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2025.02.18
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グルメ最前線 トップレストランを探訪する
2025.2.17
「PRIMO PASSO(プリモ パッソ)」は 5種のパスタに溺れる桃源郷である
新たなる偉才がまた出現した。日本とは、正直、どういう国なんだろうと思う。
5種のパスタが出てくる画期的なコース
すでにフーディーたちの間では評価高き「プリモ パッソ」は、開店してからわずか1年半でミシュランの星1つを獲得した、凄腕のシェフがいる店である。5種のパスタを組み込んだ画期的なコースは、知る人の間ではすでに垂涎の的だ。
どんな猛者(もさ)がフライパンを振っているのかという先入観は捨てるがよろしい。スッキリした若者が、実直そのものの姿で料理に取り組んでいた。余分な話だが、高校時代は野球に打ち込んでいたらしい。爽やかだ。
そのシェフ・藤岡智之氏は1992年生まれ。ひらまつ入社の後、「銀座アルジェントASO」などに在籍してからイタリアに渡り、ナポリで4年間の修行をした。最後はミシュラン3つ星の「クアトロ・パッシ」でパスタを任されていたほどの実力者である。
イタリア人がガイジンにパスタ場という砦を明け渡すのは、余程認められた上でのことだろう。
ピカピカのフルオープン・キッチン
さて、階段を降りて「プリモ パッソ」店内に入りさらに進むと、空気が変わるような気がするほど隅々までピカピカに磨き抜かれたフルオープンのキッチンの前に、広々としたカウンター席が8つ並ぶダイニングエリアが現れる。ゲスト全員がシェフのすべてを傍観できる特等席だ。
調理をする彼の所作は、きびきびと美しく、まるで無駄がない。ちょっと萌え萌えになる人もあるかもしれない(笑)。こりゃあ、人気が出るねえ。
第一、店名の「PRIMO PASSO」は、師匠の店名「QUATTRO PASSI(4つのステップ)」にオマージュを捧げつつ、「最初のステップ」という意味だ。なんて、謙虚なのだろうか。
見事な「和+洋」の展開
初めに出てきたのは青魚のコンソメである。アジ、サバ、イワシで出汁をとり、具はスライスした源助大根に菜の花だ。このスープは、和の素材の旨味を最大限に引き出した上で、それらをイタリアンの文脈に封じ込めてみせるという、シェフからの宣言のように感じられた。
実際、スープは味がピンと澄み渡っていながらコクの芯があり、大根と菜の花が辛味と苦味を添えている。香草ディルのオイルでもって洋のニュアンスを加えることも忘れない。しかして、見事な「和+洋」の展開のおかげで、すべての味覚が覚醒してくるのである。
最近、欧式でも増えてきたが、温かい汁物でコースが始まるところが嬉しい。懐石や日本料理の様式にも通じるものがある。
ジャンルの枠に当てはめるのはあまり賢いことではないが、シェフの現在の料理は、和魂洋才という意味とともに、和の素材(&技術)と伊の技術(&素材)を使うという意味で、ジャパニーズ・イタリアンなのだろう。私の勝手な予感だが、「ヴィラ・アイーダ」の小林シェフや「NARISAWA」の成澤シェフのように、イタリアンやフレンチを名乗らずに、より「和」のほうに傾斜する日が来るのかもしれない。
揚げピザの完成度の凄さ
続くアミューズ・ブッシュが、「リコッタ スカルモツァ パルミジャーノ 生ハム」である。球状になったナポリの郷土料理フリッタ・ピッツァ(揚げピザ)の中に、リコッタ以下3種類のチーズがクリーム状で入っている。その球の上に超薄切りにされた生ハムが載っている。これは天女の羽衣か?(笑) 実に軽やかだ。
生ハムは冷たく、球体の中身のチーズはとろりんと熱々で、温と冷を同時に味わえるところが極上の快楽と言えるだろう。
この完成度はなかなか凄い。当店に来たら、必ず食べたい、そんな一品だ。
傑作の「リコッタ スカモルツァ パルミジャーノ 生ハム」。
実はゲストの目の前に置かれた手動式生ハムスライサーであるが、イタリアの「ベルケル」社製で、ハムを極薄に切れる最高峰のものらしい。マシーンを真剣に手繰るシェフの顔には、自信と喜びが満ちている。
パスタに突入、和のカッペリーニ
そしていよいよ5種のパスタに突入だ。
初手は冷製の細麺・カッペリーニ。ソースは昆布とハマグリで出汁を取ったもので、京都のアオリイカと自家製カラスミのトッピングだ。この一品の清々しさは、やはり出汁やスダチの果汁といった和の素材に由来しているところが大きい。
ソムリエが合わせてくれるアルコールがまた実に楽しい。栃木の日本酒「仙禽」である。甘みも酸味もある生酒と魚介出汁が出会う。その感覚は、冷酒の「あて」として、デュラムセモリナ・ソーメンを食べているような感じだ。両者の旨味が増幅する。これは見事なペアリングと言える。
トマトソースのリングイネは悶絶級!
筆者がこの晩、最高だと思ったのは、「リングイネ トマト」(トップ画像)である。
トマトは三重県多気町の「ポモナファーム」のミニトマト「プチぷよ」しか使わないとのことだ。赤いトマトからは酸味を、黄色いトマトからは甘みを引き出し、それをミックスさせてソースを作る。
赤と黄色を混ぜるから、ソースはオレンジ色だ。聞けば、トマトとバジルとオリーブオイルだけで作る。このソース、シェフが修行先の「クワトロ・パッシ」でようやく出会った理想形なのだそうだが、もちろん、藤岡シェフが日本の素材で再構築したものだ。
見た目は平凡なソースなのに、口に入れたらその味わいはかつて経験がないと言って良いほど素晴らしい。甘みと酸味がとてもピュアな旨味に昇華している。バジルを感じるがエグミはどこにもなく、オリーブオイルのフレッシュな青々しさもある。それらのバランスが完璧なのだ。歯ごたえのあるアルデンテのリングイネがまたいい。これはちょっとした感動ものだ。いや、悶絶級と言い換えよう!
筆者は12年前にイタリア・ソレントの星付きの店で、6月のトマトのとりわけ美味しい季節に、とんでもなくナチュラルな激旨のポモドーロを食べたことを未だに忘れられないでいたが、今宵、それ以上の経験を得た。
これに合わせてくれたのが、栃木の「雑賀 梅酒」で、単体でも相当に美味しいが、ペアリングも抜群だった。
めくるめくパスタの連続
続く生ハムと大根とライムのスープに浮かんだ餃子のような自家製トルテッロ(餃子の具であるシイタケ・レンコン・ドライトマトが秀逸だ!)、黒トリュフをかけた紅はるかの自家製ニョッキなど、それぞれに素晴らしかった。
なにしろ、得意とするところのパスタ5種を、コースの中核に据えるという発想が素晴らしい。それが食べ終えてからの実感である。
シェフはパスタを何種類でも食べたいという日本人の心情が分かっている。ニクいねえ。しかも、炭水化物のお祭り状態になるのではなく、繊細極まりないバランスで、具材と麺とが同等に存在を主張している。さらに、和と洋を違和感なく融合させるその手腕には驚きを禁じ得ない。
牛の炭火焼もデザートもセンスの塊
ここまでで相当に満ち足りたが、メインの「美笑牛」の炭火焼きも見事だった。部位はサーロインなのに脂くどさは皆無で、噛めば肉の旨味があふれ出す。聞けば、32カ月の牝牛とのことだった。付け合わせはイタリア野菜のソテーとビネガーに漬けたエシャロットで、一緒に食べれば、酸味が肉の別の旨味を引き出してくれる。
また、メインの前に差し挟まれた「生ハム メロン ミント」は、生ハムとメロンのつなぎにミントを持ってきたところが天才的だ。その3者が口中に氾濫し、鮮烈な旨味のパルスが脳内に飛び散った。
デザートの「苺 ピスタチオ」は、イチゴ、ピスタチオ、焙じ茶のアイスクリームのコンビネーションで、砕いたホワイトチョコレートも入っている。これらを構成するセンスには瞠目すべきものがあった。
ちなみに、メニュー内容はおよそ2カ月ごとに変更するそうだ。
いずれにせよ、コースを終えて、ゲストは己のパスタ愛を再確認した上で、その愛がさらに嵩じるのを自覚するだろう――。いや、パスタだけではなく、どの皿も繊細にして力強い。「プリモ パッソ」は、これからの進化をずっと見続けていたくなるような、唯一無二のレストランなのである。
PRIMO PASSO(プリモ パッソ)
住所;東京都中央区築地1-5-11 ACN築地ビルB1F
TEL:03-6826-9672
営業時間:17:00~23:30、17:00~と20:30~の2部制
定休日:火曜・水曜
コースディナー:16,500円(税込・サ別)
文:石橋俊澄
Toshizumi Ishibashi
「クレア」「クレア・トラベラー」元編集長
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