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2025.10.06
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鹿児島の「宝」を巡る旅
2025.10.2
癒やしの島、屋久島へ。豊かな自然の恩恵を受けて暮らす人々が営むショップとカフェを訪ねて
「ヤクスギランド」で出会うことができる屋久杉のひとつ「千年杉」。圧倒的な存在感で訪れる人を出迎える。
「南の宝箱 鹿児島」を巡る旅の今回の目的地は屋久島。鹿児島本港から高速フェリーで最短2時間、ほぼ中央に九州最高峰の宮之浦岳(標高1936m)がそびえる周囲約130㎞の島だ。島自体は亜熱帯に属するものの、亜熱帯から亜寒帯までと、多様な植生の垂直分布が見られ、1993年には日本初の世界自然遺産の島に認定された。屋久島の植物といえば、やはり屋久杉。数多くの屋久杉を鑑賞できる島内隋一の森「ヤクスギランド」で、実際に屋久杉を目の当たりにした後は、屋久杉がもたらす豊かな自然と、その自然の恩恵を受けて暮らす人々が営むショップ「YAKUSHIMA BLESS」 と、「Plant-based Cafe&Act【ne-】」「やくしま果鈴」の二つのカフェを訪ねた。
海岸沿いのわずかな平地をのぞき、島の大半は山また山。その山々を濃い緑が覆う。
屋久島を訪れたら、まずは縄文杉へ。だれもがそう思うかもしれないが、縄文杉への道のりは往復約22キロを、10時間前後かけて走破する本格的なトレッキングコースとなり、なかなか困難なことも事実。もう少し手軽に屋久杉に出合うことができる場所、それが「ヤクスギランド」だ。
ちなみに、屋久杉とは樹齢1,000年を越える杉、そして縄文杉とは、標高1,300m付近の山中に根を張る最大級の杉の一個体に付けられた名称で、約2,000年から約7,000年の間の樹齢と想定されている。一方、「ヤクスギランド」にも樹齢2,000年前後の屋久杉が何本か存在し、間近で見ることができる。
30分・約800mの「ふれあいの径」コースは、木道と石張歩道が整備されているので小さな子どもでも歩くことができる。このコースでも、何本かの屋久杉に出会う。
海沿いは晴れていたのに、標高1,000mを超える「ヤクスギランド」に到着すると雨が降ってきた。雨と同時に、樹々も一斉に深呼吸を始めたのだろうか、周囲の緑がより色濃く鮮やかになってきたかのようだ。程よく整備された30分・約0.8㎞の「ふれあいの径」から、210分・約4.4㎞の「天文の森」までコースは5通り。年齢やその日のコンディションに合わせて選ぶことができる。
今回は80分・約2㎞の「つつじ河原」を選択した。「ふれあいの径」と重なる最初の間は比較的に楽な道のりだったが、奥へ入るにしたがってアップダウンも加わり、径も険しくなってくる。しかし、それを補うに余りあるのは、次々と現れる屋久杉の巨木の厳かなたたずまい、そして歩くにしたがって変わっていく周囲の景観だ。
奥へ入るにしたがい、径はやがて狭く険しいものとなる。一歩一歩注意しながら歩きたい。
径沿いの景色は、絶えず変化していく。美しい清流とも何度か出会う。流れる水は驚くほど透明。
「千年杉」「仏陀杉」「双子杉」……。その趣深い名前もさることながら、神々しいまでの存在感を放つ屋久杉を前にすると、思わず頭を垂れたくなる。屋久杉だけではない。生い茂る大小さまざまな樹木、澄み切った水が流れる清流、苔むした岩肌……。立ち止まり、何度も深々と息を吸う。あらゆるものに生命が宿り、そこから放たれるエネルギーが身体を清浄にしてくれる。降る雨も清々しく感じられる。
屋久杉の根をびっしりと苔が覆う。そこに何者かが宿るような神々しいまでの巨木が、訪れる人の心を癒やす。
80分の「つつじ河原」コースを無事踏破した。心地よい疲労はやがて満足感となる。
屋久杉に出合うことができる格好のエリア、「ヤクスギランド」。小さな子でも歩くことができる「ふれあいの径」以外は、高低差のあるコースとなる。雨も多い。レインコートやトレッキングシューズなど、ある程度の装備を整えて歩くことがお薦めだ。
屋久島レクリエーションの森保護管理協議会
鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦1593
Tel:0997-42-3508
受付時間:8時~17時
豊かな自然に囲まれ、のびのびとすごすヤクザルとヤクシカたち
「ヤクスギランド」のほかにも、屋久島の自然に触れることができるスポットは数多くある。そのひとつが、「大川の滝」。90mほどの断崖から落ちてくる滝の水が作る景観は雄大そのもの。晴れた日には青空と滝水の白、そして周囲の緑とのコントラストが美しい。また島の西側、世界自然遺産エリアの西部林道には、野生のヤクザルとヤクシカが頻繁に出没し、時には道路を我が物顔で歩いていることも。
落差90m近くある「大川の滝」。滝つぼのすぐ側まで近づくことができる。日本の滝百選」にも選ばれている。
道路際から人間をじっと見つめるヤクザルたち。猿が人間に対して狂暴化する原因となる「餌付け」は条例で厳しく禁止されている。
YAKUSHIMA BLESS
貴重な屋久杉を活用し、島の恵みを多くの人に伝える
店内に足を踏み入れると、木箱に積み重なった小さな木片の山が目に入る。そしてどことなく爽やかな香りも。小さな木片は屋久杉だ。屋久杉は、現在では伐採禁止だが、「YAKUSHIMA BLESS」の母体である「武田館」は、古くから屋久島で屋久杉を伐採・搬出する林業を営み、そのころからの伐採済屋久杉を在庫として多く保有していた。店内に置かれていたのは、そうした屋久杉を木片にしたものだ。
屋久杉は小さな木片となっても、1000年という歳月を感じさせる複雑な表情を醸し出す。
手に取り、よく見るとひとつひとつ形が異なり、なかには表面に複雑な模様を持つものもある。ふつうの杉より多くの樹脂を含む屋久杉は、磨けば磨くほど光沢を増し、複雑な表情を醸し出してくる。こうした屋久杉の性質をいかし、ゲストが選んだ木片と、木片を磨く紙やすりなどをセットにしたキットが、「屋久杉を磨こう!」だ。
「単なるお土産にはしたくなかったのです。旅が終ったあとにも屋久島を感じていただきたい。この島の一部を皆様にお届けし、屋久杉がお守りのように、皆様のそばで寄り添えたなら。そんな想いから生まれたプロダクトです」
そう語るのは、「YAKUSHIMA BLESS」代表の金田知博さん。
金田知博さんと、店長の幸代さんご夫妻。「YAKUSHIMA BLESS」の母体となった「武田館」は、幸代さんの祖母が始め、屋久杉の家具などを扱う店舗として、「YAKUSHIMA BLESS」に隣接して現在も営業を続けている。
「屋久島に屋久島のままであり続けてほしい。限りある資源を大切に未来へ残すため、島の恵みと新しい感性を融合させ、これまでの『お土産』の枠にとらわれない、屋久島にしかないものづくりを目指しています。そして、『この島に訪れてよかった』と思っていただけるような、心おどる出会いが生まれる場所でありたいと考えています」
金田さんの言葉が物語るように、「YAKUSHIMA BLESS」のアイテムは、環境に配慮したものばかりだ。「屋久杉を磨こう!」をはじめ、チップ状にした屋久杉を漬け込んだ椿油、アミノ酸が豊富なシルクなどを用いた「屋久杉の石鹸」、屋久島で暮らしたアーティストに手によるバンダナ「ハルモニア」など、どのアイテムも環境への配慮と、そこに関わった人の温かい息遣いが感じられる。
「屋久杉の石鹸」は「YAKUSHIMA BLESS」のアイテムのなかでも一、二を争う人気。1個3,300円(内税)
「屋久杉の石鹸」の泡は驚くほど滑らかで弾力がある。その肌触りをショップ内で試してみることもできる。
白を基調とした店内には、「屋久杉の石鹸」をはじめ、屋久杉を活用したグッズや、アーティストとコラボした作品などさまざまなアイテムが美しくディスプレイされている。
「自然に感謝、人に感謝。名前の『bless』には、そんな私たちの思いが込められています」
樹齢1,000年を越える屋久杉の木質はとても硬く、小さな木片にもその堅牢さは十分感じられる。それは「YAKUSHIMA BLESS」のアイテムに通底する、環境を大切にしようとする意志の強さそのものでもある。
YAKUSHIMA BLESS
鹿児島県熊毛郡屋久島町安房540-61
Tel:0997-46-2899
営業時間:9時~17時(冬季時間変更あり)
不定休
Plant-based Cafe&Act【ne-】
森へと誘い、森から還る。森に溶け込む自然派カフェ
「Plant-based Cafe&Act【ne-】」は、屋久島の樹々に囲まれてぽつんと建つ一軒家だ。「ne」とは根っこの根。そして「plant-based」は植物由来の食べもののこと。このネーミングが物語るように、一軒家カフェでの食事、ドリンク、スイーツはすべて植物に由来する。
屋久島の森を通る道がそのまま店内へと誘うような造り。店の反対側から、道は再び森へと続いていく。
ランチの「ブッダボウル」は、無農薬のお米に有機雑穀を加え土鍋炊きし、そこに屋久島産の無農薬野菜がふんだんにトッピングされている。口に含むと、野菜の滋味が広がり、その滋味を土鍋炊きの米のふくよかな味と香りが包む。島の樹々を利用して、屋久島の海水を数日焚いて作る自家製の塩や、こだわりの調味料がオーガニックな食材とともに、味わいをより細やかにしてくれる。
高野豆腐の照り焼き、ナッツ佃煮、塩麹きのこをはじめとして、週替わりで屋久島産の季節の野菜をたっぷり盛り込んだ「ブッダボウル」。1,500円(税込)
マフィンやスコーンなどのスィーツも植物由来ならではの優しい味わいだ。自家焙煎のコーヒーとの相性も抜群で、「これがすべて植物由来で作られているの?」と驚くほど満足感のあるスイーツだ。
屋久島産の素材を使用したスコーンをはじめとする植物由来のスイーツが、愛らしく並ぶ。どれも優しい甘み。
笑顔の絶えない、店主の丸山悟さんと奥様の真実さん。二人とも屋久島へ移住しこの店を立ち上げた。「人間が自然の一部であると感じられる屋久島の在り方。そこに惹かれました。屋久島というと、屋久杉に話題が集まりますが、屋久杉だけでなく森そのものがとても豊かで、その豊かさを一人でも多くの方に味わっていただければ、と思います」
そんな丸山さんの言葉は個性的な建物の造りにも現れている。屋久島の森の小道が、まるで建物の中を通り抜けるかのようになっているのだ。長方形の建物の両側短辺が出入り口となり、小道は店舗の中央を通り、店を出るとその先は森へ繋がっていく。森へと誘う起点であると同時に、森の小道を覆うほっと一息つくことができる場所、それが「Plant-based Cafe&Act【ne-】」だ。
森の緑と一体化したかのような空間。石畳の道が店内を通り抜け、森へと続く。
木の温もりが優しい店内には、屋久島の木材などを用いた木工作家の作品やオーガニック主体の食品などがディスプレイされ、そのディスプレイにも、丸山夫妻の「森への想い」が満ち溢れている。また、木に触れることができるキッズスペースが設けられているので、子連れのゲストも楽しむことができる。
丸山さんは、屋久島の木にまつわる研修も受け入れ、売り上げの一部を植林活動に使うなど、食空間に留まらず、社会に対するアクションも行っている。まさに、「Cafe&Act」の空間だ。
「この少し変わった空間で、人も森のなかの一部であるということを、身体すべてで感じ取っていただければと思います」
店内の片側壁面は、窓を多用した開口部の多い造りとなっている。開け放たれた窓から心地よい風が吹き込んでくる。風と同時に、丸山さんが語る「森と人との繋がり」が森からカフェの店内に、そして身体中に注ぎ込まれているような気がした。
笑顔の絶えない二人に囲まれ、生後6カ月の、あおちゃんもいつも笑顔。
Plant-based Cafe&Act【ne-】
鹿児島県熊毛郡屋久島町安房2739-343
Tel:090-2399-8769
営業時間:11時~16時(木曜日~土曜日)
やくしま果鈴
「やくしま愛」に満ち溢れた、屋久島素材にこだわるおやつ工房
濃厚な甘さとほどよい酸味、そしてジューシーな果肉が特徴の柑橘類の一種、「たんかん」。鹿児島は「たんかん」の生産量が日本一で、屋久島でも収穫期の2月になると、果樹園ではオレンジ色も鮮やかな「たんかん」がたわわに実る。この「たんかん」を使ったお菓子を中心に、安心でおいしいおやつをつくっているのが「やくしま果鈴」だ。
有機栽培で30 年以上「たんかん」が育てられていた畑を、縁あって鈴木由美さんが引き継いだのは2017年のこと。屋久島に魅入られ、その何年か前から島での生活を始めていた鈴木さんは、もともとお菓子づくりのキャリアを持っていた。そうしたキャリアを活かし、畑を引き継いだと同時に、鈴木さんが代表となって、店舗も兼ねたお菓子工房「やくしま果鈴」が誕生した。
「特産の『たんかん』を使ったお菓子をつくろうとしたのですが、当初は『たんかん』に関しては美味しい果実としてしか知らず、お菓子の素材に使うにはその特徴をもっと深く知りたいと思い、そのためには自分たちで栽培もしたほうが良い。そう思い、農業と製造加工が同時にスタートすることになったのです」
最初は3名からのスタートだったが、鈴木さんの思いに共感するスタッフが次第に増え、現在では16名の仲間たちが、果樹の栽培やお菓子作りに携わっている。
「工房を始めたのは、『たんかん』のおいしさをたくさんの人に味わってほしい、という想いからです。その想いをかなえるためにも、持続可能な農業を心掛け、『たんかん』栽培に関しては鹿児島県から特別栽培(減農薬・減肥料)の認証を受けています。お菓子をつくる場合にも出来るだけ自然の素材からくる香りや色味を大切に、可能な限り屋久島産のものを用いています」
鈴木さんが栽培しているのは「たんかん」の他に、ぽんかん、レモン、グアバ、バナナ、パイナップルと多種多彩。こうしたフルーツが、さまざまなお菓子となってお店に並ぶ。
自家農園の果物を丸ごと生かしたフルーツバター、フィナンシェ、バスクチーズケーキ、「やくどら」と名付けたどらやきのほか、島の特産品を活かしたお菓子を、丹精込めて手づくりしている。
人気商品のひとつがフルーツバター。それぞれのフルーツの甘味とバターのふくよかな味わいが絶妙なマッチング。各1,380円(税込)
「やくしま果鈴」には、カフェスペースも設けられている。「まるごとたんかんジュース」や「黒糖ジンジャエール」など、ドリンク類も充実。なかでも人気なのが、フルーツ感をダイレクトに味わうことができるスペシャルスムージーだ。「たんかんスムージー」「グアバスムージー」「パッションフルーツスムージー」など、フルーツをふんだんに用いたスムージーのほか、マンゴー、ドランゴンフルーツなどラインナップも豊富。「たんかんスムージー」を口に含む。ぎゅっと濃縮された「たんかん」の風味が、ほどよい冷たさと同時に心地よく喉を通り抜けていく。そして優しい甘みが追いかけてくる。
お店の前にそびえる「モッチョム岳」を眺めながら心ゆくまで味わいたい。たんかんスムージー(左)と、すもも&ポンカンスムージー(右)、各700円(税込)。
店内にはカフェスペースも設けられ、グラタンセットやフルーツバタートーストなどもオーダーすることができる。
「私たちがつくるお菓子は素朴かもしれません。でも、屋久島がもつ自然の豊かさを込めているつもりです。私たちが屋久島に魅せられてお店を続けることで、私たちが大好きな屋久島に少しでも貢献できたら、そんなことを願っています」
受け継いだ果樹園で、スタッフの力を合わせて収穫したさまざまな果実に囲まれながら、鈴木さんは今日も工房でお菓子づくりに励んでいる。
「時間をかけて丁寧に、一口食べると思わず屋久島が好きになるようなお菓子を作っています」と、代表の鈴木由美さん。
やくしま果鈴
鹿児島県熊毛郡屋久島町尾之間672-1
Tel:070-8940-6721
営業時間:10時~17時30分
定休日:日、月曜(イレギュラーあり)
Text by Masao Sakurai(office clover)
Photography by Azusa Todoroki(Bowpluskyoto)
投稿 癒やしの島、屋久島へ。豊かな自然の恩恵を受けて暮らす人々が営むショップとカフェを訪ねて は Premium Japan に最初に表示されました。