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暮らすような滞在と五感を刺激する食体験がセットに
2025.4.3
Zentis Osaka、5周年を記念した特別宿泊プランが登場
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2025年7月15日(火)に開業5周年を迎える大阪・堂島浜のホテル、Zentis Osakaから、限定メニューを含む特別宿泊プラン「Zentis Osaka 5th Anniversary Stay」が登場。
2025 年4月12日(土)~2026年3月31日(火)の期間に利用できる特別宿泊プランでは、ホテル2階「UPSTAIRZ Lounge, Bar, Restaurant」で提供する特別ディナーとオリジナルカクテル、宿泊がセットに。
5周年記念ディナー 前菜イメージ
ディナーは、食材の品質や生産者にこだわった独創的なコースを用意。完全有機栽培の農家より仕入れた有機野菜や、丁寧に再肥育した経産牛を使用した肉料理など、美食とサステナビリティを両立させたオリジナリティあふれるメニューを堪能できる。
「UPSTAIRZ Lounge, Bar, Restaurant」
(左)リモーネ ハイボール (右)ワイン オブ シトラスハート
食後のバータイムでは、美味しさはもちろん、食材のロスを減らすことも追求したバーテンダー渾身のカクテルを提供。レモンを余すことなく使った爽やかな一杯「リモーネ ハイボール」と、抜栓から日が経ち泡立ちが弱くなったシャンパーニュをアップサイクルした優美な香りのカクテル「ワイン オブ シトラスハート」から好みの1杯を選ぶことができる。
Zentis Osakaオリジナルエコバッグ
また開業5周年を記念して、ナチュラル感のあるデザインのホテルオリジナルエコバッグもプレゼント。
Studio
世界中から関心が集まる大阪で、サステナビリティの要素を取り入れた美食と暮らすような滞在が叶うZentis Osaka。友人や家族と、特別な宿泊体験を楽しんでみてはいかが。
◆宿泊プラン「Zentis Osaka 5th Anniversary Stay」
【宿泊対象期間】2025年4月12日(土)~2026年3月31日(火)
【問い合わせ】06-4796-0111(ホテル代表)
【部屋タイプ/料金】1泊2日/1室2名料金
Studio(25㎡)77,610円~
Corner Studio(32㎡) 83,530円~
Suite(57㎡)114,490円~
※消費税、サービス料10%込・宿泊税別
※予約はチェックイン3日前15:00まで可
※1名様利用プランも有り
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Features
日本文化のタイムトラベルを圧倒的なスケールで展開
2025.4.2
東京国立博物館「イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~」
※イマーシブシアター会場写真
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東京国立博物館 本館特別 5室では、所蔵する国宝などの貴重な文化財の世界への没入体験を楽しめる「イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~」を8月3日(日)まで開催中。
※イマーシブシアター会場写真
※イマーシブシアター会場写真
“イマーシブ”という没入型の展示や体験イベント人気を集めるなか、本展はそのスケールが圧巻だ。
会場正面に設置された高さ約7メートルの巨大なLEDモニターに映し出されるのは、NHKの超高精細映像がとらえた所蔵品の数々。縄文時代の土器や土偶、古墳時代のはにわ、平安時代の絵巻、室町時代の鎧兜、浮世絵などを、普段決して見ることが出来ない角度やサイズで堪能できる
「鉄腕アトム」Ⓒ手塚プロダクション
「かぐや姫」Ⓒ2013 Isao Takahata,Riko Sakaguchi/Studio Ghibli, NDHDMTK
また、手塚治虫、高畑勲、細田守など、日本を代表する名作アニメも登場。ナビゲーターは、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」で蔦屋重三郎役の横浜流星が務める。
※イマーシブシアター会場写真
「未来少年コナン」© NIPPON ANIMATION CO., LTD. “INCREDIBLE TIDE” Copyright © 1970 by Alexander Key Animated film rights in Japanese language arranged with McIntosh & Otis, Inc. through Japan UNI Agency, Inc.
「埴輪 挂甲の武人」や「松林図屏風」(長谷川等伯筆)、「洛中洛外図屏風(舟木本)」(岩佐又兵衛筆)などの国宝作品から、世界を魅了するアニメーションまで、日本文化のタイムトラベルを大迫力の映像で楽しめる展覧会。4月22日から6月15日まで、東京国立博物館 平成館にて特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」も開催されるので、あわせて鑑賞するのもおすすめだ。
◆イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~
【会期】開催中~2025年8月3日(日)
【会場】東京国立博物館 本館特別 5 室
【開館時間】9:30~17:00
※毎週金・土曜日、5月4日(日・祝)、5日(月・祝)、7月20日(日)は20時まで開館
※入館は閉館30分前まで
※本展は事前予約不要です。混雑時はお待ちいただく可能性があります。
◼ 休館日 : 月曜日、5月7日(水)、7月22日(火)
※ただし、4月28日(月)、5月5日(月・祝)、7月21日(月・祝)は開館
【観覧料】一般 2,000円、大学生 1,200円、高校生 800円
※中学生以下、障がい者とその介護者 1 名は無料。入館の際に学生証、障がい者手帳等をご提示ください。
【問い合わせ】050-5541-8600(ハローダイヤル)
※本展観覧券で、4/22~6/15 の間の観覧日当日に限り「浮世絵現代」(表慶館)を無料でご覧いただけます。
※本展観覧券で、観覧日当日に限り総合文化展(平常展)もご覧いただけます。
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表参道で味わう世界トップレベルのスペシャルティコーヒー
2025.4.1
「PHILOCOFFEA表参道店」がオープン。バリスタ世界チャンピオンの最新店舗
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「目を醒ませ、TOKYO」をコンセプトに、世界トップレベルのスペシャルティコーヒー体験を発信する「PHILOCOFFEA(フィロコフィア)表参道店」が、表参道の新商業施設「GREEN TERRACE 表参道」地下1階にオープン。
粕谷哲氏
「PHILOCOFFEA表参道店」は、アジア人初のWORLD BREWERS CUP(※)を制した世界チャンピオン、粕谷哲氏がオーナーを務めるコーヒーカンパニーの都内1号店。
トップレベルのバリスタによるコーヒーは1杯800円から。
生豆の買付、選別、焙煎プロファイルの作成、品質管理までを自社で手がけるほか、品質にこだわり抜いたスペシャルティグレードの豆(全生産量の5%に満たない、最高級品質の希少なコーヒー豆)のみを扱い、粕谷氏が開発した「4:6メソッド」に基づいた淹れ方で提供している。
表参道店限定 O11 TOKYO BLEND 規格:200g 3,197円
大会の受賞歴を持つバリスタが多数在籍する表参道店には、Modbar社の埋込型エスプレッソマシンを導入しシームレスなカウンターを実現。カウンター越しにバリスタと会話を楽しんだり、所作のひとつひとつを眺めたりと、特別な時間を楽しむことができる。
大人気「35MM(サンジュウゴミリ)」のスコーン2種
また、数量限定の焼き立てスコーンが大人気の「35MM(サンジュウゴミリ)」のスコーンも用意。発酵バターや小麦の味わいをしっかりと感じられる「プレーン」と、カカオベースのスコーンにチャンクチョコレートを使用した「ダブルチョコレート」、コーヒーと相性抜群の2種類を提供する。また、東京の今とこれからを味わえる「TOKYO BLEND」など、表参道店限定のコーヒー豆や限定メニュー、グッズも登場。
これまでのコーヒー体験を覆すような『人生を変える一杯』の提供を目指す「PHILOCOFFEA表参道店」。表参道を訪れた際は、ぜひ足を運んでみたい。
◆PHILOCOFFEA 表参道店
【住所】東京都港区北青山3-8-15 GREEN TERRACE 表参道 地下1階
【営業時間】10:00~19:00
【定休日】不定休
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2025年アジアのベストレストラン50結果発表
2025.4.1
「アジアのベストレストラン50 2025」100位までの全リスト&考察レポート
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今年も「Asia’s 50 Best Restaurants(以下、アジアベスト50)」の授賞式が、3月25日午後8時から、韓国のグランド ハイアットソウルで華やかに開かれた。日本の最高位は「Sézanne(セザン)」の4位となった。
現地の熱気と共に、今回の結果から観たアジアのファインダイニング<wbr />事情、アジアベスト50そしてワールドベスト50はどんなアワー<wbr />ドなのか、<wbr />このアワードが世界へ与えるインパクトや課題などを含め、<wbr />授賞式に参加したジャーナリストの石橋俊澄氏が詳細にレポート、<wbr />考察してくれた。
1位から50位、<wbr />そして51位から100位までの全リストも公開する。<wbr />2024年の結果と比較してみても面白いと思う。
昨年は日本のワンツー・フィニッシュ!
授賞式を招致したのはソウル特別市と農業食糧農村省で、同市での開催は昨年に続いて2度目となる。
今回で13回目を迎えるアジアベスト50は知名度も上がり、すでに「ミシュランガイド」に比肩するほどのアワードになったと言っても良いかもしれない。
ここ数年において、2022年に日本料理店として初めてアジア1位を獲得した「Den(傳)」があり、昨年2024年の日本勢と言えば、「Sézanne(セザン)」が頂点を極め、2位に「Florilège(フロリレージュ)」が続き、ワンツー・フィニッシュの華々しい成績をおさめたことは記憶に焼き付いている。
明らかに日本勢の健闘が期待される流れの中で、今年はどうだったのか。果たして、フロリレージュの1位戴冠はあるのか! コトを急ごう。すでに第一報でご存知の向きも多いと思うが、さて、2025年の結果は!
バンコクの「ガガン」が5度目の1位
結果は、インド人のガガン・アナンドがバンコクで営む「Gaggan(ガガン)」が、なんと、5度目となる1位となった。
正確に記せば、<wbr />4度の1位はガガンが率いる別名の店での受賞である。<wbr />新たな店名で再出発し、昨年は3位、今年は1位。<wbr />ガガン本人が5度目の受賞となった。
ガガン・アナンドを紹介しておく。コルカタ生まれ、プロのドラマーとして音楽の道を歩んでいたが、いつしかスティックは包丁に替わる。インドの高級ホテルチェーンのタージ・グループで料理人のキャリアをスタートさせるが、スペインの革命的料理を推進する「エル・ブリ」の元に赴き、分子ガストロノミーに開眼する。
中央が、「gaggan(ガガン)」のシェフ、ガガン・アナンド。
彼が開店するのに選んだ街はタイのバンコク。「ガガン」のダイニングは14席のみ。22の皿にそれぞれ音楽が付帯し、時にスタッフが全員でテーブルを叩きながら歌い、「ヘイ・ジュード」をゲスト全員に合唱させる。ゲスト2人を選んでサラダバトルをさせたり(シェフが手を加えたものをゲストが食べる)……。劇中に放り込まれたような感じで、ある種、喧噪の中で刺激だらけの食事が進むといった具合だ。世界にまたとないエンタテインメント・ディナー体験である。
「ファインダイニングを食べたときに、とても退屈を覚えた」とガガンは語った。それで、元来好きだったロックや様々な音楽をメニューに合わせ、歌って踊るようなコースを考えた。一皿に一曲。キッスの曲「Lick it up(舐め尽くせ)」に合わせて、ゲストに皿のペーストを舐めさせる場面はいまや名物で、客の誰もがいつ来るのだろうかと期待を高ぶらせて待つ。
筆者も体験したことがあるが、使われるのはほとんどが誰もが知る新旧の洋楽だが、確か、デザート辺りだったか、日本の楽曲であるVaundyの「踊り子」が鳴り響いたときにはちょっと驚いた。日本人が私以外にも一人いたから、サービスだったのかもしれない。
お客14人のうち半数はノリノリで、半数はドン引き、そんな感じだった(苦笑)。
ベスト50に入った日本勢は11軒!
2位には香港の広東料理の「The Chairman(ザ・チェアマン)」が入った。かつて1位になったこともある名店だ。シェフのダニー・イップは日本料理を敬愛してやまない才人で、料理は絶えず進化している。私も大好きな店だ。
3位は同じく香港の広東料理の「Wing(ウィング)」である。本WEBのファインダイニングの連載に、私の体験記を載せたことがある。シェフのヴィッキー・チェンはフランス料理店も営むが、広東料理における彼の手腕はまさに才気にあふれ、斬新な中国料理の数々は度肝を抜かれるほど見事だ。
2位の香港「chairman(チェアマン)」。左がシェフのダニー・イップ。
多くの期待を集め、様々な活動を懸命にやったフロリレージュだったが、結果は17位。私も、見守る日本人たち全員も、本当にたまげた。昨年の2位からの大幅な落差に誰もが納得がいかなかった。
会場で川手シェフも、「いやー、50人ぐらいから『今年は1位ですね』と言われたんですけどね……」と残念そうだった。
日本勢のトップを張ったのは、昨年1位だったセザンの4位である。他の10位以内は大阪のLa Cime(ラ・シーム)の8位のみ。10位以内に4軒が入った昨年からすると、盛り上がりに欠けた印象は否めない。
10位入りは逃して12位だったが、開催初年度の1位から13年間も連続でランクインしている東京のNARISAWA(ナリサワ)の堅調ぶりは素晴らしい。日々の努力には頭が下がる思いがする。もはや、成澤シェフは日本の顔である。
日本勢は50位以内に11軒がランクインを遂げた。実に22パーセント。東京だけでも9軒で、全体の18パーセント。参加しているのはアジアの13カ国であることを考えれば、日本の比率は全体1位で、非常に高いとは言える。
すでに発表されている51-100位の6軒と合わせれば、17軒になる。つまり17パーセントだ。5軒に1軒弱は日本の店ということになる。
それをどう捉えるかについては後述する。
日本勢の新規のランクインはいずれも期待の3軒
一覧表は小さくて読みにくいので、ランクインした日本勢の店を書き出しておく。
4位 Sézanne(セザン)東京
8位 La Cime(ラ・シーム)大阪
12位 NARISAWA(ナリサワ)東京
17位 Florilège(フロリレージュ)東京
22位 Den(傳)東京
30位 Crony(クローニー)東京
33位 Sushi Saito(鮨 さいとう)東京
34位 Sazenka(茶禅華)東京
36位 Goh(ゴウ)福岡
43位 Maz(マス)東京
45位 Myoujaku(明寂)東京
2022年に1位だった「傳」は22位、「クローニー」は昨年の58位から一挙に順位を上げての30位だ。オーナー兼ソムリエの小澤一貴は、料理を引き立てる絶妙なペアリングが評価されて、「アジアのベスト・ソムリエ賞」も受賞する快挙を遂げた。
昨年60位の「鮨さいとう」は33位とトップ50に返り咲いた。「茶禅華」は39位から34位に、「Goh」は45位から36位にランクアップした。
南米ペルーの多様な生態系にインスパイアされたコースメニューを日本の素材で提供する「マス」は69位から43位に、フランス料理の影響下にありながら水と塩だけで野菜を水煮にしたりする「明寂」は76位から45位と、ともにトップ50に飛び込んできた。
クローニー、鮨さいとう、マス、明寂の4軒以外は、いずれも常連が踏ん張りを見せた。
トップ50に11軒のランクインは、昨年よりも2軒多い。とは言え、「去年のような、最後までのハラハラドキドキはたまらなかったですねえ」と、会場で「チェンチ」の坂本シェフがいみじくも語ったように、日本にとって、アジアベスト50のこれまでの最高に劇的なシーンは、昨年にあったことは確かだろう。
しかし、国威発揚でも身贔屓でもなんでもなくて、日本のガストロノミーの実力からすれば、20軒ぐらいがランクインしていてもおかしくないという思いが、私たち食関係者の中には厳然としてあるのである。
ここで、おさらいになるが、一応、アジアベスト50がいかなるものなのかを解説してみたい。
1.各国に散らばる評議員(投票者)たち
アジアベスト50は、2013年にスタートした飲食店のランキング・アワードである。今年で13回目を数える。アジアベストであるから、その母体は2005年に始まった「ワールドベスト50レストラン」だ。
ワールドベストがオリンピックなら、こちらはアジア大会だ(厳密には、喩えでしかないことは後述)。
ちなみに、世界1ともなれば、その名誉と影響力は大変なもので、オリンピックなら金メダル、ゴルフで言えばマスターズで優勝したようなものかもしれない。
ちなみに、古い順から店名をすべて挙げておく。
「過去のワールドベスト50 1位受賞レストランリスト」
2002、06、07、08、09年 「エル・ブリ」(スペイン)
2003、04年「フレンチランドリー」(アメリカ)
2005年「ファットダック」(イギリス)
2010、11、12、14、21年「ノーマ」(デンマーク)
2013、15年「エル・セジェール・デ・カンロカ」(スペイン)
2016、18年「オステリア・フランチェスカーナ」(イタリア)
2017年「イレブン・マディソン・パーク」(アメリカ)
2019年「ミラズール」(フランス)
2022年「ゼラニウム」(デンマーク)
2023年「セントラル」(ペルー)
2024年「ディスフルタール」(スペイン)
日本は一度も世界1位を取ったことがない。いくつかの店は複数回1位を獲得しており、2019年から「殿堂入り」のシステムが考案されて、1度1位になった店は除外されるようになった。それに対する賛成と反対が、1位になったシェフたちの間には渦巻いているようだ(アジアベスト50では、何度も1位になれる)。
私は、今回のアジアベスト50における5度目の1位受賞は、開催側も見直したほうがいい、2回1位になったら、もう「殿堂入り」にすべきだと思う。
アジアにしてもワールドにしても、50位以内にランクインすることに対するシェフたちの喜びと、その影響の大きさは、年を追うごとに増加してきているように思う。
2.選考のための厳格な内規
では、いかにして選出されるのか。これは色々と取材を進めると、ミシュラン同様に厳格な内規下にあるようだ。
まず参加国は「アジアベスト50」で16カ国。各国に「voter」と呼ばれる評議員(投票者)がいて、その数360名。フードライター、フーディー、シェフ、レストラン経営者、料理専門家などで、その銘々が自分の嗜好だけに従って投票をする。
ゆえに、オリンピックやアジア大会に喩えてはみたものの、内実は、よーいどんでタイムや質を競うわけではない。飽くまでも個人的な好き嫌いによる人気投票であるし、選考の過程が晒されるものでもない。まあ、アカデミー賞みたいなものと言われるのもよくわかる。
ちなみに、この評議員は身分を明かすことは固く禁じられている。完全な覆面であり、主催者側から経費はビタ一文も出ないらしい。従って、自腹メシとなる。覆面の部分はミシュランの調査員と同じだが、経費が出ないとはさぞかし厳しかろう。
各評議員は10票を有していて、最大6票までは自国の店に投票することができる。さらに、投票対象は投票日より18カ月以内に訪れた店であることが厳格に義務付けられている。店のコンディションは絶えず変わるから、それも理に適っている。
しかし、その反面、自腹で国内外を移動し、食事代も払う投票者側にとっては、なかなかのハードルの高さと言えるだろう。投票の際には、訪問日まで記載し、選考の理由まで書かねばならないそうだ。
そこまでの条件を突きつけられて、よくノーギャラで評議員をやる人間がいるもんだと感心する。
表彰式の跡には撮影会が開催される。
3.何を基準に選ぶのか
基本的には、覆面の評議員による「人気投票」であるから、銘々が何を考えて選考しているのかは、本人以外はわからないはずだ。評議員同志にしても、うすうすと勘づいてはいても、投票について話すことは皆無であるようだ。
国によっては、組織票とかを図るところがあったとしても、結果は、主催者側には正当な票としか扱われないだろう。
評価される店側にしてみれば必死だが、ある程度は「遊び」と思って、少し引いて受け止める必要もあるだろう。
とは言え、リストをじっくり眺めると、ランクインしているレストランにはある種の傾向は確実にあるようにも思える。
もちろん美味しいことは第一条件だが、それだけではない。要約すると、革新性、独創性、シェフの人間性&社交性、他のシェフとの協業性、ホスピタリティ、サステナビリティ、環境への配慮、生産者や地域社会との関係性……などであろう。
もちろん、それらを全部成し遂げることは不可能だ。シェフたちは毎日が鬼のように忙しいからだ。実際には革新性と独創性とシェフの人間性&社交性ぐらいが考慮に入れられているのかもしれない。
ロビー活動ではないが、他国のシェフとのコラボレーションを積極的に行うことなどは、アピールポイントになり得るのではないか。
アジアベスト50の授賞式の会場となった韓国のグランド ハイアットソウル。
ミシュランとベスト50
もちろん、「ミシュランガイド」、「ゴ・エ・ミヨ」、「OAD」などとの共通店は出てくる。また差異があるところも面白い。
しかし、例えばミシュランガイドであるが、毎年双方を見つめていると、むしろベスト50の評価が、ミシュランの星に影響を与えているように感じられる部分もないではない。
ミシュランがグリーンスターによってサステナビリティを謳い始めたのは2021年版からだから、これもベスト50よりも遅いように思われる。ま、お互いに良い影響を与えられればいいだけの話だ。
一般人からしてみれば、「食べログ」を含めて、店選びの指標が増えれば増えるだけ得することは間違いないだろう。
とはいえ、ミシュランの3つ星、2つ星、あるいはワールドベスト50、アジアベスト50辺りの店になってくると、予約を取るのはかなり困難になってきてはいる。中には、成績如何で、露骨に値段を上げてくる店があったりして、それは利用者にとっては迷惑千万な話でもあろう。
余計なことを言えば、法外な値付けをしてくるような店は、メディアもフードライターも紹介するのを考え直したほうが良いし、普通の利用者は真っ当な考え方を持つ店を選んだほうがいいだろう。
2025年の51-100位ランクイン店
では、この辺で、3月25日の授賞式の開催に先立って発表された2025年アジアベスト50の51-100位も紹介しておく。
63位 Cenci(チェンチ)京都
67位 Esquisse(エスキス)東京
69位 L’effervescence(レフェルヴェソンス)東京
76位 HARUTAKA(青空)東京
78位 HOMMAGE(オマージュ)東京
83位 Hajime(ハジメ)大阪
日本からはミシュランで3つ星を獲得したばかりの銀座の鮨屋「青空」が、76位で初登場した。他の5軒は常連もしくは2回目だ。
ついでに、2024年のアジアベスト50の100位以内にランクインした日本の店は次の通りである。
「2024年のアジアベスト50の100位以内にランクインした日本勢一覧」
1位 セザン、2位 フロリレージュ、8位 傳、9位 ラ・シーム、14位 ナリサワ、35位 Villa Aida(ヴィラ・アイーダ)、39位 茶禅華、45位 ゴウ、47位 チェンチ、51位 レフェルヴェソンス、58位 クローニー、60位 鮨さいとう、66位 日本橋蛎殻町すぎた、67位 L’evo(レヴォ)、69位 マス、76位 明寂、80位 オマージュ、83位 エスキス
4.アジアベスト50の意義
では最後に、アジアベスト50の意義について考えみたい。
存在意義の筆頭に挙げられるのは、世界規模で、あるいはアジア規模で、レストランに順位付けを始めたことである。OADもランキングだが、開始されたのはずっと遅い。
料理に順位をつけるのはいかがなものか、料理の種類だってごちゃ混ぜじゃないか、という意見ももちろんある。日本食で考えれば、その大胆さはわかりやすい。鮨も蕎麦もフレンチもトンカツも横並びで順位をつけることに等しいからだ。
土台、無茶な試みではあるのである。フードディレクターの山口繭子氏が「異種格闘技」と呼ぶのはまさに正鵠を射ている。だから、参加するほうも見るほうも、あまりムキにならずに余裕を持って、この壮大な「お遊び」に臨むことが肝要なのではないか、な?
授賞式開催国になるメリットを見逃すな
日本でも官民一体の取り組みこそが課題だ
「アジアベスト50」の前に「ワールドベスト50」であるが、それが持つ功績は明らかである。
それともなると、投票数もかなり増えて1080票(人)なので、さすがにオリンピック的な色合いを帯びてくる。
が、実際には、ベスト50を創案した主催者はウィリアム・リード社というイギリスの会社であるから、やはりヨーロッパに軸足が置かれているのはやむを得ない。もしも日本が発案主催していたら、軸足はアジア地域になっていたはず。
例えば、昨年のワールドベスト50にランクインした日本の店は、15位「セザン」、21位「フロリレージュ」、32位「傳」と、たったの3つだけである。
日本のレストランのレベルを熟知し、また海外のレストランを知っている者にとっては、依怙贔屓でも何でもなく、日本の実力はこんなものではないことを確信している。
そこにあるのは距離的な不利だけである。ヨーロッパの評議員たちが等しく日本の店を体験しさえすれば、まだまだ入選が増えてもおかしくはない。
そのためにはシェフの個人の尽力だけでは如何ともしがたいものがある。
官民を合わせた共同プロジェクトが必須であろう。特に、官はボケーッとしていないで、この世界的な日本食のブームを捉えて、積極的な方策を打ち出すことが肝要である。
今回と前回のソウルを見ていただきたい。祭典を誘致したことで、自国開催は有利であり、ガストロノミーをこれからの観光資源として活用できることを、官の側は強く意識した。実際にそう述べている。
官による「積極的な方策」とは、放っておいても勝手に増えるインバウンドの数に欣喜雀躍することではない。故・ジョエル・ロビュションやアラン・デュカスやヤニック・アレノの例を見れば明らかだ。一流の料理人は日本の食に魅了されるのである。海外の有力なシェフや経営者、あるいはフーディーを日本に呼び寄せることこそが肝心なのだ。
そのためには何よりも、東京都は「ワールドベスト50」を、地方都市は「アジアベスト50」を誘致することこそが、喫緊の課題なのである。
「ワールドベスト50」の明瞭な功績
さて、ではベスト50の功績は何かと言えば、先に挙げたワールドベスト50の1位となったリストをご覧いただきたい。これが意味するところは一目瞭然だ。
まず、2002年の初年度の「エル・ブリ」だ。全部で5回戴冠しているが、エスプーマ(泡)だの分子調理法だの様々な調理科学を駆使した料理は、まさに料理世界を席巻した。フェラン・アドリアとジュリ・ソレールが切り拓いた革命的な影響はフランス料理を迷走させ、一時はフレンチの料理人が何をやっていいのかわからなくなるほどだった。
そして、猫も杓子も泡、泡、泡。そんな時代があった。
この「エル・ブリ」を世界の表舞台に引っ張ってきたのは、まさにワールドベスト50の功績と言えるだろう。
また一度スペインという地に灯された革新性の萌芽は、その後の2013年「エル・セジェール・デ・カンロカ」や、2024年「ディスフルタール」として結実を生む結果にもなっているだろう。
顕著な例はもう一つ、2010年の「ノーマ」の登場である。ここも5回頂点に輝いている。デンマークに流星のごとく登場した革命者レネ・レゼピは、料理不毛の地と思われていた北欧にまったく新しい息吹を吹き込んだ。
メニューの開発研究チームが、寝ても覚めてもそれだけをやっているのは、「エル・ブリ」からのインスピレーションだろう。
ノーマの萌芽は、2022年の「ゼラニウム」として結実している。
アジア中のシェフたちが集結する唯一の場
では、アジア大会であるアジアベスト50に目を転じるとどうか。
例えばシェフ同志のコラボレーションがかつてないほど行われるようになったのは、アジアベスト50の大イベントに、アジア地域の主だったシェフが集結したからである。
そんな機会も場所も他には一切ない。この祭典は唯一無二のものだ。そこでシェフ同志が結びつくことによって、コラボレーションが可能となるのだ。
コラボがなぜ重要かと言えば、例えば、タイ料理とフランス料理のコラボ、広東料理と日本料理のコラボを想像してみてほしい。技術も違えば食材も違う両者が、お互いに胸襟を開くことによって、お互いが蒙を啓かれ、自分の殻を破ることになるのである。
技だけではない。食材をどう捉えるか、生産者とどう関わるか、スタッフをどのように育成するか、様々な点においてお互いが刺激することになるのである。
そこで得たインスピレーションは、やがては新しい一品となってわれわれ利用者が享受できるようになるだろう。
シェフたちが仕事を休んでまでして駆けつけるのは、それだけの意味がある。年に一度のこの祭典ほど、有意義なものはないとも言える。
日本人のシェフとその関係者。
5.アジアベスト50のもう一つの意義
アジアベスト50は、主催者がテーマを掲げている。ここ数年は、「その土地らしさ」と「サステナビリティ」だ。
SDG’Sやサステナビリティはもう聞き飽きたとは思わないでいただきたい。食にとってのサステナビリティは切迫した課題でもあるのだ。魚や肉は無限ではない、例えば日本の米にしたって足りないのが現実だ。飲食に係るスタッフも慢性的に不足している。サステナブル(持続可能)なことに、飲食店は日々向き合っている。
そもそもアジアの料理はサステナブルな側面を持っている。発酵による保存、漬物による保存、乾物による保存、さらには旬の食材を活かす食文化。古くから持続可能性は考えられてきた。
もちろん、例えばヨーロッパや南米の料理にも、同様にサステナブルな側面がある。その部分がクローズアップされることは、大きく言えば、人類にとっても大事なことなのである。
授賞式の前日、アジア地区内の最高峰レベルのシェフに話を聞くイベント「Meet the Chefs(ミート・ザ・シェフズ)」が行われた。
左から、ディレクターのウィリアム・ドリュー、香港「Mono」のシェフ、リカルド・チェネトン、ムンバイの「アメリカーノ」のアレックス・サンチェスとマリェーカ・ワツァ、マカオの「シェフ・タムズ・シーズンズ」のタム・クオック・ファン。
テーマはずばり、「アジア料理におけるサステナビリティ」である。その企画意図をベスト50のコンテンツ・ディレクターのウィリアム・ドリューが話す。
「サステナビリティはガストロノミーの根幹を成すものです。将来に向かって、それはますますメイン・ストリームになっていくでしょう。最近は、食材だけではなく、人材や生産者との関係性の観点からサステナビリティが語られることが多くなっていますね。それと、都市部と地方では、語られるサステナビリティが違ってくるので、幅の広い意見交換ができると考えました。
アジアベスト50にランクインするような店は、サステナビリティについてきちんと考えている店なんだということを広報していくのも重要なのです。最近の新しい潮流としては、ラグジュアリーな店でも必ずしもキャビアのような高級食材を扱わなくなってきていることです。食べにくるゲストの中にも意識の変化が起きているのです」
リカルド・チャネトンは、今年のアジアベスト50で24位にランクインした強者だ。28歳という若さで香港にあるイノベイティブ・フランス料理の「Mono(モノ)」を開業した。
「私にとってのサステナビリティとは、一言で言えば不完全性こそが完全性であるということです。かつては例えばトマトやジャガイモがひしゃげていたり、穴があいていたりしても、野菜とはそういうものでした。自然な不完全性を再認識することが大事だと思う。店では、中国のローカルマーケットからそういう野菜を入手して展開しようとしています」
タム・クォック・ファンは、マカオの名店「ジェイド・ドラゴン」でその才能を発揮した。現在はウィン・パレスの中にある、「Chef Tam’s Seasons(シェフ・タムズ・シーズンズ)」で広東料理の神髄を披露している。今年のアジアベスト50で9位。
「私が考えるサステナビリティはシンプルです。魚などの海産物は市場に買い付けに行きます。それ以外の肉や野菜などの食材が少ないマカオでは、食材を注文しすぎないことと、使い残しをなるべく出さないことが重要です。いわゆる食品ロスの問題ですね。それと中国料理の調理法で、発酵・乾燥・漬物、この3つはサステナビリティにつながると思っています」
違った視点を与えてくれたのは、ムンバイの名店「Americano(アメリカーノ)」を率いるアレックス・サンチェスとマリェーカ・ワツァだ。同店は2025年のアジアベスト50で71位にランクインしている。
「インドにおいて最も大事なサステナビリティがあるとしたら、それは人材の確保です。インドでは、飲食業界はホテル業界に比べて下位に位置します。ですから、『9時間/週6日=54時間労働』という労働環境を整えて、飲食業界で働くことの自信を持ってもらうことが重要になってきます」
サステナビリティと言っても、所が変われば内容も変わってくる。4者4様の視点を与えてくれたのは、実に有意義だった。
2025年のアジアベスト50の結果については賛否両論あると思うが、シェフたちをはじめとする関係者たちのたゆまない努力に称賛を送りたい。
(文中敬称略)
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
2025.3.27
米と日本人を繋ぐ、伊勢神宮の祈りとは?
麻苧で束ねられた抜穂
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日本人にとって大切なお米は、神と人を結ぶお供え物でもある
日本人にとって、お米は大切な主食。伊勢の神宮の祭祀も、稲作に関するものが実はほとんどという。そもそも稲作は、縄文時代後期に日本に伝来したとされている。以来、お米は稲魂(いなだま)という神霊が宿る食べ物と信仰され、神々へお供えされるとともに自身もいただき、それによって神様とつながり、力が授かると考えられてきた。数ある食べ物のなかで、なぜお米が日本人の主食となり、古来、神宮の祭祀の中心に据えられてきたのか。
今回は、日本人とお米、そして、神宮の祭祀について紹介しよう。
『日本書紀』に行き着く日本人とお米の関わり
日本人とお米の関わりの起源を辿っていくと、『日本書紀』に行き着く。この連載の第1回で紹介した天孫降臨、つまり、天照大御神の孫にあたる瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が、大御神から三種の神器(じんぎ)を託されてこの地上世界に降り立ったとき、もう1つ託されたものがあった。それが、神々の住む高天原(たかまのはら)の神聖な田で稔った稲穂。
この稲穂を基に、大御神は地上世界で稲を育てるよう、瓊瓊杵尊に授けたという。さらに、『日本書紀』の別の段では、大御神が、お米をはじめとする五穀、つまり豆や麦、粟、きびを地上世界の人々が食べて生きるべきものと位置づけたと伝えている。
「稲(いね)」の語源は「生命(いのち)の根」。豊かな国づくりの源は稲作だった
この神話を後世に伝えるメッセージと捉えるならば、天照大御神の子孫にあたる歴代の天皇は、稲作を広め、それによって豊かな国づくりを目指したと解釈することもできるだろう。
ちなみに、稲の語源は「生命(<u>い</u>のち)の根(<u>ね</u>)」。古くはこの地上世界も、神代の伝えで「豊葦原(とよあしはら)の瑞穂の国」、つまり、「水に恵まれ、稲が立派に稔る国」と呼ばれていたという。
伊勢神宮の神様に供えるお米は「神宮神田」で育てられる。
ともあれ、お米は日本人の主食となり、人々は稲作を中心とした暮らしを営むようになった。天皇陛下も、皇居内の御田(みた)で自ら田植えと稲刈りを行い、毎年稲が稔ると、その初穂をまず天照大御神に、感謝の祈りとともに捧げている。
古来、神宮の祭祀が稲作の暦––––つまり、季節の巡りに合わせて田を耕し、籾種を蒔いて苗を育て、その苗を水田に移し植えた後、雨などの自然の力を借りながら稲穂を稔らせ、収穫する、という一連の作業––––に沿って行われてきたのは、ひとえに、大御神によって授けられた神聖な稲穂を毎年無事に収穫して、その御心に報い、ご神恩に感謝を捧げるためなのだ。
2月からはじまる五穀豊穣の祈り「祈年祭(きねんさい)」
では、神宮では、年間を通して、どのような稲作に関する祭祀が行われているのだろう。
起点となるのは、2月に行われる「祈年祭(きねんさい)」。「年ごいのまつり」とも呼ばれるこの祭祀は、内宮、外宮の両正宮だけでなく、125社すべてで約1週間かけて行われ、五穀豊穣が祈念される。ちなみに、稲は年ごとの周期で稔ることから、「年」とも呼ばれ、「年ごい」は稲を乞う、つまり、豊作を祈念する意味になるという。
2月17日に行われる祈年祭で、奉幣の儀を行うために御正宮へ向かう勅使と黒田清子祭主、そして神職たち。奉幣とは、神様に幣帛(へいはく=神様にお供えする神饌以外のものの総称)を捧げることで、伊勢の神宮では、祈年祭、神嘗祭(かんなめさい)新嘗祭(にいなめさい)のときに、天皇陛下が遣わされた勅使が幣帛をご奉納になる。
神嘗祭では、天皇陛下からの初穂とともに、伊勢地方の農家も、懸税(かけちから)と呼ばれる初穂の稲穂を御垣に懸ける。収穫した稲穂をなるべく早く大御神にお届けする真心の表れが、懸税という。
脈々と受け継がれてきた各地で行われる春の祭り。それは「予祝(よしゅく)」
2月は春の耕作始めにあたる時期。
宮中をはじめ、全国各地で豊作を祈る春祭りが行われ、なかには、牛とともに田を耕し、収穫するまでの一連の農作業を模した所作を伴う祭りもある。これは、あらかじめ期待する結果を模擬的に表現することによって、その通りの結果が得られるとする、いわゆる「予祝(よしゅく)」に基づいた風習で、先人たちの生きる知恵とも言うべき信仰が、祭りという型を通して、脈々と受け継がれている証でもある。
もっとも、神宮の「祈年祭」は、そんな春祭りとは一線を画し、静寂の中、厳かに粛々と進められる。祭祀の際は、神職が古体の文章で書かれた神様への言葉、つまり祝詞(のりと)を、微音というかすかな声で奏上。
現代語では、そのゆかしさ、典雅さは伝わらないが、あえて意訳すると、「人々が苦労して育てた稲が良く育ったならば、初穂をたくさん差し上げ、お酒もたっぷりお供えします」という部分に、予祝の要素を感じさせる。祝詞には、言葉そのものに霊力があり、声にして発すると、その通りのことが実現するという言霊信仰が秘められているのだ。
「神田下種祭(げしゅさい)」から「神田御田植初(おたうえはじめ)」へ
その年の稲の豊作を願い、お供え用の米作りをはじめる儀式が続く
その後、4月上旬になると、内宮から2,5kmほど離れた神宮神田(しんでん)において、忌種(ゆだね)と呼ばれる清浄な籾種を蒔く「神田下種祭(げしゅさい)」が、5月中旬には、育った苗を水田に移し植える「神田御田植初(おたうえはじめ)」が行われる。
この神田は、元を辿れば、倭姫命(やまとひめのみこと)が、天照大御神にお供えするお米をここで作るようにと定めたと伝わる場所で、大御神が伊勢の地に鎮座した当初から存在するという。
興味深いのは、「御田植初」が、「祭」より格下の「式」という扱いになっていること。これは、田植えが世に広まったのが、室町時代から桃山時代にかけてのことで、それ以前は、籾種を直接田に蒔く直播(じかまき)栽培だけだったことが関係しているという。
つまり、清浄な籾種を直接神田に蒔く「神田下種祭」は、早苗を水田に植える「神田御田植初」より歴史が古いということだ。内容も、たとえば籾種を播く神事の前に、神職などが神田正面の小高い忌鍬山(ゆくわやま)に登り、まず山の神に、農具である鍬を作るために必要な樫の木を1本いただく許しを乞い、それから伐り倒した木で実際に鍬の柄を作って、その木の根元と枝葉を山の神にお返しするという、自然を敬い、感謝を捧げる祈りの原点とも言うべき神事が、人目に触れないところで行われる。
神田下種祭では、神田を管理する作長(さくちょう)が、忌鍬山の樫の木で作った清浄な鍬で田を耕し、苗代を作る所作が行われる。このとき、神職により御田歌(みたうた)が歌われる。
神田御田植初では、太鼓、笛、ササラ、鼓による田楽(でんがく)の囃子に合わせて、保存会の若い男女が足並みを揃え、苗が1列ずつ植えられる。
神宮の神田で行われる神田下種祭で、祭場に向かう神職や参列者。
5月と8月の2回行われる「風日祈祭(かざひのみさい)」
農作物の成長に風雨の災害がないように祈念する
やがて、神田に青々とした苗が一斉に並び植えられると、内宮の別宮、風日祈宮(かざひのみのみや)で、「風日祈祭(かざひのみさい)」が行われる。稲の生育に最も大切な5月と8月に行われる、この2度の祭祀では、「雨甘く、風和(やわらか)に」、つまり、天候が順調で災害もなく、ほどよい雨と風がいただけるようにと祈願される。
古くは7月1日から8月31日までの2ヶ月間、毎日朝と夕に、風雨の災いなく豊作であるよう祈る祭祀が、この風日祈宮で行われていたという。
今でこそ品種改良が進み、日々当たり前のようにお米がいただけるようになったものの––––もっとも、昨年からそうもいかなくなってきたが––––、本来、自然の力に左右される農作物である稲が、これまで2000年以上も毎年収穫でき、多くの人々の食卓に並んできたことは、いかに奇跡の連続だったか、その重みを、かつての「2ヶ月間、毎日2回」という祭祀の数から感じずにはいられない。
内宮の別宮、風日祈宮で行われる風日祈祭。現在は5月14日と8月4日の2度行われ、5月のみ菅(すげ)で編んだ御笠と御蓑がお供えされる。笠と蓑は、かつて農作業の必需品で、ほどよい雨と風をいただくシンボルでもあるという。
収穫の秋、9月に実施される「抜穂祭(ぬいぼさい)」
お供えする御料米の初穂を抜き奉る儀式
こうして稲は収穫のときを迎え、9月初旬には、やはり神宮神田で「抜穂祭(ぬいぼさい)」が行われる。
抜穂とは、忌鎌(いみかま)と呼ばれる清浄な鎌で稲刈りをした後に、稲穂だけを1本1本抜き取るという古代の収穫法で、鋭利な鎌がない時代の名残と考えられている。
古式のままに麻苧(あさお)で束ねられた抜穂は、数日間、神田で自然乾燥された後、辛櫃(からひつ=神饌など祭祀に必要な品々を入れて運ぶ檜の箱)に納められ、内宮は、御正殿と同じ神明造(しんめいづくり)で建てられている御稲御倉(みしねのみくら)へ、外宮は、日々神饌を調理する、いわば神様の台所である忌火屋殿(いみびやでん)で保管される。
抜穂祭を行うため、神田に向かう神職と奉仕員。
最も重要な祭祀「神嘗祭(かんなめさい)」
収穫された新穀を最初に天照大御神に捧げて感謝をする
そして10月、いよいよ神嘗祭(かんなめさい)が行われる。
神宮で最も重要、かつ最大の祭祀とされる神嘗祭は、天皇陛下自らが刈り入れされた初穂をはじめ、全国各地の農家から、その年に獲れた新穀を天照大御神に献じ、感謝を捧げる祭祀。大御神から授かった稲穂を今年も無事に稔らせ、その御心に報いることができた感謝とともに祈られるのは、皇室の安泰と、人々が平和で豊かで、平穏な暮らしが送れるようにという願い。神宮では創建以来、さまざまな祭祀を行って天照大御神に感謝を捧げ、それとともに五穀豊穣と国家の繁栄、人々の幸せを祈り続けてきたのである。
春に豊作を祈り、秋は収穫に感謝する
思えば日本では、古来新穀をいただくことで、神々や天皇陛下、さらに一般人に至るまで新しい力が授かると信じられてきた。
だからこそ、何よりもまず神嘗祭で天照大御神に初穂を捧げ、次いで天皇陛下が、宮中で天神地祇(てんじんちぎ)、つまり、天上世界と地上世界、それぞれに住む神々に新穀を供え、ともに召し上がるという新嘗祭(「にいなめさい」神宮でもこの日に合わせて新嘗祭が行われる)を行って、最後に村々で秋祭りが行われ、人々がいただくという流れになっていた。昔は新嘗祭が終わるまで、人々が新穀を食べることを控えた背景には、そんなお米への信仰が広く浸透していたからなのだろう。
御稲御倉。内宮の御正宮から、別宮の荒祭宮(あらまつりのみや)へ向かう途中にある。
皇室のご安泰、国民の幸福に日々祈りが捧げられている
神饌でも、お米は水や塩とともに中心的な存在だ。
大きな祭祀はもちろん、毎日朝と夕の2度、内宮と外宮の御祭神にお食事を差し上げる「日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)」でも、前夜から斎館に籠り心身を清めた神職が、火鑽具(ひきりぐ)で火を鑽り出し、その忌火(いみび)と呼ばれる清浄な火と、神々の住む高天原の水と和合したと伝わる外宮の上御井(かみのみい)神社の井戸から汲み出した神聖な水とでお米を蒸し、御飯(おんいい)と呼ばれる「おこわ」にしてお供えされるという。
1粒の籾種から2000粒、3000粒のお米を稔らせる稲は、考えれば考えるほど稀有な食べ物。日頃忘れていたお米のありがたみを、神宮の祭祀を通して気づかされた。
毎日朝と夕の2度、外宮の御正殿の裏にある御饌殿(みけでん)で行われる「日別朝夕大御饌祭」に奉仕する神職たち。内宮と外宮の御祭神にお食事を奉るこの祭祀では、忌火屋殿で神饌が調理された後辛櫃に納められ、御塩で清められる。その後、禰宜が発する警蹕(けいひつ)という御先払いの低い声とともに御饌殿に運ばれる。
Text by Misa Horiuchi
伊勢神宮
皇大神宮(内宮)
三重県伊勢市宇治館町1
豊受大神宮(外宮)
三重県伊勢市豊川町279
文・堀内みさ
文筆家
クラシック音楽の取材でヨーロッパに行った際、日本についていろいろ質問され、<wbr />ほとんど答えられなかった体験が発端となり、日本の音楽、文化、祈りの姿などの取材を開始。<wbr />今年で16年目に突入。著書に『おとなの奈良 心を澄ます旅』『おとなの奈良 絶景を旅する』(ともに淡交社)『カムイの世界』(新潮社)など。
写真・堀内昭彦
写真家
現在、神宮を中心に日本の祈りをテーマに撮影。写真集「アイヌの祈り」(求龍堂)「ブラームス音楽の森へ」(世界文化社)等がある。バッハとエバンス、そして聖なる山をこよなく愛する写真家でもある。
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旅館の矜持 THE RYOKAN COLLECTIONの世界
2025.3.31
相模湾の眺め、美食、温泉……「ひらまつ」のもてなしのすべてがここに。「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」 女将・荒井眞由美
玄関で出迎える荒井女将。正面に飾られたのは書家・井上有一の作品。他にホアン・ミロや陶芸品のコレクションも見事だ。
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「ザ・リョカンコレクション」に加盟する旅館の女将や支配人を紹介する連載「旅館の矜持」。今回は「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」の女将・荒井眞由美さんをご紹介します。
「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」は、相模湾を一望する高台につつましやかに佇む瀟洒な宿です。自らを、〝ヨーロッパの旅館″と呼んでいます。全6軒あるHIRAMATSU HOTELSのなかで2番目にできました。熱海は多くの文豪や財界人が時を過ごした文化の匂いが感じられる温泉街ですが、宿の風情はこの土地により一層の興を添えています。宿のコンセプトである「滞在するレストラン」は、いまや確実に認知されてきています。スタート時点から先頭に立ってここを率いてきた、女将の荒井眞由美さんに話を伺いました。
唯一無二の相模湾の眺望
「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」のオープンは2016年で、開業してから9年が経ちます。私がここで女将を務めてから、同じ月日が流れたことになります。
この宿について誇らしく思うことが二つあります。
朝焼けをバックに施設の外観を遠望する。高台に位置することが一目でわかる。大きな水盤と数寄屋造りの母屋が見事。
一つは現代の名工と謳われた木下孝一棟梁の手による数寄屋造りの母屋です。漆黒の屋根瓦から障子の貼り方一つにいたるまで、細部に目を凝らせば凝らすほど素晴らしい。あまり使うことはありませんが、お茶室はプロの方が見ても敬嘆なさるようです。壁の漆喰塗に現れた侘び寂びの世界には、思わずため息が出ます。
二つ目は、目線が水平線とちょうど同じ高さになる相模湾の眺望。快晴の日には、初島、大島はもちろん、三浦半島や房総半島までを一望できます。この景色に心癒されるお客様はとても多いのです。ですから、景色に向かって、「本当にいつも、ありがとう」と言っています(笑)。
ダイニング脇のテラスにて。食前のアペリティフ、食後のディジェスティフをとりながらここで過ごすのもすこぶる快適だ。
「親戚の家」に泊まりに来た感覚
黙っていてもこうした恩恵の元にある宿ですけれども、そこに魂を入れるのは私たちスタッフです。「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」の最大の特徴は、ゲストの皆様に、どこか懐かしく、和んでいただけることだと思っています。それが端的に感じられるのはリピーターの多さですね。
私が思い描いている理想像は、宿を「親戚の家のように」思っていただくことなのです。家族とまで言うのはおこがましいですから、「親戚」ぐらいの表現に留めておきますが。まるで親しい人の住まいを再訪するときのように、わざわざお土産を手にされて来て下さるお客様が多いこともあるので、ある程度は叶えられているのかも知れません。だとすれば、女将冥利に尽きますね。
2つある特別室の内の「松の間」、遠くに初島が見える。座卓での夕食・朝食を選ぶことも可能だ。
「松の間」のテラスに設えられた露天風呂。お風呂につかりながら水平線までの大パノラマを見渡せるのは唯一無二だろう。
全13室で、すべての客室がオーシャンビューだ(写真は「1F コーナースイート」)。いつでも名湯を楽しむことができるし、ソファでくつろぐのもいい。
くつろいでフランス料理のフルコースを
この宿の中心となるのは、温泉はもちろんですが、フランス料理のディナーです。料理長の猪野圭介、クリエイティブディレクターの鈴木健太郎、ふたりのシェフが、地元食材をつかって創りあげます。猪野は伝統的なフランス料理、鈴木はモダンスタイルのフランス料理を得意としています。
相模灘と近隣の畑の恵み、そして全国から旬の素材が届く。ひらまつ各店で研鑽を重ねたふたりのシェフが、極上のフランス料理に仕上げてくれる。
熱海という土地は、魚介類に恵まれているだけではなく、美味しい野菜がたくさん採れるのです。シェフは漁港や畑に通い、地域との関係性を深める良い機会になっています。料理は、土地の利を活かした魚介と野菜を盛り込み、日本全国から取り寄せた旬の素材も組み込んだフルコースです。
夕食時のダイニングから見える、暮色に染まった空と水盤上の篝火は幻想的ですらある。リゾート感が最高潮を迎える刻だ。
湯上りの寛いだ装いでそのままダイニングにいらっしゃる方もいらして、ご自宅のようなリラックスした気分でフランス料理のフルコースをたのしめることも魅力です。当宿のコンセプトは「滞在するレストラン」ですから、食の場面で十二分にリラックスしていただけることが私どもの喜びですね。
「宿の顔は総支配人じゃなくて女将」
HIRAMATSU HOTELSは、賢島(三重)、熱海(静岡)、仙石原(神奈川)、宜野座(沖縄)、京都、軽井沢 御代田(長野)の順番で出来ました。そもそも私どもは、レストラン発祥のホテルですが、レストランが宿を作ってしまうのは珍しいんじゃないでしょうか。
さらに珍しいのは、開業当初、未経験の分野であるのに、ホテル経験者を一人も入れなかったことです。ひらまつでレストランやブライダルに携わっていたメンバーだけで、旅館事業を始めました。
いま振り返っても驚きを隠せませんが、それが当時のひらまつらしさなのです。レストランのひらまつらしさを出すためには、それが大切だというのが創業者の考え方でした。
私が女将になったいきさつは簡単です。創業者に「この宿の顔は女将だよ。だから、女将をやってくれ」と言われたからです。創業者はフランスのオーベルジュをイメージしていたと思いますが、宿というものには顔がないとダメだと気付いたんでしょうね。私に声がかかったのは、完成するたった2カ月前のことでした。
どうして創業者が私を指名したかと言いますと、これも簡単です。場所が東京から近い熱海だから、おそらく著名人がたくさんいらっしゃるし、お客様の要求のハードルが高いことが容易に予測できたわけです。私はブライダルで様々なお客様に接していて、経験を積んでいたので、臨機応変に対処できると思われたのでしょう。
実際に来て下さるお客様は、どなたでもご存じのような文化人や著名人、外国の著名人がとても多いですね。
ホテル業はゼロからのスタート
女将業はゼロからのスタートでしたが、ホテルの開業自体もゼロからです。ひらまつで培ってきたレストランとブライダルのノウハウがあるだけで、宿泊業に関してはまったくの手探りです。レストランとホテルの間で大きく違うのは、滞在時間です。そこが最大の課題でしたね。
実際に開業してみると、最初はお客様からたくさんのご指摘がありました。困難なことばかりで、落ち着くまでには1年半ぐらいかかったかしら。悩み多き日々でしたが今日まで続けられたので、頑張ったね!と自分をほめています。
「松の間」の縁側にて。「開業から困難なことばかりで、落ち着くまでには1年半ぐらいかかったかしら」
「ひらまつイズム」と建築の継承
「ザ・リョカンコレクション」に加盟している他の施設の多くは、歴史も伝統も文化も確固たるところばかりでしょう? 重要なテーマとして、前代や前々代あるいはもっと以前からの「継承」が常にありますよね。
そういう意味では、当ホテルが継承したのは、レストランやブライダルで培った接客の文化であり、とにかく美味しいものを味わっていただくという文化です。ひと言にすると、「ひらまつイズム」ということになるのでしょう。
さきほど親戚の家に来たような気持ちと言いました。考えてみれば、この数寄屋造りの建築は以前、ある会社経営者の別荘兼ゲストハウスだったんですね。その方は奥様と一緒に、細部に至るまで趣味の良い贅を尽くされたのです。
人が住んでいた温もりがそこかしこに残っているのもそこに理由があると思います。だからこそ、いま泊まりに来られるお客様もそれを感じて、和まれるのではないでしょうか。
日本家屋が持つ温もりは、「梅の間」と「松の間」の2つの特別室にお泊りいただくのが一番です。とは言え、エントランスやダイニングやテラスなどのパブリックスペースでも、十分に堪能できます。
障子一つ取っても、難しい技術で貼ってある箇所は、京都の職人さんのところでやってもらっています。そういう意味で、この数寄屋造りの建築を維持していくことも大事な「継承」の一つと言えます。
アパレル業界からブライダル業界へ
そもそもの身の上話をしますと、私はひらまつに来る前は、アパレル業界で働いていました。でも、私の頭の一角をずっと占めていたのはブライダル業界でした。そんなときに、ひらまつがレストランウエディングを始めることになったのですね。いまからちょうど29年前の1996年のことです。
その頃のブライダルの主流は、まだまだホテルや結婚式場の時代でした。ですから、ひらまつが着手しようとしたことは、時代の一歩先、二歩先を行っていました。ウエディングにおけるコーディネーターというのは――当社ではコンシエルジュと呼んでいますが――お客様の要望を一から十まで伺って結婚式を作り上げることです。
この時もウエディングの経験者を外部から採用せずに始めました。レストランでお付き合いのあるお花屋さんや、お客様が持ち込まれたドレスショップなど、一緒にウエディングをつくりあげていくパートナーとなる契約先を徐々に増やしていきました。
こうしてウエディングに携わって20年間が経ったところで、私はホテルをゼロからやることになったわけです。
ブライダル コンシェルジュとして活躍していたころのポートレート。
「ひらまつアカデミー」の立ち上げ
出発点からしますと、現在というのはまさに隔世の感がありますね。
このホテルに来られる方が重要視しているポイントは様々です。アクティビティが好きな方はほぼいらっしゃいません。黙って海を見ることが好きな方、美味しい食事のために来てくださる方、温泉に入って静かな海の音だけを聞きたい方、スタッフとお喋りするのを楽しみにされている方などいろいろです。
迎える私どもは、最適な距離を取りながら、お客様に寄り添う存在でありたい。そして、基本的には、「美味しいものを食べて、ゆっくり温泉につかることがこのホテルのいいところなんだ」と思ってもらえたら、また来て下さると思っています。
事前にご要望があれば、出来る限りお応えしたい。客室が13室しかない、フェイス・ツー・フェイスのホテルだからこそ、それが可能だと思っています。
実は、最近、「ひらまつアカデミー」というものを立ち上げたばかりなのですね。これは後進に「ひらまつイズム」を伝承していく取り組みです。
例えば、ひらまつが考える「おもてなし」や「真のラグジュアリー」とは何かの教育です。そこにはリーデルやベルナルドや江戸切子がどういうものかなど、さまざまな雑学的知識も含まれます。いわゆる “雑学”ってとても大事で、それをきっかけにして、お客様と会話ができますから。私も教える側の一員として、文字にはなっていない経験を伝えていければいいなと思っています。
荒井眞由美 Mayumi Arai
1967年、東京都生まれ。アパレル勤務を経て、1996年、(株)ひらまつ入社。レストランウエディングの黎明期より、ブライダルコーディネーターとして活躍。後、ブライダル事業の統括責任者。2016年「THE HIRAMATSU HOTELS RESORTS 熱海」オープンとともに女将に就任、現在に至る。
構成/執筆:石橋俊澄 Toshizumi Ishibashi
「クレア・トラベラー」「クレア」の元編集長。現在、フリーのエディター兼ライターであり、Premium Japan編集部コントリビューティングエディターとして活動している。
photo by Toshiyuki Furuya
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日本のプレミアムなホテル
2025.3.24
「バンヤンツリー・東山 京都」喧騒を離れた、京都のサンクチュアリ
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清水寺と高台寺の間に位置する霊山(りょうぜん)に、世界有数のリゾート&ホテルブランド「バンヤンツリー・東山 京都」が2024年8月に誕生した。52室のラグジュアリーな客室と人気のバンヤンツリー・スパ、そして2つの個性的なダイニングを備えたバンヤンツリー・東山 京都には、ここにしかない体験と時間が約束されている。
世界的に憧れのリゾートホテルと人気が高いバンヤンツリー
バンヤンツリーのはじまりは、1984年へ遡る。バンヤンツリー創業者がタイ・プーケットのバンタオ湾にある550エーカーにおよぶ錫鉱山の跡地を取得し、汚染された土地を浄化するために7,000本を超える樹木を植樹して、酸性化した土壌を10年掛けて改善。
1994年、バンヤンツリーグループのフラッグシップ リゾートとなる「バンヤンツリー・プーケット」をはじめとする、アジア初の統合リゾートである「ラグーナ・プーケット」が誕生する。ラグーナ・プーケットは海辺の大きなラグーンを中心に、現在9つの高級リゾートホテルやヴィラが建ち並び、その近くにはゴルフ場やレストランが点在するプーケット随一の高級リゾートを形成。現在もさらなる開発が続いている。
また他にも、世界的なリゾートブランドの象徴として、世界の景勝地や歴史的な聖地、また美しいビーチやリゾート島などに次々とオープンさせており、地域活性・環境保護・ローカルコミュニティへの還元など、サステナブルな開発を行っている。
人気観光地「京都」につくられた、日本の伝統美に酔いしれる滞在
では、バンヤンツリーグループが京都でどのような世界観を作り出したのか、やはり興味が湧いてくる。
急な坂道をのぼっていくと京都市街を一望できる高台にたどり着く。そこに現れたのは、日本の伝統技術によってつくられた美しい木造の正門。喧騒を離れた静寂の空間と特別な時間の入り口である。
祇園の観光名所まで徒歩圏でありながら、喧騒から離れた静寂に包まれている。
ホテルの入り口にある天然木の門。
バンヤンツリーが描く日本の伝統美として掲げられたコンセプトは「幽玄」だと言う。幽玄とは、深遠な神秘を表す言葉であり、「風姿花伝」や「花鏡」といった世阿弥が残した能楽書に度々使われ、能と深く結びついた概念でもある。
そのコンセプトを象徴するように、ホテル敷地内には約12mの高低差を活かした3つの庭と竹林が広がり、中には「隈研吾建築都市設計事務所」がデザインした能舞台「The Noh Stage」がある。
ホテル敷地の中央にある能舞台「The Noh Stage」。
ホテルロビー。
木組みだけの構造体であるこの能舞台は、周囲の竹林、そして空と溶け合い、独特な建築美を持つ。水盤に浮かび建つその姿は、まるで時空を超えた空間のようであり、人間界と自然界の境界のようにも見える。
東山の霊山エリアといえば、敷地の北には大谷祖廟、南には鳥辺野とよばれた場所があり、古くから現世と来世を隔てる結界のような場所とされている。現在もこのエリアには寺院や神社が多く存在し、街中の賑わいとは異なり、神聖な静けさを保っている。
日本の美意識とリラクゼーションを追求するバンヤンツリーの感性の融合
次は客室を見てみよう。
ホテルのコンセプトである「幽玄」を踏まえ、能舞台にちなみ能の伝書のひとつ「風姿花伝」の中から「秘すれば花」という一節を客室のテーマにも掲げている。大きなヒバの木のバスタブや畳があったり、金箔のアクセントが使われていたり、日本の伝統的な技法が施されている。
「セレニティ・ダブル」。
「ONSENリトリート」のダブル洗面化粧台。
「グランドONSENリトリート」。
「天然温泉」の露天風呂。
ここにはかつて京都では珍しく温泉の源泉を有する老舗宿「ホテルりょうぜん」があったことから、天然温泉を引いており、客室の一部「ONSEN」ルームには天然温泉が引かれている。またゲストのみが使用できる大浴場「天然温泉」も完備。内湯に加えて露天風呂も楽しめる。
シングルルーム4室、ダブルルーム2室を備えた「バンヤンツリー・スパ」。
食に関しても興味津々である。シグネチャーダイニング「りょうぜん」では、地元の食材で作る会席料理、和食割烹料理を提供。京都の清らかな軟水に合う5年熟成の利尻昆布からとったコクのある出汁を堪能したり、京野菜や京都ならではの調味料を使ったり、ここでしか味わえない五感に響くヘルシーな食体験が待っている。
また、20席しかない隠れ家的なバー「BAR RYOZEN」では、県外に流通しない希少な日本酒を含む30種類以上の京都の地酒やプレミアム日本酒のほか、RYOZEN抹茶ジントニックやMirinブリーズなど、ローカル食材を使ったカクテルなど、独創的な味わいが楽しめる。
朝食・昼食・夕食がいただける「りょうぜん」。
美しい日本の美意識が表現された料理。
バンヤンツリー・東山 京都では、宿泊ゲスト向けに日本の文化体験のアレンジも行っている。能面師の工房を訪ねたり、非公開の香道体験をしたり、旅の醍醐味でもあるプレミアムな体験も叶えてくれる。
「京都」の街中の喧騒から離れて、バンヤンツリー・東山 京都が作り出す空間や時間に遭遇すると、古都・京都の本当の魅力を静かに感じることができるはずだ。
Text by Yuko Taniguchi
京都府京都市東山区清閑寺霊山町7番地
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鹿児島の「宝」を巡る旅
2025.3.28
焼酎の郷 鹿児島から世界へ羽ばたくジャパニーズウイスキー4つの蒸留所
ウイスキー蒸留所に併設された試飲コーナーで、蒸留所限定商品をはじめとするさまざまな銘柄のウイスキーを味わうのも、蒸留所巡りの楽しみのひとつ。「マルス津貫蒸溜所」に隣接するカフェバー&ショップ「寶常(ほうじょう)」にて。
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豊かな自然と、そこで暮らす人々の知恵が結びついたとき、その土地にはさまざまな「宝」が生まれる。鹿児島県の各地で生まれ、光り輝く数々の「宝」。それらは今や、世界が注目する存在になりつつある。「南の宝箱 鹿児島」を巡る旅。今回は鹿児島ならではの焼酎造りの伝統と技術をいかし、世界に通用するジャパニーズウイスキーを目指す「マルス津貫蒸溜所」「嘉之助蒸溜所」「火の神蒸溜所」「菱田蒸溜所」の4つの蒸留所と、そうしたジャパニーズウイスキーを味わう2軒のバーを紹介する。
都道府県別では最多のウイスキー製造所が点在する鹿児島県
日本の伝統的酒造りがユネスコの無形文化遺産に認定される一方で、ジャパニーズウイスキーも大きな注目を集め、輸出額では日本酒を上回るまでにいたっている。全国でウイスキー蒸留所(正確にはウイスキー製造免許場)は180カ所近く存在するが、なかでも都道県別では鹿児島県が13か所と最多を誇る(2024年国税局調査)。
火山性のシラス台地が濾過した清浄な水、かねてから焼酎を手掛けていた蔵元に伝わる酒造りの技術。この二つを兼ね備える鹿児島の蒸留所からは、ここ数年、個性豊かなウイスキーが相次いで生みだされている。
マルス津貫蒸溜所(本坊酒造株式会社)
発祥の地、津貫で再開されたモルト原酒蒸留
豊かな緑に覆われた山々が美しい稜線を見せて連なる薩摩半島の山間に、突如として姿を現す巨大な塔。高さ26メートルの威風堂々たる塔の壁面に鮮やかに描かれた「津貫」の文字。
ここが、100年以上と、焼酎の製造では鹿児島県でも有数の歴史と規模を持つ「本坊酒造」が手掛ける「マルス津貫蒸溜所」だ。かねてから長野などでウイスキー製造を手掛けている「本坊酒造」が、発祥の地である南さつま市の津貫(つぬき)で、モルト原酒蒸留を再開したのは2016年のことだった。
歴史を感じさせる石蔵と、聳え立つ「旧蒸留塔」とのコントラストが目を引く。(©本坊酒造)
巨大な蒸留器は、焼酎造りに注いできた熱い思いの証
1970年代前半まで稼働し、「本坊酒造」を代表する芋焼酎を製造していた蒸留器を覆う建屋として建築されたその塔は「旧蒸留塔」と呼ばれている。一歩足を踏み入れると、その蒸留器の巨大さに驚かされる。純度の高いアルコールを精製する際に生じる独特の臭みを除去するために設けられた長い蒸留管を備えた蒸留器は、「本坊酒造」が焼酎造りに注いできた熱意そのもの。
そうした蒸留器が、稼働を終えた現在でもシンボルとして遺されているのは当然で、そこには深い歴史を感じさせる。周囲の壁面には、鹿児島の焼酎造りをリードしてきた「本坊酒造」と本坊家の来歴をまとめたパネルも展示されている。
発祥の地である津貫での焼酎造りや、本坊家の歴史が展示された「旧蒸留塔」の内部。
現在の「マルス津貫蒸溜所」では、「津貫」の名前を冠したシングルモルトウイスキーが造られている。山間の盆地特有の寒暖差のある気候と、周囲の山々からの恵みである良質な湧水。そこに長年の焼酎造りで培われた歴史と技術が加わり、地名を冠した「津貫」銘柄が誕生。国内外で高い評価を得ている。
樽詰めされた原酒は、重厚な石蔵の貯蔵庫で熟成を待つ
ウイスキー造りの工程に欠かすことのできないのが熟成だ。「マルス津貫蒸溜所」では、石蔵の中で原酒が熟成の歳月を待つ。ヨーロッパの古城を思わせる重厚な外壁に囲まれた内部は静寂そのもの。控えめな照明に照らされた樽がずらりと並ぶ様子に圧倒される。
気がつくとほのかにウイスキーの香りが……。熟成を待つ間に、樽からほんの少しずつ蒸発する原酒がもたらす薫香だ。太い梁、石を積み上げた壁、コンクリートの床。薫香はすべてに深く沁み込み、それがまた歴史を醸成していく。
静まり返った石蔵樽貯蔵庫には、ほのかにウイスキーの芳香が漂う。
美しい日本庭園を眺めながら試飲。まさにジャパニーズウイスキーのひととき
蒸留所の隣には、かつて「本坊酒造」の二代目社長・本坊常????が暮らした邸宅「寶常(ほうじょう)」がリノベ-ションされ、カフェバー&ショップとして来訪者に公開されている。客座敷を改装したゲストルームは緑豊かな日本庭園に面し、石蔵樽貯蔵庫とは一転、明るく開放感に満ちた空間だ。
ウイスキーの試飲や蒸留所のグッズなども販売。使用する樽、熟成度合のなどで微妙に異なってくるウイスキーの風味の差を、身をもって体験することができる。見事に手入れされた日本庭園を眺めながら飲むウイスキー。それは、まさに「ジャパニーズウイスキー」ならではの味わいだった。
試飲カウンターでは、蒸留所限定のウイスキーを試すこともできる。
マルス津貫蒸溜所
鹿児島県南さつま市加世田津貫6594
Tel:0993-55-2121/営業時間 9:00~16:00/休館 12/30~1/3 ※臨時休業あり
入館 無料(試飲は全て有料)/売店 有り(寶常 Cafe Bar&Shop)
- 見学時間 蒸溜所(自由見学):約30分 寶常(有料試飲・売店):約15分
嘉之助蒸溜所(小正嘉之助蒸溜所株式会社)
東シナ海を見下ろす絶景の高台に建つ瀟洒な蒸留所
海亀の産卵地として知られる、東シナ海に面した吹上浜を見下ろす台地に建つ「嘉之助蒸溜所」。「マルス津貫蒸溜所」が山の蒸留所ならば、「嘉之助蒸溜所」は、海の蒸留所と呼ぶのが相応しいかもしれない。
2017年に誕生したこの蒸留所は、140年以上の歴史を持つ老舗焼酎メーカー「小正醸造」が設立した。「小正醸造」といえば、「メローコヅル」の名で知られる樽熟成の米焼酎を手掛けてきた酒造である。焼酎を専門としてきた老舗酒造が、ウイスキーを始めたのには、4代目にあたる小正芳嗣さんの熱い思いがあった。
蒸留所の外観は、景観を損なわないよう、周囲の砂丘に溶け込むような色調でまとめられている。(©嘉之助蒸溜所)
世界で通用するウイスキーを造り、いつか蒸留所の原点である焼酎を広めたい
「『メローコヅル』は日本で初めて樽熟成を行った焼酎です。6年という長期の樽貯蔵を経て、1957年に発売が始まりました。まろやかでとても素晴しい焼酎で、日本では今でも多くの方に愛されています。ところが、4代目となった私が、海外に販路を求めようとしても、当時海外では、蒸留酒を食中酒として飲む文化が無く、さらに世界の蒸留酒の多くがアルコール度数40%以上であるのに対し、25%程度である本格焼酎は中途半端だという理由で、日本人海外駐在員などが利用する日本料理店などにニーズはとどまり、なかなか販路が広がりませんでした」
「それならば『メローコヅル』で培った樽熟成の技法で世界に通用するウイスキーの味わいを通して、私の原点である焼酎と焼酎文化を世界に広めたい。そんな思いで2017年に、このウイスキー蒸留所を立上げました。『嘉之助』とは、世界を見据えて『メローコヅル』を生み出した、私の祖父にあたる2代目、小正嘉之助の名前です」
4代目小正芳嗣さんは「嘉之助蒸溜所」を立ち上げる際、本場スコットランドのウイスキー蒸留所を数多く巡り、知見を広めた。
長年の焼酎造りが培った技術が可能にした、3基の蒸留器の使い分け
「嘉之蒸溜所」では3基の蒸留器が稼働している。それぞれ形状や性能が異なる蒸留器で原酒を造り分け、それらを組み合わせることで、さまざまなバリエーションの香りや味を備えた原酒ができあがる。
3基の蒸留器を持つウイスキー蒸留所は、日本でも稀有な存在だ。
「嘉之助蒸溜所」の母体である「小正醸造」は、「嘉之助蒸溜所」から車で5分ほどのところにある「日置蒸溜蔵」で、そこでは現在も焼酎を製造している。「日置蒸溜蔵」では、もともと7基もの蒸留器を使いこなし、数々の焼酎を生みだしてきた。こうした技術が継承されているからこそ、ウイスキー造りに必要な、複雑で手間のかかる工程も可能となった。定番商品のうち、ポットスチルウイスキーの原酒は、焼酎の技術を活かしてここで生みだされている。また、通常使われるバーボン樽やシェリー樽に加え、「メローコヅル」を貯蔵してきた樽を用いてウイスキーを熟成させるなど、さまざまな工夫や取り組みが随処に見られる。
窓の向こうに広がる雄大な東シナ海を眺めながら味わう「MELLOW」なウイスキー
蒸留所見学で最後に訪れる試飲コーナーは、「嘉之助蒸溜所」で造られるウイスキーのコンセプトでもある「MELLOW」の名を冠した「THE MELLOW BAR」。一枚板のカウンターとガラス張りの窓の向こうに、雄大な東シナ海が広がる。
「海に近い蒸留所ですから、スコットランドのウイスキーによくあるような、ピートが強調された、いわば苦みと塩辛さが際立つテイストも考えてはみました。でも、『KANOSUKE』が造るウイスキーは、やはり柔らかくメローでなければならないと思い、そちらの方向にはもっていきませんでした」
小正さんのレクチャーを受けながら、「嘉之助蒸溜所」のフラッグシップともいえる、「シングルモルト嘉之助」をはじめとする3種類のウイスキーを飲み比べる。
微妙に異なる味わいのなかに共通するのは、上品で優しい甘苦さ。そこには小正さんの言葉通り、確かに、「メローコヅル」から連綿と受け継がれ、焼酎造りの技術を活かした造りの「KANOSUKE」が大切にしてきた樽熟成ならではの柔らかで豊潤な味わいが息づいていた。
東シナ海を一望することができる「THE MELLOW BAR」。試飲に登場する銘柄は、「シングルモルト嘉之助」のほか「嘉之助 HIOKI POT STILL」「嘉之助 DOUBLE DISTILLERY」など。
嘉之助蒸溜所
鹿児島県日置市日吉町神之川845−3
Tel:099-201-7700/営業時間 10:00~17:00(ショップは16:30まで)
休館 月曜日(月曜が祝日の場合は営業)、年末年始、その他臨時休業あり。
※見学は事前予約制。見学希望日の1週間前までに申し込み要。見学料は1,000円(テイスティング込み)。詳細および申し込みは嘉之助蒸溜所HPへ。
火の神蒸溜所(薩摩酒造株式会社)
本土最南端のウイスキー蒸留所が枕崎に誕生
芋焼酎の「さつま白波」で知られる、「薩摩酒造」の「火の神蒸溜所」が、2023年からウイスキー製造を開始した。これによって、本土最南端のウイスキー蒸留所が誕生したことになる。全面ガラスのモダンな蒸留棟の内部に設けられた2基のモルトウイスキーの蒸留器にくわえ、敷地内にはグレーンウイスキー用の連続式蒸留器も備えられている。
先端科学を扱うラボをも思わせる、全面ガラスの蒸溜棟。(©火の神蒸溜所 )
「クーパレッジ(樽工房)」を持つ、日本でも珍しい蒸留所
「薩摩酒造」は、「マルス津貫蒸溜所」を持つ「本坊酒造」を基軸とする「本坊グループ」の一員を担う酒造メーカーである。したがって、ウイスキー造りでは先輩にあたる「本坊酒造」からのアドバイスも受けながらの蒸留所立上げとなった。「火の神蒸溜所」の最大の特徴は、モルトウイスキーに加えてグレーンウイスキーの製造体制が整っているだけでなく、「クーパレッジ」と呼ばれる「樽工房」を所有していることだ。
「薩摩酒造」は、「さつま白波」と並ぶ代表銘柄「神の河」を生産するにあたり、焼酎業界で唯一の「樽工房」と「樽貯蔵庫」を設置している。ウイスキーの味を決める重要な役割を担う樽を自前で扱う焼酎蔵はほとんどない。20年の歳月が経ち、それがウイスキー造りで再び脚光を浴びることとなった。
樽のメンテナンスは、ウイスキー製造には不可欠の作業
訪れた「クーパレッジ」では、3人の若い職人が、樽のメンテナンスに取り組んでいた。巨大な空樽を自在に操り、フープと呼ばれる箍(たが)の調節や、天面や底板の取り換えなど、仕入れた樽の修復を行っている。
樽は原酒が長い時間を過ごす家のようなもの。その家を手入れし、原酒にとって居心地の良い環境に整える作業は、無くてはならない縁の下の力持ちのような存在。現在、日本には樽職人は数十名しかいないといわれている。そういった点でも「クーパレッジ」を持つ「火の神蒸溜所」が持つポテンシャルは高いといえよう。
天板と側板との間に生じる隙間を防ぐパッキングとして、蒲(がま)の茎をはめ込む。
若き職人たちの地道な作業が、美味しいウイスキーを生む。誇りを持って仕事に臨む姿は美しい。
枕崎の風土が育むシングルモルト。ファーストリリースに集まる期待
ファーストとなるシングルモルト「火の神」は、2026年にリリースが予定されている。また、2025年内には、蒸留棟の一般公開や、蒸留棟と同じ敷地内にビジターセンターを備えたゲスト用のスペース設立も予定されている。
チーフディスティリングマネージャーの松嵜聖彦さんは次のように語る。「枕崎は温暖でありながら、夏は暑く、冬は時には雪が降るほど、複雑な気候。しかも海に近く、潮風の影響もありおそらく熟成が早く進む環境です。そんな環境下にあって、本土最南端の蒸留所からどんなウイスキーが生まれるか、私自身も楽しみにしています」ファーストリリースが待ち遠しい。
「同じグループの『マルス津貫蒸溜所』のアドバイスを受けながら設置した蒸留器ですが、津貫とは異なる味わいを目指しています」と、松嵜さん。
樽工房を持つ本土最南端の蒸留所からは、どんなウイスキーが生まれるのか。期待が高まる。
火の神蒸溜所
鹿児島県枕崎市火之神北町388
*ビジターセンターが完成する2025年11月には見学開始予定
菱田蒸溜所(天星酒造株式会社)
県内屈指の超軟水「菱田の地下水」を用いた、まろやかな風味
薩摩半島の反対側、大隅半島でもウイスキー造りが産声を上げた。蒸留所の名前は「菱田蒸溜所」。鹿児島県内随一の軟水といわれる「菱田の地下水」を仕込み水に用いた焼酎の製造元である「天星酒造」が運営する蒸留所である。
菱田地区は良質な伏流水が得られる土地として知られ、明治期には二十数件もの酒蔵が稼働するほど、焼酎造りが盛んな土地だった。「天星酒造」は、そうした酒蔵のひとつとして120年以上前からさまざまな焼酎を生み出してきた。
明治期には二十数軒を数えた菱田地区の酒蔵も、現在では「天星酒造」1軒のみとなってしまった。(©天星酒造)
手掛けた焼酎の品評会での金賞受賞を機にウイスキー造りを開始
「天星酒造」のフラッグシップ的な銘柄である焼酎の「天星宝醇 赤 」が、日本唯一の洋酒品評会である「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション」の焼酎部門で2021年、2022年と2年連続で最高金賞を獲得したのを機に、「菱田の水」を用いたウイスキーを造る気運が高まり、蒸留所開設となった。
モルトウイスキーとグレーンウイスキーの両方を製造することができる蒸留器を導入。数年後には同一蒸留所内でのブレンデッドウイスキーの製造も予定されている。
2022年にウイスキー製造免許を取得。モルトウイスキーとグレーンウイスキーの製造が始まった。そして2025年3月、初のオフィシャルボトル「菱田蒸溜所ニューボーンPreludeⅠ」が発売された。
熟成期間3年未満という短期間ではあるものの、超軟水と称される極めて柔らかな菱田の名水と、大隅半島の温暖な気候により、柔らかな口当たりのウイスキーが生まれた。くわえて、「天星酒造」独自の「早垂れ蒸留法」をウイスキーの蒸留にも用いることで、焼酎と同様、滑らかでクセのない風味を得ることができた。
産声を上げたばかりの蒸留所に寄せられる励ましの声
「菱田蒸溜所」の取締役を務める中原 優さんが、以前は滋賀県の「長濱蒸溜所」でウイスキー造りに携わっていたスタッフであることが物語るように、「菱田蒸溜所」は日本最小の蒸留所として知られる「長濱蒸溜所」と姉妹蒸留所の提携を結び様々な技術交流も行っている。
また、産声を上げたばかりの小さな蒸留所には、全国の同業者からも、暖かい励ましの言葉が寄せられている。
蒸留所のスタッフは7名。後列中央が、製造責任者の中原 優さん。(©天星酒造)
2025年3月11日に発売開始となった、初のオフィシャルボトル「菱田蒸溜所 ニューボーン Prelude Ⅰ」。
菱田蒸溜所
鹿児島県曽於郡大崎町菱田1270
Tel:099-477-0510 /営業時間:9:00~16:30
休館: 土・日曜・祝日・年末年始
入館 無料/売店 無し
*見学の場合は事前連絡が必要
巡り歩いた4軒の蒸留所いずれもが、独自の技術を持ち、それを活かした個性豊かなウイスキ造りを誇りを持って推進していた。と同時に、お互いに切磋琢磨しながらも、情報交換などを絶えず行い、鹿児島県全体としてクラフトウィスキーの魅力を高めていこうとする意気込みも感じられた。ジャパニーズウイスキーに日本だけでなく世界からも高い関心が集まっている現在、今後、鹿児島県がその勢いを牽引していく中核となっていくのは間違いないだろう。
鹿児島の旅の夜は、この2軒のバーで鹿児島ウイスキーを心ゆくまで味わいたい
鹿児島を旅したらぜひ訪ねたい、鹿児島発のジャパニーズウィスキーを堪能できるバー2軒を紹介しよう。今回紹介した醸造所のウィスキーを並べて試飲するというのも、ここだけの贅沢だ。
ザ セラー N バロン・ナガサワ
鹿児島の名門ホテル、SHIROYAMA HOTEL kagoshima のメインバー。カウンターで気軽に、ソファ席でくつろぎながらと、楽しみ方はさまざま。ウイスキーベースのカクテルでは、「シングルモルト津貫」とアマレットを合わせた「ゴットファーザー」などがおすすめ。
ザ セラー N バロン・ナガサワ
鹿児島県鹿児島市新照院町41−1 SHIROYAMA HOTEL kagoshima 4F
0570-07-4680 (ナビダイヤル)
営業時間:平日 17:00~23:00(LO 22:30)、土日祝 16:00~23:00(LO 22:30)
※営業日、営業時間は、状況により変更になる場合あり。要確認を。
霧島神宮駅オールデイズラウンジ 光芒─cobo─
JR九州と株式会社IFOO(イフ―)が提携し、駅と地域の賑わいを目標とした駅舎リニューアルと沿線活用プロジェクトの一環として、霧島神宮駅をリニューアルオープン。鹿児島のウイスキーを味わう「光芒」のほか、ギャラリーやプライベートサウナも隣接。
霧島神宮駅オールデイズラウンジ 光芒─cobo─
鹿児島県霧島市大窪418-3
0570-07-4680 (ナビダイヤル)
営業時間:平日 カフェ 10:00~17 :00(ソフトドリンク・アルコール・デザートセット)
ブランチ 8:30~12:00( 植物性素材を使用したブランチセット)
※定休日は不定休確認を。
Photography by Azusa Todoroki(Bowpluskyoto)
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投稿 焼酎の郷 鹿児島から世界へ羽ばたくジャパニーズウイスキー4つの蒸留所 は Premium Japan に最初に表示されました。
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鹿児島の「宝」を巡る旅
2025.3.28
鹿児島の名門蔵「中村酒造場」の6代目杜氏中村慎弥が挑む、伝統と革新の焼酎造り
「中村酒造場」の主な銘柄。左から「なかむら」「玉露」「なかむら(720ml)」「Tear Drop」「Still Life」
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豊かな自然と、そこで暮らす人々の知恵が結びついたとき、その土地にはさまざまな「宝」が生まれる。鹿児島県の各地で生まれ、光り輝く数々の「宝」。それらは今や、世界が注目する存在になりつつある。「南の宝箱 鹿児島」を巡る旅。今回はプレミアム芋焼酎「なかむら」を手掛ける、霧島の名門蔵「中村酒造場」を訪ねた。「蔵を大きくしてはいけない」。この信念のもと、6代目杜氏の中村慎弥さんが続ける挑戦とは……。また、鹿児島の本格焼酎を楽しむことができる、鹿児島市内の2軒の焼酎バーを紹介する。
ユネスコ無形文化遺産に登録された「本格焼酎」の蔵元数は、鹿児島県が日本最多
2024 年12月、日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録された。対象となったのは、麹菌を用いる日本独特の技術によって造られる「國酒」と呼ばれる酒類で、そのひとつが「本格焼酎」だ。109 (2025年3月現在)の蔵元が、2,000を超える銘柄の焼酎を造る鹿児島県は、蔵元数、銘柄数ともに日本一。まさに焼酎の本場といえよう。県内に点在する各蔵元は、独自の技術を持ち、個性的な味わいの焼酎を生み出している。今回訪ねた「中村酒造場」は、そうしたなかでも、とりわけ独特の製法を守り続けている蔵元のひとつだ。
長閑な田園地帯に立つ、赤煉瓦の煙突と蔵──中村酒造場(有限会社中村酒造場)
鹿児島市から錦江湾沿いを時計回りに車を走らせると、前方左手には霧島連山の美しい山並みが見え、やがて霧島市国分に入る。長閑な田園地帯の一本道を進むと、訪れる人を出迎えてくれるかのように赤煉瓦の煙突と倉庫が並び立っている。どこかで見たような懐かしい風景。それが「中村酒造場」だ。
「蔵を大きくしない」。中村家に伝わるひとつの信念
「中村酒造場」に伝わる、信念にも似た一言がある。それは「蔵を大きくしない」ということ。その信念通り、蔵の規模は驚くほど小さい。この小さな酒造場が、焼酎好きの間で根強い人気を博している芋焼酎「なかむら」を生み出した。ストレートで口に含むと蜜のような甘さをほのかに感じる、といわれるほど繊細な味を持つ芋焼酎は、小さな蔵だからこそ生まれたといっても過言ではない。
「なかむら」を手掛けたのは、社長である中村敏治さんで、現在では次男の慎弥さんが6代目杜氏として現場の先頭に立っている。
赤煉瓦造りの蔵と煙突は、1888(明治21)年の創業当時のまま。それはどこか懐かしい風景。(©中村酒造場)
ラベルに記された「手造り」の3文字が意味するもの
「中村酒造場」の代表銘柄である「玉露」はもとより、「なかむら」のラベルにも「手造り」の3文字が記されている。普段何気なく使ってしまう「手造り」だが、慎弥さんによると、「手造り」の定義は厳格に定められているそうだ。
「『木製の保温室にて木箱で自然の換気、通気と手入れ攪拌によって製造した麹によって造られた単式蒸留焼酎』のみが手造りの焼酎と謳うことができると、規約で定められています」淀みなく慎弥さんは説明する。
「中村酒造場」の場合は、麹室が「木製の保温室」に、「木箱」が「麹蓋」に相当し、紛れもなく「手造り」を標榜することができる。
しかし、現在では焼酎の現場においても、安易にこの言葉が使われがちだと、慎弥さんは危惧する。
慎弥さんは東京農業大学で醸造学を学んだのち、山形県の日本酒蔵元で2年間の修業を重ね、その後流通の経験も積んだ。「すべてが、いまの役にたっています」
石造りの麹室の中で育つ米麹
「中村酒造場」の蔵内には、石造りの麹室が設けられている。麹室の内側は木板が貼り巡らされている。この麹室で育った麹を用いる日本酒式の製法が「中村酒造場」の焼酎造りの最大の特徴だろう。焼酎蔵でこの方式を採用しているのは、鹿児島でもわずか数蔵と、大変珍しい手法だ。
慎弥さんの案内で、麹室を見せていただいた。生憎、麹を育てる季節ではなく、部屋はすっきり片付いていたが、天井には開閉できる通気口が設けられている。この通気口が、「自然の換気、通気」での、大切な役割を果たす。麹を育てる間は、この通気口をこまめに開け閉めし、温度と湿度を調節する。その開け閉めは、慎弥さんをはじめとする職人の勘がすべてだ。麹の仕込み時期は、毎日泊まり作業となる。
麹を育てる季節ではないので麹室の中はいたってすっきり。しかし、いわゆる「室つき麹」はこの麹室の中で、静かに眠っている。
新米に麹菌をつける作業は重労働。温度や湿度の調整は、すべて長年の勘が頼り。麹は、麹室に棲む「室つき麹」のほか、鹿児島の老舗「河内源一郎商店」からも購入する。(©中村酒造場)
「麹のもとになる米も大切です。『中村酒造場』の原料米の銘柄は「ヒノヒカリ」。カルシウムやイオウ分の補給を目的とした肥料を用いる『カルゲン農法』と呼ばれる、とても手間のかかる栽培法で育てられた新米です」
麹のもととなる米は、霧島神宮近くの農家と30年近くの契約栽培で入手している。(©中村酒造場)
「霧島神宮近くの農家の方と30年近くのお付き合いで入手しています。この新米に麹菌をつけるのが、なかなか大変な作業です。真夜中まで汗だくになり、最後の方には握力がなくなるくらいの力仕事です」
蔵に棲みついている麹菌や酵母を大切に育て、こうして発酵を促進させることによって、「中村酒造場」独特の、アルコール感が抑えられたまろやかな焼酎が生まれる。
蒸溜を終えた原酒は、創業以来使い続けている甕で仕込まれる。
豊かな湧き水は、霧島山系からの恵み
米だけではない。主原料となるサツマイモは、すべて鹿児島の契約農家から新鮮で良質な芋を入手している。そして水。霧島山系の麓に位置するきし霧島市国分一帯は、地下水が豊富な地域で、「中村酒造場」の敷地内からも、焼酎造りに理想な硬度とミネラルバランスを持った豊富な地下水が、120メートルの深さから湧き出ている。この湧き水があるからこそ、焼酎造りが可能となっているともいえる。
霧島山系から地下深く潜って到達する伏流水は、ミネラルと硬度のバランスが取れた格好の仕込み水となる。(©中村酒造場)
6代目杜氏・慎弥さんがすべてを手掛けた25年ぶりの新銘柄
2021年、「中村酒造場」に新たな銘柄が加わった。慎弥さんが杜氏となって、すべてを手掛けた「Amazing Series 」である。蔵にとっても25年ぶりの新銘柄だった。
「『Still Life』と『Tear Drop』 の2ラインで出したのですが、とくに『Tear Drop』は麹造りで苦労しました」。
慎弥さんによれば、「Still Life」はグレープフルーツとライムに似たフルーティーな香りと紅茶のアロマが重なり、「Tear Drop」はパンケーキやヨーグルト、蜂蜜に似た上質なアロマが薫り立ったそうだ。
「でも、不思議なことに、石蔵には黒麹、白麹だけでなく珍しい黄麹まで自然に発生し、そのおかげ独特の味わいとなりました。この2シリーズおかげ様で完売となり、現在では後継の『the traditional』シリーズを販売しています」
慎弥さんが杜氏となって、すべてを手掛けた「Amazing Series 」の「Still Life」(左」)と「Tear Drop」(右)。ラベルの可愛らしいイラストは新進気鋭の画家、今井麗さんの手によるもの。
大規模な酒蔵でないからこそできる細かな目配りとさまざまな試み。例えば新しい原料を用いた焼酎造り。慎弥さんは伝統と進化を融合させるべく、日夜挑戦を続けている。
「『蔵を大きくしない』。かねてから父親に言われ続けてきたことの大切さを、改めて噛みしめています」
中村酒造場
鹿児島県霧島市国分湊915
Tel:0995-45-0214
*酒蔵見学は実施していません。
鹿児島の夜で、ぜひ足を運びたい焼酎バー2軒
鹿児島焼酎Bar 鹿
鹿児島県内の全蔵元の焼酎600種類銘柄はもとより、鹿児島県産ウイスキー、スピリッツ、リキュールなど、鹿児島産のほぼあらゆる酒が揃う。県内の焼酎蔵をマッピングしたオーナー手作りの地図や、各蔵元の一升瓶のキャップでデザインされた美しいディスプレイが見事。店名の「鹿(ろく)」は、「鹿鳴館」と「鹿児島」に共通する文字から。
鹿児島焼酎Bar 鹿 ROKU
鹿児島県鹿児島市山之口町3-14ぺオニアビル1F
099-224-6886
営業時間:月~金 20:00~2 :30(閉店) 土・祝前日 19:30~2 :30(閉店)
定休日:日曜日(月曜日が祝日の場合は営業、翌日休み)
切子と酒器を楽しむBar すけ
店名が物語るように、カウンター奥には薩摩切子や江戸切子をはじめとして、薩摩焼や錫器などの酒器が美しくディスプレイされ、お好みでその中から選んでお酒をいただくことができる。なかには、ミュージアムピースランクのガラス器もあり、注がれたお酒がより美しく美味しく映える。鹿児島本格焼酎の主要銘柄や、ワイン、シャンパンなども揃う。
切子と酒器を愉しむBar すけ
鹿児島県鹿児島市山之口町7-16 柚木ビル2F
営業時間:月~土 21:00~2 :00(閉店)
定休日:日曜日
Photography by Azusa Todoroki(Bowpluskyoto)
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江戸のメディア王、蔦屋重三郎の全体像に迫る
2025.3.28
特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」。東京国立博物館 平成館にて開催
『青楼美人合姿鏡』北尾重政・勝川春章画 彩色摺大本 安永5年(1776)正月 東京国立博物館蔵【通期展示 ※会期中、頁替えを行います】
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2025年の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK)でも話題の蔦屋重三郎。江戸時代の傑出した出版業者である蔦屋重三郎の全体像に迫る特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」が、東京国立博物館 平成館にて開催される。会期は4月22日(火)から6月15日(日)まで。
「姿見七人化粧」喜多川歌麿筆 大判錦絵 寛政4~5年(1792~93)頃 東京国立博物館蔵【後期展示:5/20〜6/15】
貸本業から身を起こし、社会状況の変化をつぶさにとらえメディア王にまでのぼりつめた蔦屋重三郎。本展では、本を、人を、時代をプロデュースしたその活動を見つめながら、天明、寛政期を中心とした江戸の多彩な文化を紹介する。
「雛形若菜初模様 丁字屋内ひな鶴」礒田湖龍斎筆 大判錦絵 安永4年(1775)頃 東京国立博物館蔵【前期展示:4/22〜5/18】
会場では、出版人としての活動の原点である『吉原細見』や、風刺や滑稽を織り交ぜた黄表紙、洒落本などを紹介。そして何といっても見逃せないのが、浮世絵黄金期と呼ばれる18世紀末の浮世絵界を代表する名品の数々だ。
「婦女人相十品 ポッピンを吹く娘」喜多川歌麿筆 大判錦絵 寛政4~5年(1792~93)頃 東京国立博物館蔵【前期展示:4/22〜5/18】
重要文化財「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」東洲斎写楽筆 大判錦絵 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵【前期展示:4/22〜5/18】
喜多川歌麿や東洲斎写楽など、現代では世界的芸術家とみなされる浮世絵師を世に出したことで知られる蔦屋重三郎。本展では、喜多川歌麿「婦女人相十品 ポッピンを吹く娘」や、東洲斎写楽「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」(重要文化財)など、誰もが知る名作が一堂に集結。前期・後期で展示替えが行われるので、何度も足を運びたい。
重要文化財「市川鰕蔵の竹村定之進」東洲斎写楽筆 大判錦絵 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵【後期展示:5/20〜6/15】
このほか、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK)と連携し、大河ドラマの世界を再現したコーナーも登場。蔦重が活躍した頃の江戸の街にタイムトリップしたような空間を楽しめる。
さまざまな分野を結びつけながら、出版業界に新機軸を打ち出した蔦屋重三郎。彼が創出した価値観や芸術性がいかなるものであったかを、会場で体感してみてはいかがだろうか。
「四季美人 雪中美人と下男」栄松斎長喜筆 大判錦絵 寛政4~6年(1792~94)頃 東京国立博物館蔵【前期展示:4/22〜5/18】
◆特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」
【会期】2025年4月22日(火)~6月15日(日)
【休館日】月曜日、5月7 日(水)
※ただし、4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館
【開館時間】9:30~17:00
※毎週金曜・土曜日、5月4日(日・祝)、5日(月・祝)は20時まで開館
※入館は閉館の30分前まで
【問い合わせ】050-5541-8600(ハローダイヤル)
*会期中、一部作品の展示替えを行います。
*展示作品、会期、展示期間、開館時間、休館日等については、今後の諸事情により変更する場合があります。
最新情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。
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老若男女に愛されている揚げ物。唐揚げやコロッケ、とんかつなど、夕食のメインとしている家庭も多いはずです。しかし揚げ物単体だと太りやすく、食べ合わせが重要となります。今回は、揚げ物の「NG食べ合わせ」やおすすめの食べ合わせをご紹介します。