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パリにグルメなフードホールの波がやってきた!

パリでは新しいフードホールが続々とオープンしている。グルメなスポットを紹介する。 
パリにグルメなフードホールの波がやってきた!
フランス国鉄の車両倉庫をリノベーションした「ラ・フェリチータ」は総面積4500㎡の広さ

パリのグルメシーンに異変あり。肉の最前線から続々誕生するおしゃれなフードコート、そして伝統回帰するレストランまで、ヨーロッパのグルメトレンドを牽引するパリの注目店をピックアップする連載。2019年、パリの最新飲み食い事情を網羅する。

大型フードホールが人気

2018年秋、左岸7区のシックな住宅街に新たな食のスポット「ボーパッサージュ」が誕生して以来、パリでは“フードホール”が注目を集めている。今最も勢いのあるシェフやパティシエの店を集めた商業施設や、国鉄の車両倉庫だったところをイタリア一色のフードホールに改造するなどした個性豊かな施設が続出している。質の高い料理をカジュアルに、手頃な価格で楽しめる“食のアミューズメントパーク”の波はフランスにも到来中!

Beaupassage ボーパッサージュ

Allénothéque | アレノテック イベリコハムとトリュフをたっぷり挟んだ根セロリのミルフィーユ仕立て(18ユーロ)
Allénothéque | アレノテック
Allénothéque | アレノテック 約700種類のワインを持つ地下のワインセラー。11〜4000ユーロの幅広い価格帯だ。
Allénothéque | アレノテック 550平米を誇る店内はオープンキッチンで50席。天気のいい日はテラス席が60席用意される。
パリ7区発、新たな美食の発信地

2018年夏、7区のマイヨール美術館から目と鼻の先に、食の複合施設「ボーパッサージュ」が誕生した。もともと、17世紀の修道院と20世紀の建築が隣接していた一帯を、8年の歳月をかけて大掛かりに改造した。1万平米を誇る敷地内にはフランス料理界を代表するシェフのカジュアルな店が軒を並べる。ヤニック・アレノのワインカーヴ&ビストロ、ティエリー・マルクスのベーカリー、ピエール・エルメのカフェ、フランスで唯一3ツ星の女性シェフ、アンヌ=ソフィー・ピックのデリカテッセン、ブルターニュの2ツ星オリヴィエ・ぺランの海鮮ストリートフード店、老舗の精肉店「ポルマール」のブティック&ビストロ。フランス国外からは唯一、京都のカフェ「%アラビカ」が参入し、自家焙煎のコーヒーで客を魅了している。隣接していることから、大統領官邸御用達チーズの老舗「バルテルミー」も加わった。

「ボーパッサージュ」の魅力は、なんといっても、フランスの今が旬のシェフやパティシエの味を一箇所で楽しめるところだ。

ここにいくつか紹介する。

「ルドワイヤン」のスターシェフ、ヤニック・アレノがプロデュースする「アレノテック」は、ワインを角打ちできるワインビストロだ。550平米を誇る店内はコンクリート、大理石、木のマテリアルがしっくり溶け込み、大人の男性にふさわしい落ちついた空間。地下には700本にも及ぶワインセラーのテイスティングルームが設けられ、希望に応じて個室(6〜7席)も用意される。

メニューには根セロリのミルフィーユ仕立て(18ユーロ)、桜の葉で包んで蒸したヒメジ(31ユーロ)、乳飲み羊の脚肉のロースト(41ユーロ)、燻製ブッラータのニョッキ(26ユーロ)など、ワインにあうパンチの効いた料理が並ぶ。店内は落ち着いた風情の男性客が多く、ワインを片手に談笑する姿があちこちに見られる。ここのワインは日本への発送サービスも完備している。

ThierryMarx | ティエリー マルクス マンダリンオリエンタルの2つ星レストランのシェフ、ティエリー・マルクスによる、ブーランジュリー
ThierryMarx | ティエリー マルクス パンを巻き寿司のようにロールしたサンドイッチ「ブレッド・マキ」「Kuromon」は、スモークサーモン、紫蘇、たくあん、サラダ菜入り。8.5ユーロ
PierreHermé | ピエール・エルメ ゆったりと寛げるテラス席。朝食のヴィエノワズリーやティータイムのパティスリーのほか、クロックムッシュやサラダなど、ランチ向きのメニューもある。
PierreHermé | ピエール・エルメ 外はカリッと、中はふんわりした食感が楽しめる甘くないフレンチトースト。軽めのランチに。pain perdu salé。 19ユーロ
PierreHermé | ピエール・エルメ
人気店が集結!

ピエール・エルメが初めて単独でオープンしたカフェ「ル・カフェ・ピエール・エルメ」はオレンジ、マロン、クリーム色を基調にした明るくエレガントな内装。今のパリの新しいインテリアを次々と手がける室内装飾家ローラ・ゴンザレスによるものだ。10時から20時までノンストップの営業で、朝食からアペリティフまで使い勝手がいい。朝は芳醇なバターの香りとサクサクの食感と舌触りが楽しめるクロワッサンを、昼は塩味系のフレンチトーストやクロックムッシュ、オムレツなどの軽食を。アペリティフにはシェアできる牛肉ハムや野菜ディップを揃えている。

どの皿も軽やかで自然な盛りつけで、野菜の新鮮さは一目瞭然だ。クラブサンドイッチに使われる食パンはふわっと軽い日本のものを用いているという。ヴィエノワズリーやパティスリーはテイクアウトも可能。さんさんと光が降りそそぐテラス席は、晴れた日は大変な賑わいを見せている。

その隣にはミシュラン2つ星のティエリー・マルクスがプロデュースするパン屋「ラ・ブーランジュリー」が連なる。親日家としても知られるマルクスが、日本の巻き寿司からヒントを得て完成したブレッドマキ(7ユーロ前後)は、この店のシグネチャーだ。薄いパンに具材を入れてくるくるっと巻いたロールサンドイッチで、スモークサーモンやパストラミ、豚の胸肉の燻製など7種類の組み合わせから選ぶ。ここではパイのような層が重なる折込み生地で作られたブリオッシュ(310g 10ユーロ)も看板商品。昨年フィガロ紙のグルメランキングでパリNO. 1に選ばれたカヌレ(2.4ユーロ)も外せない。表面は艶があってカリカリに焼き上げられ、なかはもちっとしていて、食感のコントラストが楽しい。

「ラ・ブーランジュリー」はあれもこれもと食いしん坊の胃袋を捉えて離さない店である。

Beaupassage ボーパッサージュ

53-57, rue de Grenelle 75007 Paris

地下鉄Rue du Bac 12番線
https://beaupassage.fr/en/home

営: ヤニック・アレノのワインビストロAllenotheque 無休 12:00~23:00
ピエール・エルメのカフェ Le Café Pierre Hermé 無休 10:00~20:00
ティエリー・マルクスのパン屋 La Boulangerie 火〜日 7:00~21:00

La Felicità ラ・フェリチータ

La Felicità | ラ・フェリチータ 緑あふれる空間で思い思いの時を過ごすのがいい
La Felicità | ラ・フェリチータ 朝から晩まで使い勝手がいい。全館にWifiが通っているので、仕事するビジネスマンも多数。
La Felicità | ラ・フェリチータ ナポリ出身のピザ職人“ピッツァイオーロ”によって生地から作られる窯焼きピッツァ
La Felicità | ラ・フェリチータ カクテルバーではオリジナルのカクテルが味わえる
イタリア料理づくし

パリ左岸13区。セーヌ川沿いの一角が数年来、都市開発プロジェクトによって、“デジタル地区”へと変化を遂げている。2017年夏、IT企業のスタートアップを目的に世界最大のインキュベーター施設「Station F(スタシオン・エフ)」が誕生した。ここはフランス国鉄の車両倉庫の跡地で、総面積はなんと約34000㎡。創始者の実業家グザビエ・ニエルはインターネットの電話会社「フリーfree」の創業者であり、フランスの、孫正義にもたとえられるIT時代の成功者である。

この施設内に誕生したのが欧州最大の面積を誇るイタリアンの総合レストラン「フェリチタ」だ。面積4500㎡のうちテラスが1000㎡という桁はずれの大きさ。緑あふれる屋内には5つの厨房があり、トラットリア、ピッツッエリア、カフェテリア、パニーニスタンド、カクテルバー、セビーチェバー、バーガー店、ビアガーデンが軒を連ねている。全部で1000席。様々な種類のイタリアンが一箇所で楽しめるフードホールスタイルだ。本場のピザ職人“ピッツァイオーロ”によって生地から作られる窯焼きのピッツァ、フレッシュな自家製パスタ、イタリアから週に2回トラックで運ばれてくるシャルキトリーやチーズ、野菜など、食材はイタリア産にこだわり、スタッフはほぼイタリア人。イタリア本場の食材とイタリアらしさにこだわり抜いた。

モッツァレラと生クリームを包んだチーズ“ブッラータ”(8ユーロ)は、香り高くて品のよい味わいだ。鯛のセビーチェ(12ユーロ)は柑橘、醤油とバジル風味のオリーブオイルでマリネし、赤オニオン、フェンネルとコリアンダーをのせる。さっぱりしていて、いくらでも食べられそう。トリュフをマスカルポーネソースに絡めたパスタ(18ユーロ)は、打ちたての生パスタならではのモチモチ感だ。水牛のミルクのモッツァレラと2種類のトマトを使ったピッツァ(15ユーロ)はしっかりと焼きこまれていて、噛みしめるごとに生地の美味しさを感じるだろう。

La Felicità | ラ・フェリチータ 水牛の乳で作られたクリーミーなチーズ“ブラータ”は旬の野菜の煮込みカポナータとともにサーヴされて8ユーロ
La Felicità | ラ・フェリチータ フレッシュな自家製の黒トリュフのパスタ 18ユーロ
La Felicità | ラ・フェリチータ イタリア産のシャルキュトリー盛り合わせ 12ユーロ
La Felicità | ラ・フェリチータ
La Felicità | ラ・フェリチータ ウイスキー、ラム、ハイビスカス、ライム、パッションフルーツ、アーモンドシロップを配合したカクテルBeauté des îles 12ユーロ
週末は大賑わい

オーナーは、ヴィクトール・リュゲールとティグラーヌ・セイドゥ。ともにビジネス高等大学校「HEC」出身の33歳のフランス人だ。これまでパリにイタリア料理の選択肢が少なかったため、本場イタリアの庶民的なトラットリアを紹介したいと、"ビッグ・ママ"という会社を立ち上げレストラン事業をスタート。“もっと美味しくもっと安く”をコンセプトに、質のよい食材を求めてイタリアの小さな生産者と直接取引し、リーズナブルなのにおいしいイタリア料理店を次々と開店した。生地から作る炭火の釜焼きピッツァはたちまちパリジャンたちを虜にした。「フェリチータ」は彼らの7軒目のアドレスで、今年2月にはロンドンにも進出。昨今のパリの爆発的なイタリア料理ブームを牽引する存在である。

「フェリチタ」では、食を楽しみつつ、思い思いの時間を過ごすことができる場所。メザニンの書斎コーナーには電源もあり、仕事を進めるビジネスマンの姿も数多い。全館Wifiが通っている。

日中はさんさんと差し込む自然光が気持ちよく、夜は祭りのような電飾照明が灯され、さらに賑やかさを増す。週末は大々的なブランチ会場となり、夜はライブイベントが開催され、連日多くの人で賑わっている。

La Felicità ラ・フェリチータ

5 Parvis Alan Turing, 75013 Paris

地下鉄Chevaleret, Campo Formio6番線
営: 月、火曜12:15~14:30(ランチサービスのみ)水〜金12:15〜14:30、18:00〜23:00(水曜は22:30まで) 土曜12:00〜23:00、日曜12:00〜22:30
※週末はブランチ営業
https://www.lafelicita.fr/

文・魚住桜子 写真・村松史郎