ホワイトカカオ(カルメロ種)
メキシコシティから飛行機にて2時間弱で、メキシコ南西部の太平洋岸に面したチアパス州ソコヌスコ地域にある中心都市タパチュラに到着する。この日のフライトは霧のために大幅に遅れて日をまたいでの到着となった。
翌朝、まずはメキシコホワイトカカオがどのようなカカオなのかを学ぶところからスタートした。国立農牧林研究所(INIFAP)のカルロス・アバンダーニョ博士に、研究所内のカカオ農園などを案内してもらう。明治のカカオクリエーター®の宇都宮洋之さんから「これがホワイトカカオになるカルメロ種のカカオの木ですよ」と教えてもらい、そのカカオの木のところまで行って写真まで撮ってもらったが、あまりにもカカオの品種とそれぞれの特徴がバラエティーに富んでいて、最初は前日のフライトのように私自身が霧の中にいるような状態だった。
昔ながらのカカオ農園にて。ホワイトカカオ以外のカカオの種子は紫色をしていることが多い。
それでもこの品種はカカオの実を割ると一目瞭然で、断面はどれも真っ白だ。カカオの種子は紫色をしていることが多い。たまに一つの実の中に白と紫が混在していることもある。宇都宮さんによると、ホワイトカカオが紫色の品種と一度交配してしまうと、カカオの実の断面が真っ白になることはないそうだ。
今回のカカオの旅では昔ながらの農園も訪ねたが、カカオの実の断面を見せてもらうと紫色をしていた。
日本から持参した検査器具でさまざまなテストをする宇都宮さん。発酵と乾燥はカカオを作る上において最も重要な作業だという。発酵過程における検査でもホワイトカカオの断面は白色だった。
次に訪れた明治のメキシコホワイトカカオが育つ農園では、なるべく隔離した状態で育てるために山を切り開いての大掛かりな農地拡張と灌漑設備のための工事をしている最中だった。宇都宮さんは水源となる川まで来ると、水質に関する多くの質問を投げかけた。その様子から水質の重要性は明らかだった。それに対しプロジェクト責任者は水質の検査結果もデータ化され準備万端と大いに胸を張った。
ホワイトカカオの苗木が行儀良く等間隔に植えられている場所を眺めながら、宇都宮さんにメキシコでホワイトカカオを作ろうと思った理由を尋ねてみた。
宇都宮さんは年に1度カカオ産地を視察するだけでは、カカオの味に手を加えることができないことにもどかしさを感じていた。カカオの作り方から見直してみることを思い立ち、2005年くらいから本格的にカカオ産地に出かけるようになったという。翌年には社内の数人の研究者で立ち上げたベネズエラのカカオの研究プロジェクトをスタートさせ、カカオ栽培から発酵・乾燥までを調査して、2年ほどで明治独自の農業指導要項を完成させた。良質なカカオを安定供給してもらうため、その農法を現地のカカオ農家に少しずつ浸透させたのだそうだ。
明治のメキシコホワイトカカオが育つ農園。灌漑用水管のための溝を作る土木工事が進行中だった。後ろにはカカオの苗木が3mごとの間隔で植えられている。
従来のカカオ豆購入の流れは、商社を通して原産国からカカオ豆サンプルを輸入して、明治の研究所で品質の確認をし、カカオ豆に関するリクエストがあれば生産者ではなく仲介の商社に伝える、という手順を取っていた。ところが現地から届いたサンプルとは異なる品質のカカオ豆が輸入されることもあった。上質なカカオ豆はほとんどが欧米の有名なクーベルチュール(製菓チョコレート)を製造する会社へと届けられ、高品質なカカオ豆をリクエストしても日本で手に入れることは難しかったそうだ。クオリティーを求めるには、もはや自分たちでカカオの木から作るしか選択肢がなくなっていた。それも他社とはまったく違うものを作りたいと常々思っていた。
そんな時タイミング良くメキシコに支社を持つパートナー会社との話し合いで、希少なカカオを自分たちで作り上げることができることになった。そのカカオ豆は、種子の断面が白色で希少価値が高く、チョコレートにすると繊細な味わいになるという特徴を持っていた。さらに将来的には日本でも多くの人々が、リーズナブルな価格で楽しめるだけの量を収穫できるという期待が持てた。
Photo by Meiji Cacao Creator® Hiroyuki Utsunomiya
国立農牧林研究所(INIFAP)で初めてカルメロ種のカカオの木に出逢った。
この土地が持つ歴史的背景も魅力的だった。15世紀末に8代目アステカ皇帝がカカオの産地であるソコヌスコ地域を征服した記録が残っており、19世紀のヨーロッパでは、すでにソコヌスコ地域のカカオ豆は、粒が大きく、渋みが少なく、香りが高いことで知られていたのだ。カカオが今でも地元の人々に愛され日常的に食べられていることも大きかった。
こうして2016年に「明治ザ・チョコレート」シリーズから、初めてのメキシコホワイトカカオが誕生することになる。このプロジェクトは希少な品種の保護にもつながる取組みであることから、メキシコ政府からも評価されることとなった。
ソコヌスコ地域に滞在中にカカオ農園や苗木センターなど、7箇所ほどのカカオ関係の施設を視察しながら、その都度、若葉の色、カカオの形、カカオの実の色の変化などを宇都宮さんから教えていただき、私はようやくカルメロ種のカカオを識別できるようになっていた。
《本シリーズは全4回を予定しています。“カカオの旅3”に続く》
“カカオの旅1” >> コチラから
text © Mika Ogura 2018
【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家。
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。
【商品情報】
●「明治ザ・チョコレート 弾ける香りゆず」
「明治ザ・チョコレート」に和の素材として代表的なゆずのフレーバーが新登場。カカオ分 67%。ドミニカ共和国産カカオを中心に使用した、しっかりとしたフ ルーティ感のあるチョコレートに、ゆず果汁のパウダーと高知県産のゆず皮を練りこみ、噛んだ瞬間にゆず の香りが弾ける、ゆずの香りと心地よい苦みを楽しめる大人のチョコレートです。パッケージも鮮やかな黄色とオレンジを使用し完熟したゆずの果実をイメージしました。2019年1月8日発売予定。
【お問合せ】
明治 お客様相談センター
TEL:0120-041-082