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2018.11.18

知ってる? ロイヤル オーク、ノーチラスの天才デザイナー、ジェラルド・ジェンタのこと

「オーデマ ピゲ」のロイヤル オーク、「パテック フィリップ」のノーチラス……、名作と呼ばれる腕時計のデザインを手がけたのは、ジェラルド・ジェンタという一人の男だった。その功績は今もなお、腕時計業界に大きな影響を及ぼし続けている。

CREDIT :

文/広田雅将(クロノス日本版編集長) イラスト/Isaku Goto

腕時計デザインに革新をもたらした、ジェラルド・ジェンタという男

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時計のデザインを、かってない水準に高めた男がいる。名前はジェラルド・ジェンタ。時計界のピカソと評されたウォッチデザイナーだ。彼が時計業界にもたらした貢献は大きく三つある。1つは、時計の世界に装着感という概念をもたらしたこと。2つ目は、デザインの重要性を時計業界に知らしめたこと、そして3つ目は、時計の造形を自由にしたことだ。

彼の手掛けた代表作には「パテック フィリップ」のノーチラス、「オーデマ ピゲ」のロイヤル オーク、デザインの一部に携わったものが「ブルガリ」のブルガリ・ブルガリなどがある。いずれも、時計史に残る傑作揃いだ。
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大きな挫折から時計デザイナーの道へ

1931年にスイス系イタリア人として生まれたジェンタは、そもそもジュエリーデザイナーを目指していた。彼はジュエリー学校を優秀な成績で卒業したが、職がなかっため、やむなくフリーランスのデザイナーとなった。当時を回顧して、彼はこう語った。「本当は服飾のクチュリエになりたかった。でも食べていくために時計デザイナーになるしかなかった」。彼が最初に手掛けたモデルが何か、には諸説あるが、1961年のオメガ「コンステレーション」と言われている。ジェンタはこのモデルに、流れるような流線型のデザインを与え、やがてこれは、「Cライン」と呼ばれることになる。

食べるために、スケッチを1枚15フランで売っていたジェラルド・ジェンタ。転機が訪れたのは、1968年のことである。「ユニバーサル・ジュネーヴ」にデザインした極薄のゴールデンシャドウが、国際ダイヤモンド商を受賞したのである。以降、さまざまな時計メーカーがジェンタにアプローチし、彼は「世界初の時計デザイナーになった」(ジェラルド・ジェンタ)のである。
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「オーデマ ピゲ」ロイヤルオークのドローイング 『The legendary watchmaker』(ARAR DUEより)
勇気づけられた彼は、69年にデザイン事務所ジェラルド・ジェンタを創業し、才能を爆発させる。そんな彼が、すべてをデザイン任された初の時計が、72年の「オーデマ ピゲ」ロイヤル オークだった。ジェンタは後に、1日ですべてのデザインを起こしたと書いたが、それはいささか大げさだ。彼は搭載するムーブメントのサイズを把握し、どういう使われ方をするかを考え、時間をかけてロイヤル オークのデザインを練り上げていったのである。

もともとジュエリーデザイナーを目指していた彼は、キャリアの始まりから、時計の着け心地に対して実にうるさかった。初めてすべてのデザインを手掛けたロイヤル オークも例外ではなく、角張った形ながらも、決して袖口に引っかからなかった。またジェンタは、このスポーツウォッチを、シチュエーションを問わずに使えるユニバーサルウォッチにしようと考えた。そのためロイヤル オークは、ドレスウォッチ並の薄さを持ちながらも、スポーツウォッチとしてのデザインを与えられたのだ。

一例が、途中から太くなった通称「ジェンタ針」だ。初代ロイヤル オークに載せた2針の自動巻きは、薄くてエレガントだったが、太り針を動かせるほどのトルクはなかった。そこでジェンタは、弱い力でも動かせるよう、針を出来るだけ細くし、しかし、夜光塗料を載せる部分の面積を広げて、時間を読み取りやすくした。今となっては当たり前のデザインだが、初めて手掛けたのは、ジェンタだったのである。
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新たに拓かれた腕時計デザインの可能性

そんなジェンタの才能を、時計業界が放っておくはずがなかった。後にパテック フィリップやブルガリ、セイコーやオメガといった有名メーカーも、ジェラルド・ジェンタ事務所の門を叩くようになり、彼は一躍、売れっ子デザイナーとなっていく。ジェンタの名声が決定的になったのは、1980年のことだった。この年、スイスの著名な時計業界紙である『Le Journal Suisse d’Horologerie』上で、ジェンタはこう語った。

ーークォーツの出現によって、正確さは当然の性能となる。今後、重要になるのはウォッチの外観やイメージをいかに訴えるか、になるだろうーー

その予言通り、彼がデザインを手がけた「オメガ」シーマスタ-・ポラリスは空前の大ヒットを遂げたのである。以降、ヨルグ・イゼック、エディ・ショッフェルといった著名な時計デザイナーたちが、ジェンタに続き、時計のデザインを大きく変えていくこととなる。
装着感を考え、時計デザイナーを職業として確立させたジェラルド・ジェンタ。そんな彼が「時計業界のピカソ」と称された理由は、ジュエリーの製作技法や今までに無いデザインを、時計に持ち込んだ点にある。もちろんそれ以前も、存在しなかったわけではない。しかし彼は、それを一点モノではない、量産向けの時計で実現したのである。例えばノーチラスの、スクエアともラウンドとも異なるベゼルや、ジェラルド・ジェンタ銘で発表したいくつかの時計が採用した、マザー・オブ・パールの文字盤などである。

今や、時計の売り上げを大きく左右するのは、時計のブランドでもムーブメントでもなく、まずはデザインと言われる。その基礎を築き上げた巨匠、ジェラルド・ジェンタ。皆さんが使っている時計も、必ずどこかに、ジェンタの影響があるはずだ。それほどまでに、彼の存在は偉大なのである。
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● 広田雅将 (ひろた・まさゆき)

1974年生まれ、大阪出身。時計専門誌『クロノス日本版』編集長。サラリーマンを経て2004年からフリーのジャーナリストとして活躍し、2016年より現職。関連誌含め連載を多数抱える。また、一般・時計メーカー・販売店向けなど、幅広い層に対して講演も行う。

高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]

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