テック業界の大物たちが、トランプ政権下で初の「技術評議会」──先行き不透明な米国のテクノロジー政策

米国ではトランプ政権下になって初めて、「米国テクノロジー評議会」の会合が行われた。この会合にはティム・クック、ジェフ・ベゾス、サティア・ナデラ、エリック・シュミット、ピーター・ティールなど、世界を代表するテクノロジー業界の大物たちが一堂に会した。米国のテクノロジー政策について議論すべきことは山積しているのだ。
テック業界の大物たちが、トランプ政権下で初の「技術評議会」──先行き不透明な米国のテクノロジー政策
PHOTO:GETTY IMAGES

わずか半年でこれほど大きな変化が起きるとは、誰も思っていなかったに違いない。2016年12月、テクノロジー業界の有名人たちが「トランプ・タワー」に集結した。米大統領に選出されたドナルド・トランプと初めての円卓会議を行うためだ。会場は和やかなムードに包まれていた。テクノロジー業界のリーダーたちはトランプとジョークを交わし、大義のために力を尽くすと約束したように見えた。

ところが大統領に就任したトランプは、イスラム教徒の入国禁止を実現しようと何度も試み、気候変動に関するパリ協定からの離脱を発表し、科学分野の研究開発予算を大幅に削減するよう提案した。こうしてテクノロジー業界の有力者たちとトランプ政権は、“敵対関係”に陥った。

そして「米国テクノロジー評議会」(American Technology Council)の最初の会合が、2017年6月19日(米国時間)に行われた。大統領上級顧問ジャレッド・クシュナーが指揮を執る「米国イノヴェイション局(Office of American Innovation)」主催で、アップルCEOのティム・クック、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ、アルファベット会長のエリック・シュミット、IBMのCEOジニ・ロメッティ、フェイスブックの役員に名を連ねる投資家のピーター・ティールなど、テクノロジー業界の大物が一堂に会した。ティム・クックは2016年の大統領選挙で、ヒラリー・クリントン陣営の資金集めに協力した人物であり、シュミット会長もクリントン陣営のテクノロジーツールを開発した企業グラウンドワークに出資している。

丸1日かけて開催されたこの会合の目的は、政府とテクノロジーにかかわる重要課題の解決を目指すものだ。課題は実に無数にある。テクノロジー業界のリーダーたちは事前に、10ページの議事録を渡された。テクノロジーによって行政サーヴィスを現代化する方法、政府のインフラを効率化し、コストを削減する方法、政府のテクノロジーをサイバーテロから守る方法、そしてもちろん移民の問題も含まれた。

技術評議会を率いる元マイクロソフトCFOのクリス・リデルは、「1点のみに集中し、ほかを無視するようなやり方では、間違いなくチャンスを生かすことはできません」と話す。「もっと総合的なアプローチをとることが重要です」

ホワイトハウスが世界で最も強力なプラットフォームの開発者や運用者を集め、お役所的な政府のシステムをテクノロジーで改善しようと考えること自体は称賛に値する。しかし、この会合の野心的な目的や、広範にわたる議題を見ると、トランプ政権はテクノロジー政策に関する明確な視点を持ち合わせていないという意見が真実味を帯びてくる。トランプ政権は、米国の最高技術責任者(CTO)である米科学技術政策局のトップを自ら指名しなかった。はたしで誰が重要課題に取り組むのだろうか。

議題は、大部分がバラク・オバマ政権から引き継いだものだ。オバマ前大統領はウェブサイト「heathcare.gov」を立ち上げ、問題に直面した後、「連邦デジタルサーヴィス局(United States Digital Service)」を新設した。政府のテクノロジーを改善するという明確な目的のためだ。現在も続いているこの取り組みは、米国防総省の「国防デジタルサーヴィス局」や「18F」の設置へと拡大した。18Fは政府内のコンサルティンググループのようなもので、さまざまな政府機関に技術者を派遣している。

「わたしたちの役割は、既存の取り組みを加速させることです。新しい組織やプロセスをつくることではありません」とリデルは説明する。

たしかに素晴らしい考えだが、具体的な行動を起こし、明確な成果を上げなければ、技術評議会はトランプ政権の中途半端な取り組みとあまり変わらない存在になりかねない。トランプ政権の狙いは、公然と政策に反発してきた影響力のあるテクノロジー業界を味方に引き入れることだ。Uberの創業者でCEOを辞任したトラヴィス・カラニックや、テスラ創業者でCEOのイーロン・マスクなど、当初は政権のアドヴァイザーになることに同意していた業界関係者でさえ、現在は政権との関係を断っている。マスクの場合、パリ協定からの離脱が決定打になったようだ。

トランプ大統領が離脱を発表した後、イーロン・マスクは次のようにツイートしている。「わたしは大統領の諮問委員会を離脱します。気候変動は幻想などではないからです。米国にとっても、世界にとっても、パリ協定からの離脱はよい選択ではありません」

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マスクは外野から政権に異議を唱えるより、米国の未来に関する重要な議論に参加した方がいいと主張し続けてきた。間違いなく、6月19日の会合に出席した面々も同じ気持ちのはずだ。あるホワイトハウス高官はTwitterで、技術評議会のメンバーについて「大統領がしてきたことのなかには、彼らの賛同を得られないものもあります」と述べている。「大統領を支持する人もいれば、支持しない人もいます。しかし、わたしたちはそれを理由に、彼らへの態度を変えることはありません」

会合の主催者たちは間違いなく、トランプ政権は多様なイデオロギーを受け入れるという印象を与えようとしている。しかし、テクノロジー業界の面々にもそれぞれの問題がある。例えば、アマゾンのベゾスはホールフーズ・マーケットの買収を決断したことで、反トラスト法違反に問われる可能性が高い。さらにトランプ大統領は、国外での利益を本国に送還した企業に対して一定の免税期間を設けると述べているが、これが現実になった場合、アップルは予期せぬ利益を手にする可能性がある。

アップル、マイクロソフト、オラクルといったテクノロジー企業の代理人を務めるロビー団体テクネットCEOのリンダ・ムーアは、こう語る。「税制改革と貿易は、米国の雇用創出に大きな影響をもたらします。この両者について有意義な結果が出るよう、わたしたちは政権と議会に働きかけています」

テクノロジー業界と政府が一緒に答えを探すべき重要な政策課題は、ほかにもある。テクノロジー業界が国内で人材を雇用するため、政府はどのように科学技術の教育を強化するのか。テクノロジー業界は人間の代わりになる人工知能(AI)などの技術を開発し、雇用を奪おうとしているが、雇用創出の原動力になるにはどうすればいいのか。テクノロジー業界がユーザーのプライヴァシーを侵害することなく、情報機関のニーズを満たすにはどうすればよいのだろう。

米国はビジネスリーダーと政府に対し、こうした難題の答えを求めている。大物たちがずらりと並び、写真を撮影するだけの会合など求めてはいない。


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TEXT BY ISSIE LAPOWSKY

TRANSLATION BY KAORI YONEI/GALILEO