Dutch E-Bike Brand VanMoof

アムス発:ニュータイプの自転車メーカーに、令和という新しい時代のセンスを垣間見る

電動アシスト自転車というと、日本では子供のいる母親の乗り物というイメージが強い。一方で男の自転車といえば、フクラハギの太さを自慢し合う人たちが中心の世界なので、ともすれば「電動」は見下されがちである。けれど、世界の見方はちょっと違う。来日したアムステルダムの自転車メーカーVanMoofのCEO、ティーズ・カーリエ氏に話を訊いた。 文・久信田浩之 撮影・鶴岡義大
アムス発:ニュータイプの自転車メーカーに、令和という新しい時代のセンスを垣間見る
VanMoofのCEOティーズ・カーリエ氏。生まれは1978年、オランダ郊外の小さな村。エンジニアとして車や風力タービン、野外フェスのキャッシュレス・システム構築などを経験後、インダストリアル・デザイナーの兄、タコ・カーリエ氏と、2009年に自転車メーカーを設立。手にしているのは、最新のモデルのVanMoof EX2 サンダーグレイ。
eバイク

「たとえばロンドン市は、自転車用のインフラ整備に次の3年間で3億ユーロの予算を組みました。世界中の多くの都市で、車から自転車への転換は始まっています。アマゾンやグーグルといったアメリカのテック企業も、従業員が車からバイクに乗り換えることを奨励しています。世界の自転車産業は、今後5年間で62億ユーロの成長が見込まれていますが、そのうち半分以上がeバイクになるでしょう」

世界の都市開発の趨勢は、中心からできるだけ自動車を排除し、人間中心の空間を取り戻す方向に向かっている。そのとき、都市生活者の移動ツールとして再注目されているのが自転車、とくに「電動アシスト自転車=eバイク」である(※01)。日本では、ナショナルやヤマハ、ブリジストンがメジャーだが、欧州ではドイツやオランダのメーカーが中心だ。とくに自転車大国オランダでは、eバイクは持続可能なライフスタイルのシンボル的存在でもある。

VanMoofは、そんなオランダ・アムステルダム発のニュータイプの自転車メーカーで、2009年、インダストリアル・デザイナーの兄とエンジニアの弟の2人の兄弟が設立。従来の自転車業界とは一線を画す出自や、テクノロジー満載でテック好きに刺さりそうなデザインセンスから「自転車界のテスラ」などとも呼ばれ、一部の熱烈なファンに支持されている。これまでの自転車は高級といっても、結局は複数メーカーのパーツの寄せ集めだったりするけれど、VanMoofはタイヤを除くすべてのパーツを、オリジナルでデザイン。そのディテールからは、プロダクトに対する強いこだわりとプライドを感じることができる。

「VanMoofユーザーの6割は、それまで自転車に乗っていなかった人たちです。ターゲットは自転車を探している人ではなく、車ではない何か新しい移動手段を探している人。ライバルはパナソニックではなく、ベンツやBMW、トヨタやホンダ、ニッサンなのです」

「自転車には、趣味で乗るスポーツバイクと、通勤や通学、日常の足として使うシティバイクがあります。ここ30年間、このシティバイクを良くしようと考えるエンジニアはいませんでした。ひたすら安くすることしか頭になかった。なぜなら、高価なバイクは盗まれるから。そこで、高品質かつ相応の価格のバイクに必要なのは“盗まれない”ことだと考えたのです」

世界の大都市の街角で、チェーンロックで何重にも巻かれた自転車の姿を、見たことはあるだろうか? そんな努力にも関わらず、タイヤやサドルを持ち逃げされた悲しい自転車の写真に、心を痛めたことはないか? VanMoofが広く注目されるきっかけとなったのも、モダンなデザインと同時に、ハイテクな盗難防止システムだった。キーレスロックや盗難アラーム、スマホとの連携、GSM電波による追跡機能など、高級車並みの盗難防止機能を搭載。万が一盗まれたときは、バイクハンターと呼ばれる捜査専門チームが現地に派遣され、2週間以内に取り戻せなければ、同等品と交換するという保証も用意されている。

VanMoofのラインナップには、現在、この盗難防止機能を搭載する「Smartシリーズ」と、盗難防止機能+電動アシスト機能を持つ「Electrifiedシリーズ」があり、それぞれフレームの形状によって「S」と「X」の2タイプがある。「S」はロードタイプの大型で、「X」は一回り小さなクロスバイク風のフォルム。そして今回「Electrifiedシリーズ」のVir2.0として発表されたのが「Electrified S2」と「Electrified X2」。実車完成前の先行予約だけで1万1000台という、業界内では驚異的数字を記録し、eバイク界の注目を集めている。

バンムーフ | VanMoof 日本市場向け次世代スマートバイク+電動アシスト付きモデルとして、世界に先駆けて2017年5月に東京でデビューを果たした、初代Electrified X。カラーバリエーションは全4色。翌年には世界デビューを果たし、幅広い支持を獲得。VanMoofブレイクのきっかけをつくったモデルだ。
バンムーフ | VanMoof 2017年当時、日本で真っ先にローチンされた初代のキャッチフレーズが「盗まれないスマートバイク」だった。キーレスロックや盗難アラームを採用し、たとえ盗まれてもGSM方式の電波で追跡可能。高級外車並の盗難防止システムが、当時、次世代スマートバイクと呼ばれた所以であった。
バンムーフ | VanMoof 万が一盗まれても、VanMoofが世界中に派遣するバイクハンターたちが、スマホ片手に盗難車を徹底追跡。2週間たっても見つからなければ同等品との交換を保証する「Peace of Mind保証」なるオプションサービスもある。だからVanMoofは「盗まれないスマートバイク」なのだ。
バンムーフ | VanMoof VanMoofはディストリビューター、つまり販売店を持たない。ネット通販による直販が中心だ。そのため、日本ではIKEAで有名になったフラットパックをVanMoofも採用している。フラットなので、保管や輸送にかかるコストが節約可能。VanMoofの強みのひとつでもある。

「2017年に行った最初のクラウドファンディングで、私たちは14日間で€250万(約3億円)を集めました。それは当時、オランダのクラウドファンディング史上、最速の記録でした。その資金で、 S2とX2の開発が可能になったのですが、それも、初代Electrified Xの成功があったからです」

じつは初代のElectrified Xは、東京に暮らす人たちのためにデザインされ、世界でいちばん最初に東京で発売されたモデルだった。オランダ人は背が高い。都市空間や建築の規格も大きい。ティーズ・カーリエ氏の身長も約2メートル。けれど、そんなカーリエ氏が初めて訪れた東京は、階段もエレベーターも舗道も、都市の規格がすべて小さくて狭い。そして毎朝夕に目にする、通勤地獄に晒される人々の姿。そんな東京の都市生活者を満員電車やすし詰めバスから解放するために、よりコンパクトなボディを持つeバイクとしてデザインされたのが、Electrified Xだった。

普通の自転車通勤者の移動距離は平均3kmほどだが、eバイクならこの数字を20kmまで引きあげることができるという。オランダと違って坂道の多い東京の通勤でも、苦にならず、フクラハギにも優しい。しかも、VanMoofのモダンなデザインなら、ジャケットでも決して違和感はない。日本でも、車やバイクに代わるシティコミューターとして、eバイクにもっと注目が集まってもいいように思う。実際、2017年にElectrified Xが東京でローチンされたとき、注目するメディアは少なくなかった。東京に足りないのはきっと、自転車専用レーンなど自転車のための都市インフラなのだろう。

「日本はいつもインスピレーションを与えてくれます。世界的メーカーの多くが製品の品質テストに日本市場を選ぶとも言われるほど、日本人のプロダクトに対する審美眼は世界一です。すべてがミニマリスティックでハイクオリティ。でも、自転車だけが古臭く、時代遅れに思えたのです」

バンムーフ | VanMoof Electrifiedシリーズの最新モデル、コンパクトなクロスバイク風のフレームが特徴の「X2」。カラーは全2色。写真はフォグホワイト。他にサンダーグレイを用意。定価43万円だが、サマーキャンペーン中は34万円。お買い得にて急げ!
バンムーフ | VanMoof クロスバイク風のコンパクトなフレームの「X2」に対し、こちらはロードバイク風大型フレーム採用の「S2」モデル。「X2」同様、内蔵モジュールを刷新。フレーム内に収蔵された最新バッテリーは、容量を30%アップ。4時間の充電で150kmの走行が可能となっている。
バンムーフ | VanMoof 初代からヴァージョンアップされた「S2」「X2」の変更点が、指一本で簡単に施錠可能なロックシステムだ。持ち主以外が動かそうとすればアラームが作動し、がっちりロック! 「盗まれないスマートバイク」の盗難防止システムは、常に進化し続けている。
バンムーフ | VanMoof 「S2」「X2」のさらなる変更点が、スピードやパワーのアシスト状況をデジタルで表示するLEDモニターやスピーカーが一体化された内蔵モジュールだ。バッテリー同様、フレームに収まるそのシンプルな構造が、メンテナンス性能を飛躍的に向上させている。
バンムーフ | VanMoof ステムシャフトと一体化した滑らかな造形が美しいハンドルは、今回新しくなった「S2」「X2」に初採用されたパーツのひとつである。こうしたディテールに対するこだわりが、なによりもVanMoofの魅力なのだ。

かくして、東京のためにデザインされた初代Electrified Xは、そのコンパクトなサイズと機能性により、東京よりむしろ世界中の都市生活者の注目を集め、その後のVanMoof躍進の起爆剤ともなった。現在、VanMoofは、アムステルダム、ベルリン、ロンドン、ニューヨーク、パリ、サンフランシスコ、台北、東京にブランドストアを展開し、世界中に約10万人のVanMoofライダーを抱えている。2019年6月には、VanMoofのライダーやファンのみを対象に、2回目のクラウドファンディングを敢行。わずか12時間で目標の250万ユーロを達成し、自らが持つ記録を塗り替えている。しかも、今回は株式取得型のファンディングで、VanMoofには新たに920人を超える株主が誕生しているのだ。

IPOではなくクラウドファンディングによる資金調達という選択や、ユーザーを中心とした小口の個人株主主体のリベラルな組織構成も、まさしくニュータイプの欧州メーカーという感じなのだが、さらにもうひとつ、VanMoofのニュータイプらしさを感じさせるのが、サブスクリプション(定額制)の採用だ。ソフトウェアの世界ではお馴染みのビジネスモデルだが、リアルプロダクトの、しかもメンテナンスが不可欠な自転車のような製造業では珍しい。けれどそこから、所有に対する時代の意識の変化が、垣間見える気がするのだ。

かつて、所有が人々の目標だった時代があった。所有する車や、家や、ブランド品が、アイデンティとなり得た時代だ。けれどもう、皆そろそろ気づき始めている。どんなに高価なモノを沢山所有しても、幸せにはなれない。持てば持ったで、持ち続けるには金と手間がかかる。そしてどの国でも、税金は持っている人から、たっぷりいただくシステムになっている。

「サブスクリプションは、VanMoofだからできるサービスだと自負しています。他のメーカーではまず不可能。まず、圧倒的なクオリティーが必要です。そして絶対に盗まれないバイクであること。壊れたり盗まれたりするリスクを、ユーザーではなく、メーカーが持つ覚悟と自信がなければ、サブスクリプションはできません。また、私たちが販売店を持たず、オンラインの直接通販中心だからこそ可能なことでもあります」

モノを所有した瞬間の喜びや興奮よりも、プロダクトが与えてくれる体験を通し、ブランドが持つイメージやストーリー、ヴィジョンを共有すること。そこから生まれるコミュニティとの一体感、帰属感、つながっている感。たとえば、アップル信者やアイフォン信奉者の間に見られるような。そんなものが求められているのが、今という時代なのだと思う。そしてサブスクリプションというビジネスモデルは、もっと検討されるべきとも思う。

VanMoofではすでに「Smartシリーズ」で1年間の運営実績を積み、7割のユーザーがサブスクリプションを利用中という。「Electrifiedシリーズ」でも、2019年秋頃からサブスクリプションを選べる予定だ。「S2」「X2」の定価が、43万円。平均15万円前後の国産と比べれば安くはないが、サブスクリプションなら月1万円以内に収まりそうな気配だ。

これを機に、VanMoofコミュニティへの参加を検討してみてはどうだろう? これまでのクラウドファンディングは欧州限定だったが、第3回目には日本からも投資を受け入れたいと、CEOが言っている。投資への参加条件は、まずVanMoofライダーとなることである。

脚注_※01
※01:電動自転車には、モーターのみで自走可能で法的には原動機付自転車に分類される「フル電動自転車」と、時速24km以上は動力の補助を受けてはならない「電動アシスト自転車」がある。日本の「電動アシスト自転車」同様、免許・税金・ナンバープレートが不要で、サイクリングロードを走行可能な自転車を、欧米では一般的に「e-bike」と呼ぶ。名前が持つイメージは大事だ。日本での普及のためにも「電動アシスト自転車」に代わる呼び名が必要だろう。

2017年、裏原宿にオープンしたVanMoof直営ブランドストアがこちら。最新のElectrifiedシリーズだけでなく、電動ではないSmartシリーズの試乗も可能。

バンムーフブランドストア
住: 東京都渋谷区神宮前3-26-3
TEL: 03-6812-9650
営: 12:00〜20:00
休: 月曜
https://www.vanmoof.com/