The Best Patisserie of Hotel in Paris

パリの人気スイーツは“パラス”がキーワード。路面パティスリーが話題だ!

パリでは、これまでホテルのなかでしか味わえなかった高級パティスリーにテイクアウトの波が押し寄せてきた。注目のペストリーショップを紹介する! 文・魚住桜子 写真・村松史郎
パリの人気スイーツは“パラス”がキーワード。路面パティスリーが話題だ!

パリのグルメシーンに異変あり。肉の最前線から続々誕生するおしゃれなフードコート、そして伝統回帰するレストランまで、ヨーロッパのグルメトレンドを牽引するパリの注目店をピックアップする連載。2019年、パリの最新飲み食い事情を網羅する。

パリでお持ち帰りがブーム
今、世界中で最も勢いがあるパティシエといえば、セドリック・グロレだろう。2018年3月、パラスホテル「ル・ムーリス」の路面店が誕生し、これまでホテルのレストランでしか味わえなかったセドリックのパティスリーが身近になった。

日本では必ずといっていいほど高級ホテルにペストリーショップがあるが、フランスでは、まだめずらしい。この傾向はますます広がりをみせていきそうだ。

セドリック・グロレ 85年生まれ。「フランス菓子の正しい技術を次世代につないでいきたい」と世界中のマスタークラスで教える。自分の名前を冠した出店を計画中だ。

ル・ムーリス──シェフ・パティシエ セドリック・グロレ

「あらゆる世代の人々に食べていただきたい。お客様の喜ぶ顔を見るのが一番の喜びです」と2018年春、「ル・ムーリス」の一角にテイクアウト専門店をオープンしたセドリック・グロレ氏。時間があれば店頭に顔を出し、ゲストと言葉を交わすことも。インスタグラムのフォロワー数は130万人を超える人気者で、彼のパティスリーを求めて、世界中からスイーツファンが列をなしている。

21歳からパリの「フォション」で経験をつんだ後、26歳で「ル・ムーリス」に入ると、2年後にはシェフ・パティシエに昇格。連日連夜ケーキを作り続け、次々と新作を生みだしてきた。その間、料理界のアカデミー賞といわれる「レ・グラン・ターブル・デュ・モンド」で世界ベストパティシエ賞を2回も受賞、昨年は「ワールド・ベスト50レストラン」で世界ベストパティシエ賞に選ばれ、“天才”パティシエとして不動の地位を築いた。

テイクアウトの店はチュイルリー公園とヴァンドーム広場を結ぶカスティリオーヌ通り6番地の小さな入り口から。彼の代表作品は本物のフルーツを彫刻したかのようなパティスリーだ。青リンゴ、ライム、みかんといった様々なフルーツの形を極薄のホワイトチョコレートで再現し、中に果実の味をぎゅっと閉じ込めたジュレやコンフィが仕込まれている。皮の凸凹も実にリアルで、まさに本物さながら。自身の作品についてセドリックさんはこう語る。

「旬のフルーツを使って、素材じたいがもつナチュラルなおいしさを引き出だしました。よりシンプルにひとつひとつのパーツを研ぎ澄ませながら追求して、素材本来のもつ味わい以上の美味しさをうみだす。パティシエはよくいろんな素材を詰め込んでしまいます。でも僕のパティスリーには装飾がない。味に影響を与えないものや口の中で化学反応を起こさないものはいっさい取り入れません。最高の素材を使って、余計な味を削ぎ落とし、シンプルにかつ最高のものを作りたい」

果実そのものを丸かじりするようなフレッシュ感溢れるフルーツシリーズ。 グレープフルーツPamplemousse 17ユーロ
クリエーションに5年を費やしたタルト・ショコラ。滑らかなガナッシュクリームに歯ざわりの残るカカオ片を閉じ込め遊び心を追求。Tarte Chocolat 8ユーロ

代表作のフルーツシリーズは、いちご+クローブ、レモン+ミント、ライム+タラゴン、青リンゴ+ディル、ライチ+ハイビスカス、梨+ネズの実、黄りんご+藁など、それぞれの風味の特徴を知り尽くしているからこそ生まれた組み合わせである。ひとつの香りを軸にして、味わいや余韻の長さを追求する。例えば “グレープフルーツ”は季節そのもの。一見、和菓子のようにも見えるビジュアルで、中から溢れだすソースは高貴な苦味といい、快い酸味といい、素晴らしいバランス感だ。このシリーズは季節によってラインナップが変わっていく。それも繊細な和菓子のようで、そこがいいのだ。

そもそもセドリックさんがパティシエを目指したのは地方でホテルレストランを経営していた祖父の影響だった。思い出は祖父の庭へと遡る。

「子供の頃、庭にたわわに実っていたフルーツをしょっちゅう摘みに行きました。藁の中にリンゴが置かれていて、その香りや味わいは今でも鮮明に蘇ってきます。僕はその記憶をお菓子に反映しています。モダンな形をしていても、香りや味から、遠い日の記憶を呼び覚ますような体験をもたらすことができたら嬉しい。そしてこれまでにない感覚を体験していただきたいのです」

紅茶にひたしたマドレーヌを味わった瞬間、幼少の記憶がよみがえってくるプルーストさながら、食べ手の思い出を呼び起こしたいと願っている。

また世界中を訪れインスピレーションを受けながら、自分のクリエーションに磨きをかけてきた。2017年の日本の滞在を思い出す。

「日本を訪れて、これまで自分が目指してきた道とこれから向かっていく方向に間違いはないと確信しました。日本には素材に対する尊敬の念があり、ヒトとモノ、あらゆるベースにリスペクトがあります」

「ル・ムーリス」のダイニング「ル・ダリ」では、セドリックさんのパティスリーやサンドイッチ、スコーン、クッキーなどのついたアフタヌーン・ティも人気である。

La Pâtisserie du Meurice par Cédric Grolet
ラ・パティスリー・ドゥ・ムーリス セドリック・グロレ
6 rue de Castiglione 75001 Paris France
TEL: +33 1 44 58 10 10(ホテル代表)
営: 12:00から商品なくなり次第閉店(日曜は16:00-)
月休み
ル・ムーリス ダイニング「ダリ」アフタヌーンティータイム
228 rue de Rivoli 75001 Paris France
TEL: +33 1 44 58 10 44
アフタヌーン・ティ・タイム:月〜土15:30〜18:00 65ユーロ
https://www.dorchestercollection.com/en/paris/le-meurice/
※日本からの予約番号

サクサクとしたサブレ生地に、上品な甘さのレモンクリーム、口溶けのよいイタリアンメレンゲを重ねたレモンタルト。Tartelette citronテイクアウト6,0ユーロ イートイン8,5ユーロ

ブラック・パティスリー──パティシエ ヤン・ブリス

西部16区、カフェや小売店が連なる賑やかなポンプ通り。かつて郵便局の集配センターがあった場所に、2018年、5ツ星ホテル「ブラック」が誕生した。内装を手がけたのはフィリップ・スタルクと娘のアラ・スタルク。南仏の光が降り注いでいるように明るい空間だ。1階のレストランの一角には、MOFの称号を持つ菓子職人ヤン・ブリスのパティスリーコーナーが併設されテイクアウトもできるようになった。彼が自分の名を冠した店をパリで展開するのは初めてだという。

ヤン・ブリスは「フォション」を経て、コンコルド・ラファイエットやブリストルなどパリの高級ホテルで経験を積んだ。その後、老舗の菓子店「ダロワイヨ」のレシピ開発に携わる。1982年の創業以来の伝統を継承しながらも、技術を向上させ、現代性を加えたレシピを考案してきた。

「パラスや5ツ星クラスの高級ホテルにパティスリーを開くのは必要なことだと思ってきました。より多くの人々に親しんでいただきたいので、まずは地域に溶け込んで、誰もがアクセスしやすい店づくりにしました」

ところでMOF(フランス国家最優秀職人)とは、フランスで最高の技術を誇る職人に与えられる称号で、襟に青・白・赤のトリコロールの入ったコックコートを着用することが許されている。これまでジャン=ポール・エヴァンやパトロック・ロジェなど錚々たる職人を生みだしてきた。ヤン・ブリスは2011年にパティスリー・砂糖菓子部門でMOFを獲得した。

レストランを入ってすぐ左のショーケースには、レモンタルト、ミルフィーユ、エクレア、パリ・ブレストなどフランスの定番の菓子が約10種類並ぶ。

小さなシュー生地に濃厚なプラリネクリームを挟んだパリブレスト Paris Brest テイクアウト5,5ユーロ イートイン8,0ユーロ
しっかりと焼き込んだフィユタージ生地に、オレンジフラワー入りのクレーム・パティシエールをサンドしたミルフォイユ。横向きでサービスされるので食べやすい。Millefeuilleテイクアウト6,0ユーロ イートイン8,5ユーロ
エクレア、シュー、タルトといったクラシックで落ち着いた色合いのパティスリーを10種ほどそろえている。

彼のパティスリーは古典菓子を先鋭的に仕上げるスタイルではなく、あくまで伝統的な製法と形のクラシックさだ。

「パティスリーの条件は、上質な素材を使うことにつきます。僕はシャラントのAOCバター、ノルマンディーの生クリーム、産地の明らかなチョコレートなどを使用しています。次に甘さのバランスに細心の注意を払っています。甘さは控え目ですが、しっかりとした味の、魅力的な菓子を作ることにこだわっています」

小ぶりで上品なデザイン。どの菓子も甘すぎず、軽さの中に素材の味や食感が残っている。

例えばレモンタルトはサクサクのタルト生地に柔らかいアーモンドクリームを重ね、レモンのマーマレードで爽やかさを強調した。その上に柚子で香りづけをしたレモンクリームを敷き詰め、メレンゲを螺旋状に絞った。ろくろを使って回転させながらデコレーションするテクニックはヤン・ブリスが2009年、「ダロワイヨ」時代にはじめて生み出したものである。

地中海レストランの一角にあるという場所柄から、パティスリーにも地中海の風を吹き込んだ。ミルフィーユのクリームにはオレンジ水をしのばせたり、マジパンとアーモンドムースを南仏の銘菓カリッソンのように見立てたりするなど、スッキリとしたフォルムの中に考え抜かれた繊細な味の組み合わせを仕込んでいる。

テイクアウトは6ユーロ前後、店内では8ユーロ前後。年中無休。ティータイムだけでなく、午前10時から午後11時まで利用できる。

Brach Pâtisserie Yann Brys
ブラック・パティスリー ヤン・ブリス
1-7 Rue Jean Richepin, 75016 Paris
TEL: +33.(0)1 44 30 10 00
最寄駅Rue de la Pompe、La Muette⑨番線
無休
営: 10:00〜23:00
https://brachparis.com/patisserie-paris-16-yann-brys/