The 10 Best Train Journeys in The World

電車にのって世界を旅しよう!──世界鉄道の旅10選

世界一高い標高を走る鉄道から世界最古の列車まで。『Around the World in 80 Trains』著者の英国人ジャーナリスト、モニシャ・ラジェスによる、車窓から見える美しい景色を巡る列車の旅10選。 Words: Monisha Rajesh Photos: Getty Images Translation: Akari Nakarai / Galileo
電車にのって世界を旅しよう!──世界鉄道の旅10選

1. THE TOKAIDO SHINKANSEN

東海道新幹線──駅弁も富士山も最高!

この区間を新幹線が初めて走ったのは、1964年だ。いまでは、超高速の「のぞみ」に乗れば、東京大阪間515kmの距離をわずか2時間半で、富士山を横目に見ながら移動できる。ただし、日本には景色を楽しむために新幹線に乗る人は多くない。よく見ようと思っても、あまりに速く通り過ぎてしまうからだ。

それでも新幹線の旅は、ほかに類を見ない経験だ。プラットフォームにきちんと並んでいた乗客たちは、一列になって車両に乗り込み、車中ではずっと静かに座って、駅弁を食べたりしている。

駅弁とは、「駅」と「弁当」を組み合わせた名称だ。それぞれの地域に特色のある駅弁があり、地元でとれた旬の食材を使った料理が提供されている。丸型や八角形、竹を使った長方形といった弁当箱を、発泡スチロールや、水や油が染みないように加工された厚紙で仕切った中に詰められた弁当は、どれも芸術品のようだ。茶めしは花のかたちに型抜きされ、グリンピースはきれいに並べられ、大根おろしは雪のように散りばめられている。ひとつ買い求めて座席に座り、西に向かって駆け抜けていく新幹線の静かな走行音を楽しもう。

2.THE TRANS-MONGOLIAN EXPRESS

モンゴル縦貫鉄道──ゴビ砂漠を駆け抜ける

鉄道界のゴッドファーザーといえば、モスクワからウラジオストクまでを走るシベリア鉄道だろう。鉄道ファンたちの「死ぬまでに乗りたい列車リスト」には、大抵この列車が上位にあがる。だが、美しい風景が楽しめる鉄道となれば、モスクワと北京を結ぶモンゴル縦貫鉄道の、なかでも最後の区間が一番だ。

シベリアからモンゴルに入っていくと、周囲は赤く乾いた平地になり、地平線のあたりに緑の茂った砂丘の傾斜が見える。夕方の光に浮かび上がるのは、湖や、曲がりながらこちらに流れてくる川のきらめきと、濃いオレンジの光に燃え上がる地面だけだ。

ひと眠りして目覚めるとそこは中国で、遠くにうねうねと広がる万里の長城が見える。列車は、急な渓谷の上を走り、川に続く斜面に設けられた果樹園の上を走っていく。川では、幅広のズボンを履いて笠をかぶった漁師たちが身をかがめて漁をしているのも見ることができる。

3.THE RIVIERA RAILWAY

リヴィエラ鉄道──地中海の絶景鉄道でめぐる欧州の街

フランスからイタリア方面に向かう通勤列車はどれも、このルートを走っている。上品なコート・ダジュールを出て90分後に到着するのは、素敵にひなびたイタリアの田舎町、ヴェンティミーリアだ。2階建ての列車は、輝くリグリア海の海岸線に沿って走り、カーニュ=シュル=メール、ジュアン・レ・パン、アンティーブといった、それほど知られていない海岸近くの閑静な街を走り抜けていく。

車内から見えるのは、太陽の光あふれる町や村の様子だ。アパートメントのピンクや黄色の壁にブーゲンビリアの花々が咲き乱れ、男たちが、オレンジ色に焼けた上半身もあらわにペタンクに興じている。ニースやモナコでの停車時には、入り江に浮かぶヨットの数々や、ビーチバレーをするティーンエイジャーたち、唸りを上げて走るランボルギーニなどがすぐ近くに見えて、つい見入ってしまうかもしれない。ざっくりと積み上げたような山々が見えてきて、列車がスピードを落としたら、古びたヴェンティミーリアの駅に到着だ。

4.THE SUNSET LIMITED

サンセット・リミテッド──のんびりと過ごす時間旅行

1893年に運行を開始した「サンセット・リミテッド」は、名前の付いた列車としてはアメリカ最古の鉄道だ。乗車すると、ニューオーリンズからディープサウスを横断してロサンゼルスに到着するのに2日弱かかる。パノラマ展望車両に席を見つければ、ミュージシャンや教師、退職者から、農家、アーミッシュの大工、鉄道員、そして逃亡者まで、米国社会を構成するさまざまな人たちに出会えるだろう。

時間はたっぷりある。ルイジアナのバイユー(小川)や、ニューメキシコのサボテン、アリゾナの真っ赤な夕日などを車窓から眺めながら、本を読んだり、ギターをつま弾いたり、野ウサギや、空高く舞うイヌワシを見つけたりして過ごそう。

エルパソ駅のプラットフォームは、クーラーボックスを手にした「ブリトー・レディー」が待っていることで有名なので、手元に数ドル用意しておくのをお忘れなく。彼女の素晴らしいチリビーフ・ブリトーは、アムトラックのスタッフまでもが長い行列に並ぶほどの味わいだ。

5.THE VENICE SIMPLON-ORIENT-EXPRESS

ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス──鉄男と鉄子の憧憬列車

おそらく世界でもっとも有名な列車であろうオリエント急行は、ホテル事業を展開する英国ベルモンド社の手によって現代によみがえり、旅の黄金時代を追体験できるようになっている。ニスを塗り重ねたマホガニーの羽目板が光沢を放ち、ダマスク織のシーツが敷かれたベッドを備える「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」のプライベートコンパートメントで旅をして、往年のロマンあふれる鉄道旅行を堪能しよう。

女性は、肘上までの長い手袋。男性はブラックタイの正装で、イタリアの山地ドロミーティをぐるりと廻りながらランチを楽しもう。ディナーには、窓の外を流れていくスイスアルプスを眺めながら、サッと焼いたチキン・オイスター(1羽のうちで2個(40g)しかとれないもも肉の一部)とフォアグラを食べよう。

ピアニストが『ムーン・リバー』を奏でるバーでくつろいだあとは、ベッドにもぐりこみ、列車の心地よい揺れに身を任せながら眠りにつこう。

6.THE DEATH RAILWAY

泰緬(たいめん)鉄道──史実を伝える「死の鉄道」

第2次世界大戦中、インド侵攻を目論んでいた旧日本軍が、連合軍の捕虜たちを強制的に働かせて建設したのが、タイと旧ビルマを結ぶ、この長距離に及ぶ泰緬(たいめん)鉄道だ。捕虜たちはコレラや脚気、赤痢、デング熱に苦しめられながら、14カ月で約415km(支線や側線まで含むと約600km)の線路を完成させた。その過酷さは「枕木一本に死者一人」と言われるほどだったという。別名、「死の鉄道(Death Railway)」として知られている。

戦後は部分的に撤去され、現在は200kmの区間が利用されている。バンコクのトンブリー駅から、カンチャナブリー県のナムトック駅まで、1日に2往復運行されている。美しくもあるが、やはりその暗い歴史を感じさせる行程だ。ジャングルの中を、列車は西にガタガタと進む。熱帯林の太い枝を車体がこするときもある。窓から入ってきた小枝がいくつか折れ、通路に散らばる。

鉄道建設の全行程でもっとも難工事とされたクウェー川鉄橋を渡るときは、古い木製の鉄道橋を、ガタゴト音を立てながら走っていく。車内の行商人たちが、温かい麺料理や、魚のすり身を揚げたフィッシュケーキ、ボトル入りの冷たいネスカフェを売り歩くなか、鮮やかな色をした小さな駅をいくつか通り過ぎると、到着を知らせる警笛が聞こえてくる。

7. THE QINGHAI-TIBET RAILWAY

青蔵鉄道──蒼天を走る雲上列車

文字通り「息を呑む」鉄道の旅というのはなかなかないが、中国の青海省とチベット(西蔵)を結ぶ青蔵鉄道は、最も高いところで標高5,000m以上の山の中を走る。この並外れた旅では、乗客のほとんどが高山病の息苦しさを感じるはずだ。

中国の西寧市と、チベット自治区の首府ラサ市を結ぶこの路線は、世界でも他に例のないほどの高地にある鉄道であり、建設は不可能と思われたほどの危険な場所を走っている。

濃度を高くした酸素がコンパートメントに供給されるシューという音で目覚め、遮光ブラインドを上げれば、そこに広がっているのはマーク・ロスコの絵のような風景だ。黄色い高原の上に、エレクトリックブルーの空がくっきりと厚く広がっている。溶けた金属のように輝く湖や、縮れた毛のヤクたちが丘の中腹で草をはむ姿も見える。

高度が上がるにつれ、空気は薄くなり、塵も凍り、車両は崑崙(こんろん)山脈の青い輝きに包み込まれる。ラサ市へ下っていく途中、柔らかなスエードのように滑らかな斜面には、遊牧民のテントがぽつんと見える。テントから掲げられた祈りの旗が、風にたなびいていた。

8. THE MANDOVI EXPRESS

マンドヴィ・エクスプレス──賑わう食堂車で舌鼓

車両の扉がサッと開くと、暖かいコンカン海岸の空気が通路を吹き抜けていく。海辺までは、「マンドヴィ・エクスプレス」で、曲がりくねった道のりを12時間ほどだ。片側にはアラビア海がきらめき、反対側には西ガーツ山脈が連なっている。

列車は、ムンバイのチャトラパティ・シヴァージー・マハーラージ・ターミナス駅を朝7時頃に出発し、この大都市の心臓部を抜けて地方へと入っていく。線路からほんの数メートルのところに、クリケットをしている子どもたちや、ヤギの世話をしている農家の人たちが見える。

ゴア州へと下るこの路線は、両脇をココナッツ園やヤシの木々に囲まれており、2000以上の橋を渡る。そのなかには、インドで一番高い高架橋も含まれている。

そして何より、インドの鉄道ネットワークのなかでも最高の食堂車がある。カラヒと呼ばれる鍋でオニオン・バージ(スパイシーな玉ねぎのかき揚げ)を揚げる、にぎやかな油の音の中、料理人たちがカリフラワーやオクラを刻む姿を見ることができる。チキンビリヤニやライタ(ヨーグルトサラダ)、春巻きのほか、甘いお茶にいたるまで次々と売りにくるので、ぜひ楽しんでもらいたい。

9. THE REUNIFICATION EXPRESS

統一鉄道(南北線)──ベトナム海岸沿いをひた走る

北部のハノイから南のホーチミン市まで、ベトナムをまさに縦断するように走る統一鉄道。なかでも素晴らしいのが、ダナンに至るまでの、旅の前半部分だ。

ベトナム戦争中には米軍の爆撃を受けてかなり傷んでいたこの鉄道だが、1976年のベトナム統一後に復活し、通常運行を再開した。首都ハノイの奥深くへと縫うように進んでいくと、住宅の裏手に家族が集まって、くつろいだ夜の時間を過ごしている様子を覗き見ることができる。彼らは翌朝、また太陽が照りつける中を出かけていくのだろう。

ジャングルに入り、バナナの葉が窓にパタパタと当たる中を何マイルも登っていくと、今度は列車のすぐ目の前に、村人たちの家や庭が現れる。あまりに近いので、視線を交わしたり、手を振ったりできるほどだ。

最後は、南シナ海のランコー湾沿いに、金色の砂が細長く広がる風景を見下ろす崖の上を、列車がカーブを描いて走る。そこからいよいよダナン駅に入っていく。

10. THE RUPERT ROCKET

ルパート・ロケット──カナディアンロッキーを車窓から

「ルパート・ロケット」という別名があるスキーナ号は、カナダ、アルバータ州のジャスパー国立公園と、カナダ人でさえほとんど足を踏み入れることのないブリティッシュ・コロンビア州の片隅を結ぶ列車で、週に3日間だけ運行している。

ジャスパー国立公園を出て北西に向かい、雪に覆われたロブソン山(カナディアンロッキー山脈中の最高峰)を通り過ぎると、カリブー山脈の中腹にダグラスファーの木々がずらりと並ぶ風景が見えてくる。蒼く燃える空の下、静かに横たわるティールグリーン色の湖のほとりを列車は走る。暖かく快適なパノラマ展望車両からは、アメリカグマやオジロジカ、アカシカ、ヘラジカ、ハクトウワシなどが見られるかもしれない。

途中、プリンス・ジョージで一泊したあとは、クゥイニツァ、ヴァンダーフーフ、ペニーといった小さな駅を通過する。ペニーは、10人に満たない住民と何匹かの犬が暮らす町だ。

カナダ先住民の指定居住地や、製材所の集落、鮭がたくさん棲む淡水湖を通り過ぎたら、終点のプリンス・ルパートだ。