La Poule au Pot

「ラ・プール・オ・ポ」にはパリらしいフランス料理のおいしさが息づいている

パリのグルメシーンはいま、“伝統回帰”がキーワードだ。1区の老舗ビストロの魅力に迫る! 文・魚住桜子 写真・村松史郎
「ラ・プール・オ・ポ」にはパリらしいフランス料理のおいしさが息づいている
シャロレー牛のフィレ肉ステーキ・ペッパーソース 付け合わせはフリッツとサラダ Filet de Boeuf Charolais 52ユーロ

パリのグルメシーンに異変あり。肉の最前線から続々誕生するおしゃれなフードコートから伝統回帰するレストランまで、ヨーロッパのグルメトレンドを牽引するパリの注目店をピックアップする連載。2019年、パリの最新飲み食い事情を網羅する。

パリらしいもの

場所はパリの心臓部レアール。大型ショッピングモールがあり、地下鉄と郊外電車が乗り入れるレアール駅は年中、ごった返している。

その喧騒を抜けてサン・トノーレ通りから少し入った細道に佇む「ラ・プール・オ・ポ」は、いまやパリでは珍しくなった伝統的なフランス料理店である。つまり洗練されたガストロノミーではないが、代々フランスのブルジョワ家庭で食べられてきたごちそうが、威風堂々とふるまわれる。素材の良さと料理のうまさは言うには及ばず、生クリームもバターもしっかり使われていて、気前の良さは一級だ。何か旨いものを食べたい、それも気楽に肩ひじ張らず、パリらしい雰囲気の中でパリらしいものを食べたいという人に、この店はぴったりだろう。

かつてこの地区にパリの胃袋と呼ばれた中央市場があった頃は、食の業者や料理人が足繁くかようビストロが何軒もあった。創業1935年のビストロ「ラ・プール・オ・ポ」もそのうちの一軒で、連日熱気に満ちていたという。中央市場が1969年パリ郊外のランジスに移転して以来、時代とともに廃れていった店を昨年ジャン=フランソワ・ピエージュが買い取り、伝統の味を継承した。ミシュランでは1ツ星。アラン・デュカス系列の「ブノワ」と同じくビストロにして1ツ星は稀なケースである。

店内は1935年創業時のボワズリーが残されていて、ぶどうの房が描かれた壁紙、銅でできたカウンター、アールデコの柱など、当時の面影がくっきりと残されている。

メニューにはエスカルゴ、カエルの腿のソテー、トリュフ入りオムレツ、フォアグラのテリーヌ、コルベール風タラのフライ、川カマスのクネル、マッシュポテトと挽肉のオーブン焼き“アッシ・パルマンティエンエ”、仔牛の腎臓ソテー、仔牛胸腺肉のパイ包み、鶏肉のクリーム煮“プロポ”など、今や失われつつある王道フレンチがずらっと並ぶ。

食材はフランス産の一級品にこだわり抜いた。野菜とチーズは小規模生産者の上質な食材を扱う卸・小売店「テロワール・ダヴニール」から、パンはM.O.F(フランス国家最優秀職人)の称号をもつパン職人フレデリック・ラロス氏の田舎パンが毎朝届く。

La Poule au Pot ラ・プール・オ・ポ ブルターニュ産オマール海老のサラダは、とびきり新鮮なレタス、カリフラワー、ロマネスコ、アボガドをアメリケーヌソースで。さりげないおいしさ。 Salade de Homard Bleu 46ユーロ
La Poule au Pot ラ・プール・オ・ポ ババ・オ・ラムはサービスする時に切り分けてラム酒をたっぷりそそぐ。Baba au Rhum 14ユーロ
La Poule au Pot ラ・プール・オ・ポ 1935年に創業した時の面影を色濃く残す。
La Poule au Pot ラ・プール・オ・ポ 王冠型のクグロフの型で焼かれるババ・オ・ラム。口当たりが軽くてふわっとした仕上がり。
時代を超えたシンプルさ

仏フィガロ紙のグルメランキングでパリNo.1に輝いたオニオングラタンスープ“グラチネ・ア・ロニオン”は、じっくりとキャラメリゼした玉ねぎを白ワインでとろりと煮込んだ、やけどしそうに熱いスープ。玉ねぎのほのかな甘みにチーズがからまり、かすかにマデラ酒の香りがたちのぼる。これぞ本物のビストロの味だ。シャロレー牛のフィレ肉ステーキは申し分ない焼き加減。付け合わせのフリッツはじゃがいもを切る段階から、人の手で丁寧に作られている。ただただシンプルにおいしい。

ワインリストは約1600種類の品揃えで、ワイン好きにはたまらないラインナップだ。バイ・ザ・グラスで7〜40ユーロ、ボトルは23〜8000ユーロと幅広い。白はベルナール・グリパ社のサン・ジョゼフ2016年が 89 ユーロ、赤はラ・グランジュ・デ・ペール社のIGP ペイ ド レロー2014年が290ユーロ。

ところで、この店はショービジネス界の著名人が通った店としても知られている。壁にはジャン・ギャバン、リノ・ヴェンチュラ、フランシス=フォード・コッポラ、ミックジャガーなど363人の名前を刻んだ真鍮プレートがかけられている。休日なしの営業で、ラストオーダーは23時まで。華やかな楽しさに満ちた店である。

レアールの喧騒を抜けた細道に佇む。食を愛するパリジャンが通う場所になった。

La Poule au Pot ラ・プール・オ・ポ
住: 9, rue Vauvilliers 75001Paris
TEL: +33.(0) 1 42 36 32 96
営: ランチ12:00〜14:15(土 14:30)、ディナー19:00〜23:00(ラストオーダー)
無休
ネット予約 http://www.lapouleaupot.com/