ディーゼルは死なず。世界は電動化に一直線かと思いきや、歴史は一筋縄にはいかない。むしろ、ディーゼルの魅力を増し、そのポテンシャルは大きくなっている。新開発の1.5リッター直列4気筒ディーゼル・ターボ・エンジンを搭載したプジョー「308」はそのよき見本だ。
2018年12月に国内で発表されたこの1.5ディーゼルはアイシンAWの8速オートマチックと組み合わされて、ものすごくイイ。こんなにイイのだったら、だれだって好きなっちゃうだろう。
現行プジョー308は2013年秋の発表で、日本に上陸した当時、筆者は1.2リッター直列3気筒ガソリン・ターボ・エンジン搭載モデルを試乗しているはずだけれど、う〜む、よく覚えていない。筆者が忘れっぽい、ということはあるにしても、印象の薄いクルマだった。
それが、新しいディーゼル・エンジンの搭載でコロッと変わった。フォルクスワーゲン「ゴルフ」に対抗する実用車の鑑として、プジョー308は大オススメである。かれこれ6年目を迎えているわけだけれど、市川団十郎の襲名を控えた海老蔵ぐらい円熟期を迎えている。
従来の1.6リッターに代わる新世代の1.5リッター・ディーゼルは、先代とおなじくフォードとの共同開発プロジェクトによるもので、今後のPSA(プジョー・シトロエン・グループ)の主力エンジンである。
排気量を小さくしたことでエンジン自体をコンパクトにしている。先代エンジンの「DV6」に対し、新しい「DV5」は81%が新開発で、新設計のシリンダー・ヘッドは16バルブ化されている。
華々しいのはピストン形状が、2009年のル・マン24時間を制したプジョー「908HDi FAP」のそれをベースにしているという点だ。ボッシュのコモンレール式高圧噴射のインジェクターを備えていて、最高出力130ps/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmを発揮する。
車重1330kgには十分なトルクである。それだけではない。DV5は1750rpmで300Nm、3500rpmで260Nm、4500rpmで190Nmを生み出す。ディーゼルとしては高回転域でのトルクの落ち込みが少ないとされる。じつのところ、ほかのディーゼル・エンジンのデータは持ち合わせいないけれど、体感的にプジョーが発表しているこの説明は納得がいく。上までまわして気持ちがイイ。
ディーゼル・エンジンは高圧縮から生まれる低中速のトルクが持ち味で、ガソリン・エンジンのようにガンガンまわしても意味がない。早めにシフトアップするのが効率よくて、かつ知的で正しい。筆者のように、ガンガンまわすことが自動車の正義であり、快楽だと信じ込んでいるタイプにとっては、つまらない、あかんエンジンなのだ。
ところが、そういうタイプにとっても、DV5は頼もしいと感じる。「S」、「ノーマル」、「エコ」の3つのドライビングモードがついているけれど、オススメはノーマルである。ドライバーのフィーリングとしてはこれがピッタンコで、Sだと前に進み過ぎちゃうように感じる。単に慣れの問題、ということは言えるにしても、ノーマルで十分なのだから、それでいいではないか。
乗り心地は、205/55R16サイズのグッドイヤーの当たりがちょっぴり硬いとはいえ、じつにふんわりしている。
17インチのGT Lineの経験から申しあげると、断然16インチのこちらの方がイイ。ハンドリングはちょっぴりアンダーステア感があるけれど、その分、高速スタビリティがど〜んとしている。実用車はこれでいい。
山道は今回試していないけれど、高速コーナリング中、ロールはほとんどしない。ふんわりした足まわりなのに、ちょっと不思議ではある。ともかく、安心感がきわめて高い。実用車はこれでいい。電動のパワーステアリングがやや重めで、これもまた安心感につながっている。
なお、一見新奇なデザインのi-コクピットの極小径ステアリングホイールとガングリップ型のシフトレバーはすぐに慣れる。人間工学的に正しいからだと思われる。
もしもいま、ゴルフ・クラスの5ドア・ハッチバックをお探しの読者諸兄がいらっしゃったら、このクルマを試乗されることをオススメしたい。たとえて申しあげれば、これはフツーの朝定食である。白いごはんとみそ汁にシャケの塩焼き。これがうまい。そういう朝定食になかなか出合えないことは読者諸兄もご存じの通りである。