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鹿児島の「宝」を巡る旅
2025.10.23
注目の自然派コスメを生み出す、鹿児島のボタニカルガーデンと工房を訪ねて
鹿児島のボタニカルガーデンで栽培されている何種類ものハーブが、自然派コスメの原料となる。写真は「ヴィーナスターオーガニクス」が手掛ける、ダマスクローズや月桃などを用いた化粧水など。(価格等の詳細は後述)
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温暖な気候と豊かな自然が残る鹿児島は、ハーブや花々を栽培するボタニカルガーデン(植物園)が多い。自社農園で栽培したハーブなどを用いてナチュラルコスメやアロマオイルなどを作る工房も幾つか存在する。なかには、自社ブランドのみならず、大手コスメメーカーから委託を受けて生産し原料を提供する、いわゆる「OEM」を行っている工房も。つまり、それだけ鹿児島で作られる製品のクオリティが高いということに他ならない。今回の「南の宝箱 鹿児島」を巡る旅では、こうした自然派コスメに携わる「開聞山麓香料園」「ヴィーナスターオーガニクス」そして「ボタニカルファクトリー」の3つの工房や自社農園に足を運んだ。
開聞山麓香料園
80年以上の歴史を持つ、日本で最初のハーブ園
薩摩半島の南端に位置し、美しい稜線を見せる開聞岳(かいもんだけ)。薩摩富士とも称される優美な山の麓に広大なハーブ園を構えるのが「開聞山麓香料園」だ。開園は1941年。日本で最初のハーブ園といわれている。
ハーブ園の広さは、サッカーグランドのおよそ8面分以上に相当する約6ヘクタール。そこにレモングラス、ローズマリー、レモンユーカリ、ティーツリー、ローズゼラニウムなど50種類ほどのハーブが植えられている。なかでも特筆すべきは、1万本を超す芳樟(ほうしょう)の木だ。芳樟はクスノキ科の植物で台湾が原産地。葉にはリナロールという成分を多く含み、抽出されたリナロールがフルーティで甘い香りを発することから、「開聞山麓香料園」では、1947年からこの芳樟の栽培を始めている。
後方にずらりと並ぶ、薄い茶褐色の幹を持つ木が芳樟。なかには20mほどの高さになるものも。開聞岳がボタニカルガーデンを優しく見守る。
早速、副園長の宮崎利樹さんに園内を案内していただいた。道の両脇に高さ7~8mほどの木が立ち並ぶ。これが芳樟の木だ。
「匂いを試してみませんか」
宮崎さんが一枚の葉をちぎり、手渡してくれた。そっと嗅いでみる。甘く爽やかであると同時に、どこか懐かしさも感じさせる香気が仄かに立ち上る。樟(くす)から採れる樟脳の、ツンとした香りとはまったく異なる、どこまでも甘く爽やかな香りだ。
「この甘く爽やかな香りの素がリナロールで、私どもの工場が生産する芳樟精油の成分のうち80%がリナロールです。これほどリナロール含有率の高い植物由来の精油はなかなか他にはありません」
緑も鮮やかな芳樟の葉。爽やかと同時に柑橘系をも感じさせる複雑な香りを放つ。
1947年に台湾から芳樟が持ち込まれたことを契機に、南薩摩地方では芳樟の栽培が盛んになり、最盛期の1970年前後には、知覧や枕崎でも栽培がおこなわれ、年間5トンもの精油が抽出された。しかし、人工のリナロールが登場し、手間のかかる芳樟からの抽出は行われなくなっていた。
「ところが、近年は自然派志向が高まり、合成リナロールでなはく100%天然由来の精油が再び脚光を浴びるようになりました。そうした流れを受けて、『開聞山麓香料園』でも芳樟精油の抽出を再び始めるようになりました。現在では年間約20㎏の精油を生産しています」
農園の奥では、ちょうど芳樟の葉の収穫が行われていた。チェンソーで幹から伐り落とされた枝を一か所に集め、葉だけを手早く小枝から摘み取っていく。響くのはチェンソーのエンジン音だけ。屋外で黙々と行われる地道な作業だ。
チェンソーで刈り取った小枝から、葉を一枚一枚摘んでいく。精油作りはこうした地道な作業から始まる。
「1㎏の精油を抽出するのは100㎏の葉が必要となります」
宮崎さんのこの言葉を聞くと、精油を抽出するのがどれだけ大変な作業であることがよくわかる。しかも一度葉を収穫すると、次の収穫まで3~4年は間を置かなければならないとのこと。1万本もの芳樟は、ある意味では必要な本数だったのだ。
蒸留所では、春と秋に蒸留体験ツアーも実施
蒸留所にも案内していただいた。あいにく、蒸留の作業が行われていない時期だったが、所内に並ぶ3つの蒸留器は、なんとどれも創業時から使われているという年代もの。時代を感じさせる装置が、80年前と同じ精油を生み出しているかと思うと感慨深い。
蒸留所には、丹念にメンテナンスされた蒸留器が3台並ぶ。
園長を務める父の宮崎泰さんをサポートし、精油作りに邁進する宮崎利樹さん。
蒸留所の奥には、大きなフラスコなどが並ぶ、まるで理科実験室の様な部屋も設けられている。蒸留された精油を、この部屋で半年から1年ほどねかせ、香りを落ち着かせる。すべてが、極めて手のかかる完全な手作業で、ようやくひとつの商品ができあがる。
「開聞山麓香料園」のシグネチャーアイテムともいえる、「芳樟精油」。7ml、2,200円・3ml、1,000円(いずれも税込)
「芳樟精油」は、やわらかな甘さと清々しいグリーンの香りが調和した、心をほぐすような優しいアロマ。リラックス効果が期待できるため、ドライハーブに数滴垂らして香りを漂わせたり、アロマディフューザーで寝室を満たせば、一日の疲れを静かに癒してくれる。また、他の精油とブレンドすれば、自分だけのオリジナルアロマを楽しむこともできる。
農園で栽培した月桂樹、ローズマリー、オレガノ、タイムをブレンドした「ハーブの香りだし」。7パック入り、1,000円(税込)
「ハーブの香りだし」とは、ブーケガルニのこと。通常はパセリやタイム、ローリエなどを束ねて煮込み料理に加え、素材の臭みを抑えながら、深みのある香りを添えるものだ。この「ハーブの香りだし」は、開聞山麓香料園で育てられた月桂樹、ローズマリー、オレガノ、タイムの4種を贅沢に使用。シチューやロールキャベツ、スープなどのお鍋にひとつ入れるだけで、爽やかな香気がふわりと広がり、旨味をぐっと引き立ててくれる。いつもの家庭料理が、ひとさじの魔法でレストランの味に変わる──そんな上質な香りのひと包みだ。
匂い袋、お風呂用の香水、石けんなど、ショップにはオンラインでは販売していない園内限定のアイテムも並ぶ。
「開聞山麓香料園」では、芳樟をはじめ、レモンユーカリ、ローズマリーなどの精油、ハーブティや石鹸などの自社製品を併設のショップで販売。広大な農園を散策し、さまざまなハーブが栽培されている様子を実際に見学することもできる。また、定期的に開催される蒸留体験は、予約開始すぐに満席になる人気ぶりだ。80年という長きにわたり、自然派コスメの源流を培ってきた「開聞山麓香料園」。ぜひ足を運んでみたい。
開聞山麓香料園
鹿児島県指宿市開聞川尻5926
Tel:0993-32-3321
開園時間:9時~17時
定休日:火曜日
入園料:無料
ヴィ―ナスターオーガニクス
夫婦二人三脚で手掛ける、高品質の自然派コスメ
月桃、ローズマリー、レモングラス、ローズゼラニウム、レモンバーム……。10種類近くのハーブが植えられたガーデンで、自ら育てたハーブを愛おしそうに眺めるのは、永仮紗彩さん。夫の洋文さんと二人三脚で、「ヴィーナスターオーガニクス」ブランドのオーガニックコスメを手掛ける紗彩さんはカンボジア生まれ。洋文さんと結婚して日本に帰化し、永仮さんの故郷である鹿児島でハーブ栽培を始めた。
自宅兼工房前に設けられたハーブガーデンで、手塩にかけて育でたハーブを見つめる永仮紗彩さん。
ボタニカルガーデンで栽培されているさまざまなハーブ。右上から時計まわりに、レモングラス、ペパーミント、ティーツリー、月桃。
「カンボジアでは、ハーブが日常の食事や医療に深く溶け込んでいます。私自身も幼い頃からハーブに親しんできました。温暖な鹿児島もハーブ栽培には適した気候ですので、ここで何種類ものハーブを栽培し、人工的なものは何も加えない自然派コスメを多くの人にお届けしたいと思います」
自宅兼工房の周囲に設けたハーブガーデンの他に、約2,000坪ほどの農園を持ち、そこでも20種類ほどのハーブを栽培し、それを原料としたさまざまな自然派コスメが作られる。
「霧島は豊かな自然だけでなく、シラス台地が濾過したミネラルが豊富な天然温泉水に恵まれた土地です。雨も多いのでハーブが育ち、それを上質な水を用いて化粧水を作ると、肌に優しい素晴しい商品が出来上がります」
商品開発を担当する洋文さんがリコメンドしてくれたのは化粧水「ジャポニズムローション」シリーズ。ダマスクローズ、ジャスミン、月桃など5種類の商品は、いずれも霧島の天然水に、イチョウ葉エキスやワサビの葉エキスなど4種類の鹿児島産植物エキスを配合し、それぞれのハーブの香りを纏わせたもの。合成香料や合成着色料、鉱物油といったいわゆる人工化合物は一切含まれていない、文字通りの自然派コスメだ。
「ジャポニズムローション」シリーズの中から、「ダマスクローズ」を試してみた。手のひらに取ると、みずみずしくさらりとしたテクスチャーで、驚くほど甘く、華やかなダマスクローズの香りが立ちのぼる。頬や額にそっとなじませれば、潤いとバラの甘い香りで、気分まで上がるようだ。毎日のスキンケアで、この香りに触れるたび、肌だけでなく心までも満たしてくれる、そんな優雅なひとときをもたらしてくれるローションだ。
左から、ジャポニズムローション(ダマスクローズ)、ジャポニズムローション(月桃)いずれも200ml・3,520円(税込)ジャポニズム ツバキマルチオイル 、30ml・3,740円(税込)、ルームミスト(桜島小ミカン×霧島レモングラス)、30ml・1,980円(税込)
鹿児島産椿を用いた「ツバキマルチオイル」もおすすめ。椿油は古くから日本女性のスキンケア、ヘアケアに使われてきたもの。「ツバキマルチオイル」は、低温圧搾法にて圧搾した希少な椿油に、ダマスクバラ花エキス、ダマスクバラ花油、トウキンセンカ花エキス、カミツレ花エキスを配合したマルチオイル。スキンケア、ヘアケアはもちろん、頭皮ケア、爪のお手入れ、ボディオイルとしても優秀。ダマスクローズの香りが素晴らしいので、至福のケアを堪能できる。使い勝手のよいアイテムだ。
15種類のエッセンシャルオイルを80%以上使用した「ルームミスト」もラインナップは豊富。桜島小ミカンの果皮の精油と、霧島産レモングラス精油をブレンドしたルームミスト「桜島小ミカン×霧島レモングラス」は、爽やかさの中にミカンの甘さがあり、気温や湿度が高い時に使えば、リフレッシュ効果は抜群。
ドライハーブにすると、水分が抜けて成分が凝縮され、香りが強くなる。右奥から時計まわりに、バタフライピー、カレンデュラ、カモミール、ダマスクローズ。いすれも自家栽培したもの。
「ヴィーナスターオーガニクス」は自社製品だけでなく、抽出した原料を用いた自然派コスメの開発を、化粧品メーカーとともに行っている。また、さらに良質なものを目指し、来年に向けて自社コスメのリニューアルの検討も始まっている。
「肌に使うものは、新鮮なものではなくてはなりません。また、植物が持つ本来の力を最大限引き出すには、やはり新鮮な植物が必要となってきます。そのためには素材となる植物は自ら作る、あるいはできる限り近いところ、つまり鹿児島県産のものを使うのがベストだという結論に辿りつきました。」
桜島小ミカン、ティーツリー、タンカン、ヒノキ葉、レモンユーカリ、レモンバーベナ……。洋文さんが語るように、「ヴィーナスターオーガニクス」が手掛けるさまざまな原料は、いずれも自家栽培もしくは鹿児島県産から作られる。
高品質の精油を生み出す、ポルトガル製の銅の蒸溜器
工房には、精油や芳香蒸留水を生産する銅製の蒸留器が2台備わっている。「アランビック」と呼ばれるポルトガル産の蒸留器は、現地の銅職人が胴板から手作業で打ち出した伝統工芸品。
「ガラス製やステンレスに比べ、熱伝導率が高いために、植物の生臭さのもととなる硫黄系成分が除去され、高品質の精油や芳香蒸留水を抽出することができます」
2台の蒸留器並ぶ工房は、それほど広くはない。でも、この自宅裏に設けられた工房で、夫婦二人で丁寧に作られた数々の原料が、多くのコスメメーカーへと渡り商品となっていく。マニュファクチュール(家内制手工業)の原点がここにはある。
銅製の蒸留器が2台置かれた、こじんまりとした工房。銅イオンの殺菌効果により、保存期間の長い蒸留水を抽出することができる。
ヴィーナスターオーガニクス
お問合せメールアドレス:mail@venustar-organics.com
*現在、見学には対応していません。
ボタニカルファクトリー
大隅半島の大自然が育んだ、注目の自然派コスメ
温帯気候と亜熱帯気候が入り混じる鹿児島県の大隅半島。4,000種類以上の植物が群生する半島は、豊かな緑に覆われた自然豊かな地が広がる。この大隅半島の最南端に位置する南大隅町に本拠を置く化粧品メーカー「ボタニカルファクトリー」の製品や活動に、近年注目が集まっている。
4,000種類を超す植物が生い茂る大隅半島。「ボタニカルファクトリ―」の本社と工場のすぐ裏手も、濃い緑に覆われた景色が広がる。
「生まれたばかりの娘がかなり重いアトピー性皮膚炎となり、食事療法やさまざまなスキンケアを試したのですが、どれも効果はありませんでした」
「ボタニカルファクトリー」代表の黒木靖之さんが、ナチュラルコスメへ目を向けるきっかけとなったのは、自身の娘さんへの思いからだった。じつは黒木さんは、それ以前から化粧品の輸入販売などを手掛ける事業に携わり、化粧品に対する知識もある程度持っていた。
「自ら化粧品に携わっていながら、自分の娘のアトピーには何の役にも立っていない」
そんな思いを抱いた黒木さんは、肌に優しく、口に入れても安心な化粧品作りへと事業の方向を切り替えていった。
黒木さんが最初に取り組んだのは子どものための石けんとフェイスオイルだった。アトピーに効くとされたダチョウの油を用いた手作りの石けんとフェイスオイルが好評となり、2006年には故郷の南大隅町に工場を設立。
「大隅半島の豊かな自然を生かした、自然由来100%の成分にこだわり続けたいと思います」と、代表の黒木靖之さん。
「以前は気づきもしませんでしたが、南大隅という土地は、月桃をはじめさまざまなハーブが自生するという、アロマオイルを作る原料を入手するには最適の地なのです」
当初は、自生するハーブや自家栽培したレモングラスなどでアロマオイルを作り、それを石けんの香り付けに用いていたが、やがてアロマオイルや蒸留水を使ったスキンケア商品のラインナップが増え、2016年には「ボタニカルファクトリー」が誕生した。場所はもちろん南大隅だ。
廃校となっていた小学校と中学校の校舎をリノベーションして工場に
廃校となっていた小学校と中学校をリノベーション。それが南大隅の地に誕生した「ボタニカルファクトリー」の本社と工場だ。町の協力で借り受けた校舎は、町の人々にとっても思い出がつまった建物。その活用は、地域の人々にとっても嬉しい知らせとなった。それだけではない。町の特産物であるパッションフルーツの規格外品を買い取ってローションの原材料とし、工場は地元の女性やシニア層の働き場となるなど、「ボタニカルファクトリー」の存在は、地域活性化の大きな拠点となっている。
図書室だった部屋を改装し、ショールーム兼ワークスペースに。窓からは広がる大海原を見渡すことができる。
「ボタニカルファクトリー」が手掛ける化粧品のブランド名は「ボタニカノン」。植物の「ボタニカル」と、音楽用語の「カノン」を組み合わせた造語で、植物本来の成分や香りが、カノン(輪唱)のように重なって届いてくることがイメージされている。
地元産のパッションフルーツを用いたローションは、地元の農家から買い取った規格外のパッションフルーツを丸ごと活用。さらりとした付け心地ながらも、気が付くと肌がしっとりし、そのしっとり感は、やがてハリ弾力に変わる。また、南国の太陽を思わせるパッションフルーツ独特の爽やかな香りがほどよく残り、それはいつまでも、まさしくカノンのように嗅覚を心地よく覚醒させてくれる。
また、フェイスオイルはベタつかずさらりとしているにもかかわらず肌馴染みがよく、化粧水のブースターとしてオイルマッサージ後に化粧水を重ねることで、水分と油分とのバランスが整う。
右/シトラス スカルプ&ヘアローション、100ml・2,750円(税込) 左/パッションフルーツローション、100ml・1,650円(税込)
左/ホーリーバジル化粧水、150ml・2,420円(税込)右/フェイスオイルEX、30ml・3,410円(税込)
「こちらへどうぞ」
黒木さんに導かれるまま辿りついた場所。それはかつて校舎だった建物の屋上をルーフトップテラスに改装したスペースだった。きらめく鹿児島湾の大海原を挟み、開聞岳が優美な稜線を見せている。目を見張るような絶景だ。海から吹き抜ける風が心地よい。
「3年ほど前から、リトリートツアーを開催しています。ゲストの方々には、ヨガシークエンスや工場でのオーデコロン作り、その後は天気が良ければこのテラスでランチ、そしてメディテーションと、盛りだくさんのメニューを体験していただきます。最近では県外からお越しになる方も増えてきました」
錦江湾を一望するルーフトップテラスには、ソファが置かれ、流れる時間をゆったりと味わうことができる。
原料から生産までを一貫し、しかも天然成分由来を原料とした化粧品作りをほぼ実現させる一方で、「ボタニカルファクトリー」は、化粧品が出す有害なゴミを減らすために、容器は再生プラスチックへと徐々に移行させている。
「私たちは大手メーカが行っている大量生産、大量消費とは距離を置いています。もともと、それができるような規模でもありません。ですので、現在の体制をベースに、鹿児島という地の利を生かし、今まで以上に地元に密着した自然派化粧品作りを目指しています」
「ボタニカルファクトリー」は、海を挟んだ対岸の「開聞山麓香料園」から原料の一部を仕入れている。大隅半島と薩摩半島、二つの半島の間で原料がやりとりされているのだ。また、南大隅町には国の指定史跡の「佐多旧薬園」がある。これは薩摩藩が薬草を採取していた場所。黒木さんの言葉が物語るように、ハーブ栽培に関する独自の歴史を持ち、ハーブを介した工房間の交流が行われている鹿児島は、自然派化粧品づくりには格好の土地といえよう。
ボタニカルファクトリー
鹿児島県肝属郡南大隅町根占辺田3222(旧登尾中学校)
Tel:0994-24-3008
豊かな自然と、そこで暮らす人々の知恵が結びついたとき、その土地にはさまざまな「宝」が生まれる。鹿児島県の各地で生まれ、光り輝く数々の「宝」。それらは今や、世界が注目する存在になりつつある。
そんな鹿児島の宝を巡る旅は、これからも続く。これまでの「南の宝箱 鹿児島を巡る旅」は以下から。
Photography by Azusa Todoroki(Bowpluskyoto)
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鹿児島の「宝」を巡る旅
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北欧の名作家具に出会う宿
2025.10.16
カール・ハンセン&サンの名作家具と古民家宿が響き合う「Hygge Stay by Carl Hansen & Søn」
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デンマーク王室御用達の家具メーカー、カール・ハンセン&サンが、瀬戸内の伝統的な日本家屋で北欧のヒュッゲを体感できる、宿泊体験型インスタレーション「Hygge Stay by Carl Hansen & Søn」を開催中。2026年2月15日(日)までの期間限定で宿泊が可能だ。
会場は、香川県丸亀市・本島に佇む一棟貸しの古民家宿「Villa Tomari」。かつて郵便局長が暮らしていた旧松野邸をリノベーションした宿は、当時としては珍しくモダンな造りで、北欧家具との相性も抜群。
伝統的な日本家屋が蓄えてきた「経年の美しさ」が光る空間に、ハンス J. ウェグナーの「CH23」や「CH88P」、ボーエ・モーエンセンの「BM0121 ダイニングテーブル」などの名作家具が自然に溶け込んでいる。
さらに屋外スペースには、カール・ハンセン&サンのアウトドア家具を配したサウナエリアも。風と光、そして静寂に包まれながら“ととのう”ひとときを堪能できる。
館内にはカール・ハンセン&サンの貴重なオリジナルのアーカイブ写真や、デンマークの海の風景、本島の地図などをアートピースとして展示。時の流れとともに深みを増す空間で、時代を超えて受け継がれる名作家具の魅力を体感してみてはいかがだろうか。
◆「Hygge Stay by Carl Hansen & Søn」
【期間】開催中~2026年2月15日(日)(瀬戸内国際芸術祭 秋会期(10月3日~11月9日)と一部重複)
【場所】Honjima Villa「Villa Tomari」(香川県丸亀市本島町泊494-16)
【形式】宿泊体験型インスタレーション(1日1組/4名まで)
【料金】50,000円(税込)~/1泊(食事別途予約制·有料)
【宿泊定員】4名まで
photo: Shinsuke Inoue
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星のやに泊まる、星のやを知る
2025.10.10
星のや軽井沢「森林養生」プログラム 森に身をゆだね、心身を解き放つ3泊4日の旅
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“その瞬間の特等席へ。”をコンセプトとする星のやブランドの始まりの地である「星のや軽井沢」。今年開業20年を迎え、「谷の集落に滞在する」をテーマに、「日本の原風景」を描いた美しい景観と心豊かな時間が過ごせる宿として、多くの人々を魅力し続けています。今回ご紹介する「森林養生」プログラムは、ただ休むための滞在ではありません。森を歩き、湯に浸かり、旬の養生食をいただき、体を調えていく。この体験を繰り返すことで、驚くほどに心身がリセットされていく体験プログラムです。今回は3泊4日のプログラムの一部を体験し、その背景を開発者に伺いました。
自然に抱かれ、ゆっくりと深呼吸するように身体が調っていく「森林養生」プログラム
チェックインを済ませると、3泊4日のスケジュールの説明と共に、現在の身体の状況をお話するコンサルテーションが行われます。
ただのんびりするだけではなく、身体を見つめ直して、身体を調えることに焦点を合わせた旅。
どんな旅になるのか、果たして効果を実感できるのか、そんな想いを抱きながら、プログラムがスタートします。
まずは、「深呼吸入浴法」を学びながら大きく呼吸をして身体の緊張を解していく。
その後は、プログラムの主軸の1つである「森林浴ウォーキング」に向けて、ノルディックウォーキングポールの使い方を敷地内でレッスン。ノルディックウォーキングポールは通常のポールとは使い方が異なり、ポールを身体の前で杖として使うのではなく、身体の後ろでウォーキングをサポートするようにして使います。そのためにウォーキングを後押ししてテンポよく歩けて、姿勢を正して足を出すことで身体が温まっていくようです。
説明によると、ノルディックウォーキングポールを使うと、普段よりも腕を大きく振ることで全身運動となり、運動量が高くなるとのこと。緑豊かな環境で身体を動かすことの心地よさを感じながら、頭を空っぽにして歩みを進めることに爽快感を感じていきます。
到着後の緊張した身体をゆっくりとほぐしながら、「深呼吸入浴法」を学ぶ。
いざ、森林浴ウォーキングへ出発。コースはその日の体調に合わせて基本3つのコースから選ぶことができます。もちろん相談すれば、別のコースを選択することも可能とのこと。
軽井沢の名瀑「竜返しの滝」と「白糸の滝」、二つをめぐる道を選びました。途中まで車を走らせ、そこからは歩いて森の深みに分け入ります。足を踏み出すごとに、土の柔らかな感触が体に響き、小鳥のさえずりや木々のざわめきが心を優しく撫でていく。静寂に抱かれた世界で感覚がひとつずつ研ぎ澄まされ、絡まっていた思考がほどけていく。気づけば、胸の奥まで風が吹き抜けるように、心がすっと軽やかになっていくのです。
ポールを使うことで足取りが軽くなり、歩くことが楽しくなっていきます。
「竜返しの滝」まで来ると、一気に空気が変わり、気温も下がり、自然と深呼吸がしたくなっていく。
鍼灸・ボディケアの施術で、身体と深く向き合う
心地いい疲労感に包まれた後は、楽しみにしていた鍼灸・ボディケアの施術。実は鍼灸ははじめての体験。一度はやってみたいと思っていたものの、信頼できる先生でないと不安ということもあって未だに体験できていませんでしたが、星のや軽井沢が選んだ国家資格を有する、鍼灸・柔道整復師の方であれば安心です。
初日のカウンセリングで体調を細かく確認。3日間にわたり、その日の体調に合わせ、丁寧に施術が行われていきます。約150分の施術後は不思議と身体の痛みが和らぎ、さらに血が巡ってきたのか身体はポカポカです。
さらにいえば、朝起きた瞬間から腰痛に悩んでいましたが、翌朝は久しぶりの清々しさに包まれて、「こんなに自分の体は軽かったのか」と効果を実感しました。
完全個室のスパ棟では、水のせせらぎしか聞こえてこない。
施術は痛みを感じることなく、心地いい。
食べることも「森林養生」の大切な要素
「森林養生」のさらなる柱となるのは食事です。このプログラムではスポーツ栄養学に基づいた薬膳仕立ての特別食と星のや軽井沢のメインダイニング「日本料理 嘉助」での食事が三食用意されています。つまり滞在中の食事も徹底的に管理。
今回の夕食は「日本料理 嘉助」で『山の懐石』をいただきます。秋の食材である松茸や鮎、信濃雪鱒、薩摩芋などを使った料理はとにかく美しく、そして体に染み入る優しい味わいに仕上がっています。身体が調っていたせいもあるのか、ペロリと完食。
プログラムでは、2日目の夕食は特別食「山の旬菜鍋御膳」です。旬の野菜や薬膳素材が美しく盛られた鍋は、体に優しいだけでなく、食欲を満たす力強さもあるレシピ。
椀盛「中秋月」は、十三夜豆腐とすっぽんの身を入れた白玉は兎に見立てて。
重陽の節句をイメージした、進肴「被綿」。菊花蕪の中に鹿真薯が入り、上には松茸が乗っています。
素晴らしい環境の中での適度な運動、ボディケア、美味しい食事で大満足の1日の終わりは源泉かけ流しの温泉「メディテイションバス」で「深呼吸入浴法」を実践。ただ湯に浸かるのではなく、呼吸を整え、湯の中で軽く体を伸ばす。体が温泉に包まれながら、深い呼吸を繰り返すと、一日の疲れが取れるとともにエネルギーがみなぎっていくようです。温泉の力を“積極的に活かす”入浴法があることを今回はじめて知りました。
心も体も健やかになり、その日の夜はすぐに眠りにつくことができました。
朝食は、地元の山の恵みを薬膳の知恵と掛け合わせた「山の旬菜粥朝食」をいただく。滋味深いお粥を口に運ぶと、体がじんわり温まっていきます。朝からしっかり食べることは、新たな一日の始まりを整え、体を養う行為だと実感します。
特別朝食「山の旬菜粥朝食」。右奥の養生粥は戻貝柱ほぐし身、銀杏や百合根、小豆などが入った香り豊かで優しい味わい。
今回は3泊4日のプログラムの一部の体験ではありましたが、自分の身体の内に耳を傾け、自然の中で体を調えていく経験でした。都会でトレーニングをするのとは異なり、まさに心身が調っていくことを実感できます。貴重な休日をどう過ごすかを考えた際、食事や運動、そして鍼灸が調った環境にただ身を置くだけで、心も体も驚くほど軽くなっていきました。
完全個室になっているスパ棟。
星のや軽井沢からはじまった「養生」という発想と取り組み
この「森林養生」プログラムの開発背景について、星のや軽井沢総支配人の赤羽亮祐さんと、スパ開発を手掛け、さらには今回の「森林浴ウォーキング」のサポートもしてくださった髙橋明日香さんに話を伺いました。
「養生」とは、自分を養い、健やかに生きるための知恵。そう語るのは、星のや軽井沢総支配人の赤羽亮祐さんです。
「日本には古来から、食や呼吸、休息を通じて自分を整える文化がありました。星のや軽井沢ではその知恵を現代に置き換えて、軽井沢の自然や温泉の力を借りて心身を調える体験として「森林養生」プログラムを開業して間もないころから提供しています。
星野リゾート入社後、プログラム開発に従事。2015年に「星のや軽井沢」総支配人、2019年に「星のや東京」総支配人を務め、2021年から再度「星のや軽井沢」総支配人を務めている。
「森林養生」プログラムが始まったのは開業当初から
「当時はマクロビオティック(マクロビ)が注目されており、健康的な食事への関心が高まっていました。そこで「森林養生」でも食事を中心としたプログラムを行っていましたが、当時は今よりずっとストイックで、玄米を百回噛む、ゴマをすり続けるといった厳格な食事法でした」と赤羽さん。
「当時は食事の際に横に座って指導をするほど徹底的な指導でした。その甲斐あって、滞在中に減量ができたり、フェイスラインがすっきりしたなど目に見えた効果を感じていただきましたが、いまは無理なく続けられることを重視しています。大切なのはゲストが自分のペースで“心地よさ”を見つけることですから」とプログラムを企画・開発した髙橋さん。
「森林養生」プログクラムのスタート当時から企画に携わっている髙橋さん。ご自身もマラソン大会に出場するほどのアスリートである。
さらに髙橋さんは「森林浴ウォーキング」で新たに採用したノルディックウォーキングポールについても話してくれました。
「通常のポールは杖のように使用しますが、このノルディックウォーキングポールは腕を大きく振って、ウォーキングのサポートをしてくれる道具になります。ウォーキングの助けになるとともに、全身運動となることで運動量も増加します。このポールを使ったことで、普段より長い距離を歩けたとおっしゃるお客様もいて、帰宅後にポールを購入されて日常に取り入れているようです。ここでも体験が一時的なものではなく、帰ってからの生活に生かされることは嬉しいですね」と話します。
ウォーキング中は腕に心拍計をつけて、運動による心拍の変化をチェックしていきます。
まずはポールの使い方をレクチャーしていただく。ポールを使うと、姿勢を正して、テンポよく進むことがラクになります。
エビデンスに基づき、あらゆる角度から養生を行っていく
もちろん食事を大切にする発想は、スタート当時から変わることなく反映されています。
「薬膳は特別なものに感じられるかもしれませんが、基本は旬の食材を活かすことからはじまります。信州ならではの恵みを取り入れ、運動や施術の効果を高める献立を提供しています。今回より地元で、アスリートの運動や食事指導を行っている公益財団法人『身体教育医学研究所』と『ニッスイ湯の丸アスリート食堂』の力をお借りしたプログラム構成になっているのも特徴です」。
また鍼灸をはじめとする東洋医学のアプローチも、今回から導入したものです。3日間に渡って行われる鍼灸とボディケアの施術は、それぞれの体調を見ながら行われます。連日の施術で、より体の声に耳を澄ませることで、自分に合った回復法を見つけるきっかけとなるはずです。
星のや軽井沢を象徴するランドスケープ「棚田ラウンジ」を背景に。
さらに特徴的なのは、スタッフ全員がプログラムに関わっている点です。外部講師に任せるのではなく、スタッフ自身が知識や技術を学び、ゲストに寄り添っていく。
「だからこそ小さな変化に気づけるのです。ゲストが自分なりの物語を紡ぐ、そのそばに寄り添うのが私たちの役割だと思っています」と赤羽さんは語ります。
いまではその発想は他の「星のや」にも広がっています。星のや竹富島では「島時間養生」、星のや東京では「深呼吸養生」といった形で展開され、土地固有の自然や文化を取り入れながら、ゲストが自分を見つめ直すきっかけを提供しています。
広大な星のや軽井沢。悪天候の日は、星野温泉 トンボの湯へ続く「イチイの丘」で、軽いランニングなどで身体を慣らすのもおすすめです。
取材を終えて思うのは、このプログラムは「癒し」を超えた存在だということです。森を歩き、湯に浸かり、旬をいただき、ただ休む——。そのシンプルな行為の積み重ねが、自分自身を深いところからリセットしてくれます。
赤羽さんが最後に語った言葉が印象的でした。
「ここは“何かをする場所”ではなく、“何もしないことを思い出す場所”なんです」
森に抱かれながら過ごす3泊4日の滞在は、忙しい時間を過ごす私たちが忘れかけていた“調和・調整”を呼び戻す意味深い時間になりました。
◆星のや軽井沢「森林養生」
・実施 通年
・料金 1名270,000円〜(税・サービス料込)*宿泊料別
・含まれるもの コンサルテーション2回、深呼吸入浴法レクチャー1回、森林浴ウォーキング4回、鍼灸・ボディケア3回・浅間山ストレッチ1回・のびのび深呼吸1回、夕食「日本料理 嘉助・山の懐石」2回、特別夕食「山の旬菜鍋御膳」、朝食「日本料理 嘉助・山の朝食」1回、インルームダイニング朝食1回、特別朝食「山の旬菜粥朝食」1回
・定員 1日1組(2名まで)
・予約 公式サイトで10日前までに受付
・対象 星のや軽井沢宿泊者
・備考 身体バランスや要望、天候に合わせてスケジュールは変更になる場合があります。
仕入れ状況やスケジュールにより食事内容が一部変更になる場合があります。
2名でご予約の場合は一部滞在スケジュールを変更させていただきます。
Text by Yuko Taniguchi
Photography by Natsuko Okada(Studio Mug )
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鹿児島の「宝」を巡る旅
2025.10.2
癒やしの島、屋久島へ。豊かな自然の恩恵を受けて暮らす人々が営むショップとカフェを訪ねて
「ヤクスギランド」で出会うことができる屋久杉のひとつ「千年杉」。圧倒的な存在感で訪れる人を出迎える。
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「南の宝箱 鹿児島」を巡る旅の今回の目的地は屋久島。鹿児島本港から高速フェリーで最短2時間、ほぼ中央に九州最高峰の宮之浦岳(標高1936m)がそびえる周囲約130㎞の島だ。島自体は亜熱帯に属するものの、亜熱帯から亜寒帯までと、多様な植生の垂直分布が見られ、1993年には日本初の世界自然遺産の島に認定された。屋久島の植物といえば、やはり屋久杉。数多くの屋久杉を鑑賞できる島内隋一の森「ヤクスギランド」で、実際に屋久杉を目の当たりにした後は、屋久杉がもたらす豊かな自然と、その自然の恩恵を受けて暮らす人々が営むショップ「YAKUSHIMA BLESS」 と、「Plant-based Cafe&Act【ne-】」「やくしま果鈴」の二つのカフェを訪ねた。
海岸沿いのわずかな平地をのぞき、島の大半は山また山。その山々を濃い緑が覆う。
「ヤクスギランド」で数多くの屋久杉に出会う
屋久島を訪れたら、まずは縄文杉へ。だれもがそう思うかもしれないが、縄文杉への道のりは往復約22キロを、10時間前後かけて走破する本格的なトレッキングコースとなり、なかなか困難なことも事実。もう少し手軽に屋久杉に出合うことができる場所、それが「ヤクスギランド」だ。
ちなみに、屋久杉とは樹齢1,000年を越える杉、そして縄文杉とは、標高1,300m付近の山中に根を張る最大級の杉の一個体に付けられた名称で、約2,000年から約7,000年の間の樹齢と想定されている。一方、「ヤクスギランド」にも樹齢2,000年前後の屋久杉が何本か存在し、間近で見ることができる。
30分・約800mの「ふれあいの径」コースは、木道と石張歩道が整備されているので小さな子どもでも歩くことができる。このコースでも、何本かの屋久杉に出会う。
海沿いは晴れていたのに、標高1,000mを超える「ヤクスギランド」に到着すると雨が降ってきた。雨と同時に、樹々も一斉に深呼吸を始めたのだろうか、周囲の緑がより色濃く鮮やかになってきたかのようだ。程よく整備された30分・約0.8㎞の「ふれあいの径」から、210分・約4.4㎞の「天文の森」までコースは5通り。年齢やその日のコンディションに合わせて選ぶことができる。
今回は80分・約2㎞の「つつじ河原」を選択した。「ふれあいの径」と重なる最初の間は比較的に楽な道のりだったが、奥へ入るにしたがってアップダウンも加わり、径も険しくなってくる。しかし、それを補うに余りあるのは、次々と現れる屋久杉の巨木の厳かなたたずまい、そして歩くにしたがって変わっていく周囲の景観だ。
奥へ入るにしたがい、径はやがて狭く険しいものとなる。一歩一歩注意しながら歩きたい。
径沿いの景色は、絶えず変化していく。美しい清流とも何度か出会う。流れる水は驚くほど透明。
「千年杉」「仏陀杉」「双子杉」……。その趣深い名前もさることながら、神々しいまでの存在感を放つ屋久杉を前にすると、思わず頭を垂れたくなる。屋久杉だけではない。生い茂る大小さまざまな樹木、澄み切った水が流れる清流、苔むした岩肌……。立ち止まり、何度も深々と息を吸う。あらゆるものに生命が宿り、そこから放たれるエネルギーが身体を清浄にしてくれる。降る雨も清々しく感じられる。
屋久杉の根をびっしりと苔が覆う。そこに何者かが宿るような神々しいまでの巨木が、訪れる人の心を癒やす。
80分の「つつじ河原」コースを無事踏破した。心地よい疲労はやがて満足感となる。
屋久杉に出合うことができる格好のエリア、「ヤクスギランド」。小さな子でも歩くことができる「ふれあいの径」以外は、高低差のあるコースとなる。雨も多い。レインコートやトレッキングシューズなど、ある程度の装備を整えて歩くことがお薦めだ。
屋久島レクリエーションの森保護管理協議会
鹿児島県熊毛郡屋久島町宮之浦1593
Tel:0997-42-3508
受付時間:8時~17時
豊かな自然に囲まれ、のびのびとすごすヤクザルとヤクシカたち
「ヤクスギランド」のほかにも、屋久島の自然に触れることができるスポットは数多くある。そのひとつが、「大川の滝」。90mほどの断崖から落ちてくる滝の水が作る景観は雄大そのもの。晴れた日には青空と滝水の白、そして周囲の緑とのコントラストが美しい。また島の西側、世界自然遺産エリアの西部林道には、野生のヤクザルとヤクシカが頻繁に出没し、時には道路を我が物顔で歩いていることも。
落差90m近くある「大川の滝」。滝つぼのすぐ側まで近づくことができる。日本の滝百選」にも選ばれている。
道路際から人間をじっと見つめるヤクザルたち。猿が人間に対して狂暴化する原因となる「餌付け」は条例で厳しく禁止されている。
YAKUSHIMA BLESS
貴重な屋久杉を活用し、島の恵みを多くの人に伝える
店内に足を踏み入れると、木箱に積み重なった小さな木片の山が目に入る。そしてどことなく爽やかな香りも。小さな木片は屋久杉だ。屋久杉は、現在では伐採禁止だが、「YAKUSHIMA BLESS」の母体である「武田館」は、古くから屋久島で屋久杉を伐採・搬出する林業を営み、そのころからの伐採済屋久杉を在庫として多く保有していた。店内に置かれていたのは、そうした屋久杉を木片にしたものだ。
屋久杉は小さな木片となっても、1000年という歳月を感じさせる複雑な表情を醸し出す。
手に取り、よく見るとひとつひとつ形が異なり、なかには表面に複雑な模様を持つものもある。ふつうの杉より多くの樹脂を含む屋久杉は、磨けば磨くほど光沢を増し、複雑な表情を醸し出してくる。こうした屋久杉の性質をいかし、ゲストが選んだ木片と、木片を磨く紙やすりなどをセットにしたキットが、「屋久杉を磨こう!」だ。
「単なるお土産にはしたくなかったのです。旅が終ったあとにも屋久島を感じていただきたい。この島の一部を皆様にお届けし、屋久杉がお守りのように、皆様のそばで寄り添えたなら。そんな想いから生まれたプロダクトです」
そう語るのは、「YAKUSHIMA BLESS」代表の金田知博さん。
金田知博さんと、店長の幸代さんご夫妻。「YAKUSHIMA BLESS」の母体となった「武田館」は、幸代さんの祖母が始め、屋久杉の家具などを扱う店舗として、「YAKUSHIMA BLESS」に隣接して現在も営業を続けている。
「屋久島に屋久島のままであり続けてほしい。限りある資源を大切に未来へ残すため、島の恵みと新しい感性を融合させ、これまでの『お土産』の枠にとらわれない、屋久島にしかないものづくりを目指しています。そして、『この島に訪れてよかった』と思っていただけるような、心おどる出会いが生まれる場所でありたいと考えています」
金田さんの言葉が物語るように、「YAKUSHIMA BLESS」のアイテムは、環境に配慮したものばかりだ。「屋久杉を磨こう!」をはじめ、チップ状にした屋久杉を漬け込んだ椿油、アミノ酸が豊富なシルクなどを用いた「屋久杉の石鹸」、屋久島で暮らしたアーティストに手によるバンダナ「ハルモニア」など、どのアイテムも環境への配慮と、そこに関わった人の温かい息遣いが感じられる。
「屋久杉の石鹸」は「YAKUSHIMA BLESS」のアイテムのなかでも一、二を争う人気。1個3,300円(内税)
「屋久杉の石鹸」の泡は驚くほど滑らかで弾力がある。その肌触りをショップ内で試してみることもできる。
白を基調とした店内には、「屋久杉の石鹸」をはじめ、屋久杉を活用したグッズや、アーティストとコラボした作品などさまざまなアイテムが美しくディスプレイされている。
「自然に感謝、人に感謝。名前の『bless』には、そんな私たちの思いが込められています」
樹齢1,000年を越える屋久杉の木質はとても硬く、小さな木片にもその堅牢さは十分感じられる。それは「YAKUSHIMA BLESS」のアイテムに通底する、環境を大切にしようとする意志の強さそのものでもある。
YAKUSHIMA BLESS
鹿児島県熊毛郡屋久島町安房540-61
Tel:0997-46-2899
営業時間:9時~17時(冬季時間変更あり)
不定休
Plant-based Cafe&Act【ne-】
森へと誘い、森から還る。森に溶け込む自然派カフェ
「Plant-based Cafe&Act【ne-】」は、屋久島の樹々に囲まれてぽつんと建つ一軒家だ。「ne」とは根っこの根。そして「plant-based」は植物由来の食べもののこと。このネーミングが物語るように、一軒家カフェでの食事、ドリンク、スイーツはすべて植物に由来する。
屋久島の森を通る道がそのまま店内へと誘うような造り。店の反対側から、道は再び森へと続いていく。
ランチの「ブッダボウル」は、無農薬のお米に有機雑穀を加え土鍋炊きし、そこに屋久島産の無農薬野菜がふんだんにトッピングされている。口に含むと、野菜の滋味が広がり、その滋味を土鍋炊きの米のふくよかな味と香りが包む。島の樹々を利用して、屋久島の海水を数日焚いて作る自家製の塩や、こだわりの調味料がオーガニックな食材とともに、味わいをより細やかにしてくれる。
高野豆腐の照り焼き、ナッツ佃煮、塩麹きのこをはじめとして、週替わりで屋久島産の季節の野菜をたっぷり盛り込んだ「ブッダボウル」。1,500円(税込)
マフィンやスコーンなどのスィーツも植物由来ならではの優しい味わいだ。自家焙煎のコーヒーとの相性も抜群で、「これがすべて植物由来で作られているの?」と驚くほど満足感のあるスイーツだ。
屋久島産の素材を使用したスコーンをはじめとする植物由来のスイーツが、愛らしく並ぶ。どれも優しい甘み。
笑顔の絶えない、店主の丸山悟さんと奥様の真実さん。二人とも屋久島へ移住しこの店を立ち上げた。「人間が自然の一部であると感じられる屋久島の在り方。そこに惹かれました。屋久島というと、屋久杉に話題が集まりますが、屋久杉だけでなく森そのものがとても豊かで、その豊かさを一人でも多くの方に味わっていただければ、と思います」
そんな丸山さんの言葉は個性的な建物の造りにも現れている。屋久島の森の小道が、まるで建物の中を通り抜けるかのようになっているのだ。長方形の建物の両側短辺が出入り口となり、小道は店舗の中央を通り、店を出るとその先は森へ繋がっていく。森へと誘う起点であると同時に、森の小道を覆うほっと一息つくことができる場所、それが「Plant-based Cafe&Act【ne-】」だ。
森の緑と一体化したかのような空間。石畳の道が店内を通り抜け、森へと続く。
木の温もりが優しい店内には、屋久島の木材などを用いた木工作家の作品やオーガニック主体の食品などがディスプレイされ、そのディスプレイにも、丸山夫妻の「森への想い」が満ち溢れている。また、木に触れることができるキッズスペースが設けられているので、子連れのゲストも楽しむことができる。
丸山さんは、屋久島の木にまつわる研修も受け入れ、売り上げの一部を植林活動に使うなど、食空間に留まらず、社会に対するアクションも行っている。まさに、「Cafe&Act」の空間だ。
「この少し変わった空間で、人も森のなかの一部であるということを、身体すべてで感じ取っていただければと思います」
店内の片側壁面は、窓を多用した開口部の多い造りとなっている。開け放たれた窓から心地よい風が吹き込んでくる。風と同時に、丸山さんが語る「森と人との繋がり」が森からカフェの店内に、そして身体中に注ぎ込まれているような気がした。
笑顔の絶えない二人に囲まれ、生後6カ月の、あおちゃんもいつも笑顔。
Plant-based Cafe&Act【ne-】
鹿児島県熊毛郡屋久島町安房2739-343
Tel:090-2399-8769
営業時間:11時~16時(木曜日~土曜日)
やくしま果鈴
「やくしま愛」に満ち溢れた、屋久島素材にこだわるおやつ工房
濃厚な甘さとほどよい酸味、そしてジューシーな果肉が特徴の柑橘類の一種、「たんかん」。鹿児島は「たんかん」の生産量が日本一で、屋久島でも収穫期の2月になると、果樹園ではオレンジ色も鮮やかな「たんかん」がたわわに実る。この「たんかん」を使ったお菓子を中心に、安心でおいしいおやつをつくっているのが「やくしま果鈴」だ。
有機栽培で30 年以上「たんかん」が育てられていた畑を、縁あって鈴木由美さんが引き継いだのは2017年のこと。屋久島に魅入られ、その何年か前から島での生活を始めていた鈴木さんは、もともとお菓子づくりのキャリアを持っていた。そうしたキャリアを活かし、畑を引き継いだと同時に、鈴木さんが代表となって、店舗も兼ねたお菓子工房「やくしま果鈴」が誕生した。
「特産の『たんかん』を使ったお菓子をつくろうとしたのですが、当初は『たんかん』に関しては美味しい果実としてしか知らず、お菓子の素材に使うにはその特徴をもっと深く知りたいと思い、そのためには自分たちで栽培もしたほうが良い。そう思い、農業と製造加工が同時にスタートすることになったのです」
最初は3名からのスタートだったが、鈴木さんの思いに共感するスタッフが次第に増え、現在では16名の仲間たちが、果樹の栽培やお菓子作りに携わっている。
「工房を始めたのは、『たんかん』のおいしさをたくさんの人に味わってほしい、という想いからです。その想いをかなえるためにも、持続可能な農業を心掛け、『たんかん』栽培に関しては鹿児島県から特別栽培(減農薬・減肥料)の認証を受けています。お菓子をつくる場合にも出来るだけ自然の素材からくる香りや色味を大切に、可能な限り屋久島産のものを用いています」
鈴木さんが栽培しているのは「たんかん」の他に、ぽんかん、レモン、グアバ、バナナ、パイナップルと多種多彩。こうしたフルーツが、さまざまなお菓子となってお店に並ぶ。
自家農園の果物を丸ごと生かしたフルーツバター、フィナンシェ、バスクチーズケーキ、「やくどら」と名付けたどらやきのほか、島の特産品を活かしたお菓子を、丹精込めて手づくりしている。
人気商品のひとつがフルーツバター。それぞれのフルーツの甘味とバターのふくよかな味わいが絶妙なマッチング。各1,380円(税込)
「やくしま果鈴」には、カフェスペースも設けられている。「まるごとたんかんジュース」や「黒糖ジンジャエール」など、ドリンク類も充実。なかでも人気なのが、フルーツ感をダイレクトに味わうことができるスペシャルスムージーだ。「たんかんスムージー」「グアバスムージー」「パッションフルーツスムージー」など、フルーツをふんだんに用いたスムージーのほか、マンゴー、ドランゴンフルーツなどラインナップも豊富。「たんかんスムージー」を口に含む。ぎゅっと濃縮された「たんかん」の風味が、ほどよい冷たさと同時に心地よく喉を通り抜けていく。そして優しい甘みが追いかけてくる。
お店の前にそびえる「モッチョム岳」を眺めながら心ゆくまで味わいたい。たんかんスムージー(左)と、すもも&ポンカンスムージー(右)、各700円(税込)。
愛らしいパッケージのお菓子が整然と並ぶ店内。
店内にはカフェスペースも設けられ、グラタンセットやフルーツバタートーストなどもオーダーすることができる。
「私たちがつくるお菓子は素朴かもしれません。でも、屋久島がもつ自然の豊かさを込めているつもりです。私たちが屋久島に魅せられてお店を続けることで、私たちが大好きな屋久島に少しでも貢献できたら、そんなことを願っています」
受け継いだ果樹園で、スタッフの力を合わせて収穫したさまざまな果実に囲まれながら、鈴木さんは今日も工房でお菓子づくりに励んでいる。
「時間をかけて丁寧に、一口食べると思わず屋久島が好きになるようなお菓子を作っています」と、代表の鈴木由美さん。
やくしま果鈴
鹿児島県熊毛郡屋久島町尾之間672-1
Tel:070-8940-6721
営業時間:10時~17時30分
定休日:日、月曜(イレギュラーあり)
豊かな自然と、そこで暮らす人々の知恵が結びついたとき、その土地にはさまざまな「宝」が生まれる。鹿児島県の各地で生まれ、光り輝く数々の「宝」。それらは今や、世界が注目する存在になりつつある。
そんな鹿児島の宝を巡る旅は、これからも続く。これまでの「南の宝箱 鹿児島を巡る旅」は以下から。
Photography by Azusa Todoroki(Bowpluskyoto)
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鹿児島の「宝」を巡る旅
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日本のプレミアムなホテル
2025.9.30
南紀白浜 全室スイート・オールインクルーシブ「FIVE SPRING RESORT THE SHIRAHAMA(ファイブ スプリング リゾート ザ・シラハマ)」で贅沢時間を
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日本に居ながら、海外のビーチリゾートにいるような時間が楽しめるのが、南紀白浜にある贅を尽くした隠れ家的なホテル「FIVE SPRING RESORT THE SHIRAHAMA(ファイブ スプリング リゾート ザ・シラハマ)」である。
東京・羽田空港から南紀白浜空港まで約1時間、大阪からは車で約2時間半、南紀白浜の数多いリゾートホテルの中でもひと際目を惹く佇まい。ホテルに足を踏み入れれば、喧騒とは無縁の時間が流れ、究極のプライベート空間が広がっている。
2025年9月、世界的なホテルブランドグループ「スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド(SLH)」に日本で19番目のホテルとして迎えられた。世界に比類のない小規模のラグジュアリーホテルの1つであり、特別な滞在を約束されたホテルであることの証である。
目の前には海岸が広がっている。
わずか18室のプライベートステイで心が解き放たれる滞在を
当ホテルがなぜ贅沢なのか。
わずか18室の客室は、違うタイプの客室が3棟に分かれ並んでいる。
それぞれの棟は“星座”の名前がついており、もっとも広いプレミアスイートオーシャンビューは「GREAT BEAR(おおぐま座)」という名がついている。
テラスを含んで145㎡の広さがあり、ベッドを4台備えた部屋であれば、小さな子どもの添い寝であれば3世代での滞在も可能だろう。
また部屋によってはサウナやジャグジーを備えているので、誰の目を気にすることなく、自分の時間を謳歌することができる。
「GREAT BEAR(おおぐま座)」客室。
120㎡の広さのジュニアスイートデラックスが「GIRAFFE(きりん座)」。テラスへ飛び出す形の半露天風呂が備えついており、公式ホームページからキッズフレンドリープランを選んで予約すれば、室内に子ども用の遊び場スペースを設置し、バスルームには子ども用グッズなどを用意されているので、荷物が多くなりがちな子ども連れの旅でも身軽に移動できるのは嬉しい。
「GIRAFFE(きりん座)」の客室。
キッズフレンドリープランを選ぶと、客室に子ども用に遊び場が備えられている。
洗面所に用意されている、子ども用にグッズの数々。
プールガーデンデラックス「DRAGON(りゅう座)」は、まるで高級ビーチリゾートホテルのように、部屋のテラスからプールへ飛び込める。水着のままプールに飛び込み、部屋のテラスでくつろいでから、またプールへ。
海外の高級ビーチリゾートにいるような滞在が、日本でできるなど驚きの連続。
「DRAGON(りゅう座)」の客室。
テラスから直接プールへ。
また、全室には電解水素水が備えられており、専用ボトルに入れて、いつでも健康や美に効果的と言われる水素水をいただくことができる。
部屋の冷蔵庫内の飲料ももちろんすべてフリー。足りなくなれば追加でオーダーすることもできる。
南紀白浜温泉の「湯」に包まれて。ホテル内から湧き出る源泉掛け流しの純泉体験
南紀白浜温泉は、有馬温泉と道後温泉に並び、「日本三古泉」の一つに数えられ、日本書紀や万葉集にも登場する温泉である。古くから天皇をはじめ皇族が湯治に訪れたと言われる由緒ある場所である。
敷地内にある自家源泉。
大浴場には露天風呂も備えられている。浴室にはランドリーがあるほか、湯冷めのアイスキャンディーも。
当ホテルの建設は、まずは温泉を掘り当てることからはじまったと聞く。温泉の掘削が成功しなければホテル建設は断念したというほど、温泉の存在は必須だった。無事に掘り当てた源泉は「純泉」と名付けられ、敷地内地下1,000メートルから汲み上げる自家源泉が施設中央にある。温泉の中でも珍しい深層自然温泉が24時間湧き出ている。なんとも贅沢なことだ。
部屋のお風呂でゆったりも嬉しいが、やはり大浴場の存在は温泉地では欠かせない。露天と内湯を兼ね備えた大浴場「五光の湯」は、海風に吹かれながら空を見上げ、心の芯まで解きほぐされていくような感覚を味わえる空間だ。
さらに、宿泊者だけが利用できるプールは、冬は温泉プールになるために年間を通じて利用することができる。
朝は鳥のさえずりとともに、また夜は星空を仰ぎながら、プールに身を委ねる体験は南国のリゾートそのものだ。
2025年には木樽型の「バレルサウナ」がプールサイドに新設され、ウェルネスリゾートとしての魅力がさらに進化した。プールで冷えた身体を温め、汗を流してからまたプールへ飛び込む。これは海外リゾートでは味わえない贅沢ではないだろうか。
“泊まる”を超える、人生に残る滞在体験
滞在スタイルはオールインクルーシブ。
食事はもちろん、アルコールを含むドリンク、温泉施設の利用、バーでのカクテルタイムまで、すべてが宿泊費に含まれている。だからこそ、ゲストは時計やお財布のことを忘れ、“本当の意味で自由”な時間を手にすることができる。
ゲストは自由に利用できるバースペース。日本酒やワイン、ビールなどのアルコールから、ノンアルコールドリンクやスナックなどが置いてある。
最後にご紹介するのは南紀の豊かな食材をたらふくいただける食事である。
レストラン棟は仕切りあるスペースと個室があり、まわりを気にすることなく自分たちのペースで食事がいただける。夕食はコース料理になっており、紀州の海と山の恵みを取り入れた会席料理を楽しめる。素材のすべてが選び抜かれた逸品ばかり。料理長が一皿ずつに心を込めた“地産地消の芸術”は、まさに舌の記憶に残る味わいだ。
驚くほど柔らかい、熊野牛の陶板焼き。
新鮮な海の幸はお刺身で。
食事を終え、夜のとばりにプールサイドでくつろいでいると、広大な敷地に映し出されるレーザーマッピングショーがはじまる。
静寂な中、幻想的な光の舞台に目が奪われる。
時折映し出されるメッセージは、チェックイン時に預けたメッセージである。滞在中に、大切な人へ思いを伝える、そんな演出もできそうである。
夜はレーザーマッピングショーがはじまり。宿泊客のメッセージが投影される。
朝食は、レストラン棟で豪華なビュッフェが待っている。
熊野牛や伊勢エビ、鮑、サザエのほか、新鮮な地元野菜が並び、好きなものを網焼きにしていただく。網の上で鮑が躍る姿はなかなか見ることができない、まさに贅沢な食事である。さらには美しいお刺身も並んでいる。朝から遭遇する非日常の風景に来てよかった!という言葉が思わず漏れてしまうはずだ。
高級食材が並ぶ朝食。
「FIVE SPRING RESORT THE SHIRAHAMA」での滞在は、まさに夢のような時間であった。
「何もしない」ことを、心から楽しむ、都会では忘れている何かをここでは見つけることができるはずだ。
いつかまたここに戻ってきたい、そう心から思えるホテルだ。
Text by Yuko Taniguchi
和歌山県西牟婁郡白浜町300-2
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
2025.10.2
伊勢神宮 年間1500回行われるおまつりの意味とは?
神宮の修祓の様子。黒田清子祭主も奉仕。おまつりに先立ち、奉仕する大宮司以下、神職たちとともに、お祓いを受ける。
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稲が稔りのときを迎える秋は、全国でもおまつりが多い季節。特に農村地帯では、年に1度の大々的なおまつりである例祭がこの季節に行われる神社も多く、おまつりを通して、鎮守の神様である御祭神に、収穫への感謝の祈りが捧げられる。
ここ伊勢の神宮でも、令和7年(2025)9月2日に抜穂祭(ぬいぼさい)が行われた。毎年9月初旬に神宮神田で行われる抜穂祭は、神宮のおまつりでお供えする御料米の初穂を収穫するおまつり。以後の約1ヶ月間、稲穂の刈り取りが行なわれ、10月に行われる神嘗祭(かんなめさい)で、はじめて天照大御神などの神々に奉り、豊かな稔りへの感謝の祈りが捧げられる。
神宮では、多くのおまつりが行われている。その数は、なんと年間約1500回を数えるという。驚きである。
さらに、今年の令和7年(2025)から、令和15年(2033)に行われる式年遷宮に向けてのおまつりも加わり、9月17日と19日には、内宮(17日)、外宮(19日)それぞれで「御船代祭(みふねしろさい)」が行われた。
今回は、各地でおまつりが多い季節を迎えるにあたり、知っているようで、実はあいまいな点も多いおまつりに焦点を当ててみよう。
おまつりとは、神様へのお礼と感謝の意味を持つ
おまつりと聞いて、まず思い浮かぶのは?
お神輿(みこし)や山車(だし)、それとも、笛や太鼓の囃子の音や踊りだろうか?いずれにしても、おまつりに対してにぎやかなイメージを抱いている人は少なくないだろう。
だが、本来おまつりの中心は祭祀(祭典、祭儀などとも言う)。にぎやかさとは無縁に、神様に向かい、粛々と行われている。
そもそもおまつりは、神様に恵みを感謝して、その神様を一定の場にお迎えし、真心を込めてたてまつり、もてなすこと。おまつりの語源である「まつる」は、神様に「奉(たてまつ)る」に由来するという説がある。
もっとも、現在は、神様に奉仕する儀礼のみを指すようになり、たとえば神様に御饌(みけ=お食事)や御酒(みき)、御幣(みてぐら)などのお供えものを献上する「たてまつる」、さらに、神様を称え、感謝を捧げて祈りや願いなどを「告げまつる」意味もあるという。
伊勢神宮のおまつりに奉仕する神職たちは、前日、もしくは前々日から斎館に籠って心身を清め、当日は、斎館からまず修祓を行うため祓所(はらえど)に向かう。広大な神域を、歩調を合わせて進む姿も、神宮のおまつりならではの風景。
抜穂祭では、作丁(さくてい)と呼ばれる奉仕員が稲を刈り、その稲から穂を抜いて神前に奉る。
一般に、神社や町のおまつりを行う目的はさまざまだ。たとえば五穀豊穣を祈るなど、願望の成就を求めたり、収穫の季節は、豊かな恵みに対するお礼や感謝を捧げることに重点が置かれる。さらに、御祭神の鎮座に関わる日に、神様の働きや行いを称えるおまつりもある。
神社や町のおまつりには、所作や作法などの形式が存在している
お社の成り立ちや土地ごとの風土、そして、季節や目的によって、一見さまざまに異なるように思える神社のおまつり。だが、その中心である一連の祭祀には、ある一定の形式があり、それに沿って進められている。
祭祀でまず行われるのは、修祓(しゅはつ)と呼ばれるお祓い。大麻(おおぬさ)や御塩の祓い具で、おまつりに奉仕する神職や参列者を清めた後、神様に御饌、つまり神饌(しんせん)を供える。そして、祝詞を奏上して感謝を述べ、祭祀の目的をお伝えし、場合によっては、神楽といった歌舞音曲(かぶおんぎょく)を奉納。神様をおもてなしし、神饌をお下げするという流れになっている。
修祓では、お供えする神饌と奉仕員を祓い清める。
9月に開催されたのは式年遷宮へ向けたおまつりの1つ、「御船代祭(みふなしろさい)」
年間約1500回にも及ぶ神宮のおまつりが、いずれも落ち着いた静寂の中で、厳かに粛々と進められるのは、おまつりが、修祓、参進、献饌、祝詞奏上、奉楽、撤饌(てっせん)、退下(たいげ)と、一連の形式どおりに行われているから。
今年の令和7年(2025)から始まった式年遷宮へ向けたおまつりも、すべて厳かに行われている。9月17日と19日の「御船代祭(みふなしろさい)」も、また然り。
令和7年9月17日に内宮で行われた御船代祭(みふなしろさい)の様子。物忌(ものいみ)と呼ばれる童男が、忌鍬(ゆくわ=清浄な鍬)を捧げ持ち、草木を刈り初める式を行う。祝詞の奏上では、立派な御船代の奉製が祈られた。
御船代とは、新しく造られる御正殿で御神体をお納めする「御樋代(みひしろ)」を、さらにお納めする御器(みうつわ)のこと。今年の6月に伐り出された「御樋代」に続き、今回は御船代の御用材を伐り出すにあたり、「御杣山(みそまやま)の木の本に坐す大神」などに祈る祭祀が行われた。
その一方、毎年決められた日時に行われる、いわゆる「祭典ならびに恒例式」も多い。
内宮の御船代祭(みふなしろさい)では、皇大神宮、荒祭宮に対してのおまつりの後、内宮の別宮すべてに対してのおまつりが行われる。祭場は風日祈宮橋(かざひのみのみやばし)近くの宮山祭場で、この日はツクツクボウシの鳴く声が響き渡っていた。なお、当日の同刻には、この内宮のおまつりに合わせて、木曽の御杣山で御船代木の伐木の儀が行われる。
年間に約730回も行われる、
神々に御饌を毎日奉る「日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)」
なかでも、毎日朝と夕の2度、外宮の御垣内(みかきうち)にある御饌殿(みけでん)で、内宮と外宮、それに別宮の神々にお食事を奉る「日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)」は、古式の祭祀のありようを今に伝えるおまつり。
まず前日、奉仕の神職は参籠し、当日早朝に神饌調理をしておまつりを準備する。その後修祓をし、神饌を供えて祝詞を奏上。皇室の安泰と国民の幸福を祈った後、拝礼を行い、御饌を下げる。古式の姿がうかがえる。
何より、このおまつりは、外宮のご鎮座以来、およそ1500年もの間、年間に約730回、1日も欠かさず続けられてきたという。
内宮の修祓の様子。内宮・外宮とも忌火屋殿(いみびやでん)と呼ばれる建物の前庭、祓所(はらえど)で修祓を行い、その後、参進して正宮へ向かう。
おまつりとは何か、そして、祈りとは何かという問いに対する1つの答えが、このおまつりには秘められているように個人的には思える。
おまつりのルーツ神話にあり。祈りとは己の姿の在り方にある?
だが、ここで1つの疑問も湧き起こる。そもそも、おまつりに効力はあるのだろうか。その答えのヒントは、実は神話に示唆されている。
おまつりのルーツを辿っていくと、「天の岩戸神話」に行き当たる。
天照大御神のお出ましを願い、神々が取った一連の行動、これが、おまつりの初見とされている。
『日本書紀』によれば、天照大御神が弟の素戔嗚尊(すさのおのみこと)の乱暴に立腹し、天石窟(あめのいわや)に入って岩戸を閉じ、中に籠ってしまわれたとき、天地は闇ばかりの世界になったという。
そこで、八百万の神々は会合を開いて相談し、その結果、太玉命(ふとだまのみこと)は、天香具山(あめのかぐやま)に生えている神聖な榊を根ごと掘り取って岩戸の前に立て、その枝に、八咫鏡(やたのかがみ)や八尺瓊(やさかに)の勾玉、さらに、青や白の和幣(にぎて=神に捧げる布を指し、青和幣は麻、白和幣は楮(こうぞ)で織られている)などをかけて装飾を施し、天児屋命(あめのこやねのみこと)は祈りを捧げた。つまり、祝詞を奏上した。さらに、天鈿女命(あめのうずめのみこと)は神楽を舞った。
修祓で用いられる大麻(おおぬさ)。白木の机に置かれた素焼きの土器には、紙を細かく切った「千切(せんぎり)」と、「散米(さんまい)」と呼ばれる米が入っている。ともに祓詞奏上の前後に左右左と祓い清め、奉る。
では、天照大御神は、神々の願いに対し、どのような行動を取られたのだろう。
神話では、外のにぎやかさを不思議に思い、天照大御神が岩戸を少し開けたところ、陰に隠れていた手力雄神(たじからおのかみ)が大御神の御手をお取りして、天石窟から引き出したと伝えている。
こうして、世界は光を取り戻した。つまり願いが叶ったのである。
「この神話で重要なのは、神々が祈られたことだと思います」
ある神職は言う。
「しかもその祈りは、叶えたい願いに向かって、それぞれができる役割を果たしたのです。その結果、天照大御神は岩戸からお出ましになり、光ある調和の世界を取り戻した。つまり願いが叶ったのです。
おまつりは、この神々の行為を再現することを基本としているのです」
おまつりは神話の再現で、願いの実現をもたらす。「天の岩戸神話」から、そんなメッセージを読み解くことができるのだ。
もっと言えば、願いを叶えるためには、それぞれが自分なりにできる役割を果たすことが必要だということだ。祈りとは、願いを叶えるために、自分なりに励む姿を神様にお見せする行為とも言えるだろう。
神宮のおまつりに触れられる、2月の「祈年祭」と11月の「新嘗祭」、そして「奉幣の儀」。
では、神宮のおまつりを、我々一般の参拝者が体感できる機会はあるだろうか?
神宮の「大祭」には、10月の「神嘗祭」と、6月、12月に行われる「月次祭(つきなみさい)」の、いわゆる「三節祭」と呼ばれる重要なおまつりがある。だが、「由貴大御饌(ゆきのおおみけ)祭」と呼ばれる祭祀が行われるのは、いずれも夜間。参拝時間外である。
淡々と、そして粛々と進められる修祓。神職たちのたたずまい所作も美しい。
一方、2月に行われる「祈年祭(きねんさい)」と11月の「新嘗祭(にいなめさい)」(この2つのおまつりと「三節祭」を合わせて「五大祭」と呼ばれている)は、内宮、外宮ともに日中に行われ、外玉垣の垣根越しに中重の様子をうかがい見ることができる。加えて、天皇陛下の幣帛を奉る「奉幣の儀」(祈年祭、神嘗祭、新嘗祭は勅使の参向がある)も、「五大祭」ともに(「三節祭」は翌日)日中に行われる。
また、5月と10月の年に2度、古式のままに織り上げられた和妙(にぎたえ=絹)と荒妙(あらたえ=麻)を、御縫糸や御針などとともに天照大御神にお供えする神御衣祭(かんみそさい)も、日中に行われるおまつり。内宮の御正宮と別宮の荒祭宮(あらまつりのみや)のみではあるものの、祭祀の雰囲気を感じることができるだろう。
神御衣である和妙(絹)を織り始めるにあたって行われる神御衣奉織始祭(かんみそほうしょくはじめさい)の様子。内宮の所管社、神服織機殿(かんはとりはたどの)神社で行われ、織り上がると、皇大神宮と荒祭宮で神御衣祭が行われる。
もっとも、神宮に限らず、すべての神社にとって、祭祀はまつる者とまつられる神とが一体となる神聖な場。神の祝福は、神慮に叶う行為があって、はじめて期待することができるとされている。そのことを肝に銘じ、くれぐれも神聖な場を乱す行動だけは避けたいものである。
Text by Misa Horiuchi
伊勢神宮
皇大神宮(内宮)
三重県伊勢市宇治館町1
豊受大神宮(外宮)
三重県伊勢市豊川町279
文・堀内みさ
文筆家
クラシック音楽の取材でヨーロッパに行った際、日本についていろいろ質問され、<wbr />ほとんど答えられなかった体験が発端となり、日本の音楽、文化、祈りの姿などの取材を開始。<wbr />今年で16年目に突入。著書に『おとなの奈良 心を澄ます旅』『おとなの奈良 絶景を旅する』(ともに淡交社)『カムイの世界』(新潮社)など。
写真・堀内昭彦
写真家
現在、神宮を中心に日本の祈りをテーマに撮影。写真集「アイヌの祈り」(求龍堂)「ブラームス音楽の森へ」(世界文化社)等がある。バッハとエバンス、そして聖なる山をこよなく愛する写真家でもある。
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
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雲海、紅葉、星空──山頂から絶景を堪能
2025.9.30
長野県・阿智村で「天空の楽園 雲海Harbor」開催
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日本随一の星空観賞地として知られる長野県・阿智村が、南アルプスまで広がる雲海や星空、紅葉を楽しめるイベント「天空の楽園 雲海Harbor」を、2025年10月25日(土)から11月9日(日)まで開催する。
本イベントでは、阿智村・ヘブンスそのはら高原のゴンドラと展望台リフトを乗り継ぎ、標高1,600mの展望デッキ「ソライロ」へアクセス。到着した先に広がるのは、雲海に包まれた幻想的な風景と、静かに目覚めていく朝の光。まるで天空に立っているかのような感覚を味わえる。
さらに期間中は、所要時間約15分のローブウェイで標高1,400m地点まで昇るナイトツアーも開催。環境省が実施する全国星空継続観察で「星の観察に適していた場所」の第一位(平成18年)にも選ばれた満天の星を、晴れた日には存分に堪能できる。
山頂を舞台に、夜明け前の雲海や煌めく星空を堪能できる特別な機会。開催期間中の平均気温は5℃を下回るため、防寒対策は必須。あたたかくして、天空の絶景を楽しみたい。
◆天空の楽園 雲海Harbor(ハーバー)
【開催日程】2025年10月25日(土)~11月9日(日)
【開催時間】
ゴンドラ運行時間
上り5:00~7:00
下り ~16:00
展望台リフト運行時間
5:15~15:30
【会場】富士見台高原ロープウェイ ヘブンスそのはら(長野県下伊那郡阿智村智里3731-4)
【料金】大人4,200円 小人2,100円 幼児無料
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2025.9.30
常設アート ミュージアム「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」が2025年10月7日(火)…
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Features
チームラボによる国内最大規模のミュージアムが京都に誕生
2025.9.26
常設アート ミュージアム「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」が2025年10月7日(火)にオープン
チームラボ《あおむしハウスの高速回転跳ね球 》©チームラボ
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京都駅から徒歩約7分、京都駅東南エリアにアート集団チームラボによる常設アート ミュージアム「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」が、2025年10月7日(火)にオープンする。
チームラボは、2001年から活動を開始。アーティスト、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家など、様々な分野のスペシャリストから構成されている。
チームラボ《Morphing Continuum》©チームラボ
「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」は、面積約10,000平方メートルの空間に、新作や日本未発表作品など50以上の作品群が構成される、国内最大規模のチームラボのミュージアムだ。
チームラボ《グラフィティネイチャー》©チームラボ
身体でアートを知覚していく場「運動の森」は「世界を身体で認識し、立体的に考える」がコンセプト。人が踏むと、飛び跳ねることができる球体が並ぶ「あおむしハウスの高速回転跳ね球」、ロープで吊られた棒を立体的に渡っていく「イロトリドリのエアリアルクライミング」、紙に生き物の絵を描くと、描いた絵が目の前に現れ動き出す「グラフィティネイチャー」といった、複雑で立体的な運動空間が展開されている。
チームラボ《スケッチオーシャン》 ©チームラボ
他者と共に自由に世界を創造する場「学ぶ!未来の遊園地」は、テーブルの上に手を置いたり、物を置いたりすると、こびとたちが飛び乗ってくる「こびとが住まうテーブル」、紙に魚の絵を描くと、 目の前の海でみんなが描いた魚と共に泳ぎだす「スケッチオーシャン」といった作品で構成されている。
チームラボ《Massless Amorphous Sculpture》©チームラボ
あなたも古都京都で最先端の空間体験を楽しんでみてはいかが。
◆チームラボ バイオヴォルテックス 京都
【開館日】2025年10月7日(火)-常設
【開館時間】09:00〜21:00 最終入館は、19:30
【アクセス】「京都駅」八条東口から徒歩約7分
京阪「七条駅」から徒歩約11分
※詳細は公式サイトで要確認
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秋の青森を満喫する“りんご尽くし”の体験イベント、今年も開催
2025.9.4
青森屋 by 星野リゾート「じゃわめぐりんご祭り」
りんご灯篭回廊
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青森の文化をまるごと体験できる温泉宿、青森屋 by 星野リゾートでは、2025年9月1日から12月1日まで、秋恒例のイベント「じゃわめぐりんご祭り」を開催。
巨大りんご灯篭
“じゃわめぐ”とは、青森の方言で「心が騒ぐ、にぎやかで楽しい様子」を意味する言葉。青森が国内一の収穫量を誇るりんごをテーマに、宿全体がりんごに彩られる。
「りんご収穫ラリー」 時間:15:00~18:00 場所:じゃわめぐ広場 料金:1,000円(4競技セット)
※写真は「りんご射的」
りんゴルフ
12年目を迎える今年は「スポーツの秋」にちなんで、りんごの収穫から出荷までをモチーフにした体験型アクティビティ「りんご収穫ラリー」が新登場。袋はぎや収穫、選別、出荷といったりんごの収穫工程をアレンジした4つの競技を通じて、ゲーム感覚で身体を動かしながら収穫体験を味わえる。
りんごガチャガチャ
時間:15:00〜20:00 場所:じゃわめぐ広場 料金:1回300円
りんごジュースが出る蛇口
時間:8:00~12:00/15:00〜20:00 場所:じゃわめぐ広場 料金:無料 期間:通年
このほかにも、りんごを五感で楽しめる多彩なプログラムを用意。カプセルから本物のりんごが出てくる「りんごガチャガチャ」や、蛇口をひねるとりんごジュースが流れる人気サービス、紅葉の中を巡る「紅葉りんご馬車」では収穫期を迎えたりんごをお土産に。さらに、巨大なりんご灯篭や幻想的な回廊が広がるフォトスポットも登場。りんごの魅力を、見て、味わい、体験することができる。
紅葉りんご馬車
時間:9:00/9:30/10:00/10:30/11:00 場所:敷地内の公園
料金:大人1,870円、小学生1,320円、未就学児990円(いずれも税込)
予約:公式サイト(https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/aomoriya/)にて3日前まで受付
備考:りんごのお土産は大人料金の人数分を提供
秋の青森の象徴であるりんごを通じて、地域の文化や季節感を体感できる「じゃわめぐりんご祭り」。伝統と遊び心が融合した特別な滞在を、ぜひ楽しんでみては。
青森屋 by 星野リゾート
【住所】⻘森県三沢市字古間木山56
【TEL】050-3134-8094(星野リゾート予約センター)
【料金】1泊 23,000円~(2名1室利用時1名あたり、税込、夕朝食付)
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2025.9.4
パレスホテル東京で開催。フランス料理「エステール by アラン・デュカス ーChampagne SA…
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
2025.8.29
この日だけの特別に出合える 伊勢神宮「お朔日(ついたち)参り」とは?
八朔参りの様子。筆者がペットボトルに水を汲んでいると、隣にいた年配の女性が、容器いっぱいに水を入れると、1年間水が腐らないこと、持ち帰った水は、痛いところに付けるだけでなく、玄関を清めたいときにまくこともある、などと教えてくれた。なお、近年は八朔の夕刻から夜にかけて、外宮をゆかた姿で参拝する「外宮さんゆかたで千人参り」も行われている。
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新しい月のはじまりの日に、氏神様などの神社に参拝する「お朔日(ついたち)参り」。前月の1ヶ月間を無事過ごせたことに感謝を捧げ、新たな1ヶ月間の無病息災や家内安全を祈るというこの風習は、日本各地で古くから行われてきた。
なかでも伊勢地方では、その昔、8月1日の早朝に神宮の内宮、外宮の両宮をお参りし、粟や稲の初穂を神前にお供えして、五穀豊穣と無病息災を祈る「八朔参宮」のならわしがあったという。
今回は、そんな「八朔参宮」を今に伝える「八朔参り」とともに、普段とはちょっと違う神宮参拝のあれこれをご紹介しよう。
「八朔(はっさく)参り」という言葉をご存知だろうか?
そもそも「朔(さく)」は、旧暦の太陽太陰暦でその月の第1日目を指す言葉。つまり「八朔」は「八月朔日(さくじつ)」の略で、8月1日を指している。
ちなみに、朔日は「ついたち」とも読む。月の満ち欠けの周期を利用した太陽太陰暦では、毎月最初の日が新月に当たることから、「ついたち」という言葉も、「月立ち(つきたち)」から転じたと考えられている。
「八朔参宮」の源にある祈りと、現在の「八朔参り」
「八朔参宮」が行われていた旧暦の8月1日は、新暦の太陽暦では8月下旬から9月下旬(令和7年は9月22日)に当たる。つまり、米作りにとっては、稲穂が膨らみ、黄金色になって稔りを迎える大切な時期。おそらく農家の人々は、とりわけこの時期、朝に夕に天候を気にしながら、不安と緊張の中で稲穂を見守っていたことだろう。
特に伊勢の神宮の主祭神は、太陽にもたとえられる天照大御神。近隣に住む農家の人々にとって、これほど心強い存在はなかったにちがいない。五穀豊穣への祈りは、自ずと他の「お朔日参り」より切実なものとなり、年によって収穫が間に合えば、稲の初穂を携えて、それが無理ならば、当時は五穀の中で1番早く収穫ができたという粟の初穂を神前にお供えし、これまで無事に稲が育てられたことへの感謝と、来たる豊かな稔りを祈ったことが、八朔参宮の源にあるのではないか。そんな推察も成り立つ。
神前に五十鈴川からいただいた水をお供えし、これまで無事過ごせたことへの感謝と、1年間の無病息災、家内安全を祈る。「お供えする際は、ペットボトルの蓋を外すこと」と、年配の女性に教わった。その後、このペットボトルの水は、自宅の神棚に供える。
現在は、さすがに粟や稲の初穂を携えて、とはいかないものの、新暦の8月1日の早朝に、やはり外宮、内宮の両宮に参拝し、五穀豊穣や家内安全、無病息災を祈る「八朔参り」が行われている。
特に内宮では、この日に宮域内を流れる五十鈴川の水を汲み、川のほとりに鎮座する瀧祭神(たきまつりのかみ)にお供えし、1年間の無病息災と家内安全を祈るという、伊勢地方独特のならわしが伝えられている。
ちなみにこの水は、持ち帰って自宅の神棚にお供えし、もし体のどこかに痛みが出たときは、その箇所に浸けると痛みがとれると信じられている。
五十鈴川のほとりに鎮座する瀧祭神とは、どんな神様?
五十鈴川の水をお供えする瀧祭神は、内宮の所管社の1つ。と言っても、お社に社殿はなく、御祭神の瀧祭神は、御垣(みかき)と御門に囲まれた岩の上にお祀りされている。
お社の近くには五十鈴川と島路川(しまじがわ)が合流する、いわゆる川合(かわい)があり、たつ瀬、つまり、水が激しく流れる瀬のほとりに鎮座することから、川の守り神として、天照大御神が鎮座する前から祀られていたのではないか、とも考えられている。
内宮の所管社の1つ、瀧祭神。すぐ近くに五十鈴川が流れている。
ちなみに、地元では御正宮へお参りする前に、まず御手洗場で手と口を清め、瀧祭神で自身の住む場所と名前を告げた後、「これから向かいますのでよろしくお願いします」などと、天照大御神に取り次いでいただくならわしがあり、「とっつきさん」、「とりつぎさん」などと呼ばれているという。
そんな庶民にとって身近な存在である一方、祭祀に関しては、別宮に準ずる扱いを受けているとも聞く。どうやら瀧祭神は、特殊な神様であるようだ。
毎月1日、神馬が御正宮を参拝する「神馬牽参(しんめけんざん)」
おかげ横丁のその日だけの楽しみ
毎月1日は、「神馬牽参(しんめけんざん)」と呼ばれる定例行事が行われる日でもある。神馬とは、天照大御神・豊受大御神に捧げられた御馬のこと。この神馬が、内宮、外宮の両宮で、毎月1日、11日、21日の朝に、皇室から捧げられていることを示す菊の御紋入りの馬衣を付けて、御正宮にお参りする。
外宮での「神馬牽参(けんざん)」の様子。神馬は、内宮は石階(せっかい)と呼ばれる石階段の下、外宮は御正宮を囲む1番外側の板垣の南御門の前で拝礼する。
馬は古来、神の乗り物とされ、神社に献納されるならわしが奈良時代からあったという。そのならわしは、時代とともに絵馬に置き換わっていったものの、神宮では、今も皇室からの献上が続いている。
人を乗せることはないというこの神馬は、両宮それぞれで2頭ずつ飼育され、神馬牽参の後は、しばらく両宮の宮域内にある御厩(みうまや)に控えている。涼やかで優しい目、穏やかな表情。見ているだけで心が和んでくる。
この日は、内宮の門前町であるおはらい町も、早朝からにぎやか。毎月の朔日参りに合わせて、さまざまな店で朔日粥や朔日餅が月替わりで用意されることから、それを目当てに訪れる人たちが、午前4時台から長蛇の列を作っている。
ちなみに、伊勢の老舗和菓子店「赤福」が8月に用意している朔日餅は、「八朔粟餅」。伊勢地方では、8月1日に縁起物として粟餅を食べるならわしがあったという。
おかげ横丁では朝市も開かれ、地場産の野菜などが並んでいた。
伊勢の老舗和菓子店「赤福」の前には、八朔餅を求める人たちでにぎわっている。
朔日粥は、さまざまな店で食べることができる。
現在は多くの食事処や土産物屋が建ち並ぶおはらい町。だが、江戸時代までは、その様子は少し違っていたようだ。
というのも、当時この一帯には、御師(おんし)、つまり、諸国を巡って神宮の御神札(おふだ)を配布するなど、伊勢信仰を広めていた神職たちの館が軒を連ね、参拝者が訪れた際は、自身の館に宿泊させ、お祓いやお神楽を上げるなど、手厚くもてなしていたという。
かつてのお伊勢参りを想像しながら、外宮から内宮へ通じる参宮街道を歩く
八朔参りをきっかけに、伊勢地方独特のならわしに触れ、昔と今を行き来しながら取材を進めてきた。そんな1日の最後に、かつてのお伊勢参りの様子を想像しながら、外宮から内宮に通じる参宮街道を歩いてみることにした。
ご案内いただいたのは、神宮司庁広報室次長の音羽悟さん。駆け足のお参りでは味わえない、伊勢の新たな一面を知るひとときとなった。
伊勢市には、主に3本の河川が流れている。西から宮川、勢田(せた)川、五十鈴川の3本で、かつては関東、関西のどちらの方面から伊勢に入っても、宮川を渡らなければ神宮に参拝することができなかった。
関東方面から伊勢街道を歩いてきた人々は、現在JR参宮線の鉄道橋がある近くの「桜の渡し」、関西方面から伊勢本街道を通ってきた人々は、少し南にある度会橋(わたらいばし)付近の「柳の渡し」で船に乗り、宮川を越えたという。その後、両者は、現在欄干のみが残る筋向橋(すじかいばし)で合流。そこから外宮へ向かったとされている。
つまり、かつて徒歩で参拝する一般の人々は、地理的な面から、外宮の、しかも正門ではなく北御門(きたみかど)から参拝するのが自然だったという。
宮川を望む。現在JR参宮線の鉄道橋が架かる近くに、関東や東国から伊勢街道を歩いてきた人たちが利用する「桜の渡し」と呼ばれる渡し場があった。かつて堤には桜が咲き、茶屋が建ち並んでいたという。
正門を利用するのは、勅使(ちょくし=天皇の使者)などが訪れたとき。彼らは、現在の外宮参道の一角に設けられた下馬どころで馬を下り、そこから歩いて御正宮に向かったという。
参拝後は、室町時代末期の永禄年間に作られたという「伊勢古市(ふるいち)参宮街道」を歩いて内宮へ。
ちなみに古市とは、外宮と内宮の中間に位置する「間(あい)の山」にあった歓楽街で、江戸の吉原、京都の島原と並ぶ日本の3大遊郭の1つとして栄えた場所。江戸時代後期の作家、十返舎一九(じゅっぺんしゃいっく)による滑稽本『東海道中膝栗毛』でも、弥次さん喜多さんが古市の街を訪れた様子が描かれている。
かつての歓楽街、古市の面影を残す麻吉(あさきち)旅館。当時、古市で遊ぶのは神宮へお参りする前ではなく、後という暗<wbr />黙の了解があったという。
かつての参宮街道を巡る。歴史の名残が随所に見られる「間(あい)の山」
もっとも、音羽さんは、本来の参宮街道は少し違うルートを通っていたと言う。
「現在外宮の前を通っている御木本(みきもと)道路も、御幸(みゆき)道路も昔はなく、勾玉池を周回する道も、江戸時代の寛永17年(1640)に整備されたものです。それ以前は、今はありませんが、外宮の風宮(かぜのみや)から、裏手の山を尾根づたいに下りて(宮域外の)岡本に出るか、もしくは、現在の外宮参道にある「豚捨(ぶたすて)」という店の前を通ってから岡本に出て、そこから現在の伊勢古市参宮街道を歩き、御贄(おんべ)川(=勢田川の異名)の川筋に沿って歩いたのでしょう」。
御贄川を渡る際は、小田橋(おだのはし)を利用したとされている。この橋の名は、平安時代の文献にも記されていることから、その歴史は古いと思われる。
だが、現在の小田橋から続く尾部坂(おべざか)は新しい道。江戸時代以前は、小田橋より1本北にある現在の簀子(すのこ)橋から、「間(あい)の山」と呼ばれる小高い丘陵へ続く細い道を歩いていただろうと、音羽さんは言う。
外宮と内宮の中間に位置する間(あい)の山の道。奈良時代からこの道を通って内宮へ向かっていたという。左には外宮神主の度会(わたらい)一族にも関係する岡崎宮妙見堂があったが、今はない。
倭姫命の御陵とされる宇治山田陵墓参考地。
「現在の簀子橋のことを、昔は小田橋と呼んでいた可能性もあると思います」。
たしかに、簀子橋から伸びる細い道を歩くと、積み重なる歴史を感じさせる場所が随所にある。たとえば、1000年以上の歴史を持つ妙見堂の跡があること、また、江戸時代まで代々外宮の神主だった度会(わたらい)一族が、弥生時代と平安時代に居住したとされる住居跡があり、一族の氏寺も、かつてこの近辺にあったこと、そして、倭姫命の御陵と考えられる、宮内庁管轄の宇治山田陵墓参考地があること‥‥‥。興味深い場所が次々に現れる。
度会氏の居宅があったとされる隠岡遺跡。「度会氏は、当時は磯部と名乗っていたでしょう」と音羽さん。弥生時代後期のむらの跡や平安時代の建物群跡が中心の遺構(いこう=生活の跡)で、眼下に勢田川(別名御贄川)が見渡せる。
外宮と内宮の間を流れる勢田川。神宮へ献上する魚を獲っていたことから、御贄川(おんべがわ)の異名がある。物流も盛んで、川沿いには伊勢の台所と呼ばれる問屋街もあった。
気がつけば夕刻。今と昔が交錯するなか、夢中で伊勢の町を歩いた1日が、静かに、ゆっくり暮れようとしていた。
Text by Misa Horiuchi
伊勢神宮
皇大神宮(内宮)
三重県伊勢市宇治館町1
豊受大神宮(外宮)
三重県伊勢市豊川町279
文・堀内みさ
文筆家
クラシック音楽の取材でヨーロッパに行った際、日本についていろいろ質問され、<wbr />ほとんど答えられなかった体験が発端となり、日本の音楽、文化、祈りの姿などの取材を開始。<wbr />今年で16年目に突入。著書に『おとなの奈良 心を澄ます旅』『おとなの奈良 絶景を旅する』(ともに淡交社)『カムイの世界』(新潮社)など。
写真・堀内昭彦
写真家
現在、神宮を中心に日本の祈りをテーマに撮影。写真集「アイヌの祈り」(求龍堂)「ブラームス音楽の森へ」(世界文化社)等がある。バッハとエバンス、そして聖なる山をこよなく愛する写真家でもある。
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
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旅館の矜持 THE RYOKAN COLLECTIONの世界
2025.8.15
神々の住まう宿「旅館 神仙」の佐藤久美女将 ここにしかない美味と、磨き抜かれたサービスに心和む。
女将の佐藤久美さん。正門のしめ縄から一歩中に入ると、結界に入ったように空気感が変わる。
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「ザ・リョカンコレクション」に加盟する旅館の女将や支配人を紹介する連載「旅館の矜持」。今回は宮崎県高千穂町に位置する「旅館 神仙」女将・佐藤久美さんをご紹介する。
高千穂町は神話の町だ。天照大神(アマテラスオオミカミ)が隠れた天岩戸(あまのいわと)があり、それを解決するために八百万の神が集まった天安河原(あまのやすかわら)の大洞窟がある土地でもある。
また、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が天界から降り立った天孫降臨の地だ。霊感ってものには縁がなくても、何となく‶神域〟を感じてしまう人もあるようだ。
今回紹介する「旅館 神仙」にしても、インフルエンサーたちがインスタに投稿する際に、「#神様のいる旅館」などのハッシュタグをつけたりする。
佐藤久美さんは、高千穂随一の名旅館の看板女将である。明るく朗らか。
東京から向かうと、阿蘇くまもと空港から車で1時間20分、女将に会った瞬間に心がほぐれる。
若女将から女将へ
佐藤さんは直系の2代目であるから、女将になったのは自然なことでもある。
「母が初代の女将として旅館に出ていて、私は若女将の時代がありました。17年前のあるとき、楽天トラベルの『女将さん‶おもてなしの心″コンテスト』への参加を楽天さんから打診されまして。父が、『母ではなくて、お前が出なさい』と言うので、私が応募したのです。日本全国、北海道から沖縄まで、自薦他薦で宿の女将さんが30数名出まして、オンラインでの投票でしたが、私が優勝してしまいました。そこからは、若女将の若が取れて、女将となり、母は裏方に回りました」
こうして30代の女将が誕生した。
「30代前半の女将さんて、なかなかいないじゃないですか。50代でも若いぐらい。ですから、もの凄くハードルが高くて、とても思い悩んだ時期もあったんですよ。最初の5~6年はいちばん辛かったです……。とは言え、いまだにお客様の前に出るときには緊張しますけれども」
女将っぷりは堂に入っているのでご安心を。
でも、なぜ「#神様のいる旅館」?
「旅館の敷地内に入られただけで、『結界が張られたような空気感があるね』とお客様に言われることが多いですね。『部屋で座敷わらしに会った』とお話しになる方もいらっしゃいます。みなさん、お化け系の怖い話じゃなくて、とても楽しそうなんです」
筆者の前には出てくれなかったが。
「露天風呂付和洋 月詠」の縁側はとても落ち着く。
祖母が始めた10室の旅館
この「旅館 神仙」、今でこそ押しも押されもせぬ名旅館であるが、そこに至るまでの道は決して平坦ではなかったようだ。女将の話に耳を傾けよう。
「この場所で旅館を始めたのは私の祖母です。1973年8月のことでした。当時の国鉄が1970年に、個人旅行の拡大を狙ってディスカバー・ジャパンというキャンペーンを始めたときに、宮崎県はハネムーン客で人気になりました。高千穂の町は世間でそこまで認知されていなかったのですが、そのときから人がどっと押し寄せるようになって、町には宿の部屋がぜんぜん足りなくなってしまったのです」
その機を捉えたのが祖母だった。
「10部屋で旅館をスタートしました。一部屋の間取りは6畳一間。大浴場が一つあるだけで、お手洗いは共用でした。民宿とも旅館ともどっちともつかないような宿でしたね(笑)。宿の始まりがこうですから、もー、懼れ多いことばかりで、『ザ・リョカンコレクション』に混ぜていただいただけで光栄なんです」
「もー」と身悶えする女将が可笑しい。
「露天風呂付洋室 和楽」の室内。ベッドの寝心地は抜群だ。
社長の一大決心
時計の針を今から50年ほど巻き戻す。この宿にとってのキーマンは、女将の父親・佐藤功宏氏だった。
「祖母からの要請で、父は大学を中退して郷里に戻りました。ちょうど20歳の頃です。当時お付き合いをしていた19歳の母を連れてきて、その何もわからない若い夫婦が旅館業を始めることになります」
父は21歳で初代社長となり、旅館の名前も「神仙」とする。しかし……。
「私と妹が生まれたころには、本当にお客さんがいなくて、旅館が私たちの遊び場でした。かくれんぼをしても、広いから絶対に見つからない(笑)」
10年後の30歳の頃に、一大決心をする。
「こういう経営をしていては、地元の似たような旅館とお客さんの取り合いにしかならない。『その状態から抜け出して、上を目指すぞ』と。純和風の方向に舵を切って、倉庫をつぶして囲炉裏のある部屋を3つ造ったり、料理も全部見直して、京風懐石のようにしました。少しずつ改装を重ねて、1985、6年には一応の形にはなっていました」
磨かれるソフト面とホスピタリティ
佐藤久美さんは中学生の頃から旅館の手伝いをしていた。結婚して一旦は外に出るが、やがて実家に戻ってくる。そして、事実上の女将になるのが冒頭のくだりだ。
「旅館を手伝い始めてからは、お客様に教えていただく方が早いので、客室にアンケート用紙を置きました。散々な書かれようではありましたが(笑)、いろいろ教えていただきました。ハード面はすぐに変えられませんが、ソフト面で出来ることから変えていきました」
そこには深いワケがあった。
「今は違うのですが、長い間、旅館に到着する寸前の道の幅が狭くて、お客様は着いたとたんに機嫌が悪いんです。『あんな道を通らせて』って。宿にいらした瞬間から怒ってらっしゃるので、そこからが勝負でした。もうマイナスからのスタートなので、一生懸命にみんなで盛り立てて、最後に帰られるときには、『ワハハ』というところまで持っていく。笑ってお帰りいただく、それが目標ですから。だから、ソフト面は非常に磨かれましたね(笑)」
現在は異常なほど幅の広い道から駐車場に入れるのだが、ナビに従うとその‶客を不機嫌にさせた細い道″に導かれ、坂の上からの下りの導線になってしまう。だからであろうか、上から車で降りてくると、下の駐車場で待機していたスタッフ2人が猛暑の中、坂を駆け上がってきた。確かに、極めてにこやかで丁重で、「なに、この歓待ぶりは?」と思ったほどだ(笑)。
鬼八塚のある庭「仙乗苑」の太鼓橋上にて。米国人から、この橋の上でサプライズの求婚の演出を頼まれたことも。
庭をいじり包丁も握る社長
父である社長の変革は続いた。
「現在、客室は15室ですが、一つとして同じしつらえの部屋はありません。天井もすべてが違います。設計士は埼玉県の方でしたが、細部の注文は父がしました。父は本職を入れることを嫌うんです。そのようにすると、他の宿と似てしまうからと言うのです。ですから、庭園も京都のお寺さんを独学で勉強して、地元の庭師さんに自分が思い描くイメージを伝えて造園しました」
敷地を拡張していったのも社長である。
「私が戻ってきたときには、旅館の周囲は田んぼと畑でした。カエルの大合唱がBGMでしたね。今ではうちの「はなれ」や「別邸・神庭(こうにわ)」になっています。それと、高千穂には悪行を働いていた鬼八(きはち)の伝説がありまして、退治された後に、三つに切り離されて、首塚、胴塚、手足塚の三カ所に埋められました。その胴塚がちょうど隣の敷地にあったんです。災いばかりが起きるので持ち主が売りたがっていまして、父が買い取りました」
鬼八塚を含む小さな森と庭園は、「仙乗苑(せんじょうえん)」と命名されている。
「鬼八塚を手に入れてから、ウチはうまく行っていますので、見えない何かに守られているなあって感じますね」
社長はツキもあるし、なにしろ多才だ。
「竹の垣根なんかも父がスタッフに教えながら一緒に造っていましたね。できる限り自分たちの手でと言って、庭木の剪定や庭の整備もやっていました。かつては父が、お客様にお出しする鯉を捌いたり、ヤマメの姿造りを作ったりしていました」
現在、73歳になった。
「今日も、ご希望のお客様にお出しする天然の鮎を釣りに行っています。川に腰まで浸かって、命がけです(笑)。鮎が釣れる川は近くに3本あるんですが、今日は見立川ですね」
社長がイメージして造園した本館の日本庭園にて。
社長が高千穂町に抱く郷土愛
社長の高千穂町との関わり方は珍しい。
「父は30歳で煙草をやめたのですが、ご飯が美味しくなって太った。ダイエットのために地元の運動公園で走り始めたら、高校生や陸上部の生徒さんと仲良しになりまして。それをきっかけにして、高千穂高校駅伝部の指導をすることになったのです。3年計画を立てて生徒を鍛えました。宮崎県で駅伝の名門と言えば小林高校ですが、そこに勝って全国高校駅伝大会に行ったのです。周囲からは棚ボタだと言われて、ならばと奮起して、もう一度勝ちました。この3年計画を立てた経験が、その後の旅館の経営にも活かされたそうです(笑)」
歩くことも好きだ。
「父はうちの旅館をスタートして天岩戸神社まで歩く『高千穂歩こう会』を始めたんですね。それが発展して、マラソン大会になった。やがて高千穂町を巻き込んで『神話の里高千穂マラソン大会』となり、前夜祭も企画しました。前夜祭があれば、宿泊も増やせますから。ある程度盛り上がったところで、高千穂町に主催を渡しました。町は数年間続けてから、立ち切れになったようです」
「高千穂トゥギャザーウォーク」というウォーキング大会は町に渡して今も続く。
「父は高千穂に生まれ育っていますから、町のことが好きで高千穂を盛り上げていきたいという気持ちが強いのだと思います。だから発起人になって、何かを始めてしまうのです」
高千穂と言えば、高千穂峡に行かずしては帰れない。レンタルボートなら滝の真下まで行ける。
癒し空間を提供することに特化
現在、「旅館 神仙」のことを考える中心は女将に他ならない。
「ザ・リョカンコレクションに参加してから、各施設様がいろんな体験をお客様に提供しているのを見て、うちは何が出来るのだろうかとずっと考えてきました。でも、高千穂という町自体には素材がいっぱいあります。例えば、高千穂峡や神話史跡コース巡り、あまてらす鉄道、阿蘇山のアクティビティもあります。ですから、旅館から提案する必要はないかなと思い始めています。逆に、地域のDMC(地域に特化した旅行会社)の方たちを応援しながら、様々なプランを作り上げてもらう。その部分は旅館からも紹介して彼らにお任せする」
「露天風呂付洋室 和樂」の露天風呂。各部屋に露天風呂が完備されている。
では、「旅館 神仙」の立ち位置は?
「私どもの宿は『癒し』の部分を重点的にお引き受けすることだと思っているのです。例えば、お風呂は各部屋に露天風呂が付いていますから、タトゥーがあろうがなかろうが、好きなだけ入っていただける。食事もすべて個室ですので、小さなお子さんがいて泣いても何しても、気にされることなく楽しめます。もちろん、情報を望んでおられれば一生懸命に一緒に探します。そうやってお客様に寄り添った癒し空間を提供することに特化するのがウチらしいのかな」
これが幻の尾崎牛のしゃぶしゃぶだ! 何と言う美味しさか。
ここでしか味わえない料理の数々
食事処は14カ所ある。夜と翌朝は個室を替えてくれるので、違う雰囲気で食事が楽しめる。そして、夕食の口開けは、青竹から注いだ熱燗の「かっぽ酒」とキャビアで始まる。
「九州はご飯が美味しいと言われますね。日本三大秘境と言われる椎葉村が宮崎県にあります。そこで養殖しているチョウザメは、耳川の源流かけ流しの水で育てているので、水温が低いために育ちが遅いのです。普通は6年ぐらいでキャビアを取るのですが、ここでは8年まで育てます。すると、卵形が大きくなりますが、その中でもいちばん大きなものを『神仙キャビア』としてお出ししています」
確かに、味わったことがないくらい粒は大きく、塩気は少なく、卵黄のようにすこぶるクリーミーだった。毎年一回のワイン会では、<wbr />チョウザメの解体ショーが目玉になっている。
「お客様の前で捌いて、取れたてのキャビアをお酒で洗って提供しています。生産者しか食べられないフレッシュそのもののキャビアです。これをご飯に載せてキャビア丼も楽しめますよ」
ひゃー、それは堪らん。残念ながら、とりあえず、<wbr />来年3月開催が最後の予定。
幻の尾崎牛もある。
「尾崎牛は一年中お出しできます。この牛肉は融点が28度ととても低いので、舌の上でも脂がすぐに溶けます。ぜんぜんくどくないですね。それをしゃぶしゃぶとステーキの両方でお召し上がりいただくことも可能です」
確かに戴きました。凄まじいばかりに美味しい肉でした。中居さんがソッと明かすには、女将のコネクションがあってこそのものだそうだ。
朝食の目玉は卵かけご飯。箸で切れるほど黄身がプリプリ。五ヶ瀬町の「ひのひかり米」もねっとり甘くて秀逸。
他にも、農家との繋がりも緊密だ。
「宮崎の農家さんのマンゴー、熊本の農家さんのスイカ、メロン、ナシなどは収穫のお手伝いをさせていただいて、直接に仕入れています。ちょっと傷がついて売れないものでも、味は変わりませんから、旅館で使います。少しでも農家さんのお手伝いになるように考えています」
大プロジェクトが進行中
実は、来年7月の開業に向けて、大プロジェクトも進行中だ。
「大分の別府に『別府 神仙』をオープンします。場所は市内の鉄輪ではなくて南立石のほうです。6棟の宿ですが、土地を買って一から建てていまして、高千穂よりもハイレベルなものを目指しています。部屋は120平米から200平米で、お子様はNG、大人の宿にします。50数年間にわたって宿をやってきた私ども、というか父の集大成になるはずです」
女将 佐藤 久美(さとう くみ)
1974年宮崎県西臼杵郡高千穂町生まれ。1992年宮崎県立高千穂高等学校普通科卒業、1994年CICカナダ国際大学通訳翻訳科2年課程卒業を経て、「旅館神仙」入社。1995年スペイン・マドリードのEstudio International Sampereにて5週間の語学研修。2006年楽天「女将〝おもてなしの心〟コンテスト」日本一に輝き、母(現大女将)から女将を引き継ぐ。2009年バリ島にてBalinese Traditional Body Massage Diploma取得、翌年バリ島にてBalinese Traditional Facial Massage Diploma取得。2013年日本ソムリエ協会認定ソムリエ資格取得。
構成/執筆:石橋俊澄 Toshizumi Ishibashi
「クレア・トラベラー」「クレア」の元編集長。現在、フリーのエディター兼ライターであり、Premium Japan編集部コントリビューティングエディターとして活動している。
photo by Toshiyuki Furuya
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世界的な旅の商談会ILTMへの参加報告
2025.8.21
ILTM 参加レポートその2 日本人出展者の奮闘ぶりをお伝えする
会場では比較的大きな日本館。日本政府観光局(JNTO)の本気度が伺える。
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去る6月30~7月3日の日程で、「ILTMアジアパシフィック2025」が、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズにて開催された。
ILTMはインターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケットの略で、「ILTMアジアパシフィック」はアジア太平洋地域を中心にして、広くアジア地域はもちろん、ヨーロッパ、中東、南米、アフリカから、最高級の旅行のサプライヤーとバイヤーが集まる世界規模の商談会である。
参加したその数、サプライヤー740ブランド、バイヤー740名、メディア70名! 大変な盛況ぶりだった。
日本館の人気が炸裂!
日本も日本政府観光局(JNTO)が本気を出して予算を充てているので、サプライヤーも多少は参画しやすくなった。その結果、「チーム日本」としては、大きなブースを構えることが出来た。
私がかつて見ていた12年前に較べれば、まさに隔世の感がある。
当時は、日本のブースは小さく、訪ねてくるバイヤーはまばらで閑古鳥が鳴いていた。日本からカンヌや上海(当時はシンガポールではない)まで出向いた出展者は、ヒマを持て余していた。
今や、日本ブームは世界のトレンドであり、各日本人出展者の予定は空き時間がないほど埋め尽くされ、押し合いへし合いの状態だった。有り難いことである。
では具体的に、日本館以外のブースも含めて、日本からの出店者から注目株をいくつか紹介したい。
文化財に泊まる稀有な体験
柳川藩主立花邸 御花
これほど由緒のある宿は、日本広しといえどもなかなかない。そもそもその歴史は、400年前の江戸時代、柳川藩主立花家の邸宅にまで遡る。
旅館は広大な日本庭園を含む敷地内にある。
屋敷が建てられたこの場所は、季節の花々で彩られるようになったことから、「御花畠(おはなばたけ)」の愛称で親しまれた。それが現在の屋号「御花」の由来だ。
明治期には伯爵家となり、現在は料亭旅館として、立花家の末裔18代目が運営をしている。
元はお屋敷であった旅館も、広大な庭園である松濤園も、ともに文化財であるから、ちょっと想像を絶する凄さだ。自分が高貴な出でもなければ、ちょっと気後れするような感じなのだが、そこはしっかりと歓待してくれそうだから安心だ。
客室はもちろん、すっきりとした和モダンに全面改装されている。
こんな広間には滅多にお目にかかれない。
料亭を始めたのは1950年のことだというから、地元の旬のものを使った会席料理や、柳川名物の「うなぎのせいろ蒸し」など、食事も楽しみの一つであるところが嬉しい。
「御花」を九州北部の拠点として、旅を企画したくなる。
柳川藩主立花邸 御花
住所: 福岡県柳川市新外町1
TEL 0120-336-092(代表)
広島の新デスティネーションは
SIMoSE ART GARDEN VILLA
いま広島県で注目すべき施設といえば、ここが筆頭の注目株だ。
色とりどりの美しい美術館。
宮島の近く、瀬戸内の海に面した一画に、下瀬美術館を中心にした広大な敷地の中に、エミール・ガレの庭やカフェやヴィラが点在する。
そして冒頭の写真、これが水盤の中に浮かぶ美術館なのだが、その脇に「水辺のヴィラ」があり、少し離れた木立の中に「森のヴィラ」がある。いずれも建築家・坂茂氏が手掛けた別荘のような家である。
アート・オーベルジュであるから、食事は地元の幸を活かしたフランス料理を供する。
「水辺のヴィラ」は美術館の隣に位置する。
海風に吹かれながら、ヴィラのプライベートな空間で憩うもよし、アートを散策するもよし、ちょっと新機軸の宿泊施設として、とても楽しめそうだ。
SIMoSE ART GARDEN VILLA
住所:広島県大竹市晴海2丁目10-50
山と森に抱かれたアートの館
箱根迎賓館 麟鳳亀龍
当ホテルは独立ブースでの出展であるが、ここもアートホテルと形容しても良いだろう。箱根・宮ノ下、山の真っ只中に隔絶されてあるのが「箱根迎賓館 麟鳳亀龍(りんぽうきりゅう)」である。
甲冑もあるが、アート作品はいたるところに配置されている。
その第一の特徴は、「麒麟」「鳳凰」「亀」「龍」という吉祥の象徴を、様々な作家が創ったアート作品で、各客室が彩られている点だ。一部屋に一作家という凝り様である。そのアートは、彫刻、左官、書、染色、唐紙など多岐にわたる。
もちろん各客室には、「箱根七湯」の一つとされる「堂ヶ島温泉」の湯が、加水処理されずに掛け流されている。
正面玄関から一歩先はまるで別世界。
食事ももちろん抜かりがない。各部屋での夕朝食はバトラーが運んでサービスするが、<wbr />料理を監修するのは、京都のミシュラン一つ星「やま岸」だ。
ほかにも露天風呂や岩盤浴を備えたトリートメントルームでは、スパのリラクゼーションを受けることが可能だ。
たった9つの客室には贅を尽くした体験が待っている。
エスパシオ 箱根迎賓館 麟鳳亀龍
住所:神奈川県足柄下郡箱根町宮ノ下72
TE+:0460-87-9200
箱根温泉に満を持して到来する
HOTEL THE MITSUI HAKONE
箱根でもう一軒紹介しておきたいのが、三井不動産グループの最高級ラグジュアリーホテルHOTEL THE MITSUI KYOTO(2020年11月開業)に続く、第2のホテルHOTEL THE MITSUI HAKONEである。
箱根の山の中に広大な敷地を誇る。
三井不動産グループが運営するラグジュアリーホテルでは、4施設が3ミシュランキーを獲得している。HOTEL THE MITSUI KYOTO、ブルガリ ホテル 東京、フォーシーズンズホテル東京大手町、AMANEMUの4つだ。
いずれも存在感を放っているが、京都におけるHOTEL THE MITSUI KYOTOの評判はすでに定評がある。その第2弾が箱根というわけである。
場所は「富士箱根伊豆国立公園」内に位置し、箱根の山々の大自然に囲まれた約4万坪(東京ドーム3個分)の広大な敷地で、その一部や周辺はかつて三井家の別荘が群をなして存在した三井家ゆかりの土地だ。
一切の妥協をすることなく贅を凝らして建設された。
京都が日本文化との接触ならば、箱根は雄大な自然に抱かれる体験となるだろう。
客室は126室で、インテリアデザインは世界的デザイン事務所「Yabu Pushelberg」が、レストランのデザインは「A.N.D.(AOYAMA NOMURA DESIGN)」などが手掛けた。もちろん、豊富な天然温泉が全客室にひかれていることも魅力の一つだ。
2026年の開業予定である。
HOTEL THE MITSUI HAKONE
住所:神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷字箕作沢450番1
水と匠
最後に紹介するのは富山県西部地区に拠点を置いた、観光を軸に地 域振興に取り組む観光地域づくり法人(地域連携DMO・地域 DMC)、「水と匠」である。
農作業の体験プラン。収穫した作物はレストランで食べることができる。
有名な三郎丸蒸留所でのブレンド体験。
株式会社水と匠(DMC)
文:石橋俊澄(元「クレア」「クレア・トラベラー」編集長)
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投稿 ILTM 参加レポートその2 日本人出展者の奮闘ぶりをお伝えする は Premium Japan に最初に表示されました。
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日本のプレミアムなホテル
2025.8.19
タイの五つ星ブランド「デュシタニ京都」異国の香りと日本の雅
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京都・西洞院町。タイの伝統とおもてなしの心を感じる、五つ星のラグジュアリーブランド「デュシタニ」が日本に送り出した珠玉のラグジュアリーホテル「デュシタニ京都」。タイ語で「楽園の街」、特に楽園の第四層にある都を意味する言葉“Dusit Thani(デュシタニ)”の名前通り、ここは至極の時間を私たちに届けてくれる空間であった。
タイと日本の美意識の共通点を痛感できる、ここちよい空間
「デュシタニ京都」は、JR京都駅中央口から徒歩約12分、世界遺産「西本願寺」の門前町に位置する。人で賑わう京都の街並みを進むと、目前に京町家を感じさせる意匠の佇まいが見えてくる。
雅の世界と現代モダンの融合したその建物の美しさに、京都滞在への期待が高まっていく。
景観保全地域内の小学校の跡地に建つ。
京都とタイ・アユタヤは共に多くの世界遺産を抱く古都という共通点を持つ。
共に、独自の文化を守り続けながら歴史を刻き、長年積み重ねてきた伝統を現代へつなげる英知の都でもある。
「デュシタニ京都」は、それら二つの都市に敬意を表し、その美意識を表現したデザインとおもてなしを大切にしている。
ゆえにデザインは日本人とタイ人のデザイナーに依頼し、それぞれの文化と歴史を融合した空間が実現した。
格子から漏れる優しい光がロビーラウンジに注ぐ。
エントランスをくぐり、館内に足を踏み入れると開放的なロビーが広がっている。
中庭を囲むように建っている当ホテルのロビーからは、京町家の特徴でもある格子窓があり、その先には日本庭園が望める。
ここには喧騒を忘れさせてくれる静寂と、心を落ち着かせるような美意識が確かにある。
その一つが、京都とアユタヤの伝統や意匠が多く取り入れられたデザインにある。
タイの仏塔チェディと京都の五重塔の屋根の特徴である美しい曲線を意識した壁や柱、シルクの壁面や繊細な彫刻、木と石の質感など、古くから大切に守ってきた伝統と技術が私たちを温かく迎えてくれる。
そして、スタッフの優しい笑顔も格別である。微笑みの国と言われるタイのおもてなしが、私たちをそっと包み込んでくれるようだ。
さらに奥へと進むと、アフタヌーンティーなどが楽しめるラウンジ「ザ・ギャラリー」や茶室「ティーサロン」がある。茶室では茶道体験など、京都滞在を満喫するスペシャルな企画もある。
タイと日本の伝統文化が融合したロビーラウンジ。
茶道体験では舞妓さんが立てた抹茶がいただける。3,500円(税サービス込)。
京都の職人や老舗の商品が並ぶショップ。
中庭を囲むようにある客室は静寂に包まれた空間
ロビーからエレベーターで宿泊フロアに着くと、客室に通じる廊下には、カードキーをかざさないと開かないドアがあり、セキュリティも万全である。
全147室ある客室は「デラックスルーム」「プリミエルーム」「スイートルーム」などがあり、どの客室も現代的な快適性と古都の余白美を併せ持つ洗練された空間。
開け放たれた障子越しに差し込む柔らかな光や、手仕事の質感を感じさせる木の壁、上質なシルクのファブリックなど、自然に身を置くような心地よさに、観光へ行くのが億劫になってしまうほどだ。
プリミエスイートには畳の空間がある部屋も。
インペリアルスイートの窓から見えるのは、「本願寺伝道院」。
客室には、京都府和束町の自社茶畑「デュシット・ティー・ガーデン」の有機農法で栽培された日本茶が置かれているので、ぜひ滞在時に味わって欲しい。心を込めて作られた日本茶が心に沁みていくはずだ。
「デュシタニ京都」では茶畑だけでなく、京都左京区大原に「デュシット・ファーム」もある。タイ料理に欠かせないパクチーを始めとした野菜の栽培もしており、収穫した野菜は「デュシタニ京都」や姉妹ホテルである「ASAI京都四条」のレストランやバーで提供されている。
また希望があれば、宿泊のお客様に限られるが野菜の収穫体験もできる。これらはサスティナブルに向けた取り組みの一環と聞くが、ホテルスタッフたちが、私たちも作業に行きますと楽しそうに話す姿は印象的であった。
レストランが並ぶ地下一階の中庭。
デュシタニ京都が新たに挑む“食”の世界。ここでしかできない体験
ホテル地下一階には、3つのメインダイニングがある。
オールデイダイニング「Kati(カティ)」では、タイ料理をはじめ世界各国の味わいが楽しめるほか、
シグニチャーレストランの「Ayatana(アヤタナ)」では、タイ王室料理を現代的に昇華させた、新感覚のタイ料理の数々がいただける。店名である「アヤタナ」とは、タイ語で“6つの感覚(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚・心)”を意味している。これはタイ仏教においては心が第六感であるという教えから来ているという。
また「Ayatana」では、2025年7月から、伝統的なタイのサービススタイルから、懐石料理のように、銘々に提供する「おまかせコース」スタイルへと変更された。
レストランで使用するカトラリーや食器はタイと日本の作家ものがコーディネイトされている。
季節の食材を活かしたおまかせコース11品、22,000円(税サービス込)。
タイのベンジャロン焼きの器を使ったアフタヌーンティーは13時~16時、10,000円(税サービス込)。
季節で変わるおまかせコースは、全11品。
小さな一皿の中に、旬の食材と技が詰まっており、タイ料理の概念を覆す見事な世界観は圧巻である。
どの料理もベースはタイ料理ではあるが、地元野菜を使い、さらに日本料理の感性がエッセンスとして加わり、タイ料理を確実に昇華させた数々だ。さらに器や盛り付けも美しく、まさに6つの感覚を満足させてくれた。
季節の食材を和の要素を融合させたおまかせコースがいただける。
「Ayatana」から中庭を挟んで向かいにあるのが、二十四節気の移ろいを映す「シェフズテーブル 紅葉」である。
今回は、鉄板を囲むカウンタースタイルの店内の奥に新たに誕生した、銀座「鮨 石橋正和」へ。
京都で美味しい鮨が食べたいと言う声に応えるために新たにスタートしたと聞く。
わずか数席のプライベート感に満ちた檜一枚板のカウンターを備えた空間で、熟練の職人がひとつひとつ、丁寧に仕事を重ねていく。ネタは、全国から取り寄せられる天然もののため、仕入れ状況で日々ネタは変わる。
伺った日は、和歌山のキジハタ、八丈島のキンメダイ、島根の白イカ、愛知県の平貝、長崎県アナゴ、長崎県のマグロ……をいただく。藁焼き、昆布締めなどの丁寧な仕事は、素材の旨味を存分に引き出した熟練の仕事で、もちろん味わいは絶品だ。
これは海外ゲストはもちろん、舌の肥えた日本人も魅了するだろう。
基本はおまかせコースのみ、今後は鉄板焼きと鮨の垣根を超えた提供も検討中だとか。
舞台のような鮨カウンターでは、美しい技が繰り広げられる。
営業時間はランチ12時~14時30分(14時 LO) 、ディナー 17時30分~22時 (20時 LO)。
ランチ 15,000円、ディナー 28,000円(税サービス込)。
さらに「デュシタニ京都」には見逃せない場所がある。
隠れ家バーとしてわざわざ近隣から訪れる人が多いという、バー「Den Kyoto(デンキョウト)」。
さらに、スパ「Devarana Wellness(デバラナ・ウェルネス)」は、タイ王室ともゆかりの深いデュシタニブランドならではのホスピタリティと共に、タイ古式マッサージを受けることができる。
スパ内にはプールや24時間利用できるフィットネスジムなどもあり、充実した滞在をサポートする。
大人の隠れ家として、近所の人だけではなく、近隣に宿泊する観光客も訪れているバー「Den Kyoto」。営業時間16時~23時。
地下2階にあるプールは、大人の雰囲気が漂う神秘的な空間です。営業は午前7時~21時。7時~10時はキッズアワーとなっており、身長130㎝以上の子供様も利用可能。
「デュシタニ京都」を体感し、ラグジュアリーとは、ただ豪華であるだけではなく、文化と精神の豊かさにこそ宿るのではないのだろうかと感じる。そしてここは、まさに体現されている。
タイ式の優雅さと日本的な“おもてなし”が交錯し、“本物の贅沢”とは何か?その答えを導くヒントがここには確かにある。
Text by Yuko Taniguchi
京都府京都市下京区西洞院通正面上ル西洞院町466
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日本のプレミアムなホテル
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編集部&PJフレンズのブログ
2025.8.12
新型クラウン人気の理由はどこにあるのか。特別キャンペーン体験レポート
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「いつかはクラウン」――日本人の憧れの車の代名詞であったトヨタクラウンを象徴するコピーである。
1955年に誕生し、今年で70周年を迎えるクラウンは年々進化をしているが、2022年にそのスタイルが大きく変わり、2023年10月からクラウンの専門店「THE CROWN」が全国6か所に誕生した。
今回はクラウン誕生70周年を記念し、“走る・触れる・感じる”モニター体験キャンペーン《47ROADS BY CROWN – THE EMOTIVE JOURNEYS》を体験する貴重な機会を得ることができた。
また、輸入車からクラウンへの買い替えも多いと聞くが、クラウンの魅力はどこにあるのか、私なりに探ってみた。
スタートは、現在6拠点のクラウン専門店「THE CROWN」
クラウン専門店「THE CROWN」は、現在、東京・千葉・横浜・名古屋・大阪・福岡の6都市にある。
今回は横浜都筑にお邪魔したが、その門構えからして、今までの販売店とは大きく異なる。クラウンの魅力を詰め込んだ販売店は、一歩足を踏み込んだ瞬間からクラウンの世界観が広がっている。
上質なインテリアや最高級のおもてなしに、プレミアムカーのオーナーとしての特別な待遇を受けているような満足感にきっと浸れるはずだ。またここを訪ねることでオーナー同士のコミュニケーションもあり、新たなつながりも生まれる空間である。
もちろん、クラウンを体験したいという方は、たっぷりとその個性や魅力に触れることもできる。
「THE CROWN」。横浜都築の外観。
ブランド発信拠点「THE CROWN」横浜都筑の店内。
今回、私が訪れた横浜都築「THE CROWN」は福岡と並んで初「THE CROWN」となった店舗だ。木をふんだんに使った和モダンな外観、入り口にかかった王冠マークののれんなど、まるで老舗旅館にでも訪れたような佇まいである。
店内は高級感ある家具が並ぶリビングルームと、そこから眺める日本庭園風の中庭にクラウンが並んでいるような空間に仕立てられている。
さらに歴代のクラウンの写真や書籍が並び、クラウングッズも購入できる、まさにクラウンの聖地とでも呼べる店内である。
ゆっくりクラウンを体感したいと言う方は、ぜひ一度足を運んで欲しい空間である。
まずはこちらで丁寧に淹れた日本茶とお菓子をいただき、今回の試乗車であるクラウンセダンの鍵を預かり、いざ出陣である。
店内には、クロスオーバー・スポーツ・セダン・エステートの4つのクラウンが並ぶ。
車を感性で楽しむ。安心感と心地よさを備えた「やっぱりクラウン」
クラウンは1955年に「日本人の手による、日本人のための高級車」を目指して誕生した、日本人の憧れの車だ。2022年フルモデルチェンジをした16代目クラウンは、「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」「エステート」の4つの個性があり、自分らしく、ライフスタイルに合わせて“選べるクラウン”へと進化を遂げた。
自称車好きを名乗ってはいるが、車の機能やスペックには全く疎いが、デザイン性は妥協できないと考えているタイプである。最近は加齢もあって、信頼感や安全性もかなり重要視している。
その点からも新型クラウンの美しいフォルムにはやはり目が留まる。街中でもよく見かけるようになったクラウンであるが、フロントフェイスは、かなりかっこいい。
高級感あるゆったりとした車内。
車内はかなりゆったりとしており、シートの座り心地はもちろん、静かな車内やスムーズな走りは、慌ただしい日常にホッと一息つけるような心地よさ。そして何より嬉しいのが、先進の安全機能がしっかり備わっていること。
向かうは日本橋の伝統技術の体験ができる「器 日本橋夢東 本店」へ
はじめての車種の運転は正直ドキドキするが、スムーズな走り出し、しっかりとした安定感で、ハンドルを握ってすぐにこれはいい!安心して運転できる!と自信が湧く。
一般道から首都高速へ、加速がスムーズ過ぎて、逆にスピードが出すぎないように気を付けるほどの心地よい走り。首都高速はいつもながらの多少の混雑はあったものの、無事に通過し、次はCROWN 47ROADSの一つである都道402号へ。
千代田区の一ツ橋河岸交差点から有楽町駅前を結ぶ特例都道である。ここは大手町から丸の内のオフィス街、東京駅丸の内側の美しい駅舎など、都会的なランドスケープが楽しめる道路として選ばれたと聞く。まさにザ・東京とも呼べる大都会の中を颯爽と走るのはやはり気持ちがいいものである。
このような遠出をして試乗をしてこそ、車の特性や魅力が体感できるものであろう。
美しい景色や自然、日本らしい文化や歴史などが味わえる「日本が世界に誇る道」である「47ROADS BY CROWN」の一つである、丸の内都道402号。
到着したのは、高級漆器やガラス器の卸売販売を行う「器 日本橋夢東 本店」。
ここは、1923(大正12)年に「漆器問屋 武藤三郎商店」として始まり、主に百貨店と取引きをしてきたという老舗漆器店。現在は金継ぎをはじめ、蒔絵や七宝焼きなど、日本の伝統文化を体験できるワークショップを展開していることから、多くの外国人観光客も訪れている。
今回体験をする金継ぎは、欠けてしまった器の修復という、モノを直すという目的だけではなく、「壊れたものにこそ宿る美」を慈しみ、新たな感性を加える再生を体現するものである。
店内には日本の伝統技術によって生み出された商品が並ぶ。外国人観光客がお土産として購入するケースも多いと聞く。
初金継ぎ体験ではあったが、丁寧に指導いただいたこともあって、割れ目の接着から、欠けた部分を埋めて、凹凸を紙やすりで削ってから合成漆と代用金を使って修復するところまでスムーズに楽しく作業ができた。
器の曲線に合わせた接着や割れ目に沿った筆入れなど、緊張感に包まれて集中する作業には雑念がスッと払われていくような爽快感がある。
金継ぎをした器には新たな感性が加わり、いままでの器とは一味違う自分の手が加わった唯一無二の器になり、さらなる愛着が湧いてくるものである。
エメラルドグリーンの器にゴールドがよく映える。
こちらでの金継ぎワークショップは、通常5回程度通うコースのようだが、今回は一回で完成するコンパクトな体験であったが、十分金継ぎを楽しむことができた。
水素で走る燃料電池車の初体験で知る、未来型自動車への期待
クラウンには、ハイブリッドやプラグインハイブリッドといった選択肢もあるが、今回は水素で走るクラウンセダンFCEV(Fuel Cell Electric Vehicle:燃料電池車)を試乗させていただいた。
水素と空気中の酸素を反応させて発電し、その電力でモーターを動かしているため、排出されるのは「水」のみ。CO₂ゼロの環境性能では圧倒的に優れた次世代車といえる。
トヨタにおいては、水素で走る電池車「MIRAI」がすでに発売されているが、同等の燃料電池システムを採用しつつも、クラウンならではの高級感と快適性を融合しているようだ。
初水素で走る燃料電池車は想像以上に運転しやすく、走りやすい。ガソリン車と何ら差異のない走りなら、やはり環境に優しい方がいいと感じる。
水素自動車にはちょっと抵抗がある人も、一充填走行距離や約820㎞、水素充填時間1回当たり3分程度というデータを聞けば安心だろう。
さらに都道府県によって異なるが補助金もあり、水素ステーションも拡大中となると、いち早く手に入れるべきではないかと思う。
「いつかはクラウン」の言葉は確実にいまも健在である。
やっぱりクラウンは高級感と安心感に包まれた、トヨタが誇るプレミアムな車であることは十分に体感することができ、さらにスタイリッシュになったデザインは、女性の心もつかむことは間違いないだろう。
輸入車からクラウンへ、この流れも当然の判断だと考える。
今回ご紹介の第1弾キャンペーンはすでに募集は終了したが、第2弾の実施も検討中と聞く。日本が誇る新しいクラウンで日本の魅力を探る旅に出るのはすてきな体験である。
器 日本橋夢東 本店
東京都中央区日本橋本町1丁目8番地13号 日本橋滄浪閣ビル
谷口優子 Yuko Taniguchi
Premium Japan編集部スタッフ
目指せポジティブエイジング。ゴルフにハマり中!
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2025.8.14
20周年を迎えた星野リゾート トマム滞在記~雄大な大自然に心も身体も包まれて
星野リゾート トマムから見られる美しい雲海。雲海の発生は前日の天気や風向きにも左右される。
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外に出るのが億劫になるほどの暑さが続く今年の夏。東京の酷暑から逃れるように、北海道トマムの星野リゾートに行ってきました。北海道も連日本州並みの暑さが報じられていますが、さすがにトマムの辺りは過ごしやすい気候でホッとしました。
リゾナーレトマム
滞在したのは「リゾナーレトマム」。コンセプトは「北海道の大地を感じるグレイスフルステイ」だそう。
そのコンセプトの通り広大な針葉樹の森に抱かれた高台に佇むリゾートホテルで、全室広さ 100 m2を超えるスイートルームには展望ジェットバスとプライベートサウナを完備し、ゆったりと豊かな時間を過ごせます。
実は若いころ、米ディズニー・リゾートの広報をしていた経験がある筆者。アナハイムのディズニーランド・リゾートとフロリダのウォルト・ディズニー・ワールド、今度日本にも就航するディズニー・クルーズラインを、日本のメディアに対してPRしていました。
トマム駅からリゾナーレトマムまでクルマで移動している時に、フロリダの広大なウォルト・ディズニー・ワールドを思い出しました。
初めてウォルト・ディズニー・ワールドに訪れた時に、その広大さに圧倒されたものです。日本人の感覚では理解できないスペース感とでも言うのでしょうか。そして欧米のゲストは、そこに長期滞在して、ある日はテーマパークで遊び、別の日はホテルのプールでのんびりといった過ごし方をしていました。
このリゾナーレトマムも、もちろん規模は違いますが、滞在型のリゾートとして同じようなコンセプトで作られているのではないかと思ったのです。
ファーム星野のプロジェクトリーダー 宮武宏臣さん
滞在型のリゾートの特徴は、ゲストのために施設側が様々なアクティビティを用意してくれているところです。リゾナーレに着いてまず訪れたのが、ファームエリア。こちらは単に牛を飼っているエリアかと思ったのですが、実は「ファーム星野」という、農産物の生産活動に取り組み、そこから生まれる美しい景観や、おいしい食への追及を目指す、循環型農業プロジェクトを展開しているのだとか。
トマムリゾート開発前の1980年代までは、このエリアでは約 700 頭の牛が飼われ、農業が営まれていたそうです。その頃の美しい原風景に戻していき、おいしい食を生産する活動に取り組んでいるとのこと。
そのプロジェクトをリードする宮武宏臣さんにお話を伺いました。宮武さんは、新卒で星野リゾートに入社し、元々は東京の星野リゾートオフィスのスタッフだったそうで、当時はIT系のマーケティングや星野代表のプロジェクトなどを担当していたそうです。まさに星野リゾート一筋!
トマムの運営に星野リゾートが2004年から参画。ただ2016年に台風により再生を余儀なくされました。
その際に以前から構想されていたファーム化に踏み切ることになり、宮武さんはそのプロジェクトリーダーにアサインされたそう。いわゆるオフィスワーカーから農園の経営へとは、なかなか思い切った決断だったと思いますが、ご本人に迷いはなかったようです。
宮武さんは「モーモー学校」の体験として、ホルスタイン、ジャージー、ブラウンスイスという3品種のそれぞれ個体別の牛乳を飲み比べ、そしてその味の違いの原因は何があるのか、などをクイズ形式で考えさせます。私は全く答えられなかったのですが、同行した14歳の娘が次々と質問に答えていて、感性の違いを実感しました(笑)。
このように、牛の個性や習性を学ぶアクティビティ、クイズ、試飲などを体験した後に、牧草地にいる牛を移動させる牛追いを体験できます。また、ファームエリア内には、牛の寝床をイメージした全長 30 メートルに及ぶ「巨大の牧草ベッド」、本物の羊を数えながらお昼寝を楽しめるスポット「羊とお昼寝ハンモック」などを設置しており、カートで巡るのもおすすめです。ファームの動物のことを知りながらリゾート滞在を楽しめます。
牛や羊が放牧されているファームエリアにあるカフェ「ファームデザインズ トマム店」
同店で提供されているランチ
広大な敷地内にあるファームエリア内のカフェでランチを楽しみます。「ファーム星野」では、2018 年 8 月からトマム牛乳の生産を開始。その後 2020 年 7 月からナチュラルチーズの生産を始め、同年 9 月からリゾート内にあるメインダイニング「OTTO SETTE TOMAMU」にてマスカルポーネチーズを提供。
さらに 2024 年 12 月には、森のレストランに「ニニヌプリ」がリニューアルし、ファーム星野で生産するチーズの仕上げを行うライブスタジオとソフトクリームステーションが誕生。チーズ作りを目の前で見られるだけでなく、店内でチーズをはじめ、トマム牛乳を使用したソフトクリームを提供しています。
「この土地で生産されたものを、この土地でゆっくり過ごしながら味わってほしい」という考えからスタートしたとか。
トマム雲海テラス Cloud Walk(クラウドウォーク)。Cloud 9の一施設。空中にせり出した造りで、雲の形をしています。吊り橋のような構造で、歩くと少し揺れるので、景色を眺めながら雲の上をふわふわと歩いているような気分を味わえます。
トマムでのアクティビティのハイライトといえば「雲海」ですね。
雲海は、山や飛行機など高い場所から見下ろした時に、雲が海のように広がって見える現象のことです。特に、盆地や山間部で放射冷却によって霧や層雲が広範囲に発生した時に見られます。
まるで雲が海のように見えることから「雲海」と呼ばれます。 今回は残念ながら見ることはできなかったのですが、改めて雲海について学ぶいい機会となりました。
雲海テラスでの 9 つの過ごし方を提案する「計画=Cloud 9」。Cloud 9とは、山全体を散策してさまざまな角度から景色を楽しんでいただきたい、という考えからスタートして設置されている展望スポットのこと。
その計画名は、英語で「この上ない幸せ」を意味する“I am on cloud nine.”から名付けられたそう。
この計画の元、2025 年 7 月時点で 7 つのユニークな展望スポットが完成しており、今後も増やしていく予定だそうです。
雲海テラス
20周年記念のスイーツ@雲カフェ
ゴンドラで雲海が見えるポイントまで上がると、素晴らしい眺めを見渡せる「雲海テラス」と「雲Cafe」があります。カフェでは雲の形をした様々なスイーツが、20周年記念として販売されています。写真スポットとしても最高です。
リゾナーレトマムのメインダイニング「OTTO SETTE TOMAMU(オットセッテ トマム)」
雲丹と鹿肉のアンティパスト
優雅でプロフェッショナルなサーブをしてくれた佐藤さん。
イタリアの郷土料理を中心に、北海道ならではの食材を用いて、フルコースで提供するメインダイニング「OTTO SETTE TOMAMU(オットセッテ トマム)」で、最終日のディナーをいただきました。
2025年6月1日~8月31日の期間限定で「雲丹×夏鹿」をテーマに、北海道の夏の旬の食材をふんだんに使用したディナーコースを提供しています。
シェフの鈴木將平さんは2023年4月に、 OTTO SETTE TOMAMUの料理長に就任。「Calendario Gastronomico(カレンダリオ・ガストロノーミコ)」=「美食のカレンダー」をテーマとし、ゲストにその時期にその土地で一番おいしい食材を活かした料理を味わっていただきたいと考えているそう。
今回は、季節ごとに旬の食材が揃う北海道の中でも、夏ならではの味覚に着目し、濃厚な旨みが広がる雲丹と、脂身が少なくジューシーな赤身の夏鹿を組み合わせることで、海と大地の恵みを新たな視点で表現しています。
さらに、北海道のワインやナチュラルワインを含むワインペアリングも楽しめます。
上記以外にも様々なアクティビティやイベントが用意されている星野リゾート トマム。20周年を迎えて、ますますそのホスピタリティとプログラムは充実しています。
酷暑を逃れ、北海道の大自然に触れ、心も身体もリフレッシュしてはいかがでしょうか。
◆リゾナーレとは
「リゾナーレ」 (星野リゾートが)国内外 7 施設(北海道、栃木県、山梨県、静岡県、大阪府、沖縄県、グアム)に展開するリゾートホテルブランド。2025年には山口県下関に開業予定。夢中になって楽しみ尽くす「PLAY HARD」をコンセプトに、土地の特性を活かした空間デザイン、豊富なアクティビティをそなえ、地域や季節ならではの体験ができます。
リゾナーレは、訪れる人たちに想像を超える滞在をとおして、記憶に残る旅を提供します。
島村美緒 Mio Shimamura
2017年からプレミアムジャパンの代表、そして編集長として、<wbr />日本のいいモノ・コトを紹介中。着物と映画、音楽、ジュエリー、<wbr />スイーツ好き。
関連リンク
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