私たちはメキシコシティにある人気のショコラティエ「ケ・ボ!」のテラスに座って、チョコレートやドリンクを味わいつつ、古代から親しんできたというカカオドリンクの種類の多さにとりわけ衝撃を受けていた。
カカオの生産国では生産者がカカオを口にすることがないとよく言われるが、メキシコでは今も変わることなくカカオが食材として日常的に親しまれている。それを実感するためにも、先ずはメキシコのカカオドリンクを味わいましょうと、明治のカカオクリエーター®の宇都宮洋之さんにお誘いいただき「ケ・ボ!」を訪ねたのだった。
「明治ザ・チョコレート」シリーズには、期間と数量を限定したメキシコ産“ホワイトカカオ”を使った「明治ザ・チョコレート メキシコホワイトカカオ」がある。このチョコレートは、カカオ豆の断面が真っ白な希少な古代種だけで作られていて、説明を受けるたびにメキシコにある明治のホワイトカカオ農園を実際に見てみたいものだと常々思っていた。メキシコ南西部の大西洋岸に面したチアパス州ソコヌスコ地域に育つ最高品種で、16世紀からヨーロッパの王侯貴族の間で知られたプレミアムなカカオ豆である。またソコヌスコ地域は日本からメキシコへの初めての移民として知られる榎本移民団が到着した場所でもあり日本とのつながりも深い。
メキシコ・カンペチェ州にあるカラクムル遺跡の⾼貴な⼈物の墓から出⼟したマヤ古典期(A.D.400-600)の陶器製コップ。カカオドリンクを飲んでいたとされる。メキシコ国⽴⼈類博物館蔵。National Museum of Anthropology, Mexico, Photo © mika ogura 2018
今回思わぬ形でその願いが叶うことになった。宇都宮さんがメキシコのカカオ農園へ旅立つのに同行できることになったのだ。ちょうど11月後半はカカオの収穫時期にあたり、「メキシコホワイトカカオ」になる品種がたくさん育っているという。収穫期は年2回あっても、この時期のカカオの状態はとりわけ良いのだとか。こんな素晴らしいタイミングはないということだった。ということで今回から4回にわたるシリーズで、明治のカカオクリエーター®と巡るカカオの旅をお届けしたい。
拙著『チョコレートものがたり』で詳細なカカオの歴史は紹介しているが、カカオは大航海時代にスペインのコンキスタドールによって、とうもろこし、唐辛子、トマト、じゃがいも、かぼちゃなどと共にヨーロッパに渡った。今みんなが親しんでいる板チョコレートの歴史は19世紀に始まったもので、それまではヨーロッパにおいてもチョコレートは長きに渡って飲み物だった。それもフランス革命までは王侯貴族や聖職者といった特権階級が享受できるものだったのだ。
ソコヌスコ地域でカカオ農園を営むデメトリアさん(82才)が「ピノーレ」を作って⾒せてくれた(左)、「ケ・ボ!」のカカオドリンク(右)植物の実の⽪の部分を乾燥させたヒカラという容器で飲むことができる。
チョコレートドリンクは今でも広く親しまれているが、カカオドリンクとなるとオーガニックストアなど特殊なショップでしか手に入らない。ところがメキシコでは昔と変わらないレシピのカカオドリンクが日常的に飲まれている。ショコヌスコ地域にあるカカオ農家を訪ねた時には、実際にカカオドリンク「ピノーレ」を目の前で作って見せてくれた。クリストファー・マクドゥーガル著『BORN TO RUN』で、素足で渓谷を走り抜ける驚異の持久力を持つメキシコ山岳民族が摂取していることが紹介され、今やスーパーフードとして知られる「ピノーレ」である。
自家栽培のカカオ豆を深煎りした後に、乾燥とうもろこしも同様に強く焦げ目がつくまで煎る。薪を使っているのでかなりの熱さだがマダムは淡々と作業を進める。大振りのシナモンスティックを手で細かく裂いてすべてを混ぜ合わせ、数軒先の製粉所で3回ほど製粉機にかけてパウダー状にしたものに粗糖を加え水で溶いて出してくれた。
カカオとシナモンの風味が立ち上り素朴な味わいだ。
今回の旅の間もカカオ農園に行ったり誰かを訪ねたりした時には、どこでもカカオドリンクがふるまわれた。メキシコシティの「エル・モロ」というショップには8種類のチョコレートドリンクがあったし、コンビニではコーヒーとカカオドリンクの2種類の自動販売機が仲良く肩を並べていた。それも5種類ものカカオドリンクが選べる専用機で、さらに隣のコーヒーの販売機の方にまでチョコレート入りコーヒーがあった。
明治のカカオクリエーター®の宇都宮洋之さん(左)、「ケ・ボ!」(http://www.quebo.com.mx/ )のオーナーショコラティエのホセ・ラモン・カスティーヨさん(中央)。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」が毎年発⾏している2019年度版のガイドブックで銀賞を受賞した。
冒頭で触れたメキシコシティの「ケ・ボ!」のショーケースには、メキシコ産のカカオで作ったチョコレートが並び、アブストラクトアートを思わせるカラフルなドーム型チョコレートが目を惹く。ここではメキシコシティ、タバスコ、チアパス、オアハカの各地域で飲まれている8種類ほどのカカオドリンクが楽しめる。オーナーショコラティエのホセ・ラモン・カスティーヨさんのオススメは、カカオ豆、茹でたとうもろこし、カカオの花、マメイという果実の種を使った「テハテ」という。4種類ほどのカカオドリンクを味わったが、「テハテ」はカカオ感が高く印象に残る味わいだ。
宇都宮さんが言うように、生活の中にカカオがあるのがメキシコだった。
《本シリーズは全4回を予定しています。”カカオの旅2”に続く》
text © Mika Ogura 2018
【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家。
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。
【商品情報】
●「明治ザ・チョコレート 清らかに香るジャスミンティー」
華やかに香り立つフローラル感が特徴のペルー産カカオを中心にブレンドしたチョコレートに、ジャスミンの花で香りづけした香り高いジャスミン茶葉を贅沢に練りこみました、カカオの持つフローラル感をジャスミンの香りがさらに引き立てる、清らかで気品のある味わいです。