2019.01.25

初代アウディTTは最高だったが!?

1998年にデビューした初代アウディTTはその美しいデザインで世界中の注目を集めた。その美しさに魅了され、早速購入した筆者が、余儀なくされたある選択とは?

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

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僕は初代アウディTTを2台買った。それも1台目を買って4ヶ月後に2台目を買っている。

すごくカッコよかったから色違いで2台持ちしたかった、、といった理由でならいいのだが、そんな前向きな話ではない。

TTはほんとうにカッコよかった。とにかくそのルックス(インテリアも含む)に一目惚れしてしまい、ルックス以外には目も心も向かなかった。それが災いの基になった。

1998年にデビューした初代TTの初期モデルにはリアスポイラーはない。ゆえに、TTのシルエットの美しさは完璧だった。
でも、少しでも空力について知る人なら、このシルエットで高速スタビリティは大丈夫なのだろうか、、と不安を抱くに違いない。

僕も初対面のときから不安を持っていた。欧米のメディアからも疑念の声が挙がっていた。

TTの発表試乗会についてはすでに書いているが、最高の雰囲気/演出で行われた。場所は中部イタリアのペルージャ。
時は5月のよく晴れた日、、これ以上ない舞台だった。素晴らしい初夏の光りの下で見たTTの美しさは際立っていた。

欧州メイクの試乗会では、高速領域、全開領域をチェックできる場が設けられているのが当時の常識。だが、TTの試乗会には、アウトストラーダもなかった。追い込めるようなワインディングロードもなかった。

ただ、なんとなく周りの流れに乗り、美しい5月の新緑を眺めて、、それで試乗は終わってしまった。

そんな条件下でのTTは、走り味も乗り味もよかった、、が、コース設定には釈然としないものが残った。でも、試乗会後のプレゼンテーションや、カクテル/ディナー等の演出の素晴らしさに酔わされ、試乗コースへの疑念の問いかけも忘れてしまった。

そして、TTの美しさに夢中になってしまった僕は、ディナーの場で、アウディ・ジャパンに「初入荷車を買いたい」旨を伝えた。
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試乗会を終えて日本に帰って間もない頃、主に欧州メディアから「アウディTTは高速で横転の危険性あり!」との報道が次々と発信され始めた。
円をモチーフにしたシルエットが高速域でリフトを引き起こし、その結果制御不能に陥って、最悪は転倒に至る、、といったことだ。

高速でのリフト現象がもたらす危険性については、発売前からアウディ内部でも大きな危惧を持っていた、、が、デザイン部の美しさへの拘りが強く、結局、スポイラーなしで発売することになったとのことだった。

「高速を出す機会がないコース設定」の謎も、つまりはここにあったということになる。

しかし、僕もデザイン部と同じ思考回路を持っていた。「スポイラーが美しさを損ねる」ことへの反発が強く、「美しさを守る」ために、スポイラーなしの危険性を敢えて受け容れたのだ。

1.8ℓ・4気筒のターボエンジンは225psを引き出し、6速MTとクアトロシステムを介した走りは十分スポーツカー領域に入っていた。だから、慣らしの段階のスピード領域では不満はなかった。不満どころか、乗り込む時、降りる時に見るTTの美しいシルエットには大満足だったし、すこぶるハッピーだった。

ところが、慣らしが進み、テストコースなどでスピードを上げるに従って、リフトが気になり始めた。リフトは120k m/h を超える辺りから感じられ始め、140〜160k m/h 辺りでは、明らかなスタビリティ低下が。そして、180k m/h ともなるとハッキリ「危険!」を感じるほど接地力は低下する。日本の高速では100kmが上限とはいえ、一度気になるとその速度域でも不安になってくる。
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欧州では、高速でのスタビリティ不足が原因とされる死亡事故も起きた。それを転機に、アウディはスポイラー装着とサスペンション改良を行った。

僕はすぐに、インゴルシュタットまで改良モデルを乗りに行った。リアスポイラーは気に入らなかったが、高速でのスタビリティには歴然とした差があった。

120k m/h で我慢してスポイラーなしの美しさをとるか、225ps+クアトロの走りをフルに堪能する方をとるか、、否応ない決断を迫られたが、結局は後者をとることになり、すぐスポイラー付TTを注文した。

実は、その2年ほど前、同様にスタビリティ面の不安から、メルセデス・ベンツSLKを買って1年足らずの内に手放している。

バリオルーフ(自動開閉式ハードトップ)のカッコよさに惹かれて買ったはいいが、ボディ剛性不足によるハンドリング/スタビリティのレベルの低さに我慢できなかったのだ。

SLKの場合も欧州で試乗してから買ったのだから文句はいえないが、どうも僕には「カッコいい!」と思うと、他のことをすっかり忘れて手を出してしまうという厄介な悪癖があるようだ。

で、TTだが、スポイラーなしに乗ったのは4ヶ月。スポイラーが付いても、TTには依然、他には変えられない魅力があったので、スポイラー付に乗り換えた。

上記のように、「わけあって」短期間に2台のTTを乗り継いだのだが、ディーラーはその辺の事情など一切斟酌してくれなかった。つまり、「4ヶ月で2台のTT」には、けっこうな出費が伴ったということだ。

とはいえ、結局はすべて僕の甘さが招いたことだから文句は言えない。

「アウディTTは最高で最悪だった!」というタイトルの意味はわかって頂けたかと思う。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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