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銀座・中央通りの裏手、隠れ家的な佇まいのお店
京都・祇園で最長4時間待ちになるほどの行列ができる餃子専門店が、満を持して銀座へ進出。高級店が居並ぶ銀座にありながら、絶品餃子をつまみに気軽な値段で一杯呑める嬉しいお店が、またひとつ増えました。
2018年12月10日(月)、銀座8丁目にオープンした「餃子歩兵 銀座店」は、京都の祇園で舞妓さんや芸子さんにも愛されている餃子専門店「ぎょうざ歩兵」の姉妹店です。
2011年にたった6席のカウンターだけでスタートした「ぎょうざ歩兵」は、一口で食べられる上品な「ぎょうざ」と、ニラやニンニクを使わない「生姜ぎょうざ」で、祇園の女性たちや周辺の接客業のお客さん、国内外の観光客から人気を集めてきました。2017年から3年連続で『ミシュランガイド京都・大阪』にビブグルマンとして掲載され、現在は大行列ができるほどの有名店となっています。
1人前8個で、ぎょうざ480円、生姜ぎょうざ480円
「餃子歩兵 銀座店」では、祇園と同じ「ぎょうざ」と「生姜ぎょうざ」の2種類のほか、「肉味噌もやし」や「壺きゅうり」、「鬼しじみのエスプレッソ」といったサイドメニューも楽しめるそう。
“行きつけにしたい、こなれた小京都”をコンセプトに、京町屋をモチーフとした木の温もりを感じる内装でほっこり和むもよし。目の前のオープンキッチンで熱々の餃子が焼き上がるライブ感を楽しむもよし。銀座や新橋での飲み会の〆に知っていると便利なお店です。
◆餃子歩兵 銀座店
開店日:2018年12月10日(月) 定休日:日曜・祝日
所在地:東京都中央区銀座8-7-9 1階
営業時間:平日17:00~翌3:00、土曜11:00~15:00 /17:00~21:00
公式サイト:https://gyozahohei.com/
今回はお菓子のようにスイートなラデュレのコスメティクス、レ・メルヴェイユーズ ラデュレをご紹介したい。ブランドの誕生以来、色やデザインから香りや成分に至るまで、その独創的な世界観に私自身も魅了され続けている。
ブランドイメージは、18世紀の革命後に生きた「メルヴェイユーズ」と呼ばれた女性たち。彼女たちはフランスを愛し、貴族としての誇りを捨てることなく、優雅さとモダンさ、女性らしさと強さを持ち合わせ、独自のスタイルを生み出したパリジェンヌたち。古代ギリシャ・ローマ時代への憧れを反映させた新たな様式美ネオクラシシズムが生まれた時代でもあり、メルヴェイユーズたちもコルセットやスカートを膨らませるためのパニエを身につけずに、ギリシャ神殿のコラム(円柱)を彷彿させる直線的なシルエット、見頃部分とスカート部分が一続きとなった高いウエストラインのドレスを着用していたという。
「花と蝶」をテーマにした2019年の春コレクションは、そんなメルヴェイユーズたちのドレスを思わせるデザインのリップカラーが登場。ピンクをテーマにした10色があり、必ず #My Pink が見つかるというもの。またイルミネイティングフェイスパウダーは、まるで蝶の鱗粉のように光によって変化することで華やかさを演出してくれるという優れもの。アイカラーは色彩だけでなく、カメオのデザインやサイズもキュートだ。
リップカラー 全10色
レ・メルヴェイユーズ ラデュレと言えば、私にとってはチークアイテムのバラエティーの多さが先ず頭に浮かぶ。2011年秋のブランド初のお披露目発表会では、デザインや質感の異なるチークアイテムが3種類もあったのがとりわけ強く印象に残ったからだ。
最初にクリームチークベース、そしてプレストチークカラーをのせ、バラの花びらの形をしたフェイスカラーは、最後にブラシで花弁を優しく撫でるように色を含ませて頬にのせる。
レ・メルヴェイユーズ ラデュレPRマネージャーの西野絵梨さんによれば、最も大切にしているのは“表情美”で、そのポイントとなるのが頬。西野さんが「チークレイアード」と呼ぶ、3種類のチークアイテムを重ねて使うことこそブランドの美学であり、微妙な“表情美”を演出することが可能になる。そこには「五感を刺激し女性を本能的に魅了するものでなければ真に美しいと言えない」というラデュレ創業以来のフィロソフィーが継承されているのだという。
発表会でカラフルなカメオが象られたプレストチークカラーがまるでマカロンのように円錐状にびっしりと飾られていたことがあったが、今ではチークだけで50色はあるそうだ。
レ・メルヴェイユーズ ラデュレは、フランスのコンセプトと、上質な美容成分、そして日本の匠の技が融合することで生まれたブランドだ。
例えばバラの花びらの形をしたフェイスカラーは、開発にあたり製紙会社を見つけることから始め、造形職人に花びらの原版を作ってもらった。完成した花びらの紙に色を吸わせて一枚一枚手作業で作られている。花弁の原版を手がけた造形職人が亡くなってしまったなどの理由から、他社では真似ができない技術なのだという。
手前左からイルミネイティングフェイスパウダー、アイカラー02、トリートメントオイル、リップバーム02、リップカラー、リップ ブラッシュ、コンシーラー デイセラム。奥左からヘリオトロープ ミスト、ヘリオトロープ ボディ ウォッシュ、オー ド トワレレ メルヴェイユーズ、ヘリオヘリオトロープ ボディ ローション、フェイスカラー ローズ ラデュレ
※ボディケアは2019年3月1日発売予定
使用後には、ブランドのもう一つのコンセプトである「美しい裏切り」が隠されている。花びらチークはブラシに色がつかなくなったら、使い切ったサインとなるのだが、花びらの色も形もそのまま残るので、使い終わった後はオブジェとして楽しめる。カメオのデザインが施されたプレストチークカラーも、使い終わるとケースの底に使用していたチークカラーのカメオが現れる仕掛けになっていて、こちらもオブジェとしての楽しみが残されている。なんと粋なはからいだろう。
レ・メルヴェイユーズ ラデュレに使用されている成分にも注目したい。2種類のバラエキス(ダマスクとセンチュフォリア)、ローズハチミツ、オーガニックラベンダーエキスといった具合で、お菓子の材料のように美味しそうな成分が並ぶ。一部を除いて共通に使われている美容成分だそうだ。
西野さんのオススメという赤いボトルが印象的なトリートメントオイルを試してみた。洗顔後のぬれた肌に2・3滴すり込んでみたら、オイルなのにサラッとしていて、肌がやわらかな感じだ。化粧水も染み込みやすくなったように感じられ満足度は予想以上だった。
あなたもレ・メルヴェイユーズ ラデュレの世界にしばし浸ってみてはいかがだろうか?
text © Mika Ogura 2018
【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家。
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。
【商品情報】2019年1月18日発売予定
イルミネーションフェイスパウダー 1色 6,000 円 (税抜)
リップカラー 10色 3,200 円 (税抜)
リップブラッシュ 2,800 円 (税抜)
アイカラー 5色 2,500円 (税抜)
オー ド トワレレ メルヴェイユーズ 75ml 9,000円 (税抜)
レ・メルヴェイユーズ ラデュレ
お客様お問い合わせ先 〈フリーダイヤル〉
TEL: 0120-818-727
※詳細はこちらにお問い合わせください。
お歳暮などの贈答品として高く評価され、 華やかなパーティーシーズンにぴったりの果物
新潟特産の高級西洋なし「ル レクチエ」が、11月21日(水)全国一斉に販売解禁されました。国内生産8割を占める新潟県では、早出し競争による品質低下を防ぐために販売解禁日がもうけられ、さらに出荷時期が約1ヵ月と短いため、「ル レクチエ」は、この時期にしか食べられない希少価値の高い果物として知られています。
フランス発祥の西洋なし「ル レクチエ」は、日本では明治36年(1903年)に新潟県で栽培が始まりました。 他の西洋なしと比べて追熟期間が長く、例えば、「ラ・フランス」の15~20日間に比べ、「ル レクチエ」は約40日間を要します。収穫後に1ヶ月ほど熟成させることによって、 表皮が緑色から色鮮やかな山吹色に変化し、 高い糖度ととろけるような果肉、豊かな香りが生まれるんだとか。元々病気に弱く、長期追熟を要するなど栽培が難しいため、「幻の洋なし」ともいわれています。
ル・レクチェの糖度は16.5度~18度とメロンより高い
今年の「ル レクチエ」は、 収穫時点で糖度が高く、追熟期間を経て さらに甘みが強く育ち、また台風や病気による果実の傷みが例年より少なかったため、見た目も美しい果実が揃いました。
贈答品としても高い人気ですが、まずは、早めにゲットして、甘くとろみのある上品な口当たりや芳醇な香りを存分に楽しんでみてはいかが。
◆高級西洋なし ル レクチエ
販売期間:2018年11月下旬~12月下旬
参考サイト:http://www.nt.zennoh.or.jp/news/announcement/announcementnews/2017-1027-1614-26.html
Okada Museum Chocolate『福井江太郎 風・刻』HSG ©︎ FUKUI
柚子胡椒のような風味がショコラと共に口いっぱいに広がり、少し青みを帯びた香りが心地良い。神奈川県箱根町にある岡田美術館のミュージアムチョコレート、Okada Museum Chocolateのマスターショコラティエ、三浦直樹さんが、青い柚子と山葵を合わせた新作ショコラなのだと教えてくれた。三浦さんのショコラは独創的なものが多いが、際立って面白い味わいだった。そのショコラには雷神さまのお腹のあたりが描かれていた。
岡田美術館には、日本美術や東洋の陶磁器を始めとする素晴らしいコレクションを常時約450点展示している。長らく所在が分からなくなっていたものが再発見されて、美術館の収蔵となった喜多川歌麿の『深川の雪』や伊藤若沖の『孔雀鳳凰図』などがあることでも注目を集めている。
毎年それらの収蔵作品をモチーフにしたショコラを発表していて、今年で5シリーズ目となる。すべての新作は次の年には定番となり、ショコラも収蔵品のようにコレクションとして増やしていくというスタイルを取っているため、お気に入りの日本美術と共にずっと味わい続けることができるという楽しさがある。
Okada Museum Chocolate『福井江太郎 風・刻』
その日、私は新作が完成したという三浦さんを訪ねて工房にうかがっていた。工房では、現在開催中の展覧会に登場している作品をモチーフにしたショコラが作られているところだった。ここで一粒ごとに完成までをすべて手作業で作っている。
テーブルの上には、断面が見やすいように三浦さんが目の前で手際良く半分に切ってくれた8粒の新作ショコラが並んでいた。美術館収蔵の大壁画『風・刻 (かぜ・とき)』をモチーフにしたもので、冒頭の柚子×山葵のショコラもこの中の1粒だった。他にもサワークリーム×梅など、他では味わえないフレーバーがある。
『風・刻』は、江戸時代から俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一など琳派の画家たちに描き継がれてきた『風神・雷神図』を日本画家の福井江太郎さんが現代に蘇らせものだ。画面の両端に鬼の形相をした風神さまと雷神さまが描かれており、作品に刻まれた約400年に及ぶ時の流れまでもが描き込まれている。640枚のパネルに描いた12m×30mの巨大なもので、完成に約5年を費やしたという大作だ。岡田美術館の足湯カフェからも鑑賞できるようになっている。
Okada Museum Chocolateの最初のコレクション『光琳・菊』は、収蔵作品の『菊図屏風』をモチーフにしたもので、初めて目にした時は作品と共にかなり強く心に残ったショコラだった。
Okada Museum Chocolate『光琳・菊』
尾形光琳の『菊図屏風』は左右で対になる六曲一双のスタイルの金地に緑青や白い胡粉が映えるあでやかな屏風だ。琳派の歴史を通じて、もっとも美しい菊花図の大作として、非常に評価の高い作品で、岡田美術館のコレクションの中でもとりわけ魅力的な作品の一つである。
岡田美術館の小林忠館長によれば、貝殻で作る胡粉(ごふん)を盛り上げて花を描いているそうで、近くで鑑賞するととてもよくわかる。「琳派」とは、尾形光琳の「琳」をとって、近代になってから名づけられたもので、「光琳派」とも呼ばれるそうだ。琳派の作品の数々は、古来、私たち日本人が美しい自然と共にはぐくんできた情感や美意識が見事に結晶したものなのだとか。
小林館長に解説していただきながら館内を巡らせていただいたおかげで、普段は気づかないような細部に渡りご教示いただけたのは幸運だった。
特別にお招きいただいた岡田美術館チョコレートの工房にて。
Okada Museum Chocolateのマスターショコラティエ、三浦直樹さん(右)と。
『光琳・菊』は、屏風の左隻(左側)の中心の帯状部分をモチーフにしたもので、焼酎と菊茶でアクセントをつけた松茸×南瓜、和三盆糖×胡桃、安納芋×サフラン、柚子×マスカルポーネチーズ、和菓子のような味わいの宇治抹茶×黒豆というように、和素材を軸にして組み立てられている。Okada Museum Chocolateの原点ともいえる味わいで新作と併せてお勧めしたい。
岡田美術館は今年10月に開館5周年を迎え、それを記念した展覧会 『開館5周年記念展 美のスターたち』が2019年3月30日まで開催されている。新作を含めOkada Museum Chocolateのショコラも5シリーズ揃うので、この機会に是非ショコラと日本美術を一緒に堪能してみてはいかがだろうか。
text © Mika Ogura 2018
【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家。
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。
【商品情報】
●Okada Museum Chocolate 『福井江太郎 風・刻』
HSG ©︎ FUKUI
4,800 円(税込)
●Okada Museum Chocolate『光琳・菊』
2,800 円(税込)
岡田美術館 OKADA MUSEUM OF ART
神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1
TEL 0460-87-3931
http://www.okada-museum.com/
※販売期間等の詳細は、岡田美術館ミュージアムショップにご確認ください。
ミュージアムショップのみのご利用も可。
旧軽井沢 ホテル音羽の森「Violet〜ヴィオレ〜」(810円)
山々が赤く黄色く染まり、燃えるような季節を迎えている軽井沢で、2018年11月30日(金)まで、「軽井沢スイーツ散歩2018 秋の収穫祭」が開催されています。
このイベントは、軽井沢町内でスイーツを提供しているホテルやレストラン、カフェやおみやげ屋さんが11店舗参加する、お菓子のお祭り。期間中は、収穫祭をテーマに、栗やサツマイモ、カボチャ、リンゴといった素材をフォトジェニックにアレンジした限定スイーツが提供されます。さらにスイーツを提供するお店でスタンプを10個集めて抽選で当たると、来年2月に開催される「軽井沢スイーツ散歩 ザ・プレミアムブッフェ2019」へ招待されます。
御菓子処 花岡 軽井沢ツルヤ店「軽井沢の秋」(4個・1,000円)
アトリエ・ド・フロマージュ軽井沢売店「硬質チーズとおいものケーキ」(テイクアウトのみ。1カット486円)
気になる限定スイーツをいくつかご紹介すると、「旧軽井沢 ホテル音羽ノ森」の「Violet〜ヴィオレ〜」は、赤ワインで煮た信州リンゴのコンポート。米粉生地のタルトの中には信州産の栗とカスタードを忍ばせています。
ツルヤ軽井沢店にある「御菓子処 花岡」では、羊羹をベースに透明感のある錦玉が目にも艶やかな「秋の清流」、つぶあんをくるりと包んだ「紅葉」など4種類の和菓子を組み合わせた「軽井沢の秋」を用意。
「アトリエ・ド・フロマージュ軽井沢売店」では、自社製の硬質チーズとクリームチーズのケーキにサツマイモを練り込んだ「硬質チーズとおいものケーキ」を。キャラメルクリームとナッツをトッピングして、秋の味覚が満載の一品となっています。
来年2月の「ザ・プレミアムブッフェ」は、抽選で150人だけが参加できる限定イベント。スイーツマニアさんは、この秋スイーツを堪能してスタンプをたくさん集めましょう。
軽井沢の燃えるような秋を、小さな世界に凝縮させたスイーツたち。鮮やかな紅葉の色彩や澄み切った空気を存分に感じながら、五感をフルに使って軽井沢の秋を楽しんでみてください。
◆軽井沢スイーツ散歩2018 秋の収穫祭
開催期間:2018年10月20日(土)〜11月30日(金)
開催場所:軽井沢町内のスイーツを扱うレストラン、カフェ、ホテル、おみやげ店などでの店頭販売
公式サイト:http://sweets.karuizawa-kankokyokai.jp/
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺
『獺祭書屋俳句帖抄.上巻』p57 「法隆寺の茶店に憩いて」より
今年も柿の季節がやって来た。柿が登場する多くの句の中でも、無類の柿好きで知られる正岡子規によるこの俳句はとりわけ親しみ深い。
近年、柚子が日本から海外に渡り人気だが、柚子より遥か昔の16世紀頃に日本からヨーロッパに渡ったとされる果実があった。冒頭の句に詠まれた柿だ。初めてパリのマルシェ(市場)で大きな釣鐘型をした柿を見つけたのは、まだ私がパリに暮らしていた時のことだった。フランスでも「KAKI」と呼ばれているものの、地元ではアジア原産という認識はなく、あたり前のように生活の中に溶け込んでいた。ただし渋柿なので、お店の人から熟すのを待って中身をスプーンですくって食べるようにと教えられた。
「柿のタルトタタン」(参考商品)
先日、来日中のフランス人パティシエのフレデリック・カッセルと、彼の新作「ミルフイユ・フィンガー KAKI」の話していて、私は前出の体験を想い出した。フレデリックは数年前に鳥取へ食材探求の旅に出た時に、初めて日本の甘い柿に出逢ったのだという。低樹高栽培だったので、手が届くところに実がなっており、その場で熟れているものをもいで味わうことができた。口に入れた瞬間、フレデリックの頭にはお菓子作りを教えてくれた祖母との想い出が蘇ってきた。祖父母の自宅には果樹が育つ広い庭があり、菜園ではじゃがいも、グリーンピース、サラダなど季節毎の野菜を植えていて、鶏なども飼っていた。自分たちが食べるものはすべて庭でまかなっていて、鳥取の柿のように熟した果実をもぎ取って食べていた。祖母は庭の食材でお菓子を作ってくれたそうだ。そんな光景を思い浮かべているうちに、柿を使ったタルトタタンが思い浮かんだ。リンゴのような硬さがあり、色的にもキャラメルがけをしたら美しく仕上げられると確信したのだ。
こうして日本の柿を使った「柿のタルトタタン」が完成したのだという。味わってみると確かに食感は焼きリンゴのようで、キャラメルと合わさってほのかに干柿のような風味がした。
「ミルフイユ・フィンガー KAKI」 photo by Federic Cassel
あれから数年が経ち、今回、柿を使った新作は、フレデリック・カッセルのスペシャリテでもあるミルフイユ仕立てにしようと考えた。
「パティシエは、味覚の建築家なので、家を作るように組み立てて行く。基礎は底の軽やかなアーモンド生地(ビスキュイ・ジョコンド)とパイ生地(フィユタージュ)。ただしパイ生地を重ねる伝統的なスタイルではなく、両側にパイ生地を配するという形にして食べやすくした。薄く重ねた柿のコンポートは、干柿の甘みだけで砂糖は使用せず、フレッシュな柿を合わせることでさらに甘みを抑え、そこに柚子のクリームを重ねた。最初に柿を食べた時、ほうじ茶を飲んで、とても相性が良いと感じていたから、ほうじ茶とマスカルポーネを混ぜたシャンティイを飾りに使うことにしたんだ」。
フレデリックはこう説明すると、新作を美味しそうにほおばり「ほうじ茶が飲みたくなる味わいだよね」と独りごちた。ほうじ茶のシャンティイは控えめながら味わい深い。そこに柿と柚子の風味が折り重なり和風味のフルーティーで爽やかなミルフイユだった。確かにほうじ茶が飲みたくなる味わいだ。
来日したフレデリック・カッセル氏(右)と新作を味わう
フレデリック・カッセルの店舗が日本にでき、来年で十周年を迎える。年二回来日しては、食を含む日本文化をたくさん学んでいるという。
「日本では贈るためフランスでは自分のためという、二国間のお菓子に対する意識の違いにも驚かされている。柿を始めとする日本にしかない果実との出逢いも楽しみだ。柚子をパティスリーに使うようになったのもここ十年くらいのこと。日本の金柑の美味しさにも感激している。来日すると金柑をキロで買って、おやつ代わりに食べるのも楽しみのひとつ」。柿の次は、金柑を使ったパティスリーを考えたいそうだ。
日仏間を往来すること十年。新作はその集大成ともいえる魅力的な味わいに仕上がっていてお勧めである。最後にメッセージを訊ねてみるとこう締めくくってくれた。
「日本に来るようになって、健康面でも考えるようになった。例えばブルーベリーは目に良いとか、日本人は食材に関する健康意識が高い。柿はビタミンCが豊富だというから、ぜひ多くの人に新作を味わってもらいたい」。
text © Mika Ogura 2018
【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家。
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。
【商品情報】
●ミルフイユ・フィンガー KAKI
発売予定 11月1日より
※商品の詳細はホームページでご確認ください
http://www.frederic-cassel.jp/
【店舗情報】
フレデリック・カッセル銀座三越
住所:東京都中央区銀座4-6-16 B2F
TEL:03-3535-1930
※銀座三越の営業時間に準ずる
11月30日までの限定販売「秋色そふと」
創業から150年余り、祇園の地で親しまれるようになってから70年を数える宇治茶の老舗、祇園辻利。こだわりの玉露、抹茶、煎茶など伝統の味を守り続けるとともに、抹茶を使ったお菓子など新しい味にもチャレンジしている辻利ならではの、秋限定のスイーツが祇園本店にお目見えしました。
秋限定「秋色そふと」は、祇園辻利ご自慢の濃厚な抹茶ソフトに、香ばしいきな粉ホイップや甘酸っぱいりんごホイップをトッピングしたスペシャルな一品。抹茶ソフトの下にはかぼちゃチップスが隠れ、赤く色付く紅葉をかたどった生麩も飾られていて、秋の風情あふれるスイーツです。さらに、新商品の抹茶ゴーフレット「つじりの月」も添えられて、食べ応え満点に仕上がっています。
こちらの「秋色そふと」は祇園本店のみでテイクアウト販売となります。2018年11月30日(金)までの期間限定ですので、祇園散策のお供にぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょう。
◆祇園辻利「秋色そふと」
価格:680円(税込)
販売期間:2018年10月6日〜11月30日
提供店舗:祇園辻利 祇園本店
公式サイト:http://www.giontsujiri.co.jp/gion/store/kyoto_gion/
クーンズ
小さなアーモンドのボールは、つるんとした食感の後にナッティな香りを放ちながら口の中で消えた。なんだか食べたことのあるような食感だ。あとで絹ごし豆腐に着想を得た食感なのだと知って納得した。パリパリとしたフレーク状の土台からは香ばしい黒ゴマの香りが立ち上り、もう一つの甘酸っぱいフルーツの球体と共に絶妙な味わいを織りなす。
「クーンズ」と名付けられたこのパティスリーを考案したのは、6年ぶりに来日したヴァローナ・クリエイティブ・ディレクター、フレデリック・ボウさん。
インスピレーションの源となったのは、高級ファッション・ブランドとのコラボなどで日本でも知られるニューヨーク出身の現代アーティスト、ジェフ・クーンズ(Jeff KOONS)の作品。作中に登場するメタリックなボールを見たとき、ボウさんの脳裏には以前、北海道・千歳空港で見つけたゴム製の小さな風船に入ったプリンが浮かんだ。付属の爪楊枝で風船を割ると丸いプリンが出るようになっていたそうだ。
ジェフ・クーンズの作品のように艶があって感動的で風味豊かな球体を、ゴム製の風船を使ってヴァローナの新製品「インスピレーション・アマンド(アーモンド)」で作ることを思いついたという。それも大好きな絹ごし豆腐の食感で。冒頭のパリパリした土台に、アーモンド・ボールと寒天で寄せたフルーツのパール(真珠)という2種類の球体をのせれば「クーンズ」の完成となる。
ジェフ・クーンズ作品集『ゲイジング・ボール』(左)、ジョージア・オキーフ作品集『ワン・ハンドレッド・フラワーズ』(右)
ボウさんは過去に妻の利香さんと共にレストラン「Umia(名古屋弁で美味しいの意)」を経営していたほどの親日家。そのせいかボウさんのパティスリーは、一見するとフランス菓子であっても意外なところで日本を感じることがある。「クーンズ」を見たとき、私は何年か前にボウさんが東京台東区にあるかっぱ橋道具街でたこ焼き器を買い求めて、見た目はたこ焼きそっくりのデザートを作ったことを思い出した。
ボウさんによれば、40年近くのパティシエ経験を振り返ると、新しいアイディアを継続して生み続けることが一番難しいという。そのためボウさんが提案する「インスピレーション」を使った数種類のパティスリーは、パティスリー以外の世界で面白いと感じるものも心に止めようと、アートから着想した“インスピレーション”をテーマにした。どれもパティスリーの範疇にとらわれない着眼点は興味深いものだった。
ヴァローナの新製品「インスピレーション」は、アマンド、フレーズ(ストロベリー)、パッション(パッションフルーツ)の3種類ある。原材料はフルーツ(ナッツ)+カカオバター+砂糖にごくわずかなレシチンというシンプルな構成で、保存料、着色料、香料、乳製品オールフリー。
開発に5年の歳月を費やしたという。開発のきっかけは、ナッツとチョコレートを合わせた「ジャンドゥジャ」のバリエーションについて模索を始めたことだった。研究を進めるうちに、先ずは「インスピレーション・アマンド」が出来上がり、5年後には「フレーズ」、「パッション」が完成した。フルーツをフリーズドライにする際に2℃以上の温度になることがないため、味わいにフレッシュ感が保てるのだとか。フルーツ感たっぷりなので、そのままでも美味しく食べられる。むしろ食べ始めると止まらなくなるほどだ。「インスピレーション」を使ったものと、同じ果実のピュレで作った2種類のムースを食べ比べてみると、前者の方がよりフルーツの味わいが高かった。
オキーフ
「インスピレーション」を使ったボウさんのパティスリーからもう一品。「インスピレーション・フレーズ」の鮮やかな赤色を見たときに、20世紀のアメリカを代表する女流画家ジョージア・オキーフ(Georgia O'Keeffe)の拡大した花を描いたシリーズが思い浮かんだというもの。アーモンドのビスキュイとハイビスカス風味の「インスピレーション・フレーズ」のクレムーがバニラ風味のバヴァロワに包まれた華やかな味わいだった。
ヴァローナ本社のあるフランスでは、今秋「インスピレーション」に、「ユズ」と「フランボワーズ(ラズベリー)」が仲間入りした。海外でも和のエッセンスを取り込んで進化したパティスリーに出逢えるようになるかもしれない。
今後の展開を楽しみにしたい。
text © Mika Ogura 2018
【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家。
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。
【商品情報】
●インスピレーション・フレーズ
甘酸っぱいストロベリーの味わい
●インスピレーション・パッション
エキゾチックなパッションフルーツの味わい
●インスピレーション・アマンド
フレッシュなアーモンドの風味とリッチな味わい
http://boutique.valrhona.co.jp/2018-inspiration/
※商品の詳細はオンライン・ブティックでご確認ください。
左:「ラ メゾンドゥラナチュール ゴウ」福山剛シェフ 右:「ガガン」ガガン・アナンドシェフ
大分市は、大分都市広域圏に古くから根付く食文化をひもとき、地元の豊富な食材と多様な食文化をいかした”新たなおもてなし料理”を創作。県内外から大分に訪れる多くの人々に対し、新たに料理でおもてなしをしようという趣旨の町おこしプロジェクト、「豊後料理」プロジェクトを開始しました。「豊後料理」とは、大分市、別府市、臼杵市、由布市、竹田市、豊後大野市、津久見市、日出町において、地元のシェフや料理人が、山海の恵み豊かな食材で創作する新しいスタイルのおもてなし料理。地元食材を使用するほか、大分の自然と歴史を意識したメニューや郷土料理をアレンジしたメニューが加わったことなどがこの創作料理の特徴。地元の料理人たちによって考案されたバラエティー豊かなメニューが、大分市内を中心とする28店の登録店舗で、10月1日(月)から提供されるとのことです。この「豊後料理」への取り組みを広く発信するとともに、そ付加価値を高める人材を育成するため、コラムニストの中村孝則氏の監修によるスペシャル・ガストロノミー・イベント「饗~OITA~(きょう おおいた)」by GohGan(ゴーガン)vol.10」が開催されます。
2018 年「アジアのベストレストラン 50」で 4 年連続トップに輝いたタイ・バンコクの「Gaggan(ガガン)」のガガン・アナンド氏と、博多のフレンチの名店「La Maison de la Nature Goh(ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ)の福山剛氏の二人のトップシェフが新たな食をクリエイトします。大分で人気の水族館「うみたまご」で一流シェフのディナーが2晩だけ楽しめる、ユニークでクリエイティブなイベント。当日は地元のシェフ達が「ゴーガン」の厨房に入り、アナンド氏と福山氏をサポート。一流シェフによる新たな豊後料理の創作を一緒に体験し、新たな刺激を受けます。
大分市西部のベイエリアにある、市を代表する観光スポット大分マリーンパレス水族館「うみたまご」。 “楽しく学ぶ”水族館として、昭和 39 年に「マリーンパレス」として開業。
「ガガン」ガガン・アナンド氏と、「ラ メゾンドゥラナチュール ゴウ」福山剛氏によるフードイベント「ゴーガン」。「ゴーガン」は、それぞれのレストラン名を組み合わせたものです。2015 年 8 月から「ゴーガン」のポップアップレストランを開催し、その後も毎年継続されています。今では、日本国内外のフーディーズ大注目のイベントとなっています。当日は、それぞれのレストランでは提供されない「ゴーガン」独自のメニューが生み出され、ライブ感あふれる会場は、単なるディナーの提供にとどまることなく来場者たちを魅了します。2020 年にはガガン氏、福山氏双方がレストランをクローズし、2021 年には福岡にふたりで共同 運営するファインダイニング「ゴーガン」をオープンする予定です。
コラムニスト 中村孝則氏
今回のプロジェクトで「ゴーガン」をキャスティングしたのは美食評論家として活躍する中村 孝則氏。「会場の候補は普段ファインダイニングのイベントが行われることなどない水族館、それを楽しんでくれるシェフがいいと思いました。シェフには事前に完璧に準備をするタイプと、その場の雰囲気に合わせてアイデアが出てくるタイプがいて 、ガガンシェフはまさに 後者 。福山シェフが、福岡という大分に近い場所でサポートしてくれるのも理由のひとつでした。」と、「ゴーガン」 キャスティングの理由について説明しています。
世界のトップシェフの料理を水族館で体験できる、かつてないユニークなイベント。レストランがまだ存在しない「ゴーガン」。そのクリエイティブな料理をこの機会に楽しんでみては?
「饗~OITA~(きょう おおいた)」by GohGan(ゴーガン)vol.10」 開催概要
・日 時:2018 年11月10日(土)、11日(日) 午後6時 ~ 10時
・場 所:大分マリーンパレス水族館「うみたまご」レストランA-Zoo
・住 所:大分県大分市大字神崎字ウト 3078 番地-22
・ウェブサイト:https://www.umitamago.jp/
・料 金:35,000円(ドリンク込)要事前予約
・定 員:各日40名
・募集期間:10月1日(月)~ 19日(金)
・応募方法:豊後料理特設ホームページにて詳細を確認の上、申込みフォームに入力またはファクス、ハガキにて申込。応募者多数の場合は抽選。
・主 催:大分市、豊後料理クリエイトイベント実行委員会
「豊後料理」プロジェクト概要
・登録店舗:28店舗(大分市23店舗、別府市4店舗、竹田市1店舗)
・ジャンル:和食・洋食・中華・弁当(35メニュー)
・提供期間:10月1日(月)~11月30日(金)※一部のメニューは11月30日以降も提供予定
・ウェブサイト:https://www.bungoryori.jp/
くり壱
ウチの母は割烹料理屋の娘ということもあり、美味なるものを見つけるのが大好きだ。それは娘の私にもしっかりと受け継がれ食いしん坊に育った。母娘そろって栗に目がないという点も共通していて、母は秋になると栗の名産地として知られる岐阜県恵那市の栗を使った和菓子を送ってくれる。
さまざまな銘菓を経て、ここ十年ほどは恵那川上屋の詰め合わせが届くようになった。年ごとに内容は異なるが、私から必ず入れてくれるように頼んでいるものがある。それは「くり壱」といい、栗きんとんを蒸し羊羹で巻き、朴の葉で包み込んだものだ。栗きんとんといっても、おせち料理に入っているものとは別物で、蒸して裏ごした栗に少量の砂糖を加え炊き上げたもの。そのため食感も味わいも異なる。和栗は洋栗などと違って、水分が多く粘りがあるため、和栗の特性を活かした菓子ともいえる。栗きんとんだけでも魅力は充分なのに、蒸し羊羹とさらに朴の葉が加わるのだからたまらない。
私は海外暮らしが長いせいか、この連載で前に紹介した道明寺製の桜餅を始め、桜、柏、椿、笹…などの葉を巻いた和菓子にはとりわけ日本の香りを感じてしまう。中でも朴とみょうがの葉を使った菓子には特別な思い入れがある。朴の葉といえば、朴葉味噌、朴葉寿司といった岐阜の郷土料理が知られているが、朴葉餅という菓子もある。葉と食べ物が近い関係にある土地柄のようだ。
朴の木
恵那川上屋代表取締役、鎌田真悟さんに訊いてみた。
「岐阜県南東部の恵那地方(中津川市・恵那市)は、古くから良質な恵那栗の産地として知られ栗栽培が盛んなところでした。私が子供の頃に食べた栗きんとんは、その日の朝に採れた栗を炊きあげて作ったもので、それはもう美味しかった。このあたりは山の中なので朴の木は至るところにあって、地元の素材を使った栗の創作菓子を作ろうと思い生まれたのが「くり壱」でした」
くり壱(大)
恵那川上屋は、鎌田さんの父親である先代が1964年に創業した。鎌田さんが事業を継いだ頃は、すでに全国的に栗きんとんが有名になったことで、地元の栗だけでは需要を賄えず、他県から購入しなくてはならなかった。栗菓子の里であっても栗の里ではないという状態だったそうだ。
「栗は鮮度が命です。遠く離れた場所で収穫された栗は届くまでには日数がかかるため、現地では虫を殺すために栗を燻蒸(くんじょう)していました。この方法は虫だけでなく栗のでん粉が固くなってしまい風味までも殺してしまうのです」
鎌田さんは地元の栗を地元で加工する必要があると強く感じた。そのためには農家が自信を持つことができて地域の自慢になるようなものを作らなくてはならないと考え、恵那栗の品質アップをはかるために二つの取り組みをした。
一つは地元のJAや栽培農家などと一緒に超特選栗部会を立ち上げ、土づくりから管理し、栽培条件、出荷条件をクリアできた栗だけを「超特選恵那栗」と名付けて出荷するようにしたのだ。条件には燻蒸は行わない、低樹高栽培で作られた栗しか認めないなどさまざまなものがある。こうした努力が実り恵那川上屋が契約した地元の栗農家の生産量は、創業30周年を迎えた頃には年間10トンくらいしかなかったが、今では年間120トンにまで増えているという。さらに将来も見据えて他県の農家にも規定の条件で恵那栗を育ててもらっている。
もう一つはCAS冷凍(セル・アライブ・システム)を導入したことだった。CAS冷凍というのは、栗の冬眠装置のようなもので、解凍時には限りなく生に近い状態に細胞を再生できるそうだ。これが旬の秋だけでなく、年中新鮮な栗を味わうことを可能にした。
定番の秋の栗きんとん以外にも、夏の「栗観世」、冬の「ひなたぼっこ」、春の「里長閑」と、シーズンごとに地元で採れる旬な素材と栗きんとんを組み合わせた創作菓子がある。どれも美味しいが、先ずは「くり壱」を堪能してみてはいかがだろうか?
text © Mika Ogura 2018
【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。
【商品情報】
- くり壱(大)
栗きんとんを芯にした蒸し羊羹を朴の葉で包みました。栗と相性の良い朴の葉の香りをお楽しみください。
¥1,760(税込)
販売期間:通年
※くり壱(小) ¥990(税込)もあり
【店舗情報】
恵那川上屋 恵那峡店
住所:岐阜県恵那市大井町2632-105
TEL: 0573-25-2470
https://www.enakawakamiya.co.jp/shop/
※他の店舗についてはホームページで、また商品の詳細については各店舗にお問合せください。
新作「秋のなごみ」
パレドオールから和素材を使った秋の新作を考えているとの知らせをもらった。和栗と日本茶をテーマにペアリングをしたもので、驚いたことに自家製のホワイトチョコレートを使っているという。完成するのを心待ちにしながら真夏の日々を過ごしていた。
「これまでホワイトチョコレートだけは買うしかないと思っていたのですが、ビーントゥバーをここまでやってきたのだから自分で作ってしまおうと。それでカカオバターを絞る機械を買って、いろいろ試行錯誤しながら、ようやくホワイトチョコレートが作れる量まで溜まってきたので作れるようになったのです。こんなバカなことやっている人いないですよ」と、パレドオールのオーナーショコラティエの三枝俊介さんは楽しそうに笑う。
そして「これは自家製カカオバターに砂糖と粉乳を加えたものです」と言いながら、密封された袋からおもむろに白い板チョコレートを取りだして勧めてくれた。初めて口にした自家製ホワイトチョコレートは、カカオの香りもしっかり感じられて味わい深い。
三枝俊介さんが、本格的にビーントゥバーの道を歩み始めてから今年11月で5年目に入る。その間に、1991年に大阪府吹田市にオープンした洋菓子店は25周年を迎えたのを機に「アルチザン パレドオール」として再スタートするなど、持っていた店舗を整理してチョコレート専門店へとシフトした。洋菓子という大きな選択肢がある中で、敢えてチョコレートに特化する道を選んだ三枝さんの決断に私は興味を抱いていた。
「アルチザン パレドオール」のアトリエにて、作業中の三枝俊介さん。届いた豆の品質のチェック(右)。厳選したカカオ豆を焙煎(左)。この後さまざまな工程を経て板チョコレートができあがる。
訊いてみると、そもそも洋菓子の世界はすでに基本が出来上がっているので、その枠は超え難いものがある。またチョコレートの世界は、一般的にはクーベルチュールという製菓チョコレートを専門とする大手メーカーがカカオ農園からカカオ豆を買い付けて、それをクーベルチュールに仕上げるというシステムが確立している。そのためパティシエやショコラティエは、そこから自分の気に入るチョコレートを単品あるいは複数を混ぜ合わせて使うとか、自分のオリジナルのものを作ってもらうしかない。長年の経験からどちらも限界が見えてしまったのだという。
「色が混ざっていない状態のつまり単色の絵の具が欲しくなった。そのためカカオ豆からボンボン・ショコラやパティスリーにするまで、一貫して手がけることにしたのです。自分で作るわけですからカカオ豆の特性だけでなく、豆からチョコレートを作るまでの過程には無限大の可能性があるのです」。
三枝さんは、チョコレートのとてつもない深さに魅了されているようだった。今ではコーティング用のチョコレートを除き、多くの商品に自家製のチョコレートを使っているという。
「グランクヴァ カカオ72%ビター」とカカオ豆
続いてカリブ海のトリニダード・トバコにあるグランクヴァ農園のカカオ豆を使用した「グランクヴァ カカオ72%ビター」、そしてそのカカオ豆を順々にテイスティングさせてもらった。三枝さんが「これまでに出会った中で最高のカカオ」なのだとか。勧められるままに、グリルしたグランクヴァのカカオ豆を食べ、砂糖を少しつまんで含んでみる。三枝さんが初めて扱うカカオ豆を焙煎しているときに、どんなチョコレートになるのかイメージする時に使う方法だそうだ。こうすることでインスタントのチョコレートの味になるという。確かに口の中でチョコレートの味が出来上がっていくのが感じられ面白い体験だった。
こうしたファインカカオと呼ばれる香りが良く高品質なカカオ豆を使おうとすると、農家が小さかったり、量を採れなかったり、安定供給ができないから大手メーカーが使えるだけの量がない。パレドオールではこうしたカカオ豆を使うことができるのも魅力だ。
ショコラティエ パレドオール丸の内店にて。オーナーショコラティエの三枝俊介さんと
「今は自分自身も勉強中で色々なものを試している段階なのです」と、三枝さんは熱く語る。その試みのひとつに素材を合わせることで相乗効果の味わいを生むペアリングがある。
秋の始まりにようやく完成した新作「秋なごみ」は、和栗と日本茶と自家製チョコレートを使った6種類のペアリングが楽しめる。三枝さんの研究成果は、「和栗ショコラ」「栗+ウイスキー」に「和紅茶」とどれも期待以上の味わいだ。とりわけ「ほうじ茶」は今まで経験したことないほどのチョコレートとの調和と香り高さが印象的だった。
今秋登場したパレドオール初の和パフェと共にお勧めしたい秋の味わいだ。
text © Mika Ogura 2018
【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。
【商品情報】
- グランクヴァ カカオ72%ビター
グランクヴァ農園で栽培された高品質のカカオ豆を使った自家製チョコレート。ドライフルーツやプラムのような香りと黒糖のようなコクがある
¥1,296円(税込)
販売期間:通年
- 秋なごみ
栗と日本茶をテーマに自家製チョコレートを使った「和栗ショコラ」「栗+ウイスキー」「栗+コーヒー」「ほうじ茶」「和紅茶」「抹茶」という6種類のペアリングが楽しめるセット
¥2,160円(税込)
販売期間:11月中旬まで
- パフェ パレドオール 和―なごみー
抹茶、栗、和三盆、黒糖、あずき、ライスパフェに、自家製チョコレートのソルベなどでカカオのエッセンスを散りばめたパレドオール初の和のパフェ
¥2,160円(税込)
販売期間: 10月下旬頃まで
【店舗情報】
ショコラティエ パレドオール
住所:東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング1F
TEL: 03-5293-8877
※他の店舗についてはホームページで、また商品の詳細については各店舗にお問合せください。
左)だし炊き込みご飯蟹餡かけ 1,700円(税込)、右)秋野菜の焚き合わせ湯葉ソース 1,300円(税込)
日本屈指の高級懐石料理店「京都吉兆」の総料理長・徳岡邦夫氏と、1699年に日本橋で創業した鰹節専門店「株式会社にんべん」とがコラボした秋の特別メニューが、2018年9月1日より、東京「日本橋だし場 はなれ」にお目見えしました。
味覚の秋にぴったりのメニューは、「だし炊き込みご飯 蟹餡かけ」と「秋野菜の焚き合わせ 湯葉ソース」の二品。いずれも11月末までの3ヶ月限定となっています。
「だし炊き込みご飯 蟹餡かけ」は、鰹節の中でも極上品とされる“本枯鰹節”のだしで炊き上げたご飯に、 蟹と鰹節だしの旨味いっぱいのあんをかけた彩りも鮮やかな一品。「秋野菜の焚き合わせ 湯葉ソース」は、やさしく焚きあげた野菜に、秋の香り豊かな湯葉ソースが添えられています。二品ともに徳岡氏監修のもと、「にんべん」が長年にわたって培ってきた“旨味”を存分に活かした逸品となっています。
ランチ限定メニュー :だし炊き込み御膳 だし炊き込みご飯 蟹餡かけ 2,200円(税込)
単品でもよしですが、少しお得なセットメニューや数量限定のランチ御膳があるのがうれしいところ。江戸の味と京都の味による東西コラボレーションをじっくりと楽しみましょう。
◆日本橋だし場 はなれ「にんべん・京都吉兆」コラボ秋メニュー
期間:2018年9月1日(土)~11月30日(金)
住所: 東京都中央区日本橋室町2-3-1COREDO室町2・1階
営業時間: 11:00~22:00 (L.O.21:00)
公式サイト:https://www.ninben.co.jp/hanare/
九谷焼 飾皿 吉田屋柏に鳥(山岸政山作・直径30㎝)27,000円(税込)
北陸新幹線の開業によって、ぐっと足を運びやすくなった金沢や能登半島。加賀友禅や九谷焼など日本を代表する工芸品の産地であり、海の幸も豊富な石川県から、自慢の技や味を集めた物産展が催されます。
京浜急行・上大岡駅直結の京急百貨店7階催事場において、2018年9月5日(水)から11日(火)までの7日間、「加賀・能登・金沢 食と工芸展」を開催します。加賀友禅や九谷焼、大樋焼などの工芸の店舗が14店、寿司やカツカレー、ジェラートの店など石川県を代表する食の店23店舗が一堂に会するイベントです。
牛首紬 訪問着 648,000円(税込)
ずらりとブースが並ぶ会場で、ぜひ足を止めていただきたいのは、石川県が誇る三大織物のコーナー。独特の節がある繭糸で織りあげる牛首紬、伝統的な麻織物である能登上布、自然の草木を写実的な表現で染め上げる加賀友禅の3つの工房が出店しており、高い技術と繊細な色彩表現で仕上げられた逸品を間近に見られるチャンスです。
浜茶屋百万石「炙り! のどぐろめし」1,944円(税込)各日限定20杯
さらに、九谷焼や大樋焼などの焼物、輪島塗などの漆器の展示販売も行われており、石川県各地を回らずとも1カ所で様々な工芸品に触れることができるのが魅力。金箔を使った化粧品や美肌パックなども購入できます。歩き疲れたら、イートインコーナーでお寿司や丼などの食事、スイーツに舌鼓を打つのもいいですね。工芸品の繊細な美しさや伝統の味に触れ、石川県の魅力を存分に感じることができる催しとなっています。
◆加賀・能登・金沢 食と工芸展
開催日:2018年9月5日(水)〜11日(火) ※5日(水)は一般会期前の特別招待日
営業時間:10:00〜20:00 ※最終日は当会場のみ17:00までの営業
会場:京急百貨店 7階特設会場
神奈川県横浜市港南区上大岡西1-6-1
催事公式サイト:https://update.keikyu-depart.com/kqdep/topics/event/saiji_tmp01.html?p_id=61833
三段重の「八海山アフタヌーンティー」にはグラスシャンパンまたは純米吟醸酒「壱ノ壱ノ壱」が付く
ユネスコの無形文化遺産として登録され、世界中にその魅力が浸透しつつある和食。伝統を守る老舗でありながら新しい味にも挑戦し続けるパレスホテル東京と「八海山」で知られる老舗酒蔵・八海醸造が、ブームの発酵をテーマにコラボレーションし、日本の食文化の新たな魅力を発信します。
2018年9月1日(土)から11月30日(金)まで、パレスホテル東京において、新潟の清酒「八海山」の麹や酒粕を使ったアフタヌーンティー、カクテル、ブレッドなどコラボレーション商品を限定販売します。パレスホテル東京のオリジナル日本酒「壱ノ壱ノ壱」を「八海山」の八海醸造が手掛けている縁もあり、今回のコラボレーションが実現したそう。さらに、それらの味をゆっくり堪能できる宿泊プランも用意されています。
左)「薄紅葉」、右)「Tumugi〜紡ぎ〜」
新潟の美味い米と清らかな水を原料に、発酵という伝統の技を駆使して生まれる「八海山」は、和食と一緒に味わう以外にも、料理に加えたり、麹や酒粕をドリンクやスイーツに用いたりと、多彩なアレンジが可能。今回のコラボレーションでは、ロビーラウンジの「ザ パレス ラウンジ」で三段重のアフタヌーンティーが提供されます。このほか、同じく「ザ パレス ラウンジ」とメインバーの「ロイヤル バー」では、パレスホテル東京オリジナルの日本酒「壱ノ壱ノ壱」を使ったカクテルを2種類。そしてペストリーショップ「スイーツ&デリ」では、「酒粕味噌のパン ド カンパーニュ」など3種類のブレッドが販売されます。
左)「酒粕味噌のパン ド カンパーニュ」、(上)「酒粕の抹茶マフィン」、(下)「酒粕味噌のパン ド カンパーニュ」
また、秋のお月見と八海山アフタヌーンティーをゆっくり味わう宿泊プラン「観月〜Moon Over Tokyo〜」もおすすめ。この秋は、老舗同士のコラボで伝統的かつ斬新な味の共演を楽しみては。
◆パレスホテル東京「八海山コラボレーション商品限定発売」
提供期間:2018年9月1日(土)~11月30日(金)
【八海山アフタヌーンティー】提供店舗:ロビーラウンジ「ザ パレス ラウンジ」
【八海山カクテル】提供場所:メインバー「ロイヤル バー」/ロビーラウンジ「ザ パレス ラウンジ」
【八海山ブレッド】提供場所:ペストリーショップ「スイーツ&デリ」
【八海山宿泊プラン】「観月 ~Moon Over Tokyo~」(1日2組限定)※八海山宿泊プランは2018年8月1日から予約受付中
公式サイト:https://www.palacehoteltokyo.com/restaurants-bars/hakkaisan-collaboration/
「琥珀」
永楽屋の「琥珀 柚子」は、初めて味わった時からとても印象に残る和菓子だった。
まわりをすりガラスで覆ったような角柱の中に柚子のピールが浮かんで見えて、味わいには奥ゆかしさがある。さらに乾燥して糖化したごく薄い表面が口の中でシャリッと砕ける食感もとても新鮮だ。インスタ映えを狙って人工的な着色などを必要としなくとも、存在そのものにインパクトがある。寒天、柚子、水飴、砂糖というシンプルな原材料で、これほどみやびな和菓子ができることにも心を動かされた。
「琥珀 柚子」は、京都の知人からをお土産として「琥珀詰め合わせ」をいただき出逢ったものだった。「琥珀 柚子」に加え「琥珀 橙」「柚子こゞり」「琥珀 栗」、そして3種の「重陽」が懐紙とともに入っていた。「琥珀 橙」も「琥珀 柚子」と見た目はよく似ている。違いは柚子ではなくグレープフルーツのピールを使っているところ。爽やかな風味がして、こちらも上品な仕上がりだ。
「琥珀 柚⼦」
小豆、紫蘇、抹茶の3種ある「重陽」は、その名の通り五節句の一つにちなんだもの。重陽(旧暦9月9日)が「菊の節句」とも呼ばれることから、愛らしい菊の花の形をしている。陰陽道では奇数は縁起の良い数とされていて、最も大きな数字である9が月日に重なる9月9日は、五節句の中でもとりわけ重要な節句だったらしい。「重陽」の中ではとりわけ「紫蘇」が個性的だ。そこはかとなく感じられる塩気が甘みのある寒天と調和することで風情ある味わいを醸し出している。
「琥珀 重陽」⼩⾖、抹茶、紫蘇(左から右へ)
永楽屋はそもそも不思議なお店である。
昭和21年に創業したときから、京佃煮と和菓子を一緒に商ってきたという。永楽屋の広報の方に訊いてみると、からいものとあまいものを同じ店で扱うことは全国的に見てもかなり珍しいそうだ。日本人の食生活に欠かせない「米と茶」を介して繋がるものということで、前者を「黒」、後者を「白」として商品を色で区別をしている。「琥珀」は永楽屋の「白」を代表する菓子だということだった。
「白」の中でも「柚子こゞり」は、素材の持ち味をいかし丹精込めてつくられた「ほんまもん」の味として、2007年に社団法人京都府食品産業協会から京ブランド食品に認定された自慢の逸品である。寒天にみじん切りにした柚子がたっぷりと練りこまれているので、「琥珀 柚子」とはまた違った食感が味わえる。
永楽屋が「白」に使用している柚子は、品質を守るために、職人が現地に足を運び、香りを確かめ、触り、観て、直接仕入れた木頭柚子のみを使用している。それを炊いて蜜漬けの状態にしたものを「琥珀 柚子」などに使う。「柚子こゞり」だけは柚子を半年以上砂糖に漬け込んだものを使うそうだ。木頭柚子とは、徳島県木頭産の柚子のことで、寒暖の差が大きく、降水量の多い豊かな自然が育む柚子は、その品質の高さから特別に銘が与えられ「木頭柚子」と呼ばれているのだという。
「琥珀 柚⼦」の炊き作業
海外暮らしが長く和菓子の名前はそれほど明るくないこともあって、氷の中に素材を閉じ込めたようにも見える菓子が「琥珀」と名付けられた由来が気になった。訊いてみると、寒天と砂糖を煮とかして冷まし固めた状態のものを、さらに乾燥させることで「琥珀」となるのだそうだ。「琥珀」は木の樹脂が長い年月を経て固形化した宝石になぞらえたもので、干錦玉(ほしきんぎょく)とか干琥珀(かんこはく)とも呼ばれるという。クチナシの実で寒天を着色することもあったことから名付けられたとされる。
柚子もグレープフルーツも寒天の中に浮かぶピールがきりりと一文字になっていて美しいが、つくる苦労を訊いたら職人技になおさら驚かざるを得ない。「琥珀 柚子」を始めとした「琥珀」シリーズは、菓子であっても宝石の琥珀ように視覚でも楽しむものという考えから、表面に白濁やヒビが入らぬように注意を払い、姿かたちにこだわり抜いているのだという。
繊細な味わいなので特に甘党というわけでなくても愉しめるのもいい。今の季節にお勧めしたい京の和菓子である。
text © Mika Ogura 2018
【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。
【商品情報】
- 琥珀詰め合わせ 5品入り
¥3,240円(税込)
【店舗情報】
永楽屋 本店
住所:京都府京都市中京区河原町通四条上る東側
TEL: 075-221-2318
※単品購入可。商品の詳細については店舗にお問合せください。