獺祭梅酒ショコラ
いよいよ新年号「令和」が始まる。すでにご存知の方も多いと思うが、「令和」の出典は、『万葉集』に収録された梅花の歌の序文にある「初春令月 気淑風和」だ。大宰府の長官である大伴旅人の屋敷で開かれた梅花の宴で詠まれた三十二首の歌をまとめたもので、国立国会図書館デジタルコレクション『萬葉集 20巻』([5]15-16コマ)で、古活字版の原本を閲覧することができる。
ほとんどが梅の花について詠まれたものだが、中には梅の実を恋の結実に喩えた歌もある。そんな梅の実の歌に想いを馳せていたところに、ショコラティエ パレ ド オールから獺祭梅酒ショコラが完成したという知らせが届き驚喜した。
左から獺祭梅酒ショコラのミルクとホワイト。獺祭ショコラのミルクとビター
そもそも私は梅酒が大好きだ。梅干しのように家庭で作ることができることもあって、酒ではあっても以前からずっと身近な存在だった。何か悪いものを食した時などに殺菌作用があるからと言って、かなり薄めた自家製の梅酒を飲ませてもらった記憶があるが、ウチでは時に常備薬のように使っていた。家にあるのが当たり前なので、今でも時間がある年には自家製の梅酒を作る。
家庭で果実酒を作る場合は、アルコール度数が20度以上の酒を使うことが決められていることもあって(参考文献:国税庁 >お酒についてのQ&A >【自家醸造】)、ホワイトリカーやブランデーなどアルコール度数の高い酒を使う。一般的にアルコール度数の高い酒はチョコレートに合わせやすい傾向にある。
けれども獺祭梅酒ショコラに入っているのは、そんなお馴染みの一般的な梅酒ではない。日本酒、それも純米大吟醸二割三分で仕込んだ獺祭で和歌山県産南高梅の適熟梅を漬け込んだもので、今年初めて数量限定で誕生したアルコール度数8度の梅酒である。ショコラティエ パレ ド オールのオーナーシェフの三枝俊介さんは、製造元である旭酒造との長年のよしみでこの限定商品を分けてもらったのだという。
獺祭梅酒に使⽤された和歌⼭県産南⾼梅の適熟梅。獺祭梅酒ショコラのミルクチョコレートにこの漬け梅を刻んだものが練り込まれている
「アルコール度数が高い酒で作った梅酒はとがった味になりがちなのですが、獺祭で作った日本酒梅酒はとてもマイルドです。このまま飲んですごく美味しいお酒を使ったのが獺祭梅酒ショコラなんです」と、三枝さんは胸を張る。
ショコラティエ パレ ド オールには、すでに純米大吟醸二割三分で仕込んだ日本酒、獺祭を使った人気商品がある。今では定番となった獺祭ショコラだ。今年1月26日付けの日本経済新聞NIKKEIプラス1の「何でもランキング」で、このショコラは1位に輝いた。テーマは地酒に泡盛・焼酎といった“和の酒”を使ったチョコレート10選で、私も審査員の一人として審査に参加した。審査当日に厳選した20種類ほどを食べ比べて感じたのは、日本酒を使ったショコラは和酒の中でも素材の味を引き立たせるがかなり難しいということだった。それも獺祭ショコラのようにボンボン・ショコラになると、チョコレートでコーティングする行程が加わるため更なる匠の技が必要になる。
獺祭ショコラ
三枝さんに秘訣を訊いてみた。「お酒を最大限に加えていることと、お酒を引き立たせるようなチョコレートを合わせていることです」。ここまでたどり着くには試行錯誤の連続だったそうだ。
三枝さんが初めて日本酒を使ってショコラを作ったのは、ショコラティエ パレ ド オール東京店がオープンした翌年のこと。デパートからの提案を受けて、2008年のバレンタインのために5種類の利き酒ショコラを作ったのがきっかけだった。その中に獺祭があった。その後、震災復興のための宮城の酒蔵 利き酒ショコラを発表した。継続して作り続けているうちに、次第に日本酒ショコラを作る技術も確立でき、十年近くを経てようやく安定したものが作れるようになったという。
ショコラティエ パレ ド オールのオーナーシェフの三枝俊介さんと
獺祭梅酒ショコラを味わってみた。自家製ホワイトチョコレートと、ミルクチョコレートをそれぞれ使った2種類のショコラは、どちらも梅酒の風味を尊重しながらも、チョコレートとのバランスが良く上品な仕上がりだ。ミルクチョコレートには、刻んだ漬け梅がガナッシュに練りこんであって、風味に加えて舌で果肉を感じることができるのも魅力である。「ホワイトチョコレートは、ダークチョコレートと同様でカカオの産地によって味わいが異なります。自家製にすると作業は容易ではありませんが、そうすることによって素材によって産地を変える・混ぜ合わせるなど微調節することができるのです」と、三枝さん。これもBEAN TO BAR ショコラティエならではの醍醐味だ。
卓偉したショコラ・梅・日本酒が奏でる三重奏、新年号「令和」を祝うに相応しい味わい。一度お試しあれ。
text © Mika Ogura 2019
【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。
【商品情報】
●獺祭梅酒ショコラ
4個入り(ホワイト・ミルク2種類) ¥2,160(税込)
※数量限定販売のため売切れ次第終了
●獺祭ショコラ
6個入り(ビター・ミルク2種類) ¥2,484(税込)
通年販売
【問い合わせ】
ショコラティエ パレ ド オール
TEL: 03-5293-8877
http://www.palet-dor.com/