2018年春のジュネーブショーで発表されたプジョー「508」が、2019年3月からニッポンでも販売されている。日本仕様はガソリンが2種、スタンダードの「Allure」と「GT Line」で、価格はそれぞれ417万円と459万円。ディーゼルが1種で、「GT」のみの492万円。以上、3種類がラインナップされている。
実物はホントにカッコイイ! 全長4750mm×全幅1860mm×全高1420mmで、ホイールベースは2800mm と、トヨタ「カムリ」やフォルクスワーゲン「アルテオン」とほぼ同サイズだけれど、ほんのちょっぴり小さい。先代よりも80mm短くて、35mm低く、8mmだけワイドになっている。
ホイールベースは17mmしかカットされていないから、オーバーハングを切り詰めて、ワイド&ローを強調しているわけだ。フロントのボンネットがグリルへとつながるギリギリまでフラットに広がり、グリルはほとんど直角に屹立する。
リアはクーペライクに、なだらかにスロープする。また、実用性を慮ってリアゲートを備えている。ガバチョと開いて、外見には似合わぬ広大な荷室が現れるのだ。プジョーのリリースには「4ドア・ファストバック」とあるけれど、「5ドア」なんである。
プラットフォームはグループPSA(プジョー・シトロエン)の「EMP2」を使っている。先代より同等装備で70kgのダイエットに成功してもいる。ボンネットやフェンダーはアルミ製で、テールゲートは複合素材を用いている。構造用接着剤の使用ぶんは24mにおよぶ。
まずはディーゼルのGTに試乗した。正式にはこの後ろに“Blue HDi”と続く。自慢はコモンレール式直噴システムを持つ2.0リッター直列4気筒DOHCターボ・ディーゼルである。
でも、その前にインテリアのカッコよさを述べておきたい。エクステリアもカッコイイけど、インテリアはもっとイイ。おそらくフェラーリよりも小径のステアリングホイールにデジタルメーター、それにピアノのキーのようなスイッチが7つ並ぶ。なんだかとっても新しい。
デジタルメーターは6種類の表示モードを持つ。なかでも、周波数をアナログで合わせる昔のラジオみたいなメーターがオシャレだ。液晶画面の両端に回転系と速度計が縦方向に表示されるので、ちっちゃくて見にくいという欠点はあるけれど、メーターの針がときどきひっかかったみたいな動きをしてカワイイ。CGで昔のメーターを再現しているのだ。ピクサーがやりそうな表現で、いいなぁ、こういうの。
ピアノ・キーみたいなスイッチではナビゲーションや空調、ラジオなどに直接アクセスできる。シンプルなのが一番である。
スポーツカーみたいなシートは、座ってみるとクッションが柔らかめで、走り始めると、乗り心地がいいのにたまげる。“フワンフワン”というフレーズが浮かんだけれど、ちょっと違う。“ふわりふわり”である。
235/45ZR18サイズのミシュラン・パイロット・スポーツ4のあたりはやや硬めながら、サスペンションがゆったりと動いている感じ。240km/h超対応のZR規格なのにいかにもフランス車らしい、シトロエン2CVとかルノー4とか、もっと車重が軽いクルマのような軽やかさがある。
プジョーが「アクティブサスペンション」と呼ぶ電子制御の可変ダンピング機構が、日本仕様は全車に標準である。スポーツ、コンフォート、エコ、ノーマルと4つのドライブビングモードがあるけれど、浮かんではゆっくり沈み、浮かんではゆっくり沈む独特の味わいを楽しむにはコンフォートが一番いい。
2.0リッターの直列4気筒ターボ・ディーゼルは最高出力177ps/3750rpm、最大トルク400Nm/2000rpmを発揮する。わずか2000rpmで400Nmである。ガソリンの自然吸気エンジンでいえば、4.0リッター並みの大トルクだ! と、驚いたふりするのにも、読者諸兄は飽きられたかもしれない。じつのところ筆者はそれほどディーゼル好きではないのだけれど、これはイイ。トルクのぶ厚さが印象的で、静かでもある。
100km/h巡航は、前述したようにメーターが見にくいのでよくわからないのですけれど、1300rpm程度である。
長尾峠のようなRの小さい激坂登坂路だって、ぶ厚い低速トルクを利して軽やかに登っていく。アンダーステアを出すようなこともない。車重1660kgのうち前輪に1030kg、たっぷり荷重が載っている。タイヤへの荷重はあるところまではかかっている方がグリップ力は増す。
このあと、ガソリンのGT Lineに乗った。ガソリンの方が軽快なのは、予想通りである。そもそも車重が、車検証だと1540kgと120kgも軽い。それもフロントが940kgと90kgもライトウェイトで、鼻先の軽さを感じる。
1.6リッターの直列4気筒ガソリン・ターボは、先代より15psアップの最高出力180ps/5500rpm、最大トルク250Nm/1650rpmを発揮する。また、パーティクル・フィルターを取り入れてユーロ6.2に対応し、エコにも気をつかっている。この1.6ターボは平地を走っている限り、小さな排気量を意識させない。
ただし、ディーゼルから乗り換えると、長尾峠の上りは物足りない。こちらもアイシンAWの8ATとの組み合わせだけれど、せっせと変速してエンジンの能力を最大限に引き出しているはずなのに、やっぱりトルクが絶対的に細いからだろう。
とはいえ、もしもディーゼルに乗っていなかったら、これはこれで軽快で、“さわやかな”クルマと感じるに違いない。1.6ガソリン・ターボそれ自体とてもいいエンジンではあるけれど、プジョー508はサスペンションがさわやかなのである。
なお、プジョーが508をファストバックのクーペ型のセダンとしたのには、Dセグメントの3台に1台がSUVになっているという市場の現実があったという。
しかも、伝統的なセダンは販売台数がのびていない。よりダイナミックで、よりプレミアムな方向、より踏み込んだデザインをマーケットは求めている。そういう判断のもと、プジョーは2014年の北京モーターショーでEXALT(イグザルト)というコンセプトカーを発表して反響を探った。
ちなみに、EXALTは「ほめそやす」とか「身分・位などを上げる」という意味の英語の動詞である。
新型508はこのイグザルトの流れをくむ。ご存じのかたはご存じのように、PSAは2014年に中国の東風汽車から資本を受け入れた。同じ年に元ルノーCOO(最高執行責任者)のカルロス・タバレスがCEOに就任し、あっという間に立て直してしまった。2017年にはオペルをGMから買収し、最近はFCA(フィアット・クライスラー)との合併をタバレス氏は画策している云々、というようなことになっているらしい。
いずれにせよ、経営危機下にあったプジョーがフランス車に回帰することで活路を見出した。アンチ・グローバリズムの波を自動車好きは歓迎すべきなのかもしれない。
書き忘れていたけれど、新型508はアドバンスト・ドライビング・アシスタンス、先進運転支援も多数搭載する。ACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)は3秒以内なら完全停止から再発進もする。シートには簡易マッサージ機能もある。リアシートのヘッドルームがミニマムなのは欠点だけれど、ファストバックなんだから致し方ない。
どうしてもそれが……という人は、ワゴンの「508SW」がある。こちらはヘッドクリアランスが約4cm高くなるという。システム出力230ps の508PHEVも準備中ということで、プジョーの反撃は始まったばかりである。