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鹿児島の「宝」を巡る旅
2025.4.4
日本一の荒茶生産地鹿児島で、海外を見据えた挑戦を続ける「池田製茶」と「鹿児島堀口製茶」
美しい緑が続く、南薩地方の茶畑。背後に聳える美しい稜線の山は、薩摩富士とも呼ばれる開聞岳。
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豊かな自然と、そこで暮らす人々の知恵が結びついたとき、その土地にはさまざまな「宝」が生まれる。鹿児島県の各地で生まれ、光り輝く数々の「宝」。それらは今や、世界が注目する存在になりつつある。
「南の宝箱 鹿児島」を巡る旅。今回は荒茶生産量で2024年度に日本一となった鹿児島県で、とりわけ注目を集める2つの製茶舗、「池田製茶」と「鹿児島堀口製茶」を訪ねた。また、クラフトビールのひとつとして試みた「抹茶ビール」が好評な、鹿児島市内のバーを紹介する。
2024年度、鹿児島県が荒茶生産量でついに日本一を達成
2025年2月、嬉しいニュースが鹿児島県に飛び込んできた。2024年度の荒茶の生産量で、ついに鹿児島県が静岡県を抜いて全国一位になったと、農林水産省が発表したのだ。荒茶とは、茶畑で摘んだ茶葉を加工したもので、いわばお茶の一次加工品。
荒茶の生産量が日本一となったことは、鹿児島県が日本一の茶処となったことを物語っている、と言っても過言ではない。また、世界的な抹茶ブームが示すように、日本産の、とりわけ鹿児島産のお茶が世界で広まりつつある。今回訪ねた「池田製茶」と「鹿児島堀口製茶」は、荒茶生産量日本一と鹿児島産のお茶の世界進出の両方に、大きな枠割を果たしている製茶舗といえるだろう。
池田製茶
「茶師十段」の称号を持つ、茶葉の目利きが仕上げる極上の茶
「池田製茶」の池田研太さんが茶葉のテイスティングを行っている。テーブルは、煎茶や碾茶(てんちゃ)など、さまざまな種類の茶葉が用意されている。慣れた手つきでテイスティングを進めながら、池田さんは語る。
「茶葉の優劣を決めるポイントは形状、色沢、香気、水色、滋味の5つです。同じ煎茶でも、浅蒸しか深蒸しかでまったく味わいは違います。また、茶葉そのものも、同じ種類であっても県内の生産地によって味は変わってきます。それを見極めてこそ、品質の高いお茶が出来上がります」
テイスティングを行う池田さん。JR九州が運行するクルーズトレイン「ななつ星」車内でも茶室を担当。スイートのゲストは池田さんが淹れる、極上の茶を味わうことができる。
池田さんが丁寧に淹れた3種類の茶は、確かに香り、色、味すべてが違い、それぞれが特徴を持っていた。日本茶の世界の奥深さが垣間見えた瞬間だった。
池田さんは、「池田製茶」の社長のほか、茶師十段の肩書を持つ。茶師十段とは、「全国茶審査技術競技大会」の結果をもとに授与される、茶審査鑑定技術における最高位の称号で、この制度が開始されてからのおよそ70年の歴史のなかで、若干名しか取得者が出現していない、極めて取得が難易な称号である。
中央の皿に入っているのが、高級抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)。しっとりとした柔らかな茶葉は、一番茶ならではの風合い。
テイスティングの際には、100度近い湯を注ぐことが基本とのこと。茶葉の違いで、水色も大きく異なるのが、一目瞭然。
目利き、ブレンド、焙煎。おいしさを決める3つプロセスに関わるのが「茶師」
「池田製茶」は自前の茶畑を持たず、鹿児島県各地の生産者から茶葉を目利きして仕入れ、ブレンド、焙煎まで手掛ける製茶舗だ。「目利き」に始まり、茶師十段の池田さんの卓抜の技による「ブレンド」と、旨みを最大限に引き出す「焙煎」を自社工場で行うことによって、さまざまな味わいの茶を生み出している。
「どの産地でどのように栽培されたかを確かめながら品質を見分け、それぞれを絶妙の配分でブレンドしていくことも大切ですが、焙煎もとても重要な工程です。焙煎の程度の差で、アミノ酸、カテキン、カフェインそれぞれの引き立ち方がまったく変わってきます。それが、味や香り、水色などに大きく関わってきます」
「このように、仕入れ、ブレンド、焙煎の3つのプロセスで、それぞれ細心の注意を払わないと、よいお茶はできません。『茶師』として茶葉に磨きをかけ、おいしいお茶に仕上げる。それが私たちの仕事です」
「池田製茶」は、海外における抹茶のニーズの高まりに対応すべく、抹茶専用工場も建設。現在では、煎茶工場と抹茶工場のふたつを持つ、鹿児島では唯一の製茶舗となった。抹茶工場では、一般向けの抹茶は巨大な粉砕機が用いられるが、茶道で使われる最高級の抹茶は、石臼を用いて丁寧に挽かれる。
1台の石臼が挽くことができる高級抹茶は、1時間でわずか40グラム。この数字が、抹茶がいかに貴重なものかを物語る。
茶葉を焙煎する香りに包まれて育った幼少時代
「池田製茶」は、鹿児島市の中心地である天文館で1948年から製茶舗を営んでいた。池田さんで三代目にあたる。
「天文館で祖父が開いた製茶舗は、自宅も兼ねていましたから、幼いころから茶葉を焙煎する香りに包まれていました。茶に誇りを持って日々働いている祖父の姿を見て育ち、自分も迷うことなく茶師の道に進みました」
天文館の店舗を大幅リニューアルすると同時に、新ブランド立上げ
2021年、池田さんは「池田製茶」の天文館店舗を大幅リニューアルし、同時に「池田選茶堂」という新たなブランドを立ち上げた。モダンな趣の店内には、池田さんが丹精込めて作り上げた数々のお茶が、洗練されたパッケージとともに、美しくディスプレイされている。
暖簾に描かれたシンボルマークは、その昔、鹿児島の地でオリジナルブレンドティを楽しんでいたであろう異人の姿を空想してイラスト化。
池田さんのスぺシャリテともいえる「知覧 華」はじめ、「玉露」「浅蒸」「深蒸」などから「玄米茶」まで、多種多彩な茶が並ぶ。また、店舗の奥には瀟洒なカウンターが設けられ、そこでは、月毎に茶葉を変えた水出し茶の試飲をすることもできる。
初代から引き継いだ香りをベースに、配合比や火入れ加減など試行錯誤し辿り着いた「知覧 華」は、「池田選茶堂」のフラッグシップ的存在。
店舗奥のカウンターでは、月替わりに茶葉を変えた水出し茶を試飲することができる。一枚板のカウンターはバーのような趣。
「IKEDA」ブランドを広めるために、イタリアにも会社を設立
「茶舗というと、大きな茶箱がずらりと並んだ昔ながらの店構えが普通ですが、新ブランドを立ち上げた際には、ロゴマークなども一新し、店舗もセレクトショツプとカフェが合体したような雰囲気にしました。また、世界的な抹茶需要の増大に対応するために、県内初の抹茶専用工場を建て、2024年にはイタリアに会社を設立しました。今後はヨーロッパで『IKEDA』ブランドを広めていきたいと考えています」
プライベートではトライアスロンにも出場する池田さん。前を向き、泳ぎ、走り続けるトライアスロンレースと同様、池田さんは絶えず前だけを向いている。
池田選茶堂
鹿児島県鹿児島市千日町3-11
Tel:099-226-3381
営業時間:10時~18時
定休日:日曜・祝日
鹿児島堀口製茶
約300ヘクタール。国内では最大規模の茶畑を運営
鹿児島湾の東側に位置し、南北に細長く伸びる大隅半島。豊かな自然に恵まれ、本土最南端にあたる佐多岬で知られるこの半島には、起伏が無く広大な、農業に格好の土地が広がる。「鹿児島堀口製茶」は、この大隅半島を中心に自社と契約農家を含めると約300ヘクタール、東京ドーム64個分に相当する、国内では最大級の規模の茶畑を運営している。
広大な茶畑で効率的な農業を進めるため、「鹿児島堀口製茶」では機械化、省力化が進んでいる。(©鹿児島堀口製茶)
3代目社長が推進する、流通やマーケティングまで視野に入れた「スマート農業」
大規模な茶畑での効率的な農業を行うために、「鹿児島堀口製茶」では茶摘み機や除草機械などの自動化を進める一方で、先端技術を取り入れて生産のみならず流通や販売、マーケティングなども視野に入れた、次世代型農業「スマートIPM農法」を推進している。その先頭となっているのが、3代目社長の堀口大輔さんだ。
「『伊藤園』での経験が、大きな糧になっています」と堀口さん。工場の目に前には、広大な茶畑が広がる。堀口さんは、「鹿児島堀口製茶」が生産した製品の販売を担う「和香園」の社長という肩書も併せ持つ。
堀口さんは、東京の大学を卒業後、大手茶製品メーカーの「伊藤園」に勤めた後、2010年に鹿児島へ戻り、家業の「鹿児島堀口製茶」の業務に加わった。「鹿児島堀口製茶」では化学農薬だけにたよらない茶生産を確立し、機械<wbr />化による省力化を推進していたが、堀口さんが着手したのは、<wbr />更なる品質の向上と新たなブランド開発だった。
海外マーケットを見据え、新商品を開発
「1948年に創業した『鹿児島堀口製茶』が手掛けてきた商品は、それまでも一定の評価をいただいていました。しかし海外マーケットを見据えたとき、このままではいけないと思い、『健康・簡便性・寛ぎ』という新たな価値を付加した新ブランド、『TEAET(ティーエット)』を誕生させました。『TEA』と『DIET』を組み合わせた造語です。パッケージデザインもお洒落にしたところ、アンテナショップなどで好評をいただき、新たな需要の掘り起こしとなりました」
「TEAET」のラインナップには、手軽にお茶を楽しむことができるようにと、パウダーやティーバッグも加わった。パッケージも、従来のお茶の概念を超えた斬新さ。(©鹿児島堀口製茶)
新ブランド「カクホリ」で、30年前に祖父と父が挑戦していた「和紅茶」に再び挑む
「TEAET」に続いて発表したのが「カクホリ」ブランドだった。ロゴマークは、「堀口」の漢字をデザイン化して新たに前面に押し出し、海外マ―ケットも意識した訴求力のあるパッケージデザインとなった。品質にもこだわり、深蒸し煎茶を基軸として、ほうじ茶や烏龍茶、紅茶まで8種類のラインアップが整えられた。
とりわけ注目を集めたのが、和紅茶と称される「カクホリ紅茶べにふうき」だった。
「じつは、30年ほど前に、祖父と父が『ウーロン紅茶』を手掛けていました。とても美味しいお茶でしたが、時代が早すぎたのでしょうか、いつの間にか商品のラインナップから無くなっていました。紅茶に関しても、昔から紅茶を製造する技術は会社として持っていましたが、世界を見据え、日本で製造している紅茶の味とは一線を画す特徴ある商品を目指し、製造技術をさらに進化させて作ったのが『カクホリ紅茶べにふうき』です」
用いられている「べにふうき」は、紅茶や烏龍茶専用の茶葉として品種改良されたもので、国内ではおもに鹿児島が生産の中心となっている。
イギリスの老舗百貨店「フォートナム&メイソン」で販売開始
満を持して発売した「カクホリ紅茶べにふうき」はヨーロッパ、とくに紅茶の本場であるイギリスで高い評価を受け、「ティ―アカデミー」が主催し、「世界最高峰のお茶コンクール」ともいわれる 「THE LEAFIES」で金賞を受賞した。
日本国内でも「日本茶アワード」で2022年から3年連続でプラチナ賞を獲得するなど、高い評価を得た。
とりわけ、「THE LEAFIES」での3年連続受賞を機に、2025年1月からロンドンの英国王室御用達百貨店「フォートナム&メイソン」での取り扱いが始まるという、快挙を成し遂げた。
和紅茶はインドやスリランカ産の紅茶と比べると渋みや苦みがそれほどなく、まろやかとされているが、「カクホリ紅茶べにふうき」は適度な重みや渋みが、紅茶ファンから高い評価を得ている。ティーカップから甘やかな花の香りが微かに立ち上り、口に含むとほのかにマスカットの風味が広がる。
海外で高い評価を得たのは「カクホリ紅茶べにふうき」だけではない。2025年3月には、米国 「Global Tea Championship 2025」にて、「カクホリ深蒸し煎茶 おくみどり」が1カテゴリー、「緑茶伝説 極」が2カテゴリーと、計3カテゴリーで最優秀賞を受賞した。
標高の高い高原地帯の環境を人工的に作り出し、茶葉を広げて萎れさせる独自の製法で、ダージリンのような色味や香りを出すことに成功。そこに「べにふうき」の独特の風味が加わり、まろやかなフレーバーが生みだされた。
和紅茶に注力する一方で、緑茶の新たな楽しみ方も広める
「国産の紅茶は今後大きな可能性を秘め、海外からも注目を集めています。その一方で、昔ながらの急須で入れた緑茶の消費量は残念ながら年々減っています。それを食い止めるためにも、製茶会社として単に茶を造るだけでなく、お茶のおいしさや楽しみ方を提案する場をもっと多くの方に提供していかなければならないと思います」
堀口さんは熱く語る。
工場に併設されたレストラン「茶音の蔵」で、お茶の新たな楽しみを体験する
お茶のおいしさを楽しむ場のひとつが、「茶音の蔵」だ。「鹿児島堀口製茶」の茶工場に隣接したレストランでは、お茶と和の融合をコンセプトに、茶園のお茶と旬の食材を用いたランチコースを味わうことができる。ジャズが流れる空間で、コースの最後を締める薫り高い抹茶をいただいた時、日本の食文化における「お茶」の大切さを改めて感じた。
「茶音の蔵」の食事は、「至れりコース」(税別2,600円)と「尽くせりコース」(税別3,600円)の2つのコース。
食事の締めくくりは、デザートの抹茶ムースと、一服のお薄。抹茶をふんだんに用いたムースは、製茶工場直営のレストランならではの香りと味わい。
©鹿児島堀口製茶
茶音の蔵
鹿児島県志布志市有明町原田1203-7
Tel:0120ー464-300
営業時間:11時30分~15時
定休日:月曜日・第1,第3火曜日(月曜祝祭日の場合は翌日休み)
和香園(原田本店)
鹿児島県志布志市有明町原田1203-7
Tel:0120ー050-424
営業時間:8時~17時
定休日:年中無休(元日のみ休み)
鹿児島市内のバーで、抹茶を用いた新たなテイストのビールを味わう
茶の湯だけでなく、今やさまざまな食の分野で使われているのが抹茶。鹿児島市内には、「池田選茶堂」の抹茶を用いたクラフトビールを手掛けているバーがある。その名も「抹茶ビール」。ビールの泡とともに立ち上がる抹茶の香りを、ぜひ味わいたい。
Photography by Azusa Todoroki(Bowpluskyoto)
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編集部&PJフレンズのブログ
2025.3.31
伝統と革新が融合する新たな食体験 「和牛懐石 わ美(わび)」オープン
前菜の前に供される懐石膳「東風」。和牛タン、筍、木の芽、魚沼産コシヒカリからなる膳。お品書きには「春の訪れを告げる風が吹き」と書かれているが、同時にこれはここから始まる和牛懐石のプロローグにもなっている。
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3月、大阪に新たな注目スポット、GRAND GREEN OSAKA南館が誕生した。大阪駅の西側に広がる廃線地の再開発プロジェクトの一環で約 4.5ha の広さを誇る都市公園「うめきた公園」や北館は既にオープンしていたが、新たにオープンした南館は、<wbr />インフィニティプールのあるスパ施設や地下の大型フードマー<wbr />ケット「タイムアウトマーケット大阪」があったり、<wbr />JR大阪駅に直結していることでも注目度が高いビル。
<wbr />その3階に日本の食文化と美意識を体現した「和牛懐石 わ美(わび)」がオープンする。創業60周年を迎える食肉小売・外食事業を手がける株式会社1&Dが、<wbr />新たなビジョンのもとで手がける意欲的なレストランだ。
「わ美」の佇まい。壁に大胆に描かれた野口 寛斉の書。和泉屋石材店の石。桜製作所が製作した14脚の椅子。供される料理同様に店の設えも細部まで気配りされていることを感じさせる。
オープンな雰囲気の飲食店が多いフロアにありながら、店全体が窓もない経年変化が楽しめるという白漆喰の壁で覆われ、まるでビルの中に突然、料亭が現れたような雰囲気だ。
日本の美意識が息づく空間で味わう和牛懐石
「わ美」という店名には、わびさびの「わび」、「和」の美、人と人の「輪」という3つの意味が込められている。千利休に代表される日本人特有の美意識「わびさび」を、食という体験を通して伝えることを目指している。
夜は季節の「和牛懐石 -はるの美-」全12品のコース(25,000円・税込)、昼は「わ美の昼餉 和牛と、はるの美」という全7品のコース(6,000円・税込)を提供。カウンター席14席と4名×2室、6名×1室のテーブル個室を備える。夜は完全予約制でカウンターは一斉スタートという形式を採用している(個室は予約時間に合わせてスタートする)。
オープン前に、コースの試食会に参加したので、それを元にレポートをお届けしたい。
最大の特徴は「わび茶」の精神を取り入れたサービススタイル。茶の湯が一服のお茶を中心とした総合芸術であるように、「わ美」では食事だけでなく、最後にお茶を点てて提供するという一連のストーリー性を大切にしており、唐紙の表紙に覆われたお品書きにも一皿一皿に「春の訪れを告げる風が吹き」、「新芽が萌え出る候」と言った具合にストーリーが書かれている。
最初、「和牛に抹茶?」と聞いて、どう考えても合わない取り合わせに聞こえるが、「東風」と名付けられた旬菜と牛タンの先付から九皿を経て、水菓子、主菓子を口にしている頃には、目の前で振る舞われるお点前のお茶を楽しみにしている自分がいた。
自慢は母体が肉屋だからこそ提供できる最高級品質「A5ランク」の特選部位の神戸牛と近江牛の肉。
懐石コースの主役は、この神戸牛イチボと近江牛のヘレだが、どちらも異なる切り方で提供され、静岡さんの本わさび、エジプト産の砂漠塩、あけがらし(醤油麹を使った調味料)、塩おろしポン酢、そして生胡椒といった薬味で楽しむ。
これを異なる切り方や薬味で楽しんだり、(試食では用意がなかったが)ブレザオラと呼ばれる生ハム形式で楽しんだり、弾力のある泡立ちのメレンゲにつけて楽しむすき焼き形式で楽しんだりできることが、同店を訪れる最大の楽しみ。
他にも先付で筍や木の芽と楽しむ牛タンを堪能したかと思えば、前菜では敷き詰めたランプの上にキャビアを載せて楽しんだりと、ひとくちに「和牛」と言っても、これだけの種類を区別し、これだけ多彩な味、食感、食べ応え、そして薬味とのマリアージュの楽しみがあるのかと、舌鼓を打ちつつも感心させられる。
もちろん、肉を使わない椀物や麺物も、斬新さと繊細さが共存した品を丁寧な仕事で目の前で作っており、視覚的にも楽しませてくれる。
美しいガラスの器から現れるキャビア。その下には神戸牛ランプとカリフラワーのピューレが敷かれており、イキ芋のチップスと共に食べる。
強肴は近江牛ロースの「すき焼き」。金鶏の赤彩卵は弾力のあるメレンゲが添えられており、今は無くなってしまった赤坂のすき焼き屋「よしはし」を思い出させる。
こうして祭りのような食体験が終わり、隣人との会話も一段落したところ、おもむろに茶事が始まり、来店者全員が口を紡ぎお点前に視線を注ぎ、その後、そのお茶を一服する。心も整って、「なるほど、これが〆るということか」と納得せずにはいられなかった。
最後はお茶のお点前を見て、抹茶で〆る。満たされたお腹で緩んでいた背筋が伸び、整った状態で店を後にするのは新鮮で心地よい体験だった。
ちなみに食中の飲み物、つまり、ソムリエが選ぶお酒のペアリングも面白かった。次の一品に合わせて、日本酒で始めたかと思うと、キャビアにはシャンパーニュ、メインの肉にはニュージーランドのピノノワール、すき焼きには山梨の赤ワインだったりとお酒の種類も、洋の東西にも縛られずベストな1本を選んでいた。
「未来から選ばれる企業へ」というビジョンで誕生
運営する株式会社1&Dは、今年3月1日に外食事業「株式会社ワン・ダイニング」」、食肉小売事業「ダイリキ株式会社」、持株会社「株式会社1&Dホールディングス」の3社が合併して誕生した会社だ。
創業者の髙橋健次氏が1965年、22歳でクジラ肉販売店から始め、時代の変化とともに事業を拡大してきた歴史を持つ。同社は1993年に「炙屋曽根崎店」をオープンし、居酒屋感覚の焼肉店として成功を収めた。その後、事業が苦境に立った時期に「原点回帰」を決断。精肉店ならではの鮮度の良さを活かした焼肉店に立ち返り、2006年からは焼肉食べ放題、しゃぶしゃぶ食べ放題という業態を展開してきた。
現在の社長である髙橋淳氏によると「手切りのチルド肉を提供するのは時間がかかり非効率だが、その非効率こそが独自価値につながる」と確信。技術と心を磨き、人材育成にも時間とコストをかけることで、差別化を図ってきたという。
「わ美」の運営母体はグループに食肉小売事業も持つ株式会社1&D社。それだけに自慢の近江牛、神戸牛の品質には力を入れている。調達した最高級の和牛は客の前の手で切られ、手焼きされる。
創業60周年を迎えた同社が掲げる新たなビジョンは「未来から選ばれる企業へ」。これには、未来のお客様、未来の仲間、未来の社会という3つの「未来」が含まれている。そして、このビジョンを達成するためのミッションとして「日本ならではの価値を再定義し、日本、そして世界の人々を幸せにする」を掲げている。
「わ美」は、まさにこのビジョンとミッションを体現する第一歩として位置づけられている。
店舗ロゴは“侘び寂び”をテーマに、唐紙作家嘉戸氏(かみ添)と書家加山氏が制作。複合ビルに突如現れる白漆喰の壁に、この唐紙の看板が掲げられている。
“侘び寂び”をテーマに、唐紙作家嘉戸氏(かみ添)と書家加山氏が制作した店の看板や、調理場の壁面に大胆に描かれた牛柄を思わせる陶芸家・書家、野口寛斉の絵や陶芸家、福村龍太による器、調理台は和泉屋石材店が石工をし、椅子などの木彫の家具は桜製作所が製作するなど、料理同様、店のしつらえにもかなりのこだわりが感じられる。
特に注目したいのはにじり口のような狭い入り口に飾られた金で再現された現代芸術家、髙橋大雅のドレープの作品だ。店内の壁はこの作品を最新3Dプリンターを使ってコンクリートで再現した壁になっている。
にじり口のような入り口には髙橋大雅の金色のドレープの作品が飾られている。このドレープが3Dスキャンされ、店内の壁にコンクリートで再現されている(最新のコンクリート用3Dプリンター技術を使って作成したという)。
伝統を未来につなぐ新たな挑戦
「この国の価値で壁を超える」—これが「わ美」そして株式会社1&Dのメッセージだ。日本の美しい価値観を大切にし、それに磨きをかけることで、国内外で日本の美意識と食文化を広めていく。それは単なる「和食」の提供ではなく、「団らんからDANRANへつながる幸せ」の伝播である。
「和牛懐石 わ美」は、伝統を尊重しながらも革新を恐れない、新たな和食体験の場として、多くの人々の記憶に残る「一期一会」の時間を提供してくれるだろう。
万博会場への入り口として世界中の人々が利用する大阪駅。海外の人々にも、和牛を通して日本文化の奥深さを知ってもらうべくぜひ訪れてもらいたい店の1つだ。
株式会社1&Dでは和牛文化を海外にも発信すべく、海外初出店となる焼肉食べ放題業態の店舗を、ベトナムのホーチミンに2025年7月オープンする予定だという。
2025年7月にオープンする海外1号店。
この出店は単なる収益増大のための店舗展開ではなく、日本で働くベトナム人従業員のロイヤリティ向上を推進し、将来的には日本でノウハウを培ったベトナム人従業員が故郷に帰っても活躍していける土壌を育む目的があるという。
和牛懐石 わ美
【住所】 大阪市北区大深町5番54号 グラングリーン大阪 南館3階
【TEL】 06-6485-7590
【席 数】 全28席〈カウンター14席・4名テーブル×2(個室)・6名テーブル×1(個室)〉
【営業時間】 ランチタイム /11:00~16:00(最終入店14:30)
ディナータイム /17:00~22:30(最終入店20:00)
※ディナータイムのみ完全予約制
Profile
林信行 Nobuyuki Hayashi
1990年にITのジャーナリストとして国内外の媒体で記事の執筆を始める。最新トレンドの発信やIT業界を築いてきたレジェンドたちのインタビューを手掛けた。2000年代からはテクノロジーだけでは人々は豊かにならないと考えを改め、良いデザインを啓蒙すべくデザイン関連の取材、審査員などの活動を開始。2005年頃からはAIが世界にもたらす地殻変動を予見し、人の在り方を問うコンテンポラリーアートや教育の取材に加え、日本の地域や伝統文化にも関心を広げる。現在では、日本の伝統的な思想には未来の社会に向けた貴重なインスピレーションが詰まっているという信念のもと、これを世界に発信することに力を注いでいる。いくつかの企業の顧問や社外取締役に加え、金沢美術工芸大学で客員名誉教授に就いている。Nobi(ノビ)の愛称で親しまれている。
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Features
暮らすような滞在と五感を刺激する食体験がセットに
2025.4.3
Zentis Osaka、5周年を記念した特別宿泊プランが登場
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2025年7月15日(火)に開業5周年を迎える大阪・堂島浜のホテル、Zentis Osakaから、限定メニューを含む特別宿泊プラン「Zentis Osaka 5th Anniversary Stay」が登場。
2025 年4月12日(土)~2026年3月31日(火)の期間に利用できる特別宿泊プランでは、ホテル2階「UPSTAIRZ Lounge, Bar, Restaurant」で提供する特別ディナーとオリジナルカクテル、宿泊がセットに。
5周年記念ディナー 前菜イメージ
ディナーは、食材の品質や生産者にこだわった独創的なコースを用意。完全有機栽培の農家より仕入れた有機野菜や、丁寧に再肥育した経産牛を使用した肉料理など、美食とサステナビリティを両立させたオリジナリティあふれるメニューを堪能できる。
「UPSTAIRZ Lounge, Bar, Restaurant」
(左)リモーネ ハイボール (右)ワイン オブ シトラスハート
食後のバータイムでは、美味しさはもちろん、食材のロスを減らすことも追求したバーテンダー渾身のカクテルを提供。レモンを余すことなく使った爽やかな一杯「リモーネ ハイボール」と、抜栓から日が経ち泡立ちが弱くなったシャンパーニュをアップサイクルした優美な香りのカクテル「ワイン オブ シトラスハート」から好みの1杯を選ぶことができる。
Zentis Osakaオリジナルエコバッグ
また開業5周年を記念して、ナチュラル感のあるデザインのホテルオリジナルエコバッグもプレゼント。
Studio
世界中から関心が集まる大阪で、サステナビリティの要素を取り入れた美食と暮らすような滞在が叶うZentis Osaka。友人や家族と、特別な宿泊体験を楽しんでみてはいかが。
◆宿泊プラン「Zentis Osaka 5th Anniversary Stay」
【宿泊対象期間】2025年4月12日(土)~2026年3月31日(火)
【問い合わせ】06-4796-0111(ホテル代表)
【部屋タイプ/料金】1泊2日/1室2名料金
Studio(25㎡)77,610円~
Corner Studio(32㎡) 83,530円~
Suite(57㎡)114,490円~
※消費税、サービス料10%込・宿泊税別
※予約はチェックイン3日前15:00まで可
※1名様利用プランも有り
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Features
日本文化のタイムトラベルを圧倒的なスケールで展開
2025.4.2
東京国立博物館「イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~」
※イマーシブシアター会場写真
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東京国立博物館 本館特別 5室では、所蔵する国宝などの貴重な文化財の世界への没入体験を楽しめる「イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~」を8月3日(日)まで開催中。
※イマーシブシアター会場写真
※イマーシブシアター会場写真
“イマーシブ”という没入型の展示や体験イベント人気を集めるなか、本展はそのスケールが圧巻だ。
会場正面に設置された高さ約7メートルの巨大なLEDモニターに映し出されるのは、NHKの超高精細映像がとらえた所蔵品の数々。縄文時代の土器や土偶、古墳時代のはにわ、平安時代の絵巻、室町時代の鎧兜、浮世絵などを、普段決して見ることが出来ない角度やサイズで堪能できる
「鉄腕アトム」Ⓒ手塚プロダクション
「かぐや姫」Ⓒ2013 Isao Takahata,Riko Sakaguchi/Studio Ghibli, NDHDMTK
また、手塚治虫、高畑勲、細田守など、日本を代表する名作アニメも登場。ナビゲーターは、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」で蔦屋重三郎役の横浜流星が務める。
※イマーシブシアター会場写真
「未来少年コナン」© NIPPON ANIMATION CO., LTD. “INCREDIBLE TIDE” Copyright © 1970 by Alexander Key Animated film rights in Japanese language arranged with McIntosh & Otis, Inc. through Japan UNI Agency, Inc.
「埴輪 挂甲の武人」や「松林図屏風」(長谷川等伯筆)、「洛中洛外図屏風(舟木本)」(岩佐又兵衛筆)などの国宝作品から、世界を魅了するアニメーションまで、日本文化のタイムトラベルを大迫力の映像で楽しめる展覧会。4月22日から6月15日まで、東京国立博物館 平成館にて特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」も開催されるので、あわせて鑑賞するのもおすすめだ。
◆イマーシブシアター 新ジャポニズム ~縄文から浮世絵 そしてアニメへ~
【会期】開催中~2025年8月3日(日)
【会場】東京国立博物館 本館特別 5 室
【開館時間】9:30~17:00
※毎週金・土曜日、5月4日(日・祝)、5日(月・祝)、7月20日(日)は20時まで開館
※入館は閉館30分前まで
※本展は事前予約不要です。混雑時はお待ちいただく可能性があります。
◼ 休館日 : 月曜日、5月7日(水)、7月22日(火)
※ただし、4月28日(月)、5月5日(月・祝)、7月21日(月・祝)は開館
【観覧料】一般 2,000円、大学生 1,200円、高校生 800円
※中学生以下、障がい者とその介護者 1 名は無料。入館の際に学生証、障がい者手帳等をご提示ください。
【問い合わせ】050-5541-8600(ハローダイヤル)
※本展観覧券で、4/22~6/15 の間の観覧日当日に限り「浮世絵現代」(表慶館)を無料でご覧いただけます。
※本展観覧券で、観覧日当日に限り総合文化展(平常展)もご覧いただけます。
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Experiences
Spotlight
2025年アジアのベストレストラン50結果発表
2025.4.1
「アジアのベストレストラン50 2025」100位までの全リスト&考察レポート
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今年も「Asia’s 50 Best Restaurants(以下、アジアベスト50)」の授賞式が、3月25日午後8時から、韓国のグランド ハイアットソウルで華やかに開かれた。日本の最高位は「Sézanne(セザン)」の4位となった。
現地の熱気と共に、今回の結果から観たアジアのファインダイニング<wbr />事情、アジアベスト50そしてワールドベスト50はどんなアワー<wbr />ドなのか、<wbr />このアワードが世界へ与えるインパクトや課題などを含め、<wbr />授賞式に参加したジャーナリストの石橋俊澄氏が詳細にレポート、<wbr />考察してくれた。
1位から50位、<wbr />そして51位から100位までの全リストも公開する。<wbr />2024年の結果と比較してみても面白いと思う。
昨年は日本のワンツー・フィニッシュ!
授賞式を招致したのはソウル特別市と農業食糧農村省で、同市での開催は昨年に続いて2度目となる。
今回で13回目を迎えるアジアベスト50は知名度も上がり、すでに「ミシュランガイド」に比肩するほどのアワードになったと言っても良いかもしれない。
ここ数年において、2022年に日本料理店として初めてアジア1位を獲得した「Den(傳)」があり、昨年2024年の日本勢と言えば、「Sézanne(セザン)」が頂点を極め、2位に「Florilège(フロリレージュ)」が続き、ワンツー・フィニッシュの華々しい成績をおさめたことは記憶に焼き付いている。
明らかに日本勢の健闘が期待される流れの中で、今年はどうだったのか。果たして、フロリレージュの1位戴冠はあるのか! コトを急ごう。すでに第一報でご存知の向きも多いと思うが、さて、2025年の結果は!
バンコクの「ガガン」が5度目の1位
結果は、インド人のガガン・アナンドがバンコクで営む「Gaggan(ガガン)」が、なんと、5度目となる1位となった。
正確に記せば、<wbr />4度の1位はガガンが率いる別名の店での受賞である。<wbr />新たな店名で再出発し、昨年は3位、今年は1位。<wbr />ガガン本人が5度目の受賞となった。
ガガン・アナンドを紹介しておく。コルカタ生まれ、プロのドラマーとして音楽の道を歩んでいたが、いつしかスティックは包丁に替わる。インドの高級ホテルチェーンのタージ・グループで料理人のキャリアをスタートさせるが、スペインの革命的料理を推進する「エル・ブリ」の元に赴き、分子ガストロノミーに開眼する。
中央が、「gaggan(ガガン)」のシェフ、ガガン・アナンド。
彼が開店するのに選んだ街はタイのバンコク。「ガガン」のダイニングは14席のみ。22の皿にそれぞれ音楽が付帯し、時にスタッフが全員でテーブルを叩きながら歌い、「ヘイ・ジュード」をゲスト全員に合唱させる。ゲスト2人を選んでサラダバトルをさせたり(シェフが手を加えたものをゲストが食べる)……。劇中に放り込まれたような感じで、ある種、喧噪の中で刺激だらけの食事が進むといった具合だ。世界にまたとないエンタテインメント・ディナー体験である。
「ファインダイニングを食べたときに、とても退屈を覚えた」とガガンは語った。それで、元来好きだったロックや様々な音楽をメニューに合わせ、歌って踊るようなコースを考えた。一皿に一曲。キッスの曲「Lick it up(舐め尽くせ)」に合わせて、ゲストに皿のペーストを舐めさせる場面はいまや名物で、客の誰もがいつ来るのだろうかと期待を高ぶらせて待つ。
筆者も体験したことがあるが、使われるのはほとんどが誰もが知る新旧の洋楽だが、確か、デザート辺りだったか、日本の楽曲であるVaundyの「踊り子」が鳴り響いたときにはちょっと驚いた。日本人が私以外にも一人いたから、サービスだったのかもしれない。
お客14人のうち半数はノリノリで、半数はドン引き、そんな感じだった(苦笑)。
ベスト50に入った日本勢は11軒!
2位には香港の広東料理の「The Chairman(ザ・チェアマン)」が入った。かつて1位になったこともある名店だ。シェフのダニー・イップは日本料理を敬愛してやまない才人で、料理は絶えず進化している。私も大好きな店だ。
3位は同じく香港の広東料理の「Wing(ウィング)」である。本WEBのファインダイニングの連載に、私の体験記を載せたことがある。シェフのヴィッキー・チェンはフランス料理店も営むが、広東料理における彼の手腕はまさに才気にあふれ、斬新な中国料理の数々は度肝を抜かれるほど見事だ。
2位の香港「chairman(チェアマン)」。左がシェフのダニー・イップ。
多くの期待を集め、様々な活動を懸命にやったフロリレージュだったが、結果は17位。私も、見守る日本人たち全員も、本当にたまげた。昨年の2位からの大幅な落差に誰もが納得がいかなかった。
会場で川手シェフも、「いやー、50人ぐらいから『今年は1位ですね』と言われたんですけどね……」と残念そうだった。
日本勢のトップを張ったのは、昨年1位だったセザンの4位である。他の10位以内は大阪のLa Cime(ラ・シーム)の8位のみ。10位以内に4軒が入った昨年からすると、盛り上がりに欠けた印象は否めない。
10位入りは逃して12位だったが、開催初年度の1位から13年間も連続でランクインしている東京のNARISAWA(ナリサワ)の堅調ぶりは素晴らしい。日々の努力には頭が下がる思いがする。もはや、成澤シェフは日本の顔である。
日本勢は50位以内に11軒がランクインを遂げた。実に22パーセント。東京だけでも9軒で、全体の18パーセント。参加しているのはアジアの13カ国であることを考えれば、日本の比率は全体1位で、非常に高いとは言える。
すでに発表されている51-100位の6軒と合わせれば、17軒になる。つまり17パーセントだ。5軒に1軒弱は日本の店ということになる。
それをどう捉えるかについては後述する。
日本勢の新規のランクインはいずれも期待の3軒
一覧表は小さくて読みにくいので、ランクインした日本勢の店を書き出しておく。
4位 Sézanne(セザン)東京
8位 La Cime(ラ・シーム)大阪
12位 NARISAWA(ナリサワ)東京
17位 Florilège(フロリレージュ)東京
22位 Den(傳)東京
30位 Crony(クローニー)東京
33位 Sushi Saito(鮨 さいとう)東京
34位 Sazenka(茶禅華)東京
36位 Goh(ゴウ)福岡
43位 Maz(マス)東京
45位 Myoujaku(明寂)東京
2022年に1位だった「傳」は22位、「クローニー」は昨年の58位から一挙に順位を上げての30位だ。オーナー兼ソムリエの小澤一貴は、料理を引き立てる絶妙なペアリングが評価されて、「アジアのベスト・ソムリエ賞」も受賞する快挙を遂げた。
昨年60位の「鮨さいとう」は33位とトップ50に返り咲いた。「茶禅華」は39位から34位に、「Goh」は45位から36位にランクアップした。
南米ペルーの多様な生態系にインスパイアされたコースメニューを日本の素材で提供する「マス」は69位から43位に、フランス料理の影響下にありながら水と塩だけで野菜を水煮にしたりする「明寂」は76位から45位と、ともにトップ50に飛び込んできた。
クローニー、鮨さいとう、マス、明寂の4軒以外は、いずれも常連が踏ん張りを見せた。
トップ50に11軒のランクインは、昨年よりも2軒多い。とは言え、「去年のような、最後までのハラハラドキドキはたまらなかったですねえ」と、会場で「チェンチ」の坂本シェフがいみじくも語ったように、日本にとって、アジアベスト50のこれまでの最高に劇的なシーンは、昨年にあったことは確かだろう。
しかし、国威発揚でも身贔屓でもなんでもなくて、日本のガストロノミーの実力からすれば、20軒ぐらいがランクインしていてもおかしくないという思いが、私たち食関係者の中には厳然としてあるのである。
ここで、おさらいになるが、一応、アジアベスト50がいかなるものなのかを解説してみたい。
1.各国に散らばる評議員(投票者)たち
アジアベスト50は、2013年にスタートした飲食店のランキング・アワードである。今年で13回目を数える。アジアベストであるから、その母体は2005年に始まった「ワールドベスト50レストラン」だ。
ワールドベストがオリンピックなら、こちらはアジア大会だ(厳密には、喩えでしかないことは後述)。
ちなみに、世界1ともなれば、その名誉と影響力は大変なもので、オリンピックなら金メダル、ゴルフで言えばマスターズで優勝したようなものかもしれない。
ちなみに、古い順から店名をすべて挙げておく。
「過去のワールドベスト50 1位受賞レストランリスト」
2002、06、07、08、09年 「エル・ブリ」(スペイン)
2003、04年「フレンチランドリー」(アメリカ)
2005年「ファットダック」(イギリス)
2010、11、12、14、21年「ノーマ」(デンマーク)
2013、15年「エル・セジェール・デ・カンロカ」(スペイン)
2016、18年「オステリア・フランチェスカーナ」(イタリア)
2017年「イレブン・マディソン・パーク」(アメリカ)
2019年「ミラズール」(フランス)
2022年「ゼラニウム」(デンマーク)
2023年「セントラル」(ペルー)
2024年「ディスフルタール」(スペイン)
日本は一度も世界1位を取ったことがない。いくつかの店は複数回1位を獲得しており、2019年から「殿堂入り」のシステムが考案されて、1度1位になった店は除外されるようになった。それに対する賛成と反対が、1位になったシェフたちの間には渦巻いているようだ(アジアベスト50では、何度も1位になれる)。
私は、今回のアジアベスト50における5度目の1位受賞は、開催側も見直したほうがいい、2回1位になったら、もう「殿堂入り」にすべきだと思う。
アジアにしてもワールドにしても、50位以内にランクインすることに対するシェフたちの喜びと、その影響の大きさは、年を追うごとに増加してきているように思う。
2.選考のための厳格な内規
では、いかにして選出されるのか。これは色々と取材を進めると、ミシュラン同様に厳格な内規下にあるようだ。
まず参加国は「アジアベスト50」で16カ国。各国に「voter」と呼ばれる評議員(投票者)がいて、その数360名。フードライター、フーディー、シェフ、レストラン経営者、料理専門家などで、その銘々が自分の嗜好だけに従って投票をする。
ゆえに、オリンピックやアジア大会に喩えてはみたものの、内実は、よーいどんでタイムや質を競うわけではない。飽くまでも個人的な好き嫌いによる人気投票であるし、選考の過程が晒されるものでもない。まあ、アカデミー賞みたいなものと言われるのもよくわかる。
ちなみに、この評議員は身分を明かすことは固く禁じられている。完全な覆面であり、主催者側から経費はビタ一文も出ないらしい。従って、自腹メシとなる。覆面の部分はミシュランの調査員と同じだが、経費が出ないとはさぞかし厳しかろう。
各評議員は10票を有していて、最大6票までは自国の店に投票することができる。さらに、投票対象は投票日より18カ月以内に訪れた店であることが厳格に義務付けられている。店のコンディションは絶えず変わるから、それも理に適っている。
しかし、その反面、自腹で国内外を移動し、食事代も払う投票者側にとっては、なかなかのハードルの高さと言えるだろう。投票の際には、訪問日まで記載し、選考の理由まで書かねばならないそうだ。
そこまでの条件を突きつけられて、よくノーギャラで評議員をやる人間がいるもんだと感心する。
表彰式の跡には撮影会が開催される。
3.何を基準に選ぶのか
基本的には、覆面の評議員による「人気投票」であるから、銘々が何を考えて選考しているのかは、本人以外はわからないはずだ。評議員同志にしても、うすうすと勘づいてはいても、投票について話すことは皆無であるようだ。
国によっては、組織票とかを図るところがあったとしても、結果は、主催者側には正当な票としか扱われないだろう。
評価される店側にしてみれば必死だが、ある程度は「遊び」と思って、少し引いて受け止める必要もあるだろう。
とは言え、リストをじっくり眺めると、ランクインしているレストランにはある種の傾向は確実にあるようにも思える。
もちろん美味しいことは第一条件だが、それだけではない。要約すると、革新性、独創性、シェフの人間性&社交性、他のシェフとの協業性、ホスピタリティ、サステナビリティ、環境への配慮、生産者や地域社会との関係性……などであろう。
もちろん、それらを全部成し遂げることは不可能だ。シェフたちは毎日が鬼のように忙しいからだ。実際には革新性と独創性とシェフの人間性&社交性ぐらいが考慮に入れられているのかもしれない。
ロビー活動ではないが、他国のシェフとのコラボレーションを積極的に行うことなどは、アピールポイントになり得るのではないか。
アジアベスト50の授賞式の会場となった韓国のグランド ハイアットソウル。
ミシュランとベスト50
もちろん、「ミシュランガイド」、「ゴ・エ・ミヨ」、「OAD」などとの共通店は出てくる。また差異があるところも面白い。
しかし、例えばミシュランガイドであるが、毎年双方を見つめていると、むしろベスト50の評価が、ミシュランの星に影響を与えているように感じられる部分もないではない。
ミシュランがグリーンスターによってサステナビリティを謳い始めたのは2021年版からだから、これもベスト50よりも遅いように思われる。ま、お互いに良い影響を与えられればいいだけの話だ。
一般人からしてみれば、「食べログ」を含めて、店選びの指標が増えれば増えるだけ得することは間違いないだろう。
とはいえ、ミシュランの3つ星、2つ星、あるいはワールドベスト50、アジアベスト50辺りの店になってくると、予約を取るのはかなり困難になってきてはいる。中には、成績如何で、露骨に値段を上げてくる店があったりして、それは利用者にとっては迷惑千万な話でもあろう。
余計なことを言えば、法外な値付けをしてくるような店は、メディアもフードライターも紹介するのを考え直したほうが良いし、普通の利用者は真っ当な考え方を持つ店を選んだほうがいいだろう。
2025年の51-100位ランクイン店
では、この辺で、3月25日の授賞式の開催に先立って発表された2025年アジアベスト50の51-100位も紹介しておく。
63位 Cenci(チェンチ)京都
67位 Esquisse(エスキス)東京
69位 L’effervescence(レフェルヴェソンス)東京
76位 HARUTAKA(青空)東京
78位 HOMMAGE(オマージュ)東京
83位 Hajime(ハジメ)大阪
日本からはミシュランで3つ星を獲得したばかりの銀座の鮨屋「青空」が、76位で初登場した。他の5軒は常連もしくは2回目だ。
ついでに、2024年のアジアベスト50の100位以内にランクインした日本の店は次の通りである。
「2024年のアジアベスト50の100位以内にランクインした日本勢一覧」
1位 セザン、2位 フロリレージュ、8位 傳、9位 ラ・シーム、14位 ナリサワ、35位 Villa Aida(ヴィラ・アイーダ)、39位 茶禅華、45位 ゴウ、47位 チェンチ、51位 レフェルヴェソンス、58位 クローニー、60位 鮨さいとう、66位 日本橋蛎殻町すぎた、67位 L’evo(レヴォ)、69位 マス、76位 明寂、80位 オマージュ、83位 エスキス
4.アジアベスト50の意義
では最後に、アジアベスト50の意義について考えみたい。
存在意義の筆頭に挙げられるのは、世界規模で、あるいはアジア規模で、レストランに順位付けを始めたことである。OADもランキングだが、開始されたのはずっと遅い。
料理に順位をつけるのはいかがなものか、料理の種類だってごちゃ混ぜじゃないか、という意見ももちろんある。日本食で考えれば、その大胆さはわかりやすい。鮨も蕎麦もフレンチもトンカツも横並びで順位をつけることに等しいからだ。
土台、無茶な試みではあるのである。フードディレクターの山口繭子氏が「異種格闘技」と呼ぶのはまさに正鵠を射ている。だから、参加するほうも見るほうも、あまりムキにならずに余裕を持って、この壮大な「お遊び」に臨むことが肝要なのではないか、な?
授賞式開催国になるメリットを見逃すな
日本でも官民一体の取り組みこそが課題だ
「アジアベスト50」の前に「ワールドベスト50」であるが、それが持つ功績は明らかである。
それともなると、投票数もかなり増えて1080票(人)なので、さすがにオリンピック的な色合いを帯びてくる。
が、実際には、ベスト50を創案した主催者はウィリアム・リード社というイギリスの会社であるから、やはりヨーロッパに軸足が置かれているのはやむを得ない。もしも日本が発案主催していたら、軸足はアジア地域になっていたはず。
例えば、昨年のワールドベスト50にランクインした日本の店は、15位「セザン」、21位「フロリレージュ」、32位「傳」と、たったの3つだけである。
日本のレストランのレベルを熟知し、また海外のレストランを知っている者にとっては、依怙贔屓でも何でもなく、日本の実力はこんなものではないことを確信している。
そこにあるのは距離的な不利だけである。ヨーロッパの評議員たちが等しく日本の店を体験しさえすれば、まだまだ入選が増えてもおかしくはない。
そのためにはシェフの個人の尽力だけでは如何ともしがたいものがある。
官民を合わせた共同プロジェクトが必須であろう。特に、官はボケーッとしていないで、この世界的な日本食のブームを捉えて、積極的な方策を打ち出すことが肝要である。
今回と前回のソウルを見ていただきたい。祭典を誘致したことで、自国開催は有利であり、ガストロノミーをこれからの観光資源として活用できることを、官の側は強く意識した。実際にそう述べている。
官による「積極的な方策」とは、放っておいても勝手に増えるインバウンドの数に欣喜雀躍することではない。故・ジョエル・ロビュションやアラン・デュカスやヤニック・アレノの例を見れば明らかだ。一流の料理人は日本の食に魅了されるのである。海外の有力なシェフや経営者、あるいはフーディーを日本に呼び寄せることこそが肝心なのだ。
そのためには何よりも、東京都は「ワールドベスト50」を、地方都市は「アジアベスト50」を誘致することこそが、喫緊の課題なのである。
「ワールドベスト50」の明瞭な功績
さて、ではベスト50の功績は何かと言えば、先に挙げたワールドベスト50の1位となったリストをご覧いただきたい。これが意味するところは一目瞭然だ。
まず、2002年の初年度の「エル・ブリ」だ。全部で5回戴冠しているが、エスプーマ(泡)だの分子調理法だの様々な調理科学を駆使した料理は、まさに料理世界を席巻した。フェラン・アドリアとジュリ・ソレールが切り拓いた革命的な影響はフランス料理を迷走させ、一時はフレンチの料理人が何をやっていいのかわからなくなるほどだった。
そして、猫も杓子も泡、泡、泡。そんな時代があった。
この「エル・ブリ」を世界の表舞台に引っ張ってきたのは、まさにワールドベスト50の功績と言えるだろう。
また一度スペインという地に灯された革新性の萌芽は、その後の2013年「エル・セジェール・デ・カンロカ」や、2024年「ディスフルタール」として結実を生む結果にもなっているだろう。
顕著な例はもう一つ、2010年の「ノーマ」の登場である。ここも5回頂点に輝いている。デンマークに流星のごとく登場した革命者レネ・レゼピは、料理不毛の地と思われていた北欧にまったく新しい息吹を吹き込んだ。
メニューの開発研究チームが、寝ても覚めてもそれだけをやっているのは、「エル・ブリ」からのインスピレーションだろう。
ノーマの萌芽は、2022年の「ゼラニウム」として結実している。
アジア中のシェフたちが集結する唯一の場
では、アジア大会であるアジアベスト50に目を転じるとどうか。
例えばシェフ同志のコラボレーションがかつてないほど行われるようになったのは、アジアベスト50の大イベントに、アジア地域の主だったシェフが集結したからである。
そんな機会も場所も他には一切ない。この祭典は唯一無二のものだ。そこでシェフ同志が結びつくことによって、コラボレーションが可能となるのだ。
コラボがなぜ重要かと言えば、例えば、タイ料理とフランス料理のコラボ、広東料理と日本料理のコラボを想像してみてほしい。技術も違えば食材も違う両者が、お互いに胸襟を開くことによって、お互いが蒙を啓かれ、自分の殻を破ることになるのである。
技だけではない。食材をどう捉えるか、生産者とどう関わるか、スタッフをどのように育成するか、様々な点においてお互いが刺激することになるのである。
そこで得たインスピレーションは、やがては新しい一品となってわれわれ利用者が享受できるようになるだろう。
シェフたちが仕事を休んでまでして駆けつけるのは、それだけの意味がある。年に一度のこの祭典ほど、有意義なものはないとも言える。
日本人のシェフとその関係者。
5.アジアベスト50のもう一つの意義
アジアベスト50は、主催者がテーマを掲げている。ここ数年は、「その土地らしさ」と「サステナビリティ」だ。
SDG’Sやサステナビリティはもう聞き飽きたとは思わないでいただきたい。食にとってのサステナビリティは切迫した課題でもあるのだ。魚や肉は無限ではない、例えば日本の米にしたって足りないのが現実だ。飲食に係るスタッフも慢性的に不足している。サステナブル(持続可能)なことに、飲食店は日々向き合っている。
そもそもアジアの料理はサステナブルな側面を持っている。発酵による保存、漬物による保存、乾物による保存、さらには旬の食材を活かす食文化。古くから持続可能性は考えられてきた。
もちろん、例えばヨーロッパや南米の料理にも、同様にサステナブルな側面がある。その部分がクローズアップされることは、大きく言えば、人類にとっても大事なことなのである。
授賞式の前日、アジア地区内の最高峰レベルのシェフに話を聞くイベント「Meet the Chefs(ミート・ザ・シェフズ)」が行われた。
左から、ディレクターのウィリアム・ドリュー、香港「Mono」のシェフ、リカルド・チェネトン、ムンバイの「アメリカーノ」のアレックス・サンチェスとマリェーカ・ワツァ、マカオの「シェフ・タムズ・シーズンズ」のタム・クオック・ファン。
テーマはずばり、「アジア料理におけるサステナビリティ」である。その企画意図をベスト50のコンテンツ・ディレクターのウィリアム・ドリューが話す。
「サステナビリティはガストロノミーの根幹を成すものです。将来に向かって、それはますますメイン・ストリームになっていくでしょう。最近は、食材だけではなく、人材や生産者との関係性の観点からサステナビリティが語られることが多くなっていますね。それと、都市部と地方では、語られるサステナビリティが違ってくるので、幅の広い意見交換ができると考えました。
アジアベスト50にランクインするような店は、サステナビリティについてきちんと考えている店なんだということを広報していくのも重要なのです。最近の新しい潮流としては、ラグジュアリーな店でも必ずしもキャビアのような高級食材を扱わなくなってきていることです。食べにくるゲストの中にも意識の変化が起きているのです」
リカルド・チャネトンは、今年のアジアベスト50で24位にランクインした強者だ。28歳という若さで香港にあるイノベイティブ・フランス料理の「Mono(モノ)」を開業した。
「私にとってのサステナビリティとは、一言で言えば不完全性こそが完全性であるということです。かつては例えばトマトやジャガイモがひしゃげていたり、穴があいていたりしても、野菜とはそういうものでした。自然な不完全性を再認識することが大事だと思う。店では、中国のローカルマーケットからそういう野菜を入手して展開しようとしています」
タム・クォック・ファンは、マカオの名店「ジェイド・ドラゴン」でその才能を発揮した。現在はウィン・パレスの中にある、「Chef Tam’s Seasons(シェフ・タムズ・シーズンズ)」で広東料理の神髄を披露している。今年のアジアベスト50で9位。
「私が考えるサステナビリティはシンプルです。魚などの海産物は市場に買い付けに行きます。それ以外の肉や野菜などの食材が少ないマカオでは、食材を注文しすぎないことと、使い残しをなるべく出さないことが重要です。いわゆる食品ロスの問題ですね。それと中国料理の調理法で、発酵・乾燥・漬物、この3つはサステナビリティにつながると思っています」
違った視点を与えてくれたのは、ムンバイの名店「Americano(アメリカーノ)」を率いるアレックス・サンチェスとマリェーカ・ワツァだ。同店は2025年のアジアベスト50で71位にランクインしている。
「インドにおいて最も大事なサステナビリティがあるとしたら、それは人材の確保です。インドでは、飲食業界はホテル業界に比べて下位に位置します。ですから、『9時間/週6日=54時間労働』という労働環境を整えて、飲食業界で働くことの自信を持ってもらうことが重要になってきます」
サステナビリティと言っても、所が変われば内容も変わってくる。4者4様の視点を与えてくれたのは、実に有意義だった。
2025年のアジアベスト50の結果については賛否両論あると思うが、シェフたちをはじめとする関係者たちのたゆまない努力に称賛を送りたい。
(文中敬称略)
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Features
表参道で味わう世界トップレベルのスペシャルティコーヒー
2025.4.1
「PHILOCOFFEA表参道店」がオープン。バリスタ世界チャンピオンの最新店舗
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「目を醒ませ、TOKYO」をコンセプトに、世界トップレベルのスペシャルティコーヒー体験を発信する「PHILOCOFFEA(フィロコフィア)表参道店」が、表参道の新商業施設「GREEN TERRACE 表参道」地下1階にオープン。
粕谷哲氏
「PHILOCOFFEA表参道店」は、アジア人初のWORLD BREWERS CUP(※)を制した世界チャンピオン、粕谷哲氏がオーナーを務めるコーヒーカンパニーの都内1号店。
トップレベルのバリスタによるコーヒーは1杯800円から。
生豆の買付、選別、焙煎プロファイルの作成、品質管理までを自社で手がけるほか、品質にこだわり抜いたスペシャルティグレードの豆(全生産量の5%に満たない、最高級品質の希少なコーヒー豆)のみを扱い、粕谷氏が開発した「4:6メソッド」に基づいた淹れ方で提供している。
表参道店限定 O11 TOKYO BLEND 規格:200g 3,197円
大会の受賞歴を持つバリスタが多数在籍する表参道店には、Modbar社の埋込型エスプレッソマシンを導入しシームレスなカウンターを実現。カウンター越しにバリスタと会話を楽しんだり、所作のひとつひとつを眺めたりと、特別な時間を楽しむことができる。
大人気「35MM(サンジュウゴミリ)」のスコーン2種
また、数量限定の焼き立てスコーンが大人気の「35MM(サンジュウゴミリ)」のスコーンも用意。発酵バターや小麦の味わいをしっかりと感じられる「プレーン」と、カカオベースのスコーンにチャンクチョコレートを使用した「ダブルチョコレート」、コーヒーと相性抜群の2種類を提供する。また、東京の今とこれからを味わえる「TOKYO BLEND」など、表参道店限定のコーヒー豆や限定メニュー、グッズも登場。
これまでのコーヒー体験を覆すような『人生を変える一杯』の提供を目指す「PHILOCOFFEA表参道店」。表参道を訪れた際は、ぜひ足を運んでみたい。
◆PHILOCOFFEA 表参道店
【住所】東京都港区北青山3-8-15 GREEN TERRACE 表参道 地下1階
【営業時間】10:00~19:00
【定休日】不定休
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
2025.3.27
米と日本人を繋ぐ、伊勢神宮の祈りとは?
麻苧で束ねられた抜穂
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日本人にとって大切なお米は、神と人を結ぶお供え物でもある
日本人にとって、お米は大切な主食。伊勢の神宮の祭祀も、稲作に関するものが実はほとんどという。そもそも稲作は、縄文時代後期に日本に伝来したとされている。以来、お米は稲魂(いなだま)という神霊が宿る食べ物と信仰され、神々へお供えされるとともに自身もいただき、それによって神様とつながり、力が授かると考えられてきた。数ある食べ物のなかで、なぜお米が日本人の主食となり、古来、神宮の祭祀の中心に据えられてきたのか。
今回は、日本人とお米、そして、神宮の祭祀について紹介しよう。
『日本書紀』に行き着く日本人とお米の関わり
日本人とお米の関わりの起源を辿っていくと、『日本書紀』に行き着く。この連載の第1回で紹介した天孫降臨、つまり、天照大御神の孫にあたる瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が、大御神から三種の神器(じんぎ)を託されてこの地上世界に降り立ったとき、もう1つ託されたものがあった。それが、神々の住む高天原(たかまのはら)の神聖な田で稔った稲穂。
この稲穂を基に、大御神は地上世界で稲を育てるよう、瓊瓊杵尊に授けたという。さらに、『日本書紀』の別の段では、大御神が、お米をはじめとする五穀、つまり豆や麦、粟、きびを地上世界の人々が食べて生きるべきものと位置づけたと伝えている。
「稲(いね)」の語源は「生命(いのち)の根」。豊かな国づくりの源は稲作だった
この神話を後世に伝えるメッセージと捉えるならば、天照大御神の子孫にあたる歴代の天皇は、稲作を広め、それによって豊かな国づくりを目指したと解釈することもできるだろう。
ちなみに、稲の語源は「生命(<u>い</u>のち)の根(<u>ね</u>)」。古くはこの地上世界も、神代の伝えで「豊葦原(とよあしはら)の瑞穂の国」、つまり、「水に恵まれ、稲が立派に稔る国」と呼ばれていたという。
伊勢神宮の神様に供えるお米は「神宮神田」で育てられる。
ともあれ、お米は日本人の主食となり、人々は稲作を中心とした暮らしを営むようになった。天皇陛下も、皇居内の御田(みた)で自ら田植えと稲刈りを行い、毎年稲が稔ると、その初穂をまず天照大御神に、感謝の祈りとともに捧げている。
古来、神宮の祭祀が稲作の暦––––つまり、季節の巡りに合わせて田を耕し、籾種を蒔いて苗を育て、その苗を水田に移し植えた後、雨などの自然の力を借りながら稲穂を稔らせ、収穫する、という一連の作業––––に沿って行われてきたのは、ひとえに、大御神によって授けられた神聖な稲穂を毎年無事に収穫して、その御心に報い、ご神恩に感謝を捧げるためなのだ。
2月からはじまる五穀豊穣の祈り「祈年祭(きねんさい)」
では、神宮では、年間を通して、どのような稲作に関する祭祀が行われているのだろう。
起点となるのは、2月に行われる「祈年祭(きねんさい)」。「年ごいのまつり」とも呼ばれるこの祭祀は、内宮、外宮の両正宮だけでなく、125社すべてで約1週間かけて行われ、五穀豊穣が祈念される。ちなみに、稲は年ごとの周期で稔ることから、「年」とも呼ばれ、「年ごい」は稲を乞う、つまり、豊作を祈念する意味になるという。
2月17日に行われる祈年祭で、奉幣の儀を行うために御正宮へ向かう勅使と黒田清子祭主、そして神職たち。奉幣とは、神様に幣帛(へいはく=神様にお供えする神饌以外のものの総称)を捧げることで、伊勢の神宮では、祈年祭、神嘗祭(かんなめさい)新嘗祭(にいなめさい)のときに、天皇陛下が遣わされた勅使が幣帛をご奉納になる。
神嘗祭では、天皇陛下からの初穂とともに、伊勢地方の農家も、懸税(かけちから)と呼ばれる初穂の稲穂を御垣に懸ける。収穫した稲穂をなるべく早く大御神にお届けする真心の表れが、懸税という。
脈々と受け継がれてきた各地で行われる春の祭り。それは「予祝(よしゅく)」
2月は春の耕作始めにあたる時期。
宮中をはじめ、全国各地で豊作を祈る春祭りが行われ、なかには、牛とともに田を耕し、収穫するまでの一連の農作業を模した所作を伴う祭りもある。これは、あらかじめ期待する結果を模擬的に表現することによって、その通りの結果が得られるとする、いわゆる「予祝(よしゅく)」に基づいた風習で、先人たちの生きる知恵とも言うべき信仰が、祭りという型を通して、脈々と受け継がれている証でもある。
もっとも、神宮の「祈年祭」は、そんな春祭りとは一線を画し、静寂の中、厳かに粛々と進められる。祭祀の際は、神職が古体の文章で書かれた神様への言葉、つまり祝詞(のりと)を、微音というかすかな声で奏上。
現代語では、そのゆかしさ、典雅さは伝わらないが、あえて意訳すると、「人々が苦労して育てた稲が良く育ったならば、初穂をたくさん差し上げ、お酒もたっぷりお供えします」という部分に、予祝の要素を感じさせる。祝詞には、言葉そのものに霊力があり、声にして発すると、その通りのことが実現するという言霊信仰が秘められているのだ。
「神田下種祭(げしゅさい)」から「神田御田植初(おたうえはじめ)」へ
その年の稲の豊作を願い、お供え用の米作りをはじめる儀式が続く
その後、4月上旬になると、内宮から2,5kmほど離れた神宮神田(しんでん)において、忌種(ゆだね)と呼ばれる清浄な籾種を蒔く「神田下種祭(げしゅさい)」が、5月中旬には、育った苗を水田に移し植える「神田御田植初(おたうえはじめ)」が行われる。
この神田は、元を辿れば、倭姫命(やまとひめのみこと)が、天照大御神にお供えするお米をここで作るようにと定めたと伝わる場所で、大御神が伊勢の地に鎮座した当初から存在するという。
興味深いのは、「御田植初」が、「祭」より格下の「式」という扱いになっていること。これは、田植えが世に広まったのが、室町時代から桃山時代にかけてのことで、それ以前は、籾種を直接田に蒔く直播(じかまき)栽培だけだったことが関係しているという。
つまり、清浄な籾種を直接神田に蒔く「神田下種祭」は、早苗を水田に植える「神田御田植初」より歴史が古いということだ。内容も、たとえば籾種を播く神事の前に、神職などが神田正面の小高い忌鍬山(ゆくわやま)に登り、まず山の神に、農具である鍬を作るために必要な樫の木を1本いただく許しを乞い、それから伐り倒した木で実際に鍬の柄を作って、その木の根元と枝葉を山の神にお返しするという、自然を敬い、感謝を捧げる祈りの原点とも言うべき神事が、人目に触れないところで行われる。
神田下種祭では、神田を管理する作長(さくちょう)が、忌鍬山の樫の木で作った清浄な鍬で田を耕し、苗代を作る所作が行われる。このとき、神職により御田歌(みたうた)が歌われる。
神田御田植初では、太鼓、笛、ササラ、鼓による田楽(でんがく)の囃子に合わせて、保存会の若い男女が足並みを揃え、苗が1列ずつ植えられる。
神宮の神田で行われる神田下種祭で、祭場に向かう神職や参列者。
5月と8月の2回行われる「風日祈祭(かざひのみさい)」
農作物の成長に風雨の災害がないように祈念する
やがて、神田に青々とした苗が一斉に並び植えられると、内宮の別宮、風日祈宮(かざひのみのみや)で、「風日祈祭(かざひのみさい)」が行われる。稲の生育に最も大切な5月と8月に行われる、この2度の祭祀では、「雨甘く、風和(やわらか)に」、つまり、天候が順調で災害もなく、ほどよい雨と風がいただけるようにと祈願される。
古くは7月1日から8月31日までの2ヶ月間、毎日朝と夕に、風雨の災いなく豊作であるよう祈る祭祀が、この風日祈宮で行われていたという。
今でこそ品種改良が進み、日々当たり前のようにお米がいただけるようになったものの––––もっとも、昨年からそうもいかなくなってきたが––––、本来、自然の力に左右される農作物である稲が、これまで2000年以上も毎年収穫でき、多くの人々の食卓に並んできたことは、いかに奇跡の連続だったか、その重みを、かつての「2ヶ月間、毎日2回」という祭祀の数から感じずにはいられない。
内宮の別宮、風日祈宮で行われる風日祈祭。現在は5月14日と8月4日の2度行われ、5月のみ菅(すげ)で編んだ御笠と御蓑がお供えされる。笠と蓑は、かつて農作業の必需品で、ほどよい雨と風をいただくシンボルでもあるという。
収穫の秋、9月に実施される「抜穂祭(ぬいぼさい)」
お供えする御料米の初穂を抜き奉る儀式
こうして稲は収穫のときを迎え、9月初旬には、やはり神宮神田で「抜穂祭(ぬいぼさい)」が行われる。
抜穂とは、忌鎌(いみかま)と呼ばれる清浄な鎌で稲刈りをした後に、稲穂だけを1本1本抜き取るという古代の収穫法で、鋭利な鎌がない時代の名残と考えられている。
古式のままに麻苧(あさお)で束ねられた抜穂は、数日間、神田で自然乾燥された後、辛櫃(からひつ=神饌など祭祀に必要な品々を入れて運ぶ檜の箱)に納められ、内宮は、御正殿と同じ神明造(しんめいづくり)で建てられている御稲御倉(みしねのみくら)へ、外宮は、日々神饌を調理する、いわば神様の台所である忌火屋殿(いみびやでん)で保管される。
抜穂祭を行うため、神田に向かう神職と奉仕員。
最も重要な祭祀「神嘗祭(かんなめさい)」
収穫された新穀を最初に天照大御神に捧げて感謝をする
そして10月、いよいよ神嘗祭(かんなめさい)が行われる。
神宮で最も重要、かつ最大の祭祀とされる神嘗祭は、天皇陛下自らが刈り入れされた初穂をはじめ、全国各地の農家から、その年に獲れた新穀を天照大御神に献じ、感謝を捧げる祭祀。大御神から授かった稲穂を今年も無事に稔らせ、その御心に報いることができた感謝とともに祈られるのは、皇室の安泰と、人々が平和で豊かで、平穏な暮らしが送れるようにという願い。神宮では創建以来、さまざまな祭祀を行って天照大御神に感謝を捧げ、それとともに五穀豊穣と国家の繁栄、人々の幸せを祈り続けてきたのである。
春に豊作を祈り、秋は収穫に感謝する
思えば日本では、古来新穀をいただくことで、神々や天皇陛下、さらに一般人に至るまで新しい力が授かると信じられてきた。
だからこそ、何よりもまず神嘗祭で天照大御神に初穂を捧げ、次いで天皇陛下が、宮中で天神地祇(てんじんちぎ)、つまり、天上世界と地上世界、それぞれに住む神々に新穀を供え、ともに召し上がるという新嘗祭(「にいなめさい」神宮でもこの日に合わせて新嘗祭が行われる)を行って、最後に村々で秋祭りが行われ、人々がいただくという流れになっていた。昔は新嘗祭が終わるまで、人々が新穀を食べることを控えた背景には、そんなお米への信仰が広く浸透していたからなのだろう。
御稲御倉。内宮の御正宮から、別宮の荒祭宮(あらまつりのみや)へ向かう途中にある。
皇室のご安泰、国民の幸福に日々祈りが捧げられている
神饌でも、お米は水や塩とともに中心的な存在だ。
大きな祭祀はもちろん、毎日朝と夕の2度、内宮と外宮の御祭神にお食事を差し上げる「日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)」でも、前夜から斎館に籠り心身を清めた神職が、火鑽具(ひきりぐ)で火を鑽り出し、その忌火(いみび)と呼ばれる清浄な火と、神々の住む高天原の水と和合したと伝わる外宮の上御井(かみのみい)神社の井戸から汲み出した神聖な水とでお米を蒸し、御飯(おんいい)と呼ばれる「おこわ」にしてお供えされるという。
1粒の籾種から2000粒、3000粒のお米を稔らせる稲は、考えれば考えるほど稀有な食べ物。日頃忘れていたお米のありがたみを、神宮の祭祀を通して気づかされた。
毎日朝と夕の2度、外宮の御正殿の裏にある御饌殿(みけでん)で行われる「日別朝夕大御饌祭」に奉仕する神職たち。内宮と外宮の御祭神にお食事を奉るこの祭祀では、忌火屋殿で神饌が調理された後辛櫃に納められ、御塩で清められる。その後、禰宜が発する警蹕(けいひつ)という御先払いの低い声とともに御饌殿に運ばれる。
Text by Misa Horiuchi
伊勢神宮
皇大神宮(内宮)
三重県伊勢市宇治館町1
豊受大神宮(外宮)
三重県伊勢市豊川町279
文・堀内みさ
文筆家
クラシック音楽の取材でヨーロッパに行った際、日本についていろいろ質問され、<wbr />ほとんど答えられなかった体験が発端となり、日本の音楽、文化、祈りの姿などの取材を開始。<wbr />今年で16年目に突入。著書に『おとなの奈良 心を澄ます旅』『おとなの奈良 絶景を旅する』(ともに淡交社)『カムイの世界』(新潮社)など。
写真・堀内昭彦
写真家
現在、神宮を中心に日本の祈りをテーマに撮影。写真集「アイヌの祈り」(求龍堂)「ブラームス音楽の森へ」(世界文化社)等がある。バッハとエバンス、そして聖なる山をこよなく愛する写真家でもある。
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永遠の聖地、伊勢神宮を巡る
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旅館の矜持 THE RYOKAN COLLECTIONの世界
2025.3.31
相模湾の眺め、美食、温泉……「ひらまつ」のもてなしのすべてがここに。「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」 女将・荒井眞由美
玄関で出迎える荒井女将。正面に飾られたのは書家・井上有一の作品。他にホアン・ミロや陶芸品のコレクションも見事だ。
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「ザ・リョカンコレクション」に加盟する旅館の女将や支配人を紹介する連載「旅館の矜持」。今回は「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」の女将・荒井眞由美さんをご紹介します。
「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」は、相模湾を一望する高台につつましやかに佇む瀟洒な宿です。自らを、〝ヨーロッパの旅館″と呼んでいます。全6軒あるHIRAMATSU HOTELSのなかで2番目にできました。熱海は多くの文豪や財界人が時を過ごした文化の匂いが感じられる温泉街ですが、宿の風情はこの土地により一層の興を添えています。宿のコンセプトである「滞在するレストラン」は、いまや確実に認知されてきています。スタート時点から先頭に立ってここを率いてきた、女将の荒井眞由美さんに話を伺いました。
唯一無二の相模湾の眺望
「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」のオープンは2016年で、開業してから9年が経ちます。私がここで女将を務めてから、同じ月日が流れたことになります。
この宿について誇らしく思うことが二つあります。
朝焼けをバックに施設の外観を遠望する。高台に位置することが一目でわかる。大きな水盤と数寄屋造りの母屋が見事。
一つは現代の名工と謳われた木下孝一棟梁の手による数寄屋造りの母屋です。漆黒の屋根瓦から障子の貼り方一つにいたるまで、細部に目を凝らせば凝らすほど素晴らしい。あまり使うことはありませんが、お茶室はプロの方が見ても敬嘆なさるようです。壁の漆喰塗に現れた侘び寂びの世界には、思わずため息が出ます。
二つ目は、目線が水平線とちょうど同じ高さになる相模湾の眺望。快晴の日には、初島、大島はもちろん、三浦半島や房総半島までを一望できます。この景色に心癒されるお客様はとても多いのです。ですから、景色に向かって、「本当にいつも、ありがとう」と言っています(笑)。
ダイニング脇のテラスにて。食前のアペリティフ、食後のディジェスティフをとりながらここで過ごすのもすこぶる快適だ。
「親戚の家」に泊まりに来た感覚
黙っていてもこうした恩恵の元にある宿ですけれども、そこに魂を入れるのは私たちスタッフです。「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海」の最大の特徴は、ゲストの皆様に、どこか懐かしく、和んでいただけることだと思っています。それが端的に感じられるのはリピーターの多さですね。
私が思い描いている理想像は、宿を「親戚の家のように」思っていただくことなのです。家族とまで言うのはおこがましいですから、「親戚」ぐらいの表現に留めておきますが。まるで親しい人の住まいを再訪するときのように、わざわざお土産を手にされて来て下さるお客様が多いこともあるので、ある程度は叶えられているのかも知れません。だとすれば、女将冥利に尽きますね。
2つある特別室の内の「松の間」、遠くに初島が見える。座卓での夕食・朝食を選ぶことも可能だ。
「松の間」のテラスに設えられた露天風呂。お風呂につかりながら水平線までの大パノラマを見渡せるのは唯一無二だろう。
全13室で、すべての客室がオーシャンビューだ(写真は「1F コーナースイート」)。いつでも名湯を楽しむことができるし、ソファでくつろぐのもいい。
くつろいでフランス料理のフルコースを
この宿の中心となるのは、温泉はもちろんですが、フランス料理のディナーです。料理長の猪野圭介、クリエイティブディレクターの鈴木健太郎、ふたりのシェフが、地元食材をつかって創りあげます。猪野は伝統的なフランス料理、鈴木はモダンスタイルのフランス料理を得意としています。
相模灘と近隣の畑の恵み、そして全国から旬の素材が届く。ひらまつ各店で研鑽を重ねたふたりのシェフが、極上のフランス料理に仕上げてくれる。
熱海という土地は、魚介類に恵まれているだけではなく、美味しい野菜がたくさん採れるのです。シェフは漁港や畑に通い、地域との関係性を深める良い機会になっています。料理は、土地の利を活かした魚介と野菜を盛り込み、日本全国から取り寄せた旬の素材も組み込んだフルコースです。
夕食時のダイニングから見える、暮色に染まった空と水盤上の篝火は幻想的ですらある。リゾート感が最高潮を迎える刻だ。
湯上りの寛いだ装いでそのままダイニングにいらっしゃる方もいらして、ご自宅のようなリラックスした気分でフランス料理のフルコースをたのしめることも魅力です。当宿のコンセプトは「滞在するレストラン」ですから、食の場面で十二分にリラックスしていただけることが私どもの喜びですね。
「宿の顔は総支配人じゃなくて女将」
HIRAMATSU HOTELSは、賢島(三重)、熱海(静岡)、仙石原(神奈川)、宜野座(沖縄)、京都、軽井沢 御代田(長野)の順番で出来ました。そもそも私どもは、レストラン発祥のホテルですが、レストランが宿を作ってしまうのは珍しいんじゃないでしょうか。
さらに珍しいのは、開業当初、未経験の分野であるのに、ホテル経験者を一人も入れなかったことです。ひらまつでレストランやブライダルに携わっていたメンバーだけで、旅館事業を始めました。
いま振り返っても驚きを隠せませんが、それが当時のひらまつらしさなのです。レストランのひらまつらしさを出すためには、それが大切だというのが創業者の考え方でした。
私が女将になったいきさつは簡単です。創業者に「この宿の顔は女将だよ。だから、女将をやってくれ」と言われたからです。創業者はフランスのオーベルジュをイメージしていたと思いますが、宿というものには顔がないとダメだと気付いたんでしょうね。私に声がかかったのは、完成するたった2カ月前のことでした。
どうして創業者が私を指名したかと言いますと、これも簡単です。場所が東京から近い熱海だから、おそらく著名人がたくさんいらっしゃるし、お客様の要求のハードルが高いことが容易に予測できたわけです。私はブライダルで様々なお客様に接していて、経験を積んでいたので、臨機応変に対処できると思われたのでしょう。
実際に来て下さるお客様は、どなたでもご存じのような文化人や著名人、外国の著名人がとても多いですね。
ホテル業はゼロからのスタート
女将業はゼロからのスタートでしたが、ホテルの開業自体もゼロからです。ひらまつで培ってきたレストランとブライダルのノウハウがあるだけで、宿泊業に関してはまったくの手探りです。レストランとホテルの間で大きく違うのは、滞在時間です。そこが最大の課題でしたね。
実際に開業してみると、最初はお客様からたくさんのご指摘がありました。困難なことばかりで、落ち着くまでには1年半ぐらいかかったかしら。悩み多き日々でしたが今日まで続けられたので、頑張ったね!と自分をほめています。
「松の間」の縁側にて。「開業から困難なことばかりで、落ち着くまでには1年半ぐらいかかったかしら」
「ひらまつイズム」と建築の継承
「ザ・リョカンコレクション」に加盟している他の施設の多くは、歴史も伝統も文化も確固たるところばかりでしょう? 重要なテーマとして、前代や前々代あるいはもっと以前からの「継承」が常にありますよね。
そういう意味では、当ホテルが継承したのは、レストランやブライダルで培った接客の文化であり、とにかく美味しいものを味わっていただくという文化です。ひと言にすると、「ひらまつイズム」ということになるのでしょう。
さきほど親戚の家に来たような気持ちと言いました。考えてみれば、この数寄屋造りの建築は以前、ある会社経営者の別荘兼ゲストハウスだったんですね。その方は奥様と一緒に、細部に至るまで趣味の良い贅を尽くされたのです。
人が住んでいた温もりがそこかしこに残っているのもそこに理由があると思います。だからこそ、いま泊まりに来られるお客様もそれを感じて、和まれるのではないでしょうか。
日本家屋が持つ温もりは、「梅の間」と「松の間」の2つの特別室にお泊りいただくのが一番です。とは言え、エントランスやダイニングやテラスなどのパブリックスペースでも、十分に堪能できます。
障子一つ取っても、難しい技術で貼ってある箇所は、京都の職人さんのところでやってもらっています。そういう意味で、この数寄屋造りの建築を維持していくことも大事な「継承」の一つと言えます。
アパレル業界からブライダル業界へ
そもそもの身の上話をしますと、私はひらまつに来る前は、アパレル業界で働いていました。でも、私の頭の一角をずっと占めていたのはブライダル業界でした。そんなときに、ひらまつがレストランウエディングを始めることになったのですね。いまからちょうど29年前の1996年のことです。
その頃のブライダルの主流は、まだまだホテルや結婚式場の時代でした。ですから、ひらまつが着手しようとしたことは、時代の一歩先、二歩先を行っていました。ウエディングにおけるコーディネーターというのは――当社ではコンシエルジュと呼んでいますが――お客様の要望を一から十まで伺って結婚式を作り上げることです。
この時もウエディングの経験者を外部から採用せずに始めました。レストランでお付き合いのあるお花屋さんや、お客様が持ち込まれたドレスショップなど、一緒にウエディングをつくりあげていくパートナーとなる契約先を徐々に増やしていきました。
こうしてウエディングに携わって20年間が経ったところで、私はホテルをゼロからやることになったわけです。
ブライダル コンシェルジュとして活躍していたころのポートレート。
「ひらまつアカデミー」の立ち上げ
出発点からしますと、現在というのはまさに隔世の感がありますね。
このホテルに来られる方が重要視しているポイントは様々です。アクティビティが好きな方はほぼいらっしゃいません。黙って海を見ることが好きな方、美味しい食事のために来てくださる方、温泉に入って静かな海の音だけを聞きたい方、スタッフとお喋りするのを楽しみにされている方などいろいろです。
迎える私どもは、最適な距離を取りながら、お客様に寄り添う存在でありたい。そして、基本的には、「美味しいものを食べて、ゆっくり温泉につかることがこのホテルのいいところなんだ」と思ってもらえたら、また来て下さると思っています。
事前にご要望があれば、出来る限りお応えしたい。客室が13室しかない、フェイス・ツー・フェイスのホテルだからこそ、それが可能だと思っています。
実は、最近、「ひらまつアカデミー」というものを立ち上げたばかりなのですね。これは後進に「ひらまつイズム」を伝承していく取り組みです。
例えば、ひらまつが考える「おもてなし」や「真のラグジュアリー」とは何かの教育です。そこにはリーデルやベルナルドや江戸切子がどういうものかなど、さまざまな雑学的知識も含まれます。いわゆる “雑学”ってとても大事で、それをきっかけにして、お客様と会話ができますから。私も教える側の一員として、文字にはなっていない経験を伝えていければいいなと思っています。
荒井眞由美 Mayumi Arai
1967年、東京都生まれ。アパレル勤務を経て、1996年、(株)ひらまつ入社。レストランウエディングの黎明期より、ブライダルコーディネーターとして活躍。後、ブライダル事業の統括責任者。2016年「THE HIRAMATSU HOTELS RESORTS 熱海」オープンとともに女将に就任、現在に至る。
構成/執筆:石橋俊澄 Toshizumi Ishibashi
「クレア・トラベラー」「クレア」の元編集長。現在、フリーのエディター兼ライターであり、Premium Japan編集部コントリビューティングエディターとして活動している。
photo by Toshiyuki Furuya
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2025.3.24
「バンヤンツリー・東山 京都」喧騒を離れた、京都のサンクチュアリ
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清水寺と高台寺の間に位置する霊山(りょうぜん)に、世界有数のリゾート&ホテルブランド「バンヤンツリー・東山 京都」が2024年8月に誕生した。52室のラグジュアリーな客室と人気のバンヤンツリー・スパ、そして2つの個性的なダイニングを備えたバンヤンツリー・東山 京都には、ここにしかない体験と時間が約束されている。
世界的に憧れのリゾートホテルと人気が高いバンヤンツリー
バンヤンツリーのはじまりは、1984年へ遡る。バンヤンツリー創業者がタイ・プーケットのバンタオ湾にある550エーカーにおよぶ錫鉱山の跡地を取得し、汚染された土地を浄化するために7,000本を超える樹木を植樹して、酸性化した土壌を10年掛けて改善。
1994年、バンヤンツリーグループのフラッグシップ リゾートとなる「バンヤンツリー・プーケット」をはじめとする、アジア初の統合リゾートである「ラグーナ・プーケット」が誕生する。ラグーナ・プーケットは海辺の大きなラグーンを中心に、現在9つの高級リゾートホテルやヴィラが建ち並び、その近くにはゴルフ場やレストランが点在するプーケット随一の高級リゾートを形成。現在もさらなる開発が続いている。
また他にも、世界的なリゾートブランドの象徴として、世界の景勝地や歴史的な聖地、また美しいビーチやリゾート島などに次々とオープンさせており、地域活性・環境保護・ローカルコミュニティへの還元など、サステナブルな開発を行っている。
人気観光地「京都」につくられた、日本の伝統美に酔いしれる滞在
では、バンヤンツリーグループが京都でどのような世界観を作り出したのか、やはり興味が湧いてくる。
急な坂道をのぼっていくと京都市街を一望できる高台にたどり着く。そこに現れたのは、日本の伝統技術によってつくられた美しい木造の正門。喧騒を離れた静寂の空間と特別な時間の入り口である。
祇園の観光名所まで徒歩圏でありながら、喧騒から離れた静寂に包まれている。
ホテルの入り口にある天然木の門。
バンヤンツリーが描く日本の伝統美として掲げられたコンセプトは「幽玄」だと言う。幽玄とは、深遠な神秘を表す言葉であり、「風姿花伝」や「花鏡」といった世阿弥が残した能楽書に度々使われ、能と深く結びついた概念でもある。
そのコンセプトを象徴するように、ホテル敷地内には約12mの高低差を活かした3つの庭と竹林が広がり、中には「隈研吾建築都市設計事務所」がデザインした能舞台「The Noh Stage」がある。
ホテル敷地の中央にある能舞台「The Noh Stage」。
ホテルロビー。
木組みだけの構造体であるこの能舞台は、周囲の竹林、そして空と溶け合い、独特な建築美を持つ。水盤に浮かび建つその姿は、まるで時空を超えた空間のようであり、人間界と自然界の境界のようにも見える。
東山の霊山エリアといえば、敷地の北には大谷祖廟、南には鳥辺野とよばれた場所があり、古くから現世と来世を隔てる結界のような場所とされている。現在もこのエリアには寺院や神社が多く存在し、街中の賑わいとは異なり、神聖な静けさを保っている。
日本の美意識とリラクゼーションを追求するバンヤンツリーの感性の融合
次は客室を見てみよう。
ホテルのコンセプトである「幽玄」を踏まえ、能舞台にちなみ能の伝書のひとつ「風姿花伝」の中から「秘すれば花」という一節を客室のテーマにも掲げている。大きなヒバの木のバスタブや畳があったり、金箔のアクセントが使われていたり、日本の伝統的な技法が施されている。
「セレニティ・ダブル」。
「ONSENリトリート」のダブル洗面化粧台。
「グランドONSENリトリート」。
「天然温泉」の露天風呂。
ここにはかつて京都では珍しく温泉の源泉を有する老舗宿「ホテルりょうぜん」があったことから、天然温泉を引いており、客室の一部「ONSEN」ルームには天然温泉が引かれている。またゲストのみが使用できる大浴場「天然温泉」も完備。内湯に加えて露天風呂も楽しめる。
シングルルーム4室、ダブルルーム2室を備えた「バンヤンツリー・スパ」。
食に関しても興味津々である。シグネチャーダイニング「りょうぜん」では、地元の食材で作る会席料理、和食割烹料理を提供。京都の清らかな軟水に合う5年熟成の利尻昆布からとったコクのある出汁を堪能したり、京野菜や京都ならではの調味料を使ったり、ここでしか味わえない五感に響くヘルシーな食体験が待っている。
また、20席しかない隠れ家的なバー「BAR RYOZEN」では、県外に流通しない希少な日本酒を含む30種類以上の京都の地酒やプレミアム日本酒のほか、RYOZEN抹茶ジントニックやMirinブリーズなど、ローカル食材を使ったカクテルなど、独創的な味わいが楽しめる。
朝食・昼食・夕食がいただける「りょうぜん」。
美しい日本の美意識が表現された料理。
バンヤンツリー・東山 京都では、宿泊ゲスト向けに日本の文化体験のアレンジも行っている。能面師の工房を訪ねたり、非公開の香道体験をしたり、旅の醍醐味でもあるプレミアムな体験も叶えてくれる。
「京都」の街中の喧騒から離れて、バンヤンツリー・東山 京都が作り出す空間や時間に遭遇すると、古都・京都の本当の魅力を静かに感じることができるはずだ。
Text by Yuko Taniguchi
京都府京都市東山区清閑寺霊山町7番地
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