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アート探訪記~展覧会インプレッション&インフォメーション
2026.2.1
銀座・和光「第2回 いしかわの工芸 漆と陶」 若手作家の新たな息吹も加わり、見どころも増した2回目の展観
右・水尻清甫 沈金乾漆盤「海原」⌀40 ×h3.5㎝ 左・????田幸央 金襴手彩色鉢 ⌀52 ×h13㎝
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石川県を襲った震災から2年以上の歳月が流れました。月日が経つにしたがい、石川の現状を伝える報道は、次第に少なくなってきましたが、爪痕はまだまだ残っているのが現状です。そうした厳しい環境下で、制作活動を続ける県内の漆芸家と陶芸家の作品が、昨年に引き続き、再びセイコーハウス6階を彩っています。2回目となる「いしかわの工芸 漆と陶」。それぞれの作品には、逆境のなかで、真摯に作品と向かい続けてきた作家の方々の、不屈ともいえる「ものづくり」の魂が宿っています。
ようやく、少し落ち着いてきた。それが現状
「風土と人の温もりが息づく作品に、再生と希望の光を感じていただければ幸いです」とのメッセージを、展覧会リーフレットに寄せているのは、陶芸家の????田幸央さん。昨年に引き続いての参加です。
「珠洲や輪島の惨状に及ぶべくもありませんが、私の地元の加賀地方でも、焼物は随分割れました。私の工房でも相当な被害が出ました。一時は物作りどころではありませんでしたが、ようやく少し落ち着いてきた、というのが現状です」
そう語る????田さん。????田さん によれば、今回の展覧会には、若手の作家も新たに加わっているとのこと。その一人が、漆芸家の中室惣一郎さんです。
静止画なのに動画に見える。そんな加飾を目指して ──漆芸 中室惣一郎──
尾びれを揺らめかせながら、今にも泳ぎ出しそうな金魚たち。どこからともなくやって来て、いつのまにか張り付いている雨蛙。睦まじく寄り添い水面を漂う鴛。中室さんの作品には、精緻に描かれた生き物たちが、その生を謳歌しています。
「生きもののその次の動き。その動きが目に浮かび、おのずと見えてくる。静止画なのに動画のような動きを感じていただければ、と思います」
さざめく水面、金魚の尾ひれ、水底の煌めき。すべてが揺らめいているかのよう。蒔絵楕円盆「ゆらめき」(部分)
生き物のスケッチは、写真などの図版を参考に描くことが多いものの、金魚は実際に飼ってみたそうです。
「水槽を眺めていると、金魚たちの動き、とくに尾びれのゆらめきが面白く、それを映像の一場面のように表現してみたいと思いました」
中室さんの思いは見事に結実。3匹の金魚は、蒔絵で表現された水面からこちらに向かって、ぷっくりと顔を出してくるかのようです。
・蒔絵楕円盆「ゆらめき」税込¥825,000 45cm×24cm
・蒔絵盒子「蓮蛙」 税込¥396,000 直径6cm
遊び心をふんだんに生かした、物語りのような絵付け
「漆器は実用という点から考えれば、加飾のない方が使い易く、ある意味では一番です。そんな漆に加飾するのですから、エンターテインメントというか、遊び心をふんだんに用いて、物語性のある絵付けをした方が楽しいのでは、そんなことを思いながら、漆に向かっています」
幼いころから描くことが何よりも好きだった中室さん。
「たまたま漆の家に生まれたので漆に絵付けをしていますが、そうでなければ、やはり何かに描くことをしていたと思います」と中室さんが語るように、中室家は輪島で「輪島屋善仁」の屋号で、200年以上続く輪島塗の製造・販売を手掛ける老舗です。
漆を家具や調度品にも用いて、「輪島屋善仁」が手掛けた再生古民家「塗師の家」が全焼したのをはじめ、本社工房や店舗、倉庫も大きな被害を受けました。
「輪島の漆産業が受けた被害は甚大なものでしたが、少しづつ回復しています。若手の作家も頑張っていますので、ぜひこれからの輪島にも注目してください」
中室さんが描く、生命力に満ちた生き物たちも、輪島の町が復活するのを待っています。
色と金彩を追い求めて辿りついた「金襴手彩色」の技法 ──陶芸 ????田幸央──
紫、緑、黄、ピンク……。それぞれの色はどちらかといえば、薄くはんなりとした優しい色です。水彩画のような薄く優しい色は、色と色が重なることにより、次第に重みを増し、中世のフレスコ画を思わせる重厚な響きを醸し出してきます。
光の加減で煌めく金が、抽象的な色彩の集積に荘厳をもたらしています。でも、西欧風ではなく、むしろどことなく和を感じさせる、そんな不思議な色彩を纏った焼物。それが????田幸央さんの作品です。
????田さんは、120年の歴史を持つ九谷焼の上絵付け工房「錦山窯」の4代目。「金襴手」と呼ばれる色絵金彩の上絵付け工房として発展してきた「錦山窯」に生まれた????田さんは、「色と金彩」を絶えず追い求めてきました。そのひとつの結実が「彩色金襴手」です。
水彩画のような淡い色彩の集積に金彩が加わる。「彩色金襴手鉢」(部分)
「焼物にどのように色を纏わせるか。そんなことをずっと考えてきました。この作品でいえば、使った色は全部で6色。そして8回焼きます。ですので、とても時間がかかります。色の上に色を重ねて焼き、それを窯から出したときにどんな色になっているか、最初は試行錯誤の連続でした。そして『錦山窯』の特徴である金彩をどう表現していくか、それも試行錯誤でした」
????田さんの父、三代目????田美統(みのり)さんは金箔の上に透明な釉をかける「釉裏金彩(ゆうりきんさい)」を探求し、無形文化財保持者(人間国宝)に認定されています。ただ、それをそのまま継承しても、窯としての発展性はなくなってしまう。そう考えた????田さんが辿り着いた技法が、「錦山窯」ならではの金襴手の技法を用いつつ、それを現代的に解釈した「彩色金襴手」でした。
彩色金襴手鉢 税込¥2,200,000 32.5cm×32.5cm×15.5cm
絵付けのイメージをデジタルが手助け。制作のプロセスはあくまでも人間
????田さんの作品には、幾何学的な直線も随処に走り、モダンさを醸しだしています。この直線を生み、絵付けのイメージの手助けとなっているのが、「Tomonami(ともなみ)」。ソニーCSLの研究者と共同開発中のシステムです。
「デジタルとはいってもあくまでも絵付けのイメージを作ってくれるだけ。イメージを作ることにかけては自分でやるより何倍も速く、数も大量に提案してくれますが、デジタルが提案してきたイメージをもとに実際に手を動かすのはあくまでも自分。焼成を重ねる間に、デジタルイメージとは異なる色を重ねていくことも多々あります。人が判断し人が作っていく、という制作プロセスは昔とは変わりません。工芸の意味を失わないテクノロジーの応用が大切なのだと思います」
窯が大切にしてきた伝統の手法に、デジタルを利用した独自の表現を加えながらも、工芸の意味を失わないテクノロジーの応用を考え続ける吉田さん。AIがアートの分野にも浸蝕し始めている昨今、生成AIを用いない????田さんとテクロノロジーの関係は、工芸家たちに多くの示唆を投げかけています。
話を伺った2人の作家のほかに、今回の展覧会に出品しているのは以下の7名の方々です。
【陶芸】柴田有希佳さん 田島正仁さん 多田幸史さん
【漆芸】 浦出勝彦さん 田中義光さん 水口咲さん 水尻清甫さん
また、以下の方々の作品が特別出品として展示されています。
【陶芸】????田美統さん、中田一於さん
【漆芸】前 史雄さん 小森邦衛さん 西 勝廣さん
◆アート探訪記~展覧会インフォメーション
第2回 いしかわの工芸 漆と陶
会期:2026年1月29日(木) 〜 2026年2月8日(日)
時間:11:00 – 19:00 最終日は17:00まで
- 場所:セイコーハウス 6階 セイコーハウスホール
櫻井正朗 Masao Sakurai
明治38(1905)年に創刊された老舗婦人誌『婦人画報』編集部に30年以上在籍し、陶芸や漆芸など、日本の伝統工芸をはじめ、さまざまな日本文化の取材・原稿執筆を経た後、現在ではフリーランスの編集者として、「プレミアムジャパン」では未生流笹岡家元の笹岡隆甫さんや尾上流四代家元・三代目尾上菊之丞さんの記事などを担当する。京都には長年にわたり幾度となく足を運んできたが、日本文化方面よりも、むしろ居酒屋方面が詳しいとの噂も。
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投稿 銀座・和光「第2回 いしかわの工芸 漆と陶」 若手作家の新たな息吹も加わり、見どころも増した2回目の展観 は Premium Japan に最初に表示されました。
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林 信行の視点
2026.1.31
世界の賓客が体験した、万博のもう一つの顔——大阪・関西万博最上級の接遇施設「迎賓館」の全貌
日本の赤をイメージした真っ赤な壁が印象的な迎賓館のダイニングルーム。壁には川島織物セルコンが現代美術作家・川人 綾氏にコミッションして作らせたタペストリーの作品。ここでゲストの好みに合わせて和食、洋食または和洋折衷のランチやディナーが振る舞われた。
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昨2025年の日本を象徴するイベントといえば大阪の人工島、「夢洲」で半年にわたって開催された大阪・関西万博だ。1日平均15.8万人、累計2500万人以上が訪れ、370億円の黒字。40万枚売れた通期パス利用者の平均来場回数は11.8回ということからもその熱狂ぶりがうかがえる。来場者の約8割が「満足」したと答え、9割が「大成功」だったと振り返る、日本の魅力を世界に伝えた重要イベントだった。
話題となった大屋根リングを中心に据えた155ヘクタールの会場敷地には、すべてのパビリオンを制覇した熱心な来場者ですら足を踏み入れられない聖域がいくつかあった。その代表格は、国王や大統領といった賓客だけが招待された美しい「迎賓館」だろう。
同施設での歓待は、ある意味、日本政府が考える今日の日本における最上級のおもてなしと言える。新春企画として、今の日本の最上級とはどんなものだったのかを探ってみたい。
世界中から国王を含む50名近い賓客が万博を訪問
迎賓館の外観は黒。建物全体が高い黒塀に囲まれており、その門は賓客の車が通る時だけ開かれる。外からはほとんど中の様子を窺い知ることができなかった。
184日間の開催期間中、大阪・関西万博には、名誉総裁を務めた秋篠宮皇嗣殿下とそのご家族が開会式や閉会式に参加されたほか、天皇皇后両陛下も2度訪問されるなど、日本の皇室も頻繁に訪問したが、実は世界各国からも数多くの賓客が訪れている。
デンマーク、スウェーデン、オランダやアフリカ南部のレソト王国から合計4名の国王が訪問したのに加え、ルクセンブルクの公爵など国王に準ずる方2名、4名の皇太子、大統領24名、首相15名、国連のアントニオ・グテーレス事務総長など数多くの国賓が訪れた。
主な訪問の目的は、各国パビリオンで開催された毎日1カ国を取り上げてお祝いするナショナルデーへの参加や、その国の祝日などを祝うイベントへの参加だ。
ちなみに最初のナショナルデー(万博開幕2日目の4月14日)に選ばれたのはトルクメニスタンで、式典にはセルダル・ベルディムハメドフ大統領が来日。後に人気パビリオンの1つとなったトルクメニスタン館は、同大統領の視察終了を待ってから一般公開されたという。
一般公開されなかった聖域「迎賓館」
自然の光や風を取り入れることで「日本の美」を表現した迎賓館。円環状(ドーナツ型)の施設の中央には柳の木が1本だけ立つ大きな水盤があり、そこにその日の空模様が映し出されていた。
さて、こうした賓客が隊列の車に乗って万博会場に着くと、真っ先に案内されたのが「迎賓館」だ。
万博会場の中で最上級の施設に位置付けられ、ボストン総領事や、外務省大臣官房総括審議官兼欧州局大使なども務めた引原毅氏が館長を務めた。天皇陛下を含む日本の皇室や上記した賓客以外にも各国のナショナルデーのために派遣された代表団などがこの施設を訪れている。
万博マップには描かれていなかったが、場所は開会式や閉会式を始め、数多くの式典やコンサート、舞台パフォーマンスが行われた「EXPOホール(愛称:シャインハット)」のすぐ隣にある「EXPOナショナルデーホール」の真裏にある。通常のパスでは建物の周囲に近づくこともできないが、スタッフ証を持っていても建物の周囲が高い黒塀で覆われており中を覗くことはできなかった(ただし、実はEXPOナショナルデーホール屋上の展望施設からは見下ろすことができた)。
サッカー場の約3分の2ほど、約4600平方メートルの敷地に建つ、ガラスとコンクリートで作られた円環状(ドーナツ型)の施設。中心には柳の木が1本だけ立つ大きな水場があり、そこに広い空が映し出されていた。自然の光や風を取り入れることで「日本の美」を表現したのだという。設計は日建設計、建設は大林組と大池建設工業が担い、大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーで大屋根リングも手掛けた藤本壮介氏が監修した。
賓客を迎える一日の流れ
賓客を迎える車は日欧の高級車やEVミニバスなどを用意。万博開催年に合わせたミャクミャクがあしらわれたナンバープレートなどが用意された。
迎賓館を訪れた賓客たち。まずは代表者がこの席に座り記帳を行った。
ナショナルデーの開催は午前と午後の2パターンがあるが、ほとんどの国は午前に訪れていたという。11時に式典開始というスケジュールが固定されているため、多くの来賓は10:30頃に、政府が用意した車でこの迎賓館に到着した。
国によって訪問する人数や好み、ニーズが異なるためミニバスやミニバン、セダン、SUVなどの12台の車が用意された。車種はトヨタのアルファードとヴェルファイア、日産のセレナ、ホンダのオデッセイといった国産車に加え、BMWのi7やレンジローバー。そして、EVモーターズ・ジャパンとアルファバスジャパンのEVミニバス。アルファバスジャパンとEVモーターズ・ジャパンによるEVバスなどで、EVモーターズ・ジャパンのミニバスは今回の万博のためだけに用意された特別車だという。
賓客が空港や宿泊先からこれらの車に乗って迎賓館の黒塀の中に到着すると、会場の入り口で日本政府代表によるレシービングライン(出迎えの列)で挨拶が行われ、入り口すぐ左にある「記帳台」へと案内される。ここで「代表団長」が署名を行った後に、一向は3つある貴賓室の一つに通される。
通常は一番広い「夢洲」(約120平米)に通されるが、随行員が多い場合などは約80平米の「咲洲」、「舞洲」なども使われた。貴賓室では、日本政府代表からその日の日程説明を受けたり、三千家(表千家、裏千家、武者小路千家)による立礼式(りゅうれいしき)のお茶が振る舞われるなどした。
迎賓館には3つの貴賓室があり、それぞれ大阪の島の名前がつけられている。一番大きいのが万博会場の「夢洲」の名前がついた部屋。三千家の茶人によるる立礼式のお茶が振る舞われた。足下に開いた窓からは3つの貴賓室すべてから臨むことができる石庭が覗いている。賓客によっては空港から車で直接、ここに到着するため、クローゼットなどを用いて着替えや身繕いなどもここで行ったようだ。
賓客をもてなす夢洲のアメニティにはクレドポーボーテやSHISEIDO MENの商品が選ばれていた。
3つの貴賓室の前を通り過ぎ、円環状の建物を半周すると、そこには細い通路があるが、実はその先がEXPOナショナルデーホールに繋がっている。賓客は11時前になると、この通路を通ってEXPOナショナルデーホールに案内されていた。
ナショナルデーの式典が終わると、賓客はもう1度、同じ通路を通って迎賓館に戻り、円環状の通路を時計回りにもう少し進むと「日本の赤」を基調とした約250平米のダイニングルームが現れる。そこで正午ごろから1時間強、昼食会(ランチ)が行われた。
ダイニングルームの運営および料理の提供は、大阪を代表する高級ホテル、リーガロイヤルホテルで「日本の魅力を発信すること」をテーマに和食(懐石コース、正倉院弁当)、和洋折衷、洋食コースの計4種類から、賓客側が選択できる形式で提供。飲み物は日本の醸造技術を伝えるため、厳選された4種類の日本酒と日本産の赤・白ワインが振る舞われた。
デザートは、万博の公式キャラクター「ミャクミャク」と会場のシンボルである「大屋根リング」、さらには「ウォータープラザ」をモチーフにした独自のデザインを採用し視覚的にも万博の世界観を表現。季節の移ろいにも反映し「夏バージョン」と「秋バージョン(いちじくと紅葉)」が用意された。
その後、代表団は万博会場に足を踏み入れ、パビリオンなどの視察を行うのが通例だったという(午後のパターンの場合は15:30到着、16:00に式典がスタートし、その後、夕食会が行われた)。
こうした一般的な流れとは別に、国によっては夜に相手国が主催する返礼レセプション(パーティー)が行われることもあった。迎賓館にはそのための「バンケットルーム」も用意されていた。
興味深いのは、迎賓館の賓客用の部屋がまるで時計の文字盤のように円環状に時計回りに配置されており、賓客の行動の流れが入り口からスタートして時計回りで完結するよう設計されていた点だ。記帳台、貴賓室、式典会場への通路、ダイニングルーム、バンケットルームと、すべてが自然な流れで繋がっていく。この動線設計は、賓客にストレスを感じさせることなく、限られた時間の中で最上級のおもてなしを提供するための工夫だったと言えるだろう
迎賓館の入り口と正反対の位置には、ナショナルデーホールへと続く通路がある。各国の代表団はここからナショナルデーのイベントに向かった。
ナショナルデーホールの並びにあるダイニングルームは鮮烈な赤い壁が印象的。賓客の背後には川島織物セルコンが現代美術作家・川人 綾氏デザイン・監修のもと、制作したタペストリー「CUT: C/U/T_CC-CM_I」が飾られていた。
ランチやディナーは和食、洋食、和洋折衷の三種類を用意。賓客の好みに合わせて選んでもらえるようになっていた。和食は「なだ万」、それ以外はリーガロイヤルホテルの渡部玲料理長が監修を行いミャクミャクをモチーフにしたデザートが振る舞われた。
「日本の美」を伝えるアート作品
国によってはナショナルデーの最後に返礼レセプションを行うことがあり、そのための場としてバンケットルームが用意されていた。ここには川島織物セルコンが現代アーティスト、手塚愛子氏にコミッションして作らせた作品2点が展示されていた。ここに写っているのは鎖国時代(16~17世紀)に描かれた日本地図と世界地図をモチーフにした「時代を織り直す(勇気と好奇心についての考察)」
迎賓館、記帳台のすぐ後ろには川原隆邦が手掛けた越中和紙の1つ蛭谷(びるだん)和紙の作品が掲げられていた。作品は8点制作され、季節に合わせて展示替えが行われた。ここに写っているのはNo.07 Artral Compass。右に写っているのは川原氏本人。
迎賓館には、いくつか「日本の美」を感じてもらうためのアート作品も飾られていた。
入り口入ってすぐの左側、記帳台の後ろに飾られていたのは、富山県の越中和紙の1つ蛭谷(びるだん)和紙の唯一の継承者、川原隆邦氏(川原製作所)の作品。
「日頃から和紙の魅力を世界へ発信したいと考えていたので、絶好の機会をいただけました。せっかくなので、自分一人だけではなく、できるだけたくさんの方と一緒に挑戦したいと思い、日本各地の素材を活かした作品づくりを構想し始めました」とのことで、伝統技法を守りながらも「日本全国の素材を活かし、新しい和紙を作る」ことを目指した、という。
色合いやモチーフの異なる計8点が制作され、季節に合わせて展示替えを行なった。ちなみに400年前に生まれた蛭谷和紙は、トロロアオイという原材料の栽培から紙漉きまで、すべて1人の職人の手で行うのが特徴。
鮮烈な印象を残す真っ赤なダイニングルームには、1843年創業の京都の老舗「川島織物」と、床材メーカー「セルコン」が合併してできた日本を代表する高級インテリアファブリック(織物)メーカー、川島織物セルコンが現代美術作家・川人 綾氏デザイン・監修のもと、制作したタペストリー「CUT: C/U/T_CC-CM_I」 が飾られた。1800色に染め分けた糸により緻密に織られており、織物ゆえ平面的であるものの屏風のような立体感を柔らかく感じさせる錯視効果を持つ作品となっている。
川人 綾氏は「制御とズレ」をテーマに、グリッド構造と色彩を用いた抽象的な絵画を制作してきた作家。京都で染織を学んだ経験と神経科学者の父の影響を背景に、視覚と認知の揺らぎに着目し、緻密な手仕事から生まれる微細なズレを「美しさ」としてとらえ、幾層にも塗り重ねた色彩が錯視的な感覚を引き起こす作品を数多く手掛けている。こちらの作品は3月31日まで豊洲にある「川島織物セルコン 東京ショールーム」のリニューアル記念として展示が行われている。
実は川島織物は1889年のパリ万博にも出展している万博とは非常に縁の深い老舗企業だ。ダイニングルームにはこの大型作品に加え、同じ川人氏による絹と和紙で作られた小型作品2点や返礼レセプションが開かれるバンケットルーム用に現代アーティスト、手塚愛子氏が手掛けた作品2点の合計5点を協賛している。
手塚愛子氏はベルリンと東京の二拠点で作品制作を行う作家で日本の歴史を織り込んだ作品2点を制作した。「時代を織り直す(勇気と好奇心についての考察)」は鎖国時代(16~17世紀)に描かれた日本地図と世界地図が、「迎賓館(織り途中・明治から令和へ)」は明治時代の大阪の迎賓館「泉布観」と万博の迎賓館がモチーフになった作品だ。
一般来場者の目に触れることのなかったこの迎賓館は、ある意味で万博の「もう一つの顔」だったと言えるだろう。50名近い賓客をもてなしたこの空間では、400年の歴史を持つ蛭谷和紙から最新のEVバスまで、日本の伝統と革新が自然に共存していた。藤本壮介氏が設計した円環状の建築に映る空、三千家による立礼式の茶、川島織物セルコンの錯視効果を持つタペストリー――すべてが「日本の美」を異なる角度から語りかけていた。184日間の会期が終わった今、この迎賓館での体験は、訪れた各国の賓客の記憶に刻まれ、日本という国の新たなイメージとして世界へと広がっていくことだろう。
パビリオンにも用意されたVIP対応
ちなみに、万博会場に足を踏み入れた賓客の多くは、訪問先のパビリオン内に用意されたVIPルームに通され、パビリオンの代表から歓迎を受けた。その後、他の入場者がいない(あるいは少ない)タイミングを見計らって会場内に案内されるのが通例だった。小規模なパビリオンの中にはVIPルームを備えていないものもあったが、大型パビリオンの多くはこうした特別対応の準備を整えていた。
パビリオンによっては、このVIPルームのためにもアート作品や特別な体験を用意しているところがあった。例えば人気のイタリア館では日本在住のイタリア人アーティスト、マッテオ・チェカリーニが大型の絵画作品を描き下ろした。またシグネチャーパビリオンの1つで日本のジャズピアニスト・数学教育者、中島さち子氏がプロデュースした「いのちの遊び場 くらげ館」には裏千家の茶室が用意されていた。
賓客らVIPを迎え入れるために多くのパビリオンがVIPルームを用意していた。ゆるく楽しげな雰囲気の中島さち子氏プロデュース「いのちの遊び場 くらげ館」もVIPルームは裏千家の正式なお茶室になっていた。
人気のイタリア館にもVIPルームがいくつかあり、このVIPルーム専用のアート作品も用意されていた。本作は日本在住イタリア人アーティスト、マッテオ・チェッカリーニが描きおろした油彩の大作「イタリアの星」。7 人の人物が星型の構成で配置され、現代イタリアを支える主要分野 ― 科学技術研究、先端産業、ファッションとデザイン、音楽、美術を擬人化した6人とアジア系の特徴をもつ「新しいイタリア人」がイタリアを象徴する星型を作っている。
日本館にも大型のVIPルームが用意されており、日本政府が主催するクリエイター向けイベントなどではこの施設が利用された。なお、迎賓館を彩ったタペストリーを見ることができる。
川島織物セルコン 東京ショールーム タペストリー特別展示
展示作品:タペストリー「CUT: C/U/T_CC-CM_I」
デザイン・監修:川人 綾(現代美術作家)
制作:川島織物セルコン
会期:2025年12月1日(月)~2026年3月31日(火)
時間(水曜休館):10:00~18:00(予約不要)
会場:川島織物セルコン 東京ショールーム
東京都江東区豊洲5-6-15 NBF豊洲ガーデンフロント 6階
賓客を迎え入れる迎賓館としては、<wbr />伝統的な御殿建築の大阪迎賓館や、明治期に建てられたネオ・<wbr />バロック様式の赤坂離宮(東京)もあるが、<wbr />それとは異なる現代の日本の建築家が作った万博の迎賓館はシンプ<wbr />ルでミニマルな構造の中に「日本の美」<wbr />を織り込んだ美しくも誇らしい空間であり、<wbr />一人でも多くの人に体験して欲しい空間でもあった。<wbr />残念ながら万博も終わりもはや訪れることはできないが、<wbr />筆者が撮り溜めた写真と文字による再現で、<wbr />その素晴らしさを味わっていただけたらと思う。
大阪・関西万博「迎賓館」
用途: 世界各国から国王、大統領、首相などの賓客をお迎えし、歓迎、接遇するための施設
構造: 鉄骨造
階数: 平屋建
床面積: 4,624.06㎡
基本設計: 株式会社日建設計
実施設計・施工・監理: 大林組・矢作建設工業共同企業体・株式会社日建設計
デザイン監修: 2025 年日本国際博覧会 会場デザインプロデューサー 藤本壮介/株式会社藤本壮介建築設計事務所
Profile
林信行 Nobuyuki Hayashi
1990年にITのジャーナリストとして国内外の媒体で記事の執筆を始める。最新トレンドの発信やIT業界を築いてきたレジェンドたちのインタビューを手掛けた。2000年代からはテクノロジーだけでは人々は豊かにならないと考えを改め、良いデザインを啓蒙すべくデザイン関連の取材、審査員などの活動を開始。2005年頃からはAIが世界にもたらす地殻変動を予見し、人の在り方を問うコンテンポラリーアートや教育の取材に加え、日本の地域や伝統文化にも関心を広げる。現在では、日本の伝統的な思想には未来の社会に向けた貴重なインスピレーションが詰まっているという信念のもと、これを世界に発信することに力を注いでいる。いくつかの企業の顧問や社外取締役に加え、金沢美術工芸大学で客員名誉教授に就いている。Nobi(ノビ)の愛称で親しまれている。
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Features
銀座・和光で開催。「第2回 いしかわの工芸 漆と陶」
2026.1.20
石川の漆と陶、その現在地を知る
(左)????田幸央 金襴手彩色鉢 φ52×h13cm (右)水尻清甫 沈金乾漆盤「海原」 φ40×h3.5㎝
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銀座のランドマークとして知られる和光のセイコーハウスホールにて、2026年1月29日(木)から2月8日(日)まで、展覧会「第2回 いしかわの工芸 漆と陶」が開催される。
水口 咲 乾漆黄桃茶器 φ7.5×h7.5cm
輪島塗や九谷焼に代表される、漆芸と陶芸の豊かな伝統が息づく石川県。本展は、県内で創作活動を続ける漆芸家・陶芸家による展覧会の第2回目となる。
浦出勝彦 蒔絵箱「朝涼」 w25×d11×h14cm
今回は、それぞれの分野で活躍する新たな作家を迎え、より多彩な表現が一堂に集結。 加賀百万石の時代から脈々と受け継がれてきた技と美意識に、現代の感性を重ね合わせた石川工芸の現在地を体感できる内容だ。
田島正仁 釉香器「月明り」 φ15.5×h12.5cm
会期中には、出品作家によるギャラリートークも予定されている。1月31日(土)は陶芸家の柴田有希佳氏と漆芸家の水口 咲氏、2月7日(土)は陶芸家の多田幸史氏と漆芸家の中室惣一郎氏が登壇し、作品制作の背景や工芸に込める思いを語る。
柴田有希佳 茶碗「絵日傘」 φ11.6×h8cm
漆と土、それぞれの素材と真摯に向き合う作家たちの競演。石川の工芸がもつ奥行きと進化を、銀座でじっくりと味わいたい。
◆第2回 いしかわの工芸 漆と陶
【会期】2026年1月29日(木)~2月8日(日)
【会場】セイコーハウスホール(東京都中央区銀座4-5-11 セイコーハウス6階)
【時間】11:00~19:00(最終日は17:00まで)
【休業日】会期中無休
【入場料】無料
【問い合わせ】03-3562-2111(代表)
出品作家によるギャラリートーク
1月31日(土)14:00~ 柴田有希佳氏、水口 咲氏
2月7日(土)14:00~ 多田幸史氏、中室惣一郎氏
司会進行:????田幸央氏
※混雑時には入場を制限する場合があります。
【問い合わせ】和光 美術部 03-3562-2111(代表)
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Events
そごう美術館にて開催「artisansと輪島塗」
2026.1.20
輪島塗の「そのさき」へ──。光沢の奥に隠された技法と職人の仕事
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そごう美術館で、1月22日(木)から2月23日(月・祝)まで、展覧会『artisans と輪島塗 』が開催される。
本展は、2024年の能登半島地震により壊滅的な被害を受け、存続の危機に直面している輪島塗の復興支援を目的に企画されたもの。漆の技術を未来へとつなぎ、輪島塗の「そのさき」を見据える試みである。
《曲輪造籃胎食籠》小森邦衞
《栗鼠に葡萄文蒔絵箱》中野孝一
日本を代表する漆器である輪島塗は、「輪島六職」と総称される椀木地、指物、曲物、塗師、沈金、蒔絵という専門職の高度な分業体制によって支えられてきた。その緻密な工程の積み重ねが、ほかの漆芸にない堅牢さと光沢をもつ輪島塗を形づくっている。
轆轤を使い、何段階にも分けて挽いていくことで椀木地を作る
椀木地の生成工程
曲物師は水につけた能登ヒバを鉋で削り、型に沿って曲げる
本展では、完成作品の鑑賞にとどまらず、輪島塗が作られる工程にも注目。これまで光が当たりにくかった素地(輪島塗の下地)の完成にいたるまでの過程を紹介するほか、実際に触れられる工程展示や、制作に用いられる必要な道具も公開。堅牢優美な輪島塗が、いかにして育まれてきたのかを体験できる構成となっている。
《漆象嵌箱「玉響」》山岸一男
さまざまな「artisans=職人」の手を経て完成する輪島塗。その超絶技巧の数々を、会場でぜひ目の当たりにしてほしい
◆artisans と輪島塗
【会期】2026年1月22日(木)~2月23日(月・祝)
【会場】そごう美術館(そごう横浜店6階)
【開館時間】10:00~20:00(入館は閉館30分前まで)
【入館料】一般1,400円(1,200)、大学・高校生 1,200(1,000)円、中学生以下無料
*( )内は前売、公式オンラインチケットおよび[クラブ・オン/ミレニアムカード、クラブ・オン/ミレニアム アプリ]を提示の方の料金。
*前売券は1月21日(水)まで公式オンラインチケットおよびそごう美術館にて取り扱い。
*障がい者手帳各種をお持ちの方、および同伴者1名は無料。
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