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柳宗悦が讃えた、琉球の「用の美」
2026.8.28
日本橋髙島屋・大阪髙島屋で開催。「柳宗悦が出会った沖縄の美 琉球の民藝」
(左)型そめ琉球風物 芹沢銈介(62.4×79.4㎝、1939年) (右)色絵草花文福字皿 鈴木繁男(7.0×25.0㎝、1939年)
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柳宗悦らが「民藝」の理念を確立してから100年という節目にあたる本年。日本橋髙島屋S.C.と大阪髙島屋の2会場にて、展覧会「柳宗悦が出会った沖縄の美 琉球の民藝」が順次開催される。
柳宗悦 1933年髙島屋東京店にて撮影
本展は、民藝運動の提唱者・柳宗悦が「宝の山」と称賛した沖縄の工芸を、染織や陶器をはじめとする約100点の作品から紐解くもの。
木綿苧麻白地雲青海波菊牡丹文様紅型衣裳(123.3×121.0㎝、19世紀)
白掛色差線彫蓋物 壺屋(11.0×11.0㎝、19世紀)
柳宗悦が沖縄の工芸に魅了されたのは、同級生であった琉球王家尚家第21代当主・尚昌侯との縁がきっかけ。1938年から4度にわたり沖縄を訪れ、調査と蒐集を行うなかで出会ったのが、独自の風土から生まれた色彩豊かな染織や、力強く大らかな陶器などの手仕事だった。
芭蕉木綿白地手花手巾(82.0×24.0㎝、19世紀末〜20世紀初期)
厨子甕(64.0×60.0×54.0㎝、第二尚氏時代)
展示は全5章で構成。序章と第一章では、柳が沖縄に惹かれる原点となった「紅型」にフォーカスし、19世紀の色鮮やかな衣裳や型紙を展観。続いて芭蕉布や絣などの織物、壺屋焼の酒壺や抱瓶、皿や鉢などを通して、琉球の暮らしのなかで育まれてきた染織と焼物の美に迫る。
あかとり(19.0×31.2×29.0㎝、1939年頃)
笠(高21.6 径39.6㎝、1930〜50年代)
さらに、踊り着や芝居幕、籠、張り子人形など、暮らしと芸能を映し出す品々も登場。最終章では、柳とともに沖縄を旅した芹沢銈介をはじめ、河井寬次郎、濱田庄司ら民藝運動に携わった作家たちが沖縄から学び、制作した作品を紹介する。琉球の手仕事が彼らに与えた影響にも注目したい。
会場では文化映画「琉球の民藝」も上映され、戦前の沖縄の風景や人々の暮らし、芸能が息づく姿を映像で紹介。また展覧会に隣接する会場では、全国各地の手仕事を集めた展示・即売「民藝展」も3年ぶりに開催される。
芭蕉経絣衣裳(124.0×123.6㎝、20世紀初期)
飴釉白打双耳仏花器 壺屋(18.2×8.4㎝、19世紀)
名もなき職人が作った日常の生活道具に目を向け、そこに宿る健全で健やかな美しさを「用の美(ようのび)」として称えた民藝運動。その誕生から100年という節目に、柳宗悦を魅了した琉球の豊かな手仕事と、その土地に根づく美に触れてみてはいかがだろうか。
◆「柳宗悦が出会った沖縄の美 琉球の民藝」
【入場料】一般1,200円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
東京会場:日本橋髙島屋S.C. 本館8階ホール
【会期】2026年8月26日(水)~9月6日(日)
【時間】10:30〜19:00(19:30閉場)
※最終日は17:30まで(18:00閉場)
大阪会場:大阪髙島屋 7階グランドホール
【会期】2026年9月9日(水)~21日(月・祝)
【時間】10:00〜18:30(19:00閉場)
※最終日は16:30まで(17:00閉場)
◆展示・即売「民藝展」
東京会場
【会期】2026年8月26日(水) 〜9月7日(月) 各日午前10時30分〜午後7時30分 ※最終日は午後6時閉場。
【会場】日本橋髙島屋S.C. 本館 8階催会場
ほかに ●本館7階 ギャラリー暮らしの工芸・民藝のわ/8月26日(水)〜9月8日(火)
※最終日は午後4時閉場。
●本館1階 正面イベントスペース/8月26日(水)〜9月1日(火)
大阪会場
【会期】2026年9月16日(水)〜21日(月・祝) 各日午前10時〜午後7時 ※最終日は午後6時閉場。
【会場】大阪髙島屋 7階催会場
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ライフスタイルブランド「Lexon」とジェフ・クーンズとのコラボ・シリーズ
2026.8.16
「Balloon Dog Lamp」と「Balloon Dog Speaker」が登場
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フランスのライフスタイルブランド「Lexon」と、現代美術を代表するアーティスト、ジェフ・クーンズとのコラボレーション・シリーズ「Balloon Dog」のランプとスピーカーが発売された。
「Balloon Dog Lamp」は、約400個のLEDを搭載し、明るさは最大200ルーメン。仕事中やリラックスタイム、パーティーの演出など、さまざまなシーンに合わせて調光可能だ。光の色は、鼻部分を軽く押すだけでホワイト、ブルー、グリーン、マゼンタ、オレンジなど様々なカラーに調整できる。
「Balloon Dog Speaker」は、6基の高精度アクティブドライバーと、精密にチューニングされた4基のパッシブラジエーターが生み出す調和のとれた音響設計により、360°の全方位サウンドが楽しめる。鼻を回すことでボリュームを調整でき、耳を軽くタップすればトラックをスキップできる。また、2台のBalloon Dog Speakerを接続することで、より豊かな奥行きと広がりのあるステレオサウンドも再生可能だ。
あなたも遊び心あふれるコラボ作品で空間を演出してみてはいかが。
◆Balloon Dog Lamp
・LEDカラー9色 ・照明アニメーション9種類
【価格】¥159,980 (税込)
◆Balloon Dog Lamp
・再生時間 約10時間/充電時間 約3時間
【価格】¥159,980 (税込)
※詳細は公式サイトを要確認
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フェルメール作品の魅力をスイーツで表現
2026.8.13
「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展」とコラボ。リーガロイヤルホテル大阪の限定スイーツ
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リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクション 1階「グルメブティック メリッサ」では、大阪中之島美術館で開催される「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展」とコラボレーションした限定スイーツを、2026年9月27日まで期間限定で販売。
ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》1665年頃 油彩/カンヴァス 44.5×39.0㎝マウリッツハイス美術館 © Mauritshuis, The Hague
フェルメールの代表作《真珠の耳飾りの少女》から着想を得た本コレクションは、大阪中之島美術館の特設ショップ、およびホテル1階のテイクアウトショップ「グルメブティック メリッサ」、公式オンラインショップで展開。
《真珠の耳飾りの少女》をデザインした特別仕様のサブレや、ホテルの人気商品「ロイヤル ラングドシャ」の限定パッケージ、絵画の色彩をショコラで表現した「アートチョコレートギャラリー」の3種類がラインアップしている。
アートチョコレートギャラリー – 真珠の耳飾りの少女 – 3個入り 2,484円(8月21日〜9月27日の期間限定販売)
なかでも印象的なのが、《真珠の耳飾りの少女》をテーマにした3種のショコラの詰め合わせ。少女の黄金色のターバンや、フェルメールブルー、暗闇に反射する「光の粒」など、フェルメールが描いた光と色彩を繊細に表現した一箱だ。
サブレ 4枚入り 1,296円(8月21日〜9月27日の期間限定販売)
《真珠の耳飾りの少女》転写1枚、プレーン3枚
バター香るサブレには、《真珠の耳飾りの少女》を転写した特別な一枚をセット。真珠の耳飾り部分にはパールシュガー(アラザン)をあしらうなど、作品の世界観を細部まで表現した遊び心も魅力だ。
ロイヤル ラングドシャ 12枚入り 1,944円(9月27日までの期間限定販売)
ホワイト、キャラメル 各6枚
フェルメール作品に宿る“光”と”一瞬の美しさ”を、見た目と味わいで楽しめるアートファン必見の限定スイーツ。展覧会の余韻を、自宅でも楽しんでみてはいかがだろうか。
◆「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展」 コラボレーションスイーツ
【販売期間】
・ロイヤル ラングドシャ : 2026年7月25日(土)~9月27日(日)
・サブレ、アートチョコレートギャラリー : 2026年8月21日(金)~9月27日(日)
【販売場所】
・大阪中之島美術館 展覧会特設ショップ
・リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクション 1階 「グルメブティック メリッサ」
・リーガロイヤルホテル オンラインショップ
※7月25日(土)~8月20日(木)は、 ロイヤル ラングドシャのみ「グルメブティック メリッサ」および、オンラインショップ限定で先行販売
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1200年受け継がれる空海の教えに触れる特別展
2026.8.12
国宝を含む至宝が集結。東京国立博物館「空海と真言の名宝」
弘法大師坐像 江戸時代 17世紀 和歌山・金剛峯寺蔵 通期展示
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東京国立博物館では、2026年9月6日(日)まで、弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」を開催中。会場には、国宝15件、重要文化財60件を含む真言宗十八本山および関係寺院から集結した至宝が一堂に集結。弘法大師・空海の教えと1200年にわたる真言宗の歴史を体感できる内容となっている。
国宝 五智如来坐像 平安時代 9世紀 京都・安祥寺蔵 通期展示
国宝 金銅錫杖頭 中国・唐時代 8世紀 香川・善通寺蔵 通期展示
国宝 三十帖冊子 第二十二帖 空海ほか筆 平安時代 9世紀 京都・仁和寺蔵
後期展示8/11(火)-9/6(日)展示
見どころは、初期密教彫刻の傑作である国宝「五智如来坐像」や、国宝「十二天像」、空海が中国から持ち帰った国宝「金銅錫杖頭」、空海が留学中に密教典籍を書写したノート、国宝「三十帖冊子 第二十二帖」をはじめとする名品の数々。
重要文化財 十一面観音菩薩立像(部分) 平安時代 9~10世紀 三重・観菩提寺蔵 通期展示 撮影:佐々木香輔
国宝 薬師如来坐像 円勢・長円作 平安時代 康和5年(1103) 京都・仁和寺蔵 通期展示
さらに、真言宗最高の儀式とされる「後七日御修法(ごしちにちみしほ)」に関わる寺宝や、普段は目にすることのできない秘仏9件11体も特別に公開。空海ゆかりの名宝や密教美術、密教図像を通して、真言密教の世界を総合的に体感できる。
重要文化財 如意輪観音菩薩坐像(部分) 平安時代 11世紀 大阪・大門寺蔵 通期展示 撮影:佐々木香輔
会場内の特設ショップでは、重要文化財《如意輪観音菩薩坐像》(大阪・大門寺蔵)のぬいぐるみキーホルダーや、十八本山の寺紋をちりばめた御朱印帳などのオリジナルグッズや、コラボレーショングッズも販売。また、展覧会ナビゲーターを務めるMISIAや、声優の大塚明夫がナレーターとして登場する音声ガイドも用意。
国宝 五大尊像 鎌倉時代 12~13世紀 京都・醍醐寺蔵
不動明王、降三世明王:前期展示7/14(火)-8/9(日)展示
軍荼利明王、大威徳明王、金剛夜叉明王:後期展示8/11(火)-9/6(日)展示
重要文化財 愛染明王坐像 平安時代 12世紀 山梨・放光寺蔵 通期展示 画像提供:山梨県立博物館
空海が伝えた祈りと思想、その精神を受け継ぐ名宝の数々に触れながら、日本文化の奥深さを改めて感じてみてはいかがだろうか。
◆弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」
【会期】開催中~2026年9月6日(日)
*8月31日(月)は開館するのは本展のみとなります。
東博コレクション展(平常展)はご覧いただけません。
また館内の他施設もご利用いただけませんので予めご了承ください。
【会場】東京国立博物館 平成館
【開館時間】9時30分~17時
*毎週金・土曜日は20時まで
*入館は閉館の30分前まで
【休館日】月曜日
※ただし、8月31日(月)は開館
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新作ミュージカル『アニオー姫』世界初演
2026.8.12
400年前の史実をもとに描く、国境を越えた愛の物語
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2026年9月12日(土)から27日(日)まで、KAAT神奈川芸術劇場にて、新作ミュージカル『アニオー姫 ~Hẹn gặp lại 再び~』が上演される。
物語の着想源となったのは、長崎の伝統行事「長崎くんち」の演目「御朱印船」として現在にまで語り継がれる史実。
時ははるか400年前、朱印船貿易の時代。長崎からベトナム・ホイアンへ渡った日本人商人・荒木宗太郎と、ベトナムの王女・ゴックホア姫が運命的な出会いを果たす。
音くり寿(アオニー姫役[Wキャスト])
国も身分も越えて心を通わせた二人。やがて姫は長崎へ嫁ぎ、その華やかな輿入れの様子は「御朱印船」にも描かれている。姫は「アニオーさん」と呼ばれ、人々に親しまれながら穏やかな日々を過ごしていたが、鎖国という時代の大きなうねりが二人をのみ込んでいく……。
ドー・ファン・ザ・ハン(アオニー姫役[Wキャスト])
本作では、文化や習慣、国籍、身分などの違いを認め合い、理解しようとする二人の愛の軌跡を軸に、自由に海を渡れなくなった時代にも、祖国の家族や愛する人との再会を信じ、異国の地で希望を失わずに生き抜いたアニオー姫と、彼女を支え続けた宗太郎の姿が描かれている。
(左)小野田龍之介(荒木宗太郎役[Wキャスト]) (右)田代万里生(荒木宗太郎役[Wキャスト])
アニオー姫役は、元宝塚歌劇団花組の音くり寿と、ベトナムでのオーディションを勝ち抜いた新星ドー・ファン・ザ・ハンのダブルキャスト。荒木宗太郎役には、『エリザベート』などで圧倒的な存在感を放つ田代万里生と、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』などで活躍する小野田龍之介が名を連ねる。
約400年前の実話をもとに描かれる、壮大な愛と希望の物語。現代を生きる私たちに、隔たりを越えて互いを理解することの尊さを、あらためて問いかける作品となりそうだ。
◆ミュージカル『アニオー姫 ~Hẹn gặp lại 再び~』
【公演日程】2026年9月12日(土) ~ 9月27日(日)
※全21回公演
プレビュー公演:2026年9月11日(金)
【会場】KAAT神奈川芸術劇場<ホール>(神奈川県横浜市中区下町281)
【料金】
・プレビュー公演(9/11)SS席:14,500円 / S席:12,500円 / A席:9,500円 / B席:4,500円
・レギュラー(平日)SS席:15,000円 / S席:13,000円 / A席:10,000円 / B席:5,000円
・ピーク(土日祝日・千穐楽)SS席:16,000円 / S席:14,000円 / A席:11,000円 / B席:6,000円
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林 信行の視点
2026.8.5
杉本博司「絶滅写真」が問うもの
映画一本分の光で劇場を撮るシアターシリーズの新作として2015年に制作された「廃墟劇場」。《パレス・シアター、ゲーリー》(2015)。
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もともとテクノロジーやデザインを追ってきた私が、本格的に現代アートの取材へ足を踏み入れるきっかけとなったのは、2005年、森美術館で開かれた「杉本博司:時間の終わり」展だった。
いま大きな注目を集めるAIもそうだが、テクノロジーの世界は、とにかく移り変わりが激しい。今年はじめて名を聞いた技術が、わずか2〜3年で世界を左右する巨大企業を生むこともあれば、誰にも気づかれないまま、いつのまにか消えていくことも多い。次から次へと新しいものが現れ、少し前のものは猛烈な速さで消費され、無価値なものへと追いやられていく。そんな潮流のなかでは、時代を超えて残るものを作ろうという気概も芽生えにくく、人は刹那的になりやすい。
そんな思いを抱えていた頃に観た2005年の展覧会は衝撃だった。写真という、絵画などに比べ複製が容易で、存在としては希薄になりがちなメディアを用いているのに、一点一点が、観る者を引き込む強いオーラを放っていた。
その理由のひとつは、杉本が写真という表現の本質を因数分解し、「時間」や「光」といった、より普遍的な要素を描き出す装置として用いている点にあるのだと思う。
しかし、解説文で、そうした難しい概念を読み解かなくても、まず何よりも一点一点が圧倒的に美しいからこそ、これだけ多くの人を惹きつけるのだと思う。
幽玄を漂わせる水平線や、命なきはずの蝋人形の視線が放つ圧倒的な存在感。こうした魅力は、たやすく生まれるものではない。綿密に構想され、幾度もの試行錯誤という時間に研磨されて、はじめて生まれる。
杉本作品にもうひとつ感じる魅力は、見た目は西洋的な美しさと、かっこよさをまとっているのに、その根には「もののあはれ」に通じる日本の美意識が流れており、それを、現代の数寄者らしく、解説文や展示の妙をもって、そっと差し出してみせていることだ。
近年の杉本は、写真にとどまらず、建築、能楽、古美術、茶の湯にわたる多彩なプロジェクトを手がけている。私自身、自らの遺作と位置づけて築く江之浦測候所はもちろん、ヴェルサイユやニューヨークでの展示、舞台の演出、杉本がキュレーションした古美術の展覧会まで、その仕事を折にふれて追ってきた。
その杉本博司の、写真作品を中心とする大規模回顧展が、いま東京国立近代美術館で開かれている。「杉本博司 絶滅写真」——写真作品を中心に構成される国内の美術館個展としては、森美術館「杉本博司:時間の終わり」(2005年)以来、実に21年ぶりだという。
「絶滅」とは、なんだか穏やかでない言葉だ。だが、多くの人々をなぜか惹きつける終わりゆくものへの郷愁、儚さ、美しさの表現において、杉本博司を超える人物はなかなかいない。その杉本が「絶滅」そのものを主題に掲げたとなれば、期待は高まるばかりだ。
銀塩写真の、そして人類文明の葬儀
「回顧展というのは作家が死んでからやるものだと思うんですけども、僕の場合『もうそろそろ終わりかな』と感じられて、やらせてみようというのがお国の立場だったんですね」。開会に向けての説明会で、杉本は自虐的にこういって来場者の笑いを誘った。
「絶滅写真」というタイトルには、銀塩写真の終焉というメディアのレベルと、人類文明の絶滅という大きなレベルの、二重の意味が込められているのだという。
「銀塩写真の技術のための感材はどんどん消えていきますから、フィルムそのものもいつ消えてしまうかわからない」。
その銀塩写真に代わって台頭したのがデジタル写真だが、杉本は昨今増えているAIによる画像を含むデジタル画像を「脳内風景のイラストレーター」と酷評する。
「もし(デジタル技術だけを破壊する)サイバー原爆が落とされたら、今のデジタルインフラは全て消えてしまう。記録も消え、水道も電気もコントロールできなくなり、人類は石器時代に戻ってしまう。そうなれば21世紀のデジタルの記憶はすべて消え去る」。
本展が企てているのは、デジタル技術の台頭によって事実上の終わりを告げつつある「銀塩写真」というメディアの、そしてもしかしたらデジタルという信頼に足らず儚い存在に依存し、絶滅を控えている人類の、杉本自らが喪主を務める大がかりな「葬儀」でもある。
杉本博司のデビュー作ジオラマシリーズ。今回、新作としてこの《ホモ・エレクトス》(2025)を含む数点が初披露された。左は杉本博司氏。
半世紀のキャリアを振り返る展覧会
展覧会では杉本博司の初期から現在に至る半世紀のキャリアを、銀塩写真約60点に、数点の立体作品を加えた全13シリーズで総覧する。
ほぼ年代順に沿った3章構成で、冒頭は構想から半世紀を経て、ようやく全点での展示が可能となった初期作品「ジオラマ」シリーズを含む初期三部作で、人類の意識の始まりへと遡る。第2章では、その意識が築いた「観念の形」をテーマにした作品。そして終章では、光そのものを定着させた作品群を経て、一生分の光を一枚に凝縮しようとする最新作「CAMERA MAN」へと至る。この3章構成を組んだのは、本展を担当した同館主任研究員・増田玲(ますだ・れい)だ。
杉本博司の代表作《海景》のシリーズが並ぶ部屋は本展覧会のハイライト。ベンチが置かれじっくり作品と対峙できる(サテライト会場には国立近代美術館所蔵の《海景》も展示されている)。
なんと言っても圧巻は代表作「海景」シリーズが並ぶ展示室だ。緩やかに円弧を描く一室に、水平線を揃えた7点が並ぶ。太古の人類が見たのと同じ景色を求めた末に行き着いた、上下を空と海で二分する構図。作品と対峙するベンチに腰掛けてしばらく眺めていると、館内のざわめきが遠のき、意識が、時空を超えた水平線の彼方へ吸い込まれていくような心地よさがある。
他の展示もそうだが、杉本自身が異なる形状の部屋を巧みに生かし展示そのものを作り込み、セクションの配置から照明の一点一点まで確認しており、それだけに一分の隙もない美しさに仕上がっている。
蝋人形を撮影した「肖像」シリーズは、奥行きのある一室に並ぶ。突き当たりの壁に掲げられるのは、ダイアナ妃。その視線に導かれるように、一点また一点と肖像をたどりながら、奥へ進んでいく。
以下では、各章に展示された作品をもう少し詳しく紹介しよう。
人類最初の記憶から観念化する社会への物語
第1章「時間・光・記憶」では、1970年代半ばから80年代にかけて発表された初期三部作「ジオラマ」「劇場」「海景」を通して、人類の意識の始まりと時間の推移が探求される。
最初に並ぶのはデビュー作の「ジオラマ」シリーズだが、実はこの作品シリーズは本展覧会をもってようやく完結に至った。1974年に渡米した杉本は、アメリカ自然史博物館で見た白熊の剥製を大型カメラで撮影し、生命のないものが生きて見えるという「写真の虚と実」を突いた。シリーズは動物の剥製にとどまらず、猿から人間への進化をたどる人類史の再現へと展開していく。若き日の杉本はマルクス主義やエンゲルスの『猿が人間になるについての労働の役割』、ダーウィンの『種の起源』に影響を受けた。そして労働と道具の発達が人間の脳を育み社会を作ったという唯物史観を、ジオラマによって視覚化しようとしていた。
しかし、長年どうしても撮影許可が下りない展示が2点あった。「原人がハイエナに食われている」場面など、人類の被捕食(他の動物に食べられていた)時代や新石器時代を描いたジオラマである。70年代当時の人権意識や人種差別への配慮から伏せられてきたという。杉本は「これらを加えてシリーズを完結してくれないと、私のコレクションを寄贈しない」と交渉して、現館長から撮影許可を得たという。
続く「劇場」シリーズは、映画1本分の光を使って、真っ暗な劇場を撮影するという実験から生まれた。1970年代ニューヨークの映画館で、映画が上映している間、シャッターを開けっ放しにする撮影を実験的に行った。現れたのは、映画という時間の集積が真っ白な光へと還元され、闇の中で輝くスクリーンと、その光で輪郭が描かれた劇場内装飾や客席の姿だった。目に見えない時間の経過を、物質的な痕跡として定着させた名シリーズだ。
初期三部作の最後を飾る「海景」は、人類の意識の始まりへと遡る試みだ。なぜ、意識の始まりなのか。杉本はこう考えた——古代人と現代の私たちが、まったく同じ姿で見られる景色があるとすれば、それは海のほかにない。空と海、水平線だけ。島も船も写らないその一枚は、時間を超えて人の意識をつなぐ装置だ。彼は世界中の海を探し、一枚目は1980年、カリブ海のジャマイカで撮影した。障害物のない断崖を地図で探し、日の出や月の出の方向、季節、風向きまで計算して現地に立つ。三日間雨を待ち続けた結果、水蒸気が雨へと変わる決定的瞬間をとらえた、という作品もある。
この主題の原点は、杉本自身の最初の記憶にある。五歳の頃、熱海から東京へ帰る湘南電車の窓。トンネルの合間に、海がパッ、パッと現れては消える。そのコマ落としのような光景こそ、彼の意識が芽生えた場所だった。だからこそ「海景」は、人類の記憶であると同時に、杉本自身の記憶の原点でもあるのだ。
建築家の頭の中にあるぼやっとしたイメージを像にした「建築」シリーズ(左は《バラガン邸》(2002)、右は《サンテリア・モニュメント》。(1998))
この「海景」で、意識の起源を探った杉本。第2章「観念の形」では、その意識がいかにして現代の複雑な社会や概念を構築してきたかを検証している。建築をモチーフとした「建築」、ファッションの変遷をたどる「スタイアライズド・スカルプチャー」、数式を立体化した彫刻「観念の形」。いずれも、人間の知性や想像力が生み出した「モノの形」をめぐる考察だ。
「建築」では、モダニズム建築の名作をあえて焦点をぼかして撮ることで、建築家の頭の中にあったイデアとしての建築を浮かび上がらせる。杉本に言わせれば、近代建築はコンクリートという疑似石が流行した結果であり、都市という名の巨大な「蟻塚」を作っているにすぎない。「スタイアライズド・スカルプチャー」では、身体を保護するための衣服が時代とともに装飾性を帯び、人工的な形態へと進化していった過程を探る。そして「観念の形」では、人間の脳内現象を視覚化した数学模型を通して、芸術と科学が交差する地点を形として見せている。いずれも、人類が自然から離れ、自らの観念によって世界を再構築してきた軌跡であり、同時に、その合理主義がいずれ限界を迎え絶滅へ向かうベクトルであることを、暗に示している。
数式とグラフによって表された形を彫刻にした「数理模型」と、衣服の装飾性を写真にした「スタイアライズド・スカルプチャー」のシリーズ。
「絶滅写真」--人類文明とは何だったのか
第3章は展覧会そのもののタイトルにもなっている「絶滅写真」と名付けられている。銀塩写真の終焉と人類文明の絶滅というテーマが、最も直接的に表現される空間だ。写真というメディアの起源と限界を問う作品群が並ぶ。
化石も、時間を保存する点において写真に似ているという杉本の「化石(前写真、時間記録装置)」シリーズの《P.P.T.R.D.037 棘のある三葉虫》(2008)。
ネガ写真しか作る技術がなかった時代に撮影されたタルボット家の家庭教師の像を、現代の技術で現像し《Photogenic Drawing 015》(2008)。
この第3章は、化石を写した作品「化石(前写真、時間記録装置)」シリーズで始まる。杉本は「化石と写真は同じ機能を持っている。どちらも時間を保存することができる」と指摘する。数億年前の三葉虫が石の中に閉じ込められたように、写真もまた過去の時間をフィルムに閉じ込める。銀塩写真が絶滅しようとしている今、杉本が撮った写真そのものが、未来の地層から発掘される「化石」になろうとしている。
その隣に並ぶのは、写真の始まりそのものを写した一枚だ。「フォトジェニック・ドローイング」は、19世紀の写真術の祖ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットが遺した初期のネガに、杉本が向き合った作品である。カメラを使わず、感光紙の上に物を置いて光を当てると白黒の反転したネガが得られることを発見したタルボット。これが後の銀塩写真の原型となった。本シリーズでは、杉本がそのタルボットのネガの明暗を反転させ、忘れられた技術の亡霊を蘇らせている。
第3章で強い存在感を放っているのが、「肖像」シリーズだ。ロンドンのマダム・タッソー館などに立つ蝋人形を撮影したもので、冒頭で触れたダイアナ妃をはじめ、歴史上の人物たちが、まるで存命中に描かせた肖像画のような佇まいでこちらを見返す。生きていないものが、写真になった途端に生々しい実在感を帯びる——デビュー作「ジオラマ」で突いた「写真の虚と実」を、人間の顔という最も雄弁な対象で反復している。
「放電場」は、そのカメラすら介さず作られた作品群だ。もともと暗室では、フィルムに静電気の火花が走り、像を傷つけてしまう事故がしばしば起きる。杉本はこの厄介者を作品へと反転させた。人工的に高圧電流を放ち、その閃光をフィルムに直接焼きつける。レンズも被写体もなく、光そのものが枝分かれしながら、樹木や血管、あるいは稲妻のような模様を刻む。写真が「何かを写す」ものだという前提すら外し、光と銀塩がじかに出会った痕跡だけを表したシリーズだ。
蝋人形の写真だというのに、不思議と艶かしい「肖像」シリーズ。
3章終盤に並ぶ「放電場」、「Opticks」そして「陰翳礼讃」。
続く二作は、その「光」そのものと向き合う。17世紀、アイザック・ニュートンはプリズムを通して太陽光を七色に分けてみせた。杉本はその実験を再現し、分光した色の帯をポラロイドに写し取る。絵の具という物質を一切介さず、光そのものだけで描かれた純粋な色を写したのが「Opticks」だ。
一方、谷崎潤一郎の随筆に名を借りた「陰翳礼讃」では、暗闇のなか、蝋燭に火が灯り、揺らめき、やがて燃え尽きて消えるまでが一枚に収められる。片時も同じ形をとらない、炎という光の一生。谷崎が電灯以前の陰翳に日本の美を見たように、杉本もまた、闇があってこそ立ち上がる光の階調をすくい取っている。
第3章はこの後、杉本が蒐集する古美術コレクションから選んだ、絶滅の瞬間を思わせる一枚に、祈りを捧げるように自作の光学硝子五輪塔を添えた展示が続く。
そして3章の最後を飾るのが、新作「CAMERA MAN」という謎めいたメガネ型機器の彫刻展示だ。アイウェアブランドのJINSとカメラメーカーのSIGMAの協力を得て作られたというこの装置は、レンズ部分にシャッターがついている。装着してボタンを押すと、3分間はシャッターが開かず、暗闇の中で過ごすことになる。3分後にわずか1秒だけシャッターが開き、眼前の風景を目に焼きつける。このシャッター開口時間の1秒を人間の一生(約85年)とすると、人類の文明史1万5000年は約3分に相当するのだという。
つまり装着者は、文明が始まる以前の長い暗闇をくぐり抜けたのち、最後の一瞬にだけ世界を見ることを許される。人類が積み上げてきた1万5000年も、一人の一生も、宇宙の時間からすればまばたきほどの1秒にすぎない——その途方もないスケールを、顔に掛けた一台の装置が体感させる。写真とは、光と時間を定着させる装置である。その原理を半世紀かけて解体してきた杉本は、行き着いた果てで、カメラを人間の身体そのものへ畳み込んでみせた。
新作の彫刻?装置?「CAMERA MAN」はJINSやSIGMAの協力を得て作られたという。
時代の終わりを狂歌で笑う
ここまでの紹介だと、本展は終末論を突きつける重苦しい展覧会と思えるかもしれない。しかし、ここからが杉本の真骨頂だ。彼はこの絶滅という極めてシリアスな主題を、展示空間全体に散りばめた「狂歌」というユーモアで包み込んでみせる。
室町から続く「詩画軸」の伝統をなぞり、重厚な写真の一点一点に、わざわざ不真面目な本音や、世を斜めから見た一句を解説代わりに添えている。たとえば杉本は、自身の芸術活動を「人生これ暇なり。暇をいかに潰すか、これ人生の肝要なり」と言い切る。食い扶持を稼ぐ以外の時間はすべて「暇」であり、宗教も哲学も学問も、壮大な暇つぶしだという。芸術の道もまた自己陶酔の幸せな暇つぶしであり、「ここに生まれ落ちて狂い咲き、その心情を吐露するに至れり。狂歌詠み『素遁卿(すっとんきょう)』と申すなり」と、自らを戯画化しておどけてみせる。
真面目なものは和歌、不真面目なものは狂歌——そう語りながら、そこには古今和歌集の本歌取りや近世文学のパロディが高度に織り込まれており、分かるものにはより奥深い楽しみを与えてくれる。もっとも杉本は、それを一部の人だけの特権にするつもりはないようで、その歴史的・文学的文脈について「分からなかったら、だいたいAIに聞いてみればよい」と笑ってみせる。
別フロアにあるサテライト会場では杉本が作品制作に使った通称「杉本ノート」も展示されている。
杉本流:亡びの美学
軽く狂歌で笑い透かしてはいるものの、杉本作品の一点一点の裏には、緻密な計算と、膨大な調査や実験の積み重ねがある。今回の展覧会ではサテライト会場にて、そんな杉本が作品制作のために綴ったノート、「杉本ノート」も展示されている。こちらも見逃せない。
「有終の美」とは何か。展覧会を見て改めて考えさせられ、そのなかで、杉本が長年情熱を注ぎ、時には自身の遺作とも呼んできた建築、小田原文化財団「江之浦測候所」を思い出した。
杉本はかねて、この建築群を「文明が滅びた後、5000年後に発掘された際に、遺跡としていかに美しく残るか」を想定して構想したと語ってきた。エジプトのピラミッドやギリシャのパルテノン神殿を遠望するように、自らの作品がいかに美しく滅びるかを逆算する視座は、平家物語から連なる日本の「亡びの美学」に通じる。
そして今回の展覧会もまた、すべてがデジタル化され、記憶がデータとして漂白されていく現代という壮大な喜劇の、その幕引きなのだ。悲嘆にくれるでもなく、抗うでもなく、狂歌を詠み、笑いながら、消えゆくものの最期をこれ以上なく美しく設える。終わりを、祝祭に変えてしまう。それが、杉本博司という喪主のやり方だ。そして、その幕引きを美しいと感じてしまうことこそ、私たち日本人が長く育ててきた美意識にほかならない。
◆杉本博司 絶滅写真
会期:2026年6月16日(火)〜9月13日(日)
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー(東京都千代田区北の丸公園3-1)
開館時間:10:00〜17:00(金・土は20:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(7月20日は開館)、7月21日
Profile
林信行 Nobuyuki Hayashi
1990年にITのジャーナリストとして国内外の媒体で記事の執筆を始める。最新トレンドの発信やIT業界を築いてきたレジェンドたちのインタビューを手掛けた。2000年代からはテクノロジーだけでは人々は豊かにならないと考えを改め、良いデザインを啓蒙すべくデザイン関連の取材、審査員などの活動を開始。2005年頃からはAIが世界にもたらす地殻変動を予見し、人の在り方を問うコンテンポラリーアートや教育の取材に加え、日本の地域や伝統文化にも関心を広げる。現在では、日本の伝統的な思想には未来の社会に向けた貴重なインスピレーションが詰まっているという信念のもと、これを世界に発信することに力を注いでいる。いくつかの企業の顧問や社外取締役に加え、金沢美術工芸大学で客員名誉教授に就いている。Nobi(ノビ)の愛称で親しまれている。
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関連記事
投稿 杉本博司「絶滅写真」が問うもの は PREMIUM JAPAN に最初に表示されました。
Features
好奇心をひらく、夏のミュージアムへ
2026.8.4
MoN Takanawaで開催。「ひらけモン、ひらけ好奇心!2026 夏休み」
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東京・高輪の複合型ミュージアム「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」では、夏休み企画「ひらけモン、ひらけ好奇心!2026 夏休み」を開催。アートや科学、ロボット、日本文化など、多彩なプログラムを通して、子どもから大人まで一日中楽しめる体験型イベントが展開される。
テラダモケイワークショップ「紙でつくる、ぐるぐるめぐる山手線のある風景」
● 開催日時:8月8日(土)、9日(日)、15日(土)、16日(日) 各日13:00~17:00
– 13:00~寺田尚樹によるギャラリートーク
– 13:30~制作開始(開催時間内は随時参加・退出いただけます)
● 開催場所: Box300 ホワイエ(2F)※ギャラリートークはBox 1500で開催
● 参加方法:事前申込不要。随時会場にて受付
● 対象:小中高生(英語対応可能/カッターをお1人で使用できないお子さまは、保護者の付き添いをお願いします)
● 定員:各日80名
● 参加費(税込):ご参加には、『ワークショップ付き「ぐるぐる展」チケット』の購入が必要です。
・小中高生1枚:1,300円
・【ファミリー割】一般1枚+小中高生1枚:3,500円(小中高生1名が参加可能)
・【ファミリー割】一般1枚+小中高生2枚:4,500円(小中高生2名が参加可能)
※『ワークショップ付き「ぐるぐる展」チケット』は7月下旬に販売開始予定。販売に関する情報は、今後MoN Takanawa公式ウェブサイトおよびSNSにてお知らせ。
身の回りの「ぐるぐる」を体験しながら、世界のひみつを楽しく考える開館記念特別展「ぐるぐる展―進化しつづける人類の物語」では、館内を巡る「ぐるぐるナゾトキスタンプラリー」をはじめ、山手線をテーマにしたペーパークラフトづくりや、ワークショップ、小学生向けギャラリーツアーなどを開催。家族向けのお得なチケットも用意され、親子でアートや科学への興味を深められる内容だ。
さらに7月25日からは、大阪・関西万博で話題を集めたシグネチャーパビリオンを再構成した「いのちの未来+」もスタート。アンドロイドとともに50年後の未来を旅するような体験ができる「いのちの未来」に、新たに“いのちの未来の選択”に向き合うシナリオを追加。「人間とは何か」「いのちとは何か」を親子で考えるきっかけを提供する。
「月見行灯」制作ワークショップ
● 開催日時:8月29日(土)、30日(日)
● 開催場所:Tatami(4F)
● 各日12:30~/15:30~
● ワークショップ対象年齢:ハサミを使用できる方(未就学児は、保護者の付き添いをお願いします)
● ワークショップ参加料金(税込):2,300円
※「郷土の熱狂ーゆらめく月あかりと、夏の最後のひとときを」の詳細ならびにチケット販売に関する最新情報は、MoN Takanawa公式ウェブサイトおよびSNSにてお知らせ。
館内4階にある約100畳の畳空間「Tatami」では、8月29日(土)、30日(日)に、伝統の切り紙遊び「紋切り」で幻想的な「月見行灯」を制作するワークショップを開催。
MoN Park Cafe by Spiral (左)「ベリーとオーツミルクのパフェ氷」 (右)「桃とミルクティーのパフェ氷」 各1,100円(ともに数量限定)
さらに3店舗あるカフェ・レストランからは、夏限定のパフェ氷が登場。このほか「MoN Takanawa」には、電車を間近に眺められるテラスや足湯などの屋外スポットも充実。展示以外にも思い思いの時間を過ごせるのも魅力だ。
展示を「見る」だけではなく、つくり、学び、味わい、発見する──。家族それぞれの好奇心を刺激する夏のミュージアムへ、足を運んでみてはいかがだろうか。
◆「ぐるぐる展̶ 進化しつづける人類の物語」
【開催期間】開催中〜2026年9月23日(水・祝)まで
【開催場所】Box1500(5F)
【時間】10:00~19:00(金・土曜日は10:00~21:00)
【チケット料金】一般 2,500円/U25 1,500円/小中高生 800円
◆「いのちの未来+」
【開催期間】開催中~2026年9月25日(金)
※ 休演日 8月3日(月)。休演日は変更・追加となる場合があります。
【開催場所】Box1000(B1F~B3F)
【チケット料金】一般 3,500円~、U25 2,500円、中学生以下 1,500円
※開催日や購入時期によって料金が異なります。詳細は公式ウェブサイトをご確認ください。
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Features
マリー・アントワネットが生んだ“スタイル”の魅力に迫る
2026.7.30
日本唯一の開催。横浜美術館「マリー・アントワネット・スタイル」
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2026年8月1日(土)から11月23日(月・祝)まで、横浜美術館にて展覧会「マリー・アントワネット・スタイル」が開催される。ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)が企画した世界巡回展で、横浜はその最初の巡回地であり、日本では唯一の開催となる。
(左)フランス王妃マリー・アントワネットの胸像 セーヴル磁器製作所、ルイ゠シモン・ボワゾ 1788年頃 軟質素焼磁器 40.7 x 26 x 15 cm ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 ©Victoria and Albert Museum, London (右)フランス王妃マリー・アントワネットの胸像(背面) セーヴル磁器製作所、ルイ゠シモン・ボワゾ 1788年頃 軟質素焼磁器 40.7 x 26 x 15 cm ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 ©Victoria and Albert Museum, London
ローブ・ア・ラングレーズ 製作地不詳 18世紀後期(1770–90年代) 絹ブロケード *袖口のレースは近年の追補 共立女子大学博物館蔵 ※展示期間:8月1日(土)~9月9日(水)
皿 マリー・アントワネットの食器セット「真珠とヤグルマギク」 セーヴル磁器製作所 1781年 軟質磁器、エナメル、金 3 x 24.2 x 24.2 cm ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 ©Victoria and Albert Museum, London
「歴史上もっともファッショナブルな王妃」と称されるマリー・アントワネット。本展では、ドレスやジュエリー、家具、絵画、版画、写真など約200点を通して、王妃が築き上げた美意識やライフスタイルを紹介。18世紀後半の歴史的なファッションから2025年のオートクチュールまで、その影響が現代へと受け継がれてきた軌跡を、多彩な展示で紐解いていく。
通称「サザーランド・ダイヤモンド」 オリジナルのネックレス フランス製 1780年代に加工 プラチナ、ダイヤモンド、金、銀 長さ 35.8 cm、8 cm、8.1 cm ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 ©Victoria and Albert Museum, London
マリー・アントワネット旧蔵の天然真珠とダイヤモンドの3 連ネックレス フランス製 18世紀後半 天然真珠、金、ダイヤモンド 各連の長さ: 38.5 cm、41 cm、43 cm ハイディ・ホルテン・コレクション、ウィーン Photo courtesy of Sotheby’s
マリー・アントワネットの肘かけ椅子(4点組の1点) ジャン゠バティスト゠クロード・スネ 1788年 クルミ、綿布に絹の刺繍( 近年の上張り) 97.5 x 63.5 x 63cm ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 ©Victoria and Albert Museum, London
「首飾り事件」のネックレスの一部と伝わるダイヤモンドをはじめとする旧蔵品や、王妃ゆかりの品(約10点)のほか、小説、演劇、映画などに描かれてきた18世紀当時の品々も多数展示。また、王妃の処刑に用いられたとされるギロチンの刃や、フランス革命を紹介する展示も加わり、人物像や時代背景をより立体的に感じられる構成だ。さらに、アジア巡回に合わせて展示内容を再編成。国内に所蔵されている優品約20点も展示される。
このほか、オリジナルグッズやコラボレーショングッズも多数展開。「ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル」では、展覧会開催期間中、本展の世界をテーマにした特別コース「Petit Trianon(プチ・トリアノン) ~マリー・アントワネットの追憶~」が提供される。
ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン)の展示風景 ©Victoria and Albert Museum, London
ブレスレットの留具 フランス製 1770年頃 ダイヤモンド、青の鉛ガラス(人工宝石)、金 各 3.9 x 3 x 1.4 cm ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 ©Victoria and Albert Museum, London
あらゆる点で新たな様式(スタイル)を築いたマリー・アントワネット。その美意識が現代のクリエイターたちにもインスピレーションを与え続ける理由を、この貴重な機会に体感してみてはいかがだろうか。
◆マリー・アントワネット・スタイル
【会期】2026年8月1日(土)~11月23日(月・祝)
【会場】横浜美術館(神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1)
【休館日】木曜日 ※ただし8月13日、9月24日、11月19日は開館
【開館時間】10時~18時/11月21日・22日は20時まで(入場は閉館の30分前まで)
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Features
金工作家・宮田亮平氏とのコラボレーションクロック
2026.7.28
デコールセイコーが「シュプリンゲンクロック『翔』」を10台限定で発売
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セイコーの最高級ブランド「デコールセイコー」は、日本を代表する金工作家・宮田亮平氏の鋳造作品にスケルトンムーブメントを組み合わせた置時計「シュプリンゲンクロック『翔(しょう)』」を、10月9日(金)より10台限定で発売する。価格は3,300,000円(税込)。
宮田氏は、2016年~2021年まで第22代文化庁長官を務め、現在は公益社団法人日展の理事長ならびに日本芸術院会員として活躍中。ドイツ語で「飛翔」を意味する「シュプリンゲン」は、躍動感のあるイルカをモチーフにした宮田氏の代表的なシリーズだ。
高さ556×幅 284×奥行き170mm 重さ約8.6㎏
今回の置時計は、デコールセイコーのために制作されたオリジナルの鋳造枠とスケルトンムーブメントが調和するデザインを採用。大海原を翔ける3頭のイルカが寄り添いながら勢いよく上方へ向かう姿を通じて、生命の躍動と未来への飛翔を表現している。
その躍動感あふれる鋳造枠に、宙に浮かぶような精緻な輪列が美しいセイコー独自のクオーツ・スケルトンムーブメントを組み合わせることで、美術工芸作品と精密な時計技術が結実した作品が誕生した。
あなたも時計とアートが融合した特別な一台を手にしてみてはいかが。
◆<デコールセイコー>置時計 シュプリンゲンクロック『翔(しょう)』
【品番】AZ527A
【価格】3,300,000円(税込)
【限定数量】国内限定10台
【発売予定日】10月9日(金)
※詳細は公式サイトを要確認
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Features
アートと過ごす、大人のためのワークショップ
2026.7.28
アスコット丸の内東京で開催。美術作家・亀井紀彦氏とつくる花のアートオブジェ
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東京の中⼼地、⼤⼿町⼀丁⽬⼀番地に佇むプレミアムアパートメントホテル「アスコット丸の内東京」では、美術作家・花道家の亀井紀彦氏とともに花のアートオブジェを制作するワークショップを開催。2026年8⽉から2027年3⽉まで、毎⽉開催される。
本プログラムは、⼤⼈のための上質な体験を提供するサービス「Otonami」とのコラボレーションによるもの。ワークショップでは、浮き石に自然の情景を立体的に表現する「景色風」と、桐箱の中に小さな世界を創り出す「箱庭」の2種類から好きな作品を選択。色鮮やかなプリザーブドフラワーやドライフラワーに加え、本プログラム限定の金・銀・ピンクゴールドの花材を使い、自分だけのオブジェを完成させていく。
ワークショップ会場には、「アスコット丸の内東京」の宿泊ゲストのみが利⽤可能な皇居を望む2ベッドルーム和洋室を用意。都心とは思えない静けさと開放感に包まれながら作品作りを愉しむ、特別な時間を過ごせるのも魅力だ。
美術作家・花道家の亀井紀彦氏
国内外で注目を集める亀井紀彦氏の手ほどきを受けられるとあって、8月から10月までの予約は満席だが、11月以降の予約受付は9月中旬にスタート予定だという。アートのある暮らし”をコンセプトに掲げる「アスコット丸の内東京」で、感性を刺激するひとときを愉しんでみてはいかがだろうか。
◆「アスコット丸の内東京」×「Otonami」限定コラボレーション
~ アスコットソワレ–美術作家·⻲井紀彦⽒と共につくる⾊鮮やかな花のアートオブジェ ~
【開催日】2026年8月~2027年3月まで毎月開催
※11 ⽉以降の開催⽇については、9⽉中旬より受付開始。
【開催時間】不定期 11:30~13:00 / 14:30~16:00
【会場】アスコット丸の内東京 皇居ビューの 2 ベッドルーム和洋室
(東京都千代⽥区⼤⼿町 1−1−1 ⼤⼿町パークビルディング)
【参加費】1名 8,800円~
※事前決済制·返⾦不可/先着順(定員に達し次第受付終了)
※最少催⾏⼈数/2 名
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投稿 アスコット丸の内東京で開催。美術作家・亀井紀彦氏とつくる花のアートオブジェ は PREMIUM JAPAN に最初に表示されました。
JCCO
PREMIUM JAPAN AWARD
日本文化発信機構 JCCOが目指すもの
2026.7.14
機能美の先にあるもの 日本のデザインが世界に届くとき パナソニック ホールディングス執行役員 臼井重雄 × good design company代表 水野学
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日本の優れた文化やものづくりを表彰し、世界へ発信するPremium Japan Award。その顔となるロゴなどのグラフィックは、受賞対象に引けを取らない水準であることが求められる。アワードを主催する一般社団法人日本文化推進機構(JCCO)の理事会には、国内外で高い評価を得る2人のデザイナーが名を連ねている。マツダ株式会社 シニアフェロー ブランドデザイン監修の前田育男氏と、パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員 グループCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)の臼井重雄氏だ。
JCCOは、前田氏にアワードのトロフィーを、臼井氏にロゴを含むブランド・コミュニケーション全体の設計を託した。臼井氏はその骨子を組み立てたうえで、実際のロゴ制作を、公私にわたって親交の深い日本を代表するクリエイティブディレクターに委ねる。「くまモン」のキャラクターデザインや、ヘラルボニー、三井不動産、相鉄グループなどのブランディングを手がけた、good design company代表・水野学氏である。
長い付き合いながら、メディア上で語り合うのは初めてという2人に、アワードに込める思いに始まって、日本のデザインの特徴や世界進出をする上で重要なことについて話を聞いた。
Premium Japan Award、JCCOへの思い
まずはJCCO理事の就任を真っ先に快諾してくれたという臼井氏に、このアワードにかける思いを聞いた。
臼井 僕は中国・上海に9年いて、日本を外から見ていました。日本は、外から見たら素晴らしいものがいっぱいあるのに、それがうまく外に発信できていないと強く感じていました。海外に行くと「日本っていいよね」とよく言われます。でも、今、海外に行くと日本人が一時期に比べると全然いなくて、日本を外から見ている人がとても少ないと感じています。
情報が溢れて、本当にいいもの以外も伝わってしまう時代。だからこそ、しっかりとしたメンバーで、ちゃんとした基準とフィルターで厳選して良いものを選び、日本の良さを自信を持って世界に伝えていきたい。
そんな臼井氏の熱い想いのこもったアワードのロゴを、水野氏はどうデザインしたのか。
水野 臼井さんが、日本国内の狭い話ではなく、それをどう世界に広げていくかを強く考えていらっしゃる。そこは聞いていて、とても感銘を受けました。日本のユニークなものを、世界へ――。それが、いちばん大事なところですよね。
僕は日本の文化は、シンプルにして象徴化する(シンボライズする)のが得意だと思っています。家紋がその代表ですよね。だから、このロゴでもそうしたのですが、モチーフとして日本でいちばんシンボルになり得るものは何かを考えたとき、やっぱり富士山に行きつきました。何百年、いや下手をすれば何千年も、シンボルとして君臨してきたものをモチーフにするのが、正しいやり方だなと思ったんです。富士山は、立派なのに優雅で、美しいのにすごく力強い。相反するものを兼ね備えています。その「あり方」までが、Premium Japanが目指すところに近いんじゃないかと思って、モチーフに選びました。
コンセプト設計から企画開発、グラフィック、プロダクト、空間、広告宣伝まで領域を横断したトータルディレクションを手掛ける、水野学氏。
good design companyのオフィスには、受賞トロフィーの一部が飾られている。
海外が見る「日本のデザイン」とは
海外の人と話すと「日本はデザインが素晴らしい」という声を聞くことが多い。日本のデザインを、二人はどう見ているのか。
臼井 海外の人が言う「デザイン」は、ポスターやプロダクトそのものを指しているわけではないと思うんですよね。たとえば日本食なら、味の良さだけでなく、その一皿を映像として切り取ったときの美しさ、店内での人の動き方(動線)、料理人の所作まで含めて「デザインがいい」と言われている気がします。
水野 目を向けてくれているのは、装飾的なもの(飾り立てたもの)よりも、むしろ機能的なもののほうだと思っています。余計なものを「そぎ落とす」というのは、日本人が昔から当たり前にやってきた、伝統と言ってもいいくらいのことです。街並みも、礼儀作法も、和食も、最小限まで削ぎ落とされたものに対して「いいね」と言ってもらえることが多い。無印良品の影響もあるかもしれませんが、もっと過去のものにさかのぼっても、同じことを感じます。
臼井 海外とは逆ですよね。『アベンジャーズ』の敵はどんどん巨大になっていく。それに対して『ドラゴンボール』の最も強い敵は、いちばんツルッとしている。土器でいえば、装飾の多い縄文式土器より、後の時代の弥生式土器のほうがスッキリしている。シンプルなもののほうが進化した形だという感覚が、日本人には刷り込まれている気がします。
なぜ、日本は削ぎ落とす方向へ進んだのか。水野氏は二つの理由を挙げる。
水野 一つは「受け入れる文化」。八百万(やおよろず)の神がいる日本人は、一つの視点だけでなく多方向の視点でものを受け入れるところがあります。そうすると、視点の違いに関係のない共通項である機能を重んじるようになってくる。気候風土に目を向けても日本は国土が南北に長く、四季がはっきりしている。この気候の多様性が、違いを超越した特徴である機能に目を向けさせるのだと思います。
「作れば売れる」から「伝える」へ
だが、今、機能だけでは物は売れない時代に入りつつある。
水野 機能を重視するのは良いことで、当たり前のことです。でも、日本は少しそこに依存しすぎているところがあります。
著述家の山口周さんが言っているように、役に立つ、つまり機能を満たすのは当然やったうえで、そこにストーリーや世界観(そのブランドらしい、一貫した世界の見え方)という「意味」を、同時に乗せていくことで価値が生まれる。それこそがこれからの日本のデザインや企業文化にとって大切なことでしょう。
臼井 先日、コペンハーゲンのデザインの祭典「3 Days of Design」で、デンマークの家具ブランド、フリッツ・ハンセンの本社を訪ねたのですが、過去の資料(アーカイブ)をきちんと残していて、自分たちの歴史をとても大切にしている。日本人は新しいもの好きで、どんどん前に進みたがるところがあります。本当は振り返ってみると、過去に価値あるものがたくさんあるのに、そうしたものを大事にしていない。実は特に海外へ発信するときには、それを大事にするべきでしょう。
そんな臼井氏も、元々は機能重視のものづくりをする環境に置かれ悩み、水野氏に助けを求めたことから二人の縁が始まったという。
臼井 もともと僕は、製品そのものの形をつくるプロダクトデザインの出身で、「いい商品を作れば売れるはず」というメーカーの価値観がありました。メーカーでは、作り手の思いのうち、機能的なところだけが次の担当者へとバトンタッチされて、その背後にあるストーリーや、お客さんに届けたかった思いは、なかなか伝わることがありません。商品の魅力をどう伝えるか――コミュニケーションデザインの役職を担うことになったとき、知見も何もなくて、水野さんに相談したんです。そうしたら真っ先にこう言われました。「伝えたいことばかり言っていて、相手が知りたいことを、語っていないですよね」と。
ものの価値を使う人が知りたいと思うストーリーとして届ける。この「ブランディング」の視点が、日本の多くの企業には欠けているというのが、今では二人の共通の認識だ。
入社後、A V機器や家電のデザインを担当し、その後、中国・上海デザインセンター立ち上げや家電デザインの変革に尽力。現在はパナソニック ホールディングスのグループCCOを務める、臼井重雄氏。
ブランディングの正体
では、「ブランディング」とは何か。誤解されがちなこの言葉を、水野氏は捉え直す。
水野 日本人はブランドというと、高級ブランドを思い浮かべるか、作り手側なら、マークを作ってあちこちに貼っていくようなイメージです。でも、まったくそういうことではありません。徹頭徹尾、すべてにこだわり抜いて、ストーリーを乗せ、世界観を作り上げていくことなんです。ポルシェやロレックスのカタログを見ると、その徹底ぶりがよくわかりますよね。本来なら、これは日本人が得意なことでした。でも、戦後の高度経済成長を超えて大量生産・大量消費の時代に入る中で、それが失われてしまった。物を作れば売れる時代だったので、難しい世界観を守るとか、ストーリーを組み立てるといった考え方が、いらなくなってしまったんだと思います。
でも今は違います。今、成功している企業を見渡してみるとトヨタが生み出したレクサスのように、デザインやブランディングを捨ててこなかった企業こそが光り続けている気がします。
臼井 ブランドやデザインが入ると、会社側の目線だけではない、お客さんや社会がどう見るかという視点に目が行くようになる。安く、効率的に、生産性高く、という会社の論理だけではない視点です。だから、時に社内ではひどく面倒がられます。本当は価値(バリュー)の話をしているのに、費用(コスト)だと受け取られてしまうことが多いんです。世の中は、価値を大事にする時代と、生産性・効率化が大事という2つの時代の波があって、その2つの波をうまく乗り越えていくことが大事だと感じています。
水野 ただ、企業には税務上、一年ごとに区切りが来る。決算や株主総会も含めて、一年、あるいは四半期という単位で成果を見なければならない。これは、時間をかけて積み上げるブランディングにとっては、あまりプラスにならない。会社の価値を短期で見るのか、長期で積み上げていくものとして見るのかの2つの視点を持つことが重要だと思っています。
プライベートでも交流がある二人の会話には、信頼感と思いやりの心が溢れている。
見えない進化 ── 変わらないために変わる
では、海外の人たちの心に響く日本のデザイン、ブランディングとはどんなものなのか。
臼井 今回、Premium Japan Awardの審査をしていて強く感じたのは、「変わらずにあり続けるものは、実は変わっている」ということです。テレビである俳優さんを見て家族が、ふと「昔から変わらずきれいね」と言ったとき、当時中学生だった長男が「変わっているから、変わっていないんだよ。何もしなければ老化していく」と言って「良いことを言うな」と思ったことがあるのですが、伝統工芸で「今見ても良い」と思われているものは、実は昔と見比べるとすごく変わっている。
京都の茶筒の老舗・開化堂さんは、筒に蓋をのせると自重で静かに閉まることが有名ですが、昔はその蓋が落ちる時間が4秒だったそうなのですが、今の人はせっかちで4秒も待てないので、現在は3秒に縮めているそうです。職人さんが手で微調整するだけで、その速さを変えられるのも凄いですが、時代を超えて続いているものは、このようにちゃんと変化を続けています。
同様にテクニクスのターンテーブル(レコードプレーヤー)「SL-1200」は、外観こそ昔からほとんど変わっていないんですが、中の部品は大きく変わっています。精度を上げて、見えないところで進化させているんです。
その変化を見極めるのが、審査でもとても大事だと感じました。
ちなみにオーディオやカメラ、時計は、中国や韓国がなかなか参入できないカテゴリーとなっています。和光さんにグランドセイコー スタジオ雫石を見学させてもらったときも驚きましたが、職人さんが、ゼンマイやネジやバネなどミクロの世界でちゃんと仕事をしているんですよね。
水野 そうですね。腕時計こそ文化の塊ですよね。スマートフォンやApple Watchもある時代に、(機械式)腕時計がもたらす機能は「時間を計る」ことにほぼ集約されている。それにも関わらずいまも人々を強く惹きつける。デザインが、機能だけでなく、装飾や文化、時間の積み重ねに対しても意味を持つ。
「変わらずにあり続けるものは、実は変わっている」と言う文脈で言えば、僕は京都がその好事例だと思います。行くたびに違う街になっていると思うくらいに、見えにくいところが絶えず更新されていると感じます。
AIの時代と「問いを立てる力」
見えない進化を支えてきた作り手の営みに、いま大きな変化が押し寄せている。AIだ。
臼井 AIが入ってきて、デザインやブランドといったクリエイティブの領域は、思った以上のスピードで変わりますよね。厄介なのは、AIが「それらしいけれど、どこか変なもの」を、そこそこ作れてしまうこと。専門性のある人は「これはおかしい」とわかるけれど、ない人には同じように見えてしまう。そういうものが世の中に氾濫してくると、正直、恐ろしくなる。お金も人も足りない地方などでは、すでにそうしたものが溢れ始めているとも聞きます。
水野 グラフィックは、AIで結構、手軽に作れてしまう。プロダクトはまだ、完成品まで仕上げるのが難しいので、AIには壁がある。ただ、作ることがどんどん簡単になっていく分、そこから何を「選ぶ」のか――良し悪しを見極める審美眼が、これからめちゃくちゃ重要になってくると思います。
臼井 自分はモノを作る時、ただ流れに合わせて突っ走るのではなく、「自分たちが本当に行きたい場所」から逆算して、それをどう作るのかを考える「バックキャスティング」を大事にしています。そうしないと、変なところに流れ着いてしまう。僕はもともとこの逆算型だったので、水野さんの本を読んだ時、考え方がすごく似ていると感じました。
水野 「何が売れるか」から考えると、たいしたものは生まれない。どんな世の中にしたいか、どんな暮らしを変えたいか――大きな志(大義)から逆算して作ったものほど、長く売れ、長く求められることが多いと信じています。
この「逆算」と「世界観づくり」を、日本人ははるか昔から実践してきた、と水野氏は葛飾北斎を例に語る。
水野 葛飾北斎は、現実と想像の間にあるものを描いているんですよね。有名な「神奈川沖浪裏」の、あの大波。実際にはあんな光景は見られない。想像の中に現実を溶け込ませ、独自の世界観を立ち上げている。こうした世界づくりは、日本人がずっと続けてきた伝統文化で、その本質はエンターテインメントなんです。作り手が「言いたいこと」ではなく、受け手が「見たいもの・知りたいもの」を差し出したものが、流行り、残っていく。AIには立てられない「問い」を立てる力――そこに力を注げるのは、まだしばらくは人間なのかなと思っています。
「耐久性」という強度
最後に、これからのPremium Japan Awardの受賞者・候補者へのアドバイスを求めると水野氏は「耐久性」という言葉を挙げた。
水野 求められるのは、自分を表現したい人よりも、人に求められるものを作ろうとする人のほうだという気がします。僕は最近、「耐久性」という言葉をよく使うんです。
世の中には耐久性ではなく、瞬発力で成立するものもあります。例えばセールのチラシは瞬発力が大事です。その代わり長持ちはしません。
これに対して、文化について考える場合、長く生き延びる「強度」のあるもののほうがいいと思います。それは多くの場合、静かで動きの少ないデザインだと思っていますが、北斎のように派手で動的なのに長く残るものもある。僕はそれを「モンスター」と呼んでいます(笑)。
何百年も使われ続けるザルや金槌、あるいは着物のように、見飽きない・使い飽きない、必要とされ続ける長さ。その「強度」こそが、Premium Japanの評価軸の一つになるんじゃないかと思います。
臼井 そうした良いモノをしっかりと見極めて世界に発信していきたいですね。
水野 学 Manabu Mizuno
good design company代表。クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント
1972年東京生まれ。長期的なブランド戦略を軸に、コンセプト設計から企画開発、グラフィック、プロダクト、空間、広告宣伝まで、領域を横断したトータルディレクションを手掛ける。主な仕事にパナソニック、相鉄グループ、熊本県「くまモン」、三井不動産、HOTEL THE MITSUI、JR東日本「JRE POINT」、中川政七商店、Oisix、久原本家「茅乃舎」、黒木本店、再春館製薬所「ドモホルンリンクル」ほか。国内外で受賞歴多数。著書に『もう、時間に追われない。 逆算時間術』(ダイヤモンド社)『センスは知識からはじまる』『世界観をつくる「感性×知性」の仕事術』〈山口周氏との共著〉(共に朝日新聞出版)など。
臼井重雄 Shigeo Usui
執行役員 グループCCO(兼)ブランド・コミュニケーション戦略グループ長
1967年静岡生まれ。1990年 松下電器産業(現パナソニック)に入社し、AV機器や家電のデザインを担当。中国・上海デザインセンター立ち上げ、現地発のデザインを生み出す組織へと成長させる。2021年 執行役員に就任し、パナソニックグループのデザイン経営を主導。2026年1月よりグループCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)としてデザイン、ブランド・コミュニケーション領域において、一気通貫した戦略を構築するとともに、企業価値を高める役割を担う。
Photos by Toshiyuki Furuya
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JCCO
PREMIUM JAPAN AWARD
日本文化発信機構 JCCOが目指すもの
PREMIUM JAPAN AWARD
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Features
閉館後の美術館を舞台に「真夜中の学芸員」を体験
2026.7.9
「TOKYO NODE GALLERY」でナイトミュージアム企画を開催
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⻁ノ⾨ヒルズ ステーションタワー8階・45階の「TOKYO NODE」で、没入型体験イベント「どこか奇妙な職業体験 真夜中の学芸員」が、7⽉24⽇(⾦)から開催される。
“奇妙な”職業体験の舞台となるのは、同ギャラリーで開催中の、マルチメディアアートの巨匠・トニー・アウスラー氏による大規模個展『トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま〜魔術、メディア、アート〜』の閉館後の会場だ。
参加者は、片手に⽩⼿袋をつけ、真夜中の学芸員として、通常の作品点検はもちろん、『動き出す展⽰物』や『瞬きをする肖像』など、おかしな美術品を巡回しながら、いつの間にか、不思議なことに巻き込まれていく。
⼈間の知覚の危うさを問うアウスラー作品のテーマを体感しながら、昼間の鑑賞では味わえない圧倒的な⾮⽇常感と緊張感を楽しめる没入型体験イベントだ。
あなたも、ワクワク感に包まれた「どこか奇妙な」職業体験を楽しんでみてはいかが。
◆どこか奇妙な職業体験 真夜中の学芸員
【期間】2026年7⽉24⽇(⾦)〜8⽉30⽇(⽇)の⽊曜⽇〜⽇曜⽇(7⽉30⽇(⽊)を除く)
および8⽉10⽇(⽉)〜8⽉12⽇(⽔) ※計25⽇間
【会場】⻁ノ⾨ヒルズ ステーションタワー8階・45階TOKYO NODE (東京都港区⻁ノ⾨2-6-2)
【公演】⽊曜18:45〜、⾦曜・⼟曜19:45〜、⽇曜18:45〜(各回制/所要時間 約75分)
※8⽉10⽇(⽉)〜8⽉12⽇(⽔)は⽊曜・⽇曜の公演時間に準ずる
【料金】4,500円(税込み)※トニー・アウスラー展⼊場料2,400円を含む
※詳細は公式サイトを要確認
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Features
エルメス財団、夏のオープンクラスを開催
2026.7.7
「金属に学ぶ、五感で考える:夏のオープンクラス」
Leonor Serrano Rivas, Installation view of Here Be Dragons , 2025
Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Photo: Andrea Rossetti
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エルメス財団が展開するスキル・アカデミーでは、7月15日(水)から8月16日(日)まで、「金属に学ぶ、五感で考える:夏のオープンクラス」を、東京・SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)で開催する。展覧会やワークショップ、トークイベントを通して、金属という素材が持つ魅力や可能性を、多角的な視点から体感できるプログラムだ。
Leonor Serrano Rivas, Where We Expect to Find Flowers n3, 2025
Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Photo: Roberto Ruiz
スキル・アカデミーは、⾃然素材に関わる職⼈技術や⼿わざを伝承、拡張、共有することを⽬指すエルメス財団のプロジェクト。日本では2021年より活動をスタート。展覧会やワークショップなど様々な体験を通じて、素材の組成や技術、⽂化などを多⾓的に探究している。
Leonor Serrano Rivas, Installation view of Here Be Dragons , 2025
Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Photo: Andrea Rossetti
Sayaka Shimada, Fireworks for another world that never came, 2022
©Sayaka Shimada
今回のテーマは、私たちの暮らしに欠かせない「金属」。 会場では、レオノール・セラーノ・リヴァス、Playfool、島田清夏の3組のアーティストによるグループ展「結合」を開催。⾦属と対話を⾏う彼らの実践を通じて、⾦属と⾝体の連鎖的な「結合」の在り⽅を探っていく。
Playfool, Installation view of a re(imitation) of Life , 2024
Courtesy of the artist
Photo: Naoya Toita
また、鍛金によるジュエリー制作を体験できる抽選制のワークショップやガイドツアー、アーティスト・トークなども用意。見るだけではなく、触れ、考え、手を動かすことで、金属への理解をより深められる構成となっている。
Sayaka Shimada, R9+C9QP , 2020
Courtesy of the artist
Photo: Great the Kabukicho
さらに、今春に中高生を対象として実施されたワークショップの成果展示も同時開催。参加者たちが素材と向き合いながら体験を通じて紡ぎ出された言葉、各ワークショップの映像記録を通して、ものづくりが持つ創造性や学びの広がりを感じることができる。
Leonor Serrano Rivas, Where We Expect to Find Flowers n17 , 2025
Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Photo: Roberto Ruiz
青銅器時代から⼈類の⽂明と共に歩んできた⾦属という素材、アートや職人技術の視点から見つめ直すイベント。五感を使って素材と向き合うことで、ものづくりの精神に触れ、素材の本質に迫ることができるはずだ。
◆スキル・アカデミー「⾦属に学ぶ、五感で考える:夏のオープンクラス」
【会期】2026年7⽉15⽇(⽔)~8⽉16⽇(⽇)
【開館時間】11:00~19:00
【休館⽇】⽉曜⽇・⽕曜⽇ ※ただし、7/20(⽉・祝)、8/11(⽕・祝)は開館
【会場】SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)東京都葛飾区⻄⻲有3-26-4
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投稿 「金属に学ぶ、五感で考える:夏のオープンクラス」 は Premium Japan に最初に表示されました。
Lounge
Premium Salon
アート探訪記~展覧会インプレッション&インフォメーション
2026.7.6
銀座・和光「硝子と陶 五人展 しじまに奏でる」
右から 森岡希世子「透雲」径12.4×高さ34cm 松村 淳「ひとひらの風景-夕暮れの窓辺に佇む-」4×11.4×高さ12cm 中野幹子「夏草」径22×高さ6.5cm 浜野まゆみ「染付桐紋中次」径6×高さ6.5cm 渡辺ゆう子「気配の花影」径16×高さ22cm
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セイコーハウス6階 セイコーハウスホールで、「硝子と陶 五人展 しじまに奏でる」が開催されています。「しじま」とは静まりかえっていること。思わず手に取りたくなるような愛らしい器、凛とした緊張感を纏った器、極小の世界に広がる不思議な色彩……。五人の作品は確かに静寂の中に佇んでいるようですが、静寂とともに、確固たる技術に裏打ちされた、たおやかな美しさを内包しています。
硝子キューブの奥に広がる、幻のような、でもどこか懐かしい風景 ──松村 淳──
視線を低くし、横からのぞき込みます。何かが見えてきます。それは遠くの山並みであったり、夜空に浮かぶ月であったり、夜明け前の空だったり、時には淡い色彩の重なりだったりします。幻のような、でもどこかで見たことのあるような、懐かしく郷愁すら誘う風景。
「ひとひらの風景」。松村淳さんが手がける作品には、どれもこの共通した作品名が冠され、さらにそれぞれ「夜明け前」「朝もやの残月」といった、描かれた風景を彷彿とさせる個々の名前が付けられています。
薄い板ガラスに着色し、それを何枚か接着
松村さんの作品は、窓ガラスにも使用される板ガラスを何枚も接着して重ね合わせる、一般的には「積層ガラス」という手法が用いられています。一枚の板ガラスの厚さは2mmから10mm。その一枚一枚に色鉛筆で着色し、それを接着剤で何枚か重ね合わせることで、懐かしく不思議な景色が浮かびあがってきます。ガラスを重ね合わせる技法は従来から存在していましたが、色鉛筆で一枚一枚に着色するのは、松村さんが編み出した手法です。
「ひとひらの風景―夜の風に吹かれる―」 3.3×17×高さ10cm
「どんな色を用いて、それをどのよう重ねれば、どのような風景になるか。最初のうちは試行錯誤の連続でした。今ではなんとなく掴めてきましたが、着色する前に一枚一枚のガラスの表面にダイヤモンドホイールで入れる凹凸の具合や、接着する前と後で色調や透明感が微妙に変わってくるので、その微調整が難しいですね」
「刻々と変わる空の色が好きで、それを作品の中に閉じ込めたい」
作品に描かれるのは主に夜明けや朝の景色。そして色合いは藍、青、浅葱など、ブルー系。
「朝早く起きて制作することが多いのですが、夜明け前の真っ暗な夜空がだんだんと白みはじめ、紺青から藍、そして青へと変化し、そこに朝焼けの橙色や茜色が混じり始める。その刻々と変わる色の移ろいが好きで、それを作品の中に閉じ込めたいと思っています。また、自分の記憶のなかには、かつて見た美しい風景が鮮明に残っています。その美しい風景を、作品を通じて蘇らせたいという思いもあります」
作品はどれも小さく、最小のキューブのものは約3.5cm四方。この極小の空間のなかに、不思議な奥行と遠近感を持つ風景が広がっています。しかもその不思議な奥行のなかに、いくつもの物語がふわふわと漂っています。もしかしたらそれは夢の中で見た、懐かしい風景かもしれません。
右から「ひとひらの風景―道草の風―」「ひとひらの風景―夜明け前―」「ひとひらの風景―たゆたうみなも―」「ひとひらの風景―朝もやの残月―」4点ともに3.5×3.5×3.5cm
「どんな風景を描こうか。それを頭の中でいろいろ構想するのが、楽しくも大変な時間です。色鉛筆で描く線の細さを調整するのも大変です。また、私の作品はどうしてもブルー系の色調が多くなりがちですが、今後はピンクや黄色などの華やかな色も使っていきたいと思います」
心の中に永遠に棲み続ける「ひとひら」の重なり
「ひとひら」とは、花びらや木の葉など、小さくて薄く平たいものを指し示す言葉。そして淡く消え去っていく語感も備えています。薄いガラスを重ねた松村さんの作品は、確かにいくつもの「ひとひら」が集まったもの。しかし、それが醸し出す風景は心の中に永遠に棲み続けます。
作品が発する「内なる力」 ―森岡希世子―
「内側からの力です」
作陶にあたり、一番大切にしている点を尋ねた際の森岡希世子さんの言葉です。内側の力とは……。
「作品のフォルムが自ら発する力、張りのようなものでしょうか。作品の大小に限らず、張り詰めた緊張感を湛えた形です」
回転する轆轤(ろくろ)を巧みに操ることで森岡さんの作品は生まれます。金沢に生まれた森岡さんは、若くしてデンマーク国民美術大学校に留学。そこで陶芸と出会い、帰国後は地元の窯元で轆轤師として働き、轆轤の技術を徹底的に学びました。
森岡さんによると、轆轤は仕上げるスピードが命だそうです。
「土の“生き”がよいうちに、挽きあげないとダメなのです。粘土にコシがあるうちに成形してしまわないと、時間がたつと粘土そのものがダレてしまい、内側からの力を引き出すことができなくなってしまいます。コシがあるうちに成形したものは、焼いてもその力強さが残ります」
思い描いているフォルムに向かって、一気呵成に挽きあげる
思い描いているフォルムに向かって、一気呵成に挽きあげる、その高度な技術が、森岡さんの作品が持つ「内側からの力」を生み出します。「透雲」と名付けられた、高さ30cmほどの作品だと、轆轤に向かっている時間は15分。
器の形状に比べて思いのほか小さいのが上部の口。しかし、この口があることで、張り詰めた力がそこから解き放たれていくような、心地酔い解放感が生まれます。張り詰めた緊張感とその解放。この絶妙な組み合わせが、森岡さんの作品の真骨頂のひとつです。
作品名はいずれも「透雲(鶴首)」 右 径9.5×高さ27cm 左 径8.5×高さ22cm
轆轤の緊張感と磁肌や色調の優しさ
作品は釉薬を用いず、高温で焼きしめた後に磁肌をヤスリで削って仕上げられています。釉薬が使われていないので、触れると指先にしっとりとした優しい感触が残ります。そして、マットな白の色合いが、やはりどこまでも優しく響きます。花器のような一品もののほかに、森岡さんは日常使いとしての茶器、ティーポット、ティーカップなども手掛け、そうした器は人気を博しています。轆轤の緊張感と磁肌や色調の優しさ。並走する二つの要素が、人気の要因と言えるかもしれません。
作品名はいずれも「透雲(ポット)」 右 径9×高さ9.5cm 左 径8×高さ8.5cm
そこはかとなく漂う、薄墨の雲
マットな白が森岡さんの作品の基調ですが、薄墨の雲が、そこはかとなく白の世界に忍び寄っているような作品も手掛けています。
「技法的にいえば、『炭化焼成』という手法です。サヤと呼ばれる筒状の耐熱器の中に籾殻などと一緒に作品を入れて焼成します。焼成温度と籾殻の量によって、薄墨の濃さやそれが器にかかる位置が変わってきます。ある程度は目途がつくようになりましたが、サヤから出すまでは、どのような景色となるかはっきりと分からないところが、面白い部分でもあります」
轆轤師としての矜持(きょうじ)
薄墨がかかったような景色は、光の当たり具合によって変化する影のようにも見え、その景色は器が持つ「内なる力」を優しく覆う薄衣となります。
「今は張りと緊張感を大切にして轆轤を挽いていますが、もう少し歳を重ねると、あえて緩く挽く、ということにも挑戦したくなるかもしれません。緩く挽くのもそれはそれで難しいのでないかと思っています」
そんな森岡さんの言葉には、轆轤を回し土と向き合ってきた、計り知れない時間の積み重ねが生んだ、轆轤師としての矜持がにじみ出ていました。
ガラスに描かれた、可憐な野の花 ―中野幹子―
可憐に花開く草花と葉脈まで透けて見える葉、琳派の作品を思わせるような秋草。
中野幹子さんのガラス器には、日本の野山を彩る植物が描かれています。描線はどこまでも細く、その一方で瑞々しく華やかな色彩が目に飛び込んできます。
「最初は油絵から入り、その後、銅版画をイタリアの専門学校で勉強していた時に、ステンドグラスを手伝うようになりました。それがガラスとの出会いです。イタリアのステンドグラスはガラスを組み合わせるだけではなく、宗教画や果物を描くような絵付けも多く、そこでガラス絵付けを学びました。同時にガラスそのものにも興味を持つようになり、ガラスの学校に入って吹きガラスを習い、生活で使う日常の器を作り出す面白さに気付きました」
絵付けを施してからガラスを吹く
絵画から銅版画、さらにステンドグラスとガラス絵付けを経て吹きガラス。中野さんが作り手として歩んできたこの道程が、作品に凝縮されています。作品の背景に存在するのはこの道程だけではありません。実は、中野さんの祖母と母は茶道の師範で、中野さんも幼いころから茶の湯の世界に親しんできました。作品の根底に流れている「日本らしさ」は、こうした経験が少なからぬ影響を及ぼしています。
絵付けに用いられるのは、1000度近い高温にも耐えられる、耐火エナメルという塗料の一種。ガラス絵付けという技法は、日本でもまったくなかった訳ではないそうですが先駆者は少なく、「試行錯誤の連続でした」と中野さんは言います。
その試行錯誤の連続のなかで、中野さんは独自の技法を編み出しました。それは、描かれた植物を子細に見つめるとわかります。細い茎や薄い葉の描線が、微妙に揺らいでいます。そして僅かに膨らんでいるようにも。この揺らぎや膨らみは、絵付けを施してからガラスを吹くことによって生まれます。
吹くことで、揺らぎ膨らみ始める草花たち
「絵付けの作業とガラスを吹く作業。どちらも好きですが、作業に要する時間を必要とするのは圧倒的に絵付けです。相当な時間をかけて絵付けしたものが、吹く作業のミスで割れてしまうこともあります。そんな時はとても悲しいですね。玉子くらいの大きさに一度成形したものに、それから絵付けして再び吹くことでガラス自体が膨らみ、自分が思い描いていたものとは異なる表情に仕上がります。それが面白いのです」
右から 硝杯 「矢車菊」 径7×高さ5.3cm 硝杯 「山藤」 径5.5×高さ5.5cm 硝杯 「十薬」径7×高さ5.5cm
「硝杯」と名付けられたこれらの作品は、内側が透明ガラス、外側は乳白色ガラスの二層となっています。線刻によって絵付けされているのは乳白色のガラスの方で、同じ植物でも内側と外側では見え方が違ってきます。それも魅力のひとつ。
織部茶碗にも通じる、軽やかな歪み
この碗で薄茶を点てたら。そんな光景を想像したくなるのが、硝碗「山紫陽花」です。透明ガラスに緑の薄茶が映え、その薄茶を山紫陽花が彩る。さぞ美しい光景が生まれるに違いありません。この碗は正円ではなく、「口造り」と呼ばれる碗の縁の部分が微妙に歪んでいます。その歪みは、織部茶碗に通じる歪み。
均質で整頓された美を好む傾向にある西欧で学びながらも、時に揺らぎ、時に歪む中野さんの草花たち。そこには紛れもなく、日本が大切にしてきた美意識が流れています。
硝碗「山紫陽花」径11×高さ6.8cm
お話を伺った3人の作家のほかに、今回の展覧会に出品しているのは以下の2名の方々です。
渡辺ゆう子さん 浜野まゆみさん
渡辺ゆう子 花吹雪 径20.5×高さ18cm
渡辺ゆう子 右 FLOWER CLOUD 縦13×横19.5×高さ3cm 左 花の蓋物 径7.5×高さ9.5cm
浜野まゆみ 染付花尽紋水指 径12.5×高さ16.5cm
浜野まゆみ 赤絵丸紋瓢形皿 五枚組 縦13.3×横13.6×高さ2.2cm
◆アート探訪記~展覧会インフォメーション
硝子と陶 五人展 しじまに奏でる
会期:2026年7月2日(木) 〜 2026年7月12日(日)
時間:11:00 – 19:00 最終日は17:00まで
- 場所:セイコーハウス 6階 セイコーハウスホール
取材・構成 櫻井正朗 Masao Sakurai
『婦人画報』元編集長代理。陶芸や漆芸など、日本の伝統工芸をはじめ、茶道や歌舞伎などさまざまな日本文化の取材・原稿執筆を担当する。現在ではフリーランスの編集者として、書籍、雑誌、広告制作に携わる。「プレミアムジャパン」では主に伝統工芸・旅行関係の記事を執筆。
写真 名和真紀子 Makiko Nawa
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Features
世界有数のピカソ・コレクションが来日。「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」
2026.6.26
ピカソとポール・スミス、時代を超えた遊び心の共演
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東京・六本木の国立新美術館にて、「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」が開催中だ。
20世紀を代表する芸術家パブロ・ピカソの作品を、英国を代表するデザイナー、ポール・スミスによる会場構成とともに堪能できる本展。世界有数のピカソ・コレクションを誇るパリ国立ピカソ美術館の所蔵作品が並び、これまでにない鑑賞体験を楽しめる。
会場には、青の時代を代表する《男の肖像》や、《アルルカンに扮したパウロ》をはじめ、絵画、彫刻、陶芸作品など約80点が集結。それらが緩やかな時系列に沿って展示される。
本展を特別なものにしているのが、ポール・スミスによる会場構成だ。2023年に開催された大規模なピカソ展でもアートディレクションを手がけた彼は、セクションごとに全く異なるコンセプトを展開。鮮やかなストライプや大胆な色彩、ユーモアに満ちた空間演出によって、ピカソの作品を新たな視点から見つめ直すことができる。
日本では国立新美術館のみでの開催となる本展。伝統的な絵画の概念を覆し続けたピカソと、「ひねりのあるクラシック」を追求してきたポール・スミス。時代もジャンルも異なる二人のクリエイターが響き合う空間で、ピカソの新たな魅力に出会ってみてはいかがだろうか。
※画像はすべて「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」国立新美術館 2026年 展示風景
◆ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ
【会期】開催中~2026年9月21日(月・祝)
【休館日】毎週火曜日
※ただし8月11日(火・祝)は開館、8月12日(水)は休館
【開館時間】10:00~18:00
※入場は閉館の30分前まで
※毎週金・土曜日は20:00まで
【会場】国立新美術館 企画展示室2E(東京都港区六本木7-22-2)
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