「モレ・ネグロをかけた七面鳥料理 Mole Negro con Pechuga de Guajolote」。メキシコシティにあるオアハカ料理のレストラン「グジーナ・オアハカGUZINA OAXACA」にて
メキシコではチョコレートを使った様々な伝統料理にも出逢った。メキシコホワイトカカオが育つ農園内のコロニアル式建物のテラスにてランチをいただいた時のこと。ビュッフェ形式のメニューに、タマレス(単数形はタマル)という古代オルメカ時代から食されてきた料理があった。トウモロコシの粉で作られた生地に鶏肉や豚肉を入れたものがバナナの葉に包んで蒸してあって、見た目は大ぶりのチマキのようだ。何種類かある中からチョコレート入り“モレ”ソースと鶏肉が入ったものを選ぶと、給仕スタッフがバナナの葉を開いて食べやすいように整えてくれた。ソースと肉の旨味が全体にしっとりと広がっていて、すべてが絶妙なバランスで深く印象に残る味わいだった。
チョコレート入り“モレ”ソースと鶏肉が入ったタマレスという古代オルメカ時代から食されてきた料理(上)。給仕スタッフがバナナの葉を開いて食べやすいように整えてくれた(下左)。メキシコホワイトカカオが育つ農園内のコロニアル式建物のテラスにて(下右)
こんなふうにカカオやチョコレートはあたり前のように料理にも使われていた。メキシコ料理はカカオ生産国で唯一ユネスコの無形文化財にも登録されているだけあって、ガストロノームたちを喜ばせる伝統料理が数多くある。“モレ”もその一つだ。
“モレ”とは何種類もの食材をすり潰して作る多種多様なソースのことをいう。チョコレート入り“モレ”をメキシコで初めて食べたのは、20年近く前にユカタン半島にあるカンクンのリッツカールトンに宿泊したときのことだった。チョコレート入りは、モレ・ポブラーノが知られている。この“モレ”について知りたくて、発祥地とされるメキシコシティから南東へ車で2時間ほどの町プエブラまで出かけたこともあった。チョコレート入りは甘いと思われがちだが、現地で食したものはスパイシーで深みのある魅力的な味わいだった。この時の顛末は拙著『ショコラが大好き!』で詳しく紹介している。
タパチュラのチョコレートショップ「CHOCO ELENA」にて。ショップの奥にあるアトリエで、店主がチョコレート作りを実演(上右、下)。マダムはチョコレート入り“モレ”の鶏料理を作るところを見せてくれた(上左)
今回タパチュラのチョコレートショップで、チョコレート入り“モレ”の鶏料理を作るところを見せてもらった。先ずはショップの奥にある年季が入った機械が並ぶアトリエで、チョコレート作りから実演してくれた。出来上がったものを少し口に入れてみたら、手作業ですり潰したような粗挽き感があった。そのまま食べる為ではなく、ドリンクなど加工用だそうだ。もちろん “モレ”作りにも使っていて、さまざまなスパイスが調和してコクのある料理に仕上がっていた。家ごとにママの味がある奥深い料理である。
カカオとチョコレートに包まれた日々を過ごしたのに、メキシコを去る前に何が食べたいかと訊かれ、即座に頭に浮かんだのは、チョコレート入り“モレ” をかけた七面鳥だった。
訪れたのはメキシコシティにあるオアハカ州の料理を専門とするレストラン。オアハカではチョコレート入り“モレ”はモレ・ネグロ(黒いモレ)と呼ぶ。名前の通り墨色をしていて、モレ・ポブラーノとは使う素材もレシピも違うため、見た目だけでなく味わいも異なる。肉を柔らかく煮込んでいるプエブラのものに比べ、最後に茹でた肉を合わせているためか、肉がしっかりとした食感を保っていることも新鮮だった。チョコレートを使った“モレ”といっても、地方によってかなり違うことを改めて実感することとなった。
今では料理に鶏を使う方が一般的のようで、なかなか北米原産の七面鳥を使った昔ながらの“モレ”料理には出会えない。そのため帰国前に七面鳥を使った“モレ”が食べられたことはなんと幸運なことだろう。
東京・京橋の「明治ハローチョコレート」という体験型施設にて催されたイベント「メキシコホワイトカカオヌーボーを愉しむ会」では明治カカオクリエーター®の宇都宮洋之さんが特別に講師を務めた
明治のカカオクリエーター®の宇都宮洋之さんのカカオの旅に同行したことで、メキシコホワイトカカオを“識る”という極めて貴重な体験をさせてもらった。ところが嬉しいことに帰国後にも探究心と味蕾が喜ぶ出来事が待っていたのである。
収穫したばかりの生のメキシコホワイトカカオを五官で感じながら、それについて学び、チョコレートなるまでの実演があり、味わうこともできたのだった。それは昨年11月に東京・京橋にオープンしたばかりの「明治ハローチョコレート(Hello,Chocolate by meiji)」という体験型施設で、宇都宮さんが講師を務めたイベント「メキシコホワイトカカオヌーボーを愉しむ会」が催された時のことだった。
メキシコホワイトカカオをすり潰したばかりのなめらかなチョコレートは、板状に固める前の状態なので、口に含むと舌を包むようにとろりと広がって芳しいカカオの香りを放つ。別のチョコレートとも比較ができるように、メキシコホワイトカカオと同様にブラジル産カカオ豆もすり潰したばかりの状態で味わった。これもまた魅力的だったが、比べてみると、メキシコホワイトカカオを使った方は繊細な風味がより際立って感じられた。
レッスンは映像や実演や味覚を含む五感体験を織り交ぜながら進むので、参加者は皆さらなる好奇心を掻き立てられたに違いない。私にとっても現地で得たばかりの知識や経験がさらに広がって満足度は想像以上に高かった。
メキシコで育つカカオの品種。宇都宮さんが指差しているのがメキシコホワイトカカオ、カルメロ種。国立農牧林研究所(INIFAP)にて
今回のカカオの旅を経て、カカオやチョコレートは知ることによって、さらなる魅力に出逢うきっかけにもなることを実感した。「明治ハローチョコレート」は初めての人はもちろんのことリピーターにも楽しめる内容になっている。カカオ産地に旅する予定の有無にかかわらず、一度参加してみてはいかがだろうか。これまでとはまた違った扉がきっと開けることだろう。
text © Mika Ogura 2019
《“カカオの旅”シリーズは全4回でお届けしました》
“カカオの旅1” >>コチラから
“カカオの旅2” >>コチラから
“カカオの旅3” >>コチラから
【プロフィール】
小椋三嘉(おぐら・みか)エッセイスト、食文化研究家。
十数年のパリ暮らしを経て帰国。2008年にはフランス観光開発機構・ パリ観光会議局の名誉ある「プレス功労賞」を受賞。フランスのチョコレート愛好会「クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ」の会員。著書は『高級ショコラのすべて』、『チョコレートのソムリエになる』、『ショコラが大好き!』、『アラン・デュカス進化するシェフの饗宴』、『パリを歩いて―ミカのパリ案内―』など多数。
【商品情報】
●明治ザ・チョコレートSENSATION ペルーダーク
カカオの特徴的な3つの香味(ナッティ、フルーティ、フローラル)の内、フローラル調の香味が特⻑のペルー産のカカオマスを使用し、明治独自の“リッチアロマ製法”でカカオの香味を引き出したチョコレート。明治のカカオクリエーター®の宇都宮洋之さんによると、「“リッチアロマ製法”は、カカオ生産地における研究からローストやすり潰す方法や条件によって、香りの出方が異なることに着目したものです。メタテ(石板)とマノ(石棒)を使ってカカオをすり潰していたことからヒントを得た製法で、製造工程でカカオ本来の香味を逃がすことなく、最大限閉じ込めることができるようになりました」とのこと。そのおかげで従来よりも一段と香り高い、芳醇な花のような香りを堪能できるという。
1,080 円(税込)/ 3枚入り カカオ70%
●明治ザ・チョコレートSENSATION 2019 Limited Assortment
“リッチアロマ製法”で一段と香り高いカカオの香味を引き出した「明治ザ・チョコレートSENSATION ペルーダーク」と、4種の素材を組み合わせた「明治ザ・チョコレート」シリーズ初のひと粒デザートショコラ。生クリーム入りで上品な甘さがとろける〈ミルク〉、ラズベリージュースを練り込み、果実感が弾ける〈フランボワーズ〉、ヘーゼルナッツペースト入りで香ばしく深みのある〈ジャンドゥーヤ〉、明治で初めてカカオのジュースを練り込んだ、澄みわたる酸味が味わえる〈ジューシーカカオ〉の個性豊かな4粒は、どれも滑らかな舌触りとくちどけの良さが愉しめる。
1,620 円(税込)/ 4粒入り
【販売場所】
サロン・デュ・ショコラ 2019東京会場(1/23〜29:新宿NSビル・イベントホールで開催)
【お問合せ】
明治 お客様相談センター
TEL 0120-041-082
●明治ハローチョコレート Hello,Chocolate by meiji
「明治ハローチョコレート」には、本文で紹介したイベント以外に、チョコレートについて広く深く、専門的に学ぶことができる「Hello,Chocolate LESSON」と、チョコレートについて気軽に体験できる「Hello,Chocolate TOUR」という2つのプログラムが用意されている。
東京都中央区京橋 2-4-16 明治 京橋ビル1F
平日 9:00~17:00 (土・日・祝日・年末年始・休業日を除く)
WEBサイト https://www.meiji.co.jp/sweets/hello-chocolate/
【お問合せ】
明治ハローチョコレート事務局
TEL 0120-055-067