2026.09.23
メンズファッション(コーディネート)| GQ JAPAN
JCCO
2026.9.20
集落を囲むなだらかな山々から、清らかな水が流れ込む。福井県越前市は、奈良時代から続く手漉き和紙の産地として知られている。この「和紙の里」に、伝統の技と現代の最先端空間デザインを繋いでいる一軒の産地問屋がある。明治4(1871)年創業の株式会社杉原商店だ。
伝統工芸を取り巻く環境が厳しいことは、越前和紙も例外ではない。そんななか、社長の杉原吉直さんは、それまでになかった発想で「不燃和紙」や「漆和紙(うるわし)」を生み出し、紙すき職人や建築家、デザイナー達と共に越前和紙の潜在能力を引き出している。「作らない」問屋という立場だからこそ「作り出せた」新たな越前和紙の可能性。その経緯や、未来へ続く取り組みについて、話を伺った。
NEWoMan高輪のメインエントランスを彩った越前和紙のディスプレイ。圧倒的な迫力と美しさで、駅から向かう人たちの視線を釘付けにした。
2025年9月12日。この日オープンしたNEWoMan(ニュウマン)高輪のメインエントランスでは、真白なオブジェがひときわ注目を浴びていた。杉原商店が手がけた、越前和紙のディスプレイだ。大空間に、継ぎ目のない一枚紙が美しいドレープを描き、透け感や陰影を生み出す繊細な和紙細工が立体的に組み上げられている。訪れる多くの人たちが立ち止まり、写真や動画を撮りながら感嘆の声を揚げていた。
当初、このディスプレイは開店祝賀用の企画として2ヶ月限定で展示される予定あったという。しかし、オープン直後から買い物客をはじめ、建築家やデザイン関係者の間で大きな話題を呼び、最終的に翌年1月まで約5ヶ月間もの長期にわたった展示になったのだ。
杉原商店三代目の社長であり、杉原家十代目当主である、杉原吉直さん。自らを「和紙ソムリエ」と名乗り、越前和紙の技を様々なものとつなげている。仲間とバンドを組み、ライブ活動をする一面も。
「紙という薄い1枚のものが、巨大な商業空間の照明や空調環境に耐え、見る人を惹きつけ続けることができた。この成功は、私たちの越前和紙が、単なる『伝統的な工芸品』にとどまらず、現代の建築や商業空間を彩る『空間デザイン素材』として十分に通用することを証明するできごとになりました」と杉原さんは言う。
しかも、NEWoManから『和紙で巨大な空間演出ができないか』という依頼を受けてから約2ヶ月という短期間での完成だったというから驚きだ。
商業施設の大型ディスプレイ制作には半年以上の準備期間を要するものが多い。しかし、杉原さんは即座にチームを組み、現地視察と手描きのラフスケッチを作成し、予算設計と並行して素材の調達・加工プロセスの設計に着手した。産地問屋として各工房の得意分野や現在の手空き状況をリアルタイムで把握している杉原商店だからこそ、極めて短い時間でありながら、高品質な大判和紙の調達と加工が実現できのだろう。
杉原商店から歩いて3分。大瀧神社・岡太神社(おかもとじんじゃ)は、全国で唯一の「紙の神様」を祀る。
なぜ越前和紙はこれほどまでにダイナミックで多彩な表現が可能なのだろうか。その理由は、地理的・歴史的背景と、戦後の高度経済成長期に培われた独自の技術基盤にある。
越前は、古くから北陸街道や北前船の航路を通じて京都や奈良といった日本の文化的中心地と強く結びついていた。同時に、大陸からの先進技術や文化を受け入れる地理的拠点でもあった。奈良時代の正倉院文書(737年)「越前国大税帳」は和紙に記録されており、すでに官立の紙漉き場が存在していたことが知られている。
「江戸時代以前、越前には織田信長や豊臣秀吉、さらには江戸幕府から特定の保護と特権を与えられた「紙座(かみざ)」と呼ばれる職人・商人組合が存在していました。紙座では、幕府や諸大名が公文書や奉書紙(ほうしょし)として用いる最高級の公用紙を独占的に生産・供給していたんです。国家の最高機密や公的な決定を記載するための紙ですから、破れにくく、経年劣化に強い卓越した品質が求められます。その技術を脈々と受け継いでいるのが、越前和紙なんです」。杉原さんは誇らしげだ。
一方で、現代の越前和紙を象徴する技術の一つに「大判の和紙」がある。一枚で畳数枚分にも及ぶような巨大な手漉き和紙は、ほかの産地では容易にまねできない。
「昭和の高度経済成長期、公団住宅や一般住宅の建設ラッシュに伴い、大量の襖紙(ふすまがみ)が必要とされました。越前の職人たちはこの需要に応えるため、複数人で一気に漉き上げる大型の漉き桁(けた)と専用の設備を開発したのです。この時代に培われた大判制作のインフラとノウハウが、現在の建築・インテリア向け和紙の基盤となっているんです」。
越前には和紙だけでなく、越前漆器、越前打刃物、越前焼といった多種多様な伝統産業が集積している。この地では、1000年以上前から最高峰の技術と素材が集まり、相互に刺激し合ってきたのだろう。そんなものづくりの風土も、越前和紙の技の背景として影響しているに違いない。
紙の神様のお膝元、大瀧神社の参道沿いに位置する杉原商店。建物は国の登録有形文化財に指定されている。
その越前で、江戸時代中頃から、杉原家は紙漉き職人として歩みを始めた。農地に乏しい山あいの地で、幕府や領主の保護のもと「紙年貢」を認められ、最高級とされる越前奉書などの生産を代々支えてきた歴史を持つ。
明治4(1871)年の廃藩置県と「紙座」の撤廃に伴い、吉直さんの祖先にあたる杉原半四郎さんが和紙屋を創業。大正期には大正天皇御大典用紙を調進する栄誉を授かり、敷地内には今も文化財となる蔵群が残っている。
職人として技術を磨いた江戸期の情熱と、明治以降の問屋としての知見を受け継ぐ吉直さんは、2010年に社長に就任する前から、建築向けのシフトを進め始めていた。
2005年に川越の由緒ある寺の境内に完成した、和紙づくしの茶室「平成の二畳台目」。壁も天井もすべて和紙で、やわらかな光が広がる空間になっている。
和紙を建築市場に広める上で、最大の障壁となっていたのが「火災に対する安全性」だった。建築基準法では、商業施設、ホテル、病院、高層ビルなどの内装では、不燃材料の使用が厳しく義務付けられているからである。
従来の不燃和紙は、和紙の繊維自体に不燃薬品を浸透させる手法が一般的だった。しかし、この方法では和紙特有の風合いや手触り、独特の発色が失われ、経年変化によって不燃薬剤が表面に白く浮き出るなどの欠点がある。
そこで杉原さんは発想を転換。和紙単体で不燃を目指すのではなく、「石膏ボードやガラスといった不燃基材に対し、特定の施工法と接着剤を用いて和紙を一体化させる」というアプローチで、国土交通省から正式に『不燃材料認定』を取得したのだ。「和紙本来の美しさ、風合い、透光性を損なうことなく、建築基準法の厳しい内装制限をクリアすることが可能になったんです」。
リッツカールトン京都では、京都和傘工房日吉屋とのコラボレーションも話題になった。
不燃認定取得後は、国内外のトップ建築家やインテリアデザイナーからのオファーが増え、国立競技場関連の施設や有名ホテル、高級ブランドの旗艦店などで、越前和紙が広く取り入れられるようになった。
「建築家の方々は『これまで使いたくても法律の壁で使えなかった和紙が、自由に使えるようになった』と非常に喜んでくれました。現在では国内のみならず、オーストラリアやヨーロッパなど海外の建築プロジェクトへも輸出が広がっています」。
2014年1月、パリのゲランのニューイヤーウインドウ「WASHI」では、和紙提供とプロデュースを手がけた。
越前和紙の産地から目と鼻の先に、越前漆器の産地・河和田(かわだ)地区がある。こちらも1500年の歴史を誇る伝統工芸。杉原さんは、隣どうしという距離感を活かし、和紙の表面に本漆を何度も塗り重ねる「漆和紙(うるわし)」の開発に着手した。
和紙の持つ柔軟性と光を柔らかく透かす特性に、漆がもたらす深い艶、耐水性、堅牢性が加わることで、従来の和紙や漆器単体では表現できなかった新しい質感のプロダクトが誕生した。そのとき、アドバイザーとして併走してくれたのは、リビングデザインプロデューサーの山田節子さんだった。それまでも、建築やショーウインドウのデザインで国内外のクリエイターと共に多くのプロジェクトを進めてきた杉原さんは言う。
「産地の中にずっといると、自分たちの持っている技術や素材の本当の価値に気づけなくなることがあります。だからこそ、外部の優秀なクリエイターの目が必要です」。
地元福井の酒蔵・吉田酒造の最年少女性杜氏が手がけた8年貯蔵酒「老梅仙」のパッケージをプロデュース。
一般的な問屋の仕事は、商品を仕入れて卸す「在庫管理と配送」である。しかし、杉原さんが実践しているのは、顧客のイメージを具現化するコーディネートやプロデュース業務だ。
「建築家やデザイナーは『こういう空間を作りたい』という概念やイメージを持っています。しかし、それを実現するためにどの職人のどんな技術を使えばいいかはわかりません。一方で、職人は素晴らしい技術を持っていますが、現代の空間デザインのトレンドや建築基準法などの専門知識を持っていません。間に立った私たちの仕事は、双方の言葉を通訳し、最適な解を導き出す『問診』と『処方箋』の提供だと考えています」
飛騨高山にある「森と暮らしの研究室・椅子と珈琲」は、10年以上のつきあいになるという、建築家・隈研吾さんとのコラボレーション。
「いろいろなことに挑戦してきましたが、自分で英断を下して進んできたわけではないんです。周りの方のアドバイスを素直に受け入れていただけ。2001年に越前和紙を視察に来られた東京デザインセンター社長の船曳鴻紅さんから『これから建築向けで注目されるから、ビッグサイトの展示会に出なさい。“大きな紙ができます、値段はいくらです”って立っていればいいから』と言われて、その通り展示会に出たら賞をいただいて。でも、すぐに注文がくるわけありませんよね。そうしたら、展示会で知り合った方が『名刺交換した相手にアポイントを取れ。俺が運転手になって連れて行くから』と。そして『手書きで礼状を書くんだぞ。寝ている暇ないぞ』なんて言われて、愚直にその通りに手紙を書き続けました」。
その翌年、六本木ヒルズ森ビル本社を皮切りに、各方面からの依頼が相次ぐようになったという。その柔軟な発想とグローバルな視点の背景には、自身の生い立ちとキャリアが深く関係しているかもしない、とも。
「小学5年生の時、作文コンクールで北陸代表に選ばれて、副賞として2週間のヨーロッパ研修旅行に連れて行ってもらいました。その頃は、東京に行くのも珍しい時代でしたから、カルチャーショックで。世界には自分の知らない文化や人たちがいて、それが意外と近いところにあるんだ、という感覚を幼少期に持てたことが、海外展開や新しい取り組みへの心理的ハードルを下げてくれたのかもしれません」。
伝統を受け継ぐことと、進化し続けること。一見相反するようなことを軽やかにやり続けている杉原さん。越前和紙、ひいては伝統工芸の未来について尋ねると、即座にこんな言葉が返ってきた。
「1500年の歴史があるから今があるのではなく、その時代時代の人々が必要とする形に変革し続けてきたからこそ、1500年続いてきたのです。昔と同じものを作り続けることだけが伝統を守ることではありません」。
伝統的な「紙座」の誇りを根底に持ちながら、建築資材化、異業種融合、グローバル展開といった新しい挑戦を重ねる杉原商店。存続の危機に瀕する日本の多くの伝統工芸にとって、杉原氏の姿は、未来を照らすひとつの光になるような気がした。
2018年冬、敷地内にある築100年の土蔵をリノベーションし、ストア&和紙ギャラリー「和紙屋」としてオープンさせた。有形文化財に指定されている大正時代の蔵の中で、越前和紙の歴史や新しい可能性・使い道を発信。国内外の訪問客や地域の人々が立ち寄れる拠点になっている。
株式会社 杉原商店
福井県越前市不老町17-2
JCCO
PREMIUM JAPAN AWARD
投稿 千五百年の伝統を新たな形で世界へ広げる、越前和紙問屋「杉原商店」 は PREMIUM JAPAN に最初に表示されました。
iOS26で最後まで署名が続いていたとみられるiOS26.6.2について、Appleが署名を停止しました。これにより、iOS27からiOS26へのダウングレードができなくなっています。iOS27と同時に配信されたiOS26.7も、戻り先にはなりません。本記事では、署名停止で何が起きるのかを分かりやすく整理し、iOS26を使い続けている人とiOS27へアップデート済みの人に向けて、それぞれ確認したいポイントを解説します。
報道時点では、Appleが提供する正規の方法でiOS27からiOS26へダウングレードする手段はありません。海外メディアが現地時間9月21日に報じた内容で、iOS27の配信開始から約1週間が経過した時点の情報です。
大型アップデートの直後は、動作の重さや一部アプリの不具合を理由に、前のバージョンへ戻したいと考える人もいます。今回の署名停止によって、そうした人は戻る道を失いました。
一方、iOS27をまだインストールしていないiPhoneは、引き続きiOS26のまま使えます。影響が及ぶのは主にアップデート済みの人であり、様子見を続けている人が慌てて対応する必要はなさそうです。
iOSの「署名」とは、Appleがインストールを許可しているかどうかを確かめる仕組みを指します。インストール時にAppleのサーバーが確認を行い、確認を通過しないバージョンはインストールできません。
例えるなら、Appleが発行する入場許可証のようなものです。許可証の発行が止まったバージョンは、iPhoneにインストールできなくなります。インストールの可否をAppleが一元的に管理している以上、iOSのアップデートは一方通行になりがちです。
海外メディアは、署名停止の目的について、古く安全性の低いiOSのインストールを防ぐためだと説明しています。古いバージョンには新しいiOSで修正済みの弱点が残っている可能性があり、署名停止はセキュリティを優先した判断とみられます。
iOS27からiOS26.7へも、正規の方法ではダウングレードできません。iOS26.7は無線で配信するOTA(Over The Air)アップデート専用で、復元用のファイルが提供されていないためです。
OTAアップデートとは、iPhone単体で今のiOSを新しくする方式のことです。「最新のiOS26なら戻れるはず」と考えていた人にとっても、iOS26系へ戻る正規の手段は残っていません。iOS26を使い続ける場合も、後で戻れるかどうかではなく、今のバージョンで不便がないかという視点で判断することが大切です。
iOS27へのアップデートは、試しに導入するものではなく、使い続ける前提で導入するものと考えておきたいところです。判断の前に、次の点を確認しておきましょう。
念のため確認しておきたいのが、電子マネーや銀行アプリなど、万一使えなくなると生活に支障が出るアプリです。公式サイトやアプリの更新情報で対応状況を確かめてからアップデートすれば、戻せないうえにアプリも使えないという事態を避けやすくなります。
正規の方法で戻す手段がない以上、今の環境を整える方向に気持ちを切り替えるのが近道です。アプリに不具合がある場合は、App Storeでアプリの更新が出ていないかを確認し、iPhoneの再起動も試してください。
iOS側の不具合であれば、今後の修正アップデートで改善する可能性があります。改善が見られないときはAppleのサポートに相談しつつ、iCloudなどのバックアップを最新に保っておくと、万一のトラブルにも備えられます。iOS27で加わった新機能を積極的に試し、使い方の幅を広げる機会と捉えれば、アップデートを前向きに生かせます。
正規の方法で戻せない以上、アップデートの判断材料になるのは、使っているアプリの対応状況と、自分が求める機能のバランスです。迷っている人は、今日のうちにバックアップを取り、よく使うアプリの対応状況を確かめるところから始めてみてください。
Photo:MacRumors















