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エルメス財団、夏のオープンクラスを開催
2026.7.7
「金属に学ぶ、五感で考える:夏のオープンクラス」
Leonor Serrano Rivas, Installation view of Here Be Dragons , 2025
Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Photo: Andrea Rossetti
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エルメス財団が展開するスキル・アカデミーでは、7月15日(水)から8月16日(日)まで、「金属に学ぶ、五感で考える:夏のオープンクラス」を、東京・SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)で開催する。展覧会やワークショップ、トークイベントを通して、金属という素材が持つ魅力や可能性を、多角的な視点から体感できるプログラムだ。
Leonor Serrano Rivas, Where We Expect to Find Flowers n3, 2025
Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Photo: Roberto Ruiz
スキル・アカデミーは、⾃然素材に関わる職⼈技術や⼿わざを伝承、拡張、共有することを⽬指すエルメス財団のプロジェクト。日本では2021年より活動をスタート。展覧会やワークショップなど様々な体験を通じて、素材の組成や技術、⽂化などを多⾓的に探究している。
Leonor Serrano Rivas, Installation view of Here Be Dragons , 2025
Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Photo: Andrea Rossetti
Sayaka Shimada, Fireworks for another world that never came, 2022
©Sayaka Shimada
今回のテーマは、私たちの暮らしに欠かせない「金属」。 会場では、レオノール・セラーノ・リヴァス、Playfool、島田清夏の3組のアーティストによるグループ展「結合」を開催。⾦属と対話を⾏う彼らの実践を通じて、⾦属と⾝体の連鎖的な「結合」の在り⽅を探っていく。
Playfool, Installation view of a re(imitation) of Life , 2024
Courtesy of the artist
Photo: Naoya Toita
また、鍛金によるジュエリー制作を体験できる抽選制のワークショップやガイドツアー、アーティスト・トークなども用意。見るだけではなく、触れ、考え、手を動かすことで、金属への理解をより深められる構成となっている。
Sayaka Shimada, R9+C9QP , 2020
Courtesy of the artist
Photo: Great the Kabukicho
さらに、今春に中高生を対象として実施されたワークショップの成果展示も同時開催。参加者たちが素材と向き合いながら体験を通じて紡ぎ出された言葉、各ワークショップの映像記録を通して、ものづくりが持つ創造性や学びの広がりを感じることができる。
Leonor Serrano Rivas, Where We Expect to Find Flowers n17 , 2025
Courtesy of the artist and carlier | gebauer
Photo: Roberto Ruiz
青銅器時代から⼈類の⽂明と共に歩んできた⾦属という素材、アートや職人技術の視点から見つめ直すイベント。五感を使って素材と向き合うことで、ものづくりの精神に触れ、素材の本質に迫ることができるはずだ。
◆スキル・アカデミー「⾦属に学ぶ、五感で考える:夏のオープンクラス」
【会期】2026年7⽉15⽇(⽔)~8⽉16⽇(⽇)
【開館時間】11:00~19:00
【休館⽇】⽉曜⽇・⽕曜⽇ ※ただし、7/20(⽉・祝)、8/11(⽕・祝)は開館
【会場】SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)東京都葛飾区⻄⻲有3-26-4
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日本で親しまれるダイヤモンド・プリンセスを運航するプリンセス・クルーズ。その最新船「スター・プリンセス」は、17万トン超の大型船でありながら驚くほどゆったりと快適。多彩な美食や最新技術を駆使したエンターテインメントなど、進化した船旅の魅力を紹介します。
JCCO
PREMIUM JAPAN AWARD
日本文化発信機構 JCCOが目指すもの
2026.7.3
地域価値の時代へ これからの日本に必要なのは何か 元内閣府地方創生推進事務局長 市川篤志氏
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35年以上にわたり政府で住宅政策、まちづくり、土地政策、防災、地方創生などに携わり、現在は日本文化発信機構(JCCO)の理事の活動をはじめ、地域価値の創造に取り組む市川篤志氏は、「これからは地方創生ではなく、地域価値の時代だ」と語る。そこでPremium Japan編集長、JCCO専務理事の島村美緒が、地域の価値こそが日本のチカラになるという視点から、日本の未来について語り合った。
人口減少は問題ではない。問われているのは価値を生み続ける力
市川氏が地域について考える原点には、幼少期の風景がある。
長野県北部の中野市の果樹農家、ブドウ農家の長男として育った市川氏は、大学進学を機に東京へ出て、その後、国土交通省に入省した。30代前半にはパリの国際機関OECDに赴任し、家族でフランスに暮らした。
ある週末、フランス人の友人家族に招かれてノルマンディー地方を訪れた。リンゴ畑が広がる田園地帯。そこで人々はリンゴを育て、シードルを造り、それを蒸留してカルヴァドスにする。そうした営みが何世代にもわたって続き、暮らしの中に自然に溶け込んでいた。
市川氏はその風景に、不思議な懐かしさを覚えたという。中野市のブドウ畑や果樹園の風景と重なったからだ。
市川:あの時、私は「地域の価値とは何か」を考え始めていたのだと思います。
ノルマンディーでは、リンゴを育てる営みが人々の暮らしの風景と重なっていました。文化とは、そういうものだと思うのです。特別に飾られたものではなく、続いてきた営みが暮らしに溶け込んでいるもの。そこに地域の価値があるのだと感じました。
島村:昨今は日本の国力低下が叫ばれています。日本国家としての取り組みも重要ですが、各地域の価値の向上は不可欠ですね。
市川:おっしゃる通りです。私は農村で育ち、霞が関で政策を担い、地方行政を経験し、海外から日本を見て、今また地域の現場に立っています。それぞれの立場から、ずっと同じ問いを追いかけてきました。
地域とは何か。地域の価値とは何か。そして人口減少の時代に、地域はどう価値を生み続けていけるのか、日本にとって重要な課題ですね。
島村:日本の人口減少が招く課題にはどんなことが考えられるのでしょうか。
市川:日本は今、これまで経験したことのない時代に入っています。今後100年ほどで人口は明治から大正期の水準まで減少し、高齢化率は4割を超えるとも言われています。社会の担い手は確実に減っています。
島村:しかし市川さんは、人口が減ること自体を最大の問題とは捉えていないんですよね。
市川:はい。人口減少そのものが問題なのではありません。
本当に問われているのは、担い手が減っていく中で、地域がどう価値を生み続けられるかです。そして、その営みを守り、未来へつないでいけるかどうかです。
私は35年以上、地域政策に携わってきた中で、ひとつ確信していることがあります。結果は現場に現れる、ということです。
制度をつくったから成功ではありません。予算をつけたから成功でもありません。地域で実際に変化が起きたかどうか。そこに暮らす人たちの意識や行動が変わったかどうか。それがすべてです。
島村:それは地方の課題ということで、東京は違うんですか。
市川:地方では人口減少の現実が先行していますが、これは地方だけの話ではありません。東京も同じ船に乗っています。だからこそ、東京対地方という構図で考えても意味がないのです。
島村:地方創生という言葉が広まった頃、「東京から地方へ人を移せばいい」という議論が多かったように思います。
市川:日本全体の人口が減っていく中では、どこかが増えればどこかが減る。それだけではゼロサムゲームです。
必要なのは、人口を奪い合うことではなく、その地域ならではの価値をどう育てるか。そして、それをどう伝えるかだと思います。
私も最近は、「地方創生」という言葉をあまり使わなくなりました。地方を創生する、という言葉には、どこか外から何かを与えるような響きがあります。
けれど本来、地方でも東京でも、地域にはすでに価値があります。自然かもしれない。食かもしれない。文化かもしれない。人と人とのつながりかもしれない。
それを見つけ、磨き、未来へつないでいく。私は「地域価値」という言葉の方が、今の時代にはしっくりくるのです。
観光は目的ではない。地域価値を磨いた結果であるべきだ
市川:観光客を呼ぶために何かをつくるのではなく、地域が本来持っている価値を磨いた結果として、人が訪れる。それが理想だと思っています。
人は観光施設だけを見に来るわけではありません。その土地の空気、風景、食、人々の表情、暮らしぶりにも惹かれているのだと思います。
私が魅力を感じる地域には共通点があります。そこに暮らす人たちが、その土地での暮らしを楽しんでいることです。もちろん、その背景には産業や自然、食や文化、伝統があります。そして人と人とのつながりがあります。
島村:確かに、旅行者の関心は大きく変わり始めていることを実感しています。浅草のような有名観光地には、もちろん世界中から人が集まります。一方で、根津や谷中のような場所に惹かれる外国人も増えています。
彼らが求めているのは、ガイドブックに載っている名所だけではなく、普通の商店街や住宅街、暮らしの気配。自分だけの切り取りを見つけたいという感覚があるのだと思います。
市川:そうですね、AIの時代だからこそ、私は地域の価値がますます重要になると考えています。
AIは知識や情報を広く共有してくれます。けれど、その土地の自然、その土地の食、その土地に暮らす人々との出会いは、そこでしか得ることができません。その場にいなければわからない空気感があります。
AIは多くのことを代替するかもしれませんが、地域の風景や文化、人々の営みそのものを代替することはできません。
AIが発達するほど、逆に地域固有の価値は際立ってくる。私は、AI時代はデジタルの時代であると同時に、リアルの価値の時代でもあると思っています。
日本は宝の山。足りないのは「編集力」と「翻訳力」
市川:日本には素晴らしいものがたくさんあります。まさに「宝の山」です。
自然もあります。食もあります。工芸もあります。祭りもあります。ものづくりもあります。人々の暮らしもあります。
ただ、その価値を世界に伝える力が足りない。私はそれを「編集力」と「翻訳力」だと思っています。
島村:日本の発信力の低さに関しては、常に私も考えていたことです。地域に密着した芸能や文化も、どんな地域でどんな暮らしの中から生まれてきたのか。なぜその土地で続いてきたのか。その物語ごと伝えていくことが必要だと思います。
市川:地域の人にとっては当たり前のことでも、外から見れば大きな魅力であることが少なくありません。けれど、当たり前すぎるからこそ、自分たちでは価値として意識しにくい。
だからこそ、外の視点も必要です。ただし、外の人が勝手に価値を作るのではありません。地域の中にあるものを見つけ、光を当て、現代の言葉に翻訳していく。そこに編集の役割があるのだと思います。
島村:海外ブランドはストーリーテリングが非常に上手ですよね。例えば、オリーブオイルひとつでも「樹齢100年の木から採れた実で作っています」と語る。それだけで、その背景にある風景や時間の積み重ねを想像できます。
日本人は真面目で謙虚なので、自分たちの価値を語ることにためらいがあります。でも、価値を伝えることは誇張ではない。伝えなければ、存在しないのと同じになってしまう。
伝統工芸やファッションも同じです。品質は高い。技術もある。でも、ブランドとしての見せ方、伝え方が弱い。その結果、本来もっと高く評価されるべきものが、安く見られてしまうことがあります。
市川:価値は、存在しているだけでは伝わりませんね。
地域にあるモノやコトは、それ単体で価値を持っているように見えますが、本当はその背景にある暮らしや歴史、人の営みと一体になって初めて価値になります。
ノルマンディーのシードルやカルヴァドスも、単にお酒として存在しているのではなく、リンゴ畑の風景や人々の暮らしと結びついているからこそ魅力がある。
日本の地域にも、同じような価値がたくさんあります。ただ、それを語る言葉がまだ足りていないのです。
文化は「守る」だけでは続かない。必要なのは価値の循環である
市川:私は文化を特別なものだとは思っていません。文化とは、続いてきた営みが暮らしに溶け込んだものです。食も、祭りも、工芸も、伝統芸能も、農業も、ものづくりも、暮らしも文化です。
地域を産業、自然、文化、暮らしと分けて考えるのではなく、一つの全体として見ることが大切だと思っています。
暮らしと寄り添ってきた様々な事、それこそに価値がある。そこに地域らしさがあり、地域の魅力があるのです。
島村:同時に、多くの地域では祭りや伝統工芸、伝統芸能の担い手が減り、継承が危機に瀕しているという課題もありますね。
市川:「守る」という発想だけでは難しいと思っています。
守ろうとするだけでは、作り手の暮らしが立ちゆかなくなる。価値が認められ、選ばれ、適正な対価が支払われる。その循環があってこそ、文化は続いていきます。
文化や伝統を残すということは、過去を保存することではありません。今を生きる人たちの暮らしの中で価値を持ち続けることです。
島村:日本にはその循環を生み出すプロデューサーが不足しているように思います。伝統工芸でも伝統芸能でも、担い手が生活できなければ続きません。職人やアーティスト本人に、制作も発信も営業も全部背負わせてしまっている。
本来は、価値を見つけ、伝え、人をつなぎ、ビジネスとして成立させるプロデューサーが必要です。
市川:作り手や担い手を、ある意味でほったらかしにしてしまっているのかもしれません。
けれど、文化は担い手の生活が成り立ってこそ続いていくものです。文化を未来へつなぐには、価値を見つける人、伝える人、支える人を増やしていく必要があります。
地域を変えるのは「指導者」ではなく「始動者」である
市川:地域には、指示を出す「指導者」よりも、最初に動く「始動者」が必要だと思います。市長や町長でなくてもいい。役場の若い職員でもいいし、地域の住民でもいい。とにかく何かを始める人がいるかどうか。そこが大きいように思います。
地域を変えるのは制度だけではありません。人です。
島村:一つの例として茨城県境町のようなケースもありますね。大胆な教育施策や移住政策、自動運転バスの導入などで、町のイメージを大きく変えました。境町は、特段有名な観光資源があったわけではありませんが、新しい価値をつくり出し、地域のブランドを変えました。
市川:地元の人が参加していないプロジェクトは続きません。
補助金があるから何かをやるのではなく、「自分たちの地域を続けたい」「何とかしたい」という思いが先にあるべきです。
行政が全部やる必要はまったくありません。
むしろ行政は、人と人をつなぐコーディネーターになるべきです。この人とこの人を組ませたら何かが生まれるかもしれない。そういう媒介役こそ、本来の行政の価値だと思います。
市役所や町役場と付き合っていると、「自分たちは行政だから何かをやらなければ」と力が入りすぎて、逆効果になるケースもあります。
行政はプレイヤーである前に、場を整え、人をつなぎ、挑戦を支える存在であっていいのです。
光を当てることで、価値は動き出す
島村:今回、市川さんが日本文化発信機構やプレミアムジャパンアワードの活動に参加いただけたのはどのような理由からですか。
市川:私が関心を持っているのは、文化振興そのものというより、地域価値をどう見つけ、どう伝えていくかということです。価値は、存在しているだけでは伝わりません。光を当てる人が必要です。
プレミアムジャパンアワードも、表彰すること自体が目的ではありません。光を当てることで、その価値を見つける人が増える。応援する人が増える。担い手が増える。
個別のモノやコトだけではなく、それを育んできた地域の営みや文脈も含めて世界に伝えていく。そこに大きな意義があると思っています。
表彰はゴールではなく、始まりだと思っています。
ある価値に光が当たることで、人が集まり、資金が集まり、次の挑戦が生まれる。地域価値とは、固定されたものではなく、見つけられ、磨かれ、伝えられることで動き出すものなのです。
島村:おっしゃる通り、プレミアムジャパンアワードは“きっかけ“です。国内外問わず、日本の美意識が宿る優れたモノ・コト・ヒトと出合うための道標になることを目指しています。
市川:地域それぞれの固有の価値を見つけ、磨き、世界につないでいくことが、これからの日本にとって重要になると思います。
島村:今日はありがとうございました。
市川篤志 Atsushi Ichikawa
1964 年 7月、長野県に生まれ育つ。東京大学法学部を卒業し、1989 年に建設省(現・国土交通省)に入省。その後、大蔵省、OECD(在パリ)、福島県、内閣官房内閣参事官などを経て、国土交通省では政策課長、会計課長、大臣官房審議官(総合政策、土地・建設産業担当)、土地政策審議官などを歴任。さらに、2022 年に内閣官房内閣審議官(デジタル田園都市国家構想実現会議事務局次長)、2023 年からは内閣府地方創生推進事務局長に就任し、政府の地方創生推進の司令塔機能を担う。2024 年 退官。三井住友信託銀行株式会社の顧問に就任。日本文化発信機構(JCCO)理事。
Photos by Toshiyuki Furuya
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アート探訪記~展覧会インプレッション&インフォメーション
2026.7.6
銀座・和光「硝子と陶 五人展 しじまに奏でる」
右から 森岡希世子「透雲」径12.4×高さ34cm 松村 淳「ひとひらの風景-夕暮れの窓辺に佇む-」4×11.4×高さ12cm 中野幹子「夏草」径22×高さ6.5cm 浜野まゆみ「染付桐紋中次」径6×高さ6.5cm 渡辺ゆう子「気配の花影」径16×高さ22cm
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セイコーハウス6階 セイコーハウスホールで、「硝子と陶 五人展 しじまに奏でる」が開催されています。「しじま」とは静まりかえっていること。思わず手に取りたくなるような愛らしい器、凛とした緊張感を纏った器、極小の世界に広がる不思議な色彩……。五人の作品は確かに静寂の中に佇んでいるようですが、静寂とともに、確固たる技術に裏打ちされた、たおやかな美しさを内包しています。
硝子キューブの奥に広がる、幻のような、でもどこか懐かしい風景 ──松村 淳──
視線を低くし、横からのぞき込みます。何かが見えてきます。それは遠くの山並みであったり、夜空に浮かぶ月であったり、夜明け前の空だったり、時には淡い色彩の重なりだったりします。幻のような、でもどこかで見たことのあるような、懐かしく郷愁すら誘う風景。
「ひとひらの風景」。松村淳さんが手がける作品には、どれもこの共通した作品名が冠され、さらにそれぞれ「夜明け前」「朝もやの残月」といった、描かれた風景を彷彿とさせる個々の名前が付けられています。
薄い板ガラスに着色し、それを何枚か接着
松村さんの作品は、窓ガラスにも使用される板ガラスを何枚も接着して重ね合わせる、一般的には「積層ガラス」という手法が用いられています。一枚の板ガラスの厚さは2mmから10mm。その一枚一枚に色鉛筆で着色し、それを接着剤で何枚か重ね合わせることで、懐かしく不思議な景色が浮かびあがってきます。ガラスを重ね合わせる技法は従来から存在していましたが、色鉛筆で一枚一枚に着色するのは、松村さんが編み出した手法です。
「ひとひらの風景―夜の風に吹かれる―」 3.3×17×高さ10cm
「どんな色を用いて、それをどのよう重ねれば、どのような風景になるか。最初のうちは試行錯誤の連続でした。今ではなんとなく掴めてきましたが、着色する前に一枚一枚のガラスの表面にダイヤモンドホイールで入れる凹凸の具合や、接着する前と後で色調や透明感が微妙に変わってくるので、その微調整が難しいですね」
「刻々と変わる空の色が好きで、それを作品の中に閉じ込めたい」
作品に描かれるのは主に夜明けや朝の景色。そして色合いは藍、青、浅葱など、ブルー系。
「朝早く起きて制作することが多いのですが、夜明け前の真っ暗な夜空がだんだんと白みはじめ、紺青から藍、そして青へと変化し、そこに朝焼けの橙色や茜色が混じり始める。その刻々と変わる色の移ろいが好きで、それを作品の中に閉じ込めたいと思っています。また、自分の記憶のなかには、かつて見た美しい風景が鮮明に残っています。その美しい風景を、作品を通じて蘇らせたいという思いもあります」
作品はどれも小さく、最小のキューブのものは約3.5cm四方。この極小の空間のなかに、不思議な奥行と遠近感を持つ風景が広がっています。しかもその不思議な奥行のなかに、いくつもの物語がふわふわと漂っています。もしかしたらそれは夢の中で見た、懐かしい風景かもしれません。
右から「ひとひらの風景―道草の風―」「ひとひらの風景―夜明け前―」「ひとひらの風景―たゆたうみなも―」「ひとひらの風景―朝もやの残月―」4点ともに3.5×3.5×3.5cm
「どんな風景を描こうか。それを頭の中でいろいろ構想するのが、楽しくも大変な時間です。色鉛筆で描く線の細さを調整するのも大変です。また、私の作品はどうしてもブルー系の色調が多くなりがちですが、今後はピンクや黄色などの華やかな色も使っていきたいと思います」
心の中に永遠に棲み続ける「ひとひら」の重なり
「ひとひら」とは、花びらや木の葉など、小さくて薄く平たいものを指し示す言葉。そして淡く消え去っていく語感も備えています。薄いガラスを重ねた松村さんの作品は、確かにいくつもの「ひとひら」が集まったもの。しかし、それが醸し出す風景は心の中に永遠に棲み続けます。
作品が発する「内なる力」 ―森岡希世子―
「内側からの力です」
作陶にあたり、一番大切にしている点を尋ねた際の森岡希世子さんの言葉です。内側の力とは……。
「作品のフォルムが自ら発する力、張りのようなものでしょうか。作品の大小に限らず、張り詰めた緊張感を湛えた形です」
回転する轆轤(ろくろ)を巧みに操ることで森岡さんの作品は生まれます。金沢に生まれた森岡さんは、若くしてデンマーク国民美術大学校に留学。そこで陶芸と出会い、帰国後は地元の窯元で轆轤師として働き、轆轤の技術を徹底的に学びました。
森岡さんによると、轆轤は仕上げるスピードが命だそうです。
「土の“生き”がよいうちに、挽きあげないとダメなのです。粘土にコシがあるうちに成形してしまわないと、時間がたつと粘土そのものがダレてしまい、内側からの力を引き出すことができなくなってしまいます。コシがあるうちに成形したものは、焼いてもその力強さが残ります」
思い描いているフォルムに向かって、一気呵成に挽きあげる
思い描いているフォルムに向かって、一気呵成に挽きあげる、その高度な技術が、森岡さんの作品が持つ「内側からの力」を生み出します。「透雲」と名付けられた、高さ30cmほどの作品だと、轆轤に向かっている時間は15分。
器の形状に比べて思いのほか小さいのが上部の口。しかし、この口があることで、張り詰めた力がそこから解き放たれていくような、心地酔い解放感が生まれます。張り詰めた緊張感とその解放。この絶妙な組み合わせが、森岡さんの作品の真骨頂のひとつです。
作品名はいずれも「透雲(鶴首)」 右 径9.5×高さ27cm 左 径8.5×高さ22cm
轆轤の緊張感と磁肌や色調の優しさ
作品は釉薬を用いず、高温で焼きしめた後に磁肌をヤスリで削って仕上げられています。釉薬が使われていないので、触れると指先にしっとりとした優しい感触が残ります。そして、マットな白の色合いが、やはりどこまでも優しく響きます。花器のような一品もののほかに、森岡さんは日常使いとしての茶器、ティーポット、ティーカップなども手掛け、そうした器は人気を博しています。轆轤の緊張感と磁肌や色調の優しさ。並走する二つの要素が、人気の要因と言えるかもしれません。
作品名はいずれも「透雲(ポット)」 右 径9×高さ9.5cm 左 径8×高さ8.5cm
そこはかとなく漂う、薄墨の雲
マットな白が森岡さんの作品の基調ですが、薄墨の雲が、そこはかとなく白の世界に忍び寄っているような作品も手掛けています。
「技法的にいえば、『炭化焼成』という手法です。サヤと呼ばれる筒状の耐熱器の中に籾殻などと一緒に作品を入れて焼成します。焼成温度と籾殻の量によって、薄墨の濃さやそれが器にかかる位置が変わってきます。ある程度は目途がつくようになりましたが、サヤから出すまでは、どのような景色となるかはっきりと分からないところが、面白い部分でもあります」
轆轤師としての矜持(きょうじ)
薄墨がかかったような景色は、光の当たり具合によって変化する影のようにも見え、その景色は器が持つ「内なる力」を優しく覆う薄衣となります。
「今は張りと緊張感を大切にして轆轤を挽いていますが、もう少し歳を重ねると、あえて緩く挽く、ということにも挑戦したくなるかもしれません。緩く挽くのもそれはそれで難しいのでないかと思っています」
そんな森岡さんの言葉には、轆轤を回し土と向き合ってきた、計り知れない時間の積み重ねが生んだ、轆轤師としての矜持がにじみ出ていました。
ガラスに描かれた、可憐な野の花 ―中野幹子―
可憐に花開く草花と葉脈まで透けて見える葉、琳派の作品を思わせるような秋草。
中野幹子さんのガラス器には、日本の野山を彩る植物が描かれています。描線はどこまでも細く、その一方で瑞々しく華やかな色彩が目に飛び込んできます。
「最初は油絵から入り、その後、銅版画をイタリアの専門学校で勉強していた時に、ステンドグラスを手伝うようになりました。それがガラスとの出会いです。イタリアのステンドグラスはガラスを組み合わせるだけではなく、宗教画や果物を描くような絵付けも多く、そこでガラス絵付けを学びました。同時にガラスそのものにも興味を持つようになり、ガラスの学校に入って吹きガラスを習い、生活で使う日常の器を作り出す面白さに気付きました」
絵付けを施してからガラスを吹く
絵画から銅版画、さらにステンドグラスとガラス絵付けを経て吹きガラス。中野さんが作り手として歩んできたこの道程が、作品に凝縮されています。作品の背景に存在するのはこの道程だけではありません。実は、中野さんの祖母と母は茶道の師範で、中野さんも幼いころから茶の湯の世界に親しんできました。作品の根底に流れている「日本らしさ」は、こうした経験が少なからぬ影響を及ぼしています。
絵付けに用いられるのは、1000度近い高温にも耐えられる、耐火エナメルという塗料の一種。ガラス絵付けという技法は、日本でもまったくなかった訳ではないそうですが先駆者は少なく、「試行錯誤の連続でした」と中野さんは言います。
その試行錯誤の連続のなかで、中野さんは独自の技法を編み出しました。それは、描かれた植物を子細に見つめるとわかります。細い茎や薄い葉の描線が、微妙に揺らいでいます。そして僅かに膨らんでいるようにも。この揺らぎや膨らみは、絵付けを施してからガラスを吹くことによって生まれます。
吹くことで、揺らぎ膨らみ始める草花たち
「絵付けの作業とガラスを吹く作業。どちらも好きですが、作業に要する時間を必要とするのは圧倒的に絵付けです。相当な時間をかけて絵付けしたものが、吹く作業のミスで割れてしまうこともあります。そんな時はとても悲しいですね。玉子くらいの大きさに一度成形したものに、それから絵付けして再び吹くことでガラス自体が膨らみ、自分が思い描いていたものとは異なる表情に仕上がります。それが面白いのです」
右から 硝杯 「矢車菊」 径7×高さ5.3cm 硝杯 「山藤」 径5.5×高さ5.5cm 硝杯 「十薬」径7×高さ5.5cm
「硝杯」と名付けられたこれらの作品は、内側が透明ガラス、外側は乳白色ガラスの二層となっています。線刻によって絵付けされているのは乳白色のガラスの方で、同じ植物でも内側と外側では見え方が違ってきます。それも魅力のひとつ。
織部茶碗にも通じる、軽やかな歪み
この碗で薄茶を点てたら。そんな光景を想像したくなるのが、硝碗「山紫陽花」です。透明ガラスに緑の薄茶が映え、その薄茶を山紫陽花が彩る。さぞ美しい光景が生まれるに違いありません。この碗は正円ではなく、「口造り」と呼ばれる碗の縁の部分が微妙に歪んでいます。その歪みは、織部茶碗に通じる歪み。
均質で整頓された美を好む傾向にある西欧で学びながらも、時に揺らぎ、時に歪む中野さんの草花たち。そこには紛れもなく、日本が大切にしてきた美意識が流れています。
硝碗「山紫陽花」径11×高さ6.8cm
お話を伺った3人の作家のほかに、今回の展覧会に出品しているのは以下の2名の方々です。
渡辺ゆう子さん 浜野まゆみさん
渡辺ゆう子 花吹雪 径20.5×高さ18cm
渡辺ゆう子 右 FLOWER CLOUD 縦13×横19.5×高さ3cm 左 花の蓋物 径7.5×高さ9.5cm
浜野まゆみ 染付花尽紋水指 径12.5×高さ16.5cm
浜野まゆみ 赤絵丸紋瓢形皿 五枚組 縦13.3×横13.6×高さ2.2cm
◆アート探訪記~展覧会インフォメーション
硝子と陶 五人展 しじまに奏でる
会期:2026年7月2日(木) 〜 2026年7月12日(日)
時間:11:00 – 19:00 最終日は17:00まで
- 場所:セイコーハウス 6階 セイコーハウスホール
取材・構成 櫻井正朗 Masao Sakurai
『婦人画報』元編集長代理。陶芸や漆芸など、日本の伝統工芸をはじめ、茶道や歌舞伎などさまざまな日本文化の取材・原稿執筆を担当する。現在ではフリーランスの編集者として、書籍、雑誌、広告制作に携わる。「プレミアムジャパン」では主に伝統工芸・旅行関係の記事を執筆。
写真 名和真紀子 Makiko Nawa
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