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木と語らい、愛を描く
2025.10.30
藤田理麻新作絵画個展『Evergreen 〜木魂の愛と智慧〜』
SecretPond©RimaFujita2025
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アーティスト・藤田理麻による新作絵画個展『Evergreen ~木魂の愛と智慧~』が、11月12日(水)から18日(火)まで伊勢丹 新宿店アートギャラリーで開催される。会期中の11月15日(土)午後2時30分からは、会場にてアーティスト・トークおよびインスタライブも実施予定だ。
Sunrise©RimaFujita2025
本展のテーマは、藤田が暮らす北カリフォルニアでの夜の散歩から着想を得たもの。毎晩のようにジュニパー(西洋ネズ)の並木道を歩く彼女は、その中の一本と対話を重ねてきたという。「今回の新作は、そんなジュニパーの木が夢に現れたビジョンをもとに描かれた。「木も人間と同じくこの地球に生きる存在。私たちよりも長く、深くこの星を見つめ続けている」と語る藤田は、木々が授けてくれる愛と智慧を絵筆に込めた。
Butterflies©RimaFujita2025
また本展では、今年90歳を迎えたダライ・ラマの生涯を描いた絵本『The Extraordinary Life of H.H. The Fourteenth Dalai Lama(ダライ・ラマ法王第十四世の生涯)』の一点物の版画も特別展示。藤田が描く穏やかな色彩と祈りの筆致が、法王の壮大な人生を静かに讃える。
アートを通して愛と祈りを描き続ける藤田理麻。私たちのそばに静かに寄り添う木魂の愛を、彼女の作品世界を通じて感じてみてはいかがだろうか。
◆藤田理麻 新作絵画個展「Evergreen ~木魂の愛と智慧~」
【会期】2025年11月12日(水)~11月18日(火)
【会場】伊勢丹新宿店 本館6階 アートギャラリー
【アーティスト・トーク&インスタライブ】11月15日(土)午後2時30分~
※最終日は午後4時終了
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詩楽劇『八雲立つ』——伝統と革新が織りなす舞台
2025.10.29
尾上右近、紅ゆずる、尾上菊之丞らが登場。豪華出演陣が紡ぐ神話の世界
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2025年12月29日(月)から31日(水)まで、東京国際フォーラム ホールB7にて詩楽劇『八雲立つ』が上演される。出演は、歌舞伎俳優の尾上右近をはじめ、元宝塚歌劇団星組トップスター紅ゆずる、バイオリニストの川井郁子、日本舞踊尾上流四代家元の尾上菊之丞ら。本物の装束を纏い、古典芸能と音楽が響き合う壮大な舞台が繰り広げられる。
本舞台は、“伝統と革新”をテーマに日本文化の新たな魅力を発信するプログラム「J-CULTURE FEST」の一環として上演されるもの。
古代神話に描かれた神々の物語を題材に、プロフェッショナルたちが本物の装束をまとい演じる詩楽劇『八雲立つ』は、2022~2023年の年末年始公演で大きな反響を呼んだ作品。今回の公演では、日本という国の構築に大きな役割を果たした神・スサノオの成長物語を軸に、岩長姫との魂の交わりを音楽と舞で描く。
脚本を手がけるのは、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』などで知られる戸部和久。構成・演出は、新作歌舞伎『刀剣乱舞』でも高い評価を得た日本舞踊尾上流四代家元の尾上菊之丞が担当。
須佐之男命(スサノオ)役には、歌舞伎界の若き俊英・尾上右近。岩長姫役を、元宝塚歌劇団星組トップスターの紅ゆずるが演じ、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)役に佐藤流司、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)役に和田琢磨、木花咲耶姫(このはなさくやひめ)役に梅田彩佳と、ジャンルを超えた豪華キャストが集結。
音楽は、ヴァイオリニスト川井郁子と和楽器が共演。さらに石見神楽 万雷の大蛇の舞が舞台を彩り、神話世界の神秘と迫力を体験できる内容となっている。
本公演にあわせ、東京国際フォーラムで「和の伝統に親しむ」をテーマにしたワークショップも開催。いけばなや鼓(つづみ)、江戸木版画(浮世絵)、巨大書道パフォーマンスなど、日本の文化を体感できる多彩なプログラムが予定され、現在公式サイトで予約を受付中だ。
本作冒頭では、2025年の穢れを払い2026年を寿ぐ神職による修祓(しゅばつ)が執り行われ、新年を迎えるにふさわしい舞台として注目を集めそうだ。
◆J-CULTURE FEST presents 詩楽劇『八雲立つ』
【公演日程】2025年12月29日(月)〜12月31日(水)
12月29日(月) 15:00/18:30
12月30日(火) 15:00/18:30
12月31日(水) 11:30/15:00
【会場】東京国際フォーラム ホールB7(東京都千代田区丸の内3-5-1)
【出演】尾上右近、紅ゆずる、佐藤流司、川井郁子、尾上菊之丞 ほか
【脚本】戸部和久
【構成・演出】尾上菊之丞
【チケット】全席指定・税込・一般販売開始11月1日(土)10:00
SS席12,000円、S席10,000円 、A席6,000円
※未就学児入場不可
※車椅子でご来場される方は、チケット購入後にお名前・ご観劇回・座席番号をご観劇日の前々日までに stage.contact55@gmail.com までお知らせください。
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鹿児島の「宝」を巡る旅
2025.10.28
鹿児島が誇る工芸、薩摩切子を手掛ける二つの工房を訪ねて
「幻の工芸品」とされてきた薩摩切子は40年前、職人たちの努力により「島津薩摩切子」として蘇った。なかでも江戸時代当時の姿を再現した「復元」シリーズは、圧倒的な存在感を放つ。「薩摩ガラス工芸」にて。(価格は後述)
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どうすれば、こんな美しいグラスができるのだろう? 切子に出会った人は、誰しもその美しさに心を奪われ、そして不思議に思う。切子とはカットガラスの日本での呼び名である。日本各地に残る切子のなかでも、名が知られているのは薩摩切子と江戸切子。とりわけ薩摩切子は、厚めのガラスに施された精緻なカッティングが生みだす文様と、光を受けて煌めく艶やかなグラデーション、手に持ったときにずしりと感じる重厚感を特徴とする。「南の宝箱 鹿児島」を巡る旅、今回はこうした薩摩切子を手掛ける二つの工房「薩摩ガラス工芸」と「ART DESHIMARU」を訪れた。
薩摩ガラス工芸
100年以上も製造が途絶えた薩摩切子を復元
薩摩切子は、島津家28代当主の島津斉彬が、近代化事業の一環としてガラス製造を進めたことに端を発するものの、明治維新やそれに続く西南戦争の混乱により、100年以上も製造が途絶えてしまった。そのため「幻の工芸品」とも称されてきた。
薩摩の紅硝子(びーどろ)と呼ばれ、かつては島津家から公家や大名家への贈答品として珍重されてき薩摩切子を、なんとか復元させたい。人々のそんな熱い思いがかない、1985年から「薩摩ガラス工芸」として、復元に向けての取り組みが始まった。翌年には工場が完成。場所は島津家ゆかりの地「仙巌園」の隣で、復元の中心となったのは、やはり島津家だった。工場の建設と並行し、残っていた資料などをもとにした試作品製作の試行錯誤が繰り返され、1986年にようやく復元に成功し、商品化も始まった。100年以上の歳月を経て、こうして蘇った薩摩切子は「島津薩摩切子」と名付けられた。
厚さ1㎜前後の薄手の色ガラスにシャープなカットを入れ、全体的に軽やかな仕上がりを特徴とする江戸切子に対し、薩摩切子は、時には5㎜もの厚さの色ガラスへのカッティングと、クリスタルガラスならではの透明感が複雑に入り混じったさまざまな文様が、ひと際華やかな表情を醸し出す。
なかでも、クリスタルガラスと、その外側に被せた色ガラスという2層ガラスの接面点への繊細なカッティングが醸し出す、「ぼかし」と呼ばれる独特のグラデーションの風合いが、文様により深い奥行きをもたらす。
「薩摩ガラス工芸」は「島津薩摩切子」を生み出す工場と、工場に隣接するショップ「磯工芸館」などがあり、見学が可能な工場で、こうした特徴を持つ薩摩切子が出来上がっていく様子を、間近に見ることができる。
「薩摩ガラス工芸」の工場は見学が可能。薩摩切子が生みだされていく様子を間近で見ることができる。
阿吽の呼吸で合体する、高温の色ガラスとクリスタルガラス
「吹き場」と「カット場」。工房は大きく二つに分かれている。「吹き場」は薩摩切子の生地を作る場。文字通り、吹き竿でガラスを吹いて成形していく場だ。二人の職人がそれぞれステンレスの吹き棒を持っている。片方の吹き棒の先端には、窯から巻き取られた色ガラスの塊が、もう片方の先端にも窯から巻き取られたクリスタルガラスの塊がついている。もちろん竿の先のガラスは、窯から取り出したばかりの、ドロドロに溶けオレンジ色に発光している液状の高熱ガラスだ。
色ガラスの吹き棒を持った職人が金型に色ガラスを吹き込んだ後、すぐさま今度はクリスタルガラスの吹き棒を携えた職人がその金型の中へクリスタルガラスを吹き込む。阿吽の呼吸でその二つを合体させることで、外側が色ガラス、内側がクリスタルガラスという生地が作られていく。作業は高温の室内のなか黙々と進む。二人が声をかけあうこともない。お互いの技術を信頼した熟練の職人技がそこにはある。
吹き竿に巻き取られた約1400度の高温のガラスの塊を成形していく。
吹き竿の先の二層となったガラスは、やがて金型の中に吹き込まれ、形が整えられていく。
内側にクリスタルガラス、外側が色ガラスでできた分厚い生地をカッティングすることで生まれる薩摩切子ならではの美しさ。製造現場を見学することで、その美しさの成り立ちを肌で感じることができる。
「色被せ」(いろきせ)と呼ばれるこの工程の後、色ガラスとクリスタルガラスの2層となったガラスの塊は、再び金型の中に吹き込む「型吹き」、16時間かけて冷却する「徐冷」(じょれい)を経て、検査した後に「カット場」へ運ばれる。
「吹き場」が“動”の作業ならば、「カット場」は“静”の作業だ。職人は椅子に座り、各々の作業をこなしていく。金型から取り出された原型に、カット模様の線を油製ペンで描く「当たり」。描かれた線にそっておおまかな模様をグラインダーで削る「荒ずり」。そしてさらに細かな模様を施す「石かけ」と最終工程の「磨き」。集中し、黙々と作業を進める職人の姿は美しい。
文様の下書きとなる縦横の分割線を油性ペンで引く、「当り」(あたり)と呼ばれる作業。
高速で回転するダイヤモンドホイールと呼ばれる工具で、ガラスの表面が削り込まれていく。
「吹き場」ではどろどろに溶け、オレンジ色に発光していた液状の高熱ガラスが、「カット場」では、紅や藍を纏った硬質な薩摩切子へと変貌していく工程を目の当たりにすると、100年以上も前にこの複雑な工法を編みだした人々の知恵と、途絶えていたそれを再現した薩摩の人々の熱意に胸を打たれる。
20年前に再現された、気品あふれる「島津紫」
ショップ「磯工芸館」は工場のすぐ隣の建物だ。足を踏み入れると、煌びやかな色彩の洪水にまず圧倒される。藍、緑、黄、紅、金赤、島津紫。6色の色ガラスを纏った数多くの薩摩切子が一斉に微笑みかけてくる。厚目のガラスが発する重厚な赤や青、軽やかに輝く緑と黄色。精緻なカッティングがこうした色彩をより鮮やかに引き立てている。展示されている商品も豊富だ。花瓶、鉢、タンブラー、小皿、猪口、愛らしいペンダントトップ……。工場で日々行われている大変な作業を目の当たりにしてきただけに、ひとつひとつの商品がより存在感を増してくる。
色とりどりの薩摩切子が並ぶショップは、まるで万華鏡の中を歩いているかのよう。
江戸時代に作られた当時の姿を今に伝える「復元」シリーズは、薩摩切子らしい重厚感と存在感を放つ。右、酒瓶「亀甲」・407,000円 左、丸十花瓶・407,000円(価格は税込)
「復元シリーズ」には、猪口などの小物類も豊富。右から、小付鉢・48,400円、猪口大・33,000円、猪口大・36,300円、脚付杯(中)107,800円。(価格は税込)
なかでも目を引くのが、「島津紫」と呼ばれている、気品溢れる紫だ。島津斉彬が所持していた薩摩切子の茶碗に使われていた優美な紫色をもとに、20年前に再現された紫色が彩る鉢やタンブラーが、薩摩切子の伝統と格式を象徴する。また、2025年は薩摩切子復元の40周年にあたる記念すべき年で、記念作品や限定商品も幾つか作られている。
復元40周年を記念して作られた、大鉢・1,210,000円と、タンブラー・82,500円。(価格は税込)
世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成遺産として登録されている「仙巌園」は、鹿児島を訪れた人の多くが、旅の目的地とするスポット。薩摩藩主の別邸だった御殿と尚古集成館で島津家の歴史や薩摩藩の偉業に触れたあとは、「薩摩ガラス工芸」で、薩摩の人々が育んできた美意識に触れる。こうした充実のひとときを、桜島が静かに見つめている。
薩摩ガラス工芸
鹿児島県鹿児島市吉野町9688ー24
Tel:099⁻247-2111
営業時間:8時30分~17時
定休日:月曜日、第3日曜日
ART DESHIMARU
試行錯誤して辿り着いた、黒の薩摩切子
「黒豚、黒牛、黒糖、黒酢、そして黒麹を使った本格焼酎。鹿児島は黒の文化が息づく土地です。だとしたら、黒い薩摩切子があってもよいのでは。そう考えたのが始まりです」
「美の匠 ガラス工芸 弟子丸」の代表で、切子師を名乗る弟子丸 努さんは、自身が手掛けた作品を前にそう語る。弟子丸さんは、島津家が中心となって進められた薩摩切子復興事業に当初から関わり、薩摩切子が出来上がるまでのプロセスを当事者としてつぶさに見てきた。その貴重な体験を活かし、自らの技術を磨きながら、2011年に「美の匠 ガラス工芸 弟子丸」を立ち上げた。
黒い薩摩切子を弟子丸さんは「霧島切子」と命名した。工房の所在地が霧島であることもさることながら、黒という色が持つ深みは、神々が住まうといわれてきた聖なる山、霧島にも通じると考えたからだ。漆黒にも近い黒は、薩摩切子独特の重厚感と相まって、荘厳な趣を作品にもたらしている。
「霧島切子」と名付けられた、黒の薩摩切子。黒と透明ガラスのモノトーンの世界は、静謐にして荘厳。
「黒いガラスをカッティングするのは、高度な技術が求められます。なぜならば、黒色は光を通さないので、カットする際に刃がどの深さまで入っているか、目で見えないのです。カッティングの要は、どこまで彫り込むかをミリ単位で調節すること。刃が見えないので、手先の感覚で彫っていくしかありません」
試行錯誤して辿り着いた黒の薩摩切子は、弟子丸さんの代名詞ともなった。
悠久の歴史の重みを感じさせる黒と、どこまでも透明なクリスタル。そこに彫り込まれた弟子丸さんならではの独自のカッティング。しんと静まり返った、静謐という言葉が相応しい、気高さが薫る作品だ。また、「霧島切子」には、まったく色を被せず、無色透明なクルスタルの輝きと、そこに施された精緻なカッティングを味わう作品もある。
「霧島切子」には、無色透明なクリスタルに刻み込まれた高度なカッティングが生みだす、美しい文様を味わうシリーズもある。
もちろん、伝統的な「薩摩切子」も弟子丸さんは数多く手がける。修業時代に培ったオーソドックスなカッティングに、独自の技法を組み合わせることによって生まれた文様は、「薩摩切子」ならではの「ぼかし」によるグラデーションと相まって、独特の美しさを醸し出している。さらに、製作の過程で生じてしまうガラス廃材を利用し、ペンダントトップやさまざまなアクセサリーに再生した「eco KIRI」 や、カッティングを施したステンドグラスからの透過光を室内で味わう「fusion」など、弟子丸さんは、これまでの「薩摩切子」の概念にとらわれない、新たな試みに絶えず挑戦している。
右から、繁盛升・150,000円、ハイボールタンブラー彩雲・230,000円、天開タンブラー極黒・110,000円(いずれも税別)
彩も鮮やかな作品が並ぶショップ。さまざまなカッティング技法を見比べるのも楽しい。
体験工房でアクセサリーやグラスなどのカッティングに挑戦
弟子丸さんを中心とした「美の匠 ガラス工芸 弟子丸」のスタッフが手掛けた作品のショップが「ART DESHIMARU」である。店内は「霧島切子」をはじめ、「薩摩切子」「eco KIRI」など、さまざまな作品が並ぶ楽しいスペースとなっている。「ART DESHIMARU」では、カッティングの体験も行われている。作ることができるのは、アクセサリーからタンブラーまでさまざま。
グレーと赤とのコントラストが印象的な「ART DESHIMARU」のたたずまい。
瀟洒なショップには、「霧島切子」をはじめ、さまざまなラインの作品が並ぶ。
ショップに併設された体験工房では、所定の料金を払い、アクセサリーやタンブラーなど、さまざまなタイプの切子に挑戦することができる。
アクセサリーに挑戦してみた。コイン状のブルーのガラス片を両手で持ち、高速で回転するダイヤモンドホイールと呼ばれるカット工具に、恐る恐る押し当てる。ギーンという金属音とともに、削られた部分の奥にある透明ガラスが白いラインとなって現れる。縦横斜めと、均等の放射線を4本入れようとするも、線の長さや間隔が揃わず、無様な放射線となってしまった。削る深さが均一でないために、ラインそのものの幅も異なっている。
カッティングを実際に体験し、切子の製作がいかに高度な技術を必要とするか、改めて実感した。
「炉火純青」を座右の銘として
「中国には『炉火純青』という言葉があります。炉の炎が青くなった時にもっとも温度が高くなることから転じ、学問や技芸が最高の粋に達することを意味します。この言葉を常に心に抱き続け、新しい煌めきを生み出したいと思います」
切子師、弟子丸さんの切磋琢磨は今日も続く。
薩摩切子の製作に40年近く携わり続けてきた弟子丸さん。まさに切子師と呼ぶにふさわしい。
ART DESHIMARU
鹿児島県霧島市隼人町小浜1817⁻1⁻2
Tel:0995⁻73ー4747
営業時間:10時~18時
定休日:木曜日
豊かな自然と、そこで暮らす人々の知恵が結びついたとき、その土地にはさまざまな「宝」が生まれる。鹿児島県の各地で生まれ、光り輝く数々の「宝」。それらは今や、世界が注目する存在になりつつある。
そんな鹿児島の宝を巡る旅は、これからも続く。これまでの「南の宝箱 鹿児島を巡る旅」は以下から。
Photography by Azusa Todoroki(Bowpluskyoto)
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鹿児島の「宝」を巡る旅
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グルメ最前線 トップレストランを探訪する
2025.10.25
大阪・関西万博「EARTH MART」in「飛鳥Ⅱ」レポート 日本の新しい食を生み出す前例なき交差点
国内外から選ばれた「食の未来を輝かせる25人」。
大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「EARTH MART」のフィナーレが、大阪港を出港するクルーズ船「飛鳥Ⅱ」内にて、開催された。
食に関わる200名が集結
総合プロデューサー小山薫堂のもと、食の未来を語り明かすべく、料理人、生産者、研究者、経営者、投資家、ジャーナリストなど200名が一堂に会した。
「そもそも大阪・関西万博『EARTH MART』の企画を始めたのは今から5年前、ただの埋立地だった会場予定地に立ちました」
小山は語る。
「そのフィナーレとして、食に関わる分野の異なる人々が、船の上で1泊2日を過ごします。この場所で、新たに出会い、未来に向かって新たな種を蒔く。そこにこそ最大の意義があります」
確かに、食を取り巻く異業種の人々がこれほど参集するのは、まさに空前の画期的な試みである。ちなみに、「飛鳥Ⅱ」は郵船クルーズによる貸し切り提供だ。
「食の未来を輝かせる25人」を選出
当イベントの目玉は3つ。1つ目が、「食の未来を輝かせる25人」を国内外から選出したことだ。
その一部を紹介すれば、「飯田商店」の飯田将太(神奈川県・湯河原町)、「リージョナルフィッシュ株式会社」の梅川忠典(京都市)、「タネト」店主の奥津爾(長崎県雲仙市)、「FARO」シェフパティシエの加藤峰子(東京・銀座)、「味の素株式会社 食品研究所」の川崎寛也(神奈川県川崎市)、「里山十帖」料理長の桑木野恵子(新潟県南魚沼市)、「MAZ」ヘッドシェフのサンティアゴ・フェルナンデス(東京・紀尾井町)、「北三陸ファクトリー」の下苧坪之典(岩手県・洋野町)、「サスエ前田魚店」の前田尚毅(静岡県焼津市)、「中央葡萄酒株式会社」の三澤彩奈(山梨県・勝沼町)、「ESqUISSE」のリオネル・ベカ(東京・銀座)……らである。
2つ目は、その25人が12組に分かれて、「食の未来会議」でトークセッションを行ったことだ。
RED U-35のシェフ6人と監修した落合シェフ(中央)。
RED U-35のグランプリシェフたちによる饗宴
そして最後に、2013年から開催している新時代の若き才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティションである「RED U-35 (RYORININ‘s EMERGING DREAM U-35)」で、過去にグランプリを受賞した10名のうち6名が、200名の招待客にコースディナーを提供してくれたことである。
そのシェフたちを列挙すると、福岡市「Restaurant Sola」の吉武広樹、東京都「スーツァン レストラン 陳」の井上和豊、小松市「Auberge“eaufeu”」の糸井章太、山梨県「nôtori」の堀内浩平、京都市「日本料理 研野」の酒井研野、東京都「ESqUISSE」の山本結以の面々だ。
様式としてはフレンチ、日本、中国にまたがるシェフたちの料理を、1人1皿で合計7皿(山本がデザートも担当)の見事なコースに仕立てた。監修したのは「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」の落合務である。誰もが口々に歓びの声を上げた。
「スーツァン レストラン 陳」井上和豊による「発酵唐辛子と鮮魚の蒸しスープ」。
それに先んじたランチバイキングでは、ミシュラン2つ星の「ESqUISSE」リオネル・ベカの「見守る海 牡蠣水寒天ゼリー」、さらにはアジアベストパティシエで「FARO」の加藤峰子が金谷亘と共作した「薔薇と杏仁の錦玉羹」などが供されるという豪華さだった。
白熱のトークセッション
「食の未来会議」についてもう少し詳しく説明したい。先ほどの25名が、テーマを立てて基本的に1対1でトークセッションを行う。同じ時間帯に4つの分科会が同時進行しそれが3セットなので、梯子をすれば別だが、基本的には3つしか傍聴できないシステムだ。
どのセッションも魅力的で、選ぶのは困難だったが、筆者が参加したセッションはいずれも素晴らしかった。
「Oishii Farm」古賀大貴×「北三陸ファクトリー」の下苧坪之典のセッション。
そのうちから2つを紹介すると、まず、「Oishii Farm」古賀大貴×「北三陸ファクトリー」の下苧坪之典のセッションで、テーマは「日本発『食のGAFAM』は生まれるか」。古賀はニューヨーク近郊で日本のイチゴを工場生産している。
「ハチによる受粉がなければ不可能と言われた、イチゴ、トマトなどを新しい技術で作っています」(古賀)
空輸したイチゴを試食したが、実に甘く豊かに広がる味がした。未来においてはあらゆる作物が栽培可能になると予告する。どんな条件下でも無農薬で美味しい農産物が作れるから、食糧難を解決する革命的な植物工場と言える。
「ウニは海藻を食い尽くし、磯焼けを引き起こす海のギャングです。また、海産物には『2048年問題』というものがあって、海に対して何も施さなければ、その頃には、海産物が食べられなくなってしまうと予測されています。それを養殖の割合を増やすことで解決したい。ウニの再生養殖から始めてみようと考えました」(下苧坪)
寿司が食べられなくなる時代は確実にやって来る。それは、魚が卵を産み付ける海藻がなくなってしまうからだ。それを止めるための一つの方策が陸上での再生養殖の技術なのである。
「人々は野菜や肉には関心を示すが、海の危機に対してあまりに無関心であることが最大の問題です。現在日本の天然8割・養殖2割、この割合を変えていかなければなりません」
「味の素株式会社 食品研究所」川崎寛也×ジャーナリスト・仲山今日子のセッション。
フェラン・アドリアとの対峙
もう一つは、「味の素株式会社 食品研究所」川崎寛也×ジャーナリスト・仲山今日子で、テーマは「食は『消えるアート?』『再現可能なデザイン?』本物のおいしさを継承するために必要なこと」。
世界の料理を変えたスペイン「エル・ブジ」のフェラン・アドリアが日本料理について本を書いているという。セッションでは、日本料理の本質を知ってもらいたいと、彼のプロジェクトをサポートする仲山が、フェランを味の素の研究所に連れてきた際に、川崎に引き合わせたエピソードを披露した。
「フェランはとても影響のある人。ほんまに理解して日本料理のことを発信してもらわなあかん」
と川崎は思い、様々な質問に対して丁寧に答えるのだが、
「フェランの質問は、基本的に西洋社会のルールに当てはまるか、なんです。日本料理を本当の意味で理解しようとしているようには思えなかった。拙速に、『日本料理を確立したのは誰なのか?』とか『その文献はあるのか?』と矢継ぎ早に。日本料理は文章に残すものではなく、あえて技術は秘密にしておくことが重要だったので、明確に記述されたものはほぼないのです。彼らの概念ではなく、こっち側の論理で理解して欲しい」
川崎はそう語った。
仲山も、「明文化されていない文化は消えてしまう。日本料理を美意識や文化も含めて文字で残して行くべき」と持論を展開し、さらには会場の参加者も巻き込んだ議論にまで発展した。
ある意味、衝突とも見えた二人の激論は、本対談中の白眉だった。とはいえ、両者は共に最後の未来に残す言葉として、「日本料理の言語化されない部分に着目するべき」と総括した。
小山薫堂によれば、「衝突こそが新しい進歩を生む」のである。
中田英寿がオーガナイズした日本酒が振る舞われた。
平原綾香のパフォーマンス
また、最上階では、中田英寿がオーガナイザーとなり、秋田県の「新政」、三重県の「而今」、栃木県の「仙禽」、熊本県の「産土」、京都府の「日日」の各種日本酒が、ディナー前に振る舞われた。
アフターパーティでは、フルコースディナーで満腹状態の平原綾香がパワフルな歌声を夜のしじまに響かせた。
平原綾香の歌声が海上に響きわたった。
2日目、下船前の朝食もまた印象的なものだった。新米「晴天の霹靂」の白米に、目玉は、サスエ前田魚店の自家製イワシの干物と、里山十帖の桑木野による山菜汁が供された。フィナーレを締め括るに余りあるほど美味しい朝食だった。
このイベントが数年に一度は開催されることを切に願いたい。 (文中・敬称略)
Toshizumi Ishibashi
「クレア」「クレア・トラベラー」元編集長
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旅館の矜持 THE RYOKAN COLLECTIONの世界
2025.10.27
新潟「旅館ホテルryugon」井口智裕社長 日本の地方が生きる道を地域全体で実践!
レセプション前の和の空間と井口社長。建物は文政年代のもので、国の重要文化財に指定されている。大きな赤いソファは地域の雪をモチーフにしたもの。
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「ザ・リョカンコレクション」に加盟する旅館の女将や支配人を紹介する連載「旅館の矜持」。今回は「ryugon(龍言)」の社長・井口智裕氏を紹介する。
その宿は上越新幹線の越後湯沢駅から車で30分、上越線の六日町駅からは車で4分ほどの距離にある。東京駅で新幹線に乗れば、たった2時間以内に到着できる。新潟県南魚沼市で異彩を放つ「旅館ホテルryugon(龍言)」は、幕末期の古民家を移築した木造建築の宿だ。
居心地の良い広大なラウンジに感嘆
外観は木造と白壁のコントラストが見事で、その美しさに目を奪われる。誰もが感嘆するのは、レセプション前から、何室にもわたって奥へ奥へと広がるラウンジだ。
「日本の旅館にこうしたラウンジはどこにもないですよね。だからこそ価値があると思って造りました。念頭にあったのは、特に海外のお客さんにくつろいでもらえることでした」
と語るのは「ryugon」の井口智裕社長である。
「旅慣れた外国のお客さんや日本の方が、ここで本を読んでくれていたりすると、狙いにハマってくれたと嬉しくなりますね」
囲炉裏ラウンジにて。秋から春までは火がともされる。丸いクッションも雪のイメージだ。
囲炉裏を囲む一画があり、バーカウンターがあり、趣味の良い本を揃えた図書室があったりする。しかも、アーティスティックな椅子もあれば、昔ながらの座椅子もあり、テーブルもソファも多種多様だ。中にはカップルが座るのに最適な、かまくら型のソファもある。
それでいて雑多な印象はない。窓から見える景色が変わるから、気分も変わる。実際に、夕食が済んだ後に、このラウンジでまったりと過ごす宿泊客が多いのは印象的だった。部屋に帰るよりも、居座りたくなるのだろう。
この部屋も文政年代のもの。しっとりと落ち着くラウンジだ。
重要なのは地域全体のボトムアップ
井口社長が街と宿の関係について語る。
「『ryugon』がある南魚沼市の六日町は、観光客が来るような街じゃありません。宿の外を散歩すれば綺麗な田んぼの風景があって農作業をしている人たちがいる。田舎の日常の暮らしが感じられる土地です。宿から街の中心部も近いので、地元の人が行く居酒屋でご飯を食べるとか、そういう楽しみ方もできます。一方で、坂戸山の裾野に宿はありますから、自然も充分に感じられます。ここは街と自然の両方が堪能できる絶妙な位置なんですね」
確かに、客室やラウンジなど宿の至るところで、山の緑が目前まで迫ってくる。
ヴィラへと続く雪国伝統の雁木(がんぎ)の廊下と池。画面奥の緑は、もう山の裾野だ。
社長は続ける。
「私が望むのは連泊してもらうことです。1泊では、とても地域の文化は分からないからです。この宿に滞在しながら、地域の文化や暮らしを楽しんで欲しいのです。地元の人と触れ合う、そうすることで初めて、文化としての重みを感じることができるのではないでしょうか。連泊すれば、今日の晩御飯は街で食べて、宿に帰ってきて、バーは12時までやっていますから、軽食を食べながら一杯やる。あるいは今日の夜は軽くそばでいいとか、カレーライスでいいとか、ビーフサンドにするとか。そのために館内フードメニューがあるんです。もちろん、ルームサービスでもご利用できます。
そんな風に宿を使ってもらいたいですね。宿はあくまでも街全体を楽しんでもらうための拠点基地にすぎません」
ちなみに、宿泊しなくともラウンジ利用と入浴ができるプランもある。なにしろ、思いつく限りのサービスが用意してある。
宿をリピートする3つの条件
思考はさらに深化してゆく。
「‶地元にいいお店があれば、宿の稼働率は上がる″というのが僕の‶思想″です。自分のところでも料理は頑張りますが、地元にいいレストランが増えることのほうが楽しい。宿を拠点にして2泊3泊したくなりますよね。
僕は世界中を旅行しているので、行きたくなる場所には必ずと言っていいほど‶必勝の法則″があります。
1に泊まりたくなるような宿があり、2に体験したくなるようなアクティビティがあって、最後はいい食文化があること。この3つが掛け算となって、魅力を生み出す。条件が1個でも欠けると、人はリピートしないんじゃないでしょうか」
「ryugon」が多彩なアクティビティを提案するのもそのためだ。恐るべき数のメニューがある。
山菜狩り・きのこ狩り、田んぼを自転車で走るポタリング、坂戸山トレッキング、まちぶらツアー、冬ならば雪かき体験や雪上のガストロノミーや雪原スノーピクニック、施設内なら土間クッキング、煎餅焼き体験、土鍋ごはんで作る絶品おにぎり体験……まだまだ続く。
ちなみに、10台ある電動アシスト自転車はBESV(ベスビー)という台湾製で、連続で90kmの走行が可能だそうだ。どこにでも行けちゃう。
軽トラックをレンタルして野山を走るプログラムもある。
「僕らがアメリカに行ったらピックアップトラックをレンタルして砂漠を走りたいとか、ハワイに行ったらオープンカーに乗りたいという発想と同じです。20代の女子が麦わら帽子をかぶって、軽トラで田んぼ道を運転したら、インスタ映えしませんか」
これはイケてるかも。
玄関前に立つ井口社長。木造と白壁のコントラストが美しい。
宿とは‶思想〟の集積である
井口氏がここに至るには、実は、積み重ねた思考の長い歴史があった。
宿の原型である「温泉旅館 龍言」は、1960年代に出来た。建物は幕末時代に建てられた地元六日町の豪農の館や武家屋敷を移築したものだ。大小16の家の集合体で、本館は重要文化財に指定されている。その経営が井口社長に譲渡されたことを機に、リニューアルが施され、現在の姿になった。それが2019年のことだ。
「私は17年前の2008年から『雪国観光圏』という活動してきました。課題は、地域固有の雪国文化をどうやって地域に根付かせるかでした。ですから、『龍言』をリニューアルする際に主眼を置いたのは、この地域の文化や暮らしを宿の中で表現することです。
日本の文化を体験しながら、ある程度は高品質な時間を過ごしつつ長期滞在できるということ。そのためには、ただ古い建物だけじゃダメですから、現代の快適性も入れ込みました。
目指したのは、フランス・ブルゴーニュ地方のワイナリーのシャトーに1週間連泊するような旅のリテラシーを持った人が、居心地が良いと感じられる宿です。宿というのは、一つ一つの思想の集積なんですね」
門を壊し、地域になじませる
「この土地に高級旅館を造ったという感覚はあまりありません。第一、旅館は門構えが立派で、そこから先は宿泊者しか入れないような‶結界″を感じさせますよね。だから、まず、その立派な門を壊して、名前も『龍言』から『ryugon』に変えました。そうすることで、格式を取っ払って、地域になじませたかったのです。
だから、ここはいわゆる高級旅館ではありません。旅館ホテルなのです」
門を入ってすぐ左手にあるryugon cafeの横で。中は土間スペースになっている。
門をくぐるとすぐ左手にカフェがあり、右手には地元の品々を揃えたかなり大きなセレクトショップを配したのも、人が敷居を越えやすくするためなのだろう。
「日本人は敷地内だけで完結するいい旅館を求めていますよね。だけど、海外から日本のローカルを味わいに来た人にとっては、別にとびきり高級な旅館である必要はありません。4スターぐらいでいいのです。彼らは旅のプロセスがどうあるかを優先させていますから」
そうは言っても、客室は居心地が抜群に良かった。部屋の価格はクラシックルームの2万円余から、新築したヴィラ・スイートの20万円と幅広いところから選択できる。
ヴィラ・スイートのテラスに備わった露天風呂。目の前に雪があったら最高だろう。
「雪国文化」とは何か
では、さきほどから出てくる「雪国文化」とは何なのか。
「雪国文化って言うと、古い建物だとか茅葺屋根とか藁細工とかを想起しやすいですよね。それだと過去の継承のままで終わってしまう。文化というのは、過去・現在・未来の文脈の中にあると思うのです。僕らは雪とともに生きてきたので、そこで育まれた暮らしの知恵みたいなものを、未来に向けて表現したい。例えば、赤い円形の大きなソファや囲炉裏の周囲にある丸いクッションは、この地域の湿度がある重たく丸い雪を表現しているものです。ライブラリーの横にあるソファも、かまくらのイメージです。それらはすべて特注の家具です」
いちばん奥にあるラウンジ「図書室」から眺める雪景色。
「雪国観光圏」構想とは何なのか?
「そもそもは新幹線が金沢まで延伸する2014年問題がやって来るということがきっかけでした。それまでは越後湯沢から金沢までは特急だったのですが、新幹線が金沢まで伸びたら、われわれのような途中の街はどうすればいいのか。それで、新潟や群馬などの7町村の有志が集まって雪国観光圏を作ったのです。要は、エリア全体で金沢に匹敵するようなブランドを創らなきゃいけないということでした。
その核心部分はやはり雪国文化なんですね。同じ新潟県からは『里山十帖』の岩佐社長、群馬県みなかみ村からは『仙寿庵』の久保社長なども参加しています。僕らは宿ですから、施設に雪国文化をいかに落とし込むかをずっと考えてきたわけです」
井口氏の雄弁さは17年間に及ぶ思考の帰結だ。
冬の稼働率は、何とほぼ100%!
従って、冬がいちばん分かりやすいのだそうだ。
「1階部分は完全に埋まってしまって2階まで雪が積もる。赤ワインを片手に雪を眺めながらボーッと過ごすのがいい。雪そのものに価値があるわけです。冬の稼働率はほぼ100%ですから、お客様も冬の良さを感じていらっしゃるんです。なんか居心地がいいんだよねーってことでしょうね」
ほかに、提案するものは?
「新潟と言いますと、米と酒のイメージしかないでしょう。スキーなら長野県のほうがいいよねと思われちゃうし。世界遺産があるわけでも、名所旧跡があるわけでもない。南魚沼は日本の地方のどこにでもあるような街なのです。そこで、地域の文化に根ざした格好をつけない丁寧な旅を提案したいのです。名物料理なんかないけれども、冬の料理には雪国文化が詰まっています」
しかし、食事も相当なものだ。「雪国ガストロノミー」なるフルコースは地域の食材に溢れていてとても良かった。
「もちろん、お客さんが求められるレベルのものはお出ししています。一年でメニューは5回変わりますが、3泊ぐらいでしたら、全部のメニューを替えられます。何ならビーガンやベジタリアン対応も100%できます。当日に言われても対応できます。メニュー開発はずっとやっていますから、ビーガンで3泊分も問題なく出せます」
コースの〆に出される炊き立ての魚沼産コシヒカリ塩沢地区限定一等米とけんちん汁。このご飯の甘さ、ねばり、粒立ち、その美味しさと言ったら経験したことがないほどだ。地方の野菜で作ったけんちん汁も凄まじく美味しい。
いちばん食べて欲しいものは、春先の山菜だそうだ。
「山菜の存在を、世界に向けて発信したいですね」
印象深かったのは、朝食のバイキングでご飯をよそってくれる地元のおばちゃんスタッフの言動だ。日本語をまったく解さない白人に向かって、「ご飯はどうする?」「もう少し入れるが?」「味噌汁はどお?」と普通に話しかけていた。こういう触れ合い方は、最高に素晴らしいと思う。
地域が持つ絶対的な価値に紐づいた宿
井口社長の発想は相当に珍しい。というか、宿を街との関係性の中で捉えているところがまったく斬新だ。
そもそも、どういう経歴の人なのか?
「もともとは越後湯沢駅前にある旅館『越後湯澤 HATAGO 井仙』の4代目です。地元の高校を卒業してアメリカの大学に留学しました。ワシントン州のスポケーンにあるイースタン・ワシントン大学の経営学部でマーケティングを専攻しました」
そのままMBAを取ろうと思ったが、社会経験がないことに気づき、実家に戻る。
「当時の実家は駅前の温泉旅館で『湯沢ビューホテル井仙』という名称でした。1泊1万円ぐらい。経営が大変だったので、立て直す必要があり、2005年に『越後湯澤 HATAGO 井仙』としてリニューアルオープンしました。
そんなことをしているうちに、湯沢という土地そのものをリブランドしなきゃダメだと思い始めた。湯沢はスキーと温泉というイメージが強すぎるから、スキー以外の時期は困ってしまう。そこで、17年前に雪国観光圏を自分で立ち上げて、取り組んできました。その経緯の中で、『ryugon』をリニューアルした話につながります」
井口社長はこう締めくくる。
「高級旅館だけだったらライバルはいくらでもいるし、お客さんにしてみれば、ウチじゃなくてもいい。ならば、雪国文化というブルーオーシャンで戦いたい。
旅館単体だったらすぐに負けちゃう。でも、地域というものは、他の地域が真似したくともできません。地域が持つ絶対的な価値に紐づいた宿を造れば、とても強固なものになります。この戦いを宿一軒だけで取り組むのならば勝負になりませんが、私たちは地域全体としてそれをやっているのです。他の旅館さんも関連する飲食店さんもそうです。
そこにこそ日本の地方の生きる道があると考えています」
井口智裕(いぐちともひろ)
1973年新潟県南魚沼郡湯沢町生まれ。Eastern Washington University経営学部マーケティング科卒業。旅館の4代目として家業を継ぎ、2005年「越後湯澤HATAGO井仙」をリニューアル。2008年に周辺7市町村で構成する「雪国観光圏」をプランナーとして立ち上げ、運営に尽力し、観光庁の観光産業検討会議の委員も務める。2013年一般社団法人雪国観光圏を設立し、代表理事に就任。観光品質基準、人材教育、CSR事業など広域観光圏事業を中核的に推進している。著書に『ユキマロゲ経営理論(2013年、柏艪舎)』。
構成/執筆:石橋俊澄 Toshizumi Ishibashi
「クレア・トラベラー」「クレア」の元編集長。現在、フリーのエディター兼ライターであり、Premium Japan編集部コントリビューティングエディターとして活動している。
photo by Toshiyuki Furuya
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静岡市立芹沢銈介美術館で開催「型紙 美しい染物への約束」
2025.10.24
人間国宝・芹沢銈介 生誕130年記念展
「いろは文字文帯地」1958
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型絵染の人間国宝・芹沢銈介の生誕130年を記念して、静岡市立芹沢銈介美術館にて記念展「型紙 美しい染物への約束」が開催中。会期は12月7日日まで。
芹沢銈介は、生涯の師である柳宗悦と、沖縄の染物・紅型びんがたとの出会いをきっかけに染色の道を進み、独自の色彩感覚とデザインで数々の名作を生み出した。
左「鯛泳ぐ文着物」1964 右「鯛泳ぐ文着物」の型紙東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館蔵
左「いろは文字文帯地」1958右「いろは文字文帯地」の型紙東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館蔵
型染とは、渋紙を彫りぬいた型紙と防染糊を使う間接的な染色技法で、芹沢は作品そのものに加え、彫った型紙の美しさも高く評価されていた。本展では、東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館が所蔵する型紙を中心に、彼の言葉「よき型紙は美しい染物を約束する。そしてそれ自身美しい」を体現する作品群を紹介している。
芹沢銈介の家内部
国内では珍しい染色作家の美術館である芹沢銈介美術館は、およそ1,300点の芹沢銈介作品のほか、工芸品の収集家でもある芹沢のコレクション4,500点を所蔵。また併設の「芹沢銈介の家」毎週日曜・祝日のみ公開には世界各地の工芸品が展示され、芹沢の暮らしと美意識を体感できる空間となっている。
「布文字春夏秋冬二曲屏風」の型紙(1965)
完成した型染め作品とは異なる美しさを宿す型紙。時を経てもなお、“美の原点”として静かに輝き続けるその魅力に触れてみてはいかがだろうか。
◆芹沢銈介 生誕130年記念展「型紙 美しい染物への約束」
【会期】開催中2025年12月7日日
【会場】静岡市立芹沢銈介美術館静岡県静岡市駿河区登呂5-10-5
【観覧料】一般420円、高大生260円、小中学生100円
※未就学児無料
【休館日】毎週月曜日11/3、11/24は開館、11/4、11/25
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鹿児島の「宝」を巡る旅
2025.10.23
注目の自然派コスメを生み出す、鹿児島のボタニカルガーデンと工房を訪ねて
鹿児島のボタニカルガーデンで栽培されている何種類ものハーブが、自然派コスメの原料となる。写真は「ヴィーナスターオーガニクス」が手掛ける、ダマスクローズや月桃などを用いた化粧水など。(価格等の詳細は後述)
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温暖な気候と豊かな自然が残る鹿児島は、ハーブや花々を栽培するボタニカルガーデン(植物園)が多い。自社農園で栽培したハーブなどを用いてナチュラルコスメやアロマオイルなどを作る工房も幾つか存在する。なかには、自社ブランドのみならず、大手コスメメーカーから委託を受けて生産し原料を提供する、いわゆる「OEM」を行っている工房も。つまり、それだけ鹿児島で作られる製品のクオリティが高いということに他ならない。今回の「南の宝箱 鹿児島」を巡る旅では、こうした自然派コスメに携わる「開聞山麓香料園」「ヴィーナスターオーガニクス」そして「ボタニカルファクトリー」の3つの工房や自社農園に足を運んだ。
開聞山麓香料園
80年以上の歴史を持つ、日本で最初のハーブ園
薩摩半島の南端に位置し、美しい稜線を見せる開聞岳(かいもんだけ)。薩摩富士とも称される優美な山の麓に広大なハーブ園を構えるのが「開聞山麓香料園」だ。開園は1941年。日本で最初のハーブ園といわれている。
ハーブ園の広さは、サッカーグランドのおよそ8面分以上に相当する約6ヘクタール。そこにレモングラス、ローズマリー、レモンユーカリ、ティーツリー、ローズゼラニウムなど50種類ほどのハーブが植えられている。なかでも特筆すべきは、1万本を超す芳樟(ほうしょう)の木だ。芳樟はクスノキ科の植物で台湾が原産地。葉にはリナロールという成分を多く含み、抽出されたリナロールがフルーティで甘い香りを発することから、「開聞山麓香料園」では、1947年からこの芳樟の栽培を始めている。
後方にずらりと並ぶ、薄い茶褐色の幹を持つ木が芳樟。なかには20mほどの高さになるものも。開聞岳がボタニカルガーデンを優しく見守る。
早速、副園長の宮崎利樹さんに園内を案内していただいた。道の両脇に高さ7~8mほどの木が立ち並ぶ。これが芳樟の木だ。
「匂いを試してみませんか」
宮崎さんが一枚の葉をちぎり、手渡してくれた。そっと嗅いでみる。甘く爽やかであると同時に、どこか懐かしさも感じさせる香気が仄かに立ち上る。樟(くす)から採れる樟脳の、ツンとした香りとはまったく異なる、どこまでも甘く爽やかな香りだ。
「この甘く爽やかな香りの素がリナロールで、私どもの工場が生産する芳樟精油の成分のうち80%がリナロールです。これほどリナロール含有率の高い植物由来の精油はなかなか他にはありません」
緑も鮮やかな芳樟の葉。爽やかと同時に柑橘系をも感じさせる複雑な香りを放つ。
1947年に台湾から芳樟が持ち込まれたことを契機に、南薩摩地方では芳樟の栽培が盛んになり、最盛期の1970年前後には、知覧や枕崎でも栽培がおこなわれ、年間5トンもの精油が抽出された。しかし、人工のリナロールが登場し、手間のかかる芳樟からの抽出は行われなくなっていた。
「ところが、近年は自然派志向が高まり、合成リナロールでなはく100%天然由来の精油が再び脚光を浴びるようになりました。そうした流れを受けて、『開聞山麓香料園』でも芳樟精油の抽出を再び始めるようになりました。現在では年間約20㎏の精油を生産しています」
農園の奥では、ちょうど芳樟の葉の収穫が行われていた。チェンソーで幹から伐り落とされた枝を一か所に集め、葉だけを手早く小枝から摘み取っていく。響くのはチェンソーのエンジン音だけ。屋外で黙々と行われる地道な作業だ。
チェンソーで刈り取った小枝から、葉を一枚一枚摘んでいく。精油作りはこうした地道な作業から始まる。
「1㎏の精油を抽出するのは100㎏の葉が必要となります」
宮崎さんのこの言葉を聞くと、精油を抽出するのがどれだけ大変な作業であることがよくわかる。しかも一度葉を収穫すると、次の収穫まで3~4年は間を置かなければならないとのこと。1万本もの芳樟は、ある意味では必要な本数だったのだ。
蒸留所では、春と秋に蒸留体験ツアーも実施
蒸留所にも案内していただいた。あいにく、蒸留の作業が行われていない時期だったが、所内に並ぶ3つの蒸留器は、なんとどれも創業時から使われているという年代もの。時代を感じさせる装置が、80年前と同じ精油を生み出しているかと思うと感慨深い。
蒸留所には、丹念にメンテナンスされた蒸留器が3台並ぶ。
園長を務める父の宮崎泰さんをサポートし、精油作りに邁進する宮崎利樹さん。
蒸留所の奥には、大きなフラスコなどが並ぶ、まるで理科実験室の様な部屋も設けられている。蒸留された精油を、この部屋で半年から1年ほどねかせ、香りを落ち着かせる。すべてが、極めて手のかかる完全な手作業で、ようやくひとつの商品ができあがる。
「開聞山麓香料園」のシグネチャーアイテムともいえる、「芳樟精油」。7ml、2,200円・3ml、1,000円(いずれも税込)
「芳樟精油」は、やわらかな甘さと清々しいグリーンの香りが調和した、心をほぐすような優しいアロマ。リラックス効果が期待できるため、ドライハーブに数滴垂らして香りを漂わせたり、アロマディフューザーで寝室を満たせば、一日の疲れを静かに癒してくれる。また、他の精油とブレンドすれば、自分だけのオリジナルアロマを楽しむこともできる。
農園で栽培した月桂樹、ローズマリー、オレガノ、タイムをブレンドした「ハーブの香りだし」。7パック入り、1,000円(税込)
「ハーブの香りだし」とは、ブーケガルニのこと。通常はパセリやタイム、ローリエなどを束ねて煮込み料理に加え、素材の臭みを抑えながら、深みのある香りを添えるものだ。この「ハーブの香りだし」は、開聞山麓香料園で育てられた月桂樹、ローズマリー、オレガノ、タイムの4種を贅沢に使用。シチューやロールキャベツ、スープなどのお鍋にひとつ入れるだけで、爽やかな香気がふわりと広がり、旨味をぐっと引き立ててくれる。いつもの家庭料理が、ひとさじの魔法でレストランの味に変わる──そんな上質な香りのひと包みだ。
匂い袋、お風呂用の香水、石けんなど、ショップにはオンラインでは販売していない園内限定のアイテムも並ぶ。
「開聞山麓香料園」では、芳樟をはじめ、レモンユーカリ、ローズマリーなどの精油、ハーブティや石鹸などの自社製品を併設のショップで販売。広大な農園を散策し、さまざまなハーブが栽培されている様子を実際に見学することもできる。また、定期的に開催される蒸留体験は、予約開始すぐに満席になる人気ぶりだ。80年という長きにわたり、自然派コスメの源流を培ってきた「開聞山麓香料園」。ぜひ足を運んでみたい。
開聞山麓香料園
鹿児島県指宿市開聞川尻5926
Tel:0993-32-3321
開園時間:9時~17時
定休日:火曜日
入園料:無料
ヴィ―ナスターオーガニクス
夫婦二人三脚で手掛ける、高品質の自然派コスメ
月桃、ローズマリー、レモングラス、ローズゼラニウム、レモンバーム……。10種類近くのハーブが植えられたガーデンで、自ら育てたハーブを愛おしそうに眺めるのは、永仮紗彩さん。夫の洋文さんと二人三脚で、「ヴィーナスターオーガニクス」ブランドのオーガニックコスメを手掛ける紗彩さんはカンボジア生まれ。洋文さんと結婚して日本に帰化し、永仮さんの故郷である鹿児島でハーブ栽培を始めた。
自宅兼工房前に設けられたハーブガーデンで、手塩にかけて育でたハーブを見つめる永仮紗彩さん。
ボタニカルガーデンで栽培されているさまざまなハーブ。右上から時計まわりに、レモングラス、ペパーミント、ティーツリー、月桃。
「カンボジアでは、ハーブが日常の食事や医療に深く溶け込んでいます。私自身も幼い頃からハーブに親しんできました。温暖な鹿児島もハーブ栽培には適した気候ですので、ここで何種類ものハーブを栽培し、人工的なものは何も加えない自然派コスメを多くの人にお届けしたいと思います」
自宅兼工房の周囲に設けたハーブガーデンの他に、約2,000坪ほどの農園を持ち、そこでも20種類ほどのハーブを栽培し、それを原料としたさまざまな自然派コスメが作られる。
「霧島は豊かな自然だけでなく、シラス台地が濾過したミネラルが豊富な天然温泉水に恵まれた土地です。雨も多いのでハーブが育ち、それを上質な水を用いて化粧水を作ると、肌に優しい素晴しい商品が出来上がります」
商品開発を担当する洋文さんがリコメンドしてくれたのは化粧水「ジャポニズムローション」シリーズ。ダマスクローズ、ジャスミン、月桃など5種類の商品は、いずれも霧島の天然水に、イチョウ葉エキスやワサビの葉エキスなど4種類の鹿児島産植物エキスを配合し、それぞれのハーブの香りを纏わせたもの。合成香料や合成着色料、鉱物油といったいわゆる人工化合物は一切含まれていない、文字通りの自然派コスメだ。
「ジャポニズムローション」シリーズの中から、「ダマスクローズ」を試してみた。手のひらに取ると、みずみずしくさらりとしたテクスチャーで、驚くほど甘く、華やかなダマスクローズの香りが立ちのぼる。頬や額にそっとなじませれば、潤いとバラの甘い香りで、気分まで上がるようだ。毎日のスキンケアで、この香りに触れるたび、肌だけでなく心までも満たしてくれる、そんな優雅なひとときをもたらしてくれるローションだ。
左から、ジャポニズムローション(ダマスクローズ)、ジャポニズムローション(月桃)いずれも200ml・3,520円(税込)ジャポニズム ツバキマルチオイル 、30ml・3,740円(税込)、ルームミスト(桜島小ミカン×霧島レモングラス)、30ml・1,980円(税込)
鹿児島産椿を用いた「ツバキマルチオイル」もおすすめ。椿油は古くから日本女性のスキンケア、ヘアケアに使われてきたもの。「ツバキマルチオイル」は、低温圧搾法にて圧搾した希少な椿油に、ダマスクバラ花エキス、ダマスクバラ花油、トウキンセンカ花エキス、カミツレ花エキスを配合したマルチオイル。スキンケア、ヘアケアはもちろん、頭皮ケア、爪のお手入れ、ボディオイルとしても優秀。ダマスクローズの香りが素晴らしいので、至福のケアを堪能できる。使い勝手のよいアイテムだ。
15種類のエッセンシャルオイルを80%以上使用した「ルームミスト」もラインナップは豊富。桜島小ミカンの果皮の精油と、霧島産レモングラス精油をブレンドしたルームミスト「桜島小ミカン×霧島レモングラス」は、爽やかさの中にミカンの甘さがあり、気温や湿度が高い時に使えば、リフレッシュ効果は抜群。
ドライハーブにすると、水分が抜けて成分が凝縮され、香りが強くなる。右奥から時計まわりに、バタフライピー、カレンデュラ、カモミール、ダマスクローズ。いすれも自家栽培したもの。
「ヴィーナスターオーガニクス」は自社製品だけでなく、抽出した原料を用いた自然派コスメの開発を、化粧品メーカーとともに行っている。また、さらに良質なものを目指し、来年に向けて自社コスメのリニューアルの検討も始まっている。
「肌に使うものは、新鮮なものではなくてはなりません。また、植物が持つ本来の力を最大限引き出すには、やはり新鮮な植物が必要となってきます。そのためには素材となる植物は自ら作る、あるいはできる限り近いところ、つまり鹿児島県産のものを使うのがベストだという結論に辿りつきました。」
桜島小ミカン、ティーツリー、タンカン、ヒノキ葉、レモンユーカリ、レモンバーベナ……。洋文さんが語るように、「ヴィーナスターオーガニクス」が手掛けるさまざまな原料は、いずれも自家栽培もしくは鹿児島県産から作られる。
高品質の精油を生み出す、ポルトガル製の銅の蒸溜器
工房には、精油や芳香蒸留水を生産する銅製の蒸留器が2台備わっている。「アランビック」と呼ばれるポルトガル産の蒸留器は、現地の銅職人が胴板から手作業で打ち出した伝統工芸品。
「ガラス製やステンレスに比べ、熱伝導率が高いために、植物の生臭さのもととなる硫黄系成分が除去され、高品質の精油や芳香蒸留水を抽出することができます」
2台の蒸留器並ぶ工房は、それほど広くはない。でも、この自宅裏に設けられた工房で、夫婦二人で丁寧に作られた数々の原料が、多くのコスメメーカーへと渡り商品となっていく。マニュファクチュール(家内制手工業)の原点がここにはある。
銅製の蒸留器が2台置かれた、こじんまりとした工房。銅イオンの殺菌効果により、保存期間の長い蒸留水を抽出することができる。
ヴィーナスターオーガニクス
お問合せメールアドレス:mail@venustar-organics.com
*現在、見学には対応していません。
ボタニカルファクトリー
大隅半島の大自然が育んだ、注目の自然派コスメ
温帯気候と亜熱帯気候が入り混じる鹿児島県の大隅半島。4,000種類以上の植物が群生する半島は、豊かな緑に覆われた自然豊かな地が広がる。この大隅半島の最南端に位置する南大隅町に本拠を置く化粧品メーカー「ボタニカルファクトリー」の製品や活動に、近年注目が集まっている。
4,000種類を超す植物が生い茂る大隅半島。「ボタニカルファクトリ―」の本社と工場のすぐ裏手も、濃い緑に覆われた景色が広がる。
「生まれたばかりの娘がかなり重いアトピー性皮膚炎となり、食事療法やさまざまなスキンケアを試したのですが、どれも効果はありませんでした」
「ボタニカルファクトリー」代表の黒木靖之さんが、ナチュラルコスメへ目を向けるきっかけとなったのは、自身の娘さんへの思いからだった。じつは黒木さんは、それ以前から化粧品の輸入販売などを手掛ける事業に携わり、化粧品に対する知識もある程度持っていた。
「自ら化粧品に携わっていながら、自分の娘のアトピーには何の役にも立っていない」
そんな思いを抱いた黒木さんは、肌に優しく、口に入れても安心な化粧品作りへと事業の方向を切り替えていった。
黒木さんが最初に取り組んだのは子どものための石けんとフェイスオイルだった。アトピーに効くとされたダチョウの油を用いた手作りの石けんとフェイスオイルが好評となり、2006年には故郷の南大隅町に工場を設立。
「大隅半島の豊かな自然を生かした、自然由来100%の成分にこだわり続けたいと思います」と、代表の黒木靖之さん。
「以前は気づきもしませんでしたが、南大隅という土地は、月桃をはじめさまざまなハーブが自生するという、アロマオイルを作る原料を入手するには最適の地なのです」
当初は、自生するハーブや自家栽培したレモングラスなどでアロマオイルを作り、それを石けんの香り付けに用いていたが、やがてアロマオイルや蒸留水を使ったスキンケア商品のラインナップが増え、2016年には「ボタニカルファクトリー」が誕生した。場所はもちろん南大隅だ。
廃校となっていた小学校と中学校の校舎をリノベーションして工場に
廃校となっていた小学校と中学校をリノベーション。それが南大隅の地に誕生した「ボタニカルファクトリー」の本社と工場だ。町の協力で借り受けた校舎は、町の人々にとっても思い出がつまった建物。その活用は、地域の人々にとっても嬉しい知らせとなった。それだけではない。町の特産物であるパッションフルーツの規格外品を買い取ってローションの原材料とし、工場は地元の女性やシニア層の働き場となるなど、「ボタニカルファクトリー」の存在は、地域活性化の大きな拠点となっている。
図書室だった部屋を改装し、ショールーム兼ワークスペースに。窓からは広がる大海原を見渡すことができる。
「ボタニカルファクトリー」が手掛ける化粧品のブランド名は「ボタニカノン」。植物の「ボタニカル」と、音楽用語の「カノン」を組み合わせた造語で、植物本来の成分や香りが、カノン(輪唱)のように重なって届いてくることがイメージされている。
地元産のパッションフルーツを用いたローションは、地元の農家から買い取った規格外のパッションフルーツを丸ごと活用。さらりとした付け心地ながらも、気が付くと肌がしっとりし、そのしっとり感は、やがてハリ弾力に変わる。また、南国の太陽を思わせるパッションフルーツ独特の爽やかな香りがほどよく残り、それはいつまでも、まさしくカノンのように嗅覚を心地よく覚醒させてくれる。
また、フェイスオイルはベタつかずさらりとしているにもかかわらず肌馴染みがよく、化粧水のブースターとしてオイルマッサージ後に化粧水を重ねることで、水分と油分とのバランスが整う。
右/シトラス スカルプ&ヘアローション、100ml・2,750円(税込) 左/パッションフルーツローション、100ml・1,650円(税込)
左/ホーリーバジル化粧水、150ml・2,420円(税込)右/フェイスオイルEX、30ml・3,410円(税込)
「こちらへどうぞ」
黒木さんに導かれるまま辿りついた場所。それはかつて校舎だった建物の屋上をルーフトップテラスに改装したスペースだった。きらめく鹿児島湾の大海原を挟み、開聞岳が優美な稜線を見せている。目を見張るような絶景だ。海から吹き抜ける風が心地よい。
「3年ほど前から、リトリートツアーを開催しています。ゲストの方々には、ヨガシークエンスや工場でのオーデコロン作り、その後は天気が良ければこのテラスでランチ、そしてメディテーションと、盛りだくさんのメニューを体験していただきます。最近では県外からお越しになる方も増えてきました」
錦江湾を一望するルーフトップテラスには、ソファが置かれ、流れる時間をゆったりと味わうことができる。
原料から生産までを一貫し、しかも天然成分由来を原料とした化粧品作りをほぼ実現させる一方で、「ボタニカルファクトリー」は、化粧品が出す有害なゴミを減らすために、容器は再生プラスチックへと徐々に移行させている。
「私たちは大手メーカが行っている大量生産、大量消費とは距離を置いています。もともと、それができるような規模でもありません。ですので、現在の体制をベースに、鹿児島という地の利を生かし、今まで以上に地元に密着した自然派化粧品作りを目指しています」
「ボタニカルファクトリー」は、海を挟んだ対岸の「開聞山麓香料園」から原料の一部を仕入れている。大隅半島と薩摩半島、二つの半島の間で原料がやりとりされているのだ。また、南大隅町には国の指定史跡の「佐多旧薬園」がある。これは薩摩藩が薬草を採取していた場所。黒木さんの言葉が物語るように、ハーブ栽培に関する独自の歴史を持ち、ハーブを介した工房間の交流が行われている鹿児島は、自然派化粧品づくりには格好の土地といえよう。
ボタニカルファクトリー
鹿児島県肝属郡南大隅町根占辺田3222(旧登尾中学校)
Tel:0994-24-3008
豊かな自然と、そこで暮らす人々の知恵が結びついたとき、その土地にはさまざまな「宝」が生まれる。鹿児島県の各地で生まれ、光り輝く数々の「宝」。それらは今や、世界が注目する存在になりつつある。
そんな鹿児島の宝を巡る旅は、これからも続く。これまでの「南の宝箱 鹿児島を巡る旅」は以下から。
Photography by Azusa Todoroki(Bowpluskyoto)
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鹿児島の「宝」を巡る旅
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投稿 注目の自然派コスメを生み出す、鹿児島のボタニカルガーデンと工房を訪ねて は Premium Japan に最初に表示されました。
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