い緑に覆われた峡谷に沿うように建つ「星のや京都」が見えてきます。青もみじが優しく日差しをさえぎってくれる中、打ち水がされた館内を進んでいくと、気温がストンと下がったような、涼やかな心地に。まさに別世界。緑豊かな自然と静けさの中で過ごしたいという願いを叶えてくれる場所に、今年の夏も戻ってきました。
嵐山の舟待合から船に乗り込み約10分で「星のや京都」にたどり着きます。
かつて平安貴族の別荘地でもあった嵐山に位置する「星のや京都」。京都に息づく日本の伝統的な技法を用い、斬新な発想で造った風雅な空間。
戦前戦後、京都で活躍した庭師・小島佐一が100年前に作庭した歴史ある庭の意匠を残しつつ、コンテンポラリーな解釈を与えた革新的な「水の庭」。夏の夕べ、ここでシャンパンなど傾けたくなります。
全室リバービューの「星のや京都」。障子からこぼれる光や大堰川の眺めに感嘆の声を上げてしまいます。時を忘れてしまいそうになるこの部屋は「谷霞ダブル」。和と洋が同時に存在し、コンテンポラリーな美しさを際立たせているお部屋。
「星のや京都」の夏を彩る納涼プログラム「奥嵐山の納涼滞在」
涼を求めて、奥嵐山でひと夏を過ごした平安貴族のように過ごす……それが「奥嵐山の納涼滞在」のコンセプト。
チェックイン後、日の光も少し和らぎ始める頃、奥の庭にしつらえられた席で、特製かき氷をいただきます。だいだい色のシロップは、今では入手の難しい大和橘(やまとたちばな)で作ったもの。添えられた大和橙のコンポートは、酸味と甘み、柑橘特有の爽やかな香りを発し、かき氷と共に喉を通り過ぎれば、すーっつと身体の中を風が通り過ぎるような気分になります。
「奥嵐山の納涼滞在」で楽しめる特製かき氷。大和橘の柔らかな酸味がクセになりそうです。
川の向こう岸に見える山際は、ほんのりと紫と紺のグラデーションを見せ、なかなか夜の闇を連れてきません。19時、ようやく夜の闇が優勢になる頃、雅な屋形舟「翡翠」を貸し切り、嵐山の夏の風物詩である鵜飼鑑賞を楽しみます。日中、川下りをする舟やボートで賑わう大堰川ですが、鵜飼舟のかがり火だけが煌々と闇を照らし、打って変わった静けさに包まれています。
鵜匠の見事な手さばきを眺めながら、キリッと冷えた日本酒を酌み交わしつつ、鱧や稚鮎など、京都の夏の味覚が盛り込まれた、プログラム特製の「鵜籠膳」をいただきます。川風に吹かれて食すお弁当は、また格別。平安貴族たちも、夏の間はこんな風に過ごしていたのでしょうか。
夏の夜に大堰川に漕ぎ出でる屋形舟「翡翠」は船頭さんが手で漕ぐ和舟。
特製の「鵜籠膳」は、鵜飼舟に揺られながらいただきます。夜風に吹かれながら、日本酒も進みます。
清々しい空気の中、「奥嵐山の納涼滞在」の朝はストレッチから
早朝6時に実施されるストレッチに参加してみます。日中は舟が行き交う大堰川もまだ静かです。ヨガマットを引き、まずは呼吸法から。川面も木々もみずみずしく輝いています。深く息を吸い込み、吐く、その繰り返しするだけで、整っていくのを感じるはずです。
大堰川の静かな流れと共に、深呼吸しながらストレッチ。
ストレッチのあとは「納涼朝食」が待っています。「星のや京都」では朝食は部屋でいただけるのです。部屋の障子をあけ放ち、大堰川と山入端を眺めながらの朝食は、暑さの中でも食が進むように工夫されています。夜半に降った雨のしずくが緑をやさしくうるおしてくれたせいか、木々は夏の朝の日差しにきらめいて、この清々しく、晴れ晴れとした気持ちをどう表現したらよいでしょうか。いつもよりたっぷり時間をかけて、朝食を楽しみました。
鰻を乗せた山椒御飯など贅沢なものですが、鰻、鱧など、京都の夏の味覚を使いながら、涼やかな「納涼朝食」で食が進みます。
開発スタッフが語る「奥嵐山の納涼滞在」への思い
この夏、「奥嵐山の納涼滞在」を開発したチームの中心的働きを果たしたのは、「星のや京都」支配人の二宮知嵩さんです。「星のや富士」での勤務を経て、京都へとやってきた二宮さん。「星のや富士」でもプログラム制作に携わることはありましたが、今回はチームの中心となって初めて作り上げたのだそうです。この夏、鵜飼を取り上げたのはどうしてだったのでしょうか?
「星のや京都」支配人の二宮さん。「奥嵐山の納涼滞在」の考案、調整など、中心として活動しました。
「奥嵐山は、平安貴族が避暑に訪れて自然を楽しんだ場所です。千年の時が育んできた洗練された文化に浸り、優雅に過ごしていただきたい。そして『星のや京都』には、専用の屋形舟『翡翠』があります。嵐山の夏らしく、舟遊びで涼をお届けできたら……と考えたのが、鵜飼だったのです」
『星のや京都』のコンセプトは「平安貴族が興じた嵐山にたたずむ水辺の私邸」というもの。かき氷やストレッチ、納涼朝食など、ひとつひとつ「星のや京都」のコンセプトに添いながら、さまざまなアイディアをスタッフで出し合ったそう。
実際に体験してみて思ったのは、夏の京都の印象をも変えてしまうような、プログラムだったということ。奥嵐山に流れる時間のようにゆったりとして、唯一無二の夏の体験になりました。
「真味自在・夏」で表現する京都の夏の味覚
この夏の「星のや京都」には、お勧めしたいものがもうひとつあります。「真味自在(しんみじざい)」という「星のや京都」が贈る、日本古来の技法と現代の感性が融合した革新的な会席料理です。今回はペアリングとともに楽しめるとのことで、ダイニングへと向かいました。
和食の技法にこだわらず、海外の調味料や技法をも取り入れ、食べるたびに遊び心をくすぐられる、新しい発見に満ちた会席料理、「真味自在」のお料理の開発を担当するのは、星のや和食統括料理長 石井義博さん。そしてペアリングを担当するのは二宮知嵩さん。二宮さんは「星のや富士」に勤務していた際、日本ワインの魅力にハマり、ソムリエ資格を取得されたとか。今回の「真味自在・夏」では、お料理と飲み物、それぞれの魅力を高め合うように相談しながら、自由な発想で作り上げていったそうです。
シチリアの土着品種カタラット100%の「ムニール・ビアンコ 2023」のあとに、日本酒「七本鎗 純米渡船」がサーブされたりと、お料理と飲み物が自由自在に繰り出されて、味わいを深めてくれます。
先付の「鮑とろ」は、かの北大路魯山人も気の利いた玄人料理と紹介する料理。鮑の旨味に万願寺とうがらしの苦みがアクセントとなります。すっきりとシャープな味わいのシャンパン「アンリドノン ブリュット・セレクションNV」がよく合います。
牛ヒレ肉に玉蜀黍(トウモロコシ)とカルダモンを合わせて。ワインはカベルネ・ソーヴィニョン100%の「アナベラ・プラチナム 2020」をチョイス。カシスなどの果実味、ヴァニラの香りが鼻腔を抜け、心地よいタンニンと肉の旨味がマッチしています。
牛ヒレのコンソメ・ドゥブルの上に、蒸した賀茂茄子が浮かぶ、「紫紺」。爽やかさの中に牛コンソメの旨味が追いかけてくるユニークな美味しさ。ワインは続けて「アナベラ・プラチナム 2020」を。
「炭御飯」に鮎の塩焼き、嵯峨豆腐、粽など、最後のお食事まで意表を突くプレゼンテーションが楽しい。食中酒を目指した日本酒「高砂 純米大吟醸」を合わせて。
観光する京都から滞在する京都へ
「星のや京都」で避暑する夏
酷暑の夏から遠く離れて、緑豊かな静けさの中で深呼吸するような、そんなおだやかさをもたらしてくれる「星のや京都」の夏。大堰川から吹くさやさやとした涼風で、暑さに疲れた心身が癒されていくのを感じます。観光するだけの京都から、のんびり滞在して心をリセットする京都へ。この夏「奥嵐山の納涼滞在」なら、そんな京都を堪能できます。
青もみじと苔の緑が調和する「奥の庭」。木立の向こうは大堰川。
◆星のや京都「奥嵐山の納涼滞在」
・期間 2025年7月1日~8月31日
・料金 1名 121,000円、2名145,200(税・サービス料込)*宿泊料別
・含まれるもの 屋形舟「翡翠」貸切、鵜籠膳、納涼朝食、特製かき氷、赤紫蘇ドリンク
・予約方法 公式サイトにて7日前まで受付
・定員 1組1~2名
・対象 星のや京都宿泊者
・備考 場合により、開催日や開催場所、内容が変更になる場合があります。
◆星のや京都「真味自在・夏」
・期間 2025年7月31日~9月10日頃まで
・料金 1名24,200円 ペアリング1名9,000円 (共に税・サービス料10%込)
・予約方法 公式サイトにて前日まで受付
・対象 星のや京都宿泊者
・備考 状況によりメニューの変更、食材が一部変更になる場合があります。
photos by Azusa Todoroki
text by Sakurako Miyao
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京都の夏を五感で味わう
2025.7.14
ザ・リッツ・カールトン京都で出合う、涼やかなひととき
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京都の風情と現代的なラグジュアリーが融合する「ザ・リッツ・カールトン京都」では、京都の夏を涼やかに過ごすための特別なアクティビティや美食体験を用意。
ミニチュア日本庭園 1名 5,000円(税込) 所要時間:1.5時間
なかでも注目は、人気のアクティビティ「ミニチュア日本庭園」づくり。ホテル専属庭師の案内のもと、限られた空間に自然の美を凝縮し、禅の精神や“寂”に触れられるプログラム。日本庭園に宿る静謐な美しさを、みずからの手で作り上げるひとときは、まさに現代の癒しともいえる体験だ。
さらに、みずみずしい苔の魅力を味わえる「苔玉づくり」も用意されている。
シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue(定員 8名) 1名 35,000円(税・サービス料込み)
料理を超えた芸術体験として話題の「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」では、ヘッドシェフ井上勝人が旬の食材の個性を巧みに引き出しながら、七十二候の季節感を感じる料理に仕立てる。
この季節は、夏の自然や涼を感じるテーブルデコレーションとともに、感性を刺激するコース料理を提供。
緑の造形を愛で、季節の移ろいを五感で味わう──。この夏、ザ・リッツ・カールトン京都ならではの上質なひとときを堪能してはいかがだろうか。
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グランド ハイアット 東京が「メロン&マンゴー アフタヌーンティー」を2025年 8月 1日(金)から期間限定で開催
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グランド ハイアット 東京は、2階のオールデイ ダイニング「フレンチ キッチン」にて、夏が旬のジューシーなメロンとマンゴーを堪能できる「メロン&マンゴー アフタヌーンティー」を、2025年8月1日(金)から9月30日(火)まで開催する。
芳醇な香りが特徴のメロンと濃厚な甘みのマンゴーを存分に楽しむことができるスイーツメニューには、小さなメロンのように仕上げたなめらかなメロンチーズムースや、マンゴーの果肉を花びらのように飾ったメロンジュレを閉じ込めたココナッツムースのほか、マンゴーとパッションフルーツのアイスクリームをマカロンでサンドしたロリポップ、 フレッシュメロン入りのハニーゼリーとブランマンジェとあわせたグラススイーツなど、暑い日にも涼を感じるひんやりスイーツも登場。
セイボリーでは、夏野菜のエクレアや、冷製グリーンピースなど、フレンチのシェフならではのメニューに加え、メロンパンで生ハムメロンとチーズをはさむサンドイッチなど、遊び心のあるアイテムも並んでいる。
このほか、ウェルカムドリンクとして、マンゴーアイスティーをベースにメロンの風味も楽しめるオリジナルモクテル(ノンアルコールカクテル)を提供するほか、マンゴーフレーバーティー、紅茶、カフェラテ、カプチーノなどをフリーフローで楽しむことができる。
あなたも旬のフルーツを楽しみながら優雅な夏のひとときを過ごしてみてはいかが。
◆メロン&マンゴー アフタヌーンティー
【店舗】グランド ハイアット 東京 2階「フレンチ キッチン」
【期間】2025年8月1日(金)~9月30日(火)
【時間】15:00~17:00 最終入店15:30 ※平日2時間、土・日・祝日90分制
【料金】6,380円(税込・サービス料15%別)
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Features
2025.7.12
高輪「茶室 BAR ROKKAN by ROKU GIN」サントリー「ROKU〈六〉」ブランドを深く知り愉しむ
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