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2025.11.10
静謐な空間で繊細な仕事にかかる料理長の西村将。
都心にありながらも、圧巻の和空間とホスピタリティで、宿泊者を魅了し続けるのが「星のや東京」である。その施設内に、「鮨 大手門」ができたことは、旅館ラヴァーにとっては大変な朗報であろう。
鮨店を開いた大きな理由は、日本旅館の中にある鮨屋として、日本人のゲストにこそ食べて評価してもらいたい、という点にある。
次の総支配人・池上真敬の言葉を聞けば、そこには「星のや」スピリットの表れを十全に感じ取ることができる。
「宿泊客は、温泉に入ったあとで、滞在着で裸足という最高にリラックスした状態で食べていただきます。お酒の好きな方は、たくさん飲んで、そのまま部屋にお戻りになってすぐに就寝することが可能です。そこが旅館の中にある鮨屋の良さかなと思っています」
肝心の鮨は江戸前である。とは言え、鮨種には東京近郊はもちろん、全国各地から厳選した旬の魚介を用いる。
この鮨屋には、ダイニングとしての3つの特徴がある。
1つ目は、料理長・西村将の日本料理の研鑽を反映して、先付けに始まる6種の「酒肴」を皮切りにしている点だ。それらはもちろん季節によって内容は変わる。
酒肴「戻り鰹の巻物」は、鰹以外の素材との構成が素晴らしい。
具体例を挙げれば、「戻り鰹の巻物」である。真ん中から外側に、秋茄子とニラ、戻り鰹、薄く剥いた大根の酢漬け、錦糸卵、海苔という構成だ。
茄子の甘みとニラや大根の酢漬けや錦糸卵が、鰹という海の獣性を柔らかくした上で包みこんで一体化させている。特にニラの強さが効いている。組み合わせは絶妙だ。それに辛子醤油を付けて食べるという趣向が秀逸なのである。
酒肴「伊勢海老と無花果の揚げ出し」は、伊勢海老と無花果の甘みがたまらない。
「伊勢海老と無花果の揚げ出し」は、揚げた伊勢海老と無花果(イチジク)、蓮根饅頭の上にイクラ、さらに海苔の佃煮を載せ、周囲には餡を流し入れた何とも手の込んだ一品だ。
伊勢海老の肉はプルンと甘く弾け、無花果はまた別の植物性の甘みをまったりと醸し出す。無花果は揚げたらより一層旨味を増すことの発見もあった。濃厚に出汁を効かせた餡は、それらの甘みととてもマッチしている。
「牡蠣の田楽」も素晴らしかった。田楽味噌の中に、焼いた牡蠣、ほうれん草と焼リンゴが潜んでいた。牡蠣には味噌焼きという食べ方があるように、田楽との相性は抜群にいい。そこに加わる焼リンゴの酸味と、添えられた酒粕を混ぜた白いクリームチーズが、発酵した旨味のレイヤーを織り成していく。
2つ目の特徴は、日本酒とワインのペアリングだ。筆者が試食した日は、特別に、日本一海に近い京都・伊根の向井酒造の数多くのラインナップと、イタリア、スペイン、フランスのワインなどを、専属のソムリエの解説付きで酒肴6品と鮨12巻に合わせてくれた。
「伊根満開 古代米酒」が「甘鯛の昆布締め」の美味しさを引き上げる。
特に向井酒造の日本酒が素晴らしく、ほとんどは冷酒でのサーブだったが、ときに熱燗で供されたりして、その差配は見事だった。
とりわけ、酒肴「甘鯛の昆布締め」に合わせた「伊根満開 古代米酒」、この豊饒さはまるで日本酒におけるロゼだろう。酒肴「鰯の蒲焼き飯」に合わせた「益荒猛男 特別純米原酒 山廃仕込み」の65℃の熱燗は、まろやかで柔らかい。鮨の「煮蛤」と「穴子」に合わせた「京の春 純米大吟醸」は酸味と甘みのバランスがいい。
個人的にはワインよりも日本酒が好みだったが、いずれの場合も、料理とアルコールの合体(マリアージュ)は、口の中で料理の良さを倍加させた。
今後は、様々な県の日本酒や焼酎も出していくが、11月中は向井酒造の2種やイタリアのヴェローナにあるワイナリー・ナルデッロのワインを含む、全8種程度を出す予定だというから見逃せない。
「握り」は、まずは要となる酢飯だが、料理長は、2種の酢をブレンドし、その中に梅干しとレモンを約2カ月寝かせるという、斬新な手法を編み出した。そのためか、酢の中の塩味は舌の上でキレイに澄んでいるように感じた。
丁寧な包丁の技によって、烏賊の旨味が倍加する。
細かく包丁の仕事を施した「剣先烏賊」が素材の旨味と甘みを存分に引き出していた。また、3分だけ早漬けした「赤身」や「あこうの昆布締め」などが見事だったが、料理長が得意とするのは、そうした「漬け」や「酢締め」をあしらう江戸前の技だけではない。
握り「雲丹」には淡雪塩をたっぷりと振った。
シャリに載せた「雲丹」には、淡雪塩をたんまりとかけ、スダチを絞った。最後に大振りの海苔で包んで食べるのだが、それは初めて目にする手技で、新しい味との出会いでもあった。そもそも、ウニは海藻を食べて育つから、海苔との相性は抜群にいい。
また、地方の食文化からヒントを得た独創的な握りも、当店だけにしかない斬新なものである。
和歌山の目張寿司をアレンジした忘れ難い一品。
「目張寿司」は和歌山で食されるものだが、地元ではご飯にヒジキを入れて高菜漬けの葉で包む‶お握り″のようなものだと言う。それをアレンジして、刻んだトロ鮪、らっきょう、いくらといった具を酢飯で層状にして、最後に高菜の葉で包み込んだ。これはちょっと忘れられないほど楽しく美味しい一品だった。
凛々しく気持ちのいい空間で食す鮨は格別だ。
3つ目の特徴は、こうした極上の食体験を味わいながら、背後からは、旅館のサービスで鍛え上げられたホスピタリティを受けることができることである。しかもそれを享受する舞台は、樹齢二百年を超える青森ヒバの一枚板のカウンターであり、また、部屋自体が極めて美しくも心地よい空間となっている。
この「鮨 大手門」だけは、宿泊せずとも、外部からの予約で誰もが楽しむことができるというから嬉しい。それも歩みを止めない「星のや」らしい新しいチャレンジと言えるのではないか。
敬称略
鮨 大手門(「星のや東京」内)
住所:東京都千代田区大手町1-9-1 電話:050-3134-8091(星のや総合予約) 時間:一部 17:30、二部 20:00 料金:おまかせのみ1名 36,300円(税・サービス料込、宿泊料別) 定員:各回8名
備考:メニューの内容、食材は変更になる場合がある。 11歳以下は入店不可。
「クレア」「クレア・トラベラー」元編集長
星のや東京 鮨 大手門 公式サイト
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投稿 東京・至高の日本旅館「星のや東京」に カウンター全8席の「鮨 大手門」が誕生 は Premium Japan に最初に表示されました。