Review: The All New Peugeot 508

カッコで選んでも後悔しない、はず──新型プジョー 508試乗記

プジョーのフラグシップ・モデル「508」に試乗した。ドイツ勢とはまるで異なるプジョーらしさとは? 文・今尾直樹 写真・望月浩彦
カッコで選んでも後悔しない、はず──新型プジョー 508試乗記
【主要諸元(GT BlueHDi)】全長×全幅×全高:4750mm×1860mm×1420mm、ホイールベース:2800mm、車両重量:1630kg、乗車定員:5名、エンジン:1997cc直列4気筒DOHCディーゼルターボ(177ps/3750rpm、400Nm/2000rpm)、トランスミッション:8AT、駆動方式:FF、タイヤサイズ:235/45 ZR18 リア、価格:492万円
実物はホントにカッコイイ!

2018年春のジュネーブショーで発表されたプジョー「508」が、2019年3月からニッポンでも販売されている。日本仕様はガソリンが2種、スタンダードの「Allure」と「GT Line」で、価格はそれぞれ417万円と459万円。ディーゼルが1種で、「GT」のみの492万円。以上、3種類がラインナップされている。

実物はホントにカッコイイ! 全長4750mm×全幅1860mm×全高1420mmで、ホイールベースは2800mm と、トヨタ「カムリ」やフォルクスワーゲン「アルテオン」とほぼ同サイズだけれど、ほんのちょっぴり小さい。先代よりも80mm短くて、35mm低く、8mmだけワイドになっている。

Peugeot 508|プジョー 508 ボディは全長×全幅×全高:4750mm×1860mm×1420mm。
Peugeot 508|プジョー 508 ボディ形状は、大型のテールゲートを持つ5ドアと、ステーションワゴンが選べる。

ホイールベースは17mmしかカットされていないから、オーバーハングを切り詰めて、ワイド&ローを強調しているわけだ。フロントのボンネットがグリルへとつながるギリギリまでフラットに広がり、グリルはほとんど直角に屹立する。

リアはクーペライクに、なだらかにスロープする。また、実用性を慮ってリアゲートを備えている。ガバチョと開いて、外見には似合わぬ広大な荷室が現れるのだ。プジョーのリリースには「4ドア・ファストバック」とあるけれど、「5ドア」なんである。

Peugeot 508|プジョー 508 オートライト付きフルLED ヘッドライト、LEDデイタイムランニングライト、固定式コーナーリングランプは標準。
Peugeot 508|プジョー 508 ライオンの鉤爪をモチーフとするフルLEDテールライト。
Peugeot 508|プジョー 508 プジョーのロゴを据えたフロントグリル。
Peugeot 508|プジョー 508 タイヤサイズは235/45 ZR18。
Peugeot 508|プジョー 508 グレード名のエンブレムは、リアドアにもある。
Peugeot 508|プジョー 508 ドアはサッシュレスタイプ。リアウインドウの3分の1は固定されている。
アナログ風デジタルメーターがいい味を演出

プラットフォームはグループPSA(プジョーシトロエン)の「EMP2」を使っている。先代より同等装備で70kgのダイエットに成功してもいる。ボンネットやフェンダーはアルミ製で、テールゲートは複合素材を用いている。構造用接着剤の使用ぶんは24mにおよぶ。

まずはディーゼルのGTに試乗した。正式にはこの後ろに“Blue HDi”と続く。自慢はコモンレール式直噴システムを持つ2.0リッター直列4気筒DOHCターボ・ディーゼルである。

でも、その前にインテリアのカッコよさを述べておきたい。エクステリアもカッコイイけど、インテリアはもっとイイ。おそらくフェラーリよりも小径のステアリングホイールにデジタルメーター、それにピアノのキーのようなスイッチが7つ並ぶ。なんだかとっても新しい。

Peugeot 508|プジョー 508 インテリアは「PEUGEOT i-Cockpit」と呼ばれる。
Peugeot 508|プジョー 508 オーディオコントローラーなどを備えた小径のステアリング。
Peugeot 508|プジョー 508 インパネ下部には、スマートフォンのワイヤレスチャージング用の置き場もある。
Peugeot 508|プジョー 508 パノラミックサンルーフはオプション。
Peugeot 508|プジョー 508 FOCAL(フォーカル)プレミアムHiFiシステムは標準。
Peugeot 508|プジョー 508 スピーカー数は10個。

デジタルメーターは6種類の表示モードを持つ。なかでも、周波数をアナログで合わせる昔のラジオみたいなメーターがオシャレだ。液晶画面の両端に回転系と速度計が縦方向に表示されるので、ちっちゃくて見にくいという欠点はあるけれど、メーターの針がときどきひっかかったみたいな動きをしてカワイイ。CGで昔のメーターを再現しているのだ。ピクサーがやりそうな表現で、いいなぁ、こういうの。

ピアノ・キーみたいなスイッチではナビゲーションや空調、ラジオなどに直接アクセスできる。シンプルなのが一番である。

Peugeot 508|プジョー 508 フルデジタルのメーターパネルは、複数の表示方法を任意で選べる。アナログ風デザインもある。
Peugeot 508|プジョー 508 フルデジタルのメーターパネルは、複数の表示方法を任意で選べる。
Peugeot 508|プジョー 508 フルデジタルのメーターパネルは、複数の表示方法を任意で選べる。運転支援機能の作動状況を大きく表示するモードもある。
Peugeot 508|プジョー 508 フルデジタルのメーターパネルは、複数の表示方法を任意で選べる。
Peugeot 508|プジョー 508 ナビゲーションやハンズフリー機能のスイッチは、ピアノの鍵盤のようなキー。
4.0リッター並みの大トルクでクルージングは悠々

スポーツカーみたいなシートは、座ってみるとクッションが柔らかめで、走り始めると、乗り心地がいいのにたまげる。“フワンフワン”というフレーズが浮かんだけれど、ちょっと違う。“ふわりふわり”である。

Peugeot 508|プジョー 508 アクティブサスペンションは全車標準。ショックアブソーバーの減衰力を、路面状況に応じ、電子制御でリアルタイムにコントロールする。
Peugeot 508|プジョー 508 ドライブモードは4つから選べる(エコ/コンフォート/ノーマル/スポーツ)。サスペンションにくわえステアリング、ATシフト、アクセルレスポンス、エコドライブ機能などを制御するという。

235/45ZR18サイズのミシュラン・パイロット・スポーツ4のあたりはやや硬めながら、サスペンションがゆったりと動いている感じ。240km/h超対応のZR規格なのにいかにもフランス車らしい、シトロエン2CVとかルノー4とか、もっと車重が軽いクルマのような軽やかさがある。

プジョーが「アクティブサスペンション」と呼ぶ電子制御の可変ダンピング機構が、日本仕様は全車に標準である。スポーツ、コンフォート、エコ、ノーマルと4つのドライブビングモードがあるけれど、浮かんではゆっくり沈み、浮かんではゆっくり沈む独特の味わいを楽しむにはコンフォートが一番いい。

2.0リッターの直列4気筒ターボ・ディーゼルは最高出力177ps/3750rpm、最大トルク400Nm/2000rpmを発揮する。わずか2000rpmで400Nmである。ガソリンの自然吸気エンジンでいえば、4.0リッター並みの大トルクだ! と、驚いたふりするのにも、読者諸兄は飽きられたかもしれない。じつのところ筆者はそれほどディーゼル好きではないのだけれど、これはイイ。トルクのぶ厚さが印象的で、静かでもある。

Peugeot 508|プジョー 508 ディーゼルモデルが搭載するエンジンは、1997cc直列4気筒DOHCディーゼルターボ(177ps/3750rpm、400Nm/2000rpm)。
Peugeot 508|プジョー 508 給油口はキャップレス。隣にある青いキャップは、排ガス処理用のアドブルー充填口だ。

100km/h巡航は、前述したようにメーターが見にくいのでよくわからないのですけれど、1300rpm程度である。

長尾峠のようなRの小さい激坂登坂路だって、ぶ厚い低速トルクを利して軽やかに登っていく。アンダーステアを出すようなこともない。車重1660kgのうち前輪に1030kg、たっぷり荷重が載っている。タイヤへの荷重はあるところまではかかっている方がグリップ力は増す。

Peugeot 508|プジョー 508 搭載するトランスミッションは8AT。
Peugeot 508|プジョー 508 ディーゼルモデルの、WLTCモード燃費は16.9km/L。
ガソリン・ターボは“さわやか“な乗り味

このあと、ガソリンのGT Lineに乗った。ガソリンの方が軽快なのは、予想通りである。そもそも車重が、車検証だと1540kgと120kgも軽い。それもフロントが940kgと90kgもライトウェイトで、鼻先の軽さを感じる。

1.6リッターの直列4気筒ガソリン・ターボは、先代より15psアップの最高出力180ps/5500rpm、最大トルク250Nm/1650rpmを発揮する。また、パーティクル・フィルターを取り入れてユーロ6.2に対応し、エコにも気をつかっている。この1.6ターボは平地を走っている限り、小さな排気量を意識させない。

Peugeot 508|プジョー 508 ガソリンモデルが搭載するエンジンは、1598cc直列4気筒DOHCターボ(180ps/5500rpm、250Nm/1650rpm)。

ただし、ディーゼルから乗り換えると、長尾峠の上りは物足りない。こちらもアイシンAWの8ATとの組み合わせだけれど、せっせと変速してエンジンの能力を最大限に引き出しているはずなのに、やっぱりトルクが絶対的に細いからだろう。

とはいえ、もしもディーゼルに乗っていなかったら、これはこれで軽快で、“さわやかな”クルマと感じるに違いない。1.6ガソリン・ターボそれ自体とてもいいエンジンではあるけれど、プジョー508はサスペンションがさわやかなのである。

Peugeot 508|プジョー 508 ガソリンモデルの、WLTCモード燃費は14.1km/L。
プジョーの反撃、はじまる

なお、プジョーが508をファストバックのクーペ型のセダンとしたのには、Dセグメントの3台に1台がSUVになっているという市場の現実があったという。

しかも、伝統的なセダンは販売台数がのびていない。よりダイナミックで、よりプレミアムな方向、より踏み込んだデザインをマーケットは求めている。そういう判断のもと、プジョーは2014年の北京モーターショーでEXALT(イグザルト)というコンセプトカーを発表して反響を探った。

ちなみに、EXALTは「ほめそやす」とか「身分・位などを上げる」という意味の英語の動詞である。

Peugeot 508|プジョー 508 ナッパレザーシートはパッケージオプション。
Peugeot 508|プジョー 508 標準のシート表皮は、アルカンターラとレザーのコンビタイプ。
Peugeot 508|プジョー 508 センターアームレスト付きのリアシート。
Peugeot 508|プジョー 508 リアシート専用のUSB端子は2個ある。

新型508はこのイグザルトの流れをくむ。ご存じのかたはご存じのように、PSAは2014年に中国の東風汽車から資本を受け入れた。同じ年に元ルノーCOO(最高執行責任者)のカルロス・タバレスがCEOに就任し、あっという間に立て直してしまった。2017年にはオペルをGMから買収し、最近はFCA(フィアット・クライスラー)との合併をタバレス氏は画策している云々、というようなことになっているらしい。

いずれにせよ、経営危機下にあったプジョーがフランス車に回帰することで活路を見出した。アンチ・グローバリズムの波を自動車好きは歓迎すべきなのかもしれない。

Peugeot 508|プジョー 508 ラゲッジルーム容量は487リッター。
Peugeot 508|プジョー 508 リアシートのバックレストは40:60分割可倒式。
Peugeot 508|プジョー 508 リアシートのバックレストをすべて格納すると、ラゲッジルーム容量は1537リッターに拡大する。
Peugeot 508|プジョー 508 ラゲッジルームのフロア下には、スペアタイヤが置かれている。
Peugeot 508|プジョー 508 ラゲッジルーム内にあるサブウーファー。
Peugeot 508|プジョー 508 テールゲートは電動開閉式。

書き忘れていたけれど、新型508はアドバンスト・ドライビング・アシスタンス、先進運転支援も多数搭載する。ACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)は3秒以内なら完全停止から再発進もする。シートには簡易マッサージ機能もある。リアシートのヘッドルームがミニマムなのは欠点だけれど、ファストバックなんだから致し方ない。

Peugeot 508|プジョー 508 ACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)や操舵支援など、最新の運転支援装備は標準。

どうしてもそれが……という人は、ワゴンの「508SW」がある。こちらはヘッドクリアランスが約4cm高くなるという。システム出力230ps の508PHEVも準備中ということで、プジョーの反撃は始まったばかりである。