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京都通信
2025.7.28
京都の寺社は朝が美しい──静けさと涼を求めて早朝さんぽ&京のゆば粥御膳で朝食を
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夏の盛りを迎えた京都。
どこへ出かけても、厳しい暑さと人波に気後れしてしまう……。そんな季節だからこそ、おすすめしたいのが、静けさに包まれた朝のひとときです。
東寺や下鴨神社、北野天満宮など、早朝から参拝できる寺社を訪ねたあとは、二条城で美しい庭園を眺めながら朝食をいただく特別なひとときを。
喧噪を離れ、凛とした空気に身をゆだねる、京都ならではの朝の過ごし方をご紹介します。
東寺 5:00開門
京都で最も早く開門する、朝の聖域
五重塔がシンボルの世界遺産・東寺は、京都の寺院のなかでもとくに朝が早く、開門はなんと5時。まだ街が目覚めきらない時間帯、澄んだ空気と静寂に包まれた境内を歩くと、心がすっとほどけていくような感覚に満たされます。
朝焼けの空にそびえる国宝「五重塔」。日の出時刻の前後数十分がとくに美しい。
朝6時からは、弘法大師・空海が住居としていた御影堂(みえどう)で「生身供(しょうじんく)」と呼ばれる法要が行われています。誰でも参加できるので、希望する方は5時50分頃までに御影堂の唐門または西門前へ。
この法要では、国宝である本尊・弘法大師像が開帳され、一の膳、二の膳、お茶が供えられます。読経の声が静かに響く堂内で参拝者も一緒に手を合わせ、最後には空海が唐から持ち帰ったという仏舎利(お釈迦様の遺骨)を授けてもらうことができます。
境内の北西に位置する「御影堂」。南北朝時代の建物で、国宝に指定されている。
さらに、毎月21日には境内で「弘法市」が開かれ、早朝から骨董品や古着、食べ歩きできるフード類など、多彩な露店がずらりと並びます。第1日曜日には骨董市「東寺ガラクタ市」も開催されているので、掘り出しものを見つけに訪れてみては?
東寺(とうじ)
住所 京都市南区九条町1
TEL 075-691-3325
開門時間 5:00〜17:00
HP https://toji.or.jp/
Instagram @toji_official
下鴨神社 6:30開門
太古の森を歩く、清めの朝
京都最古の神社のひとつである下鴨神社は、朝6時半から参拝可能。境内を歩けば、木々の葉をわたる風の音や、小鳥のさえずりが、心にそっと寄り添ってくれるよう。早朝は訪れる人もまばらで、清々しい空気に包まれています。
鮮やかな朱塗りの「楼門」は重要文化財に指定されている。
境内の大半を占める「糺の森」に広がるのは、縄文時代から続く原生林。うっそうと茂る木々のあいだを歩けば、森そのものが神域であることを実感。朝露の匂いをふくんだ森の空気に、心がすっと癒やされていくのを感じます。
この森を含む下鴨神社は、世界文化遺産にも登録されており、自然遺産としても貴重な存在です。手つかずの植生が今なお守られていることに、自然と敬意の念が湧いてきます。
太古の自然を遺す「糺の森」は広さ3万6千坪。原生林の間を静かに小川が流れている。
境内には、美麗の神様を祀る河合神社や、縁結びで知られる相生社などの摂社・末社も点在。静かな時間の流れに身をまかせ、それぞれの社をゆっくりめぐってみるのもおすすめですよ。
北野天満宮 7:00開門
朝の光に映える御社殿の壮麗な佇まい
学問・厄除・芸能の神様として知られる菅原道真公を祀る北野天満宮。こちらは朝7時から参拝が可能です。
後西天皇(1637-1685)宸筆の勅額『天満宮』が掲げられた「三光門」。
ゆるやかに境内を進んでいくと、やがて見えてくるのが「三光門」。壮麗な造りがひときわ目を引く、シンボル的な建築です。
その奥に佇む御本殿は、国宝に指定されており、桃山時代の建築美を今に伝える貴重な存在。唐破風や黄金色に輝く装飾、精緻な彫刻など、細部に宿る技を、朝の光のなかでゆっくりと味わうことができます。
また、天満宮といえば菅原道真公がこよなく愛した「梅」も有名。御神木として大切に受け継がれる梅のほか、境内の随所に梅の神紋が見られます。
“天神さんの日”として親しまれる縁日。境内には食べ物の屋台も多く、お祭り気分が楽しめる。
毎月25日には縁日「天神市」が開催され、朝6時ごろから骨董や古書、食器、和雑貨など、多彩な露店が並びます。ふと足を止めた先で、思いがけない品との出合いがあるかもしれません。
北野天満宮(きたのてんまんぐう)
住所 京都市上京区馬喰町
TEL 075-461-0005
開門時間 7:00〜17:00 ※毎月25日は6:30開門
HP https://kitanotenmangu.or.jp/
Instagram @kitano_tenmangu
二条城・香雲亭 9:15~10:15
歴史に抱かれる庭園で、ゆば粥朝御膳を
寺社をめぐって静かな朝の時間を味わったあとは、二条城へ。世界遺産にも登録されているこの城のなかに、通常は非公開の「香雲亭」があります。夏の朝のひととき、特別にその扉が開かれ、美しい庭園を眺めながら朝食をいただける貴重な体験が待っています。
江戸時代の豪商・角倉(すみのくら)家の屋敷跡から移築された「香雲亭」。
提供されるのは、祇園・円山公園に本店を構える「京料理いそべ」の料理。自家製の汲み上げゆばを使ったやさしい味わいの「ゆば粥」と季節の小鉢を添えた「京のゆば粥御膳」です。
今年は大阪・関西万博の開催を記念し、月替わりの逸品には地元・京都の食材を中心に関西各地の恵みが盛り込まれています。7月の「鱧おとし(大阪府/兵庫県)」から始まり、8月は「賀茂茄子のしぎ焼き(京都府)」、9月は「鮎の竜田揚げ(滋賀県/和歌山県)」を予定。見た目にも涼やかな品々が、朝の身体にやさしく染みわたります。
8月の「京のゆば粥御膳」。献立には、賀茂茄子のしぎ焼きやゆば粥がラインナップされる。
香雲亭の目の前に広がるのは、和洋折衷のユニークな造りが特徴の庭園「清流園」。東半分は芝生を敷き詰めた洋風ですが、香雲亭のある西半分は池を中心に四季折々の美しさを見せる和風庭園。朝の光をやわらかく照らす水面と、全国から集められた銘石が織りなす変化に富んだ景色とともに、料理を味わう朝──そんな贅沢がここにあります。
朝食の提供は2025年7月15日(火)から9月30日(火)まで。完全予約制・各日40名限定なので、早めの予約がおすすめです。
特別朝食「京のゆば粥御膳」(とくべつちょうしょく「きょうのゆばがゆごぜん」)
開催場所 二条城内 清流園・香雲亭
開催日時 2025年7月15日(火)~2025年9月30日(火) 9:15~10:15
料金 4,200円(税込) ※入城料が別途必要
申し込み 参加希望日の前日15:00までに要予約
予約連絡先 075-551-1203(京料理いそべ/受付時間10:00〜15:00)
元離宮二条城(もとりきゅうにじょうじょう)
住所 京都市中京区二条通堀川西入二条城町541
TEL 075-841-0096
入城時間 8:45〜16:00(17:00閉城)
入場料 一般800円、中高生400円、小学生300円
HP https://nijo-jocastle.city.kyoto.lg.jp/
Instagram @nijojocastle
涼やかな空気に包まれる、京都の朝。静けさの中で心をととのえ、癒やされるひとときを過ごしてみませんか。
Text by Erina Nomura
野村枝里奈
京都在住のライター。大学卒業後、出版・広告・WEBなど多彩な媒体に携わる制作会社に勤務。2020年に独立し、現在はフリーランスとして活動している。とくに興味のある分野は、ものづくり、伝統文化、暮らし、旅など。Premium Japan 京都特派員ライターとして、編集部ブログ内「京都通信」で、京都の“今”を発信する。
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
2025.7.28
伊勢神宮で古くから行われる「お祓い」の儀式と「御塩」の意味
神宮で行われる大祓(おおはらい)の様子。榊の枝に麻苧(あさお)を付けた大麻(おおぬさ)と呼ばれる祓い具で、神職たちを祓い清める。すべてが清らかな姿に、見ていた子どもが思わず「きれい」と声を上げた。
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何度訪れても、いつ参拝しても、伊勢の神宮は清々しい。
そう思う理由の1つに、伊勢神宮の内宮に流れる五十鈴川の存在がある。清らかな流れと心洗われる瀬音、そして、内宮の御手洗場(みたらし)で手を清めるときの、ひんやりとした水の感触。五感を伴って刻まれたその清々しさの記憶は、神宮という言葉とともに鮮やかに蘇ってくる。
五十鈴川の清らかな流れ。
伊勢神宮の大祓(おおはらい)とは
神宮の大祓は、毎年6月、12月の晦日(みそか=月の最後の日)と、大祭が行われる前の月、たとえば、2月の祈年祭のための大祓は、前の月である1月の晦日、というように、4月、5月、9月、10月、11月の晦日の、計8回行われている。大祭に先立ち、大宮司以下の神職や楽師たちが、内宮の第一鳥居近くの、注連縄が張られた「祓所(はらえど)」と呼ばれる場所で、それぞれの罪や穢れを祓い清めるのだ。
神道でいう罪や穢れは、日常生活の中で知らず知らずのうちに身に付いてしまったさまざまなものを指す。一説では、罪は「包む身(<u>つ</u>つむ<u>み</u>)、穢れは「気枯(けが)れ」を指し、人間本来の姿を包んで隠してしまうことが罪であり、「気」を枯らす、つまり、生命力を減退させてしまうのが穢れだと言われている。つまり、人間はもともとすばらしい体を持ちながら、それを覆い隠すようなものが付着するために本来の姿が隠れてしまい、病気や災難に遭うなどの好ましくない状態になってしまう、というのだ。
内宮の五十鈴川の川辺で行われる大祓を終え、斎館に戻る神職たち。
禊は水で身を清めること、
祓いは水や火、塩、さらに祓い具などによって罪や穢れを除き去ること
そんな罪や穢れを除き去るため、日本では古来、禊(みそぎ)や祓いが行われてきた。
禊とは、水を使って身を清めること。特に海や川などの清らかな水は、穢れを浄化する神聖な力があるとされ、古くは神前に流れている川で身を清めたという。内宮の御手洗場も、本来は神宮の祭祀に関わる人々が禊をする場所だった。現在お参りの前に手水舎で手を洗い、口をすすぐのも、簡略化された禊を行っていると考えられている。
一方祓いは、水や火、塩、さらに祓い具などによって罪や穢れを除き去ること。神社で正式参拝をしたことがある人なら、神事に先立ち、神職が祓いの詞(ことば)である祓詞(はらえことば=)を奏上した後で、大麻(おおぬさ)、つまり、榊の枝や素木(しらき)の棒に、白い紙を特殊な断ち方をして折った紙垂(しで)や、麻の繊維を原料とした麻苧(あさお)と呼ばれる糸を付けた祓い具で、参列者の頭上を左右左と振る、修祓(しゅばつ)の儀式に立ち会ったことがあるだろう。
手水舎は、簡略とはいえ、心静かに身を清める禊の場所。内宮の別宮、瀧原宮で。
たとえ意味は知らなくても、神社でお参りすることは、参拝者それぞれが、古来重視されてきた禊や祓いを簡略ながらも行って、心身を清浄にし、その上で神前に進み出るという行為をしているわけだ。
ケからハレへ
神社をお参りしようという思い自体が浄化作用に繋がっている
「祝詞では、よく『今日の生日(いくひ)の足る日』、つまり、『今日は生き生きとした満ち足りた日である』という文言が使われます。神社にお参りに来るのは、まさにそんな日で、日常であるケの状態からハレになるということです。つまり、神社にお参りをするという発想を思いつくこと自体が、自分をケからハレに変えることであり、その人の中で浄化作用である祓いを行っていると、私は思います」
神宮の広報室次長の音羽悟さんは言う。
興味深いのは、罪や穢れが道徳的、人為的なものだけではないということだ。
「たとえば落雷や大雨に遭うなど、自然界で発生するいろいろな災異を受けてしまうことも、自分の常日頃の行いに罪や穢れがあるからだと、古代人は考えていたのです」と音羽さん。
古代においての罪や穢れは、個人の問題だけでなく、共同社会の幸福発展にとっても障害となると考えられていたようだ。
大祓の儀式も、もとは国家の神事として行われるものだった。8世紀に制定された『神祇令(じんぎりょう=国家祭祀の根本的な事柄をまとめたもの)』によれば、毎年6月と12月に、恒例の神事として大祓を行うことが定められていたという。
大祓では、まず神職それぞれに榊の枝が手渡される。
権禰宜が大麻の前で、細かく切った白い紙(切麻=きりぬさとも呼ばれる)と米粒を左右左と散ずる「銭切(せんぎり)」、「散米(さんまい)」の所作を行った後、大祓詞を微音で唱える。その間、神職たちは榊を手に平伏。
「古代人はサイクルをとても大事にしていました。繰り返すという循環の中で、節目節目に祓いを行って原点に立ち返る。つまり、本来祓いとは、人間が社会生活を営む上で、必要最低限守らなければならない規範であり、原点回帰でもあって、ものごとが秩序正しく循環していくために規則正しく行っていく、そこに意義があると私は考えています」
加えて、災害や天変地異など、もろもろの忌まわしいことが起こったときも、臨時で大祓が行われることがあったという。それによって、国土上の一切の罪や穢れが祓われて、災いを除け、吉祥を招くことができると信じられていたのである。
祓い具で祓い清められた後、神職たちは低頭して小さく2度、柏手を打ち、榊に息を吹きかける。
神話から紐解く、祓いが吉祥を招く理由
だが、ここで疑問も起こる。なぜ祓いをすることで、吉祥を招くことができるのか。
その答えを導くヒントは、神話の中に記されている。
『古事記』によれば、イザナギノミコトが、亡き妻のイザナミノミコトに会いたくなって黄泉(よみ)の国を訪れた際、穢れに触れ、それを祓うために、身にまとっていた衣類や所持品を投げ捨てて海水に浸かったとされ、これが禊のはじまりと言われている。だが、神話はそこで終わらない。イザナギノミコトは、それを機に次々と神々を生み、最後に天照大御神と月讀命(つきよみのみこと)、須佐之男命(すさのおのみこと)の3貴神を生んだ。つまり、最も貴いとされる3柱の神々は、イザナギノミコトが罪や穢れを除き去った後に生まれたのである。
では、国家の神事である大祓とは、どのようなものだったのだろう。
奈良時代に朝廷で行われていた6月と12月の恒例の大祓では、平城京の正門である朱雀門の前に官吏などの男女が集まり、まず大祓詞(おおはらえのことば)が読み上げられた後、祓いを受けたとされている。さらに、各々が自身の身代わりとなる形代(かたしろ)の木製の人形(ひとかた)を撫で、もしくは息を吹きかけて、罪や穢れを人形に付着させ、川や溝に流したという。
現在6月の晦日に、各地の神社で行われる「夏越(なごし)の祓え」は、そんな大祓の儀式が民間に定着した行事。広く「茅の輪くぐり」で知られているものの、神社によっては、氏子が人形で体を撫で、神社に納める風習が今も根強く残っている。人間が知らず知らずのうちに身に付けた罪や穢れを除き去るという禊や祓いの風習は、さまざまな形で一般にも広く浸透し、今に受け継がれているのだ。
榊が用いられる神宮の大祓と大祓詞の謎
一方、神宮で行われる大祓では、人形ではなく、榊の枝が用いられる。
大祓が始まるのは、午後3時(1月、4月、10月、11月、12月)、もしくは4時(5月、6月、9月)。五十鈴川の瀬音が聞こえる祓所で、まず榊を手渡された神職や楽師たちは、権禰宜が大祓詞を微音で唱える間、榊を手に平伏(へいふく)。終わると、大麻による祓いを受け、各々手にした榊に息を吹きかける。その榊は、儀式が終わった後で五十鈴川に流されるのだ。
ちなみに、大祓詞とは、平安時代中期に編纂された『延喜式』に記載されている、28篇の祝詞の1つ。千数百年以上も前から唱えられてきた、日本最古の祝詞と言われている。なかでも注目したいのは、その後半部分。人々が知らず知らずのうちに犯した罪事(つみごと)は、祓戸(はらえど)4神と呼ばれる4柱の神々のはたらきにより、山から川へと流れ落ち、さらに大海原へ持ち出されて潮の流れに乗り、海底に進んだ後、最後は根の国底の国で消滅するという内容になっている。
神宮の大祓の儀式が川辺で行われるのも、それぞれの罪や穢れを移した榊を川に流すのも、すべて大祓詞に則ってのことなのだ。
「大祓詞には意味がわからない部分が多々あります。たとえば、冒頭部分に登場するカムロギノミコトとカムロミノミコトとは、どんな神様なのか。『古事記』や『日本書紀』には記載がなく、大祓詞にしか登場しないため、具体的なことがわかりません。もっとも、大祓詞は呪言(じゅごん=呪的な目的を果たすために唱える言葉)であり、唱えるということが、何より大事なのだと思います」
祓いに塩が用いられるのは、
罪や穢れを消滅させる海のエキスが詰まっているから?
思えば、修祓などの祓いで、塩や塩湯(えんとう=塩を溶かした湯)が用いられるのも、大祓詞によるのだろう。日本の塩は、海水を採取して作られている。つまり、罪や穢れを消滅させる海のエキスが詰まっている、とも言えるのだ。
神宮では、神事に用いられる塩を御塩(みしお)と呼び、内宮鎮座当時から、二見浦(ふたみがうら)の御塩がお供えされたと伝えられている。現在は、五十鈴川の川水と伊勢湾の海水が混じる、汐合(しおあい)と呼ばれる地に設けられた御塩浜で、日本の伝統的な製塩法である入浜(いりはま)式塩田法を用いて製塩されている。
さまざまな工程を経て、最終的に、三角錐の形に焼き固められた堅塩(かたしお)は、祓い清めに用いる際は砕いて粉状にし、神饌としてお供えするときは、砕いた塊を用いるという。
神宮では入浜式塩田と呼ばれる伝統的な製法で御塩作りが行われている。まず潮の満ち引きを利用して海水を塩田に入れ、砂に塩分を付着させて天日で乾燥。砂をかき起こして鹹水(かんすい=濃度の濃い塩水)を採取する。
採取した鹹水を煮詰めて塩を精製。
「神事で塩が用いられるのは、海そのものがすべての原点になっていることも大きいと思います。『古事記』でも、イザナギノミコトとイザナミノミコトが、天の浮き橋から海に矛を下ろし、海水を『こおろ、こおろ』と掻き鳴らして矛を引き上げると、その先から海水がしたたり落ち、塩が固まって島ができたと記されています。つまり古代人は、海からすべてが生まれるという考え方を持っていたと、私は思うのです」
御塩はさまざまな場面で用いられる。おまつりに先立ち、修祓で神饌や神職を祓い清めるのはもちろん、月次祭の由貴夕大御饌(ゆきのゆうおおみけ)の翌日、勅使が天皇陛下の幣帛(へいはく)を奉る奉幣の儀でも、内宮の第二鳥居で、幣帛が納められた辛櫃(からひつ)の御塩での祓い清めが行われる。
たしかに塩や塩湯でお清めされるのは、大麻による祓いを受け、罪や穢れを除き去った後のことである。『古事記』の中で、イザナギノミコトが禊や祓いを行った後で3貴神を生んだように、人も祓いを受けて原点に立ち返ることで、何か新たなものを生むことができるのかもしれない。
長い歴史を持つ禊や祓いの世界。知れば知るほど奥が深い。
Text by Misa Horiuchi
伊勢神宮
皇大神宮(内宮)
三重県伊勢市宇治館町1
豊受大神宮(外宮)
三重県伊勢市豊川町279
文・堀内みさ
文筆家
クラシック音楽の取材でヨーロッパに行った際、日本についていろいろ質問され、<wbr />ほとんど答えられなかった体験が発端となり、日本の音楽、文化、祈りの姿などの取材を開始。<wbr />今年で16年目に突入。著書に『おとなの奈良 心を澄ます旅』『おとなの奈良 絶景を旅する』(ともに淡交社)『カムイの世界』(新潮社)など。
写真・堀内昭彦
写真家
現在、神宮を中心に日本の祈りをテーマに撮影。写真集「アイヌの祈り」(求龍堂)「ブラームス音楽の森へ」(世界文化社)等がある。バッハとエバンス、そして聖なる山をこよなく愛する写真家でもある。
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【8/30(土)~11/3(月・祝) 東京都・泉屋博古館東京】
2025.7.29
特別展 巨匠ハインツ・ヴェルナーの描いた物語 ―現代マイセンの磁器芸術
《サマーナイト》ティーサービス マイセン 1974年頃~ 個人蔵 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー
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泉屋博古館東京にて、現代マイセンを代表するアーティスト、ハインツ・ヴェルナーの創作世界に迫る特別展「巨匠ハインツ・ヴェルナーの描いた物語 ―現代マイセンの磁器芸術」が、2025年8月30日(土)より開催される。
《梅樹竹虎図大皿》 マイセン 18世紀 愛知県陶磁美術館蔵
ヨーロッパで初めて硬質磁器の焼成に成功した、ドイツの名窯マイセン。歴史ある名陶に現代的な息吹を吹き込んだのが、ハインツ・ヴェルナーだ。
《アラビアンナイト》コーヒーサービス マイセン 1967年頃~ 個人蔵 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:ルードヴィッヒ・ツェプナー
彼は、「アラビアンナイト」「サマーナイト」「ブルーオーキッド」など、現代マイセンを代表する作品のデザインを手がけ、世界中の愛好家を魅了してきた。
《ほら吹き男爵(ミュンヒハウゼン)》コーヒーサービス マイセン 1964年頃~ 個人蔵 装飾:ハインツ・ヴェルナー 器形:エアハルト・グローサー、アレクサンダー・シュトルク、ルードヴィッヒ・ツェプナーの共作
会場では、ヴェルナーが手がけたティー&コーヒーサービス、陶板画(プラーク)など、初期から晩年に至る代表作を一堂に展示。磁器という限られた空間に、色彩と想像力と思想を凝縮させた作品には、東洋の陶磁文化からの影響や、神話・文学への深い造詣、そして色彩と線が織りなす詩的な構成力が感じられる。
ティターニアとツェットル 《サマーナイト》ティーサービスより マイセン 1974年頃~ 個人蔵 装飾:ハインツ・ヴェルナー 彫像:ペーター・シュトラング
磁器芸術に新たな息吹を吹き込んだ巨匠ハインツ・ヴェルナー。その軌跡と魅力を、この機会に体感してはいかがだろうか。
◆特別展 巨匠ハインツ・ヴェルナーの描いた物語 ―現代マイセンの磁器芸術
【会期】 2025年8月30日(土)~11月3日(月・祝)
【会場】泉屋博古館東京(東京都港区六本木1-5-1)
【開館時間】11:00~18:00(金曜は19:00まで)
※入館は閉館30分前まで
【休館日】月曜および9月16日(火)、10月14日(火)
※9月15日(月・祝)、10月13日(月・祝)、11月3日(月・祝)は開館
【観覧料】一般 1,500円、学生 800円
※18歳以下無料
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