画像の「電子透かし」を除去する技術をグーグルが開発──ストックフォト企業はどう対抗する?

多くのストックフォト企業は、「電子透かし」を写真に埋め込むことで盗用を防いでいる。ところが、7月にグーグルが発表したアルゴリズムはこうした電子透かしをすべて除去してしまうものだった。これは一見ストックフォト企業の脅威となりそうなアルゴリズムだが、すでに各社は対策を講じているようだ。
画像の「電子透かし」を除去する技術をグーグルが開発──ストックフォト企業はどう対抗する?
PHOTOGRAPH COURTESY OF SHUTTERSTOCK

このほどグーグルは、写真から電子透かしを除去できるようにするアルゴリズムを開発した。グーグル人工知能研究者たちは、ニューラルネットワークを用いて電子透かしに繰り返し現れる視覚パターン(たとえば、Shutterstockのロゴのサンセリフ体、あるいはAdobe Stockの難解なロゴマーク)を特定し、自動的にそれらのパターンを画像から取り去るようアルゴリズムに学習させることに成功したのだ。

ストックフォトを制作したり売ったりする人にとって、これは困ったニュースだ。電子透かしは1990年代初頭から、使用許可のない写真を盗む者に対する防御の最前線で使用されていたのだから。

確かに、本格的なPhotoshopのスキルをもっている人なら、およそ1時間もしないうちに電子透かしを取り除くことはできる。だが、グーグルのテクノロジーはコンピューターにたった数分で何百枚もの画像から電子透かしを除去できるようにした。つまり、本質的には著作権のある画像の大規模な窃盗を自動化しているのである。

グーグルはストックフォト企業を弱体化させたいわけではなかった。機械学習とそれをどのように画像に適用するかについて、さらなる研究を行っていただけなのだ。実際、このアルゴリズムはいつの日か、写真をよりよいものにするために役立つかもしれない。そして研究者たちは、ストックフォト企業に警告を与えるとともに、アルゴリズムを発表する1週間前に連絡をとってこの研究のことを説明した。

グーグルのアルゴリズムはどう機能するのか

また、論文の中で概要を述べているように、ストックフォト企業が自らを守る方法を示した。「グーグルはわたしたちに十分な時間をくれたので、リスクを軽減することができました」と、ストックフォト大手企業のShutterstockでコンテンツ・エンジニアリング部長を務めるスルタン・マフムードは語った。

マフムードとそのチームは、Shutterstockの1億5千万枚の写真それぞれに異なった電子透かしを与えることで、グーグルのテクノロジーを騙すアルゴリズムを開発した。だが、この対応には1カ月が費やされた。このアルゴリズムが機能する理由を理解するには、グーグルのアルゴリズムを理解せねばならない。

問題は、グーグルが説明しているように、ストックフォト企業の大部分が同一の電子透かしを画像ライブラリ全体に適用していることなのだ。十分な数の画像(この場合は1,000枚以下)をニューラルネットワークに与えると、最終的にネットワークは電子透かしのパターンを見つけられる。具体的には、傾きや不透過率、影を特定できるようになっている。これはつまり、最も複雑な幾何学的デザインでさえも分離できることを意味している。

グーグルのアルゴリズムは前景の画像(電子透かし)を背景の画像(写真)と区別して除去を行う。「似たような電子透かしが多くの画像に埋め込まれていれば、電子透かしはその集団のなかの目印になるため、大まかに推定した電子透かし模様を取り除く単純な画像操作が使えます」とグーグルの研究者たちは記している。電子透かしを除去したあと、このアルゴリズムはオーバーレイ(前景)を消し、周囲の画像データから推測することで空白となった部分を埋めてしまう。

PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

ストックフォト企業の脅威とはなりえない?

これを知ったShutterstockは、写真に自社の電子透かしロゴを適用する際に写真ごとに異なる方法でロゴを歪ませるアルゴリズムを生み出した。電子透かしと元の画像との合成物をつくる前に、ソフトウェアがロゴの中の文字の形をわずかにひねり、ある部分には少し膨らみを、別の部分には少しばかり鋭いカーブを追加する。

さらに、このソフトはテキストがより複雑になるよう投稿者の名前も電子透かしに追加する。「肉眼で見ると本当に微妙ですが、注意して見ればすべて違っているのがわかります」とマフムードは言う。こうした見た目の変化により、グーグルのアルゴリズムが写真内のどこに電子透かしがあるのか正確に推定することは著しく困難になる。その結果、アルゴリズムが綺麗に電子透かしを取り除ける可能性は低くなる。

Shutterstockのような企業には、自らのコンテンツをリスクにさらす可能性のあるテクノロジーに対して自分を守ろうという気持ちはあるが、うろたえる理由はない。「これは非常に小さな脅威です」と、Adobe Stockの商品担当シニアディレクター、ジーク・コッホは言う。

コッホいわく、まず第一にAdobeが使用許可違反に遭遇することはめったにない。そのうえ、Adobeが電子透かしを入れ込んだ画像の大半は、実際に使用するにはとにかく解像度が小さすぎると彼は付け加えた。それでもAdobeはShutterstockのように電子透かしの不透過率を高め、投稿者の名前を追加する予定だ。これでしばらくの間は電子透かしがグーグルのアルゴリズムに影響されることはないだろう。

コッホにとって、グーグルの基本的なテクノロジーは実は非常に期待がもてるものだという。「将来、こうしたテクノロジーを楽しみにするには理由があります」とコッホは言う。これはグーグルフォトで写真を認識して大切な相手とシェアしたり、病理学のスライドでがん細胞を特定するのに用いられるテクノロジーと同じなのだ。

グーグルのほかの仕事のコンテクストと関連付けるなら、このようなツールは窓のギラギラする光など写真に思いがけなく起こる欠点を自動的に取り除いてくれる可能性がある。「彼らが実際に取り組んでいることは、画像をレイヤーに分離するテクノロジーではないかと思います」とコッホは言う。「電子透かしは、より興味深いアルゴリズムの開発に向けた、単なる簡単な最初のステップにすぎないのです」


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TEXT BY ELIZABETH STINSON