Review: MOTO GUZZI V85TT

“ユル”さが魅力の80年代風アドベンチャー・ツアラー

イタリアの老舗ブランド、モト・グッツィからニューモデル「V85TT」が登場した。伝統の縦置きVツインとちょいクラシカルなデザインが特徴のミドルアドベンチャーモデルだ。タイで開催された海外試乗会からレポートする。 文・ケニー佐川 写真・ピアッジオグループジャパン
“ユル”さが魅力の80年代風アドベンチャー・ツアラー
コンセプトは「クラシック・トラベル・エンデューロ」

V85TTは「クラシック・トラベル・エンデューロ」というコンセプトのとおり、ちょっと懐かしい雰囲気を持った多目的な旅バイクだ。現在2輪の世界では「アドベンチャーモデル」と呼ばれるタイプがブームだが、どのメーカーも排気量をどんどん拡大し、電子制御や贅沢装備を「これでもか」と詰め込む傾向にある。その結果、高性能であるのは確かだが、それと引き換えに大きく重くなった車体、複雑な運転操作などに疲れてしまうこともある。

その点、このV85TTはサイズとエンジンパワーが適当で、扱いやすいところが美点だ。排気量は850cc、パワーは80ps、車重は200kg強と、すべてが“程々”なのだ。

モト・グッツィにはこれまでも「ステルヴィオ1200」といった、縦置きVツインを搭載する多目的ツアラーがあった。しかし「TT」の名が与えられたのは約40年ぶりだと言う。かつてダカール・ラリーにも参戦した「V65TT」から引用したネーミングであり、古きよき時代のラリー・マシンへのオマージュが込められたモデルなのだ。

国際試乗会はプーケットで開催された、滑りやすい山道、ダート、砂浜などあらゆる路面を試すことができた。
V65TTやQuota1000にも採用された伝統のデュアルヘッドライトをLED化。センターのDRLはモトグッツィの象徴であるイーグルマークをデザインしたものだ。
80年代ラリーマシンの雰囲気を現代に再現したノスタルジックなスタイルが魅力。ビーク状のハイフェンダーや400 kmの航続距離を実現する23リッターのロングタンクが印象的だ。Alberto Cervetti
モト・グッツィ伝統の空冷縦置き90度VツインOHV2バルブの基本レイアウトを継承しつつ動弁系、クランクシャフト、コンロッドを完全新設計。最高出力80ps/7,750rpm、最大トルク80 Nm / 5,000 rpm。3,750 rpmで90 %のトルクを発揮する。Alberto Cervetti
4.5インチサイズのTFTフルカラーディスプレイを新採用。各種情報と3種類のライディングモード(Road、Rain、Off-road)はグリップ手元のスイッチで簡単に切り替えることができる。メーター左側に見えるのはUSB電源ポート。Alberto Cervetti
MOTO GUZZI V85TTAlberto Cervetti
ボディカラーはホワイト×イエロー×レッドの組み合わせとシルバーの単色の2種類。Alberto Cervetti
半世紀以上変わらぬ縦置きVツイン

見た目こそ懐かしさを感じさせるが、丸型2灯ヘッドライトはLED、足まわりには倒立フォークやラジアルマウントのブレーキを装備するなど、中身はしっかり最新のスペックだ。跨ると見た目よりコンパクトに感じられ、アドベンチャーモデルの中ではとても足着きのよい部類である。シート形状もオフロード車というよりはツアラー的で、ゆったりと座ることができる。23リットルを飲み込む大容量タンクは前後に長い80年代風のデザインだ。

シリンダーが車体の左右に突き出した縦置き空冷Vツインに、スイングアームを兼ねたシャフトドライブの組み合わせ。半世紀以上、基本的に変わっていない独特のエンジン・レイアウトは、モト・グッツィというブランドの頑なさの象徴であり、エンスージアストを惹きつけてやまない部分でもある。

とはいえエンジンの中身はしっかり進化している。排気量は従来モデルのV9ボバーなどと同じだが、内部はチタンパーツなどで強化された完全新設計で、最高出力も大幅に高められている。乗り味もV9に比べて、よりスムーズに高回転まで吹け上がり、加速も伸びやか。そのぶん一発一発の力強い鼓動感は薄れたが、空冷OHVらしい穏やかなレスポンスやビート感は健在だ。振動やトルク変動が少ないぶん疲れにくく、快適に距離を延ばすことができる。ロングツーリングには最適のエンジン特性だ。

標準装着のセミブロックタイヤはオフロードでのグリップ力も高く、林道やダートを安心して走ることができた。
ロングスクリーンやパニアケースなどのオプションを装備すれば、ロングツーリングもラクにこなせそうだ。Alberto Cervetti
φ41 mmフロント倒立フォークとリザーバータンク別体式リアショックを組み合わせた前後サスペンションは、オンロードでの快適性とオフロードでの走破性を両立させるため170 mmのホイールトラベルを確保。ともにプリロードと伸び側ダンパー調整が可能だ。Alberto Cervetti
駆動系はシャフトドライブ式でスイングアームと一体化した構造。リアショックは右側1本で支える軽量でシンプルなリンクレスタイプを採用。タイヤはデュアルパーパスタイプで白×黄色のプレミアムカラーはミシュラン、写真のSTDカラーはメッツラーを標準装着する。Alberto Cervetti
フロントとイメージを統一したデュアルタイプのテールランプはジェット戦闘機のアフターバーナーをモチーフにしている。かつて空軍にいたモトグッツィ創始者へのオマージュだとか。リアキャリアはプロテクター兼サイドパニア取り付けステー、グラブバーとしても多目的に使える設計。
試乗コースには水深の浅い川を渡る場面もあったが、V85 TTは“オールテレイン”を表す車名に相応しい走破性の高さ見せた。
オフロード性能の高さに感心する

今回の試乗コースはタイの有名リゾート、プーケット島周辺で開催されたのだが、エンジン回転を上げずに太いトルクに任せて街を流しているときの、まったりとしたクルーズ感は最高に気持ちよかった。いっぽうワインディングロードではかなりペースを上げて走ったが、車体は剛性感が高く走りは安定していた。前後サスペンションはオンロード寄りのセッティングながら適度なストローク量があるので、フロント19、リア17インチのホイールサイズとも相まって、道を選ばず安心して走ることができる。

試乗ではそれなりのオフロードにも踏み込んだが、ノーマルのセミブロックタイヤはグリップ力が高く、ライディングモードで「OFFROAD」を選ぶとエンジン出力特性、トラクションコントロール、ABSが協調制御され、水深の浅い川を渡ったり砂浜を走ったりする場面でも、丁寧なアクセル操作さえ心掛ければ問題なく走破できてしまった。オフロード上級者であればさらにハードな路面コンディションにも不安なくトライできるはずだ。

V85TTはモト・グッツィらしさを味わいつつ、最新スペックの走りを楽しめる多目的ツアラーだ。そして“あらゆる道を走破する”という意味で与えられた「TT」の名が伊達ではないことも感じさせてくれた。扱いやすいサイズとパワー、フクザツ過ぎず必要にして十分な電子制御など、すべてが“程よい”感じでまとまっていて、盛り過ぎていないところがいい。その“ユルさ”が魅力のアドベンチャーモデルなのだ。