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林 信行の視点
2025.6.11
大阪・関西万博が示した新しい日本像 〈日本館・シグネチャーパビリオンの見どころ〉
佐藤オオキ氏が総合プロデューサー・総合デザイナーとして手掛けた日本政府館の外観。CLTと呼ばれる最近、注目を集めている木材加工の技術で作った杉材の板を並べてできた円環状の建物になっている。
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開幕から2ヶ月が経過した大阪・関西万博。ソーシャルメディアでは古代ローマの彫刻を含む本物が一堂に揃うイタリア館、洗練された雰囲気が漂うフランス館、宇宙旅行を疑似体験できるアメリカ館に加え、異国情緒を感じさせる中東諸国のパビリオンなどが連日話題になっている。
ゴールデンウィーク以降は通期パス利用者の数が増え、連日入場時から大行列が続く人気ぶりだ。訪れているのは日本人だけではない。万博協会が5月17日に発表した統計では訪日観光客も全体の約13%を占めていたという。
そんな中で日本政府は、この国際的な舞台で日本をどのように紹介したのか。実は政府はあえて従来の伝統的なイメージの日本ではなく、多くの日本人にも馴染みのない新しい日本のかたちを提示したのだ。この記事では、あまり触れられていなかった万博における「日本」を紹介したい。
「日本館」が表現したのは日本的循環
万博に関してはよく海外パビリオンの話題を耳にするが、当然、日本のパビリオン「日本館」(正式名称:日本政府館)もある。前回のドバイ万博やミラノ万博では、日本館は最も人気のあるパビリオンだった。実は博覧会国際事務局(BIE)から2回連続で金賞も受賞している。
今回の万博会場ではほとんどの国のパビリオンは、世界最大の木造建築「大屋根リング」の内側に並んでいるが、ホスト国の日本館だけは唯一外側に建てられている。無数の国産杉材の板を一周250mの円形に並べて作った建物だ(設計は日建設計)。落ち着いた雰囲気で、どこか高級リゾートホテルのようだ。
国が同館の総合プロデューサー・総合デザイナーとして選んだのはnendo代表の佐藤オオキ氏——東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の聖火台のデザイナーだ。
佐藤オオキ氏が同館のテーマに掲げたのは世界を構成する無数の小さな「循環」。建物が円環状なのも、それを表している。パビリオンには3つの入り口があり、それぞれがプラント、ファーム、ファクトリーという形で異なる日本の強みを紹介している。
日本館は上から見るとこのような構造になっており3つの入り口のどこから見始めても良い構造になっている。なお、真ん中の水盤エリアにはプラントエリアからしか行くことができない。パビリオンの裏には日本館の舞台裏とも言える「バイオガスプラント」がある。毎日ではないが、時折、興味がある人向けにこの設備のツアーが行われている。【提供︓経済産業省】
「プラント」エリアのサブテーマは「ごみから水へ」。中に入ると建物の外周に沿ったベルトコンベアーの上を色々なものが流れてくる。実はこれ「ごみ」だ。さらに進むと、万博のランチ会場などで使われている紙製の容器が水の中に浸されて分解されている様子を見ることもできる。こうして集められたごみは微生物によって水・熱・電気・CO₂・養分(窒素・リン)に分解されており、日本館はそこで発生したエネルギーによって運営されている。プラントエリアを見終わると日本館の中央にある池(水盤)が現れるが、この水も実は生ごみから取り出したものだ。
その後、日本館の目玉展示の1つである火星の石の展示がある(南極探検隊が56年前に発見したもので100万年前の石と言われている)。日本の精密加工技術で薄くスライスした手で触れることのできる火星の石の展示もある。
プラントエリアではベルトコンベアで運ばれてくるごみや、会場内の飲食店で使われた紙皿が分解されていく様子を見ることができる。
ファームエリアで栽培しているのは、なんと野菜や果物ではなく「藻」類。今、未来の食糧やエネルギーとして藻が大きな注目を集め始めており、日本にはこれを扱うベンチャーを含む企業が急速に増えている。
ファクトリーエリアではドラえもんなどのキャラクターを使ってわかりやすく、「やわらかく作る」という他の国とは少し違う日本の独自のものづくりの姿勢を紹介している。【©Fujiko-Pro】【提供︓経済産業省】
「プラント」エリアの次に現れるのは「ファーム」エリア。サブテーマは「水から素材へ」。藻類の力と、日本が誇るカーボンリサイクル技術を使って、ものづくりの素材を生み出す技術が紹介している。
目玉は無数の緑色の管を立体的に張り巡らせた「フォトバイオリアクター」と32種類のハローキティーだ。このエリアがテーマにしているのは、我々がファーム(農場)と聞いて想像する農産物ではなく海や川に大量に生えている「藻」。石油などの化石燃料への過度な依存から脱却する鍵と言われている。そのまま食品や飼料となるだけでなく、抽出した原料から医薬品、燃料、プラスチック、繊維など様々な素材になる。砂漠や荒地のような農業利用が難しい土地でも、太陽光と少量の水で培養できる。
まだまだ馴染みの薄い藻類に親しみを持ってもらおうと、日本が世界に誇るキャラクター、ハローキティーとコラボをして三角形や四角形、正十二面体などさまざまな形の藻に扮したハローキティーのキャラクターを展示している。
3つ目の「ファクトリー」エリアに入ると、いきなりロボットアームや運搬ロボットと協力しながら人が働いている姿が目に入ってくる。このエリアのサブテーマは「素材からものへ」。日本が強いとされる「ものづくり」をテーマにした展示となっていて、前のプラントエリアで準備された藻類が混ぜ込まれたバイオプラスチックの素材から、2台のロボットアームによる3Dプリンターで日本館内を実際に使用するスツールを製作している。
ここで展示しているのはポスト大量生産・大量消費・大量廃棄の「ものづくり」。資源を効率的・循環的に利用しながら付加価値の最大化を図る「循環経済(サーキュラーエコノミー)」のものづくりであり、リデュース・リユース・リサイクル(3R)を重視したものづくりだ。実は日本では数百年前から、資源や部素材の「循環」という発想を強く意識して、”やわらかい”構造を志向して創意工夫を凝らす、独自の「循環型ものづくり文化」を培っている。
ここでキーワードとなっているのが「やわらかく作る」という発想だ。例えば京都・木津川に架かる「流れ橋」(上津屋橋)は、増水した川の流れに耐えるのではなく、橋桁があえて部分的に壊れ流されることで橋全体にかかる負担を軽減している。東京スカイツリーは、あえてしなることで地震のエネルギーを逃がしている。伊勢神宮は20年に一度、神様をお祀りする建物や宝物を新しく作り直す「式年遷宮」を通して永続性を保つ「常若(とこわか)」を保っている。ドラえもんが、こうした日本に従来からあった循環型ものづくりを未来へのヒントとして紹介している。
古代ローマの彫刻など多くのアート作品で話題となっているイタリア館やフランス的ラグジュアリーを感じさせるフランス館と比べると、伝統文化の発信は確かに弱い印象があるが、これまであまり語られることのなかった世界にもインスピレーションを与えうる日本の強さの本質を紹介できている印象を持った。
落合陽一と石黒浩が見せる未来の姿
日本の国を代表するパビリオンというと、この日本館に加えて8つのシグネチャーパビリオンがある。1970年の大阪万博では、アーティストの岡本太郎がテーマ展示プロデューサーに選ばれ、今も残る「太陽の塔」などを手掛けた。
今回の万博では、すべてを1人に任せるのではなく異なる分野で活躍する8人の専門家をテーマ事業プロデューサーとして選任。生物学者の福岡伸一、アニメーション監督の河森正治、映画作家の河瀨直美、放送作家の小山薫堂、アンドロイド研究の世界的権威で大阪大学教授の石黒浩、音楽家でSTEAM教育家の中島さち子、メディアアーティストの落合陽一、慶応義塾大学教授の宮田裕章が、それぞれ「いのち」をテーマに8つのパビリオンをプロデュースしている。
シグネチャーパビリオンの中でも、圧倒的に目立つ存在なのが全面鏡張りの落合陽一氏のパビリオン「null²(ヌルヌル)」だ。55年前の万博で岡本太郎氏の「太陽の塔」がそうであったように、万博を象徴するモニュメントとして中に入らずとも外から眺めるだけで楽しめるパビリオン、「人類が見たことのない光景」を目指して作られた。
落合氏は最強の映像装置は鏡だとしており、鏡には「風景の変換装置」としての側面があると言う。日本でも最大級の鏡には、その日の空模様、来場者自身を映し出されるが、実はこの鏡には仕掛けがあり時折、変形して大きく歪んだり、面が渦を巻くようにねじれたり、鏡面上にさざ波が起きることもあり、一定の風景にとどまることがなく「無常感」を感じさせる。
一方、パビリオン内部は天井と床はディスプレイになっており四方は合わせ鏡の状態、無限に続く映像の中に放り込まれたような体験となっている。あらかじめ予約して体験をすると3Dスキャナーで取り込んだ等身大の自分の映像がその空間の中に現れ、空間そのものが自分自身のデジタルの鏡にする体験ができる。
落合氏は、自然とテクノロジーを対立させるのではなく滑らかにつなげて新たな一体性を見出す「デジタルネイチャー(計算機自然)」という考えを提唱している。「色即是空・空即是色」をモチーフに「空」の文字を「空」を意味するコンピューター用語の「null」で置き換えて「null²」というパビリオン名にしている。世界で趨勢のデジタルテクノロジーは西洋の価値観の中から生まれてきているが、同館は日本的なデジタルテクノロジーの捉え方として海外の人にこそ見て欲しいパビリオンと言える。
まるで映画を1本観たかのようなしっかりとした奥深い体験で好評なのが石黒浩氏による「いのちの未来」館だ。科学技術と融合することで「いのち」の可能性を飛躍的に拡げる未来をテーマにしている。来場者はアンドロイドに案内されながら3つのゾーンをめぐる。
最初のゾーンは「いのちの歩み」。縄文時代の土偶から始まり、埴輪、仏像、そして現代のアンドロイドに至るまで、日本人が古来より「モノ」にいのちを宿してきたアニミズムの文化と歴史が紹介されている。
続くゾーンは「50年後の未来」。映画のセットのような空間で人間とアンドロイドが共存する2075年頃のおばあちゃんと孫の物語が展開する。物語のハイライトの1つが「いのちの選択」——身体機能の衰えによって、まもなく寿命を迎えるおばあちゃんが、身体を機械化してアンドロイドとして生き続けるか、それとも自然なままの身体で寿命をまっとうすべきかという選択を突きつけられ来場者も医師や家族との会話を通して、その議論に思いを巡らせることになる。
「いのちの未来」館、最後のゾーンは「1000年後のいのち -まほろば-」
真っ暗な空間の中央には1000年後の未来の人類を表した3体のアンドロイドがおり、自らの妖しくも美しい姿を見せつけるように室内を舞う。科学技術と融合し身体の制約から解放された人間たちの姿だ。石黒氏は「ロボットは人類が手にした究極の道具であり、やがて人とロボットはひとつになり、共に生きる未来が訪れる」と語っている。これを受けて衣装デザイナーの廣川玉枝が人間と道具が融合する1000年後のいのちの姿をデザインした。皮膚には生命の起源であるDNAの二重螺旋をモチーフに渦を描く流麗な曲線が描かれており、新たな骨格で今日の人類とは違う翼のように広がる体形をしている(「飛翔するフェニックス」がモチーフになっているようだ)。
落合陽一館「null²(ヌルヌル)」は天井に至るまで前面が鏡面の膜で覆われ、空模様や周囲の風景を映し出している。ただの鏡とは違って時々、表面が変形して渦を巻いたり、さざなみが起きたり、映し出される像は常に変化を続けている。 【写真提供:落合陽一】
「null²(ヌルヌル)」は内部も鏡面張りになっている。ただし映し出されるのは天井と床いっぱいに広がったディスプレイの映像だ。予約して観覧する際には、そこに3Dスキャンした自分の映像が現れ、自分自身と対話ができる。ある意味、それは自分自身を映し出すデジタルの鏡と言える。【写真提供:落合陽一】
石黒浩の「いのちの未来」パビリオンではアンドロイドの存在や人間が自らの身体の一部を機械化することが当たり前になった50年後の未来を体験できる。物語は3D映像や影絵などさまざまな形で展開される。
「いのちの未来」パビリオン最後の部屋は、人が科学技術と融合しどんな姿でも手に入れられるようになった未来がテーマ。衣装デザイナーの廣川玉枝が人間と道具が融合する1000年後のいのちの姿をデザインした。 【写真提供:©SOMA DESIGN】
シグネチャーパビリオンが見せる多様な「いのち」の解釈
2つのはるか未来を感じさせるパビリオンと打って変わって、どこか懐かしさと安心感を感じさせるのが河瀨直美氏のパビリオン「Dialogue Theater ——いのちのあかし」だ。奈良と京都にあった廃校舎三棟を移設し、これらの地域に自生する植栽で庭を作った。
校舎に入ると、ついさっきまで生徒たちがそこで学んでいたような温もりを感じる。河瀬氏がここで展開しているのが今日初めて会う同士の2人による対話。「今日が人類最後の日だとしたらあなたは誰と何を話しますか?」、「最近、あなたは何色ですか?」など184のテーマが用意されており、それについて初対面の2人が話し合う様子を来場者は見ることになる。河瀬氏は、この「対話」は世界のいたるところにある「分断」を明らかにし、解決を試みる実験だと称している。
福岡伸一氏と河森正治氏は、万博自体の重要なキーワードとなっている「いのち」に着目してそれぞれ自らの生命感を表現したパビリオンを作っている。
福岡伸一氏は「いのち」の本質はエントロピー増大に抗うように、絶え間なく自らを壊しながら作り直すことで「動的平衡(バランス)」こそが生命の本質と考え、地球上で生命が誕生してからの38億年の歴史を32万球の繊細な光の粒子を並べて作った立体的なディスプレイ、クラスラを使って表現。
一方、河森氏は「いのちは合体・変形」と捉えている。子どものころ卵・オタマジャクシ・カエル、青虫・さなぎ・蝶と生き物が変態する様子に興味を持ったという河森氏。生物が他の生物を食べる行為やいずれ死んでその死体が大地の一部になることも「合体」と捉えた視座がのちにロボットアニメなどを生み出す自分を形成していったと語る。河森氏はその世界観を2つの映像作品や「いのちの球」と呼ばれる彫刻作品などで表現している。
宮田裕章氏のパビリオンは共同キュレーターに金沢21世紀美術館前館長の長谷川祐子氏を招聘し、塩田千春氏や宮島達男氏といった海外でもよく知られるアーティストの作品を設置。屋根のない半屋外型のパビリオン建築は日本を代表する建築ユニットSANAA(妹島和世氏、西沢立衛氏)が行うなど日本のクリエイティブシーンに詳しい人には見どころの多いパビリオンになっている。
中島さち子氏の「いのちの遊び場 クラゲ館」は、クラゲのような膜屋根の下に、音や触覚で遊べる装置やAR楽器、子どもたちのクラゲ作品、障害者施設や老人ホームにいる人々が思いを込めて作ったタイルによる「よろこびの壁」などがある半屋外型の公園になっており、予約制となっている地下空間では暗闇で音に没入する体験や、360度スクリーンと日替わりの生演奏に包まれながら踊る”祝祭”の時間が用意されている。
河瀬直美館「Dialogue Theater ——いのちのあかし」は、ここ一年でできた新しい建物ではなく、生徒たちの記憶と歴史が刻まれた古い小学校の校舎を使ったパビリオン。ダイアローグを聞いた後は、それを自分の中でゆっくりと吸収できるように散策するための庭や休憩エリアも用意されている。万博会場にあって、ここだけ時間の流れ方が違ってホッとする。
新しい日本像の提示
「自分がイメージしている日本と違う」と感じる人も多いかも知れない。しかし、日本を知らない人が圧倒的に多数だったミラノやドバイでの万博と違って、今回の万博は改めて日本文化を紹介しなくても、万博会場の外に出れば本物の日本食のお店も、伝統文化に触れられる施設もそこかしこにある。あえて従来の日本のイメージではなく、その延長線上に浮かんだ日本の新しい捉え方や、日本の最前線で活躍している人が考える未来像を見せた今の形の方がむしろ来場者の想像力を刺激し、「日本とは何か」を自ら問い直すきっかけになるのではないだろうか。海外からの訪問者にとっても、観光や食体験を通して感じる”リアルな日本”と、会場内で示される”未来を志向する日本”とのギャップが対話を生み、その間にこそ文化理解が深まる余地がある。
大阪・関西万博
営業時間:9:00~22:00(入場は閉場1時間前まで)
アクセス:大阪メトロ中央線「夢洲駅」下車すぐ(東ゲート徒歩約2分)、京阪神主要駅・関西国際空港・伊丹空港からのシャトルバス、水上アクセス(港湾シャトル船)もあり
Profile
林信行 Nobuyuki Hayashi
1990年にITのジャーナリストとして国内外の媒体で記事の執筆を始める。最新トレンドの発信やIT業界を築いてきたレジェンドたちのインタビューを手掛けた。2000年代からはテクノロジーだけでは人々は豊かにならないと考えを改め、良いデザインを啓蒙すべくデザイン関連の取材、審査員などの活動を開始。2005年頃からはAIが世界にもたらす地殻変動を予見し、人の在り方を問うコンテンポラリーアートや教育の取材に加え、日本の地域や伝統文化にも関心を広げる。現在では、日本の伝統的な思想には未来の社会に向けた貴重なインスピレーションが詰まっているという信念のもと、これを世界に発信することに力を注いでいる。いくつかの企業の顧問や社外取締役に加え、金沢美術工芸大学で客員名誉教授に就いている。Nobi(ノビ)の愛称で親しまれている。
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Events
【6/19(木)〜29(日) 東京都・セイコーハウスホール】
2025.6.17
「重要無形文化財保持者認定30周年 井上萬二白磁展 ―白き道ひとすじに―」
白磁丸形壺 径34.5×高さ32.6cm
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銀座・和光のセイコーハウスホールにて、2025年6月19日(木)から29日(日)まで、「白磁」の重要無形文化財保持者(人間国宝)の井上萬二氏による、和光では通算49回目となる展覧会「重要無形文化財保持者認定30周年 井上萬二白磁展 ―白き道ひとすじに―」を開催。
白磁瓜形壺 径31.2×高さ42cm
【特別企画作品】白磁香炉 径11.4×高さ11cm
佐賀県有田町に生まれ、白磁一筋に情熱を注いできた井上氏。轆轤(ろくろ)の精緻な技と高い精神性が融合した作品は、現代工芸の美の頂に位置づけられる存在。96歳を迎えた今なお、技と表現が進化し続ける姿勢は、国内外から高い評価を集めている。
白磁線鶴首花瓶 径25.6×高さ29.2cm
白磁花形花器 径38×高さ23cm
本展では、井上氏の原点ともいえる“白”を主題に、代表作である丸壺、鶴首花瓶、渦文壺など、清廉かつ凛とした佇まいの作品を多数展観。
白磁ひねり壺 径20.6×高さ30cm
静謐な白磁に込められた日本の美意識と、進化を続ける造形の力を体感できる貴重な機会。会場でぜひ、美と工芸の真髄に触れてみてはいかがだろうか。
【特別企画作品】白磁紫青海波文組皿 大:9.5×15×高さ4.2cm、小:8.7×13×高さ4cm
「重要無形文化財保持者認定30周年 井上萬二白磁展 ―白き道ひとすじに―」
【会期】2025年6月19日(木)~29日(日)
【会場】セイコーハウスホール(東京都中央区銀座4-5-11 セイコーハウス 6階)
【営業時間】11:00~19:00(最終日は17:00まで)
【入場】無料
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Features
平安の避暑地・嵐山で出逢う、五感で愉しむ京の夏
2025.6.10
「星のや京都」夏の催しを開催。お囃子舟や納涼床、移ろう季節を楽しむ
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平安貴族の避暑地・嵐山に佇む、全室リバービューの旅館「星のや京都」では、8月31日(日)まで、夏の風物詩や古き良き京文化を味わうさまざまな催しを開催している。
書と雨音に浸る「雨づつみのすすめ」
窓を額縁にした絵画のような風景が広がるライブラリーラウンジでは、雨天時にのみ、振る舞いや書籍を提供。京都の書店「恵文社一乗寺店」がセレクトした“雨”にまつわる書籍が並ぶ空間で、雨音を聞きながら静謐な読書時間を楽しむことができる。
開催日 :2025年6月30日(月)まで
開催時間:15:00~18:00
料金 :無料
予約 :不要
※雨天時のみの開催
渓谷に響く音律「京のお囃子舟」
6月21日(土)、22日(日)、28日(土)、29日(日)の4日間限定で開かれるのが、京都の夏の風物詩である祇園囃子を優雅に楽しめる「京のお囃子舟」。祇園祭の鷹山が、山鉾から大堰川に浮かぶ屋形舟に舞台を移し、囃子を演奏。渓谷に響く音色を鑑賞した後は、囃子方とともに合奏に興じる貴重な体験も楽しめる。
開催日 :2025年6月21日(土)、22日(日)、28日(土)、29日(日)
開催時間:17:30~18:30
料金 :無料
予約 :公式サイトにて3日前までに要予約
※天候や川の状況により当日でも舟の運航中止、開催場所・時間変更の可能性があります。
文字に託す願い「奥嵐山の七夕体験」
7月1日(火)~10日(木)、8月21日(木)~31日(日)に開催されるのが「奥嵐山の七夕体験」。朝の静けさのなかで行われるこちらは、梶の葉に想いをしたため、七夕行事の供え物から発展したとされる素麺を旬の鮎のから揚げと共に楽しむ催し。自然の涼を感じながら七夕の風情を味わい、風流な時間を過ごすことができる。
開催日 :2025年7月1日(火)~10日(木)、8月21日(木)~31日(日)
開催時間:6:30~7:15
料金 :1名 6,050円(税・サービス料込、宿泊料別)
予約 :公式サイトにて7日前までに要予約
「水の庭」にしつらえる、夏季限定の納涼床
7月1日(火)から8月30日(土)まで、夏の星のや京都を象徴する納涼床が登場。光がやわらかく差し込み、青もみじが揺れる納涼床は、京都の夏の風物詩である川床を彷彿とさせる特等席。三浦照明による行灯や、京焼や京仏具職人による風鈴の音色も華を添え、目や耳から夏の涼やかさを感じることができる。
開催日 :2025年7月1日(火)~8月31日(日)※雨天中止
料金 :無料
予約 :不要
平安貴族の別荘地であった嵐山。雅な情景が息づくこの地で、風雅な滞在を楽しんでみてはいかが。
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Features
モルテーニの旗艦店が南青山にオープン
2025.6.9
都市に佇む彫刻的空間「パラッツォ・モルテーニ東京」
3F・MOLTENI&C Apartment by Vincent Van Duysen
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イタリアの屈指の総合家具ブランド「Molteni&C(モルテーニ)」が、南青山にフラッグシップストア「パラッツォ・モルテーニ東京」をオープン。地下1階・地上3階、総面積約1,000平方メートルという圧倒的スケールで誕生した。
3F・MOLTENI&C Apartment by Vincent Van Duysen テラス
デザインを手がけたのは、モルテーニのクリエイティブ・ディレクターであるヴィンセント・ヴァン・ドゥイセン。堅牢な構造体に開放的な中庭やテラスを組み合わせるなど、静謐と光が呼応する洗練された空間に仕上がっている。
2F
エントランスの先に広がるのは、リビングとダイニングがシームレスにつながる地上階のホール。代表作「AUGUSTO」「LUCIO」などのソファをはじめ、「OLD FORD」「ARC」など世界的な建築家がデザインしたテーブル、そしてジオ・ポンティ ヘリテージコレクションなど、ブランドの精神が息づく名作家具の数々が展示されている。
B1F
地下フロアでは、ヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンが手がけたキッチン「RATIO」を中心に、上質なリビングやダイニングを展開。フロアごとに異なるシーンを描きながらも、空間全体でひとつのストーリーを紡ぎ出すモルテーニならではの空間構成も見どころだ。
3F・MOLTENI&C Apartment by Vincent Van Duysen
また最上階には、約180㎡の「MOLTENI&C Apartment by Vincent Van Duysen」を設置。ここは、専用エレベーターでのみアクセス可能なプライベート空間で、ゲストのための特別なもてなしの場として機能。室内に広がる家具やアートが、ヴァン・ドゥイセンの世界観をダイレクトに表現している。
美と建築が交差する「パラッツォ・モルテーニ東京」。モルテーニが発信する、“上質な暮らしの文化”を体感してみては。
◆パラッツォ・モルテーニ東京
【住所】東京都港区南青山5-16-10
【TEL】03-3400-3322
【営業時間】11:00~18:00
【定休日】水曜、祝日 <予約制>
※来店の際は電話にて要予約
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京都通信
2025.6.6
【京料理講演会レポート第1回】伝統を守り、未来へつなぐ──たん熊北店三代目主人・栗栖正博氏が語る“和食”の真髄
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2025年5月14日(水)〜19日(月)の6日間、京都髙島屋S.C.にて「京都 食の博覧会」が開催されました。京のグルメを集めたこのイベントでは、京都府内各地の料理店・和洋菓子店のグルメやスイーツ、人気ベーカリーのパンなどが集結。特設スペースでは、日替わりで京都を代表する料亭3店による出汁の飲み比べ体験も行われるなど、伝統を受け継ぐ料理人たちの技と豊かな食文化を堪能できる絶好の機会となりました。
そして14日(水)〜16日(金)には、京の料理人による講演会も実施。伝承の技や和食の未来について、貴重なお話が繰り広げられました。京都通信では、その模様を3回にわたってお届けします。
たん熊北店 三代目主人の栗栖正博氏
栗栖正博氏[たん熊北店 三代目主人]──京料理の未来を見据えて
初日の講演を務めたのは、1928年創業の京料理店「たん熊北店」の三代目主人 栗栖正博氏。お話は、和食がユネスコ無形文化遺産に登録された経緯から始まり、日本における食と文化のつながりや、世界に広がる和食の可能性にまで及びました。
ユネスコ無形文化遺産登録と、その背景
講演の冒頭で語られたのは、2013年12月に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録された背景。実は当時、国内では、和食は保護・継承すべき日本の文化として位置づけられていなかったのだとか。和食の歴史や伝統を国内外に発信し続け、ユネスコ無形文化遺産にまで押し上げたことで、改めて評価されるようになったと言います。
印象的だったのは、フランス・リヨンで料理人たちと交流を持つなかで和食の魅力が評価され、それが文化遺産登録への後押しとなったというお話。
「日本の調理師専門学校のリヨン校で、和食の合宿のようなイベントを行いました。それをきっかけに現地の料理人たちが、和食の技術やうま味、道具、食材などに興味を持ってくれるようになったんです。翌年には関西で勉強会を開き、堺の包丁工房を訪ねたり、酒蔵や味噌蔵の見学をしたり。和食の基礎を徹底的に学んでもらいました。
そうして交流していくなかで、ヨーロッパのトップシェフたちの間で和食ブームが起こりました。なかには“別の惑星の料理のようだ”と言う人もいて。日本の食文化は、アジアのなかでも、ほかの国とまったく違った進化の仕方をしているので、そこに大きな関心が寄せられたんです。彼らが推薦してくれたおかげで、ユネスコ無形文化遺産の登録に向けて発信をすることができました」
和食文化の発展を目指し、世界のシェフとの交流や国内での食育などの取り組みを行うNPO法人日本料理アカデミーの理事長も務める栗栖氏。
京料理を形づくる「おもてなし」の心
海外のシェフたちにも評価された、日本の食文化の素晴らしさ。その神髄は、どこにあるのでしょうか。一体どのようなところにあるのでしょう。それは、おもてなしの文化。そして年中行事との結びつきだと栗栖氏は言います。
お正月のおせち料理やお雑煮、五節句にまつわる料理など、古くからの行事に根ざした食の形を通して、「おもてなし」の心や四季の美しさを表現する京料理の奥深さを教えてくださいました。
「節句というのは、季節の節目でもあるわけです。そういう時期は体調を崩しやすいですよね。昔の人は、病気の原因を邪悪なものが体に入ってくるせいだと考えていましたので、節句には邪気払いのためのもの——人日の節句(1月7日)の七草粥や上巳の節句(3月3日)の草餅、端午の節句(5月5日)の粽(ちまき)などを食べていたんです」
7月の八寸の一例。八寸とは酒肴のことで、茶懐石に端を発し、その名は8寸(約24cm)角の器に盛りつけられたことに由来する。
「私たちが店でお出しする料理やあしらいも季節ごとに変わってきます。たとえば7月には祇園祭の宵山の日に授与される厄除け粽を模して、笹の葉で包んだ寿司を用意。9月は菊を用いた厄払いが行われる重陽の節句(9月9日)にちなみ、菊をモチーフにした料理を仕立てます。
そして、お客様をお迎えする部屋の床の間には、季節の掛け軸をかけ、季節の花を生ける。部屋から見える庭の角度も考えて配置する。目で見て美しく、食べて美味しい。そしてお酒を飲んで楽しい。そんな“非日常”を作ることが、料亭のおもてなしなんです」
9月の八寸の一例。重陽の節句は宮中行事であることから、器には蒔絵が施された華やかなものが用いられている。
世界へ広がる和食の知と技──次代に向かって
栗栖氏が理事長を務めるNPO法人「日本料理アカデミー」では、これまで8年にわたって『日本料理大全』の編纂を進めてきました。和食の発展と和食文化を担う人材の育成を目指し、日本料理の成り立ちや精神、技術を日本屈指の料理人や学者が解説したもので、これまでに5巻を刊行。さらなる周知のため、京都府立大学と共同でインターネット上に「日本料理大全 デジタルブック(日本語版/英語版)」を公開しています。
「長年積み上げてきた日本料理の知識と技術を記録に残し、誰もが学べるようにしたい。ゆくゆくは“人間国宝”と呼ばれるような料理人が生まれるよう、土壌を整えていきたいですね」
たん熊北店では、料理人との会話を通して日本料理を深く知ってほしいという思いから、カウンター席を大切にしている。
栗栖氏による講演は、改めて和食の奥深さに驚嘆するとともに、この素晴らしい文化を未来に継承していくためには、一人ひとりがその歴史や伝統を理解し、魅力を共有することが大切だと認識し直す機会となりました。
次回は、7月上旬〜中旬に公開予定。5月15日(木)に登壇した「山ばな 平八茶屋」主人・園部晋吾氏の講演内容をお届けします。
京都の食文化を深く知る旅は、まだまだ続きます。
Text by Erina Nomura
野村枝里奈
1986年大阪生まれ、京都在住のライター。大学卒業後、出版・広告・WEBなど多彩な媒体に携わる制作会社に勤務。2020年に独立し、現在はフリーランスとして活動している。とくに興味のある分野は、ものづくり、伝統文化、暮らし、旅など。Premium Japan 京都特派員ライターとして、編集部ブログ内「京都通信」で、京都の“今”を発信する。
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
2025.5.29
伊勢神宮最大のおまつり 繰り返される祈り「式年遷宮」
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ドンッ、ドンッ、ドンッ。
時を知らせる太鼓の音が鳴り響いた瞬間、宮域内の空気がピンと張り詰めた。
令和7年5月2日。今回で第63回を数える伊勢の神宮の式年遷宮、その最初のおまつりとなる「山口祭」の開始を告げる太鼓の音が高らかに鳴らされ、続いて、神職をはじめとする奉仕員一同が、足並みを揃えて玉砂利を踏み締め歩く落ち着いた音とともに、粛々と参道を進んでいく。
20年に一度、すべてを新しくして大御神にお遷りいただくおまつり
式年とは、定められた一定の年限のこと、遷宮は、文字通りお宮を遷すという意味がある。神宮には、内宮、外宮ともに、東西に同じ広さの敷地があり、20年に1度、御正宮のある場所を改めて、古例のままに一から社殿を造営し、神様の衣服や調度品なども一新して、天照大御神をはじめとする神々にお遷りいただく神事が、古来脈々と続けられている。次に新しい社殿に神々がお遷りになるのは、令和15(2033)年。そのために、これから8年の歳月をかけて、さまざまな準備がされるという。
神宮の式年遷宮では、「物忌(ものいみ)」と呼ばれる童男、童女も奉仕員に加わる。
今回は、そんなわが国最大のおまつりである式年遷宮についてご紹介しよう。
神宮の式年遷宮は、第40代天武天皇のご宿願によって発案され、その遺志を引き継ぐ形で、持統天皇4年(690)に行われたことがはじまりとされている。以来、実に1300年以上にもわたり、遷宮が繰り返されてきた。
約1300年前からはじまり、2033年は63回目となる「式年遷宮」
なぜ20年なのか。これについては諸説あり、定説はないとされている。広く言われているのは、社殿が素木(しらき)造りで屋根も萱葺のため、耐久的な面からという説や、宮大工などの伝統技術を継承するために最適な年数とする説、他にも、穀物の貯蔵年限を定めた倉庫令の中で、米の備蓄年限––––ただし、米を蒸して乾燥させた糒(ほしいい=乾飯)の状態での保存––––を20年としているから、という説などがある。
興味深いのは、式年遷宮が定められた当時、すでに日本には、現存する世界最古の木造建築、奈良の法隆寺が建立されていたように、耐久性のある建造物を造る技術が伝わっていたということだ。それでもあえて、神宮では、弥生時代の穀倉に起源を持つ「神明造(しんめいづくり)」という建築様式を用い、20年に1度社殿を造り替え、そっくり同じ姿で新しくするという、世界に類を見ない継承のスタイルを生み出した。
その根底には、米を主食として命を繋いできた日本の風土や文化を守り伝え、神道の理想である「常若(とこわか)」、つまり、常に若々しく瑞々しい状態で神々をお祀りしたいという、古代の人々の強い願いが存在するのだろう。遷宮が繰り返されるたび、この国の人々は、日本の文化や祈りの原点に立ち戻り、古からの技術とともに、その精神も受け継いできたのである。
現在の御正宮に隣接する御敷地(みしきち)に立つ桜の古木。新たな御正宮は、この地に造営される。
天武天皇が何を願って式年遷宮を発案されたか、今となってはわからない。だが、未来は今の連続の上に成り立つもので、繰り返すという行為、営みこそ、実は1番に意味があり、永遠をも可能にするということを、神宮の式年遷宮は実証しているように思える。
最初の祭典「山口祭」では、遷宮で使う御用材の伐採と造営の安全を祈る
では、その式年遷宮は、具体的にどのように進められるのだろう。
神宮の式年遷宮に関する諸祭や行事は、全部で33。大きく3種類に分けられる。1つは、社殿造営の材料となる御用材に関するもの、次に社殿の造営に関するもの、最後に遷御(せんぎょ)、つまり、新しい社殿に御神体をお遷しするためのもので、冒頭で紹介した「山口祭」は、そのすべての最初のおまつりにあたる。
令和7年5月2日の午前8時に始まった内宮の「山口祭」では、途中で「饗膳(きょうぜん)の儀」が行われた。「饗膳」とは、振る舞いの膳に供えたごちそうの意味で、重大な祭典奉仕の祝い膳という。もとは京都の朝廷から派遣された造官使という使者を、神宮側がもてなしたのがはじまりだと考えられている。古式料理13品が用意される。
「山口祭」では、竹の丸い籠に入った白い鶏がお供えされる。これは「生調(いきみつぎ)」と呼ばれ、お供えした後は生かされるという。古代の中国で、土地の神を祀るのに白い鶏を供えた風習が伝わったと考えられている。
ちなみに「おまつり」とは、本来「祀る」の名詞形で、神様に告げまつり、たてまつる儀式のこと。「祭祀」「祭儀」「祭典」とも言い換えられ、神様にお食事などをお供えし、感謝や祈りを捧げる厳かな神事を指す。一般に「祭り」という言葉からイメージされる、神輿(みこし)を担ぐなどのにぎわいは、あくまでおまつりに付随する行事。神宮の式年遷宮に関する諸祭も、常の祭祀と同じように、静寂のなか、厳かに粛々と行われる。
式年遷宮で最初に行われる「山口祭」は、御用材を伐採するにあたり、まず「山口に坐(ま)す神」、つまり、山の入り口にいらっしゃる神様に、木の幹を使わせていただくことを申し上げ、作業の安全を祈念するおまつり。
外宮の「山口祭」での一場面。祭場は、外宮の背後に聳える高倉山の山口にあたる別宮、土宮(つちのみや)の東に設けられた。
新しい「御正殿」の御床下(みゆかした)に建てられる御用材を伐採する儀式「木本祭(このもとさい)」
さらに、「山口祭」と同じ日の深夜には、「心御柱(しんのみはしら)」となる御用材が、神域内の山中で伐り出される。この柱については、連載の第2回の冒頭で触れているので、詳しくはそちらをご覧いただきたいが、古来神聖視されている、この特別な御柱の御用材を伐る際は、秘儀である「木本祭(このもとさい)」が行われ、「木本(このもと)に坐(ま)す大神」にお供え物を捧げ、これから伐り奉(まつ)ることを申し上げるという。
「木本祭」の灯りとなる松明。開始を告げる太鼓の音もなくおまつりが始まり、浄闇のなかわずかな奉仕員が参進する様子から、このおまつりが、いかに厳粛に執り行われるかがうかがえる。
ちなみに、この御用材は、御正殿の御床(みゆか)下の中央に奉建されるまで、白布(はくふ)、清筵(きよむしろ=植物を編んでつくった敷物)、清薦(きよこも)で丁寧に包まれて、内宮、外宮、それぞれの域内に安置されることになる。
御用材の調達は、約2年がかりで行われる。その間、内宮、外宮の御神体を納める「御樋代(みひしろ)」と呼ばれる御器(みうつわ)や、その「御樋代」を納める船形の「御船代(みふねしろ)」など、まず御神体に関する御用材の伐採と、それに伴うおまつりや行事が行われ、その後、社殿の造営に関する御用材が伐り出されるという。
伐採された御用材は、水中乾燥を経て、風通しの良い乾燥小屋で、3年から7年の間自然乾燥させて加工。神宮では、御用材の加工を「木造(こづく)り」と呼び、造営開始の際は「木造始祭(こづくりはじめさい)」が行われ、造営作業の安全が祈念される。
内宮の別宮、瀧原宮(たきはらのみや)。奥にある瀧原並宮(たきはらのならびのみや)とともに、隣接して同じ広さの敷地があり、新たな社殿が造営される。
御用材のおまつりの後、社殿建築のおまつり、神遷しのおまつりへと続く
その後、遷御の5年前、今回で言えば令和10年に、新しい御正宮、つまり新宮(にいみや)が建てられる新御敷地(しんみしきち)で、一般に言う地鎮祭にあたる「鎮地祭(ちんちさい)」が行われる。以後、御正殿の御柱を立てる立柱祭(りっちゅうさい)や、御正殿の棟木(むなぎ)を上げる上棟祭(じょうとうさい)など、造営作業の進行状況に従って、造営に関する諸祭が、主に遷御の1年前から行われる。さらに、新宮が竣工すると、御正殿の御床下に「心御柱」を建てる秘儀、「心御柱奉建」や、新たな宮処となる大宮処に坐す神に、竣工の感謝を捧げる「後鎮祭(ごちんさい)」などが行われ、いよいよ遷御のときを迎えることになる。
式年遷宮の中核をなす「遷御の儀」は、天皇陛下がお定めになった日時に、浄闇(じょうあん=清らかな夜)のなか行われる。神宮では、式年遷宮に関する諸祭の、特に重要なおまつりに関しては、古来「御治定(ごじじょう)」、つまり、天皇陛下が日時をお定めになるという。続いて翌日、新宮にお遷りになった天照大御神に、はじめてお食事をお供えする大御饌(おおみけ)、さらに、天皇陛下より奉られる幣帛を奉納し、最後に、宮内庁の楽師たちによる御神楽(みかぐら)の奉納が行われ、8年にわたる遷宮諸祭は締め括られるのだ。
令和7年5月2日の午後8時から行われた、内宮の「木本祭(このもとさい)」の一場面。わずかな灯りと限られた奉仕員のみで厳粛に行われる秘儀に先立ち、神職をはじめとする奉仕員と神饌を祓う「修祓(しゅばつ)」が行われた。
変わることで継続できる、式年遷宮の意義
もっとも、正確には、神宮の式年遷宮はこれで終わりではない。内宮、外宮、両正宮の遷御に続いて、14の別宮(べつぐう)でも社殿が新たに造営され、1年あまりの月日をかけて、順次「遷御の儀」が行われるのだ。
加えて、式年遷宮にあたっては、社殿だけでなく、神様の衣服や服飾品、また社殿の設(しつら)えに用いる装飾品や、太刀や馬具、文具などの調度品も一新されるという。その数、714種1576点。この「御装束神宝(おんしょうぞくしんぽう)」と呼ばれる品々も、内宮、外宮の両正宮だけでなく、14の別宮すべてに奉献され、「遷御の儀」の前日に、檜の香が漂う新しい社殿を装飾するという。
注目すべきは、この「御装束神宝」のいずれの品々も、社殿同様、古来受け継いだ仕様を変えることなく、1300年もの長きにわたり踏襲され続けているということだ。神々に奉るにふさわしい意匠や最高の技術、材料を追求して作り上げられる品々は、「神宝調製者」と呼ばれる、当代最高の技術を持つ匠たちの手によるもの。それぞれが自分の持てる技を尽くし、至上の工芸品を作り上げながらも、神々の御料であることから、その作品に匠や作者の銘が刻まれることはない。「調製」とは、規格通りに作り上げること。神々に奉る品々は、真心をもって奉製にあたることが求められるのだ。
日々の祈り。稲作の暦に沿って、毎年繰り返される恒例のおまつり。そして、20年に一度の式年遷宮。
過去から今へ、そして未来へ。長い年月にわたるその継続が、「常若」の聖地を作っている。
Text by Misa Horiuchi
伊勢神宮
皇大神宮(内宮)
三重県伊勢市宇治館町1
豊受大神宮(外宮)
三重県伊勢市豊川町279
文・堀内みさ
文筆家
クラシック音楽の取材でヨーロッパに行った際、日本についていろいろ質問され、<wbr />ほとんど答えられなかった体験が発端となり、日本の音楽、文化、祈りの姿などの取材を開始。<wbr />今年で16年目に突入。著書に『おとなの奈良 心を澄ます旅』『おとなの奈良 絶景を旅する』(ともに淡交社)『カムイの世界』(新潮社)など。
写真・堀内昭彦
写真家
現在、神宮を中心に日本の祈りをテーマに撮影。写真集「アイヌの祈り」(求龍堂)「ブラームス音楽の森へ」(世界文化社)等がある。バッハとエバンス、そして聖なる山をこよなく愛する写真家でもある。
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京都通信
2025.6.27
京都で味わう夏の彩り──新緑や季節の花が美しい寺社5選
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初夏から夏にかけて、青々とした緑と季節の草花に彩られる京都のまち。木々の間から苔むす庭に差し込むやわらかな光、梅雨に濡れた紫陽花、水辺を涼しげに彩る蓮や睡蓮など、趣のある表情が訪れる人の心を癒してくれます。
◆青もみじが彩る静寂の庭園「圓光寺」
市内中心部から少し離れた洛北エリア・一乗寺にある圓光寺は、徳川家康が学問所として開いた歴史を持つ寺院。
紅葉シーズンは混雑必至のスポットですが、今の時季は観光客も少なめ。
色鮮やかな青もみじを眺めながら、静かで心安らぐ時間が過ごせます。
とくに美しいのは、青もみじと苔が緑のグラデーションを描く「十牛之庭」。
柱や鴨居を額縁に見立てて眺める“額縁庭園”としても知られています。
本堂から眺める「十牛之庭」。一枚の風景画のような美しさに、思わず息を呑む。
この十牛之庭は池泉回遊式の庭園で、庭に出て散策することもできます。
静かな境内にかすかに響く水琴窟の澄んだ音色や、苔の絨毯の上にちょこんと佇むお地蔵さまが心を和ませてくれます。
にっこり微笑む愛らしい姿に、思わずこちらも笑顔になってしまう。
庭園の奥に広がるのは、江戸時代の絵師・円山応挙が作品のモチーフにした竹林。
爽やかな風が吹き抜け、さわさわと葉を揺らす竹林の風情に癒やされます。
圓光寺(えんこうじ)
住所:京都市左京区一乗寺小谷町13
TEL:075-781-8025
拝観時間:9:00〜17:00
拝観料金:大人800円、小中高生500円
HP:https://www.enkouji.jp/
Instagram:@enkouji
◆涼やかな竹の緑が心を鎮める「地蔵院」
「竹寺」の名で親しまれる「地蔵院」は、洛西エリアの住宅街にひっそり佇む臨済宗の古刹です。
1367年に作庭家であり禅僧の夢窓国師が開山。一休禅師が幼少時を過ごしたことでも知られています。
新緑の木々に囲まれた山門。その奥に、見事な竹林が続いている。
山門をくぐった先に広がるのは、竹林と苔に包まれた静寂の世界。
参道沿いには、空に向かってまっすぐ伸びる青竹が連なり、風にそよぐ葉擦れの音や新緑の香りが心を満たしてくれます。
竹林に覆われた涼やかな境内。街から離れた立地ゆえに混雑も少なく、静かなひとときが堪能できる。
方丈前庭には、十六の自然石を羅漢(仏教において最高の悟りを得た聖者のこと)に見立てた枯山水庭園「十六羅漢の庭」が。
苔と石が織りなす静かな庭園を眺めながら、穏やかなときを過ごすことができます。
地蔵院(じぞういん)
住所:京都市西京区山田北ノ町23
電話番号:075-381-3417
拝観時間:9:00~16:30
拝観料:500円
HP:https://www.takenotera-jizoin.jp/
◆梅雨に映える紫陽花の名所「岩船寺」
梅雨の京都で、静かに心を潤してくれる場所──それが木津川市・当尾地域に佇む岩船寺です。
「紫陽花寺」として知られるこの寺を彩るのは、およそ5000株もの紫陽花。
原種の山アジサイや西洋アジサイをはじめとする約35品種が、境内を赤や青、紫色に染め上げます。
京都市街地から離れた場所ながら一度は訪れたい紫陽花の名所。例年6月下旬には紫陽花と睡蓮が同時に楽しめるのも魅力。
岩船寺の紫陽花は、昭和初期、荒廃した境内に美しさを取り戻そうと先代住職の手によって植えられたのが始まりだそう。
重要文化財に指定されている三重塔を囲むように咲く風景は、まるで絵画のよう。
しとしとと降る雨に濡れ、一層鮮やかな色を放つ紫陽花の美しさは格別です。
本堂前に置かれた睡蓮鉢の花手水。
また、紫陽花の花が浮かべられた花手水も見どころのひとつ。
毎日少しずつ入れ替わるので、その日によって異なる色合いが楽しめます。
〈紫陽花の見頃〉
6月上旬〜7月上旬
岩船寺(がんせんじ)
住所:木津川市加茂町岩船上ノ門43
電話:0774-76-3390
拝観時間:8:30~17:00(12月~2月は9:00~16:00)
入山拝観志納料:大人500円・中高生400円・小学生200円
HP:https://gansenji.or.jp/
Instagram:@gansenji_temple
◆“モネの睡蓮の池”を思わせる「大原野神社」
自然豊かな洛西エリアに位置する大原野神社は、印象派の画家クロード・モネの作品を連想させる風景が見られることで知られるスポット。
神社としての歴史も古く、遡ること1200年以上。桓武天皇による長岡京遷都の際、藤原氏の氏神である奈良春日大社の神々を分霊して創建され、別名「京春日」とも呼ばれています。
源氏物語にも登場する大原野神社。紫式部が氏神として崇敬していたことでも知られている。
“モネの睡蓮の池”が見られるのは、参道の途中にある鯉沢池。
5月中旬から8月下旬にかけて池一面に咲く白い睡蓮の花と、池に架かる太鼓橋が織りなす風景は、モネの名画「睡蓮の池と日本の橋」さながら。
午後には花が閉じてしまうので、午前中に訪れるのがおすすめ。
池のまわりはグルッと一周できるので、ゆっくり歩きながら涼しげな水辺の風景を堪能してくださいね。
〈睡蓮の見頃〉
5月中旬〜8月下旬
大原野神社(おおはらのじんじゃ)
住所:京都市西京区大原野南春日町1152
TEL:075-331-0014
拝観時間:拝観自由
拝観料金:無料
HP:https://oharano-jinja.jp/
Instagram:@oharanojinja.official
◆池に咲く蓮が見事な「法金剛院」
「関西花の寺二十五ヵ所」の第13番札所として知られる法金剛院は、通称「蓮の寺」とも呼ばれる蓮の名所。
境内には極楽浄土を表現した池泉回遊式庭園が広がり、大賀蓮や不忍斑蓮、漢蓮など約90種類にもおよぶ蓮の花が初夏から盛夏にかけて次々と咲き誇ります。
極楽浄土には青・黄・赤・白色の大きな蓮が咲くと言われている。それに因んで、境内には4色の蓮が集められている。
通常拝観は毎月15日のみですが、蓮が見頃を迎える7月には「観蓮会」が開かれ、朝7:30から開門。
静寂に包まれた庭園で、蓮の花がゆっくりと開いていく様子を間近で感じることができます。
苑池を埋め尽くすように咲く蓮のほか、礼堂前にズラリと並ぶ鉢植えも美しい。その数なんと120にも及ぶとか。
泥の中からまっすぐに茎を伸ばし、凛と美しく咲く蓮の花。
朝の澄んだ空気のなか、やさしい香りを漂わせながら開花するその姿を眺めていると、心が浄化されていくよう。ぜひ早起きして、朝一番に訪れてくださいね。
法金剛院(ほうこんごういん)
住所:京都市右京区花園扇野町49
TEL:075-461-9428
受付時間:通常は毎月15日の9:30~16:00のみ
観蓮会期間中は7:30〜12:00
拝観料:大人500円、小人300円
HP:http://houkongouin.com/
【睡蓮と蓮の違いとは?】
睡蓮と蓮は、どちらも水辺に咲く水生植物。姿形もよく似ていますが、葉の形や花の咲く位置に違いがあります。睡蓮はスイレン科で、水面に浮かぶように花を咲かせ、葉に光沢と切れ込みがあるのが特徴。日中に開花して、夕方になると眠るように閉じてしまうことから「睡蓮」と名づけられたそうです。一方、蓮はハス科で、水面より高い位置に花を咲かせ、葉には光沢や切れ込みがありません。早朝から咲き始め、昼頃には閉じてしまうので、早起きして観賞するのがおすすめです。
Text by Erina Nomura
野村枝里奈
1986年大阪生まれ、京都在住のライター。大学卒業後、出版・広告・WEBなど多彩な媒体に携わる制作会社に勤務。2020年に独立し、現在はフリーランスとして活動している。とくに興味のある分野は、ものづくり、伝統文化、暮らし、旅など。Premium Japan 京都特派員ライターとして、編集部ブログ内「京都通信」で、京都の“今”を発信する。
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Features
神仏と人物、その“かたち”に秘められた物語
2025.5.30
静嘉堂文庫美術館にて開催。「絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ」
「大内図屏風」左隻(承安五節絵隻)江戸時代(17~18 世紀) 後期展示
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東京・丸の内、静嘉堂文庫美術館にて、日本絵画のなかに表現されてきた「神仏」と「人物」に焦点を当てた「絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ」が開催される。会期は7月5日(土)から9月23日(火・祝)まで。
重要美術品「春日宮曼荼羅」 南北朝時代(14世紀) 後期展示
本展は、やまと絵、仏画、垂迹画、道釈画などを通じ、古美術の中に息づく“人のかたち”“神のかたち”の意味を紐解くもの。人物のポーズ、装束、表情に隠された象徴や、仏が人々を救済するために神の姿を借りて現れる考え方を指す「本地垂迹思想」など、ビジュアルと物語性が交錯する日本独自の宗教美術に触れることができる。
重要文化財 牧谿「羅漢図」 南宋時代(13世紀) 前期展示
国宝 因陀羅筆・楚石梵琦題詩「禅機図断簡 智常禅師図」 元時代(14世紀) 前期展示
展示の大きな魅力のひとつは、入門編でありながらも国宝や重要文化財を含む名品が展示されていること。たとえば、春日社の神仏関係を凝縮して描いた重要美術品「春日宮曼荼羅」、深い瞑想にふける羅漢の姿を描いた重要文化財 牧谿「羅漢図」 、悟りの瞬間を描いた中国禅画の名品、国宝 因陀羅筆・楚石梵琦題詩「禅機図断簡 智常禅師図」など、珠玉の作品が揃う。
狩野常信「琴棋書画図屏風」 江戸時代(17~18世紀) 前期展示
さらに、夏休みに合わせた親子向けのギャラリートークや謎解きワークシートも用意されており、大人だけでなく子供も楽しめる試みも。「神仏」と「人物」をめぐる奥深い日本美の世界に、触れてみてはいかがだろうか。
重要文化財 「春日本迹曼荼羅」 鎌倉時代(14世紀) 前期展示
◆絵画入門 よくわかる神仏と人物のフシギ
【会期】 2025年7月5日(土)~9月23日(火・祝)
※前期:7月5日~8月11日 / 後期:8月13日~9月23日(ほぼ全作品入れ替え)
【会場】 静嘉堂文庫美術館(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1階)
【開館時間】10:00~17:00(第4水曜は20:00まで、9/19・20は19:00まで)
【休館日】月曜(ただし祝日開館・翌平日休館。詳細は公式HPへ)
【入館料】一般1,500円、大高生1,000円、中学生以下無料
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Events
四季折々の日本の伝統の食と文化に触れる特別な体験
2025.5.26
東京・目黒「八雲茶寮」で江戸の食と文化を体験する「季節を味わう江戸の宴」開催
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目黒区八雲の住宅街にひっそりと佇む、隠れ家のような和食料理店「八雲茶寮」がある。
和菓子店「HIGASHIYA 」を運営する緒方慎一郎が亭主を務める八雲茶寮は、四季折々の和菓子を販売する「楳心果(ばいしんか)」のほか、朝のひと時を調える「朝茶」や午後の楽しみ「午申茶(ごしんちゃ)」などのメニューを供する茶房や、生活道具を販売するサロンなどを併設し、さらには「現代の文化サロン」という一面も持つ、特別な空間である。
右手が和菓子を販売する「楳心果」。
美しい光を感じる茶房。
邸宅を改装した「八雲茶寮」では、日本の伝統文化に触れることができる文化講座もおこなっている。
2025年の春からは、江戸料理文化研究所代表であり、時代小説家である車 浮代氏による、浮世絵から見る江戸の風情を紐解きながら、江戸の食文化をわかりやすく紹介してくれる「季節を味わう江戸の宴」と称した講座が行われている。
美しい緑に囲まれたお食事をいただく空間。
4月26日に開催された「季節を味わう江戸の宴 花見の宴」の料理。
春の花見にはじまり、夏の花火、秋の月見、冬の雪見と、江戸の人々の風物詩と共に、江戸庶民の食生活を解説し、当時の人々の暮らしぶりを垣間見ながら、現在の食生活とのつながりを学べる本講座は、学校では学ぶことのない歴史と江戸文化に触れられる貴重な体験である。講座の後には、当時の料理を現代風に八雲茶寮がアレンジした、ここでしか食べられない食体験をすることができる。
歴史と共に、和食の真髄を学び体験できる貴重な機会に、ぜひ足を運んでいただきたい。
◆季節を味わう江戸の宴
【開催日時】
2025年7月12日(土)花の宴
2025年10月25日(土)月見の宴
2026年1月24日(土)雪見の宴
【開催会場】八雲茶寮(東京都目黒区八雲3₋4₋7)
【会費】22,000円(税込)
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アート探訪記~展覧会インプレッション&インフォメーション
2025.5.24
銀座・和光「金工の深化 Ⅲ」 語りかけてくる、素材としての金属が持つ無限の可能性
左/wonders 097-2 18×18×高さ16.5㎝ 久米圭子 右/揺れる想い 50×68×高さ99㎝ 相原健作
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金属という素材に魅せられ、独創的な世界を生み出している6人の金工作家の作品が、セイコーハウス6階 セイコーハウスホールに集いました。今回で3回目を数えるこの展覧会は、 題して「金工の深化 Ⅲ」。独自の技法を駆使して創り上げられた造形の数々は、素材としての金属が持つ無限の可能性を私たちに語りかけてくれます。
大好きだった昆虫を、自分のフィルターを通して作品へと昇華 ──相原健作──
糸トンボが羽根を休めている。6本の細い脚が、水辺の葦をしっかりと掴まえている。脚の曲がり具合などはリアル。でもよく見ると、目の玉が大きかったり、4枚の羽根が胴の同じ場所から生えていたりと、実物とは異なる部分も随処にある。そして、金属のなかでも鉄という極めて硬い素材にもかかわらず、「揺れる想い」という作品名が物語るように、糸トンボはどこか儚げだ。
相原健作さんが手掛ける糸トンボや揚羽蝶は、鉄からなるこうした昆虫たちが単体として存在しているのではなく、あくまでも風景のなかに存在する生物として息づいているかのようだ。
「自分というフィルターを通して、自分自身が好きな部分はデフォルメし、逆に不必要だなと思う部分は思い切って省略しています。でも、最初は実物をじっくり観察し、スケッチすることから始まります。実際に虫を捕まえてくるのがよいのでしょうが、最近ではあまり実物もいなくて、標本を購入したりしています」
羽根を休める金色の糸トンボ。大きな目玉はどこを見ているのだろうか。あえて斑(まだら)になるように金箔を施した羽根は、どこまでも軽く柔らかな表情。Bringing Happiness 21×54×高さ75㎝
幼い頃から昆虫が大好きで、加えて物作りも大好きだった相原少年が、長じて金工の分野に進んだ際、モチーフを昆虫に求めたのはある意味では当然の流れだった。
「美大の先輩たちの作品は、人体や動物をモチーフとしたものが多かったのですが、自分にとって金属というのは、やはり硬質な素材であり、それは昆虫が持つ外骨格という構造にとてもマッチしているように思えたのです。しかも幼いころからの虫好きという自分の志向があるので、極めて自然に昆虫を作るようになりました」
先人が成し遂げた、高度な鍛金技法を解明
相原さんの作品は鍛金(たんきん)と呼ばれる技法だ。ハンマーで叩き伸ばした鉄をカッティングし、つなぎ合わせて造形していく。鑿(のみ)などは用いないシンプルな技法で、日本では古来、刀や甲冑などの制作に用いられてきた。
「どのようにしてそれが作られたのか、その製作方法が分からない先人の作品もあります。その製作法の解明研究等も大学で行っています、最近復元できたのがこれです」
それはさりげなく展示してあった瓢箪だった。一見、なんの変哲もない金属でできた瓢箪に思えるが、その瓢箪が一枚の丸い金属板を叩くという工程のみを経て、優美な局面を描く立体となり、しかも繋ぐという作業は一度も行われていないと聞くと、驚きに捉われる。
「文化財の復元作業などにも関わっていますが、先人たちが編み出した技術の凄さに驚くことが多いです」
「揺れる想い」の奥にさりげなく展示されている瓢箪。長らくその作り方が謎とされてきたが、相原さんが技法を解明し、復元に成功した。瓢箪の口の部分が、じつは鍛金加工するベースとなる丸い金属板の外周部分にあたる。金属板を叩くという作業のみで、美しい立体を生み出す技法にただただ感服する。
結果がすぐ判明するライブ感のような即効性。それが金工の面白さ
「鍛金は、基本的にはハンマーで金属を叩くという作業の繰り返しですが、それだけに奥が深い技法です。折り曲げる角度のちょっとした違いや、カッティングのミリ単位の差で、作品の表情が大きく変わってきます。この糸トンボも、ミリ単位の調節を最後の最後まで行っています。自分自身、あきらめが悪い性格というのでしょうか」
相原さんは苦笑いする。
「ただ、それが金工の魅力でもあるのです。言い換えれば即効性というか、ライブ感というか。陶芸のように窯出しするまでは結果が分らないとか、漆芸のように乾くまで時間がかかるということはなく、その場で結果が出てしまう、その面白さが金工にはあるような気がします」
鉄でできた昆虫たちに、しなやかさを纏わせてあげたい
相原さんの作品の素材は主に鉄だ。箔がほどこされた表面は、控えめな黄金色だったり、鈍色(にびいろ)を湛えて深く沈みこんだりしている。
「鉄は金属のなかでも硬く、堅牢な材質です。でも、日本刀がそうであるように、しなやかなイメージもあります。私は、そのしなやかさをも大切にしたいと考えています。昆虫たちにも、鉄の硬さだけでなく、しなやかさを纏わせてあげたいですね」
相原さんが手掛ける糸トンボや揚羽蝶たちが、ただ昆虫として存在しているのではなく、風景のなかで息づいているように見えるのは、相原さんが意図するように、ある種のしなやかさを虫たちが放っているからだろう。そう思って改めて作品を見ると、止まっていた糸トンボが、羽根を広げ今にも飛び立ちそうな、そんな気配を一瞬感じた。
生きていくための仕組みや構造をデザイン化し、金属で表現する ──久米圭子──
なんと表現すればよいのだろう。複雑に組み合わされた金属が、小宇宙を形成している。しかもその小宇宙は、けっして無機質ではなく、むしろ微かに息づく微生物のような趣で自らの存在感をひっそりと主張している。内部を構成するパーツは薄いブルーグリーン。その控えめな淡い色調と曲線を描くパーツの組み合わせが、無機質というよりも、有機的な生命の根源すら感じさせる。
「生きていくための仕組みや構造のようなものに着目し、それをデザイン化して金属で表現できたら。そんなことを考えています。モチーフは生物全体かもしれません」
久米圭子さんの作品は不思議だ。久米さん自身がそう語るように、生命の原初形態のようなミクロの世界でありながら、同時に、完結する小宇宙のようでもある。
「花粉、種、貝殻、いろいろなものの構造を見つめそこからヒントをもらっています。海に漂う動物プランクトンの一種である放散虫や、ときには顕微鏡で見た細菌の図録までも眺めています。金属というと、イメージ的には硬質ですが、金属でありながら ちょっとふにゃっとして柔らかな感じを両立させているつもりです」
いくつものパーツを組み合わせた内部構造を、あたかも守り保護するかのように外枠が覆う。金属ではあるものの、微かに動いているかのような、原始的な生物を思わせるたたずまい。wonders 097-2 18×18×高さ16.5㎝
思い描いた完成形の断面図を図面化。作業はそこから始まる
久米さんの作業は、頭のなかで思い描いた完成形の精密な断面図を、実際に図面化することから始まる。その断面図に描かれたパーツを、真鍮板からくり抜くように糸ノコで切り出し、やすりで綺麗に整えてから組み立てていく。と書けば簡単そうに思えるが、実際はそうではない。
「1個のパーツのほんの僅かな寸法の狂いのために、全体を組み上げることができなくなり、切り出したほかのパーツが全部使えなくなってしまうこともあります。多い作品ですと、30パーツくらいありますから、がっくりです。断面図も3dプリンターや、建築の製図を描くキャドなどは使わず、あくまでも頭のなかで描いたものを平面図にしています。そのような細かいことを考えるのが、自分自身好きなのでしょうね。ただ、作業場でやっていることといえば、図面通りに真鍮板からパーツを糸ノコで切り出し、それをやすりで整えたり、ちょっと熱を加えて曲げたり、時には透かし彫りを加えたりという、昔ながらの金工の世界です」
さまざまなパーツを組み合わせることで内部を複雑化し、小宇宙を構築
「美大に在籍していたとき、金属で半球を二つ作り、それをつないで、つなぎ目をわからなくして球体にしてみたことがあります。金属板という平面からスタートする金工の世界では、つなぐという工程を経ないで、閉じた球体をつくることは不可能ですが、こうすれば、感じのよい表現ができるかもしれないというヒントのようなものが得られました。接ぐのではなく、さまざまなパーツを組み合わせることでひとつの世界を構築し、その内部をどんどん複雑にしていく。そこに、昔から興味のあった生命の成り立ちのようなものを吹き込んで出来上がったのが、こうした作品です」
壁面を彩る、可憐な金属の花
壁面には、「loop」と名付けられた作品が掛かる。薄くスライスしたレモンのような金属板をループ状に幾重にも重ねた、それ自体が可憐な花びらのような、あるいは複雑な雪の結晶のような、愛らしい作品だ。 「wonders097-2」と同じく、金属板のところどころは薄いブルーグリーンに発色している、この発色は緑青。久米さんが用いる素材である真鍮に含まれる銅が、空気中の水分などと反応することで生じる独特の、そしてどことなく懐かしい色合いだ。
壁面を飾る可憐な作品は「loop ん14」と命名。その名の通り、繊細に切り出された真鍮板が、何枚もループ状に重なり、あたかも一輪の花が開いたような趣。15×15㎝
「私の作品をご覧になった方が、何を想像されるかは、まったくの自由です。ただ、作品に愛着のようなものを感じていただけたら、いいなと思っています。内側の方は、きっちり組み合わさっているように見えますが、なかにはわざと動くように組んであるパーツもあります。そんなちょっとした“遊び”のようなところも見つけてみてください」
話を伺った2人の作家のほかに、今回の展覧会には、以下の4名の方々が、それそれ独創的な作品を出品している。
加藤貢介さん、坂井直樹さん、髙橋賢悟さん、満田晴穂さん
◆アート探訪記~展覧会インフォメーション
金工の深化 Ⅲ ──Evolution of Metal Wors Ⅲ──
会期:2025年5月22日(木) 〜 2025年6月1日(日)
時間:11:00 – 19:00 最終日は17:00まで
- 場所:セイコーハウス 6階 セイコーハウスホール
櫻井正朗 Masao Sakurai
明治38(1905)年に創刊された老舗婦人誌『婦人画報』編集部に30年以上在籍し、陶芸や漆芸など、日本の伝統工芸をはじめ、さまざまな日本文化の取材・原稿執筆を経た後、現在ではフリーランスの編集者として、「プレミアムジャパン」では未生流笹岡家元の笹岡隆甫さんや尾上流四代家元・三代目尾上菊之丞さんの記事などを担当する。京都には長年にわたり幾度となく足を運んできたが、日本文化方面よりも、むしろ居酒屋方面が詳しいとの噂も。
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