Review: Porsche Cayenne Coupe

すでに人気は確約されている? 遅れてやってきたカイエンクーペ を島下泰久が海外試乗!

BMW X6を筆頭に人気を誇るSUVクーペに、これまた世界的な人気を誇るカイエンからクーペモデルが登場。島下泰久がその実力をオーストリアはグラーツで確かめた。 文・島下泰久 写真・ポルシェ・ジャパン 編集・iconic
すでに人気は確約されている? 遅れてやってきたカイエンクーペ を島下泰久が海外試乗!
SUVクーペとしては後発だが納得の出来

オーストリアのグラーツ近郊で開催されたポルシェ カイエン クーペの国際試乗会の席で、ポルシェAGのセールス&マーケティング担当者に訊いたところでは、カイエンのラインナップにクーペを追加する計画は、実は相当早い段階からあったのだという。それがライバル達よりもだいぶ遅れたこのタイミングになったのは、モデルライフ途中での追加ではなく、第3世代の設定を前提に開発すべきだと考えた結果だそうだ。

その甲斐はあったと言うべきだろう。クーペフォルムは、カイエンのデザインにまったく違和感無くマッチしている。すぐに解る違いは、19mm低くなったルーフ、強められたリアゲートの傾斜角といった辺りだが、実は工夫はそれだけじゃない。

たとえばフロントウインドウはカイエンよりわずか1度だけ寝かしている。更に、ガラスルーフを標準とすることで横から見た時のルーフのボディ色の部分を薄く見せ、またルーフ後端に固定式スポイラーを付けるといったことでも、クーペらしさを強調している。アダプティブリアスポイラーを採用することでリアデッキを低く抑えたのもボディの伸びやかさに繋がっているポイント。コレ無しではデッキを高くするか固定式スポイラーを付けないと空力バランスが取れなかったということである。結果的に、車体後半の外板パーツはカイエンとはほぼ別物になっている。

これらが相まって描き出したフォルムは、更にポルシェ度を高めた、なんて言い方をしてもよさそうだ。だってそうだろう。そもそもポルシェとクーペの相性が悪いはずがないのだから。

内装デザインはカイエンと大きくは変わらないが、実は低い全高に合わせて着座位置を下げており、後席では約3cm下げている。更に、後席は2人掛けが標準となりスライド機構も省いている。荷室容量は625リッター。カイエンではグレードにより745〜770リッターだから相応に狭くなっているが、絶対的に不足を感じるサイズではないだろう。

Porsche Cayenne Coupe|ポルシェ カイエンクーペ ガラスルーフにはサンシェードがついており、真夏の強い日差しからも車内を保護することができる。
Porsche Cayenne Coupe|ポルシェ カイエンクーペ ライトウェイトスポーツパッケージを選択した場合は、ガラスルーフがカーボンファイバー製のルーフに変わり、20kg以上の減量を果たす。
Porsche Cayenne Coupe|ポルシェ カイエンクーペ コックピットはカイエンと共通。センターコンソールには12インチのタッチパネルディスプレイが配置され、様々な操作を行える。スマートフォンと接続して車体のコントロールや管理も行えるポルシェコネクトにも対応している。
Porsche Cayenne Coupe|ポルシェ カイエンクーペ
単純明快なグレード設定と豊富な選択肢

今回は、カイエンと同じく3種類あるパワートレインのすべてを試すことができた。すなわちカイエン クーペのV型6気筒3リッターターボ、カイエンS クーペのV型6気筒2.9リッターツインターボ、そしてカイエン ターボ クーペのV型8気筒4リッターツインターボである。

リアのトレッドがやや広く、リアゲートの開口部が大きく、そのリンク機構が複雑なゆえにやや重いというクーペボディに合わせて、サスペンションはPASMが全車標準装備となっている。PASMはリセッティングし、アンチロールバー径の拡大を行っているが、これはあくまで調整・調律で、特性を変える意図は無かったという。そんなわけで走りっぷりにカイエンとの明らかな違い、差を感じることはできないと言っていい。

それでも不満に繋がる要素は無い。クーペのみPASMが全車標準装備になることもあり、その質の高い乗り心地、優れたロードホールディング、その気になればテールスライドだって楽しめるほどのシャシーのコントロール性の高さは、十分な満足をもたらす。

強いて言えば、素の状態よりも電子制御デファレンシャルのPTVを装着した仕様の方がコントロール性に更に深みが出るし、更にリアホイールステア付きならサイズを意識させないほどよく曲がるようになる。ベースグレードよりSの方がエンジンは上まで良く回るし、ターボになればその爆発力が全域で得られる。載せれば載せるほど、上のグレードになるほど、走りの満足感が深まっていくのは事実だ。

けれど付け足すばかりではなく、引くという選択肢も用意されている。クーペ専用のライトウェイト スポーツ パッケージ(以下、LSP)は、ガラス製に代わって20kg以上の軽量化を可能とするCFRP製ルーフ、22インチ鍛造ホイール、専用の内外装パーツなどをセットにしたもので、実はエキゾーストノートを心地よく響かせるという狙いもあって、遮音材も一部カットされるという仕様である。

ターボで試したこのLSPは、極端なまでの差があるわけではないとはいえ、高い位置にある部位の軽量化ということで、旋回時の一体感を一層強めている。心地よく響くエギゾーストノートも心地よく、つい右足に力が入ってしまう。

LSPは、実は全モデルで選択することが可能である。個人的にはカイエンS クーペにLSPの組み合わせといった辺りが、日本の一般的な使用環境の下でもっとも気持ち良い走りを満喫させてくれそうだと感じた。

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カイエン人気にさらなる拍車をかけるか

SUVクーペというジャンルを切り拓いたのは、間違いなく2008年に登場したBMW X6である。その当時は単なるニッチにも見えたが、市場は予想以上の勢いで拡大し、今や各ブランドがラインナップに欠かせないモデルとしてクーペを設定している。ポルシェが遅ればせながらに、このカイエン クーペを世に出したのは、ひとえにその強固なニーズゆえで、目論見としてはカイエンの3割近くがこのクーペになるのではと見込んでいるそうだ。

先にも書いた通りポルシェというブランドとクーペの相性が悪いわけはないし、弟分たるマカンなどは、まさにSUVクーペと呼んでもいいフォルムをまとい、高い人気を得ている。3割という数字は確かに決して非現実的なものではないだろう。

価格はすでに発表されていて、カイエン クーペには1115万円というプライスタグがつけられている。カイエンは976万円だが、クーペはPASMやスポーツクロノパッケージ、ガラスルーフなどが標準装備になると考えれば、実際の価格差はそれほど大きくないと言うこともできるだろう。カイエンがプレミアムSUVの定番として非常にポピュラーな存在になっている今、他人とはちょっと違った1台をと考える人は決して少なくないはずで、つまり人気はもう確約されたようなものだと言って良さそうである。