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2025.10.16
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モータージャーナリスト清水和夫の車探訪
2025.10.15
清水和夫が唸る 新型「フェラーリ849・テスタロッサ(Testarossa)」の特別感
849 Testarossaとともに登場したフェラーリジャパン代表取締役社長ドナート・ロマニエッロ氏(左)と、本国からヘッド オブ プロダクト マーケティング マネージャーマルコ・スペソット氏が登場。
まだ残暑厳しい9月の終わりごろ、都心の真ん中でフェラーリが誇る最速のスーパーカーが発表された。その会場は高輪ゲートウェイ隣接のコンベンションセンターだが、そこは足を踏み入れることすら躊躇してしまうほど、イベントスペース全体が赤で染まっていた。
赤といえばフェラーリのアイコンだが、今回の新型は「フェラーリ849・テスタロッサ(Testarossa)」と命名された。テスタロッサとはイタリア語で「赤い頭」を意味し、その名の通りエンジンのカムカバーが赤く塗装されている。テスタロッサの名前は1950年代の名車「250 Testa Rossa」の伝統を受け継いでいるが、当時のフェラーリはフロントにエンジンを搭載するFR(フロントエンジン・リヤ駆動)方式を採用していたため、赤く塗られたエンジンはフロントに収められていた。兎にも角にもテスタロッサは、歴史的にレースのDNAを持つフェラーリのフラッグシップモデルだったのだ。
フェラーリの由来とは
フェラーリという名前を知らない人はいないと思うが、その由来は創業者エンツォ・フェラーリの名前にある。1950年代、レーシングドライバーだったエンツォ・フェラーリはその後、レーシングチームを設立し、イタリア北部マラネロにレーシングカーと高性能スポーツカーを製造するメーカーを立ち上げた。
創業時からの哲学は「レーシングカーと高級スポーツカーのみを少量生産する」という方針を守り続け、それがブランドの根幹となった。しかし、フェラーリはただ速さを追求するだけでなく、スタイリングの美しさ、オーケストラに喩えられるエンジンサウンドなど、そのすべてが芸術的と評価されてきた。この「機能美」と「芸術性」の融合こそが、クルマ文化の象徴としての地位を築いたのである。
なお、「テスタロッサ」の名を冠した市販モデルがデビューしたのは1984年。その発表会はパリ・シャンゼリゼ通りの「キャバレー・リド」で行われた。筆者はその記事を自動車雑誌で知ったときから、「テスタロッサ」は特別なフェラーリなのだと感じていた。
プロドライバーも憧れるスポーツカー
私もプロのレーシングドライバーとしてのキャリアがあるものの、フェラーリのステアリングを握ってレースバトルを繰り広げることは夢のまた夢。叶わない夢であっても、そのコクピットに収まる自分の姿をイメージしながら、今回の発表会に出席した。
2025年9月24日、プラグイン・ハイブリッド・ベルリネッタ849Testarossaが日本で初披露された。849 Testarossa Spiderもラインアップされ、14秒で開閉可能なリトラクタブル・ハードトップによるオープンエアも楽しめるという。
ここで簡単にフェラーリ849テスタロッサのプロフィールを紹介しておこう。基盤技術は3モーターのプラグイン・ハイブリッド。プラットフォームは「SF90ストラダーレ」の後継となるが、あえて「テスタロッサ」と命名したのは、現行フェラーリの中で最速を誇るからだろう。中身はSF90ストラダーレをベースにしているが、スタイリングは大きく異なり、新しいフェラーリのデザイントレンドを示している。
フェラーリはまた、SF90ストラダーレをベースによりサーキット志向を高めた「SF90XXストラダーレ」もリリースしている。筆者は幸運にも、この究極モデルをマラネロのサーキットでドライブする機会を得たが、まるで公道を走るレーシングカーのような速さに驚かされた。
ただし「SF90XXストラダーレ」は限定799台。ステアリングを握れるオーナーは限られている。最高出力1000ps超をプラグイン・ハイブリッドとV8エンジンで叩き出すその走りは、まさにF1マシンをロードカーに移植したかのようだった。
このモデルは0-100km/h加速を2.3秒以下で達成すると発表されているが、新型テスタロッサも細部の改良により「SF90XXストラダーレ」に迫るパフォーマンスを実現している可能性が高い。
発表会に参席していたマルコ・スペッソット氏は、テスタロッサの速さは「SF90ストラダーレ」を上まわるとコメント。言葉を選びながらも、孤高の存在である「SF90XXストラダーレ」と肩を並べる性能を秘めていることを示唆していた。ボディスタイルは2ドアクーペのベルリネッタと、格納式ハードトップを備えたスパイダー(オープンカー)が発表されている。
水平なダッシュボードを持ち、ステアリングホイールには各種スイッチ類が配置され機能性を重視。まるで浮遊したかのようなシフトゲートが印象的だ。カーボンファイバー製シートと、コンフォートシートの2種類が設定される。
“849”という新たな称号が与えられた
ボディサイズ=全長4718mm×全幅2304mm(ミラー込み)×全高1225mm、ホイールベース=2650mm。車両重量は1570kg。タイヤサイズはフロントが265/35R20、リヤが325/30R20。
「849」の意味は、V型8気筒エンジンの1気筒あたりの排気量が490ccであることを示している。
この4.0L V8エンジンはターボを備え、リヤミッドに搭載。もちろんエンジンカバーは赤く塗られている。新開発の4.0L V8ターボは従来比+50psの830psを発揮。
さらにプラグイン・ハイブリッドシステムはフロントに2基、リヤに1基のモーターを搭載し、モーターのみで220PSを発揮。システム総合出力は驚異の1050psに到達する。0-100km/h加速はSF90より0.2秒短縮されており、「SF90XXストラダーレ」を凌駕している可能性すらある。バッテリー容量は7.45kWhで、EVモード航続距離は25kmを確保。フェラーリ・ジャパンは国内価格を6465万円と発表した。
タイヤサイズはフロント245/35R20、リア325/30R20で、ピレリ、ミシュラン、ブリヂストンの3社が選べる。ブレーキはバイワイヤシステムが採用され、独自のABS技術を投入する。
テスタロッサは「SF90XXストラダーレ」の化身か?
パフォーマンス的に「SF90XXストラダーレ」と肩を並べるとすれば、849テスタロッサの走りを想像するのは容易だ。ここで筆者が2年前に試乗した「SF90XXストラダーレ」の記憶を呼び起こしたい。
2023年11月、イタリア北部マラネロのサーキットはあいにく濡れた路面だった。冷えたタイヤとマシンへの不慣れさもあり、最初は慎重に走るしかなかった。だが、1030psのモンスターを前にして、スロットルを全開に踏み込む衝動を抑えきれなかった。
瞬間、背後からV8ターボの800psが目を覚まし、モーターのトルクが加わることで強烈な加速Gが身体を押し付ける。まるでロケットにまたがったかのような感覚だった。路面温度が上がり、タイヤの接地感がステアリングを通じて明確に伝わってきたとき、「攻めの走り」に移行できる準備が整った。
1030psを使いこなすにはブレーキングが決定的に重要だ。カーボンコンポジット製ブレンボブレーキと進化型ABS「ABS-evo」の組み合わせは、半乾きの路面でも安定性を失わない。左右で路面状況が異なる場面でも、ダウンフォースと電子制御により不安定な挙動は見られなかった。
さらに高速コーナーでは、大型リヤウイングが250km/hで530kgものダウンフォースを発生させ、F1直系の空力技術が安定性をもたらす。200km/hのコーナーではステアリングがずっしりと重くなり、強い接地感が伝わる一方、低速コーナーではダウンフォースが薄れ、ステアリングは軽快になる。
エアロダイナミクスは、冷却性能の最適化とダウンフォースの増強を狙い、512Sや512M、FXX-Kなど、往年のレースカーを思い起こさせる。ダウンフォースは250km/hで415kgに達し、SF90Stradaleをも凌ぐ。
新世代フェラーリはハイブリッドを駆使するサラブレッド
849テスタロッサは一見、手に余る荒馬のように思えるかもしれない。しかし実際には、最新テクノロジーによって調律され、史上最速かつ最も洗練されたサラブレッドへと進化しているはずだ。
フェラーリが追求するスポーツカーは、単なる速さだけを誇るマシンではない。ドライバーに感動と情熱を呼び覚ます「パッションクリエイター」である。
「山男には惚れるな」という格言があるが、フェラーリ好きの男性にも惚れてはいけない。どんな美女がパッセンジャーシートに座っていようと、その存在を忘れてしまうほど特別な世界がフェラーリにはあるのだ。
清水 和夫 Kazuo Shimizu
国際自動車ジャーナリスト 神奈川工科大学自動車工学部客員教授
1972年のラリーデビューし、1980年代からプロのレースドライバーに転向し、国内外の耐久レースに参加する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。現在はラリーから始まりレースにプロとして参戦し、再び全日本ラリーに復帰。自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆活動を行うほか、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。
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